友のはからいでミシュラン一つ星の店の予約が取れたということで仲間たちと一路京都へ向う。
四条から地下鉄を乗り継ぎ北山へ。さすがにこの時期の京都は蒸す。北山駅から店まで数十分も歩くともう汗が噴き出してきた。
ミシュランガイドには近くに訪れたら行く価値のある店としてこう紹介されている。
“古民家で客を迎える秋山直浩氏。カウンターの板場が舞台。口上のように雄弁に献立を紹介し幕を開く。食材の要に据えるのは、鷹峯の野菜と明石の魚介。八寸に季節の葉をあしらい、ご飯はおくどさんで炊き上げる。幕引きは、自ら点てる薄茶。真心のあるもてなしが、心まで満たしてくれる。”
近くを訪れたら行く価値のある店とあるが、ふらっと行って入れる店ではない。なにせ予約がなかなか取れないらしい。友の計らいとは言え今回の会食は僥倖である。
さて秋山さんは上賀茂の日本家屋らしい古民家である。待合の部屋には囲炉裏。囲炉裏の灰には紫陽花の絵が線画で書かれていた。漆喰の壁の白が涼しい。やがて時間になってカウンターに通された。カウンター十席の設え。目の前で秋山氏が鱧の骨切をしていた。臨場感ある食の舞台という感じ。私の坐った席の向う正面には窓があり、そこから山風というか青葉の涼風がときどき吹き抜けてきた。
お昼は六千五百円のおまかせ。どの素材も細心のおもてなしを感じさせる料理の数々。野菜をこのように料るとこんなにも別ものになるのかといった料理がつづく。やはりこの時期の京都は鱧。京で食べる鱧が私は一番旨いと思う。細身の上品な鱧である。この日は淡路島の鱧であった。ぶっとい鱧は京都ではあまり見ない。そこがお気に入りなのだ。この日のお作りは明石鯛、さわらの焼霜、青森のヨコワ、鯵に釜揚げ。おくどさんで炊かれたお米のなんとふっくら上品なお味であること。もちろんお焦げまで頂いたのは言うまでもない。
この日は同級生四人が集った会食であった。うち三人は伴侶と同伴だ。高校時代は一人を除いてお互い知らない者同士であったが、とあることをきっかけに出逢うこととなった。高校から大学を出て社会の一線に出た。そして結婚して子を育て、走り続けてきた。病気もしたし挫折もあった。一人は伴侶を壮年期になくしている。そうして耳順の候となり第一線の競争社会から引退。だがふとしたきっかけで俳句を縁にこうして再会することとなった。同窓会という懐かしい出会いではなく、句仲間という同志としての再会である。つくづく人生とは不思議な巡り合わせがあるものである。
風もまた馳走のひとつ夏料理
◇京上賀茂 御料理秋山/京都市北区上賀茂岡本町五十八