孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

新疆ウイグル自治区の人権問題、人権重視を掲げる米新政権で大きな問題にも

2021-02-05 22:28:21 | 中国

(中国・ウイグル族収容所と思しき施設【1月25日 WEDGE Infinity】)

 

【北京で盛り上がる五輪ムード 人権団体からはボイコットのよびかけも】

開催まで半年を切った東京オリンピックの方は新型コロナ感染収束のめどが立たず、おまけに森会長の発言もあったりで、まったく盛り上がりを欠いていますが、22年2月開催と、1年後の北京オリンピック・パラリンピックの方は、新型コロナを抑え込んでいる自信もあって、大いに盛り上がっているようです。

 

*********************

一年後の2022年2月4日に開幕予定の北京オリンピック・パラリンピックに向けて、市内に大型時計が設置され、カウントダウンが始まりました。また、関連グッズの販売店も正式に営業を開始し、多くの中国メディアが取材のために集まりました。

 

市民は「自信はあります。中国はきっととても素晴らしい冬季五輪を開催できると思う」グッズを買いに来た市民からは、早速期待の声が上がるなど早くもオリンピックムード全開です。

 

新型コロナウイルスの感染拡大を抑え込み、冬の五輪開催に自信を見せる中国。

 

一方、香港や新疆ウイグル自治区などでの人権抑圧を理由にボイコットをよびかける動きも出ていて、中国政府は神経を尖らせています。【2月5日 FNNプライムオンライン】

*********************

 

現段階ではまだ大きな流れとはなっていませんが、北京大会実施に暗い影を落としているのが、記事最後に書かれている人権抑圧を理由としたボイコットのよびかけ。

 

****北京五輪ボイコットを、人権団体が公開書簡 中国は「無責任」と反発****

来年開催予定の北京冬季五輪について、約180の人権団体などが3日、中国における人権問題を理由にボイコットするよう各国首脳に呼び掛ける書簡を公開した。(中略)

 

中国に対しては、新疆ウイグル自治区でのイスラム系少数民族の強制収容や香港での民主派弾圧など、さまざまな問題で国際社会から厳しい目が向けられている。

 

世界ウイグル会議や国際チベットネットワークなど約180の団体が署名したこの公開書簡は、「五輪が悪用され、中国政府によるおぞましい人権侵害や弾圧がエスカレートする」ことがないよう、各国首脳に同大会のボイコットを求めている。

 

さらに、2015年に北京が22年冬季五輪の開催都市に選ばれて以来「習近平国家主席が基本的な自由と人権に対する容赦ない弾圧に及んでいる」と訴えた。

 

公開書簡を受けて、国際オリンピック委員会はAFPに宛てた文書で、人権などをめぐるこうした懸念については「中国政府および現地当局に対し、過去にもまた現在も指摘を続けている」と説明した。

 

また中国外務省の汪文斌報道官は「政治的動機に基づき、大会準備の妨害や中断を狙う試みは、非常に無責任だと指摘しておきたい」と述べるとともに、「こうした動きは国際社会の支持も得られなければ、成功もしないだろう」と断じた。【2月4日 AFP】

******************

 

【前政権のジェノサイド認識を引き継ぐ米新政権 人権重視で厳しい対応も】

その新疆ウイグル自治区でのイスラム系少数民族ウイグル族弾圧の問題。

 

アメリカ・トランプ前政権は対中国強硬路線の一環というか、ひとつの「カード」として、この問題を前面にだしていましたが、政権終了直前に「ジェノサイド」(大量虐殺)と認定しました。

 

****米国務長官、中国のウイグル弾圧「大量虐殺」認定 新政権に対中強硬路線継承****

ポンペオ米国務長官は19日、中国政府による新疆ウイグル自治区でのイスラム教徒の少数民族ウイグル族らの弾圧について、国際法上の犯罪の「ジェノサイド(大量虐殺)」であり「人道に対する罪」と認定した。

 

中国の反発は必至だ。20日の政権交代を前にトランプ政権は駆け込みで認定し、バイデン新政権にも対中強硬路線を引き継ぎたい考えだ。

 

ポンペオ氏は声明で、中国が遅くとも2017年3月以降、ウイグル人やその他の少数民族らに対する弾圧を「劇的にエスカレートさせた」と主張。そのうえで100万人以上を強制収容してきたと指摘し、不妊手術、強制労働、拷問、信仰・表現の自由への厳しい制限などを加えてきたとした。

