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『成吉思汗(ジンギスカン)の秘密』高木彬光【再読】

2012-09-27 | books
「成吉思汗(ジンギスカン)の秘密」高木彬光 1958年

高木彬光の小説ではお馴染みの名探偵、神津恭介が入院することになった。退屈を紛らわすために選んだテーマは、成吉思汗=源義経という大ネタ。二人が同一人物だったと、資料を頼りにベッドの上で証明しようというのだ。友人の作家松下研三と、東大の文学部の美人助手に資料を頼みながら、天才神津は証明できるのだろうか…

うーむ。何十年かぶりの再読。実に面白い面白い。

ジョセフィン・テイに「時の娘」という作品がある。スコットランドヤードの名警部が入院中にベッドの上で、極悪非道とされているリチャード3世は言われているような悪人だったのか、実はいい人だったのではないかということを証明するという知的チャレンジに満ちたもの。こちらもとても面白かったのだが、高木のこれは、「時の娘」にインスパイアーされて書いたもの。

(日本史に関して、私が人様に教えられるような知識はないのだが、何も説明しないのもあれなので、よく知らんという人のために)

義経は兄頼朝に怒りと嫉妬を買って、奥州藤原氏にかくまってもらう。頼朝は何度も義経を差し出せと命令する。(勅命だけれど、その辺は割愛)命令を無視してきた藤原泰時も抗しきれなくなって、義経を攻める。自害する義経 というのが定説なのだが、義経は死んでおらず、北海道経由で大陸に渡り、後にモンゴル帝国を築いたジンギスカン(チンギス・ハーン)になったのではないかという話。高木のオリジナルではなく、昔から何度の話題になったネタだそうだ。

歴史的に正しいのか、考証が完全なものなのかは知らないが、エンターテイメントとしうて読むのなら厳密な正しさは不要だろう。しかし、二人が同一人物だという状況証拠の山には驚く。二人が同一人物ではないと論じるキャラクターも出て来るし、ある程度フェアーな気分で読むことが出来る。

X=Aになることを証明するという意味では、Aが殺人犯であることを証明するのもミステリなのだから、本作も十分にミステリである。歴史的トンデモ本のようでいて、実はミステリと言う方が正しいのかも知れない。

特に日本史にあまり興味がない人が読んで、え?日本史ってそんなに面白かったの?じゃ、他の本読もうかなと、日本史読書の起爆剤に充分なりうる本だと思う(「逆説の日本史」は読む気がしない人なんて特に)

最近、日本史って実はすごく面白いんだな、と思いつつ、

では、また。



成吉思汗の秘密 新装版 (光文社文庫)時の娘 (ハヤカワ・ミステリ文庫 51-1)


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