アニソン・カラオケに誘われた。先だって逝去された某氏の追悼だという。
生前ご本人が周囲に、「自分が死んだら、アニソンで送ってほしい」と言っていたことがあったとのこと。故人の希望は叶えたいが、生前に社会的地位があった方の葬儀であり、葬儀にもかなり社会的地位のある方がいらっしゃる関係上、どうしようかということになった。が、結局、葬儀を行う会場のほうから「あまりにぎやか音楽は…」と言われたということで、故人の希望には沿いかねる次第となった。
しかし、本人の希望は…
というわけで、ご遺族と仲間たちの間で、「故人の供養のためにアニソン・カラオケ大会を開くしかあるまい」という結論に達したとのこと。そういう趣旨であれば、蛮勇をふるって参加しようではないか。
しかしながら、わたしは子供のころからほとんどTVを見ない。というわけで、アニメもあまり見ていない。歌えるものは『おばけのQ太郎』ほか、『宇宙少年ソラン』、『サイボーグ009』、『デビルマン』、『一匹ガキ大将』くらいしか知らない。女の子ものはもっと知らなくて『魔法使いサリー』と『ひみつのアッコちゃん』、そして『ふしぎなメルモ』ぐらいだ。あまり時間はないが、取り急ぎレパートリーを増やしておかないと。
◆ ◆ ◆
昨年、父が他界した。「自分はこれまで激動の人生を送ってきたのだから、これからはなにものにも縛られずに生きたい。自由に生きたいところへいって、自由に死にたい」と9年前に家を出て行った父は、アパートで一人暮らしをしていて、死後数日たってから発見された。病死だった。(家族の名誉のために書いておくと、「激動の人生」を送る羽目になったのは、母をはじめ、父を家族にもった人間のほうだった。)
警察で発見されたときの話を聞いている間、わたしは、もう30年近く前に父が、子供向けのクラシック全集のレコードの中のグリークの『ペール・ギュント組曲』の1曲を聞きながら、「自分が流したらこの曲を流してほしい」と、言っていたことを思い出した。それが「オーセの死」だか「ソルヴェイグの歌」は忘れたが。
葬儀場は音楽が禁止だったので、棺に『ペール・ギュント』のCDを入れてやろうと、アマゾンから取り寄せた。父はカラヤンとベルリンフィルが好きだったはずなので、それをチョイス。アマゾンプライムできちんと翌日に届いた。
ところが、お通夜の前に父のアパートに入ったところ、昔から父が持っていた古いレコードの他には、クラシックのCDが数枚あるだけ。しかもそのCDが「『一枚でわかるベートーヴェン』の類の入門編ばかり。生前、根っからのクラシック音楽ファンを自称し、「クラシック音楽のような高尚な音楽が分からない奴は馬鹿だ」などと周囲に言いまくっていた人間にしては、ちょっと情けないかもしれない。どうやらペール・ギュント発言は、酔った勢いだったらしい。さて、どうしようか。
で、アパートの部屋の中にあった古いステレオセットに目をやったところ、いつぞやの記事にもちらりと書いた、グルダ(ピアノ)/シュタイン(指揮) ウィーンフィルによるベートーヴェン ピアノ協奏曲第5番『皇帝』のレコードが、レコード・プレイヤーのターンテーブルに乗っていた。ほこりをかぶっていないところを見ると、ひとり暮らしをするようになっても、たまには聴いていたらしい。
そこで、私自身の手持ちのCDの中から同じ録音の『皇帝』が入っているものを、グリークのCDと一緒に棺の中に入れ、父と一緒に焼いてもらった。
◆ ◆ ◆
葬儀の音楽と言えば、私の周りではクラシックに限れば、フォーレの『レクイエム』、モーツァルトの『アヴェ・ヴェルム・コルプス』、バッハの『無伴奏チェロ組曲』あたりを自分の葬儀に流してほしい音楽としてあげる人が多い。どれも美しい曲で、葬儀の雰囲気には合う。
問題は『レクイエム』と『アヴェ・ヴェルム・コルプス』はキリスト教の音楽だということ。宗教というものにこだわる参列者の中には、キリスト教の葬儀ではないものにこのような曲が使われると、気分を害する人がいる。歌詞が入っているのはダメだとしても、人によってはメロディーだけでも拒否反応を示す人がいる。
先だって、ある方の仏式の某宗派の葬儀で、フォーレの『レクイエム』のメロディーが流れていた。歌はなし。が、うっかり「あ、これ『ピエ・イェズ』ですね」なんて言ってしまったところ、その宗派の熱心な信者と思われる方が顔をしかめていた。
ところでフォーレの『レクイエム』といえば、母が所属するメトロポリタン・フロイデ・コーア東京の11月末の公演では、この曲をやるらしい。なので、もっとも美しいと思われる録音の一つを、母にプレゼントしておいた。MFC東京はアマチュア合唱団で、今まで見た限りでは、本番では一所懸命に力を込めて歌ってしまう傾向がある。この『レクイエム』は力を込めて歌うととんでもないことになってしまうので、観客のはずわたしのほうがいまからドキドキしている。(なお、ボーイソプラノを使うらしい。わたしもこの曲は、ボーイソプラノを使ったほうの録音が好きだ。)
◆ ◆ ◆
わたしが死んだときに流してほしい音楽は、また別の機会に。
