頭の中は魑魅魍魎

いつの間にやらブックレビューばかり

『時のみぞ知る』ジェフリー・アーチャー

2013-08-22 | books
1920年代、英国。父は戦争で死んだと聞かされている少年、ハリー。学校はさぼっていた。廃棄された客車に住む謎の老人、オールド・ジャック・ターと仲良くなって色々な話を聞かせてもらうのは楽しい。どうやらハリーには歌の才能があるらしい。名門校の聖歌隊奨学生になるにはもっと勉強しなくてならず、ハリーはちゃんと学校に行くようになった。しかし家にはお金がない。母はウエイトレスをしているが余裕はない。なんとか進学することができたハリーには別の試練が。全寮制の学校で、食事の仕方や作法、言葉遣いは分からず恥をかき、貧しい家庭出身だといじめにあう。しかし同室のジャイルズとディーキンズはとても仲良くしてくれたりして…ジャイルズとの思わぬ関係が…というハリーの成長物語をハリーの視線で描くのが第一章。以後、母メイジーの視線で描く第二章。夫がいなくなり、お金がなくハリーを育てるため必死の様子、ハリーの物語とかぶせるようして描く別の物語。他にも別の登場人物の視線で描きつつ、戦間期の英国、そして第二次世界大戦へと突入する直前までを描く。

LINKLINKLINKうーむ。うーむ。好みだ。好きだ。好みすぎる。好きすぎる。ジェフリー・アーチャーの小説は結構読んだのだけれど、評判の高い「百万ドルを取り返せ」よりも「ケインとアベル」や「大統領に知らせますか」の方がずっと面白く読んだ。

クリフトン年代記として続いていくそうで、原書は第二作が去年出て、第三作は8月29日に発売だそうだ。

何代か続く物語と言えばスチュワート・ウッズの「警察署長」やジョージ・P・ペレケーノスの「俺たちの日」からはじまるワシントン・サーガ・シリーズを思い出す。どっちも、かっけー、話だった@あまちゃん。

本作は、作者が読者を翻弄するやり方は、特に新しいものではなく、古典的なやり方だと思う。どういうわけかドラマ「おしん」を連想する。視聴者の心を右へ左へうまく揺さぶってくれた。「おしん」のような古臭いやり方が、よくないのかと言えば、むしろ逆。すごくいい。人間の心を打つ、最高のやり方というのは、シェイクスピアでも夏目漱石でも宮部みゆきでも実は根っこでは同じで、新奇なやり方は一時的に受けることはあるかも知れないけれど、長く人の心をつかむことはできない。(異性のハートをつかむというのも、みんなから慕われるリーダーになるというのも、方法論の軸は古今東西、ほとんど変わりがないのだと思う)(そのような「本質」を人生の早期につかめる人はいわゆる「幸せ」になれる可能性が高いのではなかろうか)

ハリーが何かに成功すれば、一緒になって喜び、メイジーが本当に苦労する様を読めば、一緒になって石を噛むような思いをし、ハリーを支えてくれる様々な人の気持ちを読めば、目頭が熱くなる。そんなこてこての読書は、求めようとしても意外と難しいのが21世紀ではないだろうか。

第二部の刊行が待ち遠しい。すごーく待ち遠しい。衝撃的なラスト。続きが気になる気になる。なかなか出なかったら、もうすぐ出る第三部とまとめて原書で買ってしまおうか… でも買うと翻訳が出るというのが過去の例なんだよな… 買っても、買ったということに安心してどうせ読まないんだよなー… 結局、え?ふるさん英語読めるのー?すごーい!とか言われたいキャバクラのお客ごころの持ち主ってことなんだよなー。ワインレッドの心、キャバクラお客の心ってな。つまんねー男だな、俺は …以下省略。

今日の一曲

本書の原題はOnly Time Will Tell
となれば
宇多田ヒカル Time Will Tell



では、また。

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2 コメント

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早く読みたい! (パール)
2013-08-22 20:59:28
クリフトン年代記第2部は9月発売予定らしいですね。
ふるさんと同じく、私も好みです。早く続きが読みたい…

ディケンズのような印象を受けましたが、韓国ドラマ「チャングムの誓い」のようなあざといけど、ぎりぎりのところで踏ん張っている感じとか、どこかで読んだような展開かなと思うと視点がぱっと変わるところとか、嫌な人は決まっていて、他の人はハリーに手を差し伸べてくれる安心感とか…うまいですね。
ついつい入り込んでしまいました。

アーチャー氏には完結するまで長生きしてほしいです。
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こんにちは (ふる)
2013-08-24 11:50:28
>パールさん、

ストーリー全体に、大船乗って安心していられる感に溢れていましたね。
30年先でも読み続けられるような普遍的な面白さがあると思います。30年先の人が読んで楽しめる本は巷にはそれほど多くはないような・・・

2部が9月に出るのは知りませんでした。3部もすぐに出してほしいものです。
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