(アフガニスタン北部クンドゥズ州のMadrasa村で、イスラム武装勢力タリバンが乗っ取った燃料輸送車に対して国際治安支援部隊(ISAF)が攻撃を行った現場を調査する治安部隊隊員ら(2009年9月4日撮影)【2009年9月10日 AFP】)
【NATO 撤退判断を見送り アフガニスタン大統領は歓迎】
アフガニスタンにおいて、アフガニスタン政府に圧力をかけるようなタリバンの攻勢は続いており、アメリカ・バイデン新政権は、トランプ大統領が政権末期に加速させた撤退計画について見直す動きが出ていることは、2月3日ブログ“アフガニスタン 米軍撤退後を見据えた中国との関係 スパイ摘発事件 メス・アイナク鉱山開発問題”でも取り上げたところです。
その後も、アメリカ国内では撤退延期の流れが強まっています。
****米、アフガン撤収期限延長すべき 超党派グループが議会に報告書****
アフガニスタン駐留米軍の削減を巡り、超党派グループは3日、完全撤収期限を5月1日から延長すべきとする報告書を議会に提出した。駐留米軍の削減は、和平協議の進展具合や反政府武装勢力タリバンの暴力削減状況などに応じて行うべきとした。
報告書では、米政府はアフガン和平プロセスを放棄すべきではないとした上で、成功のための条件は、米国とタリバンの2020年和平合意で定めた21年5月1日の撤収期限までには満たされないと指摘。
この期限までに米軍を完全撤収すれば内戦につながり、周辺地域の不安定化を招くとともに国際武装組織アルカイダの脅威を再び高めると警鐘を鳴らした。
超党派グループは議会の要請で設置され、統合参謀本部議長を務めたジョセフ・ダンフォード氏や元共和党上院議員のケリー・アヨッテ氏が共同議長。
ダンフォード氏は、トランプ前政権から留任したアフガン和平担当特別代表ザルメイ・ハリルザド氏などバイデン大統領の補佐官とも報告書の内容を共有したことを明らかにした。
国務省のプライス報道官は、バイデン政権として和平プロセスを「支持する方針」だとした上で、アルカイダとの関係を絶ち、暴力を削減するとともに和平協議を行うとしたタリバンの約束について検証していると述べた。【2月4日 ロイター】
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****全当事者に暴力削減要求=アフガン、拙速な撤収否定―米長官****
オースティン米国防長官は19日、就任後初めて国防総省で記者会見し、アフガニスタン情勢について、「平和への道を選ぶよう全当事者に求める。暴力行為を今すぐ減らさなければならない」と訴えた。
オースティン氏は、反政府勢力タリバンとの和平合意に基づく米軍の全面撤収期限が5月に迫っていることを「意識している」と説明。一方、米国は「持続可能かつ責任ある形での戦争終結」を目指しているとし、「(同じくアフガンに派兵している同盟国の部隊を危険にさらすような)拙速かつ無秩序な撤収は行わない」と強調した。【2月20日 時事】
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こうした流れを受けて、北大西洋条約機構(NATO)はNATO部隊を撤退させるかどうかの判断を見送っています。
****アフガン撤退、判断見送り NATO、治安情勢改善せず****
北大西洋条約機構(NATO)は18日、アフガニスタンに駐留するNATO部隊を撤退させるかどうかの判断を見送った。
反政府勢力タリバーンと米国が昨年結んだ合意に沿い、5月までの撤退を模索しているが、治安情勢が改善せず、撤退か残留かを決められる状況にないとした。
NATO部隊は現在1万人規模で、アフガン部隊の訓練などにあたっている。タリバーンがテロ組織との関係を絶ち、アフガン政府との交渉に取り組んだり、暴力を減らしたりすることが撤退の前提だ。(後略)【2月20日 朝日】
