『トランセンデンス』をTOHOシネマズ六本木で見ました。
(1)余り好まないSF物ながら、ジョニー・デップの主演作というので映画館に行ってみました。
本作(注1)のタイトルクレジットの後(注2)、舞台はカリフォルニア州バークレーとされます。
全体に酷く荒廃した光景が映し出される中で(注3)、一人の男(マックス:ポール・ベタニー)が随分と植物が繁茂した家の中に入っていきます。そしてその男は、「私は、キャスター夫妻をよく知っていた」と、5年前の話を始めます。
場面はその家の庭。様々な植物が所狭しと植えられている中で、男(ウィル・キャスター:ジョニー・デップ)とその妻(エヴリン:レベッカ・ホール)が何やら作業をしています(注4)。
さらに場面は、カリフォルニア州のリバモア研究所へ。
男がケーキを持って研究所の中に入ります。入口でチェックされるものの、問題なく通過。
その後、そのケーキは、ウィルの恩師であるジョゼフ(モーガン・フリーマン)らに振る舞われたところ、ジョゼフ以外の研究者は、ケーキの中に隠されていたダイオキシンの毒で死んでしまいます。
次いで、UCLAのバークレー校で行われた講演会。
「人工知能(AI)が様々な問題を解決します。次のゲストほどそれに近い人はいません」として紹介されたウィルが壇上に登場します(注5)。
しかしながら、講演が終わって会場の外に出たところで、ウィルは、反テクノロジーを謳ってブリー(ケイト・マーラ)が率いるテロ集団RIFT(注6)によって銃撃されてしまいます(注7)。
幸いにして一命を取り留めたものの、銃弾に放射性物質が仕込まれていて、その中毒により1ヶ月ほどで死ぬと宣告されてしまいます。
ウィルは「もう仕事はやめる。最後くらいは妻と一緒にいたい」と言い、エヴリンも、「PINN(ウィルと共に開発してきたAIコンピュータ:注8)計画は終わりにする」と表向きは言うのですが、密かに、ウィルの意識をPINNにアップロードできるのではと考えつき、実行に移してしまいます(注9)。
夫が死んだ後に(注10)、モニター上にウィルのものと思われる反応が現われます(注11)。
エヴリンは狂喜するものの、大学時代から親友のマックスは疑いを持ちます(注12)。
さあ、ウィルはどんなふうに蘇るのでしょうか、ウィルとエヴリンは元のような生活を取り戻せるのでしょうか、………?
『her 世界でひとつの彼女』と同様にAIの話ながら、そして同じようにラブストーリー物ではあるのですが、SF的な要素が色々と持ち込まれるだけでなく、エコロジーの要素までも加味され、全体としてごった煮的で散漫な作品という印象を持ちました(注13)。
(2)本作は、やっぱり最近見た『her』と比べてみたくなってしまいます(注14)。どちらも近未来SF物であり、同じようにAIを取り扱っていますから(注15)。
さらに、『her』では、人間のセオドアがAIのサマンサを愛してしまうのに対し、本作では、元々強い愛情でエヴリンと結ばれていたウィルの頭脳が蘇るのです。
また、AIが体を持った場合の相手の反応が両作で共通しているところもあります。
『her』でサマンサは、自分のように喋るイザベラをセオドアの元に送り込みますが、セオドアは引いてしまいます。本作においても、ウィルが入り込んだマーティン(クリフトン・コリンズ・Jr)に対してエヴリンもはかばかしく対応しません(注16)。
それに感情についても、『her』では“リアルな感情”が問題となりますが、本作でも、マックスがエヴリンに、「感情をAIで取り扱うことは難しい。論理的に矛盾することが両立するのだから」などと言ったりします。
とはいえ違うところもあって、例えば、『her』では、進化したサマンサはセオドアの元から消えてしまいますが、本作では、ウィルはどんどん進化していくにもかかわらずエヴリンを見捨てることはありません。
そんなウィルの進化に危機感を抱いた人間たちが、ウィルとエヴリンが建設した施設(ブライドウッドのデータ・センター)を攻撃するなどというSF物らしい展開となっていきます。
(3)本作でことさらに問題だと思われるのは、ウィルを襲ったRIFTはあくまでもテロ組織であって、様々な破壊活動により研究者の命を奪ったりしているにもかかわらず、そのことは映画で無視されてしまい(注17)、FBI捜査官のブキャナン(キリアン・マーフィー)や軍と一緒になってウィルとエヴリンの作った施設の攻撃に当たることになるのです(果ては、マックスまでもRIFTに同調します)。
ですが、いくら当面の目標が両者で一致するからといって、そしていくらSFファンタジーだからといって、これは認められないのではないでしょうか?(注18)
