孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

北朝鮮  相次ぐ台風被害で切迫する食糧事情 国内報道に変化も

2020-09-11 22:25:08 | 東アジア

(膝まで泥水に浸かりながらリポートする女性リポーター【9月11日 FNNプライムオンライン】 体制宣伝を担うエリート中のエリートであるTVアナウンサーが、こういう体をはったリポートをするようなことはこれまでなかったこととか)

 

【台風3連発】

北朝鮮国内のことはよくわからないことばかりで、断片的な情報から推測・想像するしかありませんが、日本同様の梅雨の長雨、台風8号、9号、10号の「台風3連発」で相当なダメージを受けていると思われます。

 

下記は主に台風9号の被害に関するものです。

 

****橋59本、住宅2000戸超の台風被害 金氏、政府計画への影響指摘 北朝鮮****

北朝鮮の国営メディアは9日、台風により橋59本が崩壊し、住宅2000戸超が損壊または浸水したと報じた。また、金正恩キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が、被害の影響は年末までの政府計画にも及ぶと述べたという。  

 

北朝鮮の東岸では先週、台風9号(アジア名:メイサーク)により豪雨が数日間続いた。同国はそれ以前の洪水と台風の被害からの復旧途上にあったが、さらに今週台風10号(アジア名:ハイシェン)に見舞われた。  

 

国営の朝鮮中央通信(KCNA)によると、台風9号の影響を受けた地域では、住宅2000戸超のほか、公共建物数十棟が「損壊または浸水」した。また、道路区間60キロと橋59本が崩壊したほか、鉄道線路3500メートル超が「洗い流された」という。  

 

北朝鮮ではインフラ老朽化のために自然災害による甚大な被害が生じやすく、山岳部の多くで長年伐採が進められてきたことから洪水被害に対しても脆弱(ぜいじゃく)な状態にある。  

 

KCNAによると、金氏は朝鮮労働党の幹部委員に対し、今回の被害を受けて当局は「進行中の年末業務を総合的に見直し、取り組みの方針を変更」せざるを得なくなったと伝えたという。 詳細は報じられていない。  

 

韓国の首都ソウルにある梨花女子大学のレイフエリック・イーズリー准教授は、台風の被害は局地的であったが、北朝鮮の国家としての能力と資源が試されていると指摘。

 

「金氏が約束した復興を果たせないことによる政治的リスクは限定的かもしれないが、経済的失敗の積み重ねは、金氏の政治体制を圧迫するだろう」と述べた。(後略)【9月10日 AFP】

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【切迫する食糧事情】

台風被害で容易に想像されるのは、これまでも厳しい状況にあった食糧事情がさらに悪化するであろうことです。

 

****台風3連発で北朝鮮に甚大被害、逼迫する食料事情****

(中略)<敬愛する最高領導者におかれましては、予想外に襲ってきた台風の被害のため、やむをえずわれわれは、国家的に推進してきた年末闘争課業などを全面的に見直し、闘争の方向を変更せざるを得ない状況に直面していると仰った>(9月9日、朝鮮労働党中央委員会機関紙『労働新聞』)

 

このように、常に「強気、強気」の北朝鮮が、いつになく弱気なのである。今月後半の収穫期を前に、3つもの台風が直撃したのだから、好戦的な言葉も影を潜めるということなのだろう。

 

大同江が再び決壊、金日成広場も被害に

実際のところ、「台風3連発」で、北朝鮮の被害状況はどうなっているのか。改めて平壌在住の人に聞いた。

まずは平壌市内の状況について、このように語った。

 

「大同江(平壌を東西に分ける大河)が再度、決壊した。その結果、わが『革命の首都』の聖地である金日成広場までが、見苦しい状態になってしまった。そこで市民総出の徹夜作業で、金日成広場を掃除した。

 

(平壌の2大ホテルの)高麗ホテルは、まだ何とかもっているが、羊角島ホテルの方は、浸水がひどく、使用不能となってしまった。平壌駅も浸水被害に遭い、列車が全面的にストップしている。

 

市内の停電が続いているため、地下鉄やトローリーバスも運休している。職場や学校なども、全面的に休業、休校状態だ」

 

首都・平壌でさえこうした有り様なので、地方ではさらに深刻な被害が出ていることは、容易に想像がつくし、前述の『労働新聞』も報じている。だが、復旧作業をすればすべてが元に戻るというわけにはいかない。

 

何と言っても今後の喫緊の問題は、今月後半に迫った秋の収穫である。北朝鮮では、年間650万tの食糧が必要とされるが、韓国政府などの試算では、一昨年が490万t、昨年は450万tまで落ち込んだ模様だ。

