孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

トルコと南欧諸国が対立する東地中海問題 トルコ・欧州間の移民・難民問題にも影響する可能性

2020-09-14 22:29:59 | 難民・移民

(火災が発生したギリシャ・レスボス島のモリア移民収容施設 火災の翌日の様子【9月10日 AFP】)

 

【緊張が続く東地中海】

東地中海のガス資源をめぐるトルコとギリシャ・キプロス・フランスなどの対立については、8月18日ブログ“東地中海キプロス沖のガス田開発 出遅れたトルコの権益主張で高まる緊張”でも取り上げました。

 

その後も両者譲らず、緊張関係が続いています

“ロシア、地中海の資源探査でキプロスとトルコの協議仲介を申し出”【9月8日 ロイター】

“EU南部7カ国首脳、トルコに領土問題巡る対話要求 制裁を警告”【9月11日 ロイター】

“東地中海問題、「EUの誠意が問われる」=トルコ大統領”【9月7日 ロイター】

 

こうした問題で対立が容易に解消しないのは日中の東シナ海ガス田でも同様ですが、東地中海では互いに軍艦や戦闘機をちらつかせており、(互いに砲弾を撃ち合うほど愚かではないとは思いますが)不測の事態も懸念されています。

 

****地中海のガス田巡りギリシャとトルコが一触即発に****

東地中海で、ギリシャおよびその友好国とトルコとが、ガス田をめぐって対立を強めている。ギリシャとトルコはともにNATO加盟国である。

 

東地中海では2010年ごろから大規模なガス田が次々に発見されたが、その価値は7000億ドル相当と言われる。開発はイスラエルが先鞭をつけ、エジプトやギリシャなどが続いた。今はギリシャ、キプロス、イスラエル、エジプト、イタリア、ヨルダン、それにパレスチナが協力して開発している。

 

トルコは、ギリシャの領有権主張や、エルドアン大統領の攻撃的振る舞いが原因で合同開発から外された。

 

そこでトルコは2019年11月リビアの暫定政府とEEZの境界を確定する合意を結んだ。この合意により東地中海でトルコとリビアのEEZが接することとなり、イスラエルやギリシャなどが天然ガスを欧州に輸出する障害になりかねない。

 

次に、トルコはキプロスのEEZ内で天然ガスの試掘を始めた。トルコはキプロスを国家として承認しておらず、したがって、キプロスのEEZも認めないという立場である。これにギリシャ他の国々が反発したのは当然である。

 

問題はトルコとギリシャ他の対立が軍事的側面を持っていることである。トルコはキプロスのEEZ内での試掘をするに際し、海軍の軍艦5隻をエスコートにつけた。

 

これに対しギリシャも軍艦を派遣したほかに、フランスがギリシャを支援するとして戦闘機2機と軍艦2隻を派遣した。

 

8月12日にはギリシャの軍艦とトルコの軍艦が衝突一歩手前までいったとのことである。状況の詳細は定かではないが、東地中海が一触即発の状態にあり、ドイツのマース外相が「わずかな火花でも惨事を招きかねない」と危機感をあらわにしたのも無理はない。

 

危機の火消しのため、ドイツが仲介に乗り出している。ドイツは現在、欧州理事会の輪番議長国であり、EUが東地中海情勢に関心を持っている以上、ドイツが乗り出したのは当然と言えるが、ドイツが仲介の役を買って出たのはそれだけではなさそうである。

 

トルコにはシリア難民が350万人いると推定されており、その多くは機会があれば欧州、できればドイツに行きたいと思っている。

 

2016年にEU・トルコ間で協定が結ばれ、トルコがシリア難民のEUへの流出を阻止することで合意がなされたが、本年3月トルコがシリア情勢に対するEUの立場に不満を抱き、シリア難民のEU(ギリシャ)への流出を容認した経緯がある。

 

メルケル首相が、エルドアンが再びシリア難民のEUへの流出を認めることは避けたいと考えていても不思議ではなく、今回ドイツが仲介を買って出た背景にはこのような事情があったものと考えられる。【9月14日 WEDGE】

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****ギリシャが仏戦闘機購入 対トルコ緊張、軍備増強****

フランス国防省は12日、同国ダッソー社開発の戦闘機ラファール18機をギリシャ政府が購入すると発表した。ギリシャは、東地中海で海底資源開発を進めるトルコとの緊張が高まる中で軍備増強を決定した。(中略)

 

AP通信によると、ギリシャのミツォタキス首相は12日、ラファールのほか、ヘリコプター4機とフリゲート艦4隻の新規購入などの軍備増強を発表した。【9月13日 共同】

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【トルコ 海底資源探査船がいったん引き揚げるも、強気姿勢は崩さず 背景には「難民カード」も】

