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孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ミャンマー  国軍への抗議行動続く 蘇る「虐殺」の記憶 中国はどこまで国軍を支えるのか?

2021-02-18 22:59:41 | ミャンマー

(【2月17日 共同】最大都市ヤンゴン中心部の幹線道路では数千人が交差点を占拠 画像中央奥に見える仏塔はスーレーパゴダ)

 

【国軍は選挙を行うとは言っているものの、与党NLDを無力化した後か】

ミャンマーでの軍部クーデターによって拘束され自宅軟禁状態にあると思われるスー・チー氏は、当初拘留期限が今月15日とされていましたが、その後17日に延長、更に別件でも訴追と、解放される目途はたっていません。

 

国軍は、スー・チー氏個人だけでなく、スー・チー氏が率いる与党・国民民主連盟(NLD)への弾圧を強めています。

 

****スー・チー氏、別容疑でも訴追=NLDへの弾圧強まる―ミャンマー****

ミャンマーで国軍によるクーデターの発生後、訴追されたアウン・サン・スー・チー氏の弁護士は16日、スー・チー氏が別の容疑でも訴追されたことを明らかにした。

 

国軍はスー・チー氏が率いる国民民主連盟(NLD)の関係先の捜索や関係者の拘束を続けており、実施を約束している総選挙の前にNLDへの弾圧を強め、弱体化する狙いがあるとみられる。

 

スー・チー氏は無線機を違法に輸入して使用したとして輸出入法違反で訴追され、拘束されている。弁護士によると、これとは別に災害管理法違反でも訴追されたことが判明した。

 

NLD政権で大統領を務めたウィン・ミン氏も、選挙運動に参加して新型コロナウイルス対策の規定に抵触した疑いがあるとして、災害管理法違反で訴追されている。

 

国軍報道官は16日、クーデター後初めて記者会見し、国軍による実権掌握はNLDが国軍系政党に圧勝した昨年11月の総選挙で不正があったためで、憲法にのっとっていると正当性を主張。

 

「再選挙後に勝利した政党に権限を引き渡す」と強調した。自宅軟禁下に置かれているスー・チー氏とウィン・ミン氏については、健康状態は「良好だ」と語った。【2月16日 時事】 

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国軍は、クーデターではない、将来選挙を実施して勝利した政党に権限を移譲するとは言っていますが・・・

 

仮に(いつになるかはわかりませんが)選挙を普通に行えば、再びスー・チー氏のNLDが前回以上に圧勝するのは間違いないので、NLDを選挙から締め出す何らかの処置(例えば、解党命令など)を行ったうえでの形だけの選挙実施でしょう。

 

【市民によるあの手この手の抗議行動 弾圧を強める国軍】

こうした国軍のクーデターに対し、市民の抗議活動が連日続いています。

 

****ミャンマー、12日連続抗議デモ****

ミャンマーでクーデターを起こした国軍への大規模な抗議デモが17日も各地で続き、デモは12日目に突入した。

参加者は過去最大規模となり、一部地元メディアは全土で数百万人に上ったと報じた。

 

クーデター後に訴追されたアウン・サン・スー・チー氏の裁判が16日に開始されたほか、別件でも訴追されたこともあり市民の反発はさらに強まっている。

 

最大都市ヤンゴンでは午前中から10万人以上がデモに加わった。中心部の幹線道路では数千人が交差点を占拠。地元の歌手が、ステージから「軍政は受け入れられない」と鼓舞すると、大きな歓声と拍手が巻き起こった。【2月17日 共同】

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大規模抗議デモだけでなく、著名人の抗議の呼びかけ、僧侶のデモ、一部警官のデモ参加、車を故障とみせかけて車上に止めて軍の活動を妨害、タクシーのノロノロ運転、鉄道職員の運行妨害、医療従事者や公務員など幅広い職種の業務ボイコット等々、あの手この手で軍への抗議が示されています。

 

一方で、軍の方も、インターネットを遮断し、指導的立場の著名人の拘束や不服従運動公務員の逮捕など、抗議行動への締め付けを強めており、“最大都市ヤンゴンのデモでは、一時、参加した市民と治安部隊がにらみ合う場面もあり、緊張が続いている。”【2月18日 FNNプライムオンライン】とも。

 

****「ミャンマーの正義のため」軍事政権サイトにサイバー攻撃 公務員の逮捕相次ぐ****

クーデターでミャンマーの実権を掌握した軍事政権のウェブサイトが18日、サイバー攻撃を受けた。

 

当局が全国的な抗議デモを妨害しようと4夜連続でインターネット接続を遮断し、国軍部隊を各地に展開する中、クーデターに抗議するハッカーらがサイバー空間を舞台にした闘いを挑んでいる。

 

「ミャンマー・ハッカーズ」を名乗るグループは、国軍のプロパガンダ(政治宣伝)用サイトや、中央銀行、ミャンマー国営放送、港湾局、食品医薬品局などのウェブサイトを攻撃した。

 

「われわれはミャンマーの正義のために闘っている」とフェイスブック上で主張し、サイバー攻撃は「政府系ウェブサイトの前での大規模デモ」だとうたっている。

 

サイバーセキュリティーに詳しい豪ロイヤルメルボルン工科大学のマット・ウォーレン氏は、「(サイバー攻撃の)影響は限定的かもしれないが、目的は人々の関心を高めることだ」と述べた。

 

一方、世界のネット接続状況を監視する英団体ネットブロックスによると、ミャンマー国内のインターネットは18日午前1時(日本時間同3時半)から4夜連続で8時間にわたって遮断され、アクセスは通常の21%まで減少した。

 

■車の故障装い治安部隊を妨害、公務員の逮捕相次ぐ

ミャンマーでは、アウン・サン・スー・チー国家顧問率いる文民政権に対する国軍のクーデターに抗議するデモが全国各地で続いている。

 

最大都市ヤンゴンでは18日も、前日に引き続き、故障したと見せ掛けてボンネットを開けた状態の車両で道路を封鎖し、治安部隊の通行を妨げるデモが各所で展開された。

 

複数の情報筋によれば、国内第2の都市マンダレーでは17日夜〜18日未明、線路を封鎖していたデモ隊に治安部隊が発砲し、1人が負傷した。使用されたのが実弾かゴム弾かは不明という。

 

人権監視団体「ビルマ政治囚支援協会」は、市民的不服従運動に参加していた国鉄の運転士4人が拘束され、銃を突き付けられて北部ミッチーナまで列車を移動させられたとしている。

 

また、外務省当局者によると、同省職員11人が18日未明、市民的不服従運動に参加したとの理由で逮捕された。AFPの取材に匿名で応じた警察官は、この4日間に逮捕された公務員は少なくとも50人に上ると語った。

 

MRTVは、不服従運動を呼び掛けた複数の著名な俳優、映画監督、歌手が指名手配されたと伝えている。 【2月18日 AFP】

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【蘇る1988年の「虐殺」の記憶】

1988年の民主化運動の元学生リーダー、ミン・コー・ナイン氏も指名手配されているようです。

 

上記のように市民の抗議行動は続いていますが、軍事政権時代のミャンマー(ビルマ)では軍が抗議する市民を数千人規模で大量虐殺した痛ましい「歴史」があり、その責任は未だ問われていません。

 

****ビルマ:1988年の虐殺の真相と責任 明らかに****

弾圧から25年 いまだ不十分な責任追及と法の支配

 

(中略)1988年の抗議運動と弾圧は、ビルマにとって分岐点となった。1988年3月から9月まで、ビルマ全土で大規模な民主化デモが起き、陸軍や治安部隊の弾圧で数千人が死亡した。(中略)

 

1988年8月8日に、多数の学生や仏教僧、公務員、一般市民が参加した全国的なストライキが、ビルマ全土での同時デモにつながった。人々は民主主義への移行と、軍政支配の終結を求めていた。

 

抗議の規模に驚いた政府は、軍隊にデモ隊を物理的に弾圧するよう命じた。兵士は非暴力のデモ隊に発砲し、数百人の死傷者を出した。多数が逃げ惑うなかで、一部は火炎瓶、剣、毒矢、尖らせた自転車のスポークで反撃し、警官と当局者にも死者が出た。

 

8月10日、国軍部隊は、ラングーン(ヤンゴン)総合病院で、負傷した民間人の治療にあたる医者と看護婦に故意に発砲、殺害した。

 

8月12日、長年にわたり独裁体制を敷いたネウィン氏の辞職を受けて、大統領となったセインルイン氏は、就任から17日で辞職した。大半の部隊が街頭から撤収し、文民であるマウンマウン博士を大統領とする暫定政権が、8月19日に発足した。

 

8月26日、ラングーンのランドマークであるシュエダゴン・パゴダで、約100万人が抗議行動に集まった。1991年にノーベル平和賞を獲得することになる民主化指導者アウンサンスーチー氏も演説を行って軍事政権に反対し、権威主義体制の終結を訴えた。

 

8月から9月にかけて、抗議行動は連日続き、参加者は仏教僧や学生、コミュニティ・リーダーと共に、地域行政委員会を組織した。

 

9月18日に国軍はクーデターを行い、ソウマウン将軍を議長に、国家法秩序回復評議会(SLORC)が創設された。9月18日と19日、兵士は街頭に再登場し、非暴力のデモ隊に実弾射撃を行って、数千人を殺害した。このほか数千人の活動家が逮捕され、数千人が近隣諸国に逃れた。

 

運動の先頭に立った学生指導者などの活動家は、長期にわたり投獄され、刑務所では拷問などの人権侵害を受けた。政府職員で、弾圧時の人権侵害で責任を問われた者は一人もいない。(後略)【2013年8月6日 ヒューマン・ライツ・ウォッチ】

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こうした虐殺の「傷」が未だ癒えないなかでの今回のクーデターですので、市民らの反発も強い訳ですが、上記の虐殺の歴史が示すような「体質」を持つ軍が再び同様の惨劇を起こさないか・・・強く懸念されます。

 

欧米において国軍によるイスラム系少数民族ロヒンギャへのジェノサイド批判があるのも、国軍のこうした市民に銃を向けることをためらわない「体質」があってのことです。

 

【米バイデン政権は制裁措置】

政権発足直後で、その姿勢が試される形になっているアメリカ・バイデン大統領は、国軍幹部らに制裁を科す大統領令に署名して国軍批判を強めています。

 

****クーデター批判、ミャンマー制裁=軍幹部ら対象、同盟国と連携へ―バイデン米大統領****

バイデン米大統領は10日、ホワイトハウスで演説し、ミャンマーで起きたクーデターを批判し、指揮した国軍幹部らに制裁を科す大統領令に署名したと発表した。国軍幹部に対して、ミャンマー政府の在米資産10億ドル(約1040億円)へのアクセスを禁止することも明らかにした。

 

具体的な制裁対象者については週内に発表する予定。国軍幹部のほか、幹部の関連事業や近親者たちも対象になる。対ミャンマー輸出規制も強化する。

 

バイデン氏は、国軍に対して、アウン・サン・スー・チー氏らの即時解放や、権力の放棄を改めて要求。クーデターに対する抗議デモへの暴力行使は「容認できない」と強調した。

 

また、日本などを念頭にインド太平洋地域をはじめ世界の同盟国やパートナー国と緊密に連絡を取り合い、国際的な対応を調整していると指摘。国軍への対抗措置で同盟国と共同歩調を取りたい考えを示した。【2月11日 時事】 

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【中国はどこまで国軍を支えるのか?】

制裁だけでは、国軍の中国接近を加速させるだけなので、日本が橋渡し的な役割を演じて・・・といった類の指摘も多々ありますが、決定的に影響力を持つのは欧米でも、日本でもなく、中国の対応でしょう。

 

今回クーデターについて、中国が事前に聞かされ黙認した云々の指摘もありますが、当然ながら中国は否定しています。

 

****3週間前に軍司令官と会談…ミャンマー政変で囁かれる「中国黒幕説」****

(中略)国内外から「民主主義の否定だ」と非難を浴びる一方で、世界のメディアや識者の間で「中国黒幕説」が流れた。疑念を生んだ理由は、1月11、12日に中国の王毅外相がミャンマーを訪問していたからだ。王氏は政変の主役、フライン氏と会談し、ミャンマーを「兄弟」と持ち上げたとされる。

 

この訪問で両国は「中緬経済回廊構想の加速」に同意、中央部のマンダレーから西部のチャウピュー間の鉄道建設に向けた共同研究に着手することになった。チャウピューはベンガル湾に面した港湾で、ここから中国への原油パイプラインが敷設されている。次のステップとして鉄道で中国へのアクセスの良いマンダレーと結ぼうとし、最終的に中国・昆明へ延びる予定だ。

 

中国にどんなメリットがあるのか

昨年には習近平国家主席が中緬国交70周年を記念し19年ぶりに中国指導者として訪問し、ミャンマー重視は強まっていた。

 

ただ、スーチー政権は日本や欧米ともバランスを取りたい姿勢で、構想の進捗の遅さに中国は不満を持っていたとされる。

 

中国外交部のクーデターへの声明も微温的で、国連安保理での非難声明にも消極的だと伝えられたことも黒幕説をさらに勢いづけた。

 

中国が背後で国軍を操ったということはないだろうが、軍政の復活で各国が制裁を発動しミャンマー離れが進めば、奇貨とみて中国がさらなる浸透に乗り出す可能性は高い。

 

インド洋に面し、インドやタイ、中国と国境を接する「アジアのクロスロード」に位置するミャンマーに深く食い込めれば、エネルギー供給ルートの脆弱性をカバーでき、「一帯一路」の重要成果にもなる。そして「自由で開かれたインド太平洋」構想などによる日米豪印の対中包囲網に大きな穴があく。中国にとってはまさに一石三鳥となる。(後略)【2月18日 文春オンライン】

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ミャンマー国内では、国軍を支援するとされる中国への反発も広がっています。

 

****ミャンマー、反中デモ拡大 「国軍支援やめろ」****

国軍がクーデターで実権を握ったミャンマーで、中国に反発する抗議デモが相次いでいる。中国が「国軍を支援している」と主張するもので、最大都市ヤンゴンの中国大使館前には連日数百人が集結している。中国がクーデターへの積極的な批判を避けていることもあり、反中感情の高まりが続く可能性がある。

 

「クーデターを支える中国は受け入れられない」。中国大使館前で16日のデモに参加した女性(30)は、産経新聞通信員の取材に憤りの声を上げた。参加者は若者が中心で、大使館の防犯カメラの前に立ち、建物内に向けて抗議文を読み上げる様子も見られた。

 

国内では中国製品ボイコットの動きもあり、デモ隊は中国とミャンマーを結ぶ天然ガスパイプラインで働く地元職員に職務を放棄することも求めている。中国が1日のクーデター後、「インターネット検閲システムを国軍に提供するため、技術者を派遣した」という噂が広まるなど、中国への反発は根深い。

 

中国は1988年の民主化運動弾圧で国際的に孤立したミャンマー軍事政権に経済援助を続けた。ミャンマーの天然資源は魅力的で、インド洋へのアクセスを可能にする地政学的なメリットも大きかったためだ。「国軍を支えた存在」というイメージが強く残っていた上、中国がクーデターを「内政問題」として国軍批判を避けていることが怒りに火をつけた。(後略)【2月17日 産経】

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こうした事態に、中国からも一定に「火消」発言も。

 

****ミャンマーのクーデター「決して中国が望むものではない」、現地大使****

ミャンマーで起きた軍事クーデターとそれに続く混乱について、現地の中国大使が16日、「決して中国が望むものではない」と述べ、中国が関与したとするソーシャルメディア上のうわさを一蹴した。

 

(中略)中国の陳海駐ミャンマー大使は大使館の公式サイトに公開された談話の中で、「わが国は以前から選挙をめぐるミャンマーの内紛には気付いていたが、政変については事前に知らされていなかった」と述べた。

 

中国やロシアのようなミャンマー国軍の昔からの同盟国はこれまで、クーデターに対する国際的な反発に「内政干渉」だと反論していた。中国国営メディアは今回のクーデターとミャンマーの事実上の指導者であるアウン・サン・スー・チー氏の拘束についても「大規模な内閣改造」と表現し、クーデターというレッテルを貼らないよう婉曲表現を用いていた。

 

だが今回、陳氏は「ミャンマー現在起きている展開は、決して中国が望むものではない 」と述べた。さらに中国は、ミャンマーの全当事者が政治的・社会的安定を維持しながら、相違点について対処することを望んでいると付け加えた。(中略)

 

ソーシャルメディア上でうわさされているクーデターへの中国の関与について、陳氏は「ナンセンスでばかげている」と一蹴した。うわさの中には、ミャンマーの市街に中国兵が現れた、ミャンマーのファイアウォール構築を中国が支援しているといったものがある。 【2月17日 AFP】

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「中国黒幕説」云々は別にしても、今後国軍がより強硬な市民弾圧に出た場合、中国が国際批判の集まる国軍をどこまで支えるのかが、その後の推移を決定づけます。

 

中国にとって、ミャンマーの持つ地政学的メリットは大きいですが、国内外からの批判を浴びる国軍と連携する形で何らかの権益を獲得したとしても、軍政が永続する訳でもなく、長期的には中国にとっての大きな損失、信頼の失墜につながると思うのですが・・・・習近平主席がどのように考えるのか・・・

 

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イギリス  コロナワクチンに関しては、EUの規制を抜けたことでハイペースのワクチン接種を実現 

2021-02-17 22:53:06 | 欧州情勢

(【2月17日 NHK】)

 

【ブレグジットによる物流混乱 今のところは限定的か】

イギリスが経過措置を終了してEUからの実質的完全離脱してひと月半以上が経過しますが、当然に物流の混乱はあるものの、それほど大騒ぎになるほどでもないようで、あまり多くの報道はなされていません。(世の中はコロナ騒ぎ・ワクチン接種開始で、それどころではないという面もあるのでしょうが)

 

****英 EUとの新関係 始まって1か月 物流などに混乱も****

イギリスとEU=ヨーロッパ連合との間で自由貿易協定などに基づいた新たな関係が始まってから1か月となります。人やモノが自由に移動できた環境が一変したことで、物流などに混乱が起きています。(中略)