(4)渡まち子氏は、「デジタルとリアルを超越(トランセンデンス)した場所に愛があるとした本作、なかなかセンチメンタルなSF作品だった」として65点をつけています。
(注1)本作の制作総指揮は『バットマン』シリーズのクリストファー・ノーラン、監督は初監督のウォーリー・フィスター。
(注2)実は冒頭では、「トランセンデンスの世界へようこそ。200万年前から、人間の脳は進化してきた。人類を超える人工知能完成したら、そしてそれが自我を持ったら、何が起こるのか?永遠の命の第一歩なのか、絶滅への第一歩なのか。トランセンデンス、これはあなたにも起こる未来です」といったようなことが音声で述べられます。
これは、この記事によると、本編前のナビゲーションということで爆笑問題が担当しているわけながら、一瞬、「吹替版を選んでしまったのかな?」と思ってしまいました。
(本来的には、モーガン・フリーマンがこの語りを行っているようなのですが)
(注3)街角に兵士が立ち、人々が、スーパーらしき店に行列を作っていたりします(ただ、「乳製品、冷蔵庫なし」といった貼り紙が)。
ボストンの電力事情やデンバーの電話サービスといったものが昔とはマッタク違ってしまった、などと語られます。
どうやらこの光景は、本作のラストで描き出される世界と通じているようです。
(注4)ウィルは、庭を銅線で覆う作業をしているところ、彼が、「銅は電波を通さない。携帯も届かない」と言うと、エヴリンは、「そのくらいのことなら、携帯を切ればいい」と応じ、それに対して彼は、「なるべく遮断されたいと言っていたから」と答えます。妻は「数学的証明がそんなに大事?みんな意味ないわ」というのですが。
(注5)ウィルは、講演で、「人間の理性の限界は使われていない」、「自我を持つAIがつながれば、人類を超える。これまでのどんな天才の知性をも超える」、「人間とマッタク同じ感情を持ったとしたら、私はトランセンデンスと呼ぶ」などとしゃべります。
会場から「あなたは神を創り上げたいのか?」との質問があり、それに対して彼は、「良い質問だ。人間はいつでもそうしてきた」と答えます。
(注6)劇場用パンフレットによれば、「Revolutionary Independence From Technology」とのこと。
(注7)リバモア研究所における毒殺事件もRIFTの仕業。
人工知能を研究する他の研究機関でも爆発などがおき、ジョゼフは「数十年分の研究成果が失われてしまった」と嘆きます。
(注8)例えばこの記事によれば、PINNとは「Physically Independent Neural Network」(劇場用パンフレットの訳では「独立型人口神経回路網」)。
(注9)親友のマックスは「猿とは違う」と言って反対しますが、エヴリンは「彼を救える。テロで死ぬなんて」と強行します(ウィルも同意)。
(注10)ウィルの遺骨は、エヴリンやマックスらの手で湖に散骨されます。
(注11)「誰かいるか?」、「暗い」、「突然夢から覚めた感じだ」などといった反応。
(注12)マックスは、PINNのウィルが「金融市場につないでくれ」と言うので、「ウィルがパワーを欲しがるとは思えない」として、疑いを持ちます。
(注13)最近では、ジョニー・デップは『ツーリスト』、レベッカ・ホールは『ザ・タウン』、ポール・ベタニーは『ツーリスト』、モーガン・フリーマンは『グランド・イリュージョン』、キリアン・マーフィーは『インセプション』、ケイト・マーラは『127時間』で、それぞれ見ています。
(注14)『渇き。』を見ると『私の男』と比べてみたくなるのと同じように。
(注15)どちらも時点は明示されてはいません。
ただ、本作の劇場用パンフレットに掲載されている「徹底検証 科学者たちが語る『トランセンデンス』の描く世界」の第4章「“テクノロジーのない進化”をモットーに掲げる過激派テロ組織RIFTとは?」においては、「2019(現在)」と記載されていますが。
(注16)とはいえ、ウィルが、生前の姿形を再生してエヴリンの前に現れた時は、彼女も混乱してしまいますが。
(注17)むしろ、ウィルの調査と通報によって、RIFTの拠点が次々と暴かれてメンバーが逮捕されるテイタラクなのです。
(注18)それに、ラストでは、ウィルが作り出したナノテクノロジーによって、自然が瑞々しさを取り戻すさまが描き出されていますが(雨の雫の中にナノマシンが見えます)、その代償として本作冒頭の街の光景があるとしたら(大停電下にあるようです)、そんな自然の回復にどんな意味があるのでしょうか?
