陽だまりの旅路イスキア

あ、slice of life…日向香を感じる日々の暮らし…

追憶酒場

2006年05月21日 | slow life

まだ陽の高い3時頃から開いている。
ここは酒屋がやっている大衆酒場。
サイクリング帰りに久々寄ってみた。

店内には某製鋼所の勤務カレンダーが貼ってある。
4直3交替制の年間ローテーションが示されている。
ここはそこの工員さんたち御用達の店なのである。

テレビの前のバーカウンターのような席に座る。
アサヒのドライと冷やっこ、串かつを注文。
時刻は日曜の6時過ぎ。
もう先客たちは早くから飲んでいたのだろう。
結構店内は騒々しい雰囲気に満ちていた。
テレビを観るとはなしに眺めていたら
「チャンネル替えていいですか。」と
後ろの席にいる現業の若者が聞いてきた。
「いいよ。」
別に観たいテレビがあるわけではない。
ひとりで所在もないので眺めているだけだ。
若者は格闘技の番組にチャンネルを合わせると
相棒に格闘技の薀蓄を得意そうに語り出した。

この界隈は高炉のある街だ。
小さい頃、夜になると南の空が
暗く赤い色に染まっていった。訳を知っても
それは子供心に不気味で不吉な印象をもっていた。
また朝になると夜勤明けの工員さんたちが
ぞろぞろ駅に向かって北上してくる光景を見た。
みな無表情で列をなして歩いている。
その姿がなんとなく怖かったのを記憶している。
今思えば、現場の夜勤明けだ。重労働で
疲れた体で歩いていたことが解るのだが。

この界隈は工員さんたちに支えられた街なのだ。
駅へ向かう大通りにはパチンコ屋も並んでいる。
阪神の駅あたりでは立飲み屋や大衆酒場が多い。
そういえば昔は国道沿いに映画館もあった。
所謂、高炉が支えた企業城下町なのだ。
今もその面影は随所にあるが、
震災以来この地区も再開発の波にさらされ
駅前通りは高層のマンションやテナントビルが
林立してきている。この校区の小学校では
児童数が増加しプレハブ校舎も建てている。

「おばちゃん、お勘定!」
「え~っと、ビールが一本?やっこに串かつやね。」
ここではいちいち指差点呼で勘定する。
千円でおつりをもらって店を出た。
外はまだ明るい。ほろ酔いなので
自転車に乗ってもまだ大丈夫。ころびはしない。

高炉のある街から副都心構想の再開発都市へ。
時代とともに外観は変貌していく。
だが街の風情や人情はそう変わるものか?

夜のしじまに不気味に拡がった暗赤色の
あの高炉からのオーロラは
一体どこにあるというのだ?
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