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トランプ前政権はアフガン駐留米軍を1月までに2500人に削減しています。
NATO軍については“北大西洋条約機構(NATO)は、2024年までのアフガン駐留部隊への資金提供を約束している。現在は米軍以外に7500人前後の兵士が駐留しているが、米軍が撤退した後も他のNATO諸国が人員を維持する可能性は低い。”【2020 年 11 月 20 日 WSJ】とのこと。
このNATOの判断を、アフガニスタンのガニ大統領は歓迎しています。
トランプ前政権時代はアフガニスタン政府は無視される形で、アメリカとタリバンの直接交渉で話が進んでいましたので、ようやく自分たちにも目が向けられるようになった・・・という感じのようです。
****アフガニスタン大統領、今が「平和への格好の機会」 BBC独占インタビュー****
アフガニスタンのアシュラフ・ガニ大統領は、北大西洋条約機構(NATO)が駐留部隊を撤退させる最終決定はしていないとしたことを受け、「和平プロセスを加速させる格好の機会」だと述べた。
BBCのリズ・ドゥセット主任国際特派員による独占インタビューでガニ大統領は、NATOの発表は「この紛争のあらゆる関係者が再計算の末に、武力は解決にならないという、我々がずっと前に得ていた答えにたどり着く」機会を与えたと話した。
「我々は政治的な和解にたどり着かなくてはならない」
NATO軍は20年にわたってアフガニスタンに駐留している。現在は1万人の兵士が駐留しているが、アメリカのドナルド・トランプ前政権と反政府勢力タリバンが昨年2月に結んだ合意では、今年5月までに完全撤退することになっていた。しかし、撤退によってタリバンによる暴力行為が加速する懸念が出ている。
ガニ大統領はまた、「ある種の振る舞いは受け入れられないという警告を送る」ために、国際的な「協力体制」が必要だと述べた。一方で、アフガニスタン側が必要とする外国軍の規模や期間などには触れず、「戦争の深刻さによる」と答えた。
ジョー・バイデン米大統領は現在、トランプ前大統領による合意を再検討している。現在アフガニスタンに駐留している外国軍の大半はアメリカ軍ではないが、アメリカの支援がなくなれば、NATOの活動も継続が難しくなる。
アメリカ軍は2001年の同時多発テロの後、タリバン政権を排除するためにアフガニスタンに進攻した。タリバンはその後、勢力を回復し、2018年までに同国の3分の2を支配下に治めた。
アフガニスタン政府は、トランプ政権とタリバンとの協議から締め出されていた。
ガニ大統領は今回、バイデン新政権との関係や、アフガニスタンの将来に対する国際社会の「団結」に「喜んでいる」と話した。
大統領は、政府とタリバン双方が紛争に向けた準備をしていると認めた上で、「団結力こそ、悲劇を招かないために私がよりどころとしているものだ。内戦に陥るのではないかという恐怖があちらこちらにある」と述べた。
一方で、タリバンに軍事力で負ける懸念はないと主張。「ここはヴェトナムではない。政府は崩壊しない」と説明した。
政府とタリバンの和平協議は現在、停滞しており、国内では暴力事件が増えている。しかしガニ大統領は、全体の流れは「希望のあるもので、絶望ではない」と強調した。
国内では、暫定政府がタリバンを迎え入れ、混乱や内戦を避けるべきだとの声が高まっている。
アフガニスタンの大統領は任期5年で、ガニ大統領は2024年に2期目を終える。大統領は自分の任期よりも平和の方が大事だと述べた一方、「未来は机の後ろに座って夢を見ている人ではなく、アフガニスタン国民によって決められるべきだ」と話した。
その上で、平和を実現できるかどうかという点では、向こう1年であらゆる関係者が難しい決断と犠牲を強いられると語った。
