まだ陽の高い3時頃から開いている。
ここは酒屋がやっている大衆酒場。
サイクリング帰りに久々寄ってみた。
店内には某製鋼所の勤務カレンダーが貼ってある。
4直3交替制の年間ローテーションが示されている。
ここはそこの工員さんたち御用達の店なのである。
テレビの前のバーカウンターのような席に座る。
アサヒのドライと冷やっこ、串かつを注文。
時刻は日曜の6時過ぎ。
もう先客たちは早くから飲んでいたのだろう。
結構店内は騒々しい雰囲気に満ちていた。
テレビを観るとはなしに眺めていたら
「チャンネル替えていいですか。」と
後ろの席にいる現業の若者が聞いてきた。
「いいよ。」
別に観たいテレビがあるわけではない。
ひとりで所在もないので眺めているだけだ。
若者は格闘技の番組にチャンネルを合わせると
相棒に格闘技の薀蓄を得意そうに語り出した。
この界隈は高炉のある街だ。
小さい頃、夜になると南の空が
暗く赤い色に染まっていった。訳を知っても
それは子供心に不気味で不吉な印象をもっていた。
また朝になると夜勤明けの工員さんたちが
ぞろぞろ駅に向かって北上してくる光景を見た。
みな無表情で列をなして歩いている。
その姿がなんとなく怖かったのを記憶している。
今思えば、現場の夜勤明けだ。重労働で
疲れた体で歩いていたことが解るのだが。
この界隈は工員さんたちに支えられた街なのだ。
駅へ向かう大通りにはパチンコ屋も並んでいる。
阪神の駅あたりでは立飲み屋や大衆酒場が多い。
そういえば昔は国道沿いに映画館もあった。
所謂、高炉が支えた企業城下町なのだ。
今もその面影は随所にあるが、
震災以来この地区も再開発の波にさらされ
駅前通りは高層のマンションやテナントビルが
林立してきている。この校区の小学校では
児童数が増加しプレハブ校舎も建てている。
「おばちゃん、お勘定!」
「え~っと、ビールが一本?やっこに串かつやね。」
ここではいちいち指差点呼で勘定する。
千円でおつりをもらって店を出た。
外はまだ明るい。ほろ酔いなので
自転車に乗ってもまだ大丈夫。ころびはしない。
高炉のある街から副都心構想の再開発都市へ。
時代とともに外観は変貌していく。
だが街の風情や人情はそう変わるものか?
夜のしじまに不気味に拡がった暗赤色の
あの高炉からのオーロラは
一体どこにあるというのだ?