久しぶりにメガネを買い替えた。これまで家の中で使っていたメガネのコーティングが見苦しくはがれて、ものが見えにくくなってしまったからだ。
左右の裸眼がそれぞれ0.04の強度近視のわたしにとって、十分な矯正視力を出すためにはコンタクトレンズが欠かせない。でも始終コンタクトレンズをしているわけにはいかない。コンタクトレンズの矯正視力は両目とも1.2にあわせてあるが、これでは家で鬼のようにPCワークをしているときは疲れるし、そもそもわたしはドライアイだ。
で、ドライアイなので角膜炎になりやすい。角膜炎になればコンタクトはしばらく付けられない。そんなわけでメガネは必要なのである。家の中で使うメガネだから、両目でかろうじて0.7が見える程度に設定してある。
それにしてもメガネ歴34年(ついでにいうと、コンタクトレンズ歴はメガネ歴の翌年から始まり、中断期間を除外すると計30年)のわたしにとって、メガネの作りかえは、そのたびにメガネ進化とメガネの形の流行を実感する機会である。
1970年代前半に初めて作ったのはセルフレームのメガネで、形はウエリントンみたいな逆台形だった。(以下、メガネの形やメガネの各部分の名称についてはWikipediaの
「眼鏡」の項を参照のこと。)
当時はまだ「女の子には赤いフレーム」がデフォルトだったが、母はわたしにオレンジがかったグレーという妙な色のセルフレームを選んだ。「少しでもフレームが目立たないものを選んであげたい」という親心だったのだろうが、はっきりいってダサい色で迷惑。このころはまだメタルフレームはほとんど流通していないか、一般的ではなかった。そして当時のわたしの視力は、右目も左目も0.7。今から考えれば立派な視力だったなぁ。(遠い目)
1970年代の後半、高校生になって作ったのは、当時爆発的に流行った「最新」のメタルフレーム。売りのひとつは「フレームがセルフレームよりも目立たない」で、それがわたしがメタルフレームを選んだ理由だったと思う。ついでに「セルフレームよりも軽い」も特徴だったはずだ。
このときに選んだフレームのメーカーは「西ドイツ」製のローデンストック。どんな形だったのか記憶はおぼろげだが、やはりウエリントンだったような気がする。このメタルフレームのメガネをある日踏みつけてしまい、ブリッジがぽっきり折れてしまった。あわてて眼鏡屋へもっていたところ、ロー付けしてくれた。ロー付けの跡は残ったけれど、そのまましばらく使用した。
大学入って作ったのも、やはりメタルフレームだった。形はダブルブリッジ(ツーブリッジ)のティアドロップ型(ナス型)というスポーティな形。当時の流行ゆえにメガネ屋にはこの形のフレームがずらりと並んでおり、流行を追わなくても自然とこの形を選ぶことになってしまった。今考えると恥ずかしい形だ。
視力の低下が順調に進み、もはや日常生活はコンタクトレンズでないと不自由するようになった80年代半ばに作ったメガネは、大きなボストン型のセルフレーム。「わたし メガネ かけてまーす」と思いっきり主張しているヤツだ。当時の眼鏡屋に並んでいたフレームの主流でもあり、多くの人(とくに若い人)が、ボストン型の大きなセルフレームのメガネをかけていた。
しかし、ここでわたしに大問題が発生。近視が進行していたためわたしが大きなレンズのメガネをかけると、見え方は周囲がゆがむことゆがむこと。そして、レンズの端は「ビン底」になった。おそろしいことに、人間の知覚には「慣れ」というものがあり、最初はレンズを通してゆがんで見えた光景も、時期になれるものだ。それに家の中だけでかけるのだから、ビン底でもかまわない。しかし問題は重さだった。このセルフレームのメガネはけっこう重く、数時間かけていると鼻パッドのあたりが痛くなったものだ。
つい先日までかけていたのは、8年前に買ったオーバル型のがっしりとしたメタルフレームで、フレームの選択はまったくの消去法だった。
メガネ屋で「ボストン型のセルフレームの重さに懲りたので、メタルフレームで作りたい」といったら、「あなたのような強度近視の人は、まずレンズが大きいのはダメですね。それからレンズの縁が厚くなりますからメタルフレームでも、フレームががっちりしたもののほうが良いですね」とどんどん選択の幅を狭められてしまい、最後に「あなたにはこれしかありません」と目の前に出されたものをそのまま選んだ。後から気づいたのだが、グッチのフレームで、どこからみてもグッチのロゴが目に入るようになっていた。
メガネを作りかえるたびに、レンズの進化も実感している。
プラスチックレンズが出てきたのは、わたしが高校のころのことだと思う。その当時のプラスチックレンズは、店員の言葉を借りれば「軽いが厚みがある」というものだったと思う。つまりいまほど屈折率が高くなく、強度もそれほどなかったと記憶している。
レンズの主流はプラスチックに移行しつつある。ツーポイントやナイロールのフレームのメガネは、プラスチックレンズだからこそ可能になったわけだし、プラスチックレンズには自由に色をつけられる。屈折率だってガラスレンズには負けるものの、昔より高くなっている。
また、レンズの面の形では、周辺部のゆがみが少ない「非球面レンズ」というものもある。
今ではレンズの種類も様々であり、どのレンズを選ぶかは、個人の好みと視力と――そして、ここが一番の決め手になると思うが――懐具合しだいである。メガネレンズの価格は、本当にピンキリなのだ。
ところで、新しく買ったメガネだが、細身のオーバルタイプのチタンフレーム。この形はいまの流行なのだが、流行を意識したわけではなく、どちらかといえば強度近視ゆえの「レンズを小さくする」ための選択。フルチタンのフレームにしたのは、単に軽さを重視したためだ。フレームの色はどうでも良いのだが、たまたま最初に手に取ったのはパープル系なのでそれを選択。わたしのメガネのフレーム選択方法は、非常にアバウトなのだ。
ついでなのでフレームに合わせて、レンズにも一番淡いパープルを入れてもらった。そして、鼻パッドはシリコン製に取り替えてもらった。鼻が短いので、顔に汗を書くとメガネがいきなり小鼻までずり落ちてしまうことがあり、これを防止するためだ。(でも、言っておくけれど、鼻が低いわけではないからね。短いだけよ!)
出来上がったメガネを家に帰ってきて良く見るとマリ・クレールで、ヨロイやテンプル(ツル)にマリ・クレールのクローバーのマークがビシバシ入っている。しかもモダンにはラメまで入っているじゃないの。ヒェぇぇぇ、女らしすぎるぞ。わたしのイメージにぜんぜん似合っていない。
しかも
ニコンのマリ・クレールのフレームに関する報道資料のページにアクセスしたら
今回発売する「マリ・クレール」メガネフレーム・サングラスは、現代的で活動的な25歳から35歳の女性を対象としたもので、
とある。ああ、やっちゃった。どうやらわたしはフレーム選択を間違ったようだ。
しかし、他人様はめったにメガネをかけたわたしを拝めないはずだ。泊りがけの研修のときか、角膜炎でコンタクトをつけられないときでもない限り、家の外ではメガネはかけないので、まぁこのフレームで良しとしよう。