双方の貿易には、通関手続きが発生して中身や数量の申告が必要になるなど手間やコストがかかるようになりました。

企業の間ではEUへの輸出を見直す動きが出ていて、このうちイギリス南部にある化学製品を扱う会社は、ことしからEUの顧客向けの配送をイギリスからでなく、EU加盟国のポーランドの拠点からに切り替えました。

また、水産業では、手続きに時間がかかり魚介類を新鮮な状態で届けられなくなるとして、EUへの輸出を中断するケースも出ています。

イギリスでは変異した新型コロナウイルスの感染拡大で企業活動への制限が長引いているだけに、物流などの混乱が経済へのさらなる打撃になるとの懸念が出ています。(中略)

EU向けの輸出 見直した企業も

イギリスには、新たに生じた通関手続きで手間やコストがかかるなどとしてEU向けの輸出を見直した企業があります。

化粧品の原料となる化学製品をアジアやアメリカなどから仕入れて販売している会社は、去年までEUの顧客にはイギリス南部にある本社の倉庫からトラックで配送をしてきましたが、ことしからはEU加盟国のポーランドにある拠点から行うようになりました。

結果としてイギリスの本社で取り扱う化学製品は半減し、従業員を減らさざるをえませんでした。(中略)

 

EU側の企業もコスト増のおそれ

EU側の企業でも影響が出ています。

自動車産業が盛んなオーストリア南部のグラーツ近郊にある日本企業のグループ会社は、自動車部品の輸送に使われる段ボールを製造しています。使用する素材は、(中略)イギリスから輸入しています。

しかし、ことしから始まった通関手続きに時間がかかり、イギリスとEUとの境界付近でトラックが足止めされるなど、輸送に以前の倍以上の時間がかかると見込まれています。

このため、経費が20%以上増えるおそれがあるとみていて、アグロン・ガリムナ支社長は「われわれのプロジェクトや顧客を失ってしまうおそれもある。貿易協定が結ばれても、イギリスのEU離脱で今も影響を受けている」と話しています。

また、オーストリアの自動車産業などおよそ300の企業が加盟する業界団体のトップ、クリスタ・ゼンゲラー氏は「自動車産業にとって、イギリスは市場であるとともに製造拠点でもあるため、影響が大きい。EU内でイギリスは強固な地位にあったが、われわれにとってイギリスの影響力は将来、低下すると思う」と話しています。【1月31日 NHK】

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上記記事にあるように、影響はイギリス側だけでなく、EU側にも出ています。

 

****スーパーの棚が空に……ブレグジットでEUにイギリス製品が届かない現状****

欧州連合(EU)加盟国各地にあるイギリス製品スーパーが、ブレグジット(イギリスのEU離脱)の影響で苦境に立たされている。

 

フランスの「マークス・アンド・スペンサー(M&S)」、英領ジブラルタルの「モリソンズ」、そしてベルギーの英国スーパー「ストーンマナー」などには昨年12月以降、イギリスから来るはずの配達便が届いていない。

 

ブレグジット後の新たな通商ルールでは、各製品ごとに関税の書類を作成しなければならず、その業務が終わらないからだという。【2月10日 BBC】

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イギリスの国家的統一性への影響の指摘もあります。

 

****南北アイルランドに統合機運****

英国産の品不足は英領の北ア(北アイルランド)でも起きた。

 

北アはEU加盟国アイルランドとの国境開放を維持するため、完全離脱後も物品の規制などに関してはEU単一市場のルールを引き続き採用。海を隔てた英本土からの物品輸送は、EUへの輸出と似た通関手続きが必要になった。

 

北ア東部バリークレアで有機野菜を販売するパトリシア・ギルバートさんは「英本土から商品がほとんど届かない。今後は通関手続きがないアイルランドや他のEU加盟国に頼る」と話す。英メディアによると、北アでは英本土からの仕入れを見直す業者が相次ぐ。

 

北アのアイルランドからの分離を定めた条約の成立から今年で100年。紛争を経て1998年に結んだ和平合意で両地域の結び付きは強まっており、英ダラム大のイーファ・オドノヒュー教授(法理論)は「北アでは離脱問題が生じた5年ほど前から、アイルランドとの再統合の議論が再燃している。経済の一体化が進めば、統合機運はさらに高まる」と指摘する。【2月1日 東京】

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以前から分離独立を志向しているスコットランドも、これを機に分離独立運動が高まり、再び住民投票を求める動きもあるようです。

 

ただ、北アイルランドにしても、スコットランドにしても、直ちに大きな政治運動に発展する段階にはなく、「これから」の話のように思えます。

 

【英 長期的には太平洋に重心移す戦略】

短期的な混乱の大きい・小さいは別にして、イギリスとしてはこれまでの経済・国際関係に占めていたEUの比重を他にシフトして行かねば・・・という長期的問題意識はあります。

 

そこで注目されるのが、日本などが主導するTPPです。

 

****英、太平洋に重心移す EU離脱からTPPへ****

英国が環太平洋連携協定(TPP)への参加を正式に申請した。昨年1月末の欧州連合(EU)離脱から丸1年。英政府は欧州からインド太平洋へと経済・外交の重心を移す姿勢を明確にした。

 

「英国は太平洋のプレーヤーとなる用意ができている」。トラス国際貿易相は2月1日付のデーリー・テレグラフ紙への寄稿でこう強調した。ジョンソン政権にとっての悲願だったEU離脱を成し遂げ、昨年末には激変緩和の「移行期間」も終了。名実ともに自由を手にした後の一手がTPP参加申請だった。
 

英政府は布石も打ってきた。昨年末までに日本やカナダ、メキシコ、ベトナムなどTPP参加国と優先的に2国間貿易協定を締結。11カ国の閣僚級とオンライン会合を開くなど、TPP参加に意欲的な韓国などと比べても積極的な姿勢が際立っていた。
 

英国のインド太平洋重視は貿易だけではない。今年議長国を務める先進7カ国(G7)のサミットにはインドと韓国、オーストラリアの3カ国を招待。ジョンソン首相周辺は記者団に「民主的な価値観を共有するインド太平洋の重要な国として選んだ」と説明し、外交でもこの地域への関与を強めたい考えだ。
 

背景には、高い成長力の取り込みなどの経済的な事情に加え、ロシアや中国を封じ込める狙いがある。英米貿易協議が難航する中、米国がTPP復帰を優先するとの読みもある。そこには、EU離脱後に国際的存在感を高めたいという大国意識が見え隠れする。
 

しかし、英王立国際問題研究所(チャタムハウス)のロビン・ニブレット所長は「英国はミニチュアの大国として生まれ変わるのではなく、世界的課題を解決する仲介者となるべきだ」と指摘。日本や豪州との関係強化の必要性を訴えつつ、気候変動や景気回復などの課題で「英国が最も緊密に連携すべきはEUだ」とくぎを刺した。【2月2日 時事】

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【EUはワクチン供給の停滞で輸出規制も 英は順調な接種「前例のない成果だ」】

話を離脱に伴う混乱に戻すと、イギリス側が懸念したのがワクチン供給の問題。

 

ワクチン供給が予定どおり進まないEU側が輸出規制を持ち出し、イギリスが自国への供給が阻害される恐れがあるとして懸念されましたが、さすがにEUとしてもワクチン輸出を実際に規制すると、イギリスだけでなく(日本を含めた)地域外から猛烈な反発が起きますので、今のところはこれも大きな問題とはなっていないようです。

 

****EU、英米や日本など21カ国へのワクチン輸出要請全て承認****

 欧州連合(EU)欧州委員会はこれまで、英国と米国、中国、日本などへの新型コロナウイルスワクチン輸出について全ての要請を承認している。報道官が11日明らかにした。


報道官によると、1月30日から今月10日までの間でEUは21カ国に対する37件のワクチン輸出を許可した。それぞれの案件で域内のどの工場からどれだけの規模で出荷されたかは、機密保持を理由に公表していない。(中略)


EUはワクチン輸出を制限していると批判を浴びている中で、積極的に輸出を認める姿勢をアピールしているとみられる。【2月12日 ロイター】

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EUが輸出規制を持ち出した背景にはEU側のワクチン供給がうまくいっていない問題がありますが、反対にイギリスはイスラエルに次ぐハイペースでワクチン接種を進めています。

 

****英国、1500万人超に接種 コロナワクチン、人口の2割超****

英政府は14日、国内で人口の2割超に当たる1500万人超が新型コロナウイルス感染症のワクチンを少なくとも1回接種したと発表した。ジョンソン首相はツイッターに「驚くべき偉業」と投稿、医療従事者やワクチン製造工場の従業員など、接種を可能にした人々や接種を受けた国民に感謝を述べた。

 

死者数が欧州最多の英国は昨年12月、日米欧で初めてワクチンの接種を開始。感染した場合に重症化するリスクが高い70歳以上の全ての高齢者らに、1回目の接種を今月半ばまでに打診するとの目標を設定していた。今後は5月までに50歳以上、秋までに全成人への接種を目指す方針。【2月15日 共同】

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****英国のワクチン接種、9月までには全成人で完了の見通し*****

英国の新型コロナウイルスワクチン対策本部のトップは16日、スカイニュースとのインタビューで、複数の製薬会社からワクチンを調達しているため、8月か9月までには国内の全ての成人が2度のワクチン接種を終えることが可能だとの見方を示した。(後略)【2月17日 ロイター】

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このワクチン供給に関する限りは、(自国第一の立場で言えば)イギリスはEU離脱のメリットを最大限に活かしていると言えます。

もしEUに残存じていれば、EUの枠内で制約されますので、今のような接種状況はありませんでした。

 

(特定国が他の国々に先んじてワクチンを大量に確保するということが、全世界的に見て妥当な行為かどうか・・・という問題はあります。)

 

****ワクチン争奪戦、欧州明暗 新型コロナ****

日本に先駆けて新型コロナのワクチン接種が欧州全域で始まって2カ月近くが経った。順調に接種が進む英国に対して、欧州連合(EU)ではワクチン供給が遅れ、ロシア製に目を向ける加盟国も出始めた。

 

EUは域内で生産したワクチンの輸出許可制を導入しており、状況次第では日本にも影響が及びかねない。

 

 ■巨額投じ迅速に入手 英

「前例のない成果だ」

 

英国のジョンソン首相は15日、順調なワクチン接種の現状を誇り、関係者をねぎらった。英国では前日、目標日程を1日前倒しして、70歳以上の高齢者や医療従事者ら1500万人への接種を完了した。

 

準備は素早く綿密だった。昨年5月、首相肝いりの「ワクチン特命部隊」トップに元生化学者のベンチャーキャピタリストが就任。オックスフォード大とアストラゼネカの国産ワクチン開発に6550万ポンド(約96億円)を投資して優先供給の約束を取り付けた。

 

民間出身メンバーが有望なワクチン候補を洗い出し、個人的つながりも生かして個別交渉に持ち込んだ。米ファイザー製を含め計7種類を確保。

 

スピード重視で購入や製造などに120億ポンド(1兆7620億円)の巨額を投じ、3億6700万回分をおさえた。単純計算で人口の5倍以上に相当する。

 

EUの共同調達の枠組みには加わらなかったことも吉と出た。EU離脱後の移行期間中で参加は可能だったが、意思決定の遅れを警戒した。実際、EUが条件でもたつく間に先行した。

 

ワクチンとの関係ははっきりしないが、一時は1日6万人を超えた新規感染者は1万3千人程度に下がってきた。死者数も1月下旬のピークの約半分の600人程度になっている。

 

 ■遅れ、独自確保模索も EU

出遅れたのはEUだ。欧州委員会が加盟国を代表して確保したワクチンは、承認済みの3種だけで計約12億回分に上る。だが実際に接種が始まると、次々に供給の遅れが出た。

 

とりわけ英アストラゼネカの遅れが目立つ。3月までの供給量を900万回分増やして4千万回に増やす方針だとEU側に伝えたが、それでも、当初予定の3分の1にすぎない。フォンデアライエン欧州委員長は「(製薬会社と)ワクチン開発に力を注いできたが、大量生産の難しさを過小評価していた」と語る。

 

加盟国からは、ワクチン争奪競争に負けたのではとの批判も相次いだ。アストラゼネカが契約の順番などを理由に「英国優先」の姿勢を示したこともあり、EUは1月末、域内でつくられたワクチンの「輸出管理」に踏み切った。

 

契約通りの供給を確保するため、域外への輸出には数量を報告させて許可を出す仕組みだ。EUは「公平な配分のために、透明性を高める措置だ」と説明。

 

日本やカナダ向けの出荷も認められた。ただ、EU高官は、生産が遅れ、出荷可能なワクチンの大半がEU外に渡るような場合は、輸出を認めないという。

 

EUが独占する事態にはならないが、生産が滞れば必然的に輸出に回る量も減る見込みだ。状況次第では日本にも影響が及びかねない。

 

加盟国の中には、一刻も早いワクチンの供給を求める国内世論に押され、独自確保への動きもある。選択肢として注目されているのが、ロシア製ワクチン「スプートニクV」だ。

 

マクロン仏大統領は今月、「これは政治ではなくて科学的な決定だ」と断った上で、安全性が認められれば導入する考えを示した。マクロン氏は、昨年春にマスクや人工呼吸器が不足した反省から、ワクチンの自国での開発を柱に「衛生の主権を取り戻す」と訴えていた。だが、計画の遅れから、なりふり構わずワクチンをかき集める方策に転じた格好だ。

 

オーストリアもロシア製や中国製のワクチンが欧州で承認されれば、国内でも生産する意向を示す。クルツ首相はメディアに「誰がつくっているかはともかく、できるだけ早く安全なワクチンを手に入れることがすべてだ」と発言。ロシア製のワクチンも選択肢に含める考えを示した。

 

ドイツは、EUの調達の枠組みで達成可能だというが、ロシア製ワクチンがEUで承認されれば、ドイツ内での生産も可能だとの立場だ。メルケル首相は「大きな政治的違いがあるにもかかわらず、一緒に働くことができる」と述べた。

 

ハンガリーは、ロシア製と中国製のワクチンを独自に承認。ロシア製の接種をすでに始め、中国製も近く始めるという。(後略)【2月17日 朝日】

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【加速を狙うアメリカ 遅れが目立つ日本】

アメリカ・バイデン政権も、ワクチン接種を加速させる構えです。

 

****米、7月末までにワクチン普及 全国民に、バイデン大統領****

バイデン米大統領は16日、中西部ウィスコンシン州ミルウォーキーでCNNテレビが主催する対話集会に参加した。新型コロナウイルスへの対応について国民の質問に答えて「7月末までに全国民にワクチンを行き渡らせる」と説明し、最優先課題の新型コロナ対策を超党派で進める必要性をアピールした。

 

バイデン氏は集会で、接種の態勢充実や、学校の早期再開に向けた換気設備の増設を急ぐと強調した。ワクチンの普及が順調に進めば「次のクリスマスまでに、私たちを取り巻く状況は大きく変わるだろう」と述べ、事態が正常化に近づくとの見通しを示した。【2月17日 共同】

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先進国の中でEU以上に立ち遅れが目立つのが日本。今日から先行接種がようやく始まったのは周知のところ。

 

*****ワクチンなぜ遅れた? 首相「早くならないか何回と…」*****

(中略)長妻氏はワクチンの接種開始が欧米に比べてなぜ遅れたのか、首相の口から説明するように求めた。

 

首相は「私自身も早くならないか、何回となく厚労省や関係者と打ち合わせをした」と明かしたうえで、「我が国は欧米諸国と比較して感染者数が1桁以上少なく、治験の発症者数が集まらず、結果が出るまでかなりの時間を要する」「ワクチン(への反応)は人種差が想定される。欧米諸国の治験データのみで判断するのではなく、日本人を対象にした一定の治験を行う必要がある」と説明した。【2月17日 朝日】

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接種開始が遅れただけでなく、“政府関係者は「医療従事者までは日程のめどがついているが、その後は見通せない」”【2月17日 NHK】と、4月以降の高齢者接種などに必要なワクチンを確保できるのか不透明なこともまた周知のところです。

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トルコ・エルドアン政権  アメリカとの対立は続く 人権重視のバイデン新政権とは、より困難も

2021-02-16 23:07:23 | 中東情勢

(トルコ・イスタンブールのボアジチ大学の外で警官に拘束される女性(2021年2月1日撮影)【2月2日 AFP】)

 

【ロシア製ミサイル購入問題、ギュレン師の問題などで対立が続く米トルコ関係】

アメリカの同盟国としてのNATO加盟国であり、また、シリア、リビア、アルメニア・アゼルバイジャンなどの紛争地域における重要プレイヤーを演じることが多い地域大国トルコとアメリカの関係が制裁を課すほどにギクシャクしていることはトランプ前政権以来のことですが、バイデン新政権に変わってもその構図に大きな変化はなく、依然として緊張関係が続いています。

 

****バイデン米政権、露製兵器購入でトルコに懸念表明 強権体制を牽制****

サリバン米大統領補佐官(国家安全保障担当)は2日、トルコのカリン大統領報道官兼筆頭外交補佐官と電話で会談した。ロイター通信によると、両国の公式な接触はバイデン米政権発足以来初めて。

 

サリバン氏は北大西洋条約機構(NATO)加盟国のトルコがロシアから防空システムS400を購入した問題で、「同盟の結びつきと有効性を傷つける」と懸念を示した。

 

トルコは2019年にS400の購入を開始、NATOの防衛網に悪影響が出るとして欧米の加盟諸国から批判が相次いだ。トランプ前米政権は最新鋭ステルス戦闘機F35の共同開発計画からトルコを排除、昨年12月に制裁を科した。

 

一方、サリバン氏は海洋権益をめぐって対立するトルコとギリシャの間で和解の兆しが出てきたことについては、歓迎する意向を示した。

 

トルコは昨夏、東地中海のギリシャとの係争海域に資源探査船を派遣し、同国やフランスとの関係が悪化。その後、派遣を段階的に中断したことで対話ムードが生まれ、トルコとギリシャは先月25日、約5年ぶりに海洋境界に関する協議を行った。

 

また、サリバン氏は政権として民主主義や法に基づく統治を支持するとも述べた。トルコのエルドアン政権は16年のクーデター未遂事件の後で公務員らを大量拘束するなど、人権抑圧に批判の声が上がっている。サリバン氏の発言には間接的にトルコを牽制(けんせい)する意味合いもありそうだ。

