頭の中は魑魅魍魎

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『十五の夏』佐藤優

2018-05-15 | books
1975年、高校一年の夏、東欧からソ連を一人旅で訪れた佐藤少年のドキュメント。

表現が具体的すぎるぐらい具体的で驚く。日記でもつけていたのだろうか。物の値段や、人々と交わした会話など。

15歳の少年(青年?)の好奇心、知識、質問力にも驚く。トラブルはもちろん起こるのだけれど、それを受け止めつつ解決していく。

ふと、思った。人には「運のいい人」と「運の悪い人」がいる。どういうわけか、いつも運がいい人っているし、何をやらせても運の悪い人っている。どうしてだろうと昔から思っていた。

佐藤少年は、運がいい。日本の旅行社で、舟津さんという女性と知り合い、普通では教えてもらえない、安く東欧に行く方法を教えて貰えることになる。また、機内で知り合った日本人の社長からも旅の情報をたくさん教えて貰えた。なぜ、こんなにラッキーなのか。飛行機で話した社長が、別れ際に「君と話せて面白かった」と言われる。大人から見て、話して面白いと思える15歳はそんなに多くないだろう。相手を面白くさせるぐらいの会話が出来る少年。なぜそんな会話が出来るかと言えば、好奇心や相手が訊いてくれて嬉しいと思うような質問をする「質問力」があるからだと思う。

言い方を換えると、「勇気」と「工夫」があれば、「運」がついてくる。そういうものなのだと思う。努力という言葉はあまり使いたくない。「勇気」と「工夫」があれば大概の事は何とかなるような気がする。そしてそうしていれば、自然と運が向いてくるのだと思う。

話を本に戻すと、彼が在学中の県立浦和高校の話。数学は問題集の解法を100問暗記すればよい「暗記科目」だそうだ。そういうテストはつまらないかと思うけれど、佐藤少年も同じように思ったそうだ。また、中学時代の塾の先生の台詞。

印象に残っているのは、その教師が人生で逃げなくてはならないことがある。そのときは自分は逃げたという認識をきちんと持つことだ。逃げていないと強弁や合理化をしてはならない」と言ったことだ。

逃げたくないけれど、どうしても逃げなくてはいけないときがある。危険なものという意味ではなく(危険なら逃げるのは当然)、何かを辞めしまうこと、何かから降りてしまうこと。どうしても仕方のない時には、仕方がないけれど、そうした事は忘れてはならない。うーむ。深い。政治家の失言然り。ネット上の発言然り。ツイートも、出しておいて、都合が悪くなったらすぐに消してしまう不埒な輩も然り。自分が「降りたこと」も「削除したこと」も忘れないようにしたいものだ。いや、そういう卑近な意味ではないのか。

平成の「深夜特急」として旅行記を楽しむのも良し、自分の打破を願う人が読むのも良し、当時の東欧事情を感じたい人が読むのも良し。読むのに時間がかかったけれど、面白かった。

十五の夏 上十五の夏 下

今日の一曲

George Bensonで、"Give Me The Night"



では、また。

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2 コメント

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「十五の夏」佐藤優 (yosapti)
2019-01-20 15:28:51
十五の夏 上 >> 面白かった。高校生で、この行動力・判断力、そして内容が、記憶がすごいのか記録がしっかりしているのか、旅行から帰ったばかりのような新鮮さでした。実は私も1968年に、ソ連、東欧をひとり旅して似たような体験をしています。佐藤優さんは、15歳、英語力抜群、社会・政治に対する考えの深さ、私は、当時30歳、英語は片言、社会については能天気、と全くレベルが違います。私のホームページに「欧浪記」と題して50年前の旅行日記をアップしてありますので、興味のある方は比較して読んでいただけると幸いです。 http://ourouki.the-ninja.jp/
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こんにちは (ふる)
2019-01-21 13:27:53
>yosaptiさん、

おっしゃる通り、佐藤さんの記憶力や判断力、行動力には眼を見張るばかりです。自分が高校生のときに東欧に一人で行っていたら、毎日泣いていただろうと想像いたします。
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