巣窟日誌

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マグロと水銀と日本人

2005-08-14 19:29:35 | ニュース
妊婦はマグロ週1―2回に 胎児へのメチル水銀影響で


 魚介類に微量に含まれるメチル水銀が胎児に悪影響を与える恐れがあるとして、厚生労働省の薬事・食品衛生審議会の専門部会(部会長・熊谷進東京大教授)は12日、妊婦が食べてもよい量の目安を16種でまとめた。1回約80グラム(刺し身1人前または切り身1切れ)として、マグロは種類により週に1―2回まで、キンメダイは1回までなど。
[産経新聞 2005.08.12] http://www.sankei.co.jp/news/050812/sha082.htm


遅い! 数年前から、マグロの水銀が特に妊婦に危険なことは、世界中のあちらこちらでかなり言われていたではないか。それなのに、平成15年6月3日に公表した「水銀を含有する魚介類等の摂食に関する注意事項」について(Q&A)では「日本人の1日のマグロ摂取の平均量は21g」などと主張し、厚生労働省は注意すべき魚の対象からはずしたのだ。

There are three kinds of lies: lies, damn lies, statistics.
(この世には、3つの嘘がある:それは、嘘、ひどい嘘、統計である。)


と、19世紀の英国の首相ベンジャミン・ディズレーリは言った。図星である。(この言葉を有名にしたのはマーク・トウェインだったが。)

どうやら、ツナのおにぎりとかツナサンドを律儀にも統計に入れて、1日の平均摂取量を下げた模様。でも、日本人ならツナのおにぎりやツナサンドで「マグロを食べた」なんて気分にはならないはず。「今日はマグロ!」と思ったら、80?100gぐらい食べるではないか。ああ、統計マジック。

消費者の間で起こりうる、無用な混乱や不買運動を避けたいとの判断だったのかもしれない。実際2年前の厚生労働省の公表では、キンメダイの売り上げがガクン落ちた。しかしいくらなんでも、実際にはキンメダイ(メチル水銀濃度は0.58ppm)よりも水銀が多く含まれている可能性のあるマグロ(たとえばメバチマグロは0.74ppm、クロマグロで0.81ppm、そしてインドマグロで1.08ppm)を外しては、あまりにも水産業者寄りの判断だったと思われても仕方がない。

もちろん、マグロ漁業の関係者にはマグロとマグロに含まれる水銀の人体への影響について、異論があることはわかっている。

(略) ところが、まぐろやメカジキ等の大型魚には、水銀(有機水銀:メチル水銀)が多く含まれ、妊婦や幼児がたべると危険であると問題になっている。大型魚類に含まれる水銀は、これまでも何度か問題にされてきた。
 かつて、20年ほど前に、マグロ類に含まれる水銀が問題になった時、マグロ類に含まれるセレンという元素が水銀毒性を打ち消す作用があることも報告されたはずである。このセレンの拮抗作用についての追跡研究が行われたと聴いた事が無いが、もしそうだとすると、魚食国の日本人研究者がその後何も研究しなかったことは恥ずべき事である。水銀が多く含まれているということだけで、まぐろ類などの大型魚類を食べる事を制限しようとする運動には、無責任な環境保護団体が加担しているとも聞いている。通常の食生活の範囲で、特定の魚類の摂取に何らかの規制をしなければ人間の健康に問題が出るということであれば、なんで魚食では人後に落ちない日本が世界一の長寿国でありうるのか?という極めて単純な疑問が出る。

社団法人責任あるまぐろ漁業推進機構のニュースレター11号 (2005.4)から
日本鰹鮪漁業協同組合連合会の石川賢廣会長の話より
http://www.oprt.or.jp/pdf/newsletter_11.pdf


しかしこれも、ちょっと謬論と言わざるを得ない。長寿の要因はひとつだけでなないし、まぐろの摂食の制限を主張する者は、「無責任な環境保護団体」か、そういった団体にたぶらかされた人間との印象を与えたいかのごとくだ。

ちなみにわが家はかなりかなり前から、マグロを含む魚の水銀量を気をつけているほうであろう。1日ごとにメインディッシュを魚・肉・魚・肉…と切り替えているし、マグロの刺身は好物なのだが、せいぜい1ヶ月に1回ぐらいしか食べないようにしている。ツナのおにぎりは、1回のマグロの摂取量が5gぐらいなので、あまり気にしていない。(むしろマヨネーズの脂肪分のほうが気になる。)2年前に問題になったキンメダイも、たまには食べる。

