孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

オーストラリア・中国の関係は政治的には「どん底」 関係改善はすぐには期待できず

2020-09-20 22:54:11 | オセアニア

(【8月6日 日経】 関係悪化にもかかわらず、オーストラリアから中国への輸出額は増加している。6月の輸出額は過去最高を記録)

 

【「どん底」の豪中関係】

保守政権のオーストラリアと中国の政治的関係が険悪となっていることは、

5月23日ブログ“中国・オーストラリア関係 米中対立が飛び火した形で中国による報復的な輸入制限措置へ

6月26日ブログ“オーストラリア  相次ぐ問題で豪中関係は悪化の一途 親中派議員の家宅捜索も

でも取り上げましたが、その後も悪化は止まることなく「どん底」(豪公共放送ABC)状態ともなっています。

 

そのあたりの報道は連日のように目にしますが、今日も・・・

 

*****豪州、中国の政界工作疑惑で捜査 外交官が地方議員顧問と共謀か****

オーストラリアで中国外交官による政界への工作疑惑が浮上し、現地捜査当局が実態解明に乗り出した。豪州ではこれまでも中国の工作疑惑が浮上。

 

豪州が新型コロナウイルスの国際的な調査を求めたことで「どん底」(豪公共放送ABC)と呼ばれるほど悪化する豪中関係だが、さらなる冷え込みは避けられない状況だ。

 

9月以降の豪州メディアの報道によると、豪捜査当局は在シドニー中国総領事館の外交官が、東部ニューサウスウェールズ州議会上院の野党・労働党に所属しているモーセルメイン議員の政策顧問と共謀し、国内政治に干渉しようとした疑いがあるとみている。政策顧問は中国系豪州人だという。

 

モーセルメイン氏は親中派議員として知られており、新型コロナ対応めぐって、中国の習近平国家主席の指導力を称賛する発言も行っている。

 

捜査当局は6月、モーセルメイン氏の関係先を家宅捜索。ABCによると、政策顧問宅から押収したパソコンや携帯電話には、中国の外交官とやり取りしたメッセージが残されていたという。また、政策顧問とつながりがあった可能性がある国営新華社通信など駐豪中国メディア記者の自宅も捜索したもようだ。

 

疑惑をめぐって中国外務省の汪文斌(おう・ぶんひん)報道官は今月16日の記者会見で、捜査を進める豪州に対して、「中国大使館・領事館の正常な職務履行を政治化したり汚名を着せたりすることを止め、中豪関係に新たな厄介事と障害を作り出さないよう求める」と反発した。

 

豪州では昨年11月にも、中国の情報機関が総選挙(昨年5月実施)に中国系豪州人の30代の男性を立候補させようとしていた疑惑が判明。男性は豪保安情報機構(ASIO)に対応を相談したが、その後にホテルで死亡しているのが見つかった。

 

モリソン政権は相次ぐ中国による工作疑惑に警戒感を強めており、昨年12月には内政干渉を発見し、捜査するための新組織を設立する方針を発表していた。【9月20日 産経】

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オーストラリアと中国の間には、オーストラリアがアメリカ・トランプ政権に協調する形で中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)の排除に乗り出したほか、オーストラリア国内における中国の諜報活動や地位乱用にオーストラリア世論が不満を訴えるなどの問題がありましたが、新型コロナウイルスのパンデミックの発生源と対応についてオーストラリアが中国の影響力が強いWHOから独立した調査を要求したことで、中国側が“キレた”ような感じで、一気に関係悪化が進行しています。それに並行して、オーストラリア国内の対中国批判も高まることに。

 

****中国、豪州への「圧力」次々 旅行にブレーキ・牛肉輸入停止・大麦関税 コロナ対応の調査要求に反発?****
中国がオーストラリアとの人や物の行き来にブレーキをかけている。豪州では「新型コロナウイルスなどを巡る豪州の厳しい対中姿勢を封じ込めようとしている」との見方が広がる。最大のビジネス相手からの「圧力」に悩みは深いが、中国依存から脱却すべきだとの声も高まっている。

 

中国政府は5日、自国民に豪州へ旅行しないよう促す注意喚起をした。新型コロナウイルスの影響で「中国人らへの差別や暴力行為がエスカレートしている」との理由からだ。(中略)
 
アジア系に対する差別問題は2月以降、豪州でも表面化した。だが、豪州が感染抑止に成功したことが顕著になった5月以降は沈静化。

 

豪州のバーミンガム貿易・観光・投資相は6日、中国政府の主張には「根拠がない」と反発した。中国人は、年間の観光客(約140万人)と留学生(約20万人)の数がともに国別で最多で、豪州の観光・教育産業を支える存在だ。
 