昨日・今日の動きとしては、トルコが海底資源探査船をいったん引き揚げたことで、対話への機運との評価も。

 

****トルコの探査船が帰港=ギリシャ首相「前向きな一歩」****

トルコ紙イェニ・シャファク(電子版)は13日、東地中海で活動していた同国の海底資源探査船が同日、「1カ月の活動期間を終えて(南西部の)アンタルヤ港に帰港した」と伝えた。AFP通信によると、同海域での天然資源開発をめぐりトルコと対立しているギリシャのミツォタキス首相は「最初の前向きな一歩だ」と評価した。

 

AFPによれば、ミツォタキス氏は記者会見で「緊張緩和に向けて良い方向に進んでいる」と指摘。「トルコとの接触を始める準備はいつでもできている」と述べ、改めて対話を呼び掛けた。

 

一方、トルコのアカル国防相は13日、アナトリア通信に対し、東地中海での権利を守り続けると強調した。【9月14日 時事】 

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トルコとしても、EU南部7か国「MED7」が制裁を要求している事態を考慮して、一定に沈静化を図っているようにも。

 

ただ、強気のエルドアン大統領のことですから、そう簡単には引き下がらないとも推測されます。

 

****東地中海問題、トルコはEUの制裁予想せず=外相****

トルコとギリシャが東地中海の海底資源を巡り対立している問題で、トルコのチャブシオール外相は14日、欧州連合(EU)から制裁を受けるとは予想していないと述べた。

トルコ政府は前日、東地中海で活動していた海底資源探査船を帰港させている。

EUはこの問題を巡って、加盟国であるギリシャとキプロスを全面的に支持する意向を表明しており、対話が開始されない場合、制裁を検討する考えを示している。今月24−25日のEU首脳会議で決断を下す可能性もある。

チャブシオール外相は、この問題について話し合う用意はあり、前提条件は付けないと改めて表明。ただ、探査船の活動を近く再開する方針も示した。

同相は、EU首脳会議で追加の制裁措置が決まるとは予想していないとしながらも、そうした措置を完全に排除することはできないと発言。

国内放送局NTVに対し「わが国の船、企業、個人に対する措置になるかもしれない。(EUは)過去にもそうした措置を講じている。われわれは断念したのか。いや、われわれの決意は強まっている」と述べた。【9月14日 ロイター】

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トルコが強気に出られる理由は、冒頭【WEDGE】にもあるように“トルコにはシリア難民が350万人いる”という「難民カード」でしょう。

 

欧州側の出方次第では、いつでもこの難民を欧州に向かわせることができる・・・・となると、メルケル首相としても「なんとか穏便に」という話にもなります。

 

【ギリシャ移民収容施設で大規模火災 現地で続く混乱】

欧州にとって難しいのは、移民・難民の問題になると域内の利害対立が一気に表面化すること。

 

移民・難民らの「玄関口」として多く受け入れているのがギリシャですが、他の欧州諸国の受け入れが進まずギリシャの移民収容施設に多数が「滞留」する状態になっています。

 

移民収容施設は、欧州域内での受け入れが進まないという“明日への希望が持てない”基本的な問題に加え、劣悪な居住状況、さらにはコロナ感染という問題を抱えていましたが、9日に大規模な火災が発生し、何千人もの難民申請者が住む場所を失うということで、状況が悪化しています。

 

****ギリシャ最大の移民収容施設で火災 1万人以上住む場所失った恐れ****

ギリシャのレスボス島にある同国最大のモリア移民収容施設で9日、大規模な火災が発生し、何千人もの難民申請者が住む場所を失った。この施設は過密状態にあり、劣悪な環境で知られていた。

 

9日には、このモリアキャンプで生活する35人が新型コロナウイルス検査で陽性反応を示したことが判明。火災が発生したのはその数時間後だった。この火事による死者や重傷者はいない。

 

キリアコス・ミツォタキス首相は、今回の火災は同ウイルス検査への「暴力的な反応」だったと非難。これに先立ち、陽性反応検出後に隔離されたことに腹を立てた移民が、数か所で故意に火を付けたとの報道もあった。

 

移民当局の発表によると、約4000人が生活していたキャンプの中心施設は、今回の火災で全焼。この中心施設の周囲に、さらに約8000人がテントやシェルターを設けて住んでおり、これらの多くも大きな被害を受けたという。

 

市民保護省は、レスボス島に4か月間の緊急事態を宣言した。欧州連合は、保護者のいない子ども400人を本土に移送する資金の拠出を約束。またドイツはEU加盟各国に対し、支援を強化するよう呼び掛けている。

 

