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マレフィセント

2014年07月22日 | 洋画(14年)
 『マレフィセント』をTOHOシネマズ渋谷で見ました。

(1)待ち合わせまで時間があったということもあって映画館に入ってみました。

 本作は、1959年のディズニー・アニメ『眠れる森の美女』を改作したもの。

 まず、「人間の国」と「ムーア国」(注1)とが隣り合っていたものの、仲が悪いとされます。
 人間の国はヘンリー王が支配していて、ムーア国をも支配下に置こうとしています。

 これに対して、ムーア国は魔法の国であり、人間の国では見かけない生き物がいろいろ住んでいます。
 崖に生えている大きな樹木に住む妖精のマレフィセントもその一人。両角と翼を持つ女の子で、その翼で空を飛び回ります。
 そんなところに、見張番が国境の宝石池で人間を見たとの話が。
 マレフィセントは、人間を見てみたいと思ってその場所に行きます。
 隠れていた洞窟から出てきたのは、人間の男の子のステファン
 二人は何度も会って話す内に、共に両親がいないことがわかったりし、憎しみは消え、友情からいつしか恋心が。16歳の時、ステファンはマレフィセントに「真実の愛のキス」を贈ります。

 その後、マレフィセントアンジェリーナ・ジョリー)は、ムーア国で最強の妖精となります。



 他方で、人間の国のヘンリー王は、ムーア国を滅ぼしてその財宝を手に入れようと目論見、攻撃を仕掛けますが、逆にマレフィセントらに反撃されてしまい、瀕死の重傷を追ってしまいます。王は、翼を持った妖精に復讐した者が自分の後継者になると宣言。
 今や野心家となったステファンシャールト・コプリー)は、密かに再会したマレフィセントを騙して眠らせ、その隙に彼女の翼を切断して王のもとに証拠品として持参し、王の後継者となります。

 ステファンの裏切りを許せず復讐心に燃えるマレフィセントは、ステファン王と王妃との間に女の子が生まれたと知ると(注2)、その子のオーロラ(注3)に呪いをかけるのですが、さてその呪いとはどんなもので、マレフィセントとオーロラとの関係はどのようなものとなるのでしょうか………?

 本作は、ディズニー・アニメ『眠れる森の美女』を改作し実写化したもので、主役のマレフィセントに扮するアンジェリーナ・ジョリーの演技とか、妖精たちが飛び交うムーア国の光景などのCGとかはなかなか優れているものの、改作の意図がいまいち判然としない印象を受けました(注4)。

(2)劇場用パンフレットに記載されている「『眠れる森の美女』vs.『マレフィセント』比較」でもわかるように、本作と元のディズニー・アニメ『眠れる森の美女』との違いはいろいろあります。

 特に注目されるのは次のことでしょう。
 元のアニメでは、本作の主人公マレフィセントは、生誕のお祝いに招かれなかったためにオーロラに呪いをかけ、最後にオーロラを助けに来たフィリップに殺されてしまうのですが、本作では、なぜか最初からオーロラがマレフィセントになついてしまい、最後はマレフィセントが彼女にキスをすることで、その呪いが解けてしまうのです(結局、マレフィセントがオーロラに対して「真実の愛」を抱いていたということでしょう)。
 ですがこれは、オーロラがマレフィセントの娘だったということであれば理解できなくもないとはいえ、そうではなく赤の他人の子供、それも自分を裏切ったステファン王の子供なのですから、一般的にはなかなか受け入れ難いところがあります。

 それに元々、マレフィセントを避けるために、ステファン王が3人の妖精に託して森のなかの隠れ家でオーロラを養育させたにもかかわらず、オーロラの方からどんどんマレフィセントに近づいてしまうのですから(ムーア国にも自由に入っていきます)、世話はありません(注5)。
 一体何のために、両親が住む城を離れてオーロラは暮らさなければならなかったのでしょうか?

 さらに、本作でもオーロラは、呪いのかかる16歳の直前に隣国の王子フィリップに出会って一目惚れします(注6)。
 『眠れる森の美女』では、彼が口づけをすることでオーロラは目を覚まします。ところが、本作では、マレフィセントとカラスのディアヴァルが、わざわざフィリップ(ブレントン・スウェイツ)を城の中に運び込んでオーロラにキスさせたにもかかわらず、彼女は目を覚まさないのです!

 こんなところから、下記の(3)で触れる渡まち子氏は、「それにしても、「アナ雪」といい本作といい、目につくのは王子様の役立たずぶりである。昨今の女性は、出会ったばかりの白馬の王子様なんぞには何も期待していないということか」と述べていますし、また相木悟氏も、「野心家の国王はもちろん、至極どうでもいい他国の王子や、泣ける献身キャラにできたはずのカラスにもさしてドラマを与えられず、『アナ雪』のフェミニズム路線を完全に踏襲している」と述べています。

 確かにそんな風に思えるところもあるでしょう(注7)。
 ただフィリップは、『アナと雪の女王』に登場するハンス王子とは違って(注8)、別に悪い人間として描かれてはいません。これからの修行次第で立派な人間になる可能性を秘めています。
 それに、元々の二人の出会いも随分と淡いものであり、とても「真実の愛」といえる段階に至ったものとまでは言えないように思われます(注9)。
 オーロラがそんな王子の口づけで目を覚まさないのも、ことさら「フェミニズム路線」を持ち出さずとも当然と思えるところです(注10)。

 もっと言えば、オーロラとフィリップとの関係と違って、マレフィセントとステファンとは、何度も会って話している内に強い恋愛関係に至ったように思われます。にもかかわらず、ステファンが裏切ったわけですから、マレフィセントは彼を金輪際許せなかったのではないでしょうか?
 としたら、ここには、男性を無視するといった「フェミニズム路線」と対極的をなすもの(十分に男性を意識していること)がうかがわれるのではないでしょうか?