「我々は焦燥感を持っており、難しい決断をしようとしているし、その必要が出てきている。この国では40年間暴力が続いている。もうたくさんだ」
<解説>リズ・ドゥセット主任国際特派員
厳重に守られた大統領宮殿では、新たな自信が生まれていた。
トランプ米大統領がアフガニスタン政府よりもタリバンの方が価値あるパートナーだとでも言うようなメッセージを発していた数年間が終わり、ガニ大統領はやっと、自分の話に注目が集まっていると感じている。
しかしアメリカ政府はなお、必要以上に軍を駐留させるつもりはなく、「代償を払う用意をしろ」という警告を発している。
ここで言う代償にはガニ大統領の任期も含まれており、本人もそれを分かっているようだ。しかし、傷だらけの歴史があるにも関わらず、大統領はなお、政権の変化には選挙が必要だと主張している。
いかに迅速に権力共有の合意へ至るかについては、大統領の支持者も反対者も大統領とは別の考えを持っている。数カ月で合意できると事態を楽観視する声もある。一方、双方の溝はあまりにも大きいため相当の努力が必要になるという意見もある。ガニ大統領は後者の立場だ。
しかし、政治を取り巻く空気がどのように変わっても、大統領宮殿の塀の向こう側では、毎日市民が命を落としている。【2月22日 BBC】
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【メディアが大きく取り上げない、20009年の誤爆事件に対する欧州人権裁判所判断】
“大統領宮殿の塀の向こう側では、毎日市民が命を落としている”ことに関しては、タリバンだけでなく、米軍等による誤爆などによる犠牲者も含まれます。
下記はアフガニスタン関連で目にしたイランメディアの記事。
****欧州人権裁判所が、アフガニスタンでの民間人殺害を合法と判断****
欧州人権裁判所が、アフガニスタンで外国占領軍の空爆により殺害された民間人の遺族らの訴えを退け、この攻撃の合法性を認めました。
タスニーム通信によりますと、欧州人権裁判所は、2009年にアフガニスタンで外国占領テロ軍の空爆により民間人約90人が殺害された事件の犠牲者遺族が行った再審請求を棄却して、この行為が国際法に違反していなかったとしました。
アフガニスタン南部カンダハールで2009年、ドイツ軍の司令官が、燃料を積載したタンカー車2台を、人々が燃料を取り出そうと車の周りに集まっていたにもかかわらず、空爆するよう命令しました。
この司令官は、これらのタンカー車は反政府組織タリバンによって盗まれたもので、タリバンがこれを使って外国軍基地の爆破を狙っていたと主張していました。
独立系のアナリストや識者は、欧州人権裁判所の判断を批判し、これは人権の道具化だとして訴えています。【2月18日 Pars Today】
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この事件は2009年9月に起きたもので、ドイツ軍が関与しています。
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■タリバンが強奪した燃料輸送車を空爆
この空爆はアフガニスタン北部クンドゥズ州で今年9月4日、川を渡ろうとして動けなくなったイスラム原理主義組織タリバンが強奪した燃料輸送車に対して現地のドイツ軍指揮官が命じたもので、タリバン戦闘員だけでなく近くに集まっていた近隣住民が多数死亡した。
アフガニスタン政府が9月に発表した報告によるとこの空爆で民間人30人を含む99人が死亡した。空爆の直前にはアフガン駐留米軍のスタンリー・マクリスタル司令官が民間人の犠牲者を避けるようにとの命令を出したばかりだった。
■民間人の犠牲者当然予想できた?