生前ご本人が周囲に、「自分が死んだら、アニソンで送ってほしい」と言っていたことがあったとのこと。故人の希望は叶えたいが、生前に社会的地位があった方の葬儀であり、葬儀にもかなり社会的地位のある方がいらっしゃる関係上、どうしようかということになった。が、結局、葬儀を行う会場のほうから「あまりにぎやか音楽は…」と言われたということで、故人の希望には沿いかねる次第となった。
しかし、本人の希望は…
というわけで、ご遺族と仲間たちの間で、「故人の供養のためにアニソン・カラオケ大会を開くしかあるまい」という結論に達したとのこと。そういう趣旨であれば、蛮勇をふるって参加しようではないか。
しかしながら、わたしは子供のころからほとんどTVを見ない。というわけで、アニメもあまり見ていない。歌えるものは『おばけのQ太郎』ほか、『宇宙少年ソラン』、『サイボーグ009』、『デビルマン』、『一匹ガキ大将』くらいしか知らない。女の子ものはもっと知らなくて『魔法使いサリー』と『ひみつのアッコちゃん』、そして『ふしぎなメルモ』ぐらいだ。あまり時間はないが、取り急ぎレパートリーを増やしておかないと。
![]() | テレビまんが主題歌のあゆみ 価格:¥ 2,940(税込) 発売日:2005-12-21 |
◆ ◆ ◆
昨年、父が他界した。「自分はこれまで激動の人生を送ってきたのだから、これからはなにものにも縛られずに生きたい。自由に生きたいところへいって、自由に死にたい」と9年前に家を出て行った父は、アパートで一人暮らしをしていて、死後数日たってから発見された。病死だった。(家族の名誉のために書いておくと、「激動の人生」を送る羽目になったのは、母をはじめ、父を家族にもった人間のほうだった。)
警察で発見されたときの話を聞いている間、わたしは、もう30年近く前に父が、子供向けのクラシック全集のレコードの中のグリークの『ペール・ギュント組曲』の1曲を聞きながら、「自分が流したらこの曲を流してほしい」と、言っていたことを思い出した。それが「オーセの死」だか「ソルヴェイグの歌」は忘れたが。
葬儀場は音楽が禁止だったので、棺に『ペール・ギュント』のCDを入れてやろうと、アマゾンから取り寄せた。父はカラヤンとベルリンフィルが好きだったはずなので、それをチョイス。アマゾンプライムできちんと翌日に届いた。
![]() | グリーグ:ペール・ギュント 価格:¥ 1,223(税込) 発売日:1996-12-02 |
ところが、お通夜の前に父のアパートに入ったところ、昔から父が持っていた古いレコードの他には、クラシックのCDが数枚あるだけ。しかもそのCDが「『一枚でわかるベートーヴェン』の類の入門編ばかり。生前、根っからのクラシック音楽ファンを自称し、「クラシック音楽のような高尚な音楽が分からない奴は馬鹿だ」などと周囲に言いまくっていた人間にしては、ちょっと情けないかもしれない。どうやらペール・ギュント発言は、酔った勢いだったらしい。さて、どうしようか。
で、アパートの部屋の中にあった古いステレオセットに目をやったところ、いつぞやの記事にもちらりと書いた、グルダ(ピアノ)/シュタイン(指揮) ウィーンフィルによるベートーヴェン ピアノ協奏曲第5番『皇帝』のレコードが、レコード・プレイヤーのターンテーブルに乗っていた。ほこりをかぶっていないところを見ると、ひとり暮らしをするようになっても、たまには聴いていたらしい。
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そこで、私自身の手持ちのCDの中から同じ録音の『皇帝』が入っているものを、グリークのCDと一緒に棺の中に入れ、父と一緒に焼いてもらった。
◆ ◆ ◆
葬儀の音楽と言えば、私の周りではクラシックに限れば、フォーレの『レクイエム』、モーツァルトの『アヴェ・ヴェルム・コルプス』、バッハの『無伴奏チェロ組曲』あたりを自分の葬儀に流してほしい音楽としてあげる人が多い。どれも美しい曲で、葬儀の雰囲気には合う。
問題は『レクイエム』と『アヴェ・ヴェルム・コルプス』はキリスト教の音楽だということ。宗教というものにこだわる参列者の中には、キリスト教の葬儀ではないものにこのような曲が使われると、気分を害する人がいる。歌詞が入っているのはダメだとしても、人によってはメロディーだけでも拒否反応を示す人がいる。
先だって、ある方の仏式の某宗派の葬儀で、フォーレの『レクイエム』のメロディーが流れていた。歌はなし。が、うっかり「あ、これ『ピエ・イェズ』ですね」なんて言ってしまったところ、その宗派の熱心な信者と思われる方が顔をしかめていた。
ところでフォーレの『レクイエム』といえば、母が所属するメトロポリタン・フロイデ・コーア東京の11月末の公演では、この曲をやるらしい。なので、もっとも美しいと思われる録音の一つを、母にプレゼントしておいた。MFC東京はアマチュア合唱団で、今まで見た限りでは、本番では一所懸命に力を込めて歌ってしまう傾向がある。この『レクイエム』は力を込めて歌うととんでもないことになってしまうので、観客のはずわたしのほうがいまからドキドキしている。(なお、ボーイソプラノを使うらしい。わたしもこの曲は、ボーイソプラノを使ったほうの録音が好きだ。)
![]() | フォーレ:レクイエム 価格:¥ 1,050(税込) 発売日:2000-06-21 |
◆ ◆ ◆
わたしが死んだときに流してほしい音楽は、また別の機会に。