中国は5月、貿易を巡って次々と豪州に厳しい手を打っていた。「検疫に違反する状況があった」として12日、豪州の食肉大手4社からの輸入を停止。19日には豪州産大麦に反ダンピング(不当廉売)関税と反補助金関税を発動した。
 
大麦のダンピング調査が始まったのは2018年10月。豪政府が、次世代通信網5Gの事業に中国の華為技術(ファーウェイ)が参入するのを禁止した2カ月後だ。牛肉の措置は、豪政府が4月に中国の新型コロナ対応について国際的な調査を要求した直後だった。
 
バーミンガム氏は牛肉に関し、「技術的なミス」と反論。大麦については、ダンピングの根拠として豪政府による灌漑(かんがい)施設整備の支援策を挙げたことに「完全にばかげている」と応じた。大麦の大半は灌漑施設なしに生産されている。
 
パース米国アジアセンターのジェフリー・ウィルソン研究部長は「政治的な動機がある貿易上の制裁だ」とみる。

 

 ■豪に依存脱却論も
豪州にとって中国は貿易額の4分の1を占める最大の「顧客」で、農産物や鉱物の主要輸出先だ。大麦は輸出の7割が中国向けだった。

 

全国農業者連盟は「両国による早期の問題解決を望む」と難しい立場をのぞかせるが、ウィルソン氏は「豪州は代わりの輸出先を拡大すべきだ。選択肢はたくさんある」と指摘する。
 
対中関係をめぐって豪州では近年、政治献金を通じた豪政界への親中政策の働きかけや、周辺の島国へのインフラ支援攻勢を通じた影響力の強化についても危惧する声が出ていた。
 
中国外務省の華春瑩報道局長は8日の会見で、「健全で安定した中豪関係は両国の利益にかなう。豪州側が中国と歩み寄り、互いを尊重し、平等・ウィンウィンの原則で協力するよう希望している」と述べた。
 
ニューサウスウェールズ大のティム・ハーコート研究員は、中国が経済力を背景に豪州の主張を封じ込めようとしていると批判する。「通商政策を使って外交ゲームを続ければ、結局は自国の利益を害するだろう」【6月9日 朝日】

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****オーストラリア人の中国に対する信頼感が急減、世論調査で明らかに―仏メディア****

仏RFIの中国語版サイトは24日、「外交と貿易摩擦の影響によりオーストラリア人の中国に対する信頼感が急減したことが、世論調査結果で明らかになった」とする記事を掲載し、次のように伝えている。 

豪シドニーのシンクタンク、ローウィ研究所が24日公表した年次世論調査によると、外交と貿易摩擦の影響により、中国政府が国際舞台で責任ある行動を取っていると信頼しているオーストラリア人の割合は、2年前の52%から23%へと半分以上も減った。 

2つの貿易相手国間の対立が高まる中、この日公表された調査結果は、オーストラリア人の中国に対する信頼感が過去最低にまで落ち込んだことを示している。 

仏AFP通信によると、ローウィー研究所幹部のマイケル・フュリラブ氏は、「わが国最大の貿易相手国、中国に対する信頼は急激に下がった。中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席への信頼はさらにもっと落ちている」と述べた。 

AFP通信は、「中国は、習主席のもとでより積極的になり、北京はその高まる経済的力を政治的、外交的、軍事的な力に変換しようとしている」と伝えている。 

だが、中国の「筋肉」誇示は、インドとの国境での小規模衝突からオーストラリアとの外交上の溝まで、近隣諸国との一連の対立を悪化させている。 

特に、オーストラリアが新型コロナウイルスの発生源について国際的な調査を求めたことを受け、オーストラリアと中国との間の外交関係は悪化している。(中略) 

調査によると、回答者の94%が政府は貿易多様化で中国への経済依存度の低下に努めるべきと答え、82%が人権侵害に関与した中国当局者への制裁を支持した。 

公式統計によると、中国はオーストラリアの貿易総額の4分の1を占めており、オーストラリアの鉱物は中国の重工業と燃料動力の開発を支えている。(中略) 

ロイター通信によると、トランプ米大統領はオーストラリア人の間であまり人気がないが、この調査では、米国との安全保障同盟を支持するとの回答が前回から6ポイント上昇して78%となったことも分かった。また対米関係は対中関係よりも重要との回答は55%、対中関係が重要としたのは40%だったことも分かった。【6月25日 レコードチャイナ】

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上記記事以降の主だった動きについて、記事見出し・要点を並べてみると・・・

 