独紙ビルトはタリバンが奪った燃料輸送車が激しく爆発してきのこ雲を上げた直前、民間人がその周囲に集まっていた様子を上空から撮影した動画をウェブサイトに掲載した。
ビルトは、ドイツ軍指揮官が空爆を命じたとき、燃料輸送車の周囲に民間人がいる可能性は排除できなかったという軍の秘密報告書の内容を引用して報じた。NATOの交戦規則ではこのような場合に空爆を命じることはできない。
グッテンベルク国防相は民間人に犠牲者が出ていたという報告が公表されていなかったというビルトの報道を確認し、自身は今月25日に初めてこの事実を知ったと語った。
シュナイダーハン幕僚長が10月下旬に引用した北大西洋条約機構(NATO)の秘密報告書によると、死者は17~142人で、現地消息筋によると民間人の死者は30~40人に上ったとされる。
あるNATO関係者は今月、米軍のF15戦闘機2機が、現場に集まった民間人を驚かせて燃料輸送車の周囲から離れさせるため、低空飛行をさせるよう2度にわたり求めたが、ドイツ軍の指揮官は500ポンド(約227キロ)爆弾を投下するよう命じたことを明らかにした。【2009年11月27日 AFP】
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ドイツ軍の指揮官は“輸送車が自爆テロに使われることを懸念した司令官は、地上で武装勢力と交戦するのはリスクが大き過ぎると判断し、空から輸送車を爆破するよう指示した。”【2009年12月3日 Newsweek】とのこと。
一方で、“2台のトラックは砂地から抜け出せない状態で、さらに厳重な監視下にあったとして、ISAF部隊は切迫した危機にはなかったと結論づけた”【2009年9月10日 AFP】とのことで、“北大西洋条約機構(NATO)は予備調査を実施し、空爆を命じたドイツ軍の大佐が行動規定に違反したと結論づけた”【同上】とも。
日本と同様にドイツも軍の国外派遣には極めて慎重で、NATOの“お付き合い”もあるのでアフガニスタンに派兵はするものの、ドイツが関与するのは北部で市民による復興を支援する「良い」任務、もう1つの南部で米英軍が汚い戦争を遂行して市民の命をいたずらに奪う「悪い」任務には加担していない・・・という国民向け説明でした。
交戦規定も厳しく、武器使用は大きく制約されていました。
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国連とNATOに協力してアフガニスタンの治安を守りつつ、国民の平和主義を納得させるために、政府は軍が実戦に巻き込まれないように予防策を張り巡らせてきた。
今年(2009年)7月に国防省が交戦規定を変更するまでは、兵士の武器使用を国内の警察官より厳しく制限。そのせいで本来の使命であるアフガニスタンの治安維持さえままならなかった。
当初、ドイツ兵は差し迫った危険から自分の身を守る場合しか武器を使えなかった。逃走する暴徒を追い掛けることもできず、敵が爆弾を準備していても、差し迫った危険がなければ阻止することさえ許されていなかった。違反すれば、ドイツ国内の民間法廷で訴追されることになっていた。
規定の変更前は、兵士は英語、ダリ語、パシュトゥー語でそれぞれ2回ずつ大声で警告しなければならなかった。ドイツに帰国したある兵士は、この規定が部隊を命の危険にさらしていたと語る。
彼の部隊では、間違えて使うことを恐れて自分の武器を壊す兵士がいた。危機的状況でどんな行動が許されるのか分からずに混乱する兵士もいた。「敵との戦闘より自国の規定のほうが怖かった」【2009年12月3日 Newsweek】
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また、ドイツ軍のトルネード戦闘機6機をアフガニスタンに派遣したものの
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軍事的にも戦略的にも明確な目的はなく、ドイツのさらなる貢献を要求する多国籍軍をなだめるためだけの行為だという。
議会は偵察飛行だけを認め、収集した情報を将来の空爆に使わないことを条件とした。クンドゥズの事件でドイツの地上軍は、近くにドイツ軍機が待機していたにもかかわらず、米軍に空爆を要請しなければならなかった。【同上】
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こうしたドイツにとって、2009年の事件は、戦争に参加することの「現実」を突きつけるものでもありました。
2009年の事件が合法かどうかを議論する見識は持ち合わせていません。
ただ、民間人犠牲と言う点でも、ドイツに与えたインパクトにおいても、欧州人権裁判所の判断は注目されていいものだと思いますが、この件を扱った記事は、欧米に批判的なイランメディアしか目にしていません。
メディアによって提供される情報には、大きな「偏り」があるのかも・・・という感も。