芥川賞作家が贈る「不穏な人生」最新コレクションに惹かれて読む。
表題の「叩く」はノワールだ。闇バイトで押し入った家に首謀者に裏切られて取り残される男。顔を見られた縛った老婆を殺すか否か。
第二話の「アジサイ」は訳もなく妻に去られたサラリーマンの男。
第三話「風量発電所」は青森県のとある村。「そして私はこの村全体が何やら作り物に感じられてきた。辺境の土地に、近代的なインフラ設備、人気にない市街地、人気のないショッピングモール…」夜、腐臭がして風力発電のブレードの下にライトを照らして近づくと、そこには大量の鳥の羽が…。
第四話「埋立地」は都市開発の造成地に見つけた横穴、それを探検する少年時代の冒険譚。「スタンド・バイ・ミー」だ。
そして第五話の「海がふくれて」は東北大震災で漁師の父を亡くした少女と少年の物語。
作家は青森県宇生まれの方。自身のふるさとを題材にした短編集である。
◇叩く 高橋弘希 新潮社 2023年6月発行