“親中派議員に家宅捜索=モリソン首相「内政干渉を阻止」―オーストラリア”【6月26日 時事】

(冒頭【産経】記事にある中国外交官による政界への工作疑惑のスタートとなった捜査)

 

“豪州、10年間で国防費40%増へ 中国けん制か”【7月2日 CNN】

(モリソン同国首相は首都キャンベラの国防大学で演説し、豪州は第2次世界大戦以降、最も厳しい国際情勢に直面しているとの危機感を表明。中国の脅威増大には直接触れなかったが、中国が主権論争に絡むインドとのヒマラヤ地域での国境線係争、南シナ海や東シナ海情勢に言及。「誤算に加え紛争勃発(ぼっぱつ)のリスクも増えている」とし、インド太平洋地域を「我々の時代において主要な国際的競争の中心」と位置付けた。)

 

“豪、中国への渡航に注意喚起 「恣意的な拘束」のリスク”【7月7日 ロイター】

(豪当局の「スマートトラベラー」のサイトでは「中国当局は外国人を、国家の安全を脅かしたとして拘束したことがある」と警告。7日には外務貿易省が新たに「豪国民には、恣意的な拘束に遭うリスクもある」との警告を追加した。)

 

“オーストラリアが「中国旅行で捕まるリスク」指摘、中国大使館「滑稽」―米華字メディア”【7月10日 レコードチャイナ】

((上記の豪対応に関し)中国大使館の報道官は「滑稽で、完全な虚偽情報だ」と一蹴。全ての在中外国人について「法規を守りさえすれば心配する必要は皆無」とした上で、「当然のことながら、薬物の取引やスパイなどの違法活動を行った者は他の国と同様、法に基づく処分を受ける」と表明した。)

 

“中豪関係の「暗い影」を懸念、公正な投資環境望む=中国の駐豪公使”【8月26日 ロイター】
(同公使は「冷たい心と暗い考え方が、われわれのパートナシップに影を落とすことがあってはならない」と発言。中国がオーストラリアからの輸入を一部制限していることについては「経済による強制」ではないと説明。オーストラリアが新型コロナウイルスの発生源に関する国際的な調査を呼び掛けたことについては「中国だけを標的にしている」との認識を示した。)

 

“中国当局、国営チャンネルの豪州人キャスターを拘束”【9月1日 朝日】

((拘束された)チャン氏は中国からの移民。豪州国籍を取得後、中国に戻り、最近では、CGTNのビジネスニュース番組のキャスターを務めていた。)

 

“豪州が「国益反する」外国との協定破棄へ法整備 「一帯一路」や孔子学院に影響も”【9月2日 産経】

(オーストラリア政府は、国内の地方自治体などが外国政府と締結した協定について、政府が「国益に反している」と判断した場合、破棄できる法律の導入を計画している。外国の影響力拡大を防ぐ狙いがあり、国内への浸透を図る中国を念頭に置いていることは間違いない。

モリソン首相は法案は「中国を標的にしていない」と強調しつつ、他国との協定に関しては「1つの声で話し、1つの計画に沿って行動することが重要だ」と、政府に一元化していく方針を明確に示した。)

 

“豪国防相、国内のサイバー攻撃が増加と指摘”【9月4日 ロイター】

(豪政府は6月、サイバー対策を強化する方針を表明。モリソン首相はその際、同国の政府や政治団体、重要なサービスの提供者、基幹インフラの運営者に対し、「国家を基盤とする」高度なサイバー攻撃が何カ月にもわたって企てられてきたと語った。関係筋によると、政府は中国が攻撃元だと考えている。中国は疑惑を否定している。)

 

“中国、豪記者2人を「追放」 出国禁止措置後に尋問 外交悪化で「嫌がらせ」か”【9月8日 毎日】

(2人の帰国により、中国に駐在する豪メディアの豪州人記者は一人もいなくなった。

中国外務省の趙立堅副報道局長は8日の定例記者会見で、2人が「関連機関」の調査を受けたことを認めたうえで「通常の法執行の一環だ」と述べた。)

 

“豪当局による家宅捜索、中国人記者の権利を侵害=中国外務省”【9月9日 ロイター】

(中国外務省の趙立堅報道官は9日、オーストラリア当局が6月に中国国営メディアの記者の自宅を捜索したとの報道について「露骨な非理性的行為」で、記者の権利を侵害していると非難した。)

 

まさに「どん底」と言うか、「両者、足を止めてリング中央で打ち合い」といった感があります。

 