 

「想像するのも恐ろしい」今年の収穫

それでも過去2年は、今年ほどの豪雨や台風被害は起こっていない。今年の収穫は、いったいどうなってしまうのか?「それは、想像するのも恐い。少なくとも、今世紀に入って最悪の状態であることは間違いない。

 

ニュースでは、台風被害が大きかった地方に朝鮮人民軍を派遣し、復旧作業にあたっていると強調している。だが、平壌市民たちが噂しているのは、あの人たち(軍人)の食糧は、どうなっているのだろうということだ」

 

つまり、被災地域に派遣された朝鮮人民軍の兵士たちの食糧さえ、ままならなくなってきているというわけだ。(中略)

 

いずれにしても、2017年以降の国連による強固な経済制裁、今年の新型コロナウイルスに加え、豪雨と台風被害による未曽有の食糧危機が、北朝鮮を襲うことになる。日本も含めた関係各国は、「北朝鮮は果たしてもつのか」という議論を、そろそろ始めておくべきではなかろうか。【9月11日 近藤 大介氏 JBpress】

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上記記事にある被災地域に派遣された朝鮮人民軍の兵士たちの食糧については“現地自力調達”のようです。

 

****「食べ物をよこせ」北朝鮮軍兵士、水害被災地で民家襲撃****

(中略)彼ら(災害復旧工事に動員された朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の兵士)は、民家のそばに宿営しているが、時々やって来て、盗み出した建設資材をパン、酒、タバコと交換して欲しいというものだが、応じる住民はいない。

 

それもそのはず、このような現象が起きることを予見した当局が、住民に対して「兵士が持ち込んできたセメントや木材などの建設資材は決して受け取ってはならない、受け取った者は法的に処罰する」との警告を発したからだ。

 

北朝鮮では、災害や事故が起こると軍の兵士が大量に動員されるが、当局は送り込むだけ送り込み、食糧などの補給をまともに行わないのだ。そのため、被災地では犯罪が多発する。

 

北朝鮮北東部に甚大な被害をもたらした2016年8月の台風10号(ライオンロック)。被災地には兵士が動員されたが、一般住民から食べ物を盗むなどの事件が多発。金正恩氏は、「復旧建設中に人民の財産に手を出す現象が発生すれば、その場で銃殺してもいい」との命令を下す状況となった。

 

今回は、軍の上層部が「建設資材を売り払う現象は軍法で裁く」との警告を発しているが、腹をすかせた兵士たちには効果がないようだ。

 

兵士らは民家に資材を持ち込み、食糧との交換を要求するが、民間人は「絶対にダメ、買ったら罰せられる」と決して応じようとしない。それに腹を立てた兵士らは、報復として民家に押し入って「食べ物をよこせ」と凄んだり、店に押しかけて飲食をした後、「ツケで頼む」と言い残し、代金を払わなかったりなどの行為に及んでいる。

 

住民の間からは「兵士らのせいで商売もできなくなった、建設やら何やら全然ありがたくない」との声が上がっている。銀波郡の行政当局には信訴(不正行為の告発)が寄せられているが、郡党(朝鮮労働党銀波郡委員会)は何もできずにいる。兵士らに食料を提供するほどの余裕がないからだ。

 

また、兵士の犯罪は警務隊(憲兵隊)でなければ処理する権限がなく、安全部(警察署)も手が出せない。平時にも民家や農場を襲撃して食糧を強奪するなどの事件を起こしているような連中を、被災地に送り込むことは、「二次災害」以外の何物でもない。【9月6日 デイリーNKジャパン

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軍の兵士にすら食糧を供給できない状況ですから、これまで優遇されてきた平壌の食糧事情も切迫しているようです。“口減らし”の動きもあるとか。

 

****首都・平壌は陥落寸前。相次ぐ台風で逼迫する北朝鮮の食糧事情*****

(中略)金正恩は6月の党政治局会議で、平壌市民の生活向上に取り組むように指示し、内閣は生活用水や野菜供給の改善策を打ち出した。つまり、水や食糧の供給さえ問題があるということを明らかにしたのである。

 

平壌は金正恩政権の権力基盤でもある。その平壌に集まる党や軍幹部、エリートが集まる平壌の市民へ優先されてきた食糧配給も春以降滞っていると伝えられており、市民の不満は権力基盤を揺るがしかねない状況にあり、金正恩の指示は差し迫った危機感の表れでもある。

 