 

ただ、米の政権交代を受けてエルドアン政権の強権的な姿勢が本格的に変わるかはまだ不透明だ。

 

エルドアン大統領は1月初め、最大都市イスタンブールの名門大学の学長に与党「公正発展党」(AKP)に近い学外の人物を任命。同大の教員や学生らが反発し、今月1日には抗議デモを行った学生ら約160人が拘束された。【2月4日 産経】

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****トルコ内相「16年のクーデター未遂の背後に米国」 米国務省は否定****

トルコのソイル内相は4日、2016年に同国で起きたクーデター未遂事件について、背後に米国が存在していたとの認識を示した。地元紙ヒュリエットが報じた。

米国務省は内相の発言について「全く誤りだ」との見解を表明した。

クーデター未遂は2016年7月15日に発生。トルコ軍の一部が政権転覆を狙い、軍用機や戦車を展開し、250人以上が死亡した。

エルドアン政権は在米イスラム指導者ギュレン師をクーデター未遂の黒幕と主張しているが、同師は関与を否定している。

ソイル内相は「7月15日の背後に米国の存在があったことは非常に明らかだ。(ギュレン師のネットワーク)FETOが彼らの指示を受けて実行した」と述べた。

米国務省は「米国は2016年のトルコのクーデター未遂に全く関与しておらず、直ちに非難する。トルコ政府高官は最近、反対の結論を下したが、全くの誤りだ」との声明を発表。

「トルコの事件は米国に責任があるという事実無根の無責任な主張は、北大西洋条約機構(NATO)同盟国、また米国の戦略的パートナーとしてのトルコの地位と矛盾する」と述べた。

トルコ政府は、米国のバイデン新政権発足を受けて、対米関係の改善を望む姿勢を示していた。ただバイデン大統領はトルコの人権問題に対し強硬な姿勢で臨むとみられている。【2月5日 ロイター】

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“ブリンケン米国務長官は15日、イラク北部の軍事作戦でトルコ軍人などの捕虜13人を殺害した少数派民族クルド人の武装組織「クルド労働者党(PKK)」を非難する姿勢を改めて示した。”【2月16日 ロイター「米国務長官、PKK非難の姿勢明示 トルコ人殺害で」】という記事も、一見するとアメリカとトルコの足並みがそろったようにも見えますが、実際は背後にある不協和音の方が問題のようです。

 

****対クルドで緊張くすぶる トルコ、米国の声明に反発****

トルコが国内少数派クルド人の武装組織によるトルコ人殺害を発表したことに関し、米国が事実関係を疑問視するかのような声明を出した。

 

背景には、トルコの強硬な対クルド人政策への米国の不信感があるとみられ、トルコ外務省は15日、駐トルコ米大使を呼び出し、強く抗議した。直後の外相電話会談で双方はひとまず協調姿勢を確認したが、緊張はくすぶり続けそうだ。
 

トルコは14日、反政府組織・クルド労働者党(PKK)が潜伏先のイラク北部で「トルコ人13人を処刑した」と発表。アナトリア通信によると、治安当局はこれを受け、国内でクルド系野党・国民民主主義党(HDP)の関係者を含む700人以上の身柄を拘束した。
 

一方、米国務省は声明で、殺害発表について「PKKの手によるトルコ市民の死が確認されれば、可能な限り最も強い表現で非難する」と述べた。トルコのエルドアン大統領は、この条件付きの非難声明について「米国はPKKの味方をしている」と強く反発した。
 

チャブシオール外相はその後、ブリンケン米国務長官とバイデン政権発足後初の電話会談を行い、声明に対する不満を伝えた。ただ、相互の立場尊重に基づく対話継続でも合意し、両国間のさまざまな懸案事項について意見交換したという。
 

北大西洋条約機構(NATO)を通じた同盟関係にある米トルコ両国は近年、トルコがロシア製地対空ミサイルシステム「S400」を導入した問題などで確執を深めている。これまでトランプ前米大統領とエルドアン氏の個人的に良好な関係により一定以上の緊張は回避できていたが、米政権交代で関係悪化が進む恐れもある。【2月16日 時事】

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上記のトルコ側の強い不満を背景に、外相会談におけるブリンケン米国務長官の“PKKを非難する姿勢を改めて示した”ということがあるわけですが、米トルコ外相会談は数週間前から予想されていたことであり、米国務省報道官は駐トルコ米国大使の召喚を受けて電話会談が開催されたかどうかには言及しなかったとのこと。【2月16日 ロイターより】

 

【強権支配・イスラム主義を強めるエルドアン政権への米側の不信感】

両国関係がギクシャクする背景には、強権支配・イスラム主義の傾向を強めるエルドアン大統領へのアメリカ側の不信感があります。

 

エルドアン政権の強権体質的な側面は、下記事例にも現れており、アメリカ側の不信感を招いています。

 

****名門大学の学長人事に介入 トルコ大統領 抗議学生ら拘束、米政府も批判****

トルコの最大都市イスタンブールにある名門大学の学長人事をめぐり、エルドアン大統領が与党に近い学外の人物を任命して教員や学生が反発、対立が深刻化している。

 

1日に起きた抗議デモでは学生ら約160人が警察当局に拘束され、米政権や国連から批判が出た。トルコ外務省は「内政問題」だとして干渉を拒否し、対立は国際問題に発展しつつある。

 

問題となっているのは、国内トップクラスの国立大であるボアジチ大学。ロイター通信などによると、エルドアン氏は1月初め、かつて与党「公正発展党」(AKP)から国会議員選に出馬した人物を学長に任命するとの大統領令を出した。

 

同大の教員や学生は「非民主的」な人事だとして撤回を要求、抗議デモを繰り返してきた。大学側によると過去30年以上、学外から学長が選ばれたケースはないという。

 

一方、エルドアン氏は3日、デモに参加している学生らは国民に必要な価値観を持たない「テロリスト」だと批判した。在トルコの記者によると、学長は学内の選挙で選ばれてきたが、現在は多くの大学でエルドアン氏が直接任命している。

 

最大野党、共和人民党(CHP)の党首が「醜い事態」を収拾すべきだとして学長に辞任を求めるなど、与野党間の政治問題にもなっている。

 

米国務省のプライス報道官は3日、デモを行う権利は「民主主義の自由の基盤」だとして学生らを支持した。国連も行き過ぎた力の行使をやめるべきだと政権に自制を求めた。

 

エルドアン氏は2016年のクーデター未遂事件発生を受け、公務員やジャーナリストらを大量拘束するなど強権統治を進めており、欧米から批判を受けている。【2月5日 産経】

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日本では菅首相の日本学術会議任命拒否問題がありましたが、どうなったのでしょうか・・・

 

それはともかく、“抗議デモでは学生ら約160人が警察当局に拘束”ということには、性的マイノリティLGBTの問題も絡んでおり、エルドアン政権のイスラム主義的体質を示しています。

 

****トルコ大統領、LGBTの若者を非難 学生集会で約160人逮捕****

トルコの学生による抗議集会で、イスラム教の聖地とLGBT(性的少数者)を象徴する虹色の旗「レインボーフラッグ」を並べて描いた絵が掲げられたことを受け、レジェプ・タイップ・エルドアン大統領は1日、トルコのLGBT運動は「破壊行為」だと非難した。

 

先週末、イスタンブールにあるボアジチ大学で行われた学生集会では、イスラム教の聖地とレインボーフラッグを一緒に描いたとして4人が逮捕された。

 

1日、これを非難するエルドアン大統領の演説が放送されて間もなく、同大学では再び抗議集会が行われた。ソーシャルメディアに投稿された映像によると、警察は平和的に抗議していた学生らを引きずって連行した。現場にいたAFPの記者らも、何人かの学生が警察に引きずられる様子を目撃している。イスタンブール県知事によると、159人の逮捕が確認されている。

 

エルドアン氏は、「わが国の若者たちを、LGBTの若者としてではなく、わが国の輝かしい過去に生きた若者のように未来へと導いていく」と、与党・公正発展党の党員へ向けた動画メッセージで発言。さらに「あなたたちはLGBTの若者でも、破壊行為をする若者でもない。それどころか、あなたたちは傷ついた心を修復する人たちだ」と述べた。

 

人権団体らはエルドアン氏が18年に及ぶ在任期間を通じ、大半の国民がイスラム教徒であるものの公式には世俗国家であるトルコの社会を、保守的な方向へ導いていると非難している。

 

トルコでは先月、エルドアン氏が自らに忠実な人物をボアジチ大学の学長に任命したことがきっかけで、学生による抗議行動が相次いでいた。 【2月2日 AFP】

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エルドアン政権のもとでは、性的マイノリティLGBTがテロリスト扱いされる一方で、女性に対する暴力は「男らしさ」という価値観から容認されやすい傾向もあります。

 

****脅かされる、トルコの女性 夫らの暴力、年間500人が命絶たれる****

男女間の格差が今も根強く残るトルコで、女性の人権が脅かされている。夫や交際相手らによる暴力がやまず、最近では1年間に500人近い女性が命を絶たれている。何が起きているのか。

 

 ■母の死、理解できぬ3歳の子

「私たちが今も生きていられるのは、この子の存在があるからなんです」

 最大都市イスタンブールにあるアパートの一室。犬のぬいぐるみが置かれた子ども部屋で、アフメット・ペリットさん(61)がつぶやいた。傍らには孫の3歳の男の子。その母で、そしてアフメットさんの娘のトゥーチェさんは2020年1月、27歳の若さで亡くなった。夫に殺されたのだ。(中略)

 

 ■「男らしさ」守る社会背景に

女性の権利擁護団体「We Will Stop Femicides Platform」の推計によると、トルコで家庭内暴力や交際のもつれなどにより男性によって殺された女性は11年に121人だったのが、18年には440人に、19年は474人に増えた。女性の社会進出が進むにつれ、男性とぶつかることが多くなったことなどが原因との見方がある。

 

夫や交際相手などが加害者であることが多く、離婚協議中に事件が起こることもしばしばだ。同団体のヌルシェン・イナルさん(58)は「トルコでは就職面接を受ける女性が『結婚するの?』『子どもは産むの?』などと平然と問われることもある。男女平等など存在しない」と訴える。

 

トルコは政教分離に基づく世俗主義が国是で、他の中東諸国より女性の社会進出が進んでいるとされてきた。だが世界経済フォーラムの男女格差(ジェンダーギャップ)ランキングでみると、153カ国中130位(日本は121位)に位置する。

 

バフチェシェヒル大のニルフェル・ナルル教授(社会学)は、背景の一つに男性が女性よりも強く優位に立つ「男らしさ」を守ろうとする社会構造があると指摘する。

 

社会での女性の活躍についても、男性によっては「優位」が脅かされると捉え、離婚などの重要な問題で女性が主導的になろうとすると、暴力に転じることがあるとみる。また、イスラム教保守層の影響を指摘する声もある。

 

ナルル教授は、幼いころから「男女は平等だ」という意識を持たせることが重要だとし、「日本のように家庭科の調理実習でともに料理を作って、同じ立場で生きていることを実感させるような体験も有効だ」と話す。

 

 ■暴力防止条約、脱退の動き 残留派は反対デモ

イスタンブールでは2011年、女性に対する暴力や性差別の防止を目指す欧州評議会の条約が署名された。「イスタンブール条約」とも呼ばれ、トルコは最初に批准した。ところが今、保守層からの反発や、条約脱退を検討する動きも出ている。

 

地元メディアなどによると、政権与党の幹部や保守層には「条約に署名したのは間違いだった」「離婚や不道徳な生活スタイルを助長する」という意見がある。昨夏には、エルドアン大統領が条約批准の見直しに言及したと伝えられた。

 

これに対し、イスタンブールや西部イズミルではデモが行われ、参加者は「条約は命を救う!」などと叫んだ。国際人権団体は、「条約からの脱退は何百万もの女性や少女に悲惨な結果をもたらす恐れがある」と警鐘を鳴らす。

 

被害女性の支援をするトゥバ・トルン弁護士(33)は、「脱退が現実になればトルコのイメージにも大きな傷がつく。何より、女性への暴力が許されるのだという間違ったメッセージを与えかねない」と訴える。【1月20日 朝日】

*******************

 

当然ながら、こうしたエルドアン政権の強権的あるいはイスラム主義的体質というのは、一人エルドアン大統領の問題ではなく、それを国民の過半が容認しているというところに根ざす問題でもあります。

 

イスタンブールなど都市部ではエルドアン大統領への批判は強いものの、地方では大統領に対する根強い支持があります。

 

性的マイノリティや女性の権利を重視する立場をとるバイデン新政権としては、こうした強権的あるいはイスラム主義的傾向を強めるエルドアン政権・地域大国トルコとどのように向き合うのか・・・トランプ前政権以上に難しい問題です。

 

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エチオピア  中央集権目指すアビー首相 今も続く混乱 多くの難民・避難民で人道危機

2021-02-15 22:22:52 | アフリカ

(自作の簡易テントで暮らす難民たち=2020年12月24日、スーダン東部ハムダエット【2月5日 朝日】)

 

【今も続くティグレ州の混乱 多くの性暴力も】

アフリカ東部・エチオピアにおける軍事衝突は昨年11月4日、ティグレ州を率いる(アビー首相が登場するまで国家権力を握っていた)政党ティグレ人民解放戦線(TPLF)が政府軍施設を襲撃したとして、(ノーベル平和賞受賞者でもある)アビー首相が「反撃」を命じて始まりました。

 

政府軍はTPLFを圧倒し、同28日には州都メケレを制圧。ただ、TPLFの指導者らは逃走中で、州内では小規模な戦闘が続いているようです。

 

こうした混乱のなかで、暴力・性暴力が絶えないようです。

 

****エチオピアで「憂慮すべき」性暴力の報告 国連****

紛争が続くエチオピア北部ティグレ州で、性的暴力・虐待に関する「憂慮すべき」報告を受けていると、国連の紛争下の性的暴力担当国連事務総長特別代表プラミラ・パッテン氏が21日、明らかにした。自身の家族をレイプするよう強要された例もあるという。

 

パッテン氏は発表で、ティグレ州の州都メケレでは「多数のレイプ事件」が発生するなど、州内で深刻な被害報告があると指摘。

 

「暴力を振るうと脅され、自分の家族をレイプするよう強要された人が複数いるとの憂慮すべき報告もある」とし、「一部の女性は生活必需品と引き換えに、軍の兵士に性交を強要されているとも報告を受けている」と述べた。(中略)

 

パッテン氏は、避難民キャンプや新しく到着した人々が性暴力の事例を報告したとされる難民キャンプを含むティグレ州全土へ、人道機関がアクセスできるよう求めている。

 

パッテン氏は、「シレとその周辺には5000人以上のエリトリア難民が悲惨な状態で暮らしており、その多くは野原に水も食料もなく寝泊まりしているとの報告がある他、隣国スーダンに逃れた5万9000以上のエチオピア人もいる」と指摘し、懸念を示した。

 

ティグレ州政府にコメントを求めたが、回答は得られていない。 【1月22日 AFP】

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上記記事では暴力・性暴力を行っている“軍の兵士”がTPLF側なのか、政府軍側なのか、明示していませんが、多くの紛争・混乱地域では、反政府勢力・政府軍双方にそうした非人道的行為が見られるます。

 

現在はティグレ州は政府軍が支配しており、この地域の住民ティグレ族が反政府勢力の主体であったことを考えると、政府軍兵士による報復的な暴力行為が蔓延しているのかも・・・とは想像されます。

 

なお、エチオピアでは北部ティグレ州以外の西部でも混乱が報じられています。

 

****エチオピアで住民80人殺害 西部、昨年から襲撃続発****

エチオピア人権委員会は13日、西部ベニシャングル・グムズ州のスーダンとの国境付近で12日、住民が襲撃を受け80人超が殺害されたと明らかにした。ロイター通信が報じた。

 

同州では昨年9〜12月にも住民を狙った襲撃事件が発生し、計300人を超す犠牲者が確認されている。

 

今回の襲撃の背景は不明だが、同州では近年、土地の帰属を巡り住民間の対立が激化している。地元の男性はロイターに対して、襲撃犯は武装した100人以上の男らだったと証言。一部の人物は制服を着ていたものの、所属は特定できなかったと説明した。【1月14日 共同】

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多くのアフリカ諸国同様に、エチオピアもこうした住民間・部族間の暴力行為が絶えない現状というのが存在し、その上に今回のティグレ族をめぐる衝突が発生した形となっていますので、そこで多くの暴力・性暴力が発生することは容易に想像できます。

 

【アビー首相 特定民族が国家の実権を独占するような体制から脱却し、中央集権国家を目指す】

今回のティグレ人民解放戦線(TPLF)と政府軍の衝突は、従来の特定民族が国家の実権を独占するような体制からの脱却を目指すアビー首相に、TPLF側が実権及びそれに伴う各種権益を奪われたと反発したという構図に見えます。

 

下記記事の「中央集権化の野望」というのは、そうしたアビー首相の改革を指すものですが、「野望」という表現はやや似つかわしくないように思えます。

 

アビー首相・政府側にも問題は多々あるとは思いますが、基本的には特定民族が国家の実権を独占するような体制からの脱却を目指す改革でしょう。

 

****人道危機続くエチオピア 背景に中央集権化の野望****

(中略)TPLF側は、元もと山間部に撤収しゲリラ戦を展開する方針であったようである。政府は、現状は内戦では無く警察行為を行っているだけだというが、国連機関やNGOの現場へのアクセスを依然として遮断しているのは戦闘が継続しているからに他ならない。

 

政府軍の目的は、山間部に逃れたTPLF指導者をすべて捕え或いは殺害することのようで、1月14日には旧政権時代に活躍し国際的にも知られたセイヨム元外相が殺害された。最高指導者その他の多くの幹部は未だ山間部に潜伏しており、このような封鎖は更に続く可能性がある。

 

深刻な問題は、大量の難民が発生し、政府軍等により民間人の集団殺害や人権侵害行為が行われており、食糧供給を絶たれて深刻な飢餓が発生する人道危機状態になりつつあることである。

 

1月27日に米国国務省報道官が、同地域でエリトリア兵士がティグレ州にいるエリトリア難民を自国に強制的に送還しようとしているとして直ちに撤退することを求めた、と報じられている。