不必要に避ける必要はない。でも、注意は必要だ。


6 Comments

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少し前に読んだ魚のことの本の最後に (fukumaneki)
2005-08-15 00:15:40
少し前に読んだ魚のことの本の最後に
水銀についてはここでは…という注釈がありつつ、
キンメダイのことは書いてあったけど。
その時に厚生省のページも見て、これはヤバイっと
いう印象を受けなかった…。
今の長寿は、以後の年代の私たちにも当てはまるとは限らないですよね~。食べてきたものが違いすぎる気がする。

あと、その時の検索で、海の国際ルールを守って獲ったマグロというのがあるのを知ったけれど、そのシールが貼られたマグロをスーパーでは全然見ないです。
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そうですか。 (kasa~va)
2005-08-15 12:22:02
そうですか。

マグロもキンメダイもいけませんか?

まっ、マグロはお財布の関係であまり食べませんが
キンメの塩焼き、煮付け美味しいものなー。

食べたいなー。
ふつうにお財布と相談で、食べている位はどうですか?

もう50を過ぎたから、多少水銀が入っても・・・
「いや、やっぱだめです」
どこまでも、環境破壊を続けた結果ですか?
「自業自得」ということでしょうか?

こりゃー、日本人は、あまり長くないな・・
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税金でのびのび仕事しているとロクな結果になりま... (あっぷる)
2005-08-16 12:22:54
税金でのびのび仕事しているとロクな結果になりませんね。

クールビズ導入も、試算上の年間想定消費額を減らし、
サラリーマン増税でぎりぎりまで、搾り取るための方策の一つという話もあるし。
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> fukumanekiさん (ふくしまゆみ)
2005-08-17 00:38:20
> fukumanekiさん
偶然かと思いますが「海の国際ルールを守って漁獲しているマグロのシンボルマーク」の募集をしていたのが、どうやらこの記事で引用したニュースレターの発行元である「責任あるまぐろ漁業推進機構」のようです。

> kasa~vaさん
いや、キンメダイの煮付けもおいしいです。マグロもキンメダイもたまに食べるぐらいなら…。ガマンしすぎると、精神的に有害です。
でも連食はまずいでしょうね。日本人の髪の毛に含まれる水銀の量の平均は、魚介類をあまり食べない民族より、高いとのことですし、マグロをガンガン食べている人の髪の毛の水銀量は、平均よりも高いと聞いています。

> あっぷるさん

> 税金でのびのび仕事していると
> ロクな結果になりませんね

はげしく同意します。
それにしてもサラリーマン増税されたらどうしましょう。サラリーマンって組織化されていないから、選挙などで政治家に対する影響力があまりなく、そのため税金を搾り取りやすいんですよね。
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食べていける限りは革命は起きない、ってどこかで... (あっぷる)
2005-08-18 18:23:03
食べていける限りは革命は起きない、ってどこかで読んだ
記憶がありますが、ぎりぎりまで絞りとられるんでしょうね。税金。
かといって食べられるぎりぎりラインで革命を起こそうにも、
起こすと本当に食べられなくなってしまいそうで革命を起こす気にもなれませんし。

なんだか物騒なコメントになってしまいましたが、
例え話ですのでお許しを。
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初めまして! (でじこむ)
2010-05-10 12:38:04
初めまして!
論理が明快、突っ込み所ははずさない!
ここの記事、読んでてスカッとする。こうでなくっちゃ! (拍手)

水銀も、メチル水銀という有機水銀。有機水銀といえば、水俣病! 何故、妊婦なのかも、これでわかるはず。 胎児性水俣病で有機水銀が胎児に集中しやすい事は証明済みって訳だ。
国立水俣病総合研究センターは、魚類やクジラは人間よりも、メチル水銀の排出がはるかに遅く成長につれ濃度が高まるから、大きなもの程濃度は高いと言っている。 クジラだのイルカだの危なくないわけが無いって事だ。
何でも1970年代に測定して高濃度の水銀が検出されちゃった政府は、回遊魚を検査対象からはずしたらしー。
やってくれるぜ、何てヤツラだ!
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