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超高速!参勤交代

2014年07月01日 | 邦画(14年)
 『超高速!参勤交代』を渋谷シネパレスで見てきました。

(1)時代劇コメディで面白そうだと思い、映画館に行ってきました。

 本作(注1)の冒頭では、1年にわたる江戸での暮らしを終えて故郷の磐城国湯長谷藩に戻ってきた藩主・内藤政醇佐々木蔵之介)の一行が田舎道を進んでいると、百姓がとれた大根を献上しますが、藩主はそれにかぶりつきます(注2)。

 参勤交代を終えた一行は、城内に入って荷を解いて、以前の生活に復帰します。
 藩主が、扉を少し開けたままで厠に入っていると(注3)、家老の相馬西村雅彦)がやってきてツイうっかりと扉を閉めてしまったから大変です。藩主は慌てふためいて厠から飛び出します。

 そんな藩主は、部下の侍たちが剣術や弓術などの稽古している様子を見回りますが(注4)、皆「やはり国元は良いですわ」とか「国元は心が和む」と言っています。
 他方で、家老の相馬は、「財政が思わしくなく、年貢を引き上げなくては」と藩主に進言し、さらに「殿はお人が良すぎる。飢饉の際に他藩(注5)を助けたりしたので、今回の参勤交代で蓄えも尽きました」と述べます。

 そこへ江戸屋敷の家老が早駕籠で飛び込んできて、「今より5日以内に参勤交替せよとの上様からのお達し。我が藩の金山の届け出に偽りがあったからとのことで(注6)、江戸に参上しなければ我が藩はお取り潰しに」と藩主に告げます。

 さあ大変、家老の相馬は、「無理に決まっている、常の参勤交代でも8日かかる上(注7)、要する382両もの金もなく、宿の手配もできない」と嘆きますが、藩主は「決めたぞ。すぐに支度せよ。5日のうちに江戸に行く。相馬、金はなくとも、お主には知恵があろう」と宣言します。



 さあ、藩主以下総勢七人(注8)はこの難題をいかにして乗り切ることができるでしょうか………?

 本作は、5日以内に参勤交代せよとの理不尽な命令を達成しようと頑張る貧乏小藩の藩主以下の侍たちのお話です。むろん、時代考証などはすっ飛んでいて面白さを追求するだけながらも、とても斬新な企画であり、深田恭子が女郎役で出てきたりもし、まあこうした斬新な企画の作品もそれなりにいいのかなと思いました(注9)。

(2)本作は、13人の侍が一丸となって残忍極まりない明石藩主(稲垣吾郎)を参勤交代の途中で襲撃する『十三人の刺客』のコメディ版といった感じがします。

 例えば、同作では、リーダーの島田新左衛門(役所広司)の「斬って斬って斬りまくれ」の合図で壮絶なチャンバラ合戦が始まるのに対し、本作では、藩主が「こんどの参勤は過酷なものになる。皆、精一杯走るぞ!」と檄を飛ばして城門から7人が走り出ます。
 また、同作では、明石藩主襲撃を阻止するために鬼頭半兵衛(市村正親)以下300人の侍が13人に立ち向かうところ、本作では、参勤を阻止すべく大勢の御庭番衆(注10)が藩主の一行に襲いかかります。
 さらには、同作では、山の民の木賀小弥太(伊勢谷友介)が山道について島田らの一行を道案内しますが、本作でも抜け忍の段蔵伊原剛志)が高萩宿から牛久宿までの山道につき相馬らを案内します。
 もっといえば、同作に登場する芸妓お艶(吹石一恵)が、本作の女郎・お咲深田恭子)にやや似ているのではとも思います(注11)。

 ともかく、『十三人の刺客』では、藩主襲撃を敢行した13人の侍を含めものすごい数の人が死んでいくさまが描かれているのに対して、本作はコメディですから藩主以下7人の侍は全員無事で(注12)、めでたしめでたし!

(3)渡まち子氏は、「幕府から無理難題の参勤交代を命じられた貧乏藩の奮闘を描く歴史エンタテインメント「超高速!参勤交代」。逆境に立ち向かう弱者応援ムービーにして痛快娯楽時代劇だ」として70点をつけています。
 相木悟氏は、「膨大な鉱脈を秘めた時代劇の可能性を示す痛快作ではあった」「がしかし…、惜しいかな、脚本のクオリティに対し、演出が足を引っ張っている」と述べています。



(注1)脚本の土橋章宏は、本作で城戸賞を受賞。なお、監督は、本木克英

(注2)湯長谷藩の大根は将軍・吉宗市川猿之助)にも献上されていて、そのことがラストの方で効いてきます。

(注3)実は、藩主は幼児の時のトラウマによって閉所恐怖症なのです。

(注4)藩主が武芸の稽古に励み、それぞれが「一騎当千の兵」と自覚していることから、江戸城の悪徳老中・松平信祝陣内孝則)が放つ隠密集団に遭遇しても藩主を守ることが出来ます。

(注5)飢饉の際に藩主・内藤政醇の決断で米を贈られたことで、恩義を感じていた磐城平藩の藩主・内藤政樹甲本雅裕)は、窮状に陥っていた相馬らの一行に助け舟を出すことになります。

(注6)隠密によって金山の情報をつかんだ悪徳老中の阿部は、その金を独り占めしようと画策し、今回の「5日以内の参勤交代」の下命となります。

(注7)この記事によれば、いわき市と東京との距離は約195㎞。1時間に4㎞(=1里)で1日6時間歩くとすれば、約8日で歩けるでしょう〔4(㎞)✕6(時間)✕8(日)=192(㎞)〕。
 ただ、映画のように実質4日間で歩こうとすれば、歩行の速度と1日の歩行時間を長くすれば可能かもしれないとはいえ〔5(㎞)✕10(時間)✕4(日)=200(㎞)〕、相当厳しいでしょう。

(注8)“七人の侍”の内訳は、藩主と家老の相馬のほか、剣の使い手・荒木寺脇康文)、囲碁を愛好する冷静沈着な秋山上地雄輔)、弓の名手・鈴木知念侑李)、槍の使い手・今村六角精児)、それに二刀流の増田柄本時生)。

(注9)最近では、佐々木蔵之介は『大奥』、深田恭子は『偉大なる、しゅららぼん』で見ました。



 また、西村雅彦は『草原の椅子』、伊原剛志は『汚れた心』、上地雄輔は『土竜の唄』、六角精児は『悪夢ちゃん』、柄本時生は『ジャッジ!』、甲本雅裕は『県庁おもてなし課』で、それぞれ見ています。
 なお、江戸城の老中首座の松平輝貞石橋蓮司が扮しています(『銀の匙』で見ました)。

(注10)劇場用パンフレットによれば、総勢100人とのこと。

(注11)『十三人の刺客』では、お艶を演じる吹石一恵が、山の民の木賀小弥太が愛しているウパシの役をも演じているところ、本作において、飯盛女に過ぎないお咲がラストで藩主の側室に変身するのに対応しているのでは、とも思いたくなってしまいます。

(注12)とにかく、御庭番衆に壮絶に斬られたはずの秋山が、藩主の妹である琴姫舞羽美海)に介抱されているシーンがあるのですから!



★★★☆☆☆



象のロケット:超高速!参勤交代