 

この背景には、エリトリアとの和平を達成したアビィ首相とイサイアス・エリトリア大統領の間で更なる両国の提携関係を深める協議が進んでいることがあり、ティグレ州でのTPLF掃討作戦での協力もその一環であろう。

 

今般のアビィ首相とTPLFの政治的対立の背景は、アビィが民族単位の州による連邦制で長年権力を牛耳ってきた少数民族のティグレ人を国政から徹底的に排除し、主要民族政党の連立体制を民族単位ではない「繁栄党」という大勢翼賛的な政党による権力支配による中央集権的な国家を構築しようとしていることがある。

 

しかし、アビィ自身の出身である最大民族のオロモ族の中から、そのような路線に異論が出て民族派が反政府運動を開始し、昨年夏には反政府の国民的人気歌手が暗殺されるといった混乱の中で有力なオロモ人反政府指導者を逮捕するといった事態も生じていた。

 

アビィは、昨年実施予定であった総選挙を今年6月に行う予定である。中央集権派であり伝統的支配民族であったアムハラ族等の支持を得て再選を期しているが、既にTPLFは政党として認められずティグレ州では事態が収束するまで選挙の延期が決定されており、公正な選挙が行われるか否か疑問である。

 

仮に選挙をめぐり混乱が生じたり、アビィが首相の再任に失敗すればエチオピアは再び民族単位の連合国家に戻り、場合によっては民族単位の分断が更に進んで行く恐れもあろう。

 

エチオピアは米国のアフリカ政策の要でもあるが、人権重視のバイデン政権にとっては、ティグレ州の状況は見過ごせず、対エチオアピア経済支援も停止されることになれば、経済面で困難を抱えるアビィ政権は更に追い詰められることになる。

 

ティグレ族にとり、かつてメンギスツ政権を打倒した時の同盟関係にあったエリトリアは今や敵であり孤立している状態であるが、国内他地域で中央集権化に反対する民族主義的運動や部族間の衝突が活発化している傾向もあり、予断は許さない。

 

いずれにしても、国際社会としてはティグレの人道危機に対してはアビィ政権の行き過ぎを糺し、封鎖を解除して人道的援助を実施するための政治的圧力を強める必要があろう。【2月15日 WEDGE】

******************

 

【人道危機の現状 多くの難民・避難民発生、滞る支援事業】

人道危機の端的に示すのが、国内外の大量の難民・避難民の発生、その支援事業の停滞です。

今回衝突によるエチオピア人難民・避難民の発生に加え、これまでのエチオピアとエリトリアの紛争に伴う隣国エリトリアからの難民も多く存在することが、問題を更に難しくしています。

 

****難民、スーダンへ6万人超 エチオピア衝突3カ月****

アフリカ東部エチオピアで軍事衝突が始まってから4日で3カ月が経った。北部ティグレ州で支援を必要とする200万人超への人道支援は始まったものの、今も十分に行き届いていない。

 

国連難民高等弁務官事務所などによると、同州では以前から約95万人が支援を必要としていたが、軍事衝突でさらに約130万人も支援が必要になったと見積もる。州内の主要な四つのキャンプなどには隣国エリトリアからの難民約9万6千人が暮らす。

 

うち二つのキャンプには昨年12月、国連世界食糧計画WFP)などが1カ月分の食料を届けたが、計約3万4千人を収容する残り二つのキャンプにはこれまで支援物資を届けられていない。

 

国連は12月上旬、人道支援関係者が政府軍の支配地域で自由に活動できるようエチオピア政府と合意したと発表。しかし、政府による入域許可は滞りがちで、少なくとも74人が待機しているという。

 

国連難民高等弁務官のフィリッポ・グランディ氏は支援が届かないキャンプの現状について「殺害や拉致、エリトリアへの強制帰還など、目撃者の証言や信頼できる報告が届き続けている」と訴えた。(ヨハネスブルク=遠藤雄司)

 

 ■「虐殺逃れ川渡る」「誰か助けて」

昨年11月に始まったエチオピア北部ティグレ州での軍事衝突は、6万人を超える住民を隣国スーダンへと押しやった。戦闘や武装勢力の襲撃から逃れた人々が命がけでたどり着いたスーダンの国境の町ハムダエットと難民キャンプを訪ねた。

     *

昨年12月24日、幅数十メートル、深さ約1メートルのテケゼ川は勢いよく流れていた。対岸は11月に軍事衝突が始まったエチオピアのティグレ州だ。

 

国境警備にあたるスーダン兵は「多い時は1日約3千人がボートや徒歩でこの場所を渡ってきた。いまは北側の(隣国)エリトリアを経由してスーダンに入ってきている」と話す。(中略)

 

ハムダエットに到着した人々は難民としての登録を済ませると、約130キロ南西にある難民キャンプなどに移送される。

 

ハムダエットは中継地点に過ぎず、難民らは壁に固定しただけの日よけの布の下や、自作のテントで寝泊まりしている。片道数時間かかる移送やキャンプ側の受け入れ態勢などの都合もあり、約2万3千人の難民がハムダエットに足止めされている。

 

だが、自らの意思で国境に面したこの地にとどまっている難民も多い。テウォルデさんも「争いが落ち着いて平和が戻れば、今すぐにでも妻子のもとに戻りたい」と話す。エチオピアで経営していたホテルの名前は、アッサラーム。妻の名前で、「平和」を意味する。

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 <感染恐れ野宿も> 

スーダン政府や国連などが設置した難民キャンプに移っても、苦しい生活が続く。同国東部ガダーレフ州の難民キャンプ、ウム・ラクバには約2万人が身を寄せていた。

 

12月22日、未舗装の道を車で進むと、白いテントが並ぶ難民キャンプが現れた。テントは国連難民高等弁務官事務所UNHCR)が提供しているが設営が追いつかず、難民が木とわらで自作した粗末な小屋もひしめいていた。

 

UNHCRによると、給水は日に数度、1人あたり1日15リットル分を確保。世界食糧計画(WFP)が穀物を配給するなど、支援は部分的に整いつつあった。難民たちによる露店も並び、ジュースや菓子、タマネギ、小麦粉などを並べる店やコーヒーを出す難民も多い。

 

UNHCRでこのキャンプのチームリーダーを務めるアンドレ・セリック氏は「難民には一時的に大型テントで生活してもらい、その後、家族やグループごとに個別のテントに入ってもらう」と説明。この日までに設営された個別テントは約2100張りだという。

 

キャンプの目抜き通りから100メートルほど離れた丘のふもと。地面にマットを敷き、高校生のロベルさん(16)らが腰掛けていた。屋根も壁もなく寝るときはわらの束に身を寄せてわずかに風をしのぐ。大型テントは難民が密集しており、新型コロナウイルスなどの感染を恐れて野宿を決めた。

 

ロベルさんが暮らしていたティグレ州西部の町バーカルでは11月29日、友人が政府軍とみられる兵士に銃で撃ち殺された。次は自分だと不安になったロベルさんは両親の反対を押し切り、夜間に自宅を抜け出し、国境を越えた。

 

家族を置いて逃げたことで、自己嫌悪感にさいなまれる。「怖いけど、早く戻って家族に会いたい。その前にどこでもいい。ゆっくり眠れる場所がほしい」

 

難民キャンプでは、新型コロナ感染対策が喫緊の課題だ。UNHCRがマスクを支給したこともあるが、マスクを着けている難民はわずかだった。食料や水の配給所では、難民たちが互いに密着しながら列を作っていた。

     *

 <民族間対立警戒> 

民族間の対立にも細心の注意が必要だ。スーダンへ逃れた難民のほとんどはティグレ人だが、アムハラ人も含まれる。だが、ティグレ州での衝突の際、政府軍側にアムハラ系の民兵が参加していたことで、ティグレ人の間でアムハラ人への反発が強まっていた。

 

キャンプを管轄する地元政府幹部は「万が一のトラブルが起きないよう、アムハラ人約320人は警察の保護のもと別の場所で暮らしてもらっている」と明かした。

 

エチオピアのアビー政権は11月、主要な戦闘が終わり、難民たちが戻れるよう復興を急ぐと主張。だが年末になっても連日数百人がスーダンへと越境した。

 

UNHCRのセダ・クズク東スーダン上級緊急調整官は「難民は3月ごろまでに約10万人に上ると予測しており、1億4700万ドルの資金援助を呼びかけてきた」。資金は年末時点で3割程度しか集まっておらず、「支援を続けるためには国際社会の団結が必要だ」と訴える。【2月5日 朝日】

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【中国のアフリカ戦略の拠点国】

まあ、時期が悪かったという不幸もあります。世界は今、新型コロナ禍にあって、各国は自国のことで手一杯という現状もあります。

 

そうした国際支援の立ち遅れのなかで、出てくるのがやはり中国。

 

****中国、エチオピアに200万ドル食糧支援****

在エチオピア中国大使館は10日、中国政府を代表し、国連世界食糧計画(WFP)エチオピア事務所に200万ドル(1ドル=約105円)を寄付した。武力衝突や干ばつなどの影響で食糧不足に陥っている同国ソマリ州の人々を支援する。【2月15日 AFP】

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アフリカ諸国との関係が深い中国にとってエチオピアは、そのアフリカ戦略の拠点となる重要国です。

下記記事も、そうした中国による支援事業のひとつ。

 

****中国支援のアフリカCDC本部 エチオピアで着工***

エチオピアの首都アディスアベバで14日、中国が支援するアフリカ疾病予防管理センター(CDC)本部の建設工事が始まった。起工式には両国の関係者が出席した。センターの敷地面積は9万平方メートルで、近代的なオフィスビルや最先端の研究施設も設置される。

 

本部はアフリカ諸国の公衆衛生分野における同センターの調整、招集、緊急管理の機能を強化する役割を持つ。建設事業は25カ月以内の完了を予定している。【2020年12月18日 AFP】

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昨年12月というのは、ティグレ州での紛争の真っただ中の時期ですが、中国との強い関係は、ティグレ族による前政権時代も、今のアビー政権時代も変わらないようです。

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最大の新型コロナ被害国のアメリカでも感染者は急減 死亡者の4割は「トランプのせい」との報告も

2021-02-14 23:16:47 | アメリカ

(新規感染者の推移 「COVID-19 Global tracker」【ロイター】より作成)

 

【各国で感染者急減の共通傾向】

日本では新型コロナ感染者数は年始のピークから急速に減少しています。

緊急事態宣言がでたから即日に下がるはずはないので、減少は他の要因で始まったものでしょう。 

 

世界各国の新型コロナ感染者数のグラフを見ると、日本を含めて多くの国が年末前後に大きなピークがあり、その後ここ1~2か月、急激に減少し続けるという似たようなパターンを示しています。

 

*****世界のコロナ新規感染者数、この1か月でほぼ半減 AFP統計****

新型コロナウイルスの世界中の新規感染者数は、この1か月で半分近くに減少した。統計はAFPの専用データベースに基づく。

 

AFPの統計によれば、世界中の新規感染者数は過去1か月で44.5%減少した。これは新型ウイルスの感染拡大が始まって以来最大の下落で、減少期間も最も長い。

 

今年1月5日から11日にかけては、1日当たりに確認された新規感染者数が74万3000人だったのに対し、先週も減少傾向がみられ、1日当たりの新規感染者数は平均で41万2700人だった。これは昨年10月以来、最も低い水準にある。

 

今週、新規感染者数が最も大きく減少したのは、54%減のポルトガルと39%減のイスラエルで、どちらもロックダウン(都市封鎖)下にあった。

 

一方、感染が拡大している国もあり、感染拡大のスピードが最も速いイラクでは新規感染者数が81%増加し、続いて近隣のヨルダンで34%、ギリシャで29%、エクアドルで21%、そしてハンガリーで16%の増加が確認されている。

 

スイス・ジュネーブ大学のグローバルヘルス研究所所長で、疫学者のアントワーヌ・フラオー氏はAFPに対し、「世界各国の感染拡大は、おおむね減退傾向にある」との見方を示した。

 

一方で同氏は、昨夏の欧州諸国のロックダウン解除が早過ぎた結果について触れ、各国政府が「過去の過ち」を繰り返した場合、再び感染が拡大する危険性があると指摘した。 【2月13日 AFP】

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各国政府・国民の対応は様々で、そうした国々が同じような増加・減少傾向を示すということは、世界同時パンデミックですから当然と言えば当然ですが、パンデミックの拡大・減少には各国対応を超えた自律的要因も強く影響しているのかも。

 

【アメリカの「大波」は「トランプのせい」】

そうは言いつつも、各国政府・国民の対応で「波」は大きくも、小さくもなります。

最大の「大波」をかぶっているのがアメリカ。

 

そのアメリカも、日本と非常に似たパターンで、年始をピークにしてその後は急減しています。

 

****1日あたりの新規感染者が10万人割る、過去100日で初 米****

 米ジョンズ・ホプキンス大学は13日、新型コロナウイルスの1日当たりの新規感染者数が平均で10万人以下で推移していると報告した。過去100日間で初の傾向としている。

 

同大の集計によると、現在の水準は7日間の平均で9万6609人。米国で10万人を割ったのは大統領選投票日だった昨年の11月3日が最後だった。

 

同日時点で、1日当たりの犠牲者数は平均925人だった。現在は平均3024人で、昨年11月以降では200%以上の伸び率となっている。(後略)【2月14日 CNN】

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アメリカでは国民の半数近くを占めるトランプ支持者を中心に「マスクは弱さの象徴」として着用を拒否する傾向が強くあり、三密対策も日本などと比べると不徹底にも思えますが、まあそれでも急減はするようです。

 

ただ、もともと緩い対応に加え、このところの感染者急減のせいか、警戒感も薄れて着ているようです。

 

****新型コロナへの警戒感、昨年10月以降で最低水準 米世論調査****

新型コロナウイルス禍が到来する前の日常生活に復帰することへの警戒感を適度にあるいは強く抱くとする米国民の比率が計66%と、昨年10月以降で最低水準に落ち込んだことが新たな世論調査で14日までにわかった。

 

年齢別にみた場合、感染リスクを覚えないとしたのは18〜29歳層の58%が最高で、共和党支持者では49%だった。

 

ワクチン接種を既に受けた住民らの76%は新型コロナは依然大きな脅威と位置づけていた。(後略)【2月14日 CNN】

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先述のように、「大波」になるのか「小波」ですむかは、各国政府・国民の対応にもよりますが、アメリカの場合、トランプ前大統領の責任が大きく、犠牲者の4割は彼の責任との報告が。

 

****アメリカの新型コロナ死亡者の40%は「トランプのせい」と報告書****

<歴史ある医学誌ランセットに発表された報告書がトランプ政権のコロナ対策を厳しく糾弾>

2020年に新型コロナウイルスで死亡したアメリカ人のうち約40%は、ドナルド・トランプが大統領でなければ死を免れていただろう――医学誌に新たに発表された報告書が、そう指摘した。

 

2月11日発行の医学誌ランセット(世界で最も歴史があり知名度も高い医学誌)に発表されたこの報告書は、パンデミックが起きる前の2018年で見ても、ほかのG7諸国(カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、イギリス)の人口あたりの死亡率と比較すると、アメリカでは46万1000件の回避できるはずの死亡例が発生していたと指摘。

 

アメリカの新型コロナの死亡率がこれらの国々と同程度だったと想定した場合、2020年の死亡者数は40%少なかっただろうと結論付けた。

 

報告書は、「アメリカは世界的なパンデミックの影響を異常なほど過度に受けており、2021年2月上旬の時点で感染者数の累計が2600万人以上、死亡者は45万人を超えている。死亡例のうち約40%については、アメリカの死亡率がほかのG7諸国の平均と同程度であれば防げた可能性がある」と説明している。

 

トランプ政権下で無保険者が増加

「多くの感染や死亡は、回避できたはずだった。しかしトランプ大統領(当時)は国民にパンデミックとの闘いを呼び掛けることはせず、むしろその脅威を(個人的には認識していたにもかかわらず)公然と否定し、感染が拡大するなか適切な行動を妨害し、国際社会と協力しなかった」

 

さらに報告書は、過去4年間の米政府の姿勢についてはトランプに責任があるものの、アメリカにおける多くの問題は何十年も前からあるものだと指摘。その背景には、共和党と民主党、いずれの大統領も追求してきた新自由主義(ネオリベラリズム)に基づく政策があると述べている。

 

ほかの先進国の国民はアメリカ人より健康で長生きしているのに、アメリカではここ数年、平均寿命が短くなる傾向が続いている。報告書はその原因として、気候変動や医療分野の規制緩和、医療費の高騰、無保険者が多いことや、経済格差、人種差別などさまざまなマイナス要因を挙げている。

 

アメリカの無保険者は、トランプの大統領就任時にすでに2800万人に上っていたが、トランプ政権下でさらに230万人増加した(そのうち72万6000人が未成年の子供)。

 

さらにパンデミックのなかで人種間格差が広がり、黒人の死亡率は白人の1.5倍にまで上昇したほか、ラテンアメリカ系の平均寿命は3.5年短くなった。

 

報告書はさらに、「トランプは、中・低所得層の白人の生活の見通しが悪化することに対する怒りを利用して、人種間の憎悪や外国人嫌悪を煽り、高所得層や企業に恩恵をもたらす政策、人々の健康を脅かす政策への支持を取り付けた。

 

立法面でのトランプの代表的な功績は、企業と高所得層を対象とした1兆ドルの減税だ。そしてこの減税によって予算に開いた穴を埋めるために、低所得者向けの食料補助や医療予算の削減を正当化した」と指摘する。

 

報告書の著者はランセット委員会のメンバーで、著名な医師、研究者が名を連ねている。このうちニューヨーク市立大学教授(公衆衛生)で医師のステファニー・ウールハンドラーは本誌に対して、ジョー・バイデン新大統領はトランプが導入した最悪の政策の一部に「迅速に対処」しているが、さらなる努力が必要だと指摘した。

 

防げるはずの格差

ウールハンドラーはさらに、「アメリカの医療の後れを取り戻すには、もっと大規模な改革が必要だ。たとえば国民皆保険(メディケア・フォー・オール)の導入、資産や労働の機会を奪われたアメリカ先住民や黒人への補償、良好な健康状態を保つために重要な栄養、住宅、教育プログラムへの国の支援などだ」と指摘した。「国防費を減らし、富裕層への増税を行うことで財源を確保し、これらの社会のニーズにもっと予算を割くべきだ」

