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いまから15年ほど前のある日、日赤から電話が入った。
「血小板成分献血をお願いします。N大病院の5歳の男の子が白血病で…」
当時、その子とHLAが一致する成分献血登録者は、都内ではわたしを含めて二人しかいなかった。そしてもう一人とは連絡が付かなかった。
わたしは勤め先の上司と同僚の不興を買いながらも、当日の午後に無理やり半休を取って、指定された駒込の血液センターに駆けこんだ。問診の医師と三人の看護婦の歓迎を受け、さっそく健康診断にはいった。
当時はまだ成分献血の体への影響がわかっていなかった部分もあり、通常の問診のほかに、心電図などを測る必要があった。また、成分献血黎明期を感じさせる話だが、めでたく献血を行なった暁には、担当医師や看護婦たちと一緒に記念撮影をした写真が血液センターの壁に貼りだされるほか、「成分献血記念」の品がもらえるという特典があった。
さて、わたしは診断でひっかかってしまった。当日のわたしの最高血圧が80台で、成分献血の基準を満たしていなかったのだ。全員が真っ青になり、しばし沈黙が続いた。なにしろ、血小板を受け取る日大病院側は、すでにスタンバっているらしいのだ。
看護婦の一人「先生。成分献血は、全血よりも体への負担が少ないはずですよね。」
担当医師「いったんは400ml近い血液が、体外に出るんだよ。医師として成分献血は勧められないよ。」
私 「(おずおずと)あのぉ… わたしが献血できなかった場合に、相手の男の子はどうなるのでしょうか?」
看護婦・医師「…(無言)…」(看護婦3人が、すがるような目で私を見つめる)
子供のころのわたしは、入退院を繰り返していた。同じ部屋の子供たちは、いずれもかなり重症だった。(結局、そのなかの何人かは、大人になれなかった。)当時の同じ部屋の仲間たちの記憶が、会ったことのない5歳の男の子に重なった。
なに、血圧が低いのは生まれつきだ。ここで引き下がったら女じゃない。どうせ副作用といったって、貧血を起こしてぶっ倒れるぐらいだろう。
そう思ったわたしは自己責任での献血宣言をし、大喜びの看護婦たちは、早速日大病院へ連絡を取り、私の昼食がまだ済んでいなかったことを聞くと、出前の月見うどんを取ってくれた。看護婦の一人がうどんにたっぷりと七味唐辛子を振りかけて、わたしに出してくれた。(「辛いものを食べれば、少しは血圧が上がるかもしれないから。」)
医師が通常よりゆっくりと採血をするように指示をだしたために、採血そのものに2時間を要したが、医師が心配したような事態は何も起こらなかった。少なくともそのときは。
が、身体的な異変はその日の夜にやってきた。肘や膝の内側、首の周りをからとつぜん始まったかゆみが全身に広がり、全身が真っ赤になった。アトピー性皮膚炎の大噴火が、約10年ぶりに来たのだ。そしてこのアトピーが8割がた治まるのには、約1年を要した。
成分献血で抗凝固剤として使われるのはクエン酸だ。だから、成分献血をするとこのクエン酸が血液中に入ってくることになる。しかし、アトピー性皮膚炎と血液中に入るクエン酸の間に、因果関係はないはずだ。
だが3回も、それも異なる季節に成分献血をした後に同じことが起こると、これはどう考えても因果関係があるらしいと考えざるを得なくなる。しかも成分献血をするごとに、献血からアトピー性皮膚炎の大噴火までの時間間隔が短くなっていく。献血による貧血や体調不良なら耐えることができる。でも、その後数ヶ月から1年にわたってアトピー性皮膚炎に悩まされるのには、我慢できない。
ついに、3回目の成分献血後、アトピー性皮膚炎で真っ赤になった顔と、ニワトリの肉垂れのような色になった首を鏡で眺めながら、ついに自分が成分献血には向いていない体質だと悟った。
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成分献血ができない! 頭にきたわたしは、骨髄バンクができるや否や、「血漿と血小板がダメなら、骨髄液があるさ。白血病には骨髄移植だ」と、勇んでドナー登録に行ったが、自分がドナー要件を満たしていないことに気がついた。考えてみれば、「病気のデパート」とはいえないまでも、「病気のパパママショップ」ぐらいは名のれるのだ。わたしのような人間がドナーになって万一事故でも起こったら、骨髄バンク事業の将来にマイナスの影響を与えてしまうのだ。
さて、その後の献血は、全血献血にしてもらっている。毎回こちらからリクエストする献血量は400mlだ。体調の良いときにのみ行くので、それだけ抜かれても通常は何も起こらない。400mlの血液を抜かれても平気なのに、成分献血ができないなんて…
他のアトピーの人に聞いても、成分献血でアトピーが悪化したことのある人の話は出てこない。むしろ「成分献血は体にやさしいので、アトピーで献血をしたい人は、成分献血がお勧め」と言う人のほうが多いぐらいで、これはおそらく事実だ。そして、あげくのはてには、「精神的なものじゃない?」と言われたりする。
誰にも理解されない… こんな体質いやだぁぁぁぁぁ!
ちなみに、「"辛いものが血圧を上げる"というのは、俗説だ」というのは、本当だった。たしか七味唐辛子大量盛りの月見うどんを食べる前も、食べた後も、最高血圧は86だったと記憶している。(食後に、期待に満ち満ちてわたしの血圧を測った看護婦さんの、落胆ぶりったら…。)
[写真説明:献血50回記念の記念品。全血献血中心、しかもここのところは400ml献血が中心なので、成分献血と異なり回数はこなせない。]