近着の『統一日報』に「コラム 平壌市民を山奥に追放」という記事がある。「平壌市に住んでいた熱誠者(※編集部補足、熱誠分子とは、思想・出身成分=身分が優れた人間)の家族だが、その30世帯の家族の誰かが労働者としてロシアに派遣されたが、行方不明となったがために残された家族全員が黄海道の山奥の村に強制追放されたという情報もある。事前通告なしの追放であったという。

 

最近、平壌住民の食糧配給が困難となり、その解決策として、口減らしのため、熱誠分子でさえ、平壌から追放しているということだ」。

 

北朝鮮では1990年代の大飢饉の際、“苦難の行軍”が叫ばれ、脱北した人も少なくなかったし、2016年の台風10号でも被災した地域の住民の多くが脱北したと言われている。

 

今回の台風9号、10号が北朝鮮におよぼす被害は甚大なものになると予測されている。(後略)【9月8日 宮塚利雄氏 MAG2NEWS】

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【被害復旧優先へ】

前出記事にも“年末闘争課業などを全面的に見直し、闘争の方向を変更せざるを得ない”云々の記載があるように、政権も対応の変更を迫られているようです。

 

****台風被害受け「闘争方向変更」=正恩氏、工業拠点の復旧優先―北朝鮮****

朝鮮中央通信は9日、北朝鮮で8日に朝鮮労働党中央軍事委員会拡大会議が開かれ、金正恩党委員長が出席したと報じた。正恩氏は台風9号に関連し、「予想外の被害によって、闘争方向を変更せざるを得ない状況に直面した」と述べ、軍に早期の被害復旧を指示した。

 

会議では台風9号の影響により、咸鏡南道・剣徳地区で約2000世帯の住宅と数十カ所の公共施設が浸水、倒壊したほか、道路や橋、鉄道が流され、「交通が完全にまひする非常事態に直面し、多数の設備が流失した」ことが報告された。

 

剣徳地区は鉱山や関連工場が集積する重要な鉱物生産拠点。正恩氏は同地区復旧が「わが国経済の重要な命脈を保つためにも必ず先行すべき急務だ」と強調し、来月10日の党創建日までに住宅や交通網を修復するほか、年末までの完全復旧を指示した。

 

北朝鮮は来年1月に約5年ぶりの党大会を開催する予定。党創建日には軍事パレードを実施するとの見方もある。「闘争方向の変更」の詳細は不明だが、復旧作業の優先でこうした行事や準備に影響が出る可能性もありそうだ。【9月9日 時事】

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【変わるメディア報道】

台風被害拡大に伴って、北朝鮮国内の報道の在り様も変わってきたとも報じられています。

 

****首都・平壌は陥落寸前。相次ぐ台風で逼迫する北朝鮮の食糧事情****

(中略)『労働新聞』9月1日号のトップ記事は通常の1号記事(金正恩朝鮮労働党委員長)ではなく、核・ミサイル開発担当の李炳哲朝鮮労働党副委員長が、台風8号の被害を受けた南西部の黄海北道・長淵郡の農場を見てまわり「1粒の穀物も無駄なく取り入れるため」の討議をしたとの記事が掲載された。

● 労働新聞の異変(2) 「独裁」からの脱皮か?健康への不安か? – 北朝鮮ニュース | KWT

これは今までになかった紙面作成であり、なぜこのような紙面づくりになったか、様々な憶測を呼んでいるが、問題は相次ぐ台風による農作物への甚大な影響と、それにともなう「食糧難時代の再来」である。

 

金正恩朝鮮労働党委員長は7月2日の党政治局拡大会議で、新型コロナウイルスについて周辺国で再拡散が続いていると指摘し、「拙速な貿易措置の緩和は取り返しのつかない、致命的な危機を招く」として、非常防疫体制のさらなる強化を指示したが、この1月からの中国との国境を実質封鎖する厳しい防疫措置を続けている結果、経済がひっ迫している。【前出 9月8日 宮塚利雄氏 MAG2NEWS】

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****テレビ普及率8割でも視聴時間は2時間?…台風報道でわかった北朝鮮の知られざるテレビ事情****

北朝鮮テレビ史上初の台風リポート

北朝鮮は8月末から9月上旬までの2週間の間に、相次いで3つの台風に直撃され、甚大な被害に見舞われた。朝鮮中央テレビは3度に渡る台風直撃を異例の体制で伝えた。

 

台風8号が北朝鮮に上陸した8月26日には、放送開始を午前9時に繰り上げ、翌27日の午後10時26分までぶっ続けで放送を続けた。放送時間は実に37時間26分に及び、断続的に台風8号関連の情報が伝えられた。

 

また、台風9号が接近した9月2日には午後3時から翌3日の午後10時31分までの32時間31分、同様に夜通し放送を続けた。台風10号の場合も放送時間が午前7時に繰り上げられた。

 

北朝鮮のテレビ放送は通常午後3時に始まり、午後10〜11時台で終了する。日付を跨いで放送された例はほとんど無い。過去には金正日総書記死去3周年となる2014年12月に一度あっただけで、自然災害では初めてだという。

 

放送時間の延長だけではない。台風報道にも目を見張る変化が見られた。

これまで北朝鮮の台風報道と言えば、台風の進路などの予報が中心で、気象庁の予報官が登場して注意を呼びかけたり、各地で土嚢を積むなどの対策が取られる様子がニュースで伝えられたりする程度だった。

 

しかし、今回は台風の最新情報に関する特別番組「台風9号」などが編成され、台風の進路にあたる各地域からの現地リポートが相次いで報じられた。

 

朝鮮中央テレビのアナウンサーと言えば、体制宣伝を担うエリート中のエリートだ。金正恩委員長ら歴代指導者の動静を伝える際には、厳粛な様子で画面に登場するのが定番となっている。

 

そんな彼らが雨がっぱ姿で現場に赴き、雨に打たれながら台風リポートする姿を見せたのだから驚きを禁じ得ない。北朝鮮のテレビニュースを20年以上視聴している筆者も初めて見るようなシーンだ。(中略)

 

災害報道を体制宣言につなげる“北朝鮮式”

北朝鮮でテレビは、最高指導者の活動・思想を大衆に宣伝するとともに、大衆動員や思想教育の手段として活用されている。新聞、テレビ、ラジオなどあらゆるメディアが朝鮮労働党の統制下にあり、報道内容は最高指導者の指示で決められる。

 

かつての北朝鮮では体制にマイナスになるような事件や事故、災害の報道は控えられていた。

 

ただ、金正恩体制が発足して以後、「衛星」打ち上げの失敗(2012年4月)や高層アパートの倒壊(2014年5月)などが伝えられるようになり、今回の台風報道もその延長線上といえる。

 

もっとも、住民が知り得る事件・事故・災害発生なら
▽伏せるより、一定程度の情報を知らせる
▽住民に寄り添う形で復旧・復興を図る
▽責任者を処分する
などの手順を踏めば、金正恩体制への負の影響を最小限に抑えることができると判断していると考えられる。

 

住民は台風報道を見たのか?

外では注目を集める台風報道だが、北朝鮮住民はどれくらいこれを視聴しているのだろうか。

 

北朝鮮のテレビ普及率は2000年代序盤は18%程度と非常に低かった。しかし、その後は普及が進み、最近の脱北者への聞き取り調査では農村も含めて80%程度に達しているという。

 

ただ、慢性的な電力不足のため、視聴時間は一日平均2時間程度にとどまっている。テレビ局が30時間以上連続で放送しても、視聴できるのはそのごく一部というのが実情のようだ。

 

北朝鮮のテレビには現在、四つのチャンネルがある。

(1)「国営」放送にあたる「朝鮮中央テレビ」

(2)主に週末と祝日にスポーツや芸術公演、外国映画などを流す「万寿台テレビ」

(3)月水金放送で外国語教育や大学の講義を流す「リョンナムサンTV」

(4)週末放送の「体育TV」

 

ただし、北朝鮮の全域でこの四つが映るわけではないようだ。また、チャンネルは固定され、外国の放送は受信できないようにされている。加えて、2016年にはインターネットテレビも登場したとされる。

 

「網TV」と呼ばれる装置をインターネットに接続して利用する。インターネットは北朝鮮外部とは遮断されており、使えるのは「国家網」と呼ばれる域内のイントラネットだけだ。ただ「網TV」を利用すれば、リアルタイムのテレビ放送や過去の番組なども視聴できる。北朝鮮製のタブレットからもテレビ放送を受信することが可能だ。

 

そもそも、電力不足なのにテレビ放送は大丈夫なのか?と疑問に思う方もいるかも知れない。北朝鮮の放送法第44条には、放送事業に必要な電力、設備、資材などは国家機関、電力、銀行などが保障しなければならないと定められている。放送は「体制宣伝の重要手段」として電力の供給が優先的に保証されているのがわかる。【9月11日 鴨下ひろみ氏 FNNプライムオンライン】

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上記のような台風に関する情報提供のあり方の変化は、住民生活重視の変化の表れか、あるいは、そうせざるを得ないほど事情が切迫してきるのか・・・いずれにしても、今後北朝鮮への食糧支援の問題が日本・韓国を含めた国際社会に問われることになりそうです。

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