 

委員会のメンバーで、ハーバード大学衛生・人権センターのメアリー・バセット所長は、報告書は「過去4年間で医療分野における人種的格差が拡大したこと、とりわけ新型コロナが黒人、ラテンアメリカ系と先住民により悲惨な犠牲を強いていることを指摘した」と声明で述べた。

 

バセットはさらに、「パンデミックに対する破壊的で的外れの対応は、長年放置されてきた人種的不平等の問題を浮き彫りにした。このような防げるはずの格差を『撲滅できない』と言い逃れるのは、もうやめなければならない」と強く求めた。【2月12日 Newsweek】

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このあたりの評価は、トランプ大統領への支持・不支持で大きくわかれるところで、支持者であれば別の評価もあるのかも。

 

【ワクチン接種でも人種間格差】

上記報告書が指摘している人種間格差はワクチン接種でも。

 

****ニューヨークでワクチン接種の人種格差解消が課題に**** 

新型コロナウイルスのワクチン接種が進む米ニューヨーク市で、接種状況に人種的な偏りが目立っている。

 

白人に比べて黒人やヒスパニック(中南米系)の接種率が低いのだ。背景にはワクチンへの不信感に加え、アクセス面の問題が指摘され、コロナ供給の人種格差を解消するため、行政当局は躍起になっている。

 

ニューヨーク市の9日付の統計によると、少なくとも1回の接種を受けた人のうち、白人は46%、アジア人は16%、中南米系は16%、黒人は12%となった。白人とアジア人は接種率が人種比率を上回るが、中南米系と黒人は人種比率の約2分の1程度となる。

 

先月末には、中南米系が多く住むワシントン・ハイツ地区の接種会場に地元住民ではない白人が押し寄せたとされ、現場に居合わせた医師が「ワシントン・ハイツで、あんなにたくさんの白人の姿を見たのは初めてだ」とツイッターに書き込むなど、批判が殺到する騒ぎとなった。

 

黒人や中南米系でワクチン接種が進まない背景は、「政府や医療制度への不信感」(ニューヨーク州のクオモ知事)のほか、接種の申し込みに必要なインターネットが使えない人が多いなどの問題点も大きいと指摘されている。

 

ニューヨーク市では格差解消のため、人的少数派が多く住む地域に大規模接種会場を次々と設置。今月5日には米大リーグ・ヤンキースの本拠地「ヤンキースタジアム」で、医療従事者や65歳以上など要件を満たしたブロンクス区民のみを対象にワクチン接種を始めた。またクイーンズ区にあるメッツの本拠地「シティ・フィールド」でも10日以降、地元住民のほか、タクシー運転手や飲食店従業員などの接種が可能となる。

 

米国では新型コロナで黒人や中南米系が死亡する割合が、白人に比べて際立って高い。米公共ラジオ(NPR)によると、南部の州ではワクチンの接種会場が裕福な白人の居住地域に集中しているといい、ワクチン供給の公平性の確保は全米共通の課題となっている。【2月11日 産経】

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サウジアラビア 米新政権方針に沿った人道配慮も一定にアピールしつつ、「脱石油」戦略を進める

2021-02-13 23:23:21 | 中東情勢

(【1月12日 ARAB NEWS】「ザ・ライン」と命名された都市計画では、100万人が「車ゼロ、街道ゼロ、炭素ゼロ」で自然に囲まれた都市に住まうことが許されるとか。“地下に整備する超高速の交通機関で移動するため、どこにでも20分以内で移動可能との触れ込み”とも。・・・・でも、「誰によって“住まうことが許される”のか? サウジ王権によって・・・」というあたりに、違和感も感じますが・・・)

 

【米新政権、イエメン内戦におけるサウジ主導の軍事作戦への支援を停止】

アメリカ・バイデン大統領は、中東政策に関し、トランプ前大統領時代のイスラエル・サウジアラビアを偏重するような政策を大きく転換せせつつあります。

 

下記は、バイデン大統領の外交方針に関する演説の評価で、サウジアラビアに関係する部分です。

 

****バイデン外交、中東3カ国に試練、イラン、イスラエル、サウジに衝撃****

バイデン米大統領は2月4日、就任以来初となる外交方針を発表し、同盟国重視と世界への関与を打ち出し、米国の伝統的な価値観外交に回帰することを明確にした。

 

だが、懸案のイラン問題には言及がなく、またトランプ前政権で強力な同盟関係を誇示してきたイスラエルとサウジアラビアに対する軽視の姿勢が浮き彫りになった。中東の相関図は大きく様変わりすることは必至だ。(中略)

 

ネタニヤフとムハンマドの憂鬱

(中略)イスラエルと並んで打撃を被ったのはサウジラビアを牛耳るムハンマド皇太子だ。

 

バイデン大統領は外交方針で、サウジアラビアの介入するイエメン戦争を「終わらせなければならない」と断言、武器売却などサウジへの戦争支援を停止することを発表した。イエメン戦争では、民間人を含め犠牲者が約25万人にも及び、世界最悪の人道危機になっている。

 

バイデン政権は先月、サウジに対する4億7800万ドルに上る精密誘導弾の売却を停止しつつあることを明らかにしていた。大統領はイランの脅威などからサウジを守る防衛支援を続けていくとしたが、イエメン戦争介入はムハンマド皇太子が主導したもので、皇太子のメンツがつぶれたことは間違いない。

 

ムハンマド皇太子はトランプ氏の娘婿のクシュナー前大統領上級顧問との個人的な関係を強化して前政権から支持を受けてきた。

 

2018年のサウジ反体制派ジャーナリスト、カショギ氏暗殺事件では、ムハンマド皇太子が命じて実行されたとする疑惑が濃厚となり、窮地に陥った。しかし、トランプ氏が皇太子を擁護し、国際舞台への復帰に手を貸した。

 

バイデン大統領は選挙期間中からサウジの人権弾圧に批判的で、トランプ氏が選挙に敗れて退場すれば、米国との関係が冷却化すると見られてきた。

 

大統領はサウジと関係の深いアラブ首長国連邦(UAE)に対する戦闘機などの武器売却を吟味することを明らかにしている。トランプ前政権と親しかったイスラエル、サウジ、UAEはバイデン政権の登場で、根本的な外交戦略の見直しを迫られている。【2月7日 佐々木伸氏 WEDGE Infinity】

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【フーシ派のテロ組織指定撤回】

2月7日にはアメリカ・サウジの外相会談も行われ、ブリンケン国務長官はバイデン大統領の方針に沿って、サウジ側にイエメン内戦の終結を呼び掛けています。

 

****米国務長官、サウジ外相と初会談 イエメン内戦終結呼び掛け*****

米国のアントニー・ブリンケン国務長官は5日、サウジアラビア外相と初の電話会談を行い、米政権が人権擁護などを優先事項に掲げていることを伝え、イエメン内戦の終結を呼び掛けた。米国務省が6日、発表した。

 

米国務省のネッド・プライス報道官は、ブリンケン氏とファイサル・ビン・ファルハーン外相が「地域の安全保障やテロ対策、(サウジに対する)攻撃への防衛・抑止に向けた協力」について意見を交わしたと述べ、ブリンケン氏が「人権問題の提起やイエメン内戦終結などのジョー・バイデン新政権の主な優先事項の概要を伝えた」と報告した。

 

ドナルド・トランプ前米大統領は、人権問題を軽視してサウジ指導者らを支援したと批判されていた。

 

国営サウジ通信によると、ファイサル外相はブリンケン氏に国務長官就任への祝意を示し、両国政府の協力に期待していると述べた。

 

SPAはまた、地域の「安全と安定」を維持するため、サウジ政府はバイデン新政権と積極的に協力していくと報じた。

 

電話会談を前にバイデン氏は4日、イエメン内戦におけるサウジ主導の軍事作戦への支援を停止すると発表した。

6年間におよぶ内戦では数万人が死亡し、数百万人が家を追われており、国連は世界最悪の人道危機が起きていると指摘する。 【2月7日 AFP】

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バイデン新政権が掲げるイエメン内戦終結ですが、サウジアラビアの軍事介入停止だけでなく、アメリカのイエメン政策の転換も必要になります。

 

イエメンでは紛争の混乱の中、「大飢饉」が懸念されており、国連もアメリカに住民生活を無視したトランプ前政権時代のフーシ派敵視政策の転換を呼びかけています。

 

トランプ大統領は政権末期の今年1月に、新政権への置き土産のように、フーシ派テロ組織指定を行っています。

 

****イエメン大飢饉の恐れ 国連、フーシ派のテロ組織指定撤回を米に要請****

イエメンの反政府武装勢力フーシ派を米国が「テロ組織」に指定したことを受けて、国連高官らは14日、安全保障理事会に対し、深刻な飢饉(ききん)を回避するために、米国はこの決定を撤回すべきだと訴えた。

 

米国によるフーシ派のテロ組織指定は、内戦が続くイエメンの人道危機がさらに悪化する恐れがあるとして、人道支援団体や欧州連合をはじめ、多方面から非難されている。

 

国連のマーク・ローコック国連事務次長(人道問題担当)は、「起こり得る人道上の影響は何か。その答えは、過去40年近く起きていなかった規模の大飢饉だ」と警鐘を鳴らした。

 

米国は人道支援団体による物資の配給を例外的に許可することを提案しているが、飢饉を回避するには不十分だとローコック氏は指摘。

 

支援団体は先に、同国北部で事実上政府の役割を担っているフーシ派と協力するより他に手はないとしていた。

 

テロ組織指定後は米国からの処罰を避けるため、フーシ派の当局との取引の多くが停止するとみられている。これには医療従事者らの給与や、食料や燃料の費用の送金も含まれる。

 

国連は、イエメンでは今年約1600万人が飢えに直面すると推測している。 【1月15日 AFP】

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こうした流れで、アメリカのフーシ派テロ組織指定は撤回され、イエメン内戦終結に向けた動きが加速されています。

 

****米、フーシ派のテロ指定撤回****

ブリンケン米国務長官は12日、声明で、イランが支援するイエメンの武装組織フーシ派の「外国テロ組織」指定を16日付で撤回すると発表した。

 

バイデン政権は、サウジアラビア主導でイエメン内戦に介入する軍事作戦への支援も停止している。ブリンケン氏は「国連と協力し、内戦終結に向けて一層の努力をする」と表明した。【2月13日 時事】 

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【サウジ、米新政権に対し人道尊重姿勢もアピール】

一方、トランプ前政権との蜜月関係からの転換を余儀なくされているサウジアラビアですが、バイデン新政権の重視する人道への配慮をアピールする動きも表面化しています。

 

****サウジ、ノーベル平和賞候補の女性活動家を釈放…「運転動画投稿」で権利拡大唱える****

サウジアラビアで女性の地位向上に取り組み、拘束されていた人権活動家ルジャイン・ハズルールさん(31)が10日、釈放された。家族が明らかにした。

 

ハズルールさんは、女性による自動車の運転が禁じられていたサウジで、自らハンドルを握る姿を撮影した動画をネットに投稿するなど、女性の権利拡大を唱えてきた。2018年5月にサウジ当局に拘束され、20年12月には政治制度の転換を図った罪などで禁錮5年8月の有罪判決を受けた。

 

サウジでは、ハズルールさん拘束後の18年6月に女性の運転が解禁された。ハズルールさんはノーベル平和賞候補にも名が挙がり、昨年9月の国連人権理事会では、英国やドイツなど計33か国が早期釈放を求める共同声明を発表していた。

 

米国のバイデン政権も2月、イエメン内戦を巡るサウジへの軍事支援停止に踏み切り、人権状況を問題視する姿勢を示していた。

 

サウジは4日にも、米国との二重国籍を有するサウジ人活動家2人を仮釈放した。バイデン政権を意識し、人権問題改善をアピールする狙いがあるとみられる。

 

バイデン大統領は10日、「ハズルールさんは女性の権利の力強い擁護者で、釈放は正しい行動だ」と歓迎した。【2月11日 読売】

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【ムハンマド皇太子が進める「脱石油」戦略】

サウジアラビアの実力者、ムハンマド皇太子の本筋は、こうしたことで何とかアメリカの支援をつなぎとめながら、国内の「脱石油」改革を進めることでしょう。

 

世界は急速に「脱化石燃料」「脱石油」に向かっています。

石油の国サウジアラビアも、いつまでも石油依存では国の将来がありません。

 

(いささか善意に解釈すれば)ムハンマド皇太子がときに「力業」「剛腕」で敵対者を排除してまで実権を握ろうとするのは、そうした「脱石油」の改革を急がねばならないという思いでしょう。

 

****疑惑のイメージ拭う?サウジの皇太子、次々と投資計画****

サウジアラビアのムハンマド皇太子が野心的な投資計画を相次いで発信している。1月に発足したバイデン米政権が重視する人権問題に取り組む姿勢も打ち出しており、サウジ人記者暗殺事件への関与疑惑で悪化したイメージを拭い、国際的な投資を呼び込みたいとの思惑もありそうだ。

 

「首都リヤドを世界10大都市の一角にする。2030年には750万人の首都人口を1500万人から2千万人に膨らませる」

 

1月28日、ムハンマド皇太子が肝いりの国際経済会議「未来投資イニシアチブ」で宣言した。住宅や商業基盤などの開発のために約220億ドル(約2・3兆円)を投資する。500企業を目標に、外国企業の地域拠点をリヤドに誘致する戦略も明らかにした。

 

さらに19年に新規株式公開(IPO)をした国営石油企業サウジアラムコの株を「数年のうちに」追加で売りに出す方針も表明。長引く原油安や世界的な脱炭素の流れを受けて、石油依存を弱める戦略を改めて強調した。

 

1月初旬には、サウジ西部に建設中の人工都市ネオム内に脱炭素化を進めたコミュニティー「THE LINE(ザ・ライン)」の建設構想も発表した。人口約100万人が全長約170キロの直線型のエリアに暮らすアイデア。地下に整備する超高速の交通機関で移動するため、どこにでも20分以内で移動可能との触れ込みだ。

 

ムハンマド皇太子をめぐっては、18年にトルコ・イスタンブールで起きたサウジ人記者、ジャマル・カショギ氏の殺害事件への関与が取り沙汰された。米テレビのインタビューに殺害命令について「絶対にない」と完全否定し、「二度とこのようなことが起きないようにする」と述べたが、それでも欧米諸国を中心に不信は根強く、サウジへの投資離れも招いた。

 

昨年9月、サウジの裁判所は殺害に関与した8人に禁錮7~20年の判決を言い渡した。「この判決で、事件の幕引きとすると決めていたのではないか」と、あるサウジ人研究者は指摘する。

 

昨年11月にサウジで開かれた主要20カ国・地域首脳会(G20サミット)では、健康不安を抱えているとされるサルマン国王の代わりに皇太子が議長役を務める場面があった。

 

年明けにはカタールとの約3年半に及んだ断交を解消。和解の場となったサウジ北西部ウラーでの湾岸協力会議(GCC)首脳会合では、皇太子カタールのタミム首長を抱擁で出迎えた。

 

欧米から指摘が多い人権問題への取り組みも続く。バイデン政権の発足前から未成年への死刑適用廃止やむち打ち刑の原則撤廃、外国人労働者への待遇改善策などを発表した。海外にも知られたサウジ人女性人権活動家ルジェイン・ハズルールさんには昨年12月に禁錮5年8カ月の判決を言い渡したが、執行猶予などを組み合わせるなどし、2月に釈放された。

 

皇太子の一連の構想や改革について、日本エネルギー経済研究所の保坂修司・中東研究センター長は「バイデン米政権が気候変動対策を意識したグリーン経済に移行すれば、脱炭素、石油離れの流れが一気に加速し、サウジから欧米企業が離れてしまうと警戒している」と指摘。

 

「国際社会に対し、サウジが『普通の国』になろうとしていると印象づけ、欧米企業にザ・ラインなどの魅力的な投資プロジェクトがあるとアピールしている。そのためにも人権や自由への配慮が必要だとの考えだろう」と解説する。

 

脱炭素化で余ってしまう化石燃料は、水素やアンモニアの原料としたり、火力発電で排出される二酸化炭素を低減させたりする技術を使うなどして「最後の一滴まで使う」戦略も進めているという。【2月11日 朝日】

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人権や自由への配慮をみせて「普通の国」をアピールし、海外から投資を呼び込み、「脱石油」へ向けた改革を推進する・・・実現のためには、まずは強権体質・残虐とも言われるムハンマド皇太子自身が変わる必要があるでしょう。

 

それと、石油の“あぶく銭”による生活に慣れ親しんだサウジ国民が、勤勉な生活に変われるのか・・・ということも。

 

巨大プロジェクトに資金をジャブジャブ注ぎ込むような派手な上からの改革ではなく、もう少し地に足の着いた国内産業を育てるような地道な努力も・・・という気もしますが、サウジの経済実情を全く知りませんので今回はパスします。

 

アメリカ新政権との関係で言えば、人権問題の他、アメリカのイラン政策変更にどこまでサウジが対応できるかも問題となります。

 

こちらの問題は、核合意復帰など、アメリカ自身のイラン対応がまだ不透明ですので、今後の課題となります。

 

 

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ウクライナ 「侵略国」ロシアのワクチンに頼れず苦慮  ベラルーシ 批判を抑え込み、改憲等も不透明

2021-02-12 23:24:37 | 欧州情勢

(ルカシェンコ氏は演説で大統領としての正統性を強調した(11日、ミンスク)【2月11日 日経】)

 

【小康状態のウクライナ東部情勢か ロシアとの対立は継続】

ウクライナ東部を実効支配する親ロシア勢力の動き・政府軍との衝突に関しては最近報道を見かけませんので、落ち着いているということなのでしょう。

 

ただ、解決した訳でもなく、RUは対ロシア制裁を継続しています。

 

****EU、対ロ経済制裁を半年延長 1月末期限切れ、ウクライナ巡り****

欧州連合(EU)は17日、2014年のウクライナ危機に絡み、来年1月末に期限が切れる金融、エネルギー、防衛分野の本格的な対ロシア経済制裁を同7月末まで半年延長することを決めた。