ギリシャ政府は数か月前から、移民数千人をレスボス島をはじめとする島々から本土へと移送させてきた。その一方で政府は補助金を減らしており、キャンプを出た人の多くが住む場所も職も見つけられずにいる。 【9月10日 AFP】

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****ギリシャ警察、火災で住む場所失った難民に催涙ガス 難民キャンプ新設めぐり衝突****

難民キャンプの火災で1万人以上が生活場所を失ったギリシャ・レスボス島で12日、新たな難民キャンプの建設に抗議する難民と警察が衝突し、警察が催涙ガスを噴射した。

 

火災当時、モリア・キャンプには収容可能人数(3000人)を大幅に超える約1万3000人が暮らしていた。難民は島を離れることを切望している。

 

警察と難民の衝突は、ギリシャ当局が設置した仮設キャンプ近くで起きた。警察の封鎖線近くに火が放たれ、消防隊が消火にあたる場面もあった。

 

難民はモリア・キャンプへ続く道を封鎖する警察に接近し、「自由」を訴えるプラカードを掲げながら新しいキャンプ施設の建設に反対した。

 

新施設の建設をめぐっては島の住民からも強い反発が上がっており、救援物資の配達を止めようと住民が道路を封鎖している。

 

現在は生活場所を失った難民のために、同島カラテペに新たなキャンプが設置されている。

警察によると、すでに約200人がこのキャンプに入ったが、施設の外には衛生面と安全面チェックをうけるために数十人が並んでいるという。その大半は家族連れだ。

 

難民は9日の火災から逃れた後、路上など屋外で夜を明かしている。

モリア・キャンプには約70カ国からの難民が生活していた。そのほとんどはアフガニスタンからの難民だった。

 

難民問題めぐり欧州が分断

主にイタリアやギリシャへ渡った大量の難民の扱いは、欧州各国を長年にわたって分断させてきた。

 

欧州中部や東部の多くの国は、難民の受け入れを分担するという考えに公然と抵抗している。

イタリアとギリシャは、裕福な欧州北部の国々がさらなる対応を取らずにいると非難してきた。(後略)【9月13日 BBC】

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今回火災を受けて、ドイツ・フランスなどからは、一定に受け入れの表明もなされてはいますが・・・。

 

****ギリシャ最大の移民施設火災、独仏など数百人の受け入れ表明****

ギリシャのレスボス島にある同国最大のモリア移民収容施設の火災で、数千人の難民申請者が住む場所を失ってから3日目を迎えた。フランスやドイツ、オランダは10日、子どもたちを中心に数百人の移民を受け入れると表明した。

 

絶望に立たされた家族の多くには幼い子どもがおり、家もなく空腹で苦しい生活を送っている。多くの人には、テントや最低限の寝具すらない。

 

施設が炎に包まれる前になんとか身分証明書を持ち出すことができたシリア人女性のファトマ・アルハニさんは、「私たちはすべてを失った。食べ物も水も薬もなく、見捨てられた」と述べた。

 

ドイツとフランスの協議に近い筋はAFPに対し、独仏両国は10日、施設にいる約400人の未成年者を欧州連合加盟国で分担して受け入れる新たな取り組みに合意したと述べた。

 

アンゲラ・メルケル独首相はベルリンで行われたパネルディスカッションで、「前段階として、未成年者の難民を受け入れるようギリシャに提案している。それに続いて他の措置も講じられるべきだ」とし、EUは移民政策について「最終的により多くの共同責任を負わなければ」ならないと指摘した。

 

ギリシャのキリアコス・ミツォタキス首相は、そうした心情が行動に移されることを望んでおり、仏領コルシカ島で行われた地中海沿岸諸国の首脳サミットで10日、「欧州は連帯の言葉から連帯の行動の政策に移行しなければならない。移民危機を議論の中心とし、さらにいっそう具体的にするべきだ」と主張した。

 

オランダは、移民100人(うち半数は未成年)の受け入れを表明している。 【9月11日 AFP】

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“複数の慈善団体やNGOのグループはドイツ政府に宛てた書簡で、未成年者だけでなく全ての難民が、追加の支援策を必要としていると訴えた。

 

この公開書簡の中で、同グループは、「モリア・キャンプでの恥ずべき状況や火災による大惨事は、欧州の難民政策の失敗がもたらした必然的な結果だ。今や欧州は、ついに影響を受けた人々を助けなければならない状況に置かれている」とした。” 【9月13日 BBC】との声もありますが、国内で極右勢力を刺激するなどの微妙な問題を惹起しかねない難民受け入れはなかなか進みません。

 

上記のように、現在抱えている移民・難民すら十分に対処できずにいる状況ですから、東地中海問題がこじれてトルコが欧州への移民・難民移動を開放するとなると欧州側は対応しきれないのが実情でしょう。

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