【米の対中戦略に協力し、日米との連携を強める豪への中国の苛立ち 豪政府の姿勢には国内世論支持があり、関係改善はすぐには期待薄】

豪中関係は経済的には“中国はオーストラリアの貿易総額の4分の1を占めており、オーストラリアの鉱物は中国の重工業と燃料動力の開発を支えている。”というきわめて緊密な関係にありますが、中国側の経済的圧力に対しても“オーストラリアのスコット・モリソン首相は(6月)11日、中国人観光客や留学生らが豪にもたらす巨額の利益を中国側が抑え込もうとする動きを見せていることを受けて、経済的な「威圧」の試みにひるむことはないと明言した。”【6月11日 AFP】ということで、当分、この「どん底」状態が続きそうです。

 

****中国と豪州、過去最悪の関係 経済から安保までなぜ一変****

中国とオーストラリアの外交関係に緊張が走っている。長らく貿易強化を柱に良好な関係が続いたが、対中攻勢を強める米国と足並みをそろえる豪州に中国が反発。対立は経済分野から人権や報道の自由、安全保障にも広がり、両国関係は「過去最悪」との見方も出ている。(中略)

 

豪州では最近の両国関係について、天安門事件を非難し2万7千人の中国人学生を受け入れた「1989年以来で最悪の危機」(オーストラリアン紙)との見方も出ている。

 

中国、5G巡る米国追従に反発

米国との対立が強まる中国は近年、その対応に集中するため周辺国との関係改善に動いてきた。尖閣諸島を巡ってぶつかる日本や、国境地帯で衝突が続くインドなどとも決定的な対立を避けようとするなか、豪州には攻勢を強めている。

 

その理由について、中国外交当局者は二つの要因を挙げる。

一つは、豪州が米国の対中戦略に最も協力的であることだ。

 

トランプ政権が諜報(ちょうほう)機関の情報を提供しあう「ファイブ・アイズ」(米、英、豪、カナダニュージーランド)の他の国々に中国の華為技術ファーウェイ)機器を使わないよう求めると、豪州は2018年8月に次世代通信規格5Gの整備で、他国に先駆けて華為排除に動いた。外交当局者は「米国にどこまで付き合うかは、英国やカナダに迷いも見られる。だが豪州にはそれがない」と話す。

 

もう一つは豪州が、日米のインド太平洋戦略に呼応するように、安全保障面での連携を強めている点だ。

 

中国は18年に豪州主導の多国間軍事演習「カカドゥ」に初参加するなど防衛交流を進めてきたが、そうした動きは止まりつつある。逆に豪州は7月、南シナ海と西太平洋で日米との合同演習に参加し、中国への対抗姿勢を強めた。

 

豪州、安保情報の流出に強い懸念

豪州は最大のビジネス相手として中国との関係を重視し、13年からギラード、アボット両政権ではほぼ毎年、首脳の相互訪問を続けてきた。

 

中国に対して明確な強い姿勢に転じたのは、ターンブル前政権下の18年だ。華為の5Gへの参入禁止に先立ち、同年6月には、外国政府の意を受けて政策決定のプロセスに影響を与える行為を厳罰化した。

 

当時、サイバー攻撃や基幹インフラへの中国企業の参入、政治献金を通じた政治家への働きかけなどを通じ、安全保障に関わる情報などが中国に渡っているという懸念が急速に広がっていた。

 

近隣の太平洋の島国に中国がインフラ支援攻勢をかけ、影響力を広げていることへの危機感も強い。18年には、中国の援助で建設されたバヌアツの港を中国が海軍の拠点として使う可能性が報じられ、物議を醸した。豪政府はパプアニューギニアやフィジーで軍の基地施設の整備を支援するなど対抗している。

 

経済界は中国による輸入制限などにあえぐが、モリソン首相は「豪州は国益を考えて行動する。誰からも威嚇されない」と、安易な妥協はしないとの姿勢だ。

 

豪国防省の国防情報機構出身の安全保障専門家、ポール・モンク氏は「中国の『いじめっ子ぶり』に国民はいらだっており、(政府の対中姿勢には)世論の支持がある。両国関係がすぐに改善するとは思えないが、ヒステリックにならずに対話のチャンネルを保つことが大切だ」と語る。【9月18日 朝日】

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ただ、オーストラリアは経済的にはむしろ中国依存が強まっています。

 

****豪、6月対中輸出が過去最高 中国は外交姿勢転換求める****
オーストラリアから中国への輸出額が増加している。6月の輸出額は中国向けが約146億豪ドル(約1兆1000億円)で過去最高だった。

 

6割を占めるとみられる鉄鉱石の価格上昇が影響している可能性もあるが、外交や安全保障で中国と距離をとりながら、貿易ではなお対中依存が高い。(後略)【8月6日 日経】

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