 

ウクライナ東部の一部を実効支配する親ロシア派勢力とウクライナ政権が15年に結んだ和平合意をロシアが完全履行するまで制裁を解かない方針。

 

一方、EUは今年8月のベラルーシ大統領選での不正や市民の弾圧を巡って新たに同国の著名経済人や企業など36個人・団体にEU渡航禁止や資産凍結の制裁を科すと発表した。即日実施する。【2020年12月18日 共同】

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ウクライナ国内においても、ロシアへの警戒が続いています。

 

****ウクライナ、ロシアから資金提供を受けている9テレビ局を閉鎖****

ウクライナ大統領府から出された声明では、国家安全保障・国防会議ウクライナ議会のタラス・コザック議員及び彼が所有するテレビ局への制裁決定が承認されたことが明らかにされた。制裁に沿ってコザック議員が所有する9テレビ局は5年間活動できなくなる。

 

ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領はこれに関してソーシャルメディアに投稿し、同国の報道の自由を支持しているもののウクライナを攻撃する国が資金提供しているプロパガンダは支持していないと明かした。

 

ゼレンスキー大統領のユリア・メンデル・メディア担当報道官も、これらテレビ局の資金調達がロシアによって行われていることが確認されており、これら局はウクライナに対する戦いの道具として使用されていると述べた。【2月3日 TRT】

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【ロシア製ワクチンに頼れないウクライナ ウクライナからの水供給が止まったクリミア】

ウクライナの新型コロナ感染者総数は約130万人、死者が2万4千人超ということです。

日本の41万3220人、6866人という数字に比べると、人口が日本の三分の一程度ということも加味すれば、表に出ている数字だけでも10倍程度のレベルでしょうか。(感染レベルが高いのはウクライナだけでなく、欧州全体の傾向です)

 

主だった政治家も次々に感染しています。

昨年8月にティモシェンコ元首相、9月にはポロシェンコ前大統領、11月にはゼレンスキー大統領も。

 

新規感染者は昨年11月をピークに減少しており、現在は1日5000人弱。

 

これだけ次々に要人が感染するということは、すでに集団免疫が一定程度に獲得されるレベルにまで達しているのでは・・・とも思うのですが、そうはいってもやはりワクチン接種が急務。

 

しかし、ワクチン供給の目途はたっていないよう。

さりとて、ロシア製ワクチンに頼る訳にもいかず・・・ということで、ゼレンスキー政権も苦しい状況のようです。

 

****ワクチン調達に苦戦のウクライナ、「侵略国」ロシア製を禁止****

ウクライナは、新型コロナウイルスワクチンの調達に苦戦しているにもかかわらず、激しく対立するロシア製ワクチンの使用を禁止した。

 

ウクライナは8日、ロシア製ワクチンを禁止する決議案を可決。10日にウェブサイトに掲載された決議案は、「侵略国」で生産されたワクチンの登録を禁止するとしている。ウクライナは2015年にロシアを侵略国と認定している。

 

ウクライナの親欧米派政権は、親ロシア派議員らが求めているロシア製ワクチン「スプートニクV」の承認を再三にわたり拒否し、同ワクチンは地政学的なツールだと非難している。

 

しかし、ウクライナにはまだどのワクチンも届いておらず、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領に対しては、欧米製のワクチンを調達できていないことへの批判の声が上がっている。

 

政府は10日、自国のワクチン購入に関する調査を開始したと発表。まん延する汚職の撲滅に苦慮していることが浮き彫りになった。

 

ウクライナでは、2014年のロシアによるクリミア半島併合を受け、東部ドネツク州とルガンスク州でロシアの支援を受けた分離独立派との戦闘が続いている。分離独立派が支配する両州では、スプートニクVの接種がすでに始まっている。 【2月12日 AFP】

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EUもロシアに制裁まで課してウクライナを支援するというなら、ウクライナへのワクチン供給があってもいいのに・・・とも思うのですが、EU自体のワクチン獲得が予定より大幅に下回り、火の車状態になっているのは周知のところ。

とても域外のウクライナまでは手が回らないのでしょう。

 

ロシアは、ここぞとばかりにクリミアや東部2州でのワクチン接種を見せつけるのでしょうが、そのクリミアでは生活に必須の水が足りないとか。

 

****クリミアで「水不足」深刻 併合のプーチン政権に不満****

ロシアが2014年に一方的に併合したウクライナ南部クリミア半島で水不足が深刻化している。もともと淡水が少ないクリミアにはウクライナ本土から水が供給されていたが、併合後は止められた。

 

今年はこれに降雨不足も重なり、半島各地で1日計6時間しか水が供給されない事態となっている。給水制限は21年末まで続くとの観測もあり、住民はプーチン露政権への不満を強めている。

 

クリミアの中心都市シンフェロポリの水道当局は8月以降、貯水池の水量低下から生活用水の供給制限を開始。制限は段階的に強化され、今月は市内各地で水の供給が午前6時〜9時と午後6時〜9時の1日計6時間に制限されている。露経済紙コメルサントによると、同様の供給制限はクリミアの約30の都市や集落で実施されている。今月14日からは保養地ヤルタでも制限が始まった。

 

併合前のクリミアでは水の85%がウクライナ本土から「北クリミア運河」を通じて供給されていたが、併合でこれが止まった。昨年までは雨量が多く、大きな問題とはなってこなかったが、今年は降雨が少なく、各地で貯水池の水量が10%台まで低下した。

 

水の供給制限に住民は不満を強めている。多数の住民がインターネット上で「生活できない」「露政府は他の事業の予算をこちらに回すべきだ」などと表明。一方、ウクライナ側からは「自業自得だ」との反応も出ている。クリミアでは水のペットボトルの買い占めも起きているという。

 

プーチン政権は、ウクライナ本土から人為的に分断されたクリミア半島の実効支配を強化しようと、ロシア南部からクリミアへ橋を架けたり、海底送電ケーブルを敷設したりしてきた。そうした中で先送りされてきたのが水の問題だ。

 

クリミア当局は各地に海水を淡水化する装置を設ける方針だが、問題の解決にはかなりの時間と費用がかかりそうだ。クリミアでの住民の不満の高まりは、半島併合を「偉業」と主張してきた露政権にとって一定の痛手だといえる。【2020年12月18日 産経】

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1日計6時間しか水が供給されない事態・・・「一定の痛手」というより「相当の痛手」のように思いますが・・・。

 

結局のところ、ワクチン供給にしても、水供給にしても、民族主義を押し立てた争いごとの不毛さを示しているようにも思えます。

 

【ベラルーシ・ルカシェンコ大統領 強権で批判を封じ込め、改憲・辞任も不透明化】

お隣ベラルーシの大統領選挙における不正疑惑からの反政府デモも、最近は報道がなくなりました。

ルカシェンコ政権の強硬姿勢に加え、寒さやコロナもあって、とりあえずは政権側が抑え込んだ形でしょうか。

 

****ベラルーシで「国民会議」=ルカシェンコ体制維持へ時間稼ぎ***
昨年8月の大統領選の結果をめぐり、混乱が広がったベラルーシで11日、政権主導の「全ベラルーシ国民会議」が開かれた。退陣要求を突き付けられたルカシェンコ大統領が譲歩案として提示した憲法改正も議題となるが、ルカシェンコ氏は問題の先送りを狙っている。大きな進展はないとの見方が強い。

 

国民会議でルカシェンコ氏は「社会発展の問題や政治で市民が果たす役割をよく検討し、憲法修正の可能性について考えなければならない」と表明。昨年の混乱は国外勢力が介入した結果との考えを示し、「われわれは国を守った」と主張した。

 

大統領選をめぐっては、1994年から実権を握るルカシェンコ氏の6選が発表されたが、選挙不正が指摘され、全土に反政権デモが拡大。首都ミンスクでは10万人規模のデモが続いた。

 

しかし、反政権運動が飛び火するのを警戒したロシアのプーチン政権がルカシェンコ氏を支持。後ろ盾を得たルカシェンコ政権は反政権派を徹底的に弾圧した。

 

抗議デモで追い込まれた際、ルカシェンコ氏は改憲による権限移譲を提案した。昨年11月には「新憲法下で大統領として働くつもりはない」とも発言していた。

 

反政権派弾圧で、すっかり巻き返しに成功した格好のルカシェンコ氏は、今は体制維持のため改憲を遅らせようとしている。年末までに憲法草案を作成し、国民投票にかけるのは来年になると語り始め、時間稼ぎに利用されかねない。【2月11日 時事】

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自分を支持しない勢力に政権を譲る考えは全くないようです。

“「国を壊すのは許さない」と述べ、「異なる見解の持ち主が権力を握らないこと」も退任の条件として強調。「移行期の安定剤」として自身の支持者で構成される国民大会の権限を強化する考えも示し、現政権に批判的な人物が権力を握るのを阻止する考えも示唆した。”【2月12日 毎日】

 

更には「続投」も視野に・・・

“去年11月に自らの辞任の条件としてあげた憲法改正については、来年初めには国民投票を行うとしました。ただ、抗議活動などが行われない場合にのみ辞任すると述べ、続投に含みを残しています。”【2月12日 日テレNEWS24】

 

【ロシアに支持を強要する開き直り 「ロシアにとってベラルーシの喪失は致命的に危険だ」】

ルカシェンコ大統領が態勢を立て直せたのは、ロシアの強力な支持があったから・・・・と言うか、ロシア・プーチン大統領もルカシェンコ個人には辟易していたのでしょうが、ルカシェンコ大統領が「オレが失脚したら、次はお前だぞ!」とプーチン大統領に支持を迫ったのではないでしょうか。

 

****ベラルーシ大統領、ロシア重視を強調…民主化要求は拒否****

昨年8月の大統領選の不正疑惑をめぐる抗議デモが続く旧ソ連構成国、ベラルーシのルカシェンコ大統領は11日、国家戦略の方向を定める「人民会議」で演説し、隣国ロシアとの関係を強化するとともに、反体制派による民主化要求には応じない姿勢を示した。イタル・タス通信が伝えた。

 

27年にわたり独裁統治を続けるルカシェンコ氏は演説で、欧州連合(EU)や中国との関係も重要だとした上で、「基本的な経済パートナー、戦略的同盟国はロシアだ」と指摘。デモ弾圧で国際的批判を浴びるルカシェンコ政権を支持するロシアへの配慮を示した。

 

一方、「ロシアにとってベラルーシの喪失は致命的に危険だ」と指摘。両国が将来的な創設で合意している「連合国家」に関しても「両国の主権の完全な維持を前提としている」と述べ、ロシアを牽制(けんせい)した。ロシアは連合国家創設でベラルーシの属国化を狙っているとの見方も出ている。(後略)【11日 産経】

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そのロシアも、ナワリヌイ氏の事件・拘束でプーチン政権の基盤に揺らぎも出ています。

 

もちろん、ロシア・プーチン政権がこけたらベラルーシ・ルカシェンコ政権も同じ運命でしょう。

ただし、ロシアにしても、ベラルーシにしても、強権を駆使する政権はなかなかしぶとい・・・というのも現実です。

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中国  ミャンマーやベトナム国境で「壁」建設  中国の反体制派の国外逃亡や労働者の流出を防止

2021-02-11 22:46:12 | 中国

(2020年10月20日、中越国境の友誼間に中国人労働者900人以上が押し寄せた【2020年10月23日 大紀元】)

 

【世界中に存在する分離壁】

国境の壁建設ということでは、不法移民防止のためトランプ前大統領が進めたメキシコ国境沿いの壁建設がありますが、バイデン新政権は就任と同時にこのトランプ政策を象徴する計画を停止しました。

 

****バイデン米大統領、トランプ氏の移民規制を解除-国境の壁建設も停止****

バイデン米大統領は就任初日にトランプ前大統領の移民政策の巻き戻しに着手した。トランプ氏が導入し、物議を醸した措置の解除を積極的に進め、米国の新たな道筋を指し示す取り組みの一環となる。

 

大統領はまた、トランプ氏が推進したメキシコ国境の壁建設を停止するよう命じる布告を出した。

  

バイデン氏は大統領として初めて行う職務の1つとして、イスラム教徒が多数を占める一部諸国からの渡航・移民規制を解除する大統領布告に署名した。(中略)

 

さらに、トランプ前政権が活用した他の厳しい審査慣行の見直しを指示する一方で、旅行者のスクリーニング強化に向け外国政府との情報共有の拡充も命じた。

  

バイデン大統領は米国内の約1100万人の不法移民に米市民権獲得の道筋を開く移民法案を提示している。ホワイトハウスのサキ報道官は20日、大統領が既に法案テキストを議会に送付したと明らかにした。

  

同法案は、合法・違法を問わず移民の制限に取り組んできたトランプ前政権と著しい対照をなす。【1月21日Bloomberg】

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壁建設は移民政策の一部ですが、1月18日ブログ“中米ホンジュラスからアメリカを目指す移民キャラバン”でも取り上げたような難しい現実に直面しています。

 

ただ、「壁」でシャットアウトし、「壁」の外の世界には関知しないといったことで解決する話でもありませんので、全体的な方針としては、「壁」によって分断を力で固定化させる方向ではない対応策を探る方針は妥当と考えます。

 

一方で、「壁」は世界中に存在し、現在も増え続けているのが現実です。

 

****分離壁****

現存する分離壁の例としては、ベルファスト平和の壁ホムスの分離壁、ヨルダン川西岸地区分離壁サンパウロの分離壁、南北キプロスグリーンラインギリシャトルコ国境、メキシコ・アメリカ国境などが挙げられる。

 

またJulia Sonnevendは、2016年の著書Stories Without Borders: The Berlin Wall and the Making of a Global Iconic Eventの中で、シャルム・エル・シェイクの壁(エジプト)、リンバン国境ブルネイ)、カザフスタンウズベキスタン国境壁、インドバングラデシュ国境フェンス、アメリカメキシコ国境分離壁、サウジアラビアイラク国境フェンス、ハンガリーセルビア国境フェンスを挙げている。

 

また過去に存在し現存しない分離壁としては、ベルリンの壁マジノ線、エルサレム地区壁が有名である。【ウィキペディア】

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【中国・ミャンマー国境の壁「南部の万里の長城」】

壁建設では「一日の長」と言うか、2000年、3000年の長があるのが、万里の長城を築いた中国。

 

あながち冗談でもなく、万里の長城みたいな歴史を「誇るべき歴史遺産」として有していれば、現代においても壁建設に対する抵抗感は少なく、むしろ正当化する方向にもなるでしょう。

 

最近目にした記事では、ミャンマー国境の「壁」

 

****中国、ミャンマー国境に有刺鉄線の「壁」建設中 既に3分の1が完成****

中国はミャンマーとの国境に2100キロに及ぶ有刺鉄線の「壁」を築いているようだ。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が12月半ば、中国南部の雲南省で撮影された有刺鉄線のフェンスの写真を報じた。(中略)

 

中国の報道ではフェンスの建設は違法越境と新型コロナの感染防止とされているが、中国国内の反体制派の国外逃亡を防ぐ目的かもしれない。

 

雲南省に隣接するミャンマー側の国境地帯から配信されたとみられるツイッターの投稿によれば、フェンスは「南部の万里の長城」と命名され、2022年10月までの完成を目指し現時点で約660キロが完成したという。

 

RFAは、フェンスは中国の労働者がミャンマーに流出するのを防ぐためとする識者の見解を報じた。2020年10月には、同じ理由で中国がベトナムとの国境に「壁」を築く様子も報じられている。【2020年12月21日 Newsweek】

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高いところで約3メートルあり、有刺鉄線も付いているとか。

“中国国内の反体制派の国外逃亡を防ぐ目的”“中国の労働者がミャンマーに流出するのを防ぐため”以外にも、“両国の国境地域では違法薬物を含む密貿易が常態化しており、中国が対策に本腰を入れたとの見方もできる。”【1月14日 産経】といった指摘も

 

設置に際し、事前にミャンマー側に通告はなかったとのことで、ミャンマー側は反発しています。

 

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両国は1961年の協定で、双方の摩擦を回避する目的などから国境から10メートル以内に構造物を設けることを禁じている。

 

一方的に国境線を設定される可能性もあることから、ミャンマー政府は「恒久的なフェンスは認められない」などと反発している。ミャンマー外交筋によると、両国は月内に協議の場を設けるという。

 

両国関係は中国の巨大経済圏構想「一帯一路」を通じた資本投下で緊密化しており、双方を鉄道や高速道路で結ぶ「中国・ミャンマー経済回廊」構想が計画されている。イラワジは、フェンス設置による関係の悪化が「中国の拡張計画にも影響を与えることになるだろう」と分析している。【上記産経】

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ミャンマーのクーデター、軍事政権成立で、また事情が変わってくるのかも。

 

【かつては緩かった中国・ベトナム国境管理】

前出【Newsweek】記事最後にあるように、中国はベトナム国境でも壁を建設しています。

 

中国とベトナムの国境に関しては、2018年7月に国境にかかるアジア第一の滝「徳天瀑布」を中国側から観光した際に、実際の様子を目にしたこともあります。

上記写真は滝に至る遊歩道の様子。

中国 貴州・広西2018 水迸り、大地起つ・・・・(12)中国・ベトナム国境にかかる壮大な「徳天瀑布」

 

川の対岸はベトナム領ですが、川沿いの中国側遊歩道には、ベトナム側から船で中国側にやってきて商売をする人々が大勢。おそらく柵を乗り越えると不法侵入で問題になりますので、柵の外から営業しているのでしょう。

商品には酒・タバコや、ベトナム側の土産物みたいなものもが多かったような。

ネット情報によれば、ベトナム側の村に行ける道もあるようですが、(密入国ですから)トラブルになると困りますので行っていません。

 

宿泊したホテルも国境沿いにあって、ホテル近くの高台からベトナム側見渡せます。

中国 貴州・広西2018 水迸り、大地起つ・・・・(13)のどかな「明仕田園」とローカルフード

川向うがベトナム領で、建物は入国管理事務所的なもののようです。

赤い鳥居のようなものが国境ゲート(往来を遮るものはありませんが)

