巣窟日誌

お仕事と研究と私的出来事

英語の資格はどこまで通用?

2004-09-19 05:00:00 | 英語
社会人にねらい ビジネス英検スタートへ 日本英検協会 [朝日新聞]

 財団法人日本英語検定協会は、主に社会人を対象とした新しいビジネス英検「STEP・BULATS(ステップ・ブラッツ)」を始める。同協会の実用英語技能検定「英検」はこの5年で受験者が100万人近く減少、ビジネス分野では企業の昇進条件などで使われている「TOEIC」に押され気味で、新検定を老舗(しにせ)の存在感復活の決め手に、と意気込む。
 協会は昨秋、英・ケンブリッジ大の英語力検定組織「ケンブリッジESOL」と業務提携。ESOLが29カ国で実施し、就職や社員教育に利用されているビジネス英検「BULATS」をベースに、今回の検定を共同開発した。
 当面は「読む」「聞く」の2技能について企業や団体を対象に実施、来春には「書く」「話す」も始める。値段交渉、苦情処理など「ビジネスの現場で使える英語」を試験に盛り込んだことが特徴で、0点から100点で到達度を測る。
 実施が年3回と決まっている英検と違い、テスト日時と会場が自由に選べるのも売り。17日夕から申し込みを受け付ける。受験料は初年度は2900円。
 宮田光朗専務理事は「ビジネスの現場での英語力の物差しがTOEICだけという状況はどうか。企業のニーズに応じて選んでもらいたい」。
 63年に始まった英検は98年度には約352万人が受験したが、03年度は約254万人に。受験者の8割を占める小中高生が少子化で減ったことや、ビジネス分野でTOEICが使われたことが原因という。
 一方、TOEICを実施する国際ビジネスコミュニケーション協会が一部上場企業655社を調べたところ、約8割がTOEICの点数を「採用時に参考にしている」「将来、参考にしたい」と答えたという。 (Asahi. com.09/17 17:57)
(http://www.asahi.com/national/update/0917/025.html)


わたしが20代だった1980年代、英検は絶大な力を持っていた。英検1級というのは「英語の達人」の証明として、水戸黄門の印籠のようなものだった。「わたしは英検1級を持っているのだから、もっと待遇が良くてしかるべきだ」などと、人事部にのりこんで直談判する人もいたぐらいだ。

さてわたしは、本格的な転職を考えた96年に、英検とTOEICの試験を受けた。その理由は履歴書の資格欄が、少しばかりさびしかったからに他ならない。日々の仕事で英語を使っていたので、英語の資格試験がとっつきやすかった。

面白かったのは、当時の2つの試験の受験者の年代層の違いだった。英検は、1級ということもあってか、年配の受験者が多かった。特に面接テストでは、白髪の人間がかなり混ざっていて、わたしのグループに学生は1人もいなかった。これとは対照的に、TOEICの受験者は若い人ばかりで、30代のわたしはどっと老け込んだ気分になった。

さて、1996年当時、企業の面接で、TOEICと英検のどちらが重視されたかというと、わたしが受けた企業がすべて外資系企業だということもあったのかもしれないが、面接で話題にのぼったのは常にTOEICだった。かつての「水戸黄門の印籠」には、誰も目を向けなかった。時代の流れを感じたものだ。

そしてこの傾向はここ数年でさらに進んだらしい。日本英語検定協会があせって「世界基準のビジネス英語能力テスト」である今度のSTEP BULATS を打ち上げた事情は理解できる。でも、英語の資格はどこまで実用的であり、現場ではどのように評価されるのだろうか。

話を当時の自分のことに戻すと、最終的には、縁あってある外資系の企業に入社したが、事前にわたしのTOEICのスコアがその会社の従業員に漏れていたらしい。

入社してまだ日も浅いある日、他に誰もいないときに、社員の一人がつかつかとわたしに歩み寄り、「あなたはTOEICの点がXXX点らしいけれど、そんなものは英語力の証明にはならないんだから! 今度うちも、本当の英語力を測るテストを考えているんだから!」と、険しい表情ではき捨てるように言われた。いまでは懐かしい想い出だが、当時のわたしには何が起こったのかわからず、呆然としていた。どうやらこの従業員も英語力自慢だったらしい。

その後、その企業で通訳などをする機会があり、「それなり」の実用的な英語力の持ち主であること認められると、通常の業務に加え、通訳や翻訳の作業がすべてわたしに集中した。英語ではなく別の目標をもって入社を決めたために、「英語の人」と見られ扱われることにうんざりした。そんな風に英語の業務が集中すると、「英語だけの人」という、かえってマイナスの評価を受けかねない。

さて、英語の資格試験は、かの従業員も言ったように、本当の英語力の証明にはならない。だから、中途採用の場合には、英語のスコアがいくら高くても、英語に関連した実務がないと、実務レベルの英語力があるとみなされない場合が多い。(それなのに、「昇進の要件にTOEICの一定以上のスコアが必要」などどという話をきくのと、ちょっとした矛盾を感じる。)

しかし、新卒の場合は実務経験などなくて当たり前なのだから、英語力の証明としてかなりダイレクトに評価されそうだ。ただし、どのようなスコアが好感をもたれるかというと、企業によって開きがあるようだ。

某外資系証券企業の人事担当者から、「英検準1級とかTOEIC 850点とか、書いてくる新卒の履歴書があるんですが。まぁ、無邪気でかわいいといえば、かわいいのですが…」と、苦笑されたことがある。その企業が求めていたのは、ネイティブレベルの英語力だったわけだ。だから、その企業では英検準1級やTOEIC 850点と書かれた履歴書は、英語力がないことの証明になってしまう。

しかし、同じ英検準1級やTOEIC 850点が、「こんな高い英語力の持ち主なら、うちなんかにいても長続きせず、直ぐ転職してしまうだろう」と思われてしまい、オーバークオリティで不採用になることもあるのだ。もちろん、「よしよし。この点ならば当社が新人に求める英語力としては最適」と、ポジティブに評価してくれる企業もある。

つまり、英語テストのスコアは、一般的にはあるにこしたことはないものの、実際の採用の際にどのように評価されるかというと、非常に微妙だ。審査する側の従業員の英語力に対する無意識のメンタリティ(例えば、とにかく英語力を持っている者を過大評価しがちだとか、逆に英語力を持っている者に偏見をもっているとか)なども影響する。


そしてもちろん、多くの企業にとって、英語力は能力のひとつに過ぎない。

「TOEICが何点あれば、外資系企業に入社できるでしょうか?」と、就職活動中の学生たちから聞かれることがある。「英語力だけでは、どこにも入れない。」と答えることにしている。「日本語ができれば日本企業に入れる」というわけではないのと同じだ。このわたしなど、大学卒業以来、かなりの数の日本企業を落ちてきたぞ。ネイティブレベルの日本語を持っているのに。