 

大量虐殺や人道に対する罪は「現在も行われている」とし、「弱い立場の少数民族らを強制的に同化させ、最終的には抹殺しようとしている」と強調した。

 

今回の認定について、バイデン政権の国務長官に指名されているブリンケン元国務副長官も19日の上院公聴会で「賛成する」と述べた。【1月20日 毎日】

**********************

 

記事最後にあるように、バイデン新政権もこの認識を引き継いでいます。

 

「ディール(取引)」重視のトランプ前政権の場合、状況如何では「カード」の扱いが大きく変わることがありますが、(少なくとも建前上は)人権重視を前面に押し出しているバイデン政権にあっては、「重み」が増します。

 

バイデン大統領は外交政策に関する演説で人権問題をあげて、中国はアメリカの繁栄や安全保障、民主的価値観に挑戦しているとも述べています。

 

****バイデン氏、中国は「最も重大な競争相手」…対ロシア「無抵抗な時代終わった」****

(中略)バイデン氏は冒頭、「中国は米国と競う野心を抱き、ロシアは我が国の民主主義に打撃を与えようとする強い意思を有する。権威主義の高まりに立ち向かわなければならない」と述べた。

 

中国については、強圧的行動や人権、知的財産の侵害を通じて「米国の繁栄や安全保障、民主的価値観に挑戦している」とし、「我が国は直接的に対抗する」と語った。

 

一方で「国益にかなうなら中国政府と協力する用意がある」と述べた。気候変動問題などを念頭に置いているとみられる。(後略)【2月5日 読売】

**********************

 

【新疆で不妊手術急増】

「100万人以上を強制収容」云々は以前からの指摘ですが、ここにきて大きく取り上げられているのが強制的な不妊手術の問題。

 

****ウイグルで急増する不妊手術 米「ジェノサイド」と非難****

中国政府が「一人っ子」政策を廃止して出産の奨励を進めるなか、新疆ウイグル自治区で女性の卵管や男性の輸精管を縛る不妊手術が急増していることが中国政府の統計で明らかになった。

 

米国政府などはウイグル族を民族として消滅させようとする「ジェノサイド(集団殺害)」だとして非難しており、米中間の新たな対立点にもなりそうだ。

 

中国政府が発行する「中国衛生健康統計年鑑」によると、同自治区で行われた卵管を縛る手術は2014年の3139件から18年は6万件弱となり、5年で19倍に急増した。

 

男性の輸精管を縛る手術は75件から941件に、子宮内避妊器具(IUD)の装着も20万件から33万件に増加した。

 

18年の自治区総人口は2487万人でウイグル族は半数の1272万人を占める。不妊手術の民族別の統計は明らかにされていない。

 

中国政府は1970年代末から出産を厳しく制限する政策を続けたが、人口減少や高齢化への懸念から2016年に方針を転換。現在は民族の違いにかかわらず、都市部では2人まで、農村部では3人までの出産を認めている。

 

そうした状況から、中国全土では不妊手術やIUD装着が減少傾向にあり、卵管の手術は14年に147万件だったのが18年は40万件に、IUDの装着も85万件から38万件まで減った。そのなかで新疆ウイグル自治区の伸びは突出している。

 

自治区政府は反発

背景は不明だが、同自治区の動向を研究するドイツの学者は、昨年6月の報告書でデータや証言から「ウイグル族に対する強制的な不妊手術や中絶が行われている」と指摘した。

 

これに対し、自治区政府は「ウイグル族の人口は10~18年の8年間で254万人増えた」などと反発しているが、人口の増加は鈍化している。自治区内の人口1千人あたりの出生率は一貫して中国全土の平均を上回ってきたが18年に下回り、19年は内陸部で最低となった。

 

米国のポンペオ前国務長官が1月の退任直前、ウイグル族などに対する同化政策が進み、「ジェノサイド」が行われていると批判したのもこうした状況を踏まえてのこととみられる。バイデン政権移行後もブリンケン国務長官が「同じ認識だ」と、前政権の判断を引き継ぐ考えを示しており、今後、米中間の大きな火種になる可能性がある。

 

同自治区では17年に「脱過激化条例」が施行され、欧米諸国ウイグル族などに対する強制的な職業訓練や思想改造が展開されていると批判してきた。

 