眺めている間にも、往来する人が。


中国・ベトナム双方の地元住民なら、国境線から一定の距離以内であれば自由に出入りできるとも聞きましたが、正確なところは知りません。

 

全体の印象としては、国境管理は“緩い”というイメージでした。

そうしたベトナムとの国境に壁が建設されています。

 

【逆転した人の流れ 今では中国からベトナムへ】

中国国境沿いの労働者の流れと言うと、「世界の工場」たる中国側への流入を想像しますが、現状は逆のようです。

壁は、中国からベトナムへの「密出国」を防止するためのものとか。

 

****ベトナムへの「密出国」防ぎたい中国、国境に壁建設****

中国のベトナムいじめが始まったらしい。

 

2020年、ベトナムはGDP成長率で東アジア・太平洋地域の中で最高の2.8%に達し、中国のGDP成長率2.3%を抜いて、世界最高水準のプラス成長になった。それに伴い、中国とベトナムの間では、新たな軋み音が漏れ聞こえてきた。

 

中国政府が、ベトナムとの国境に、コンクリートと鉄筋で出来た高さ2メートルの「壁」を、数百キロメートルにわたって建設しているという。

 

ベトナム国境の税関に押し寄せた中国人技術者たち

中国が「壁」を築いた場所は、中国南部の広西チワン族自治区とベトナム北部アンニン省の国境都市モンカイを結ぶ、通称「友誼関」(友情の関所)と呼ばれている小さな国境税関だ。

 

国境とはいえ、川ひとつ隔てただけの山岳道路なので、地元住民たちは簡単な手続きをするだけで、三日間の通行証を発行してもらえるし、ときには顔パスで、行商人が徒歩で行き来していたのだが、そこに突然、「壁」を作って厳重な通行規制を敷いたことで騒動になった。

 

独立系経済メディアの「財新」によると、2020年10月20日、「友誼関」に900人の中国人技術者が押し寄せた。彼らはベトナムに移転した中国企業と台湾企業に採用された証明書を持っていたため、混乱の後にようやくベトナム入国を許可された。

 

彼らの就職先は、ベトナムに移転した深圳の「立迅精密」に400人、南寧の「富桂精密(富士康)」に205人、「ベトナム電池科学技術」に85人、中国資本の「德利(越南)」に27人等。こうした企業の多くがベトナムで工場を建設して間もない時期だから、「技術者」というより、むしろ部品の組み立て作業を担う熟練労働者たちだったのではないか。

 

しかし、突然の通行規制を知らなかった広西省の行商人の中には、通行証の不備などで通行を許可されず、「友誼関」周辺の路上にビニールシートを敷いて寝泊まりする者も多数にのぼった。「おかげで、ビニールシートの値段が千元に跳ね上がった」という。

 

中国とベトナムは建前の上では、今も社会主義体制の兄弟国家だ。日頃から、ベトナムは中国との外交に細心の注意を払い、少しでもトラブルがあると、即座に解決するため頻繁に対話を心がけてきた。それなのに、中国はなぜ「友誼」(友情)に背くような「壁」を建設したのだろうか。

 

激増する中国の対ベトナム投資

ひとつには、ベトナムが中国の推し進める国家戦略「一帯一路」計画に対して、口では賛成しながら、実際には消極的であることだ。

 

東南アジアの国々の中で、これまで中国の資金援助を受けていない唯一の国であり、中国が二国間協定を結ぼうと提案しても、ベトナムはなかなか応じようとしない国なのだ。

 

今年に入って、中国が海上警備を担う海警局に武器使用を認める「海警法」を新たに制定すると、ベトナム外務省は1月31日、いち早く声明を発表して、「緊張を高める行動を自制するべきだ」と、中国を諫めた。

 

ベトナムは、スプラトリー諸島(中国名、西沙群島)の領有権を巡って長年中国と対立し、ベトナム漁船がたびたび中国海警局の艦船に拿捕されたり、威嚇されたりしている現状を踏まえた声明だった。

 

中国にしてみれば、ベトナムは言うことを聞かず、まことに扱いにくい国だと考えたとしても、不思議はないだろう。

 

さらに、ここ数年、米中経済戦争のあおりを受けて、各国が中国からベトナムへ投資先を転換させている中で、とりわけ中国からの投資が急拡大した。

 

2019年、中国の対ベトナム投資額は174%増加し、なかでも新規投資額は前年同期比で411.1%も増加した。ベトナムの安い労働賃金を求めて移転してくる中国企業は後を絶たない。その結果として、ベトナムでは労働力不足が深刻になった。

 

その一方、中国では、コロナウイルスの感染拡大で中国国内の企業が倒産し、失業した労働者たちが急増。彼らは合法違法を問わず、活況を呈する地続きのベトナムへ職を求めて続々とやってくるようになった。

 

ベトナムに移転した中国企業の中には、「(密入国でも)自力でたどり着いたら、採用してやる」と口約束する企業もあり、とくに高度な技術をもつ人材は引っ張りだこだとされる。

 

中国政府は、「壁」を建設した目的を、コロナウイルスの感染拡大を防止するためだとして、現代版「万里の長城」だと自画自賛しているが、実際のところ、中国から密出国する中国人を食い止めることが目的なのは明らかだ。

 

ほんの数年で逆転した「密出国」の流れ

ベトナムと中国の国境線は1400キロメートル以上あり、険しい山岳地帯の国境線はこれまで曖昧なままだった。かつてはアヘン栽培の「ゴールデン・トライアングル」として広く知られ、麻薬取引、誘拐、売春、人身売買、出稼ぎ者の密出国などを手がける闇組織が支配する「無法地帯」だった。

 

彼らが手配する密出国は、主としてベトナムから中国へ向けて行われていた。

 

(中略)闇組織は、こうした出稼ぎ者や売春目的の人身売買の販路として、ベトナムから広西省東興市を経て、広東省の東莞市、中山市、佛山市などの地方都市を結び、さらには香港、マカオに至る闇ルートを形成していたとされる。

 

「壁」で人の流れを果たして断ち切れるのか

ところで、人は、往々にして経済成長に向かって流れるのが、世の常である。

 

ひと昔前には、ベトナムから経済繁栄した中国へ向かっていた出稼ぎ労働者の流れは、今や経済成長著しいベトナムへ向かって、中国から出稼ぎ労働者が流れている。まさに人の流れの「逆転現象」が起こっているのである。

 

中国が築いた「壁」ひとつで、この流れを断ち切るのは、かなり難しそうだ。

 

だが、今後、ベトナムの労働力不足がさらに深刻化し、工場生産に支障をきたせば、ベトナム経済が頭打ちになることは目に見えている。

 

「壁」の建設は、言うことを聞かないベトナムに対して、中国が「からめ手」で脅かすために思いついた具体的な方法だろう。

 

ひょっとして、昔から「万里の長城」はただのコケ脅しで、無用の長物だと言われ続けてきたことを、もう忘れてしまったのか。【2月11日 譚 璐美氏 JB Press】

*******************

 

ちなみに、下記記事にある国境都市モンカイは沿岸部で、私が観光した内陸部「徳天瀑布」とは直線距離で180kmぐらい離れています。

 

“コンクリートと鉄筋で出来た高さ2メートルの「壁」を、数百キロメートルにわたって建設している”ということであれば、ひょっとしたら「徳天瀑布」周辺も変化しているのかも・・・・。

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分断・分裂・内紛で拡大する中国の影響力

2021-02-10 23:21:42 | 中国

(ユ-ラシア大陸を走る中国とヨ-ロッパを結ぶ「中欧班列」(国際定期貨物列車) 画像は【「中国網日本語版(チャイナネット)」2016年8月2日】 「中欧班列」は中国の56都市と欧州および中央アジアの15カ国49都市と結んでいます。)

 

【ワクチン外交、更には経済関係強化で中東欧への影響力を増す中国】

EU内部において、いわゆる西欧的民主主義といった価値観をめぐって、あるいは難民受入れといった具体的問題をめぐって、西欧とハンガリーやポーランドなど中東欧の間に深刻な溝があることは、これまでもしばしば取り上げてきました。

 

一方で、中国は「一帯一路」の一環として中東欧地域へ影響力拡大を図っています。そうした中国にとっては、欧州の分断は、好都合でもあるでしょう。

 

具体的には、中東欧諸国と中国は首脳会議を定例開催してきました。

下記は2年前の会議の記事。

 

****中国、中東欧と連携確認、16カ国と首脳会議  ギリシャも参加****

中国の李克強(リー・クォーチャン)首相は12日、クロアチアのドブロブニクで開いた中東欧地域の計16カ国との首脳会議「16+1」に出席した。

 

李氏は広域経済圏構想「一帯一路」を意識してインフラ建設や貿易などを拡大する意向を表明した。ギリシャも参加し中国の影響力の拡大を示した。

 

「16+1」は会議後に協力指針を発表した。一帯一路や欧州連合(EU)の戦略に従ってデジタル経済を促進する方針を盛り込んだ。イノベーションやエネルギー分野でも協力を進める。

 

中国国営の中央テレビ(CCTV)によると、李氏は会議で「中国と16カ国の貿易額は21%増え、歴史的に高い水準となった。中国企業が中東欧国家のインフラ整備に参加するのを支援する」と表明した。

 

クロアチアのプレンコビッチ首相は「数年で中東欧の中国への輸出額は5倍近くに膨らんだ。さらにお互いの貿易を活発にしたい」と応じた。

 

「16+1」は中国と中東欧16カ国の経済協力を進める枠組みで、2012年に発足した。中東欧は中国と西欧を結ぶ要衝の地にあるとして、中国が積極的に取り込みに動いている。来年は中国でギリシャを含む「17+1」として首脳会議を開く予定だ。

 

李氏はこれに先立ち、ブリュッセルも訪れた。9日には欧州連合(EU)のトゥスク大統領やユンケル欧州委員長と会談し、20年までに投資協定を妥結する方針で合意した。

 

3月に習近平(シー・ジンピン)国家主席が欧州3カ国を訪問した際には、主要7カ国(G7)で初めてとなるイタリアの一帯一路への参加を取り付けた。習指導部トップ2による異例の欧州訪問となった。

 

米中通商摩擦の影響で中国は新たな市場の開拓先として欧州や日本などとの関係改善を急いでいる。【2019年4月13日 日経】

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昨年、2020年の「17+1」の記事は見かけなかったように思いますので、コロナで中止されたのかも。

そして今年はオンラインで開催されましたが、格好のワクチン外交の舞台ともなったようです。

 

****中東欧にワクチン供給約束=影響力強化、姿勢鮮明―中国****

中国と中東欧17カ国は9日、例年開催している「17+1」の首脳会議をオンラインで開いた。

 

欧州メディアによると、中国の習近平国家主席は、要請があれば、中国製のワクチンを中東欧諸国に供給すると約束。欧州でワクチン供給が滞る中、「ワクチン外交」で、影響力を強める姿勢を鮮明にした。

 

中東欧諸国の中では、セルビアがすでに中国国有製薬大手・中国医薬集団(シノファーム)のワクチン約100万回分を調達。欧州連合(EU)加盟国であるハンガリーも、中国からワクチン供給を受けることで合意している。

 

ハンガリーのオルバン首相は5日、「EUのワクチン調達を待ってはいられない」と述べていた。

 

ただ、「17+1」参加国の中では中国への警戒姿勢を取る国もある。南ドイツ新聞によると、エストニアとリトアニアは、今回の会議への首脳の参加を見送ったという。【2月9日 時事】

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ハンガリー・オルバン首相の中国製ワクチンに対するコメントが笑えます。

 

****ハンガリー、中国製コロナワクチンを承認 EU加盟国初*****

ハンガリーは29日、欧州連合加盟国では初めて、中国の製薬大手・中国医薬集団(シノファーム)製の新型コロナウイルスワクチンを承認した。1週間前には、EUとの足並みを乱す形で、ロシア製ワクチンにも暫定使用許可を出していた。

 

オルバン・ビクトル首相は同日、シノファームワクチンの承認を前に、ハンガリーは同社との初回の納品に関する調達契約を「きょうかあす」にも締結する予定だと述べるとともに、自身が接種するワクチンには同社製を選ぶと明言していた。

 

オルバン首相は「中国人はこのウイルスとの付き合いが一番長いから、恐らく一番よく知っているだろう。だから私の番が来て自分で選ぶなら、中国製ワクチンがいい」と語った。

 

ハンガリーは先週には、EU加盟国で初めてロシアの「スプートニクV」ワクチンを承認。200万回分のワクチン購入に合意したと発表していた。

 

オルバン氏は、EUのワクチン共同調達計画に遅れが出ていることを批判。ハンガリー政府は「自立する」必要があるとして、米国やイスラエルに加え、ロシアや中国も含めて、EU圏外からの調達を検討していると明かしていた。 【1月29日 AFP】

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中国のワクチン外交に中東欧諸国からは「歓迎の声が相次いだ」と、「読売」が言っています。

 

****習近平氏、中欧・東欧にワクチン提供表明…歓迎の声相次ぐ****

中国の習近平シージンピン国家主席は9日、中欧・東欧17か国との首脳会議をオンライン形式で主宰し、輸入の大幅な拡大や新型コロナウイルスのワクチン提供を表明した。

 

中国外務省によると、習氏は、中国の中欧・東欧からの今後5年の輸入額を計1700億ドル(約18兆円)以上にすると強調し、「力の及ぶ範囲で、ワクチンを提供したい」と述べた。

 

欧州連合(EU)のワクチン調達に遅れが生じるなか、セルビアは中国の国有製薬大手のワクチン150万回分、モンテネグロは15万回分の供給をそれぞれ受けることが決まっている。

 

習政権は巨大経済圏構想「一帯一路」の経済支援などで中欧・東欧諸国への影響力拡大を図っており、9日も歓迎の声が相次いだ。

 

セルビアのアレクサンダル・ブチッチ大統領は、「過去10年で中国への輸出は約50倍に増えた」と述べ、習氏がセルビア訪問を予定していると明かした。【2月10日 読売】

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中国・習近平主席は、中東欧諸国との経済関係を強化する計画を明らかにしています。

 

****中国、中東欧からの輸入を今後5年で拡大へ=習主席****

中国の習近平国家主席は9日、中東欧から今後5年間で1700億ドル以上のモノを輸入する計画だと明らかにした。国営メディアが伝えた。

中東欧諸国との首脳会談で、域内産農産物の輸入を倍増させると述べた。【2月10日 ロイター】

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欧米・日本などの立場からすると「懸念」の対象となる中国の影響力拡大ですが、なんだかんだ言いつつも、やはり中国の国力・技術力の目覚ましい伸長を背景としたものであることは事実です。

 

もっとも、問題はその影響力の行使の仕方ですが・・・

 

【太平洋諸島フォーラムの分裂 中国が影響力を強める機会になる可能性】

分断・内紛などがあれば、そこに中国の影が・・・というのは、今や定型パターンとなってきていますが、太平洋諸国でもそのパターンが懸念されています。

 

****太平洋諸島フォーラム、5か国が離脱表明 分裂で中国に好機か****

太平洋島しょ国などから成る「太平洋諸島フォーラム」の加盟4か国が9日、次期事務局長の選出に起因する対立をめぐり、パラオに続き離脱を表明した。同フォーラムの分裂はますます鮮明になり、米中が勢力拡大を競う同域の外交関係にも影響するとみられている。

 

先週PIF離脱の意向を表明したパラオに、マーシャル諸島、キリバス、ナウル、ミクロネシア連邦が続いた。

 

PIFには小さな島しょ諸国にオーストラリアとニュージーランドを加えた18の国と地域が加盟。太平洋地域における米国の外交上、重要な要素となっている。

 

海面上昇やかつてなく強力な熱帯性低気圧の脅威に直面する同域の島しょ諸国は、その声を合わせて国際社会に届けることにより、気候変動問題で影響力を示してきた。

 

今回の分裂は、人口は少ないものの戦略的に重要な太平洋諸国に対し、中国が影響力を強める機会になる可能性がある。そうなれば米豪が警戒するのは必至だ。 【2月9日 AFP】AFPBB News

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パラオなどミクロネシア諸国が反発しているのは“パラオが反発するのは、東部ポリネシア、南部メラネシア、北部ミクロネシアの3地域から順に事務局長を選ぶとの加盟国間の紳士協定が破られたとみるためだ。ミクロネシア地域の各国は、域内にあるマーシャル諸島のジェラルド・ザキオス駐米大使を推していたが、9対8の接戦で敗れた。”【2月9日 読売】という事情です。

 

【ミャンマークーデターの影に?】

ミャンマーのクーデターでは、今後の国軍と中国の関係強化だけでなく、クーデター計画そのものへの中国の影も囁かれています。

 

****ミャンマー国軍、中国の支援で権力維持 クーデター黙認と判断か****

クーデターが起きたミャンマー(旧ビルマ)では1948年の独立以来、国軍が軍事政権などを通じて国政に影響を及ぼす構造が続いた。軍政下で国内経済が落ち込んだ時期もあったが、関係が深い中国の支えで、国軍はミャンマーに君臨し続けてきた。(中略)

 

軍政初期のミャンマーではネ・ウィン政権が外国資本を排除して国家が経済を統制する「ビルマ式社会主義」を推進し、その結果、国内経済は東南アジアでも最低水準にまで落ち込んだ。スー・チー氏軟禁以降、欧米諸国が相次いで制裁を強化したことも国内に打撃を与えた。

 

それでも中国は国軍を支えた。ミャンマー国内の豊富な天然資源を求めたことに加え、同国経由で陸上からインド洋進出を狙う戦略的思惑があったためだ。

 

国軍と中国の良好な関係は続き、今年1月にミャンマーを訪問した王毅国務委員兼外相はスー・チー氏のほか今回のクーデターで実権を握ったミン・アウン・フライン総司令官とも会談。総司令官はその場で昨年11月の総選挙への不満を述べたとされる。国軍側が、中国によりクーデターを黙認されたと解釈し、行動に出たとの見方もある。

 

地元ジャーナリスト、チット・ミン・マウン氏は「中国以外にロシアもかつての軍政を支持した。国民は決して軍政支持ではないが、支える国がある限り、国軍支配は続いていくだろう」と話している。【2月4日 産経】

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“中国によりクーデターを黙認された”云々は憶測に過ぎません。

 

中国も影響力を行使する相手方を選ばないと、いつまでたっても国際社会の「主役」にはなれないのでは・・・と思えますが、中国からすれば、他国の人権・民主主義を云々するのは内政干渉であり、そもそも人権・民主主義が最優先されるべき価値観とは思わない・・・ということなのでしょう。

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新型コロナに苦しむ「豊かな日本」の隠れた貧困 制度と現実運用のギャップも

2021-02-09 22:40:24 | 日本

(【2月9日 ロイター】政府備蓄米 新型コロナ禍で食事に困窮する者が増加 日本政府は備蓄米放出に踏み出したが・・・)

 

【新型コロナで急増する極貧層】

周知のように、新型コロナによって、貧困層はリモートなどの防御対策が難しい職種にについていること、居住環境の衛生上の問題などによって、健康上の被害を受けやすい立場にありますが、同時に、経済的にも失業や景気悪化の影響を被りやすい立場にあります。

 

****新型コロナで来年末までに1.5億人が極貧となる可能性=世銀****

世界銀行は7日、隔年リポート「貧困と繁栄の共有」を発表し、新型コロナウイルスの世界的流行(パンデミック)により、2021年末までに1億5000万人が極度の貧困に陥る可能性があるとの見解を示した。そうなれば、過去3年以上にわたる貧困撲滅努力が無に帰すことになる。

リポートは、今年中に1日の生活費が1.90ドルを下回る極貧人口が8800万─1億1500万人増加すると推定。2021年には、その人口はさらに1億1100万から1億5000万人に膨れ上がる可能性があるとしている。

予想の通りになれば、今年極貧状態に陥る人口は世界全体の9.1─9.4%となり、2017年の9.2%とほぼ同水準となる。その場合、約20年間で初めて極貧率が上昇することになる。

2019年の極貧率は推定8.4%程度で、新型コロナウイルス感染拡大前には、2021年までに7.5%に低下すると予想されていた。

リポートは、迅速かつ持続的な政策が講じられなければ、2030年までに極貧率を3%に抑制する長期目標は達成不可能になるとみられるとした。

世銀のマルパス総裁は声明で、「新型コロナと世界的な景気後退(リセッション)により、世界人口の1.4%が極貧状態に陥る可能性がある」と指摘。「これは開発の進展と貧困撲滅における深刻な後退だ」と警告した。【2020年10月8日 ロイター】

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上記は昨年10月時点の記事ですが、その後のワクチン接種の開始などで、状況は好転したのでしょうか?