★★★☆☆☆
象のロケット:トランセンデンス
(1)余り好まないSF物ながら、ジョニー・デップの主演作というので映画館に行ってみました。
本作(注1)のタイトルクレジットの後(注2)、舞台はカリフォルニア州バークレーとされます。
全体に酷く荒廃した光景が映し出される中で(注3)、一人の男(マックス:ポール・ベタニー)が随分と植物が繁茂した家の中に入っていきます。そしてその男は、「私は、キャスター夫妻をよく知っていた」と、5年前の話を始めます。
場面はその家の庭。様々な植物が所狭しと植えられている中で、男(ウィル・キャスター:ジョニー・デップ)とその妻(エヴリン:レベッカ・ホール)が何やら作業をしています(注4)。
さらに場面は、カリフォルニア州のリバモア研究所へ。
男がケーキを持って研究所の中に入ります。入口でチェックされるものの、問題なく通過。
その後、そのケーキは、ウィルの恩師であるジョゼフ(モーガン・フリーマン)らに振る舞われたところ、ジョゼフ以外の研究者は、ケーキの中に隠されていたダイオキシンの毒で死んでしまいます。
次いで、UCLAのバークレー校で行われた講演会。
「人工知能(AI)が様々な問題を解決します。次のゲストほどそれに近い人はいません」として紹介されたウィルが壇上に登場します(注5)。
しかしながら、講演が終わって会場の外に出たところで、ウィルは、反テクノロジーを謳ってブリー(ケイト・マーラ)が率いるテロ集団RIFT(注6)によって銃撃されてしまいます(注7)。
幸いにして一命を取り留めたものの、銃弾に放射性物質が仕込まれていて、その中毒により1ヶ月ほどで死ぬと宣告されてしまいます。
ウィルは「もう仕事はやめる。最後くらいは妻と一緒にいたい」と言い、エヴリンも、「PINN(ウィルと共に開発してきたAIコンピュータ:注8)計画は終わりにする」と表向きは言うのですが、密かに、ウィルの意識をPINNにアップロードできるのではと考えつき、実行に移してしまいます(注9)。
夫が死んだ後に(注10)、モニター上にウィルのものと思われる反応が現われます(注11)。
エヴリンは狂喜するものの、大学時代から親友のマックスは疑いを持ちます(注12)。
さあ、ウィルはどんなふうに蘇るのでしょうか、ウィルとエヴリンは元のような生活を取り戻せるのでしょうか、………?
『her 世界でひとつの彼女』と同様にAIの話ながら、そして同じようにラブストーリー物ではあるのですが、SF的な要素が色々と持ち込まれるだけでなく、エコロジーの要素までも加味され、全体としてごった煮的で散漫な作品という印象を持ちました(注13)。
(2)本作は、やっぱり最近見た『her』と比べてみたくなってしまいます(注14)。どちらも近未来SF物であり、同じようにAIを取り扱っていますから(注15)。
さらに、『her』では、人間のセオドアがAIのサマンサを愛してしまうのに対し、本作では、元々強い愛情でエヴリンと結ばれていたウィルの頭脳が蘇るのです。
また、AIが体を持った場合の相手の反応が両作で共通しているところもあります。
『her』でサマンサは、自分のように喋るイザベラをセオドアの元に送り込みますが、セオドアは引いてしまいます。本作においても、ウィルが入り込んだマーティン(クリフトン・コリンズ・Jr)に対してエヴリンもはかばかしく対応しません(注16)。
それに感情についても、『her』では“リアルな感情”が問題となりますが、本作でも、マックスがエヴリンに、「感情をAIで取り扱うことは難しい。論理的に矛盾することが両立するのだから」などと言ったりします。
とはいえ違うところもあって、例えば、『her』では、進化したサマンサはセオドアの元から消えてしまいますが、本作では、ウィルはどんどん進化していくにもかかわらずエヴリンを見捨てることはありません。
そんなウィルの進化に危機感を抱いた人間たちが、ウィルとエヴリンが建設した施設(ブライドウッドのデータ・センター)を攻撃するなどというSF物らしい展開となっていきます。
(3)本作でことさらに問題だと思われるのは、ウィルを襲ったRIFTはあくまでもテロ組織であって、様々な破壊活動により研究者の命を奪ったりしているにもかかわらず、そのことは映画で無視されてしまい(注17)、FBI捜査官のブキャナン(キリアン・マーフィー)や軍と一緒になってウィルとエヴリンの作った施設の攻撃に当たることになるのです(果ては、マックスまでもRIFTに同調します)。
ですが、いくら当面の目標が両者で一致するからといって、そしていくらSFファンタジーだからといって、これは認められないのではないでしょうか?(注18)
