ここ最近マサラ上映の感想が忙しくて止まってましたが、実はまだ例大祭戦利品レビューは終わってなかったり。来月は夏コミなので一気に終わらせたいですね。
・東方SFアンソロジー 夢現理論の臨界点(東方SFアンソロジー製作委員会)
シリアス、ギャグ、学パロ、特殊性癖などなどさまざまなジャンルで出ている東方二次創作ですが、本作は東方×SFに焦点を当てた32作品を収録したアンソロジー本。
東方でSFといえばやはり秘封倶楽部のイメージが強く、実際表紙を飾っているのは秘封の二人ですが、本作には秘封に限らずさまざまな東方キャラクターによるさまざまなシチュエーション、さまざまな解釈のSFが楽しめます。
なお、収録作品が多いので感想は数回に分けて書いていこうと思います。しかし本作、各作品の後に解説が付いてるので感想と考察の難易度はこれまで書いてきたレビューの中で随一になる気がします。泣きそう。
・さようなら、私の夢見た未来たち(海景優樹氏)
個人的に見出した本作のSFテーマは「現実の不安定性」。
こと東方の世界観では「幻想入り」という形で外の世界の影響を色濃く受けるわけですが、本作はそんな東方世界による「現実の不安定さ」を「かつて人々が想像していた『懐かしい未来世界像』」でもって表現しています。
そう、SFはノスタルジーの側面も色濃く持っているんですよね。あり得たかも知れない、かつて空想されていた未来世界がほんの少しの間だけ現実に混入して儚く消えていくというラストには爽やかな読後感がありました。
・幻覚の羊(楷ノ木かえで氏)
個人的に見出した本作のSFテーマは「自我の所在」。
認知論的SFならこいしちゃんの出番です。本作はある銀行員と彼だけに見える幻覚の少女としてのこいしちゃんのお話。
挿絵含めてもたった7ページの掌編にこれだけの話を収められるのか!とその技量に驚きました。こういう最後まで読んで初めて冒頭の仕掛けがわかるタイプの作品はこのくらいの短さがいちばん斬れ味が発揮できるのかも。
人工知能という仮初の自我を使用している人間に見えた銀行員の正体が実は……というからくりを「無意識の非存在」という角度から切り込む手腕が見事。
・万華鏡の日(站揚巻氏)
個人的に見出した本作のSFテーマは「超能力の見え方」。
超能力自体はSFのテーマやガジェットとしては過去のものという感じですが、「実際にそうした超能力を持っている人物の認識」は意外にブルーオーシャンなのでは。
本作はそんな超能力の中でも、特に「認識」に直結するさとりの読心能力にフィーチャーしたもの。さらに読心能力を「何を考えている」かではなく「相手の思考がどう見えるか」に注目して描写するのは難しかった/楽しかったと思います。これ、ビジュアル主体の媒体であるマンガではなくテキスト主体の媒体である小説だからこそ成立した作品と言えるんじゃないでしょうか。
・ニャア(アン・シャーリー氏)
個人的に見出した本作のSFテーマは「認識世界の違い」。
ある日蓮子の部屋に迷い込んできた猫。その猫はどうやら別の人物のところにも通っているようで……。
お互いに直接顔を合わせることなく、猫を介した手紙のやり取りをする蓮子ともう一人の人物。もうひとりの人物の正体は明白ですが、だからこそ二人の手紙の多少他人行儀なやり取りが微笑ましかったです。
そして読んでて、「この作品、どういう方向性でSF要素を盛り込んでくるんだ?」と思ってたんですが、言われてみれば「猫でSF」と来たらそりゃあ当然このネタが来るよなあ。
この不思議な猫がきっかけで蓮子とメリーは出会うものの、この猫の不思議は解明されずというラスト、とても好き。
今日はここまで。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます