(米ホワイトハウスはWHOが主導する「COVAX」に参加しない方針を明らかにした【9月2日 CNN】)
【ワクチンの公平な配布で死者半減】
新型コロナに対して世界中の人々がワクチンを待ち望んでいます。
当然、なんとか自国について先ず早急な対応を・・・という発想にもなりますが、ワクチン開発のための資金力・技術力、開発されたワクチンの購買力に、国家間で大きな差があるのも歴然たる事実です。
資金力のある先進国がワクチンを独占すれば、結果として人類全体としては大きな犠牲を払うことになる・・・というのは容易に想像できるところです。もし、世界中で分け合うことができれば、犠牲者は半減するとも。
****報告:ワクチンの公平な配布、富裕国買い占めに比べて死者半減*****
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチンを富裕国が優先的に確保すると、各国の人口に応じて均等に配布した場合に比べ、死者数が数十万人単位で多くなる可能性があるとする報告書を、米マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏と妻の慈善団体「ビル&メリンダ・ゲイツ財団」が9月14日に発表した。
同財団が米ワシントン大学の保健指標評価研究所(IHME)と共同で作成している年次報告書「ゴールキーパーズ・レポート」は、教育へのアクセス向上や飢餓撲滅、ジェンダー平等などを実現するために国連が掲げる持続可能な開発目標(SDGs)について、達成状況を評価するもの。過去の報告書では、目標達成に向けて順調に前進していると評価していた。
ところが第4刊にあたる今回(2020年)の報告書では、ほぼすべての指標が、世界中の人々の生活の質が低下したことを示している。質の低下は特に、もともと苦しい状況にあった人々で顕著だ。
なかでもIHMEの調査結果が際立っている。ここ20年続いていた貧困の解消が、新型コロナのパンデミック(世界的大流行)によって止まり、今年に入ってから推定3700万人が、1日1ドル90セント(約200円)未満で暮らす「極度の貧困」状態に追いやられたというのだ。
ゲイツ氏は9月10日に記者会見を開き、「パンデミックは、ほぼすべての側面で不平等を悪化させました」と述べた。可能な限り多くの命を救い、できる限り早くパンデミックを終息させるには、ワクチンと治療法の開発、製造、および全世界への公平な配布で各国が協力すべきだと今回の報告書には記されている。
現在、全世界で150種以上のワクチンが開発中で、そのうち8種が臨床試験の後期に入っている。
報告書によると、当初完成した30億回分のワクチンを、仮に各国の人口に応じてすべての国に配布すれば、ワクチンが存在しなかった場合に比べて死者数を61%減らせるという。
一方、そのうち20億回分を富裕国が買い上げた場合、33%の命しか救うことができない。この対照的な2つのシナリオは米ノースイースタン大学生物・社会技術システムモデリング研究所による試算だ。
「最も豊かな人々に配布するような使い方は間違っています」とゲイツ氏はナショナル ジオグラフィック英語版編集長スーザン・ゴールドバーグとのインタビューで述べた。「まず最終目標を設定し、世界のために前例のない方法で協力しましょうと皆に呼び掛けるべきです」
危機の連鎖
ゲイツ氏は記者会見で、パンデミックに起因する悲劇の連鎖反応について説明した。健康危機が経済危機を生み、それが教育危機につながり……と危機が次々と誘発されることで、国や性別、人種によってすでに存在する不平等が増幅されるのだ。(中略)
世界を回復に導くには
年次報告書が言及しているのは過去6カ月の劇的な状況悪化だけではない。今後数年にわたり、パンデミックは複数の主要部門に影響を及ぼし続けると予測している。(中略)今回は2通りの未来予測シナリオが用意された。
楽観的なシナリオでは、COVID-19が短期間で根絶できると仮定している。その場合のデータモデルは、わずか2年ほどで持続的な開発目標(SDGs)達成の軌道に戻ることができると予測している。
一方、迅速な封じ込めは不可能だと仮定した最悪のシナリオでは、目標に向けて再び前進し始めるまでに10年以上かかる可能性もあると予測している。
どちらの未来が現実になるかは、企業や国が今後数カ月に何をするかによっておおむね決まるとゲイツ氏は話す。ゲイツ氏はまた、これほど複雑に絡み合う問題を解決するには、世界的な協力体制が不可欠だと訴えている。
ワクチンの製造は協力可能な分野の一つだ。ゲイツ氏は、2021年前半までにワクチンが開発されると楽観的に予想しているが、世界規模でパンデミックと闘うために必要な量を製造できるかどうかについては疑問視している。
ゲイツ氏はこのジレンマの解決策として、ごく少数の富裕国に集中するワクチン開発企業が、製造能力の高い世界中のメーカーと手を組むことを提案している。
多くの命を救い、しかも不公平が生じないようワクチンを配布するには、各国がどのように協力し合えばいいかという問題もある。
例えばゲイツ氏が指摘するように、米国は6種のワクチンの研究開発を支援している点では評価すべきだが、そのワクチンを他国が購入する支援については、話し合いにすら参加していない。トランプ政権は9月に入り、世界保健機関(WHO)などが主導する、ワクチンを複数の国で共同購入する枠組みに参加しない方針を明らかにした。
ワクチンの配布が、開発資金を出した国に多少傾くことはゲイツ氏も受け入れている。だがそのうえで、富裕国は公平なワクチン配布に力を注ぐべきだと氏は主張している。世界のどこかにCOVID-19が存在する限り、世界中でパンデミックの影響は終わらないからだ。
「発展途上国を支援するのは、人道的、戦略的な理由からだけではありません」とゲイツ氏は言う。「そうすれば通常の生活に戻ることができるという、利己的な理由もあります」【9月19日 ナショナル ジオグラフィック日本版】
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【WHOなどが主導するワクチンの公平な供給を目的とした枠組みCOVAX】
ワクチンの公平な供給を目指す枠組みとしては、日本も参加する世界保健機関(WHO)が主導する「COVAX」があります。
*****ワクチン供給の国際枠組み、156カ国が参加 米中は見送り*****
世界保健機関(WHO)などは21日、新型コロナウイルスワクチンの公平な供給を目的とした枠組み「COVAX」に156カ国が参加したと発表した。米国と中国は参加しなかった。
途上国へのワクチン普及を進める国際組織「Gaviワクチンアライアンス」とWHOによるこの枠組みは、2021年末までに世界で20億回分のワクチン供給を目指す。参加国は世界の人口の約3分の2を占めるという。
COVAXの関係者によると、中国は参加していないものの、協議を続けている。
WHOのテドロス事務局長はオンライン会見で「COVAXは世界で最も大規模で多様なワクチン候補をそろえることになる」とし、「慈善ではなく、各国の最善の利益につながるものだ」と述べた。
GAVIは、さらに38の富裕国が数日中に参加する見通しだとした。また、ワクチン研究・開発向けに14億ドルの拠出確約を取り付けたが、さらに7億─8億ドルが早急に必要だと訴えた。
COVAXに資金を拠出する一方で同枠組みを通じたワクチン調達を行わない国名は明らかにしなかった。フランスとドイツはこれまでに、欧州連合(EU)の共同調達計画からのみ調達する方針を示している。【9月22日 ロイター】
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****中露独自のワクチン開発に対抗…日本のCOVAX参加が英断だった理由****
コロナワクチンの南北格差
世界中で新型コロナウィルスの感染拡大が止まらない。安倍首相が退陣を発表した8月28日の午前中、政府は2021年前半までに全国民分のワクチンを確保する方針を明らかにした。英アストラゼネカおよび米ファイザーからぞれぞれ1億2000万回分のワクチンを購入できる見通しである。(中略)
日本のように高所得で人口の多い国々は、製薬会社との個別交渉によって、ワクチンが完成する前に先物買いが可能である。しかし低所得で人口の少ない国々は、自前でワクチンを調達するのが困難であるため、日本は先進国の一員として、自国のみならず地球全体の新型コロナ感染拡大を食い止めるための努力に参画する必要がある。
8月31日、日本政府はWHOなどが推進する「COVAX」というワクチン開発・分配の枠組みへの参加を表明した。
独自にワクチン開発を進める中ロ
米国のトランプ政権をはじめとして「自国第一主義」が広がる中、なぜ日本が世界全体のために貢献しなければならないのだろうか?
その理由の一つは、世界各国は「新型コロナウィルスの感染拡大を食い止める」ためのスキームに関与しており、それを自国の国際貢献の成果としてアピールすることで影響力拡大を図っているからである。特に中国とロシアは、開発途上国に積極的にワクチンを供給する姿勢を見せている。(中略)
「大国独行」か「国際協調」か
このような中国、ロシアの開発途上国へのワクチン供給は、いわば「大国独行戦略」に基づいている。
両国ともに一国でワクチンを開発できる能力を持っていることに加えて、人口規模が大きいことから国内のワクチン市場も大きい。国内市場において安定した売り上げを確保しながら、輸出で海外市場に打って出るという構想が見て取れる。したがって、ワクチン開発に関して他国と協調するメリットは小さい。
これに対してヨーロッパ諸国や日本は、大国独行戦略を採用するような環境にない。
EU諸国は域内加盟国の結束を志向するので、ドイツやフランスはワクチンを開発する能力があるにもかかわらず、中国やロシアのような独行戦略は取らない。イギリスもEUから離脱したばかりであり、独行戦略を採用してこれ以上孤立するのは望ましくない。
そして日本では、国産ワクチンの開発が試みられているものの、実用化まではまだ時間がかかる見込みである。将来はともかく、現状では中国やロシアのような独行戦略を取り得ない。
このような状況に置かれているミドル・パワーの国々が採用しているのが「国際協調戦略」である。国際協調戦略の優位点は、途上国も含めた多くの国々と透明性が高く並行的な関係を結べることである。
中国やロシアの戦略は、ワクチン供給国と需要国の間に力関係を想起させやすい。両国ともに第3相試験の結果を待たずにワクチンの実用化に踏み出しているため、有効性も安全性も低いワクチンが発展途上国に提供される可能性がある。途上国側も、相手国への配慮から、それを受け取らざるを得ない状況になってしまうという懸念がある。
これに対して、国際協調戦略では、ワクチンの開発者、生産者、そして開発されたワクチンを接種する消費者らに対して透明性を持ったルールを適用し、先進国・途上国いずれにおいても「誰一人取り残さない」という理想に基づくワクチン開発・普及のメカニズムを形成できる。そして有効性や安全性について、国連などのお墨付きを得たうえでワクチンを世界各国に提供できる。
「COVAX」によるワクチン開発
この国際協調戦略を体現しているのがCOVAX Facility (COVID-19 Global Vaccine Access Facility)である。その主な機能は、(1)ワクチン開発資金の援助、(2)開発途上国へのワクチン供給、の2つである。COVAXは、WHO、CEPI(セピ)とGavi(ガビ)という3つの組織によって推進されている。(中略)
CEPI(Coalition for Epidemic Preparedness Innovations:感染症流行対策イノベーション連合)は、2017年に設立された官民連携パートナーシップで、感染症ワクチンに関する研究開発資金の調達と分配を担っている。
Gavi(The Global Alliance for Vaccines and Immunization:ワクチンと予防接種のための世界同盟)は2000年に国連などの支持を受けて設立された組織で、各国政府や財団などが参加している。主にワクチンの普及と開発を促進するための制度設計を行っていて、後述するAMCという、途上国向けのワクチン開発促進制度の推進役として知られている。
今年5月に開催されたWHO年次総会において、加藤厚生労働大臣は、日本政府がWHOの新型コロナ対策用予算に7,640万ドル、CEPIに9,600万ドル、Gaviに1億ドル(ただし6月に安倍首相がこれを3億ドルに増額することを表明)を拠出することを明らかにした。
COVAXの第一の機能であるワクチンの開発資金援助は、CEPIが中心となって現在9つのワクチン候補に対して実施されている。(中略)
第二の機能である開発途上国へのワクチン供給は、Gaviが他の感染症ワクチンの開発のために実施しているAMC(Advance Market Commitment:ワクチン買取補助金事前保証制度)という制度を、新型コロナワクチン向けに設計しなおしたGavi COVAX AMCとして実施されている。
Gavi COVAX AMCの仕組み