 要すれば、「フェミニズム路線」というほどご大層な作品といえるかどうか疑問であり、かといってなにか新たなものを打ち出しているかといえばそうとも思えない作品なのではと思いました。

 なお、この話のはじめに、仲の悪い人間の国とムーア国があったとされていますが、それぞれは国の体をなしているでしょうか?
 特に、ムーア国においては、単に妖精とか怪物とかが自由に暮らしているだけのように見えます。 そこには国家の三要素の一つである「権力」(支配機構でしょうか)といったものが見当たりません(注11)。
 もう一方の人間の国にはヘンリー王(あるいは、その後継者のステファン王)が君臨しているようにみえるとはいえ、そして彼に従う臣下や兵士もいるとはいえ、肝心の「人民」をどこにも見かけないのですが(注12)。
 そんな両国の闘いといっても、垣根を隔てたお隣同士の単なるケンカ騒ぎにしか見えません。なにしろ国境などなきも同然であり、マレフィセントは、オーロラの洗礼式に堂々と入り込んでしまいますし、また3人の妖精もオーロラの養育をしに人間の国に入り込んでしまうくらいなのですから。
 それに、支配機構がはっきりしない国に攻め込んでも、どんな意味があるというのでしょうか?

(3)渡まち子氏は、「おとぎ話の悪役の視点で真実の愛を描く実写ファンタジー「マレフィセント」。アンジーの魅力で邪悪な妖精はいつしか慈愛の美女へ」として65点をつけています。
 前田有一氏は、「「眠れる森の美女」のアニメ版から続けてみることで、こどもたちに「善悪は見た目だけでは簡単にはわからない」といった高度な教育をできるなど、存在意義は大いにある」として60点をつけています。
 相木悟氏は、「奇抜な設定の割には、それほど驚きはない拍子抜けの娯楽作であった」と述べています。



(注1)「ムーア国」とは「the Moors」で、湿原の多い国ということでしょう(Wikipediaの「ムーア」の項を参照)。

(注2)マレフィセントは、その生命を助けたカラスのディアヴァルを使って、人間の国の様子を探らせます。
 なお、マレフィセントはカラスをいろいろに変身させますが、人間の姿になったときのディアヴァルを演じるのはサム・ライリー

(注3)幼少期は、アンジェリーナ・ジョリーの愛娘ヴィヴィアン・ジョリー=ピットが、少女期はエル・ファニングが演じます。



(注4)最近では、アンジェリーナ・ジョリーは『ツーリスト』、エル・ファニングは『幸せへのキセキ』、シャールト・コプリーは『エリジウム』で、それぞれ見ました。

(注5)元のアニメでは、マレフィセントはオーロラの居場所が16歳の直前まで全然わかりませんでしたが、本作では、カラスのディアヴァルの探査能力によってすぐに分かってしまい、最初はマレフィセントの方からオーロラに近づきます。

(注6)ただ、『眠れる森の美女』の場合、フィリップは親が決めた許婚者とされています。と言っても、オーロラが隠れた場所で養育されたために、フィリップは彼女が16歳直前になるまで会ったことがありませんでした。

(注7)凍ったアナを溶かすのは、男のクリストフの愛ではなく、姉のエルサの“真実の愛”なのですから!

(注8)むしろ、ハンス王子は、その野心家への変身ぶりから(何しろ、アナとエルサの王国を乗っ取ろうとするのですから!)、本作におけるフィリップというよりもステファン王に対応すると考えられるのではないでしょうか?

(注9)特に、本作のフィリップは、マレフィセントらに強いられてオーロラにキスをしたような感じも漂っているところです。

(注10)元のアニメでは、フィリップはマレフィセントを倒すという関門をくぐり抜けていますが、本作のフィリップは、オーロラの愛を勝ち取るためにいったい何をしたというのでしょう?

(注11)マレフィセントが大きくなると、強い力を持っているために皆が従うようになったようですが。
 なお、本作の製作段階では、Wikipediaの本作についての項の「キャスト」に掲載されている「ウラ女王」(同項の「製作」によれば、「マレフィセントの叔母であり、姪を嫌っている妖精の女王」だったそうです)と「キンロック王」とが「ムーア国」にいたようですが、公開された映画では削除されています(例えば、脚本のドラフトでは二人は存在していました:ステファンが「人間の王の息子で人間と妖精のハーフ」とされていたりするなど、元の脚本と公開された映画とでは違いがかなりあるようです←例えばこのような記事)。

(注12)ヘンリー王は、その支配機構を維持するための費用をどのようにまかなっているのでしょうか?



★★★☆☆☆



象のロケット:マレフィセント