ワクチン自体が先進国間の争奪戦で、貧困層の多い途上国には十分に供給できない状況ですので、あまり期待はできないのかも。

 

【先進国・日本の相対的貧困層も更に困窮】

新興国途上国に多い絶対的貧困だけでなく、先進国にも存在する相対的貧困も新型コロナで状況は悪化しつつあります。

 

****先進国、コロナで広がる貧困****

(中略)

 ■世界の貧困人口、一転増加見通し 「最悪の場合、来年7.3億人」

貧困は新興国途上国だけの問題ではない。先進国でも格差が広がり、「相対的貧困」として問題になっている。

 

相対的貧困の状態にあたるのは、手取り収入を世帯人数で調整した等価可処分所得を高い順に並べた時に、中央の半分よりも低い額で暮らす人たちだ。困窮していることに気付かれず、支援が届きにくいことが多い。

 

「先進国クラブ」ともいわれる経済協力開発機構OECD、37カ国)の加盟国では、平均で11・7%(2016年)の人々が相対的貧困の状態にある。

 

厚生労働省によると、日本は平均よりも高い15・8%(18年)。シングルマザーなどひとり親世帯では48・2%に上っており、不安定な雇用にある人や女性など立場が弱い人ほど困窮している。

 

国際労働機関(ILO)は、新型コロナの影響で、今年の4~6月に世界で労働時間の17%(4億9500万人分のフルタイムの労働時間に相当)が失われたと推計。先進国を含む全ての地域で1~3割の減少となったとみる。

 

世界のフードバンク団体でつくるグローバル・フードバンキング・ネットワーク(本部・米国)が5月、世界44カ国にある47のフードバンク団体に実施した調査では、全団体で緊急支援の需要が増加しており、「91%以上増えた」と答えた団体が37%に上った。先進国でも英国やニュージーランドでは需要が8割以上増えていた。(中略)

 

貧困は飢餓につながるだけでなく、医療や教育を受けられない人が増えたり紛争のきっかけになったりもする。女性や立場の弱い人への影響が大きく、世代を超えて格差が固定化することも問題だ。

 

東京都立大の阿部彩教授(貧困・格差論)は「新型コロナの影響で先進国でも貧困率が上がることが危惧されている。日本では非正規雇用の人が雇い止めにあったり、労働時間が減らされたりして、賃金の差以上に格差が広がるだろう」と指摘する。

 

「コロナ禍で命を守るという言葉がよく使われるが、食料やライフラインは命を守ることそのものだ。緊急時のために、まずは平時のセーフティーネットを強化しなくてはいけない」【2020年10月18日 朝日】

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【日本の「見えにくい」貧困 権利を行使しづらい「非常に日本的な仕組み」も 直撃するコロナ禍】

日本は従前から、経済的格差が比較的小さい平等社会だと言われています。そのことは、日本が世界に誇るべき優れた点でしょう。

 

中国メディアも日本社会のそうした特性をしばしば指摘しています。

“どうして日本は、世界が羨むほど貧富の差が小さいの?”【2月5日 Searchina】が取り上げている中国ポータルサイト・百度の記事は、その背景として、教育、医療制度、農村・農業対策、各種福利厚生制度などを取り上げています。

 

しかし、そうした日本にあっても非正規雇用の拡大、ワークングプアやシングルマザーの増加など、厳しい経済環境に置かれる者は増加しており、新型コロナはそうした経済弱者に更に大きな試練をもたらしています。

 

最も先端的な事象としては、昨年の自殺者の増加にも、そうした新型コロナ禍に襲われた貧困層の実態が反映していると思われます。

 

****コロナ禍で見えてきた「豊かな日本」の隠れた貧困*****

新型コロナウイルスの感染拡大のため貧困に陥る日本人が増えている。そんな人々が東京で開かれた支援イベントに集まり、食料品を受け取った。

 

「仕事がない。まったくない」。列の中にいた男性がAFPの取材に答えてくれた。「ゆういちろう」とだけ名乗り、最近まで建築作業の仕事をしていたという。寒い冬の首都の路上に立ち、握り締めた小さなビニール袋には生活必需品が詰まっていた。

 

「(日本は)表面的には助けているようにはなっているかもしれないですけど、本当に困っている人は駅とか段ボールで寝ていたり、(数は)多いです」と言う。「マスコミには報道されていないけれど、だいぶ餓死して大変なことになっています」

 

世界第3位の経済大国・日本では、新型コロナウイルスの感染拡大ペースはこれまでのところは比較的穏やかだ。死者数は(2月1日時点で)およそ5800人、他国で行われているような厳格なロックダウン(都市封鎖)は実施されてこなかった。失業率も3%以下で、社会のセーフティーネットが盤石という評判のある日本は、コロナ禍の経済面での影響を難なく乗り切ると見られている。

 

しかし民間支援団体は、経済的に最大の弱者の困窮は続いていると指摘する。統計からは、高い不完全雇用率や低賃金の非正規雇用者の苦難をくみ取るのが難しい。

 

「コロナの影響で失業した人や、収入が減った人が増えている」と語るのは、反貧困NPO「自立生活サポートセンター・もやい」の大西連理事長だ。「その中で、もともとぎりぎりでやっていた人、ワーキングプア(働く貧困層)の人が直撃されている」

 

就業者の40%前後が、低賃金で契約を簡単に解除できる「非正規」の仕事に就いている。しかし、生活保護を受ける資格がある人々の中には、福祉制度を利用することへの抵抗感や偏見に悩まされている人が多数いる。

 

ゆういちろうさんは、役所をたらい回しにされた揚げ句、援助の対象となるのは子どものいる人だけだと告げられたと話した。

「大人は結構、ご飯を食べられてない人がいっぱいいます」

 

■「綱渡りの綱がコロナで切れた」

日本では、200万円以下の年収で生活する人が1000万人を超え、6人に1人は「相対的貧困」に該当する。これは、所得が国内の等価可処分所得(手取り収入などを世帯人数で割って調整したもの)の中央値の半分(貧困線)に満たない状態のことで、国の一般的な生活水準と比較したときの困窮者人口の割合を示す指標だ。

 

経済学者によると、過去6か月で50万人が失業している。その波及効果が国内に広がっていると市民団体は指摘する。

 

NPO法人「TENOHASHI」は、東京の副都心・池袋でホームレスの人々などに食事や衣類、寝袋の他、医療援助を提供している。

 同NPOの清野賢司代表理事は、すでに困窮していた人々は綱渡りの状態にいたが、コロナ禍で「その綱が切れた」と言う。

 

経済的苦境は、昨年末にかけて見られた自殺数の増加の一因と思われると専門家らは警告している。

日本では失業率が1%上昇すると、年間の自殺者がおよそ3000人増える、とニッセイ基礎研究所の斎藤太郎氏は指摘する。

 

特に経済的困難に直面しているのが女性たちだ。多くの女性は、小売り・飲食・宿泊業など、コロナの打撃を受けている業界で非正規雇用で働いている。

 

清野氏のNPOが援助している人々のうち、女性の割合は20%以下だという。だが、援助を望みながら踏み出せずにいる女性はもっと大勢いるとみている。福祉を受けると「子どもが胸を張って生きられなくなる」と感じる女性もいると清野氏は述べた。

 

■「非常に日本的な仕組み」

統計によると、公的な援助を申請する人の数は増えている。しかし、サポートセンター「もやい」の大西理事長によると、「恥ずかしさやスティグマ(不名誉)の問題」で多くの人が福祉制度の利用をためらっている。

 

日本の規則では、公的援助を受ける前に、親族による扶養が優先して行われるべきとされている。そのため、福祉の利用を申請すると、本人の親族にその旨が伝えられる。

「非常に日本的な仕組み」だと大西氏は断言。誰にでも福祉を利用する法的権利があるのに、社会がそれを認めるとは限らないのだと続けた。

 

日本の貧困レベルが先進国を含む他の国と比べてはるかに低いのは、専門家も指摘するところだ。だが、その統計は、食料と避難所を必要とする個人にとっては何の意味も持たない。

 

池袋で援助を受けていたある男性は、建設現場で得る月給が2万円を切り、手元の現金はあと1回の家賃で消えると話した。「路上(生活)はさすがに。今は寒いと思います」と匿名条件で語った。「(これから)どうするか。まだ、ちょっとはっきりしないです」 【2月4日 AFP】

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上記にもあるように、日本の貧困は「見えにくい」という特徴があります。

 

****貧しさ、見せない、見ない日本 ロバート・キャンベルさん(日本文学研究者)****

(中略)米国は「持てる者」と「持たざる者」がはっきり分かれた社会です。ただ、所得で住む地域が違って、近くにお金持ちがいなかったので格差は感じませんでした。

 

一方で、日本の貧困の特徴は「見えない」ことだと思います。私は日本に来て35年ほどになります。留学した福岡から1990年代に東京に引っ越した頃、メディアは「十分に食べられない子どもがいる」と伝えているのに、そんな子がどこに暮らしているのかわからないと強く感じました。

 

お金がないことを知られると、子どもが学校でいじめられたり、就職で不利になったりするのではないか。そんな不安を感じさせる社会空間で、人々は貧しさを見せないし、あえて見ないようにもしているのでしょう。

 

この春から、コロナ禍で人々の視界が少しずつ狭くなっているように感じます。生活が安定した人たちはいいかもしれませんが、何かあったら立ちゆかなくなる人もいます。そんな人たちの声が届かなくなり、存在がさらに見えなくなってしまうのではないかと危惧しています。【2020年10月18日 朝日】

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【「この国の福祉制度は全ての国民をカバーしていると言う。制度的にはそうかもしれないが、実際にはそうはなっていない」】

「見えにくい」だけに、行政に当たる者は「耳を澄まし、目を凝らす」必要がありますが、現実はその逆。

明らかに見えている問題すら「あえて見ないようにもしている」ようにも。

 

****コロナ禍で「1日1食」、増える困窮者 備蓄米開放も不十分****

 新型コロナウイルス禍の長期化で収入が減り、その日の食事にも困る人が増えている。支援団体が無償提供する食事の利用者はこの1年で倍増、日本政府は備蓄米の開放に動き出した。

 

それでも行政の動きはまだ鈍く、食を巡るこの国のセーフティネット(安全網)のぜい弱さがコロナであぶり出された格好だ。

<食糧支援の利用者、1月は高止まり>
都内の大学に通う4年生のあゆみさん(本人の申し出により名字は掲載せず)は昨年の夏以降、1日1食の生活を続けている。

 

弟や妹の学費がかかる実家の負担を減らそうと、約10万円の自身の生活費はもともと飲食店でアルバイトをして賄ってきた。しかし、このコロナ禍で外食需要は激減、勤務先は閉店した。清掃のアルバイトを見つけたものの、できる限り切り詰めて生活している。

「飲食業で生活を賄う友人も多く、収入減で生活ぎりぎりとなっている例も少なくない」と、あゆみさんは話す。

こうした状況を受け、日本最大のフードバンク「セカンドハーベスト・ジャパン」は、複数の大学で食事の無償提供を始めた。あゆみさんたちも、月に1回利用できるようになったという。

昨年初めにコロナの感染が拡大し始めてから、この1年で日本社会は様変わりした。コンサートやスポーツ競技など大型イベントは次々と中止に追い込まれ、飲食業や観光業は利用客が激減。

 

帝国データバンクによると、コロナに関連した倒産は1年間で1000件に達した。生活困窮者は以前から増えつつあったものの、コロナ禍で職を失ったり収入が減り、その日の食事にさえ困る家庭や人々が急増した。

東京の足立区では生活資金の相談に区役所を訪れる住民が増え、昨年末12月にはおよそ400件、前年比3割増の問い合わせが舞い込んだ。

 

生活保護の条件には当てはまらないまでも、生活に不安のある人々が相談に訪れているという。区内のハローワークでは飲食や旅行業界で働いていた求職者が増え、失業給付の申請件数は昨年秋に前年比約2割程度、11都府県に緊急事態宣言が再発令された今年1月には同3割程度それぞれ増加した。

セカンドハーベスト・ジャパンによると、個人向けの無償提供件数はコロナ前の2倍以上に増えた。昨春に増えた後、夏はいったん減少したが、昨年の秋以降は増加傾向となり、今年1月は高止まりしている。

政策提言担当マネジャーの芝田雄司氏は「昨年夏ごろまでは政府の特別定額給付金の効果もあったようだが、その後に生活資金が底をついた人たちが増えたと思われる」と話す。非正規就業者やひとり親世帯などに加えて、正社員も残業代がなくなり、4人家族で生活するために食費だけでも節約したいといった事情の人も訪れているという。

<備蓄米開放、1日分にも満たず>
政府も動いている。しかし、就労支援や給付金という制度はあっても、食事ができないというすぐ目の前にある危機に対処する正式な枠組みは、子ども向けとしては存在するが、成人向けにはない。

農林水産省は昨年5月、政府備蓄米の一部を無償提供し始めた。これまで食育用として学校給食向けには交付していたが、コロナ禍を受けて提供対象を広げた。

ところが、その量は1つの支援団体につき年間60キロ、規模の大きいフードバンクでは1団体が提供するコメの1日分にも満たなかった。およそ140団体が受け取っており、全体で100万トン規模の備蓄米のうち、提供量は最大でも10トンに満たないとみられる。

転売などを防ぐ必要があるとして、炊飯で提供する原則も維持したため、使い勝手が悪いとの批判が相次いだ。そこで今年2月、子どものいる低所得家庭に食材を届ける民間支援団体(こども宅食など)を対象に加え、新たに1団体につき年間300キロまで提供することにした。精米を供給することも可能になった。

ただし、こうした備蓄米提供の目的はあくまで「食育」。ごはん食の重要性を子どもに理解してもらうためであって、生活に苦しむ大人はこの安全網には引っかからない。

 

厚生労働省の国民生活基礎調査(2019年)によると、いわゆる貧困層に当たる人々の割合は人口の15.4%を占めている。およそ1900万人に上るとみられ、直近の所得に当てはめると、日本人の平均可処分所得の半分である「貧困線」にも満たない年間127万円未満の所得しかない世帯だ。

セカンドハーベスト・ジャパンのチャールズ・マクジルトン最高経営責任者(CEO)は、「およそ2000万人弱が貧困線以下で生活している実態がある中で、備蓄米の放出を1団体年間300キロという量は侮辱行為だ」と、さらなる放出を求めている。「この国では備蓄米は相当な量だ」と主張する。

<不十分な食の安全網>
一方で、農水省は「備蓄米の交付条件の緩和は難しい」(穀物課)とする。備蓄米はもともと、不作に備えるための制度として作られた。十分に流通している中で備蓄米を大量に提供すると、市場に影響を与える恐れがあると説明する。また、今回の備蓄米提供は「食育」のためであり、貧困対策として実施しているものではないと話す。

困窮者対策を担う厚生労働省も、「現物支給という形での支援は行っていない」(社会・援護局)とする。あくまで地域の実情に応じた困窮者対策として、自治体単位で相談窓口の設置や就労サポートという形の後方支援にとどまる。

米国では、政府の低所得者向け食料補助対策として「フードスタンプ制度」がある。米農務省によると、20年末時点で全人口の1割以上に当たる3570万人程度が受給する。(中略)それでも、その日の食料に事欠く人たちの公的なセーフティネットとなっている。

日本には生活保護という最後の安全網はあるものの、その利用のハードルは高い。緊急避難的に「その日の食事」に困った場合の駆け込み寺は、もっぱらフードバンクやNGO(非政府組織)など民間任せとなっており、公的な「食の安全網」は十分とは言えない状況だ。

「この国の福祉制度は全ての国民をカバーしていると言う。制度的にはそうかもしれないが、実際にはそうはなっていない」と、セカンドハーベスト・ジャパンのマクジルトンCEOは指摘する。【2月9日 ロイター】

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血が通った行政・政治にはほど遠い実態があります。

 

 

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