AMCとは、熱帯で蔓延する感染症のワクチンの研究開発に対して、民間の製薬会社に投資を促すために設計された制度で、提唱者は2019年にノーベル経済学賞を受賞したマイケル・クレーマーである。
熱帯にある低所得の途上国は購買力が小さいので、現地で蔓延している感染症のワクチンを開発しても利益につながりにくいことから、一般の製薬会社は敬遠しがちであった。
そこで投資を活発化させるため、援助機関が「ワクチン完成の暁には、途上国がワクチンを購入する資金を融資する」と事前に約束する、というのがAMCの仕組みである。(中略)
Gavi COVAX AMCの立ち上げと同時に、オックスフォード大学と英のアストラゼネカのワクチンに、このAMCが適用されることが発表された。
今年8月末までに20億ドルの資金拠出が約束されれば、2021年末までに20億回分のワクチンを確保し、参加各国の人口の20%に対して配分する、という計画である。低所得国と低位中所得国には特別な配慮がなされ、1回3ドルという低価格で提供される。
米のモデルナ社のワクチンが60ドル、中国のシノファーム社製ワクチンが72ドルと言われている(7月30日付Financial Times、8月20日付South China Morning Post)状況で、この価格は破格の水準である。(中略)
先進国・日本はどうすべきか?
中国やロシアは大国独行戦略を採用して、ワクチン供給による貢献を発展途上国にアピールしている。アメリカも大国独行的ではあるが、現政権においては、発展途上国へのワクチン提供を重視している様子は見られない。
ワクチン開発競争は「勝者一人勝ち」ではない。(中略)特徴を持ったいくつかのワクチンが目的に応じて選択的に使用されうる。
したがって、中国やロシアのワクチンが「完成」を宣言して供給を始めたからといって、それらが世界のワクチン市場を席巻するとは限らない。より有効性も安全性も高い製品への需要は、「一番乗り」のワクチン完成後も高いといえよう。
このような状況下で、ミドル・パワーであるヨーロッパの先進国や韓国、日本は、大国独行戦略を採用する国々の動きを注視しつつも、他の国々や国連と団結し、途上国も含めた世界全体の国際協調を演出するという国際協調戦略を取ることが得策である。
その意味で、COVAX Facilityに積極的に参加し、その中の重要なアクターとしての役割を果たすべきである。その点から言って、日本政府が参加表明をしたのは然るべき対応であった。
残念ながら、客船ダイヤモンド・プリンセス内での感染やPCR検査数の少なさによって、日本のCOVID-19対応は海外からマイナスイメージを持たれてしまっている。
このイメージを払拭し、日本が世界のリーダーとしての評価と敬意を取り戻すためには、国際協調戦略を採用して途上国へのワクチン供給に関与し、COVAX Facilityでの存在感を示すことが重要である。【9月8日 山形 辰史氏(立命館アジア太平洋大学教授) 現代ビジネス】
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【自国第一のもと国際協調に背を向ける米トランプ政権】
WHOの独立性に疑問を呈し、中国寄りだと批判してきた。7月からは1年後のWHO脱退に向けた正式な手続きを進めている米トランプ政権は不参加。
****米政権、ワクチン供給の国際枠組みに不参加表明****
米ホワイトハウスは1日、世界保健機関(WHO)などが主導する新型コロナウイルスワクチン供給の国際的な枠組み「COVAX」には参加しない方針を明らかにした。(中略)
ホワイトハウスのディア副報道官は声明で、米国は新型コロナウイルス克服に向けてパートナー諸国との協力を続けるとする一方、「腐敗したWHOや中国の影響下にある多国間組織の制約は受けない」と主張した。(後略)【9月2日 CNN】
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トランプ米国大統領は9月22日、国連総会の一般討論演説で国連加盟国に対して、「自国民を大切にすることによってのみ、協力のための真の礎を見つけることができる」と説き、自国第一を掲げるべきだと主張しています。
“協力のための真の礎”・・・自己正当化の言葉遊びのようにも。
国内に自国民優先の声があれば、それに対し国際協調の意義、結果的に自国の利益になることを説くのが政治の役割だと思います。