英BBCは3日、被害者らの証言をもとに「再教育施設」で集団レイプが行われていたと報道。中国外務省の汪文斌副報道局長は4日の会見で「女性に対する性的暴行や虐待など全く存在しない。人権の尊重は中国憲法に規定された基本原則だ」と強く反発した。【2月5日 朝日】

*********************

 

【「再教育施設」における集団レイプ・拷問】

不妊手術問題に加えて表面化したのが、イギリスBBCが報じた上記記事最後にある「再教育施設」における集団レイプなどの問題。

 

****ウイグル女性、収容所での組織的レイプをBBCに証言 米英は中国を非難****

中国西部・新疆ウイグル自治区の収容施設に入れられたウイグル族の女性らが、組織的なレイプ被害を受けたとBBCに証言した。この報道を受け、米英などの政府は「深く憂慮している」などと懸念を表明している。

 

新疆ウイグル自治区の収容施設では、ウイグル族などの少数民族100万人以上が拘束されていると推測されている。

BBCは3日、収容施設で警官や警備員らから組織的にレイプや性的虐待をされたとする女性収容者たちの生の証言を報じた。

 

これに対し中国外務省は、BBCの報道を「間違った報道」とし、告発内容は事実ではないと述べた。

同省の汪文斌報道官は、「女性に対する組織的な性暴力や性虐待はまったくない」と話し、中国国内のすべての施設は人権ガイドラインに沿って運営されていると説明した。

 

さらに、「中国は法治国家であり、人権は憲法で保障され守られている。そのことは法制度に盛り込まれており、政府はその法制度の下で機能している」と述べた。

 

女性たちの証言

収容施設から解放された後、アメリカに渡ったトゥルスネイ・ジアウドゥンさんは、収容施設では「毎晩」女性たちが連れ出され、覆面をした中国人の男にレイプされていたと話した。

彼女自身、拷問を受け、2〜3人の男たちに集団レイプされたことが3度あったという。

 

カザフ族で新疆省出身のグルジラ・アウエルカーンさんは、収容施設に1年半入れられた。収容中、ウイグル族の女性たちの服を脱がせ、手錠をはめることを強いられた。女性たちは、中国人の男らがいる部屋に置き去りにされたという。

 

「(男たちは)かわいくて若い収容者を選ぶために金を払っていた」、「男たちは私に、彼女たちの服を脱がせて手を動かせないようにした後、部屋を出るよう命じた」

 

収容施設の1つで警備員として働いた人物は、匿名を条件に、拷問や食事を与えないなどの虐待があったと語った。

 

中国政府の新疆政策に詳しいアドリアン・ゼンツ氏は、BBCが取材で得た証言について、「残虐行為が始まって以降に私が見た中で、最も恐ろしい証拠だ」と話した。

「私たちが想像していたよりも明らかに深刻なレベルで性的虐待と拷問が行われていたことを示す、信頼できる詳細な証拠だ」

 

米英が非難

BBC報道を受け、アメリカでは国務省の報道官が3日、「ウイグル族などのイスラム教徒を収容する新疆の施設において、女性に対して組織的なレイプや性的虐待があったという、直接的証言を含む報道を深く憂慮している」と述べた。「こうした残虐行為は良心を揺さぶるものであり、重大な責任が問われなくてはならない」

 

イギリスでは4日、ヌス・ガーニ下院議員が議会の緊急質問で、「これらの恐ろしい話によって、中国当局が新疆で行った、集団虐殺にも相当し得る残虐行為に関する多数の証拠がさらに増えた」と訴えた。

 

ガーニ氏は、ナイジェル・アダムス外務閣外相(アジア担当)に「こうした犯罪に対する法的な調査が完全に実施されるまで、中国との関係を深めることは一切しないと今日約束する」ことを求めた。

 

これに対しアダムス氏は、政府が「中国の責任を問う国際的な取り組みをリードしている」と説明。

「BBCの報道を目にした誰もが、明らかに邪悪な行為に動揺し、心を痛めたはずだ」とし、欧米各国と協調して中国に圧力をかけ続けていくと述べた。

 

豪州も調査求める

オーストラリアのマリス・ペイン外相もBBCの報道に言及。国連の監視団が「直ちに」新疆ウイグル自治区に入ることが許可されるべきだと述べた。(中略)

 

人権団体は、中国政府がウイグル族から信仰などの自由を徐々に奪っていると主張。大規模な監視や拘束、思想教育、さらには強制不妊が行われているとしている。

 