(4)渡まち子氏は、「デジタルとリアルを超越(トランセンデンス)した場所に愛があるとした本作、なかなかセンチメンタルなSF作品だった」として65点をつけています。
(注1)本作の制作総指揮は『バットマン』シリーズのクリストファー・ノーラン、監督は初監督のウォーリー・フィスター。
(注2)実は冒頭では、「トランセンデンスの世界へようこそ。200万年前から、人間の脳は進化してきた。人類を超える人工知能完成したら、そしてそれが自我を持ったら、何が起こるのか?永遠の命の第一歩なのか、絶滅への第一歩なのか。トランセンデンス、これはあなたにも起こる未来です」といったようなことが音声で述べられます。
これは、この記事によると、本編前のナビゲーションということで爆笑問題が担当しているわけながら、一瞬、「吹替版を選んでしまったのかな?」と思ってしまいました。
(本来的には、モーガン・フリーマンがこの語りを行っているようなのですが)
(注3)街角に兵士が立ち、人々が、スーパーらしき店に行列を作っていたりします(ただ、「乳製品、冷蔵庫なし」といった貼り紙が)。
ボストンの電力事情やデンバーの電話サービスといったものが昔とはマッタク違ってしまった、などと語られます。
どうやらこの光景は、本作のラストで描き出される世界と通じているようです。
(注4)ウィルは、庭を銅線で覆う作業をしているところ、彼が、「銅は電波を通さない。携帯も届かない」と言うと、エヴリンは、「そのくらいのことなら、携帯を切ればいい」と応じ、それに対して彼は、「なるべく遮断されたいと言っていたから」と答えます。妻は「数学的証明がそんなに大事?みんな意味ないわ」というのですが。
(注5)ウィルは、講演で、「人間の理性の限界は使われていない」、「自我を持つAIがつながれば、人類を超える。これまでのどんな天才の知性をも超える」、「人間とマッタク同じ感情を持ったとしたら、私はトランセンデンスと呼ぶ」などとしゃべります。
会場から「あなたは神を創り上げたいのか?」との質問があり、それに対して彼は、「良い質問だ。人間はいつでもそうしてきた」と答えます。
(注6)劇場用パンフレットによれば、「Revolutionary Independence From Technology」とのこと。
(注7)リバモア研究所における毒殺事件もRIFTの仕業。
人工知能を研究する他の研究機関でも爆発などがおき、ジョゼフは「数十年分の研究成果が失われてしまった」と嘆きます。
(注8)例えばこの記事によれば、PINNとは「Physically Independent Neural Network」(劇場用パンフレットの訳では「独立型人口神経回路網」)。
(注9)親友のマックスは「猿とは違う」と言って反対しますが、エヴリンは「彼を救える。テロで死ぬなんて」と強行します(ウィルも同意)。
(注10)ウィルの遺骨は、エヴリンやマックスらの手で湖に散骨されます。
(注11)「誰かいるか?」、「暗い」、「突然夢から覚めた感じだ」などといった反応。
(注12)マックスは、PINNのウィルが「金融市場につないでくれ」と言うので、「ウィルがパワーを欲しがるとは思えない」として、疑いを持ちます。
(注13)最近では、ジョニー・デップは『ツーリスト』、レベッカ・ホールは『ザ・タウン』、ポール・ベタニーは『ツーリスト』、モーガン・フリーマンは『グランド・イリュージョン』、キリアン・マーフィーは『インセプション』、ケイト・マーラは『127時間』で、それぞれ見ています。
(注14)『渇き。』を見ると『私の男』と比べてみたくなるのと同じように。
(注15)どちらも時点は明示されてはいません。
ただ、本作の劇場用パンフレットに掲載されている「徹底検証 科学者たちが語る『トランセンデンス』の描く世界」の第4章「“テクノロジーのない進化”をモットーに掲げる過激派テロ組織RIFTとは?」においては、「2019(現在)」と記載されていますが。
(注16)とはいえ、ウィルが、生前の姿形を再生してエヴリンの前に現れた時は、彼女も混乱してしまいますが。
(注17)むしろ、ウィルの調査と通報によって、RIFTの拠点が次々と暴かれてメンバーが逮捕されるテイタラクなのです。
(注18)それに、ラストでは、ウィルが作り出したナノテクノロジーによって、自然が瑞々しさを取り戻すさまが描き出されていますが(雨の雫の中にナノマシンが見えます)、その代償として本作冒頭の街の光景があるとしたら(大停電下にあるようです)、そんな自然の回復にどんな意味があるのでしょうか?
★★★☆☆☆
象のロケット:トランセンデンス