はい、というわけで木曜日が迫ってくると上映スケジュールが変わってしまうので昨日に引き続きサンサン劇場です。1週間限定の作品は油断してると速攻で終わってしまうのでたいへん。トシとると1週間なんて本当にすぐに過ぎてしまいますよね……やめよっかこの話……。
というわけで今日見てきたのはこれ!
今までバーフバリから始まってラージャマウリ作品はたくさん見てきましたが、実はまだ見てなかったんですよねこの作品。あっ殴らないで殴らないで石も投げないで。
本作は見なくてはいけないいけないとは思ってたものの再上映もなかなかないので見られずにいましたが、今回1週間限定で再上映されるということでこの機会を逃すわけにはいかん!ということで見てきました。
向かいのアパートに住んでいる女性ビンドゥに恋する青年ジャニ。2年間も片思いしているものの、ビンドゥはなかなかジャニに振り向いてくれません。しかし、ビンドゥはときに突拍子もない方法で自分に好意を示してくるジャニを内心では憎からず思っていたのでした。
一方で、金と暴力で女性を支配してきた実業家であるスディープもまたビンドゥを狙っていました。スディープはビンドゥが所属しているNGOに多額の寄付を行うことで彼女を手に入れようとします。しかしビンドゥの心がジャニに向いていることを知ったスディープは猛烈な嫉妬心に駆られ、彼を誘拐、殺害してしまいます。なすすべもなく殺されてしまったジャニですが、奇跡の力で転生します。しかし転生したのはよりにもよってハエの姿!
いわゆる転生モノは「強くてニューゲーム」であることが多いですが、本作はまったく逆の「弱くてニューゲーム」と言えるでしょう。わかりやすく言うとマイクラで言えば無人島スタート、R-TYPEⅡで言うと2面中盤でミスって装備全部剥がれたくらいの絶望感です。
そもそも本作のタイトル「マッキー」がハエって意味なんですね。そして冒頭でジャニがハエに転生してしまうので、人間としてのジャニの登場は冒頭だけ。あとはずーっとハエのまんま。エンドロールもハエ。なので本作の主演は実質的にはスディープを演じるスディープ氏ということになります。ややこしいな。
ジャニがハエに生まれ変わってからの展開は、ハエの視点から見た人間世界なので、「ミクロキッズ」や「バグズライフ」を思い出しました。そして記憶を取り戻したジャニはなんとか復讐の対象であるスディープを見つけるんですが、相手は人間、こっちはただのハエ。相手にならない以前にそもそもスディープに認識されていません。このへんの当然といえば当然のジャニの無力さが一見コミカルな描写もあいまってなかなかつらい。
しかしジャニは負けません。ハエになったのを活かしてスディープの耳元で延々飛び回ったりタバコを寝床に持っていったりしてスディープを追い詰めます。ジャニもやり口が中々悪辣なのが笑えます。というかもうやってることが嫌がらせのレベルを通り越して殺意に満ち溢れてるんだよなハエになってからのジャニ。なんか人間からハエに転生したことでいろんなタガが外れちゃってるんじゃないの?
この辺に関しては悪役であるスディープのほうがだいぶ気の毒というか追い詰められ方がほとんどホラー映画の主人公というか……。経験のある人はわかると思いますが、「ハエに耳の中に入り込まれる」ってだけでだいぶ精神がやられると思います。もうジャニは半年くらい毎晩毎晩スディープの耳に入り込んで暴れるのを繰り返しとけばスディープは精神崩壊してたのでは……。というか常人がスディープと同じ目にあったら早々に12モンキーズの冒頭の留置場に収監されたブルース・ウィリスみたいになると思います。
スディープはもとから凶悪な支配欲を持っている人物なんですが、中盤から後半の彼の血走って正気を失った目は生来のものと言うよりも完全にハエとなったジャニに追い詰められたせいだとしか思えません。執拗にハエにたかられた挙げ句事故を起こし、さらにハエに「お 前 を 殺 す」とかメッセージを書かれたら正気でいられるわけがない。また、スディープは部下や医者に「ハエに命を狙われている」と訴えますが当然信じてもらえません。この辺は普通なら主人公側の境遇なのに、そのへんが逆転してるのもラージャマウリ監督の妙といったところでしょうか。
本作のジャニとスディープの攻防はコミカルであると同時にマジモンの殺意が同居している不思議な味わいのある感じを受けます。例えば「ホーム・アローン」なんかはコミカルで「いやいやこれ死ぬだろwww」って感じなんですが、本作ではやってることはお互い相手を殺すことを目的としてるのでなんというかいわゆる「シリアスな笑い」を感じます。ジャニは自分の正体を知ったビンドゥの協力も得てスディープを追い詰めていきますが、これってビンドゥも間接的に殺人に及んでるのでは……でもまあ恋人殺されてるからなあ……。
これもラージャマウリ作品ではおなじみというか非常に優れた点だと思うんですが設定に無駄がなく、すべての要素があとから伏線として効いてくるのが非常に巧い。
たとえば、ビンドゥは趣味でマイクロアートを製作してるんですが、このマイクロアートの技術があとからハエとなったジャニのために殺虫剤よけの小さなマスクを制作するところに繋がったり、一度は失敗した酸素シリンダーに火薬を詰めてスディープを狙撃する罠がラストで起死回生の一手として機能したり。言葉で言えば「一度出した要素を重要なところでもう一度出す」ってだけなんですが、言葉で言うのと実行するのとでは天と地ほどの差があるわけで。ラストの伏線回収は実に爽快。
いやー面白かった! 本作はまさに「奇想天外」という言葉がふさわしい作品でした。まあ四六時中ハエのドアップが出る作品なので昆虫が苦手な人にはキツイかも知れません。しかし、本来表情や感情がなく言葉も喋らないはずのこのハエの姿になったジャニ、だんだん表情や感情が見えてくるんですよね。そしてエンドロールではノリノリで踊ってるし。
で、個人的に面白いな―と思ったのがラスト。こういうお話だと主人公は人間の姿に戻りヒロインと結ばれてめでたしめでたし……というのがお約束ですが、本作ではラストで再び死んだはずのジャニは、またもやハエの姿に。しかし彼は変わらずビンドゥを守り続ける……というラストでした。冒頭の父親が話す寝物語とラストを考えるに、ジャニは「悪人とは言え人を殺した」という業(カルマ)を背負わされてハエに生まれ変わり続けるんだろうなあと思います。そこで本作のキャッチコピーである「ハエになっても君を守る!」が活きてくる。もう隅々まで魅力が詰まったラージャマウリ監督作品でした。
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