国際刑事裁判所は昨年12月、集団虐殺や人道に対する犯罪について中国を捜査するよう求める、国外に逃れたウイグル族の人々から出された申請を退けた。中国は同裁判所の権限が及ばないというのが理由だった。

 

今年1月には、退陣間際のトランプ米政権が、中国はウイグル族に対して集団虐殺を行ったと認定。現在のバイデン政権も、同じ立場を取っている。

 

中国は一貫して新疆における人権侵害を否定。収容施設は拘束施設ではなく「職業教育と訓練のセンター」だとしている。【2月5日 BBC】

***********************

 

“電気棒を肛門に突っ込むなど、電気ショックを使った拷問も行われていた。”【2月5日 AFP】とも。

 

中国国内統治の核心にも触れる人権問題が前面に出てくると、良くも悪くもトランプ前政権のような「融通無碍」な対応は難しくなります。

 

バイデン政権は、「自由」や「民主主義」という観点からも、中国に対抗する構えだ。ブリンケン氏は、「民主主義の米国」と「権威主義の中国」という対立構図を示し、「我々が後退すれば彼らがこの世紀のあり方を定義することになる」と語った。”【1月26日 朝日】

 

“大統領選中にトランプ氏は「バイデンは中国の言いなりだ」と主張してきたが、ブリンケン氏の発言は、批判をはね返そうとした形だ”【同上】という「弱腰批判の払拭」の側面も指摘されています。

 

【香港問題もあって、イギリスと中国の関係も悪化】

米中関係だけでなく、昨日ブログでもとりあげた、香港市民にイギリス市民権を獲得できる道を開く、新たな特別査証(ビザ)などの香港問題に加えて、上記BBC報道や中国国際テレビ(CGTN)の放送免許取消問題があって、イギリスと中国の関係も急速に悪化しています。

 

****中英関係、今度は報道機関巡りさらに悪化 BBCやり玉に****

中国政府による香港の民主派弾圧などを背景に中国と英国の関係が悪化する中、今度は報道機関を巡って緊張がさらに高まった。中国の当局者やソーシャルメディアは5日、英公共放送のBBCをやり玉に挙げた。前日には英国のメディア規制当局が中国国際テレビ(CGTN)の放送免許を取り消していた。

英メディア規制当局である英放送通信庁(Ofcom)は4日、中国国営中央テレビ(CCTV)の英語版姉妹チャンネルであるCGTNの放送免許を取り消したと発表。調査の結果、中国共産党が番組の最終的な編集権を握っていることが結論付けられ、英放送法に反すると説明した。

中国は即時に反発。Ofcomの発表から数分後、BBCによる新型コロナウイルスを巡る報道を「フェイク(偽)ニュース」と主張し、BBCに対し「厳重抗議」を行い、公に謝罪するよう求めたと発表した。

中国外務省は、1月29日に放映された新型コロナに関する報道について、BBCが「パンデミック(世界的大流行)と政治を結び付け、中国による隠蔽説を蒸し返した」と不満を表明した。

これに対してBBCは報道は公平で不偏だとしている。

中国共産党系タブロイド紙「環球時報」の胡錫進編集長はツイッターで、「私はBBCが米英の情報機関に扇動されていると強く疑っている。BBCは西側の中国に対する世論戦争のとりでとなっている」と主張した。

中国のソーシャルメディア「微博(ウェイボ)」では5日、外務省のBBC批判がトップトレンド入り。

同省の趙立堅報道官は「BBCは『口の悪い放送協会(Bad-mouthing Broadcasting Corporation)』になるべきではない」とツイート。BBCの正式名称は英国放送協会(British Broadcasting Corporation)だ。

BBCは大半の主要な西側報道機関と同様、中国で放送をブロックされている。

一部ではCGTNの放送免許取り消しに対抗してBBCを追放するよう呼び掛けられている。

BBCを巡っては、新疆ウイグル自治区を巡る3日の報道でも批判を受けている。報道によると、同自治区のウイグル族といったイスラム教徒向けの収容施設にいる女性がレイプや拷問にさらされている。

中国外務省は報道について、事実に基づいていないと指摘。5日付の環球時報は論説で、「(BBCは)ジャーナリストとしての倫理観に深刻に反した」とした。【2月5日 ロイター】

*******************

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする