孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

世界第4位の外国人労働者受け入れ国・日本 “事実上の移民受け入れ”に向けた政策転換 準備は?

2018-10-21 22:01:58 | 難民・移民

【10月14日 朝日】

「『ガイジンは苦手』と言っている場合じゃない。多文化共生は私たちの必修科目です」

【「移民政策」とは違うと強調する日本政府 しかし、やってくるのは「人間」】
「移民政策」はとらないとしている日本でも、「人手不足」を背景に、外国人労働者の受け入れを単純労働まで広げようという新しい在留資格制度がスタートすることは報道のとおりです。

****新在留資格、生煮え 外国人受け入れ拡大「来春」、単純労働も****
外国人労働者の受け入れを単純労働まで広げようという新しい在留資格の骨子が、12日公表された。

人手不足に悩む業界などに突き動かされ、今秋の臨時国会に出入国管理法などの改正案を提出し、来年4月のスピード導入をめざす。

「永住」につながる仕組みも盛り込まれたが、政府は「移民政策」とは違うと強調する。その制度設計には課題も多い。

 ■長期滞在、技能熟練なら可能に 移民?永住?政府は否定
(中略)日本はこれまで、医師や弁護士など「高度な専門人材」は海外から積極的に受け入れつつ、単純労働については就労目的の在留資格がなく、大きな転換となる。
 
政権は一方で、「移民政策をとる考えはない」(安倍晋三首相)と何度も強調してきた。山下貴司法相も12日の会見で「深刻な人手不足の状況に対応するため、真に必要な分野に限り、一定の専門性技能をもつ外国人を受け入れる。期限を設けることなく外国人を受け入れるものではない」と述べ、「移民政策ではない」とした。
 
新たな在留資格「特定技能」は技能の熟練度に応じて「1号」「2号」と分かれている。1号は家族帯同が認められず、在留期限は最長で5年間だが、より熟練した2号は家族帯同が可能になり、「高度な専門人材」と同様、定期的な審査をクリアすれば在留資格も更新が可能になる。さらに、日本に10年間滞在すれば、永住許可の要件の一つも満たす。
 
(中略)ある官邸幹部は「移民政策でないことの肝は、期限の設定や家族帯同を認めない点などに表れている」と話した。2号への移行は高いハードルになる可能性がある。

 ■人手不足条件、介護・外食など候補 対象業種、なし崩し拡大も
(中略)新しい在留資格が認められるのは「不足する人材の確保を図るべき産業上の分野」とした。候補に挙がるのは介護、外食、漁業、建設業や農業などの14分野。法務省は年内にも、省令で対象分野を決める見通しだ。
 
法務省幹部は、分野の絞り方について「公的な指標などを用いて人手不足の程度を調べる」と話す。業種別の有効求人倍率などが参考にされそうだ。
 
外国人労働者に資格を与える業務の対象を「相当程度の知識または経験を要する」ものとし、外国人の日本語能力も「生活に支障がないか」を確かめるとした。

ただ、技能の具体的な水準や測る手法などは、定まっていない。試験は各分野を所管する省庁が定めることになっているが、実際には、各業界団体などで運営する既存の検定試験などが下地になるとみられる。(中略)

だが、こうしたルールも業界の要望に押され、なし崩し的に広がる可能性がある。国際貢献を旗印に1993年に始まった「外国人技能実習制度」では、受け入れる業界団体の要望を受けて、職種や作業を拡大してきた。制度開始時は17だった職種は77まで広がった。
 
対象分野に入らないとみられているコンビニエンスストアでは、業界団体の日本フランチャイズチェーン協会が対象業種にコンビニを盛り込むよう政府に要望することも検討している。【10月13日 朝日】
******************

おそらく日本の「人手不足」は景気による強弱はあるにせよ、少子高齢化を背景に慢性的・長期的なもので、かつ、今後次第に深刻化するものでしょう。その対応は不可避であり、外国人労働者の受け入れ拡大は今後も続くでしょう。

その際、「労働力」としてしか見ない現行制度では、「人間」としての外国人労働者の立場を困難なものにし、いろんな社会的軋轢・トラブルのもとにもなります。それは外国人労働者への反発を強め、社会全体の変質をも惹起します。

****外国人に選ばれる国」めざすが 家族帯同、最長10年できず****
外国人労働者については、人手不足に悩む先進各国で奪い合いが激しくなりつつあり、政府は新しい在留資格を「外国人に選ばれる国」(菅官房長官)をめざしたものだとする。
 
外国人技能実習制度では、最低賃金で働くケースが多く、実習先の変更もできない。新資格では、日本人と同等以上の報酬額の確保を義務づけたり、同じ分野で転職可能にしたりする配慮が盛り込まれた。
 
一方、特定技能1号の外国人の生活や日本語習得をサポートする登録支援機関には、国は直接関与せず、技能実習生の監理団体と同様に民間団体に委ねられる。
 
技能実習生に認めていない家族の帯同は1号でも認めず、2号なら認めることにしている。1号は3年間の経験のある技能実習生なら、無試験で取得できることにする。実習生から1号に移るケースも多くなりそうで、最長で実習生で5年、1号で5年の計10年間家族と離ればなれになる。
 
家族を呼び寄せることをめざし、2号の取得に挑む外国人も出そうだが、詳しい条件や試験といった詳細の設計はこれからだ。さらに2号の資格を得て家族と暮らしても、景気悪化などで対象分野の「人手不足」がなくなれば職を失い、帰国させられる可能性もある。
 
外国人労働者の実態に詳しい川上資人弁護士は、家族の帯同を認めないことは「人間の自然なあり方に反しており、国際的な基準に照らしてもあり得ない」と批判。「2号の取得者がほとんど出ない、絵に描いた餅のような資格にならぬよう今後の議論を注視することが大事だ」と指摘する。【同上】
******************

事態が深刻化してから「労働力を呼んだら、来たのは人間であった」と気づいても、外国人労働者、日本社会双方にとって不幸なことにもなります。

****知らずに増えた移民外国人の不都合な真実 もはや彼ら抜きに経済は回らないが課題も****
いま日本のカタチが変わろうとしている。

決して大げさな話ではない。おそらく後世の人にとって、2018〜19年は、国のあり方がはっきり変わった歴史的なターニングポイントとして知られているはずだ。これまで「移民政策は断じてとりません」と繰り返してきた政府が、“事実上の移民受け入れ”に向けて大きく舵を切ったのである。(中略)

こうした矢継ぎ早の政策発表のウラにあるのは、深刻な労働力不足である。
2018年現在、最新の有効求人倍率は1.63倍。政府はこの数値を好景気の指標として使うが、要するに現場で人手が足りていない何よりの証拠だ。

政策と実態のねじれ
いま街で見掛ける外国人労働者のほとんどは留学生や技能実習生だが、彼らは本来的な意味での労働者ではない。(中略)

日本で暮らす外国人の数は2017年末の時点で250万人を超えた。これは名古屋市の人口(約230万人)よりも多い。そのうち労働者は約128万人で、さいたま市の人口(約126万人)に匹敵する。

ともに法務省が統計を取り始めてから過去最高の数値である。都内に限っていえば、いまでは20代の若者の10人に1人が外国人という割合だ。

コンビニだけでなく、ドラッグストアやファミリーレストラン、ハンバーガーショップ、牛丼チェーンなどなど、さまざまな場所が働く外国人の姿であふれている。

もちろん世界的に見れば、日常的に外国人が多いという状況は珍しいことではない。だが、政府は「断じて移民政策はとらない」と明言してきたのに外国人労働者の数が増えている。これはいったいどういうことだろうか。

政府の方針をわかりやすくいえば、「移民は断じて認めないが、外国人が日本に住んで働くのはOK、むしろ積極的に人手不足を補っていきたい」ということだ。(中略)

とりあえず10月下旬からの臨時国会には注目だが、消費税率が3%→5%→8%、そして10%と段階的に高まってきたように、外国人労働者の受け入れ枠も(なんとなく)知らないうちに増えていくのかもしれない。

留学生が労働力不足を補う現状
本を書くにあたって、多くの“コンビニ外国人”に取材をした。そのほとんどが日本語学校か専門学校に通う留学生だった。

彼らは、「原則的に週28時間まで」のアルバイトが法的に許されている。「原則的に」というのは、夏休み期間などは週40時間のアルバイトが認められるためだ。学生がより長く働けるように長期休暇が多いことをウリにしている日本語学校もある。

週に28時間では時給1000円で計算しても月収は11万円ほどにしかならないが、世界的に見るとこの制度はかなり緩い。たとえばアメリカやカナダなどは、学生ビザでは原則的にアルバイト不可、見つかれば逮捕される。

つまり、コンビニなどでアルバイトをしている留学生は、学生であると同時に、合法的な労働者でもあるのだ。

彼らも仕事を求めているし、現場からは労働力として期待されている。需要と供給を一致させているのは、日本の人口減に伴う深刻な人手不足だろう。実際、留学生の9割以上が何らかのアルバイトに携わっている。

いま日本は「留学ビザで(割と簡単に)入国して働ける国」として世界に認識されている。しかし、ここに大きな問題がある。

日本語学校などに籍をおく留学生の多くは、入学金や授業料、現地のブローカー(エージェント)への手数料などで100万〜150万円という金額を前払いする必要があり、その多くが借金を背負って来日しているのだ。

借金を返済するためには働く必要がある。だが、原則28時間という労働時間を守っていたのでは、生活費を賄うのがやっと。中には強制送還覚悟で法律を破って28時間以上働く留学生もいるし、借金を背負ったまま帰国する留学生も少なくない。

日本語学校を卒業して大学まで通い、日本で就職したいと願う留学生たちも、3割程度しかその夢をかなえることができない。

世界第4位の移民受け入れ国
ユネスコの「無形文化遺産」に登録された和食も、いまや外国人の労働力なしには成り立たない。(中略)
現実として、外国人労働者抜きに日本経済はもう回らない。わたしたちの生活は彼らの労働力抜きには成り立たない。

OECD(経済協力開発機構)の発表では、日本はすでに世界第4位の外国人労働者受け入れ国である(本の執筆時はまだ5位だった)。

国の政策とは別に、外国人との共生に取り組む自治体も増えはじめている。横浜市では独自にベトナムの医療系大学などと提携して、留学生を迎え入れることを決めた。近い将来、大規模な不足が予想されている介護職に就いてもらうための人材確保だ。留学に関する費用や住居費なども市が一部負担するという。

2010年から外国人を積極的に呼び込んでいる広島県安芸高田市の浜田一義市長はこう言っていた。
「今後、ウチのような過疎の自治体が生き残っていく道は世界中に外国人のファンを作ることだ。『ガイジンは苦手』と言っている場合じゃない。多文化共生は私たちの必修科目です」

個人としては、外国人の受け入れには賛成の立場だが、これまで国政レベルでも十分な議論がなされたとは思えず、彼らの生活保障に関する法整備など、受け入れの準備はほとんどされてない。このままなし崩し的に受け入れを進めていいものだろうか。

移民の問題を語るときによく引用されるスイスの小説家の言葉を最後に紹介する。
〈労働力を呼んだら、来たのは人間であった――〉【10月21日 芹澤 健介氏 東洋経済ONLINE】
*******************

急増するベトナム人留学生・技能実習生
最近特に急増しているのがベトナムからの留学生・技能実習生という名の外交人労働者です。

“法務省によると、日本に暮らすベトナム人は07年は3万6131人だったが、17年は26万2405人と約7倍に急増。良好な日越関係や日本の労働力不足を背景に増え続け、フィリピンを抜き、中国、韓国に次ぐ多さとなった。技能実習生は15年末は5万7581人だったが、16年末に最も多かった中国を抜き、17年末は12万3563人。2年間で2倍となった。”【10月14日 朝日】

****留学生が急増 ベトナムの日本大使館が悪質あっせん業者排除****
ベトナムでは日本への留学生の急増に伴って、悪質なビザ申請を行うあっせん業者が増えていることから、現地の日本大使館は特に悪質な業者の申請を受け付けないことを決めました。

日本国内の日本語学校などで学ぶベトナム人留学生は、ことし6月末現在で8万人余りと、5年前の4倍近くに急増しています。ただ、現地のあっせん業者の中には「日本で学びながらアルバイトをすれば、数十万円稼げる」などと誤った説明をして、留学希望者を集めている業者が少なくないのが実態です。

ベトナムの首都ハノイにある日本大使館は、こうした悪質な業者を排除しようと、去年からビザの申請者本人に対する面接を実施しています。

この中には、留学に必要な日本語能力の証明書を提出しているにもかかわらず、全く日本語が話せなかったり、渡航の目的について「働きに行きます」と答えたりする申請者が全体の1割から2割に上っているということです。

このため大使館では、こうした事例が去年から何度も続いている12の業者を特に悪質な業者として大使館のホームページ上に公表し、来月から半年間、ビザの申請を受け付けないことを決めました。

ベトナム人留学生の中には、日本で働くことを見込んで多額の借金をして来日する若者も多く、窃盗などの犯罪に手を染めるケースもあることから、日本大使館ではベトナム当局とも連携しながら悪質な業者の排除に努めたいとしています。【9月30日 NHK】
********************

こうしたベトナムからの留学生急増の背景には、日本経済の事情があります。また、現地ベトナムでは留学生送り出しが「産業」ともなっています。

****ベトナム人が夢見る「1カ月で年収が稼げる国」 偽装留学生の闇****
(中略)その背景には、日本側の事情がある。政府は2008年から「留学生30万人計画」を進めていた。

しかし11年に福島第一原発事故の影響もあって、留学生全体の7割近くを占めていた中国人が減少に転じた。中国経済が発展し、日本へ出稼ぎに行くメリットが薄らいだことも減少に拍車をかけた。

そこで政府は留学生を確保するため、ビザの発給基準を大幅に緩めた。結果、ベトナム人を中心に出稼ぎを目的とする“偽装留学生”の流入が起き始める。

日本に留学すれば、月20万〜30万稼げる
ベトナム経済も成長しているとはいえ、恩恵は一般庶民にまで届いていない。共産主義国で、かつ賄賂大国という事情もあって、政府の有力者にコネのない若者には生き難い国でもある。

海外への出稼ぎ希望者は多いが、行き先は台湾や韓国、もしくは実習生を受け入れる日本などに限られる。そんななか、日本への「留学」の道が開かれたのだ。
 
ただし、よほどの富裕層でなければ、日本の留学ビザを取得するための経済力はない。ベトナムの庶民が日本へ留学するためには、斡旋業者に頼り、ビザ取得に必要な証明書類をでっち上げてもらうしかないのだ。
 
「日本に留学すれば、月20万〜30万円は簡単に稼げる」
出稼ぎブームの初期には、そんな甘い言葉で若者を勧誘する斡旋業者も多かった。「20万〜30万円」といえば、ベトナム庶民の年収に匹敵する金額だ。

留学生のアルバイトとして認められる「週28時間以内」という法律を守っていれば稼げないが、事情を知らないベトナム人たちは業者のもとへ殺到した。そして、でっち上げの数字が並ぶ書類を準備してもらい、続々と日本へ出稼ぎに行くことになった。
 
斡旋業者には、日本へ留学生を送り出せば1人当たり数十万円が入る。留学希望者が支払う手数料に加え、受け入れ先となる日本側の日本語学校から1人の留学生につき10万円程度のキックバックがあるからだ。物価水準が日本の10分の1程度のベトナムでは、日本への留学生送り出しは「産業」と呼べるほどだ。
 
斡旋ビジネスには、現地の日本人が関わっているケースも目立つ。受け入れ先の日本語学校とのやり取りなどが生じるからだ。
 
「ハノイで複数の日本語学校を経営し、1億円以上も稼いだと豪語している日本人もいる」(現地在住の日本人)
 行政機関や銀行に賄賂を払い、ビザ取得に必要な書類をでっち上げ、日本へと留学生を送り込んでのことだ。(後略)【10月11日 出井康博氏 WEDGE Infinity】
*****************

こうした事情を背景に専門学校で学ぶ外国人学生も増えていますが、定員を上回る学生を受け入れてしまい、発覚して退学・帰国を余儀なくされるといったトラブルも。

また、日本における労働・生活のなかで死にいたる外国人留学生や技能実習生も増えています。

****いびつな政策の犠牲者」ベトナム人実習生らの相次ぐ死****
日本で暮らす外国人留学生や技能実習生が増える中、仕事や生活で追い詰められ、命を落とす若者もいる。ベトナム人の尼僧がいる東京都内の寺には、そんなベトナムの若者の位牌が増え続けている。外国人が働きやすい環境の整備や暮らしへのサポートが必要だと、専門家は訴える。(後略)【10月14日 朝日】
********************

繰り返しになりますが、「人間」としての外国人労働者をどのように日本社会に迎え入れるかを議論する必要があります。

制度的準備とともに、日本側の意識の改革、覚悟も必要になります。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

EU  ポピュリズム台頭の流れで価値観の変質が内部進行

2018-10-20 22:55:16 | 欧州情勢

(「利益の多元的反映か、一元的集約か」「専門知への信頼か、民意の反映か」を軸にポピュリズム、多元主義、エリート主義を図式化すると(古賀准教授作成)【10月17日 GLOBE+】)

北欧 新政権樹立が難航するスウェーデン
イギリスのEU離脱は予想されたように難航しています。

ただ、どういう形にしろイギリスが離脱することはEUにとって重大な問題であるにしても、もともとイギリスはユーロにもシェンゲン協定にも参加していない傍流の立場にあった国ですから、また、離脱後もお互いに必要としている関係で、“それなり”の関係は維持できるでしょうから、その意味ではEUにとって致命的と言うほどのものでもないでしょう。

イギリスの問題よりEUにとって重大ななのは、EU内部における価値観の違いが、特に移民・難民問題への対応を契機に、極右・ポピュリズム勢力の台頭という形で表れて、求心力を失いつつあることではないでしょうか。

欧州民主主義を代表する国家であった北欧・スウェーデンでは、先の総選挙における反移民・極右「スウェーデン民主党」の台頭によって中道右派・左派の双方とも多数派を形成できず、新政権樹立が難航しています。

****宙づり議会のスウェーデン、中道右派党首が政権樹立断念****
9月9日の総選挙を受けて過半数を制する勢力がない「ハングパーラメント(宙づり議会)」となっているスウェーデンで、中道右派連合「アライアンス」の最大政党である穏健党のクリステルソン党首が14日、政権樹立を断念すると表明した。

十分な支持が得られなかったと説明し、首相を選ぶ権限を議長に返上した。

総選挙ではクリステルソン氏率いるアライアンスも、社会民主労働党などの中道左派勢力も過半数を獲得できず、いずれの勢力も反移民を掲げるスウェーデン民主党との連立は否定している。(後略)【10月15日 ロイター】
******************

南欧 イタリア・ポピュリズム政権の移民・難民対応と財政規律問題
南欧・イタリアにあっては、すでに極右「同盟」とポピュリズム「五つ星運動」の政権が誕生していますが、移民・難民対応や財政再建問題で独仏などのEU主流国との不協和音が広がっています。

****移民積極受け入れの村、イタリア内務省が全員の移送命令 国内で怒りの声****
移民問題に揺れるイタリアで、地元活性化のために移民らの積極的な受け入れで注目を浴びてきた村に対し、内務省が移民全員の村外移送を命じたことが明らかになった。

極右政党「同盟」を率いるマッテオ・サルビーニ内相はこの村をモデルとした事業を問題視していた。国内では14日、野党などから一斉に反発の声が上がった。
 
命令が出されたのは南部カラブリア州のリアーチェ村。これまで、イタリアでの移民や難民の統合をめぐり議論の中心となってきた。
 
移送は当初は強制的なものとされていたが、地元メディアによると内務省関係者は後に「自由意志に基づく移動だ」と修正した。ただし、村に残る移民らは今後「受け入れ制度による恩恵」にあずかれなくなるという。
 
数十年にわたって人口減少が続いているリア―チェは、再生を図るために移民を受け入れることを決め、世界中で大きく報じられた。
 
しかし、今年6月にジュゼッペ・コンテ政権の内相に就任したサルビーニ氏は、リア―チェに触発された事業を削減し、移民らを大規模な収容施設に集めたい意向を示してきた。
 
今月には、移民にとって利益になるように制度を悪用したとしてリア―チェのドメニコ・ルカーノ村長が逮捕されていた。
 
内務省の措置には非難の声が上がっている。野党・民主党のエンリコ・レッタ元首相は「恥を知れ。これはイタリアではない!」とツイッターに投稿。イタリア全国パルチザン協会も「サルビーニを止めろ! 見て見ぬふりをしてはいけない」と呼び掛けた。【10月15日 AFP】
******************

リアーチェ村は“人口約1700人のうち約600人が中東やアフリカなどからの移民。移民や難民申請者に住宅を提供し、国の補助金を原資に村内で使える地域通貨を印刷して配るなど、衣食住を支えてきた。”【10月15日 朝日】とのことですが、その国からの補助金の使途が問題視されています。

具体的には、難民は支援協会が借り上げた空き家に住みながら、刺繍や陶芸など学び工房で働くことで、地域の伝統工芸復興に一役買っているといった形で、昨今の大量難民問題以前かのずっと前から取り組んできた対応のようです。

もちろん、すべてがうまくいっている訳でもなく、地元住民との軋轢・トラブルもあるでしょう。
7,8年前のTV番組でドメニコ氏は、「私たちは夢の楽園を作ろうとしているわけではない。こうした事例も可能だという、小さな希望を示しているに過ぎない」とも語っていました。

この共存に向けた“小さな希望”も、共存を否定する反移民「同盟」のサルビーニ内相には、許しがたいものに思えるようです。

来年度予算案では、財政規律をめぐってEUとの軋轢が強まっています。

****EU イタリア政府の予算案は「財政規律守らずルール違反****
(中略)イタリア政府が今月15日にEUに提出した来年の予算案には、失業者などに日本円にして月額10万円余りの所得を保障する制度の導入などが盛り込まれ、財政赤字は、GDP=国内総生産の2.4%となる見通しとなっています。

予算案の審査を行うEUのモスコビシ委員は18日、イタリアのローマで記者会見を開いてイタリアのトリア経済財務相に書簡を手渡したことを明らかにし、「公的な支出を増やすイタリア政府の選択は、ヨーロッパ各国にとって不安材料だ」と述べて強い懸念を示しました。

書簡では、イタリア政府の予算案が支出を大幅に拡大させるもので、GDPのおよそ130%に当たる巨額の債務の削減にはつながらず、財政規律の順守を義務づけたEUの協定に対する深刻なルール違反だと指摘しています。
そのうえで、今月22日までに見解を示すよう求めています。

イタリアの財政の先行きには金融市場でも懸念が出ていますが、EUに懐疑的な立場をとるイタリアの現政権は、これまで繰り返し予算案を見直さない方針を示していて、今後の対応が注目されます。【10月19日 NHK】
***************

各国の予算案がEUによって審査されるというのも、そうした枠組みとは無縁の日本からすれば馴染みのないもので、EU統合の進み具合を示すものとも言えますし、同時に、各国の“自国第一主義”からすれば不当な主権侵害ともなるところでしょう。

もっとも、現在のところEUには国家予算を左右する実質的決定権はないようです。

****来春に制裁発動か****
欧州委がイタリアの予算案を拒否した場合、イタリア政府は予算案の見直しが必要になる。

しかしイタリアが見直しを拒否すると、欧州委はイタリア政府に対する制裁措置に向けた手続きを開始せざるを得なくなる。制裁措置の判断は通常、最終的なデータの入手が可能になる4月以降となることから、春以前の発動はないだろう。
 
制裁措置では基準に抵触した国に罰金を科すことが可能だ。
 
しかしイタリア政府は、フランスが9年間にわたって財政規律に違反しながら制裁手続きを免れたことを承知している。スペインとポルトガルも2016年に財政赤字が基準を超えたが罰金を免れた。
 
これまでに制裁手続きに基づいて罰金を科された国はない。【10月4日 ロイター】
****************

ただ、イタリア財政が破綻すればギリシャ危機どころではない壊滅的な事態ともなりますので、こうしたイタリアの動向に市場は敏感に反応します。

“反エスタブリッシュメント政党「五つ星運動」を率いるディマイオ氏は、「われわれは市場に注意を払っているが、(イタリア国債利回りの対独連邦債)スプレッドとイタリア国民という選択肢なら、イタリア国民の方を選ぶ」と述べた。”【10月5日 ロイター】とのことですが、市場の反応によってイタリア財政が行き詰まれば、国民生活が破綻するという問題であり、「市場より国民を選ぶ」云々は、いかにもポピュリスト的言い様でもあります。

東欧 強権主義的ポーランド・ハンガリーへの圧力を強めるEU
EUのUにとってさらに深刻なのは、これまでも取り上げてきた中東欧、とりわけハンガリー・ポーランドの真っ向から西欧民主主義を否定するような政治動向です。

****EU、ポーランド提訴、ハンガリーにも制裁手続き****
欧州連合(EU)の欧州委員会は24日、ポーランドが施行した最高裁判所に関する新法について、司法の独立を侵害するとしてEU司法裁判所に提訴することを決めた。

EUは今月、EUの基本理念に違反したとしてハンガリーへの制裁手続きにも動き出した。東欧2カ国の現政権による強権政治が大きな懸念となる中、相次ぐ措置で是正への圧力を高める狙いだ。
 
欧州委によると、ポーランドの新法は4月に施行され、同国の最高裁判事の定年を70歳から65歳に引き下げる内容。現職判事約70人のうち最高裁トップを含む約3分の1以上が退職を迫られることになった。
 
ポーランドの保守系政権与党「法と正義」は近年、裁判官人事への権限拡大など司法介入を強める改革を推進。EUは「法の支配」を脅かすとして、昨年末にはEUの政策決定に対する同国の議決権の停止もできる制裁手続きを始めた。
 
ポーランドは新法について裁判所の効率化などが目的と主張するが、欧州委は一連の改革と同様に「司法の独立の原則を損なう」との立場。EU司法裁には新法の効力を停止させる仮処分も求めた。
 
ハンガリーに対しては欧州議会が12日、表現の自由や人権の保護など、EUが定める基本的価値をめぐり違反があるとして、ポーランド同様に制裁手続き開始を求める提案を採択した。
 
ハンガリーではこれまでオルバン首相がメディア統制を強めたり、不法移民や難民の支援を犯罪化したりし、EUで批判を受けてきた。「脅しに屈しない」と対決姿勢のオルバン氏に対し、ユンケル欧州委員長も制裁手続きは「発動する必要がある」と強調した。
 
ただ、EUの対処にも難点がある。議決権停止の制裁には対象国を除く加盟国の全会一致の決定が必要だが、ポーランドとハンガリーは互いに発動を阻止する構え。チェコやブルガリアも反対だ。

東欧はEUの移民・難民受け入れ政策を拒否してEUと対立しているだけに、対応次第ではその溝が一層深まりかねない。【9月25日 産経】
*****************

ハンガリーの問題については、4月15日ブログ「ハンガリーでオルバン与党圧勝 進む民主主義解体 欧州に感染拡大する“オルバン主義ウイルス”」や6月28日ブログ「アメリカと世界を暗黒面に引きずり込むトランプ米大統領 世界各地に“ミニ・トランプ”も」などでも取り上げてきましたので、今回はパスします。

ただ、ハンガリーに対する政治的制裁手続きを開始する決議案採択において、“欧州議会は声明で、民主主義の尊重、法の支配、人権といったEUの基本的価値観の「全体に及ぶ脅威を阻止するため、一つの加盟国に対して」行動を取るよう残る加盟国に呼び掛けた。また、今回の採決の元となった報告書は、司法の独立、汚職、表現の自由、学問の自由、宗教の自由、少数民族と難民の権利に懸念を表明している。”【9月13日 AFP】ということになると、そうした異質な国(オルバン首相はロシア、中国、トルコの名あげて「非リベラル国家」を目指すと明言しています)をEU内に抱えることの是非にもなるように、部外者には思えます。

なお、ポーランドやハンガリーはEU補助金における最大の「受益国」でもあります。

ポピュリズム政治の危険性
アメリカ・トランプ大統領の存在によって加速している欧州各国におけるポピュリズムの流れについては、そもそも民主主義とはポピュリズムではないのか?という疑問もあります。そのあたりにつては、以下のようにも。

****選挙で勝てばすべて決められる」と考えるポピュリズム 抑制するシステムはあるか****
ポピュリズムを「民主主義ならではの現象」「民意を反映する手段」ととらえ、一定の評価を与える見方は少なくない。

しかし、オーストリア政治を中心とした比較政治を専門とする中央大学の古賀光生准教授は、ポピュリズム政治が持つ危険性を明確に指摘する。(中略)

――ポピュリズムとはどのような概念なのでしょうか。

「ポピュリズムを一つの思想としてとらえることができるとすると、二つの特徴があるように思います。一つは、『人々が決める』『投票で決める』という点です。もう一つは、物事を決めるうえで『民意』というものが一枚岩で決まっていると考える点です」

「投票重視の点で見ると、その反対側にあるのが『投票以外の要素もあるんだ』という考え方で、立憲主義はその例です。

議会で多数を得ても、それを拒絶する憲法裁判所などの制度が整えられている。選挙で選ばれたわけではない人が政策決定に強くかかわるという面では、ある種のエリート主義の面を持っています。

一方で、多数決だけでは侵害し得ない領域をしっかりと確保することによって、少数者の保護が可能になる。『憲法裁判所で否決されるような法案はそもそもつくらない』となって、議会の好き勝手な活動を抑止することにもなる。

その意味で、ハンガリーのポピュリスト政権が憲法裁判所の権限を弱めようとするのは、まさに象徴的な出来事でした」

「ポピュリズムと立憲主義との違いは、例えば中央銀行の金融政策をどうするかという議論にも表れています。『それは、投票では決められない』と考えるのが大陸ヨーロッパの規範です。専門知に対する信頼性に基づいてのことですが、ポピュリズムの考え方だと『選挙で勝った勢力が総裁の首をすげ替えて勝手にしていいのだ』となる」

「ポピュリズムは『みんなの利益はある程度決まっているのだからそれを実現すればいいでしょう』との立場を取り、選挙や住民投票でその代表的な意見を決めようとします。

投票で勝てば、一枚岩のみんなの利益を我々が代表することになる。それを推し進めることこそが民主主義だ。そんな考え方ですね。

選挙で勝った我々がすべてを決めてこそ民主的だ、というわけですが、そこからは『人々の意見は多様だ』という意識が抜けています」

■「民意は多元」の考え方
「その対極にあるのは、『民意とは多元的なのだ』という考え方で、多元的だからみんなで話し合いましょう、という姿勢です。(中略)

――ポピュリズムについては、「民主主義と表裏一体」「民主主義ならではの現象」といった見方が少なくありません。

「『ポピュリズムは民主主義そのものだ』といった誤解が広がっているのでは、と危惧します。それは、得票が一番多い人が勝ちで、一番の人は何をしてもいい、といった主張になりかねません。

でも、それだけが民主主義の要素ではない。投票で決めることは大事ですが、投票だけですべて決めていいわけでもないのです。『民主主義イコール多数決』ではない、というところをしっかり認識する必要があると思います

。投票ばかり重視すると、デモクラシーの足場が失われてしまう。現代民主主義は、投票と投票以外の部分のバランスで成り立っているのです」

■「民主主義=多数決」ではない
「投票で決める部分が多いほど、ポピュリストは勢力を拡大します。逆に、投票だけでは決められないという部分がちゃんと制度に埋め込まれている国だと、選挙でポピュリストが勝っても、その後で規制ができる。

具体的には、例えば最初から過半数を取る政党が現れにくい比例代表制、つまり『投票はするけどそこですべてきめるのではない』制度だと、ポピュリストが完全に権力を掌握するケースは少ないのです。

ポピュリズムと対置する概念は『立憲主義』ですが、こうした制度は立憲主義に立脚しています」(中略)

■抑制する仕組みはあるか
「ポピュリズムに、民主主義の不備を警告する機能があるのは、確かです。例えばフランスの場合、大統領選の決選投票でマリーヌ・ルペンが30%以上取って衝撃を与えたわけですが、当選はしないのです。

あるいは、仮に彼女が権力を握っても議会が仕事をさせない。そういう制度が整っていれば、ポピュリズムは『民主主義への警告』として機能します」

「一方で、トランプみたいに権力を掌握してしまったり、さらにハンガリーのオルバン政権のように3分の2を取って、しかも制度的なブレーキがアメリカのようには利かない国だったりすると、ポピュリズムが警告にとどまらない恐れがあります。(中略)

「極右的な思想を持っている人たちが権力を握りうる社会的なムードが高まり、それを制御する仕組みもないような状況にあると、『ポピュリズムは警告だ』などと言っていられない。

ワイマール共和国からナチスの独裁まで行ってしまった例もあります。ブレーキが何重にもかかっている時とそうでない時とで、ポピュリズムへの身構え方も変わってくると思います」(後略)【10月17日 古賀光生氏 GLOBE+】
****************

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

既存の発想・ルールを軽々と飛び越える「中国らしさ」 危うさと同時にパワーも

2018-10-19 22:36:00 | 中国

(画像は【2017年7月19日 Gigazine】 2017年にロシアが打ち上げた衛星「Mayak」で、三角錐状の帆を広げて太陽光を反射するもの。目的は「人々の興味を宇宙に引きつけること」とか。帆の面積は16平方メートルの極めて小さなものですが、それでも天文観測への悪影響が問題となりました。)

【「照明衛星」で太陽光を反射し、街灯の代わりに都市部を照らす?】
世界にはいろいろな懸念される問題は多々あるのですが、あまりにも“ぶっ飛んだ”計画の迫力圧倒されて、中国の話題。

****中国が「人工月」打ち上げへ 街灯代わり、電気代節約に****
中国が2020年までに、照明用の人工衛星、いわば「人工の月」を打ち上げ、街灯の代わりに都市部を照らし、電気代を削減する計画であることが分かった。国営メディアが19日、報じた。
 
国営英字紙チャイナ・デーリーによると、南西部四川省成都市が開発中の「照明衛星」は本物の月と共に輝き、ただその光は本物よりも8倍明るいという。
 
プロジェクトの担当責任者によると、この世界初の人工月は2020年までに同省の西昌衛星発射センターから打ち上げられる計画で、この第1号の試験運用が成功すれば、2022年に追加で3機を打ち上げる予定だという。
 
この人工月は太陽光を反射し、街灯の代わりに都市部を照らす。これにより50平方キロの範囲がカバーされれば、成都市の電気代を年間12億元(約200億円)節約できる見通しだという。
 
同責任者は、災害で停電が発生した際にも、この衛星からの光が被災地の救助活動に役立つとしている。【10月19日】
*****************

中国では、“道路をまたぐバス”とか、とんでもない計画がしばしば話題になりますので、今回の「照明衛星」の現実性については・・・・わかりません。

ただ、一企業ではなく、成都市が開発しているということであれば、実現するかどうかは別にしても、“本気”なのかも。

いずれにしても、この発想の大胆さというか“ぶっ飛び”加減には圧倒されます。いろいろ問題はあるにせよ、今の日本には見られないエネルギーを感じます。

“問題”については、人工照明の健康への影響が議論されているようです。

****人工の月」 2020年までに中国で宇宙に打ち上げの意向****
(中略)この「人工の月」は、その大きさと明るさによって、中国の他の都市からだけではなく、他の国でも夜空に見ることが可能になるとみられている。

同市政府はまた、空に浮かぶ「第2の月」によって、観光客を引きつけることができると考えている。

成都市では、テストが数年前に開始され、現時点では技術開発と設計作業が既に完了したと指摘されているものの、衛星打ち上げの正確な日程は今のところ不明のままだ。

それと同時に、一連の学者らは、人工衛星が中国の人々の健康に影響を及ぼすのではないかと懸念している。つまり、このような夜間の光が同市住民の「エピジェネティック時計(寿命を予言する老化のバイオマーカー)」に否定的影響を与える可能性があると予想されているのだ。

だが、ハルビン工業大学の教授は、人工衛星の明るさが夕暮れ時とほぼ同じようなものになるため、この明るさは健康に影響を及ぼさないと保証している。

同紙はまた、ロシアが1999年、宇宙ステーション「ミール」に大きさが25メートルの鏡を設置しようと試み、この鏡が太陽光を反射させるはずだったことに言及している。しかし、この計画は故障が原因で中止された。【10月18日 Sputnik】
*******************

日本からも見えるのでしょうか?
確かに、実現したら私も成都に行ってみたいと思います。(今年7月に乗り継ぎで宿泊した成都には、「三星堆博物館」を見学するという宿題もありますので、近いうちに再訪する予定です。2020年に打ち上げという話なら、それに合わせて・・・)

「エピジェネティック時計」云々はわかりませんが、やがては「照明」ではなく、SFドラマに出てくるような都市ごと焼き払う「大量破壊兵器」に転用されることはないのか・・・という不安も。(ロシアも以前計画していたという話になると、ますます「民生用」ではなく「軍事用」を最終目的としているのでは・・・との邪推も起きます)

日本なら、「エピジェネティック時計」云々を含めて(人間以外にも、農作物や家畜への影響もあるでしょう)、不特定多数に強制的に影響が及ぶこの種の計画が本気で議論されることはないでしょう。

それは日本の“良識”ではありますが、時代を変えるのは“良識”ではなく、「照明衛星」のような“狂気”なのかも。

直径500mの世界最大の電波望遠鏡 問題はあるものの・・・
中国の“ぶっ飛んだ”エネルギーが実際に実現させたもののひとつに、500mという世界最大の直径を持つ電波望遠鏡がありますが、こちらは運用面で苦労しているようです。

****世界最大の電波望遠鏡に難題、入手情報多すぎ改善せねば単なるごみに****
中国新聞社など中国メディアは(9月)26日、貴州省の山間部に建設され2016年9月に稼働を開始した世界最大の直径を持つ電波望遠鏡「五百米口径球面射電望遠鏡(通称FAST、Five-hundred-meter Aperture Spherical radio Telescope)について、情報処理の能力を大幅に向上させないと、このままでは「データがごみでしかない」状態になるとして、関係者の奮起に期待する記事を掲載した。

FASTは山間部のくぼ地に固定された電波望遠鏡で、それまで世界最大だったアレシボ天文台の直径300メートルをはるかに凌駕する500メートルの直径を持つ。

超大型の電波望遠鏡建造で、大きな問題になるのが望遠鏡自身の重さだ。望遠鏡の角度を変えると重量のかかりかたが変化して望遠鏡全体がたわんでしまう。そのために電波を正確に集められなくなる。

アレシボ天文台の電波望遠鏡は、望遠鏡をくぼ地に固定することで重量の問題を解決した。望遠鏡の角度は変えられないので天空の極めて限られた場所しか観測できないが、精度を向上させることができる。FASTも同様の構造だ。

FASTには「天眼」という愛称もある。2018年9月の報道によると稼働開始以来、59のパルサー候補を発見し、うち44個は新発見のパルサーであることを確認したという。(中略)

FASTは理論上、137億光年先で発生した電波も観測する性能を持つとされる。(中略)つまり、FASTは大宇宙の草創期の様子も探れる可能性を持つことになる。

しかしここにきて、FASTの能力を十分に利用するためには、情報処理能力の大幅な向上が必要であることが重視されるようになったという。

貴州師範大学の謝暁堯副学長によると、FASTは現在、1秒間当たり38ギガバイト、1日当たりでは96ペタバイト(1ペタバイト=100万ギガバイト)の情報を収集している。情報処理により96ペタバイトは10〜15ペタバイトに減らせるが、それにしてもこれだけ大量の情報を必要に応じたタイミングで処理できないのでは「データのごみ」を持っているだけになってしまうという。

FASTが収集する情報は今後30年間で10エクサバイト(=1万ペタバイト)を超えることになる。これだけの量の情報を処理するには、情報技術の刷新が大きな課題という。

ただし、貴州省側では、FASTの十全な活用のための「難問解決」の困難さを承知の上で、地元の発展のために大いに役立てることが可能との見方が出ている。

省政府は、省都である貴陽市に国家スーパーコンピューターセンターと科学データセンターを建設する動きに着手したという。

これまで中国南西部の山間部という条件により発展が遅れた貴州の地だが、人材の育成と招聘に力を入れ技術刷新のためのあ努力を重ねれば、省としてビッグデータ関連の技術を向上させ、関連産業も育成できるとの考えだ。

なお、電波望遠鏡の重量問題について、日本では野辺山天文台の電波望遠鏡で、重量の影響を前提に、「計算通りにきちんとたわむ」ように設計するという、いかにも「日本らしい技」で、同じ大きさの電波望遠鏡としては極めて優秀な性能を持たせることに成功したことがある。

現在は、日本が主導し台湾、米国、カナダ、欧州各国、チリが参加してチリのアタカマ砂漠で進められているアルマ望遠鏡の国際共同プロジェクトが、132.8光年先に酸素が存在することを確認するなど成果を上げ続けている。

アルマ望遠鏡は比較的小型で移動可能な電波望遠鏡を最大直径16キロメートルの範囲で配置する方式で、各望遠鏡からの情報を総合することで直径16キロメートルの電波望遠鏡に匹敵する能力を得ることができる。【9月26日 レコードチャイナ】
******************

貴州省にも観光予定がありますので、「照明衛星」を見物に成都に行った際に、一緒に隣の貴州省の「五百米口径球面射電望遠鏡」も見てみたいものですが、見学というか近寄ることは許されているのでしょうか?一帯は立ち入り禁止でしょうか?

情報処理能力はまさに日進月歩の世の中ですから、その方面の問題はやがてクリアされるのでは・・・と、素人は簡単に考えてしまいます。どうでしょうか。

「計算通りにきちんとたわむ」ように設計するというは確かに「日本らしい技」ですが、力任せに500m直径の巨大電波望遠鏡を実際に作ってしまい、問題があれば後から対応するというのも「中国らしさ」です。

この「中国らしさ」は、洗練はされていませんが、新しい世界を開くようなパワーを秘めていることも。

既存のルールを軽々と飛び越える危うい「中国らしさ」】
ただ、この「中国らしさ」は、遺伝子操作など生命倫理に関係する分野になると、看過できない問題も生じてきます。

****チャイナスタンダード)ゲノム治療、規制より速さ がん臨床研究、米に先行****
「インドから来ている患者がいる。会ってみるか」
7月上旬、中国沿海部の浙江省にある杭州市腫瘤(しゅりゅう)医院。院長の呉式シュウ(54)の紹介で、病棟の3階に案内された。(中略)

この病院では、世界に先駆けて新しいがん治療の臨床研究が進む。ゲノム編集技術「クリスパー・キャス9(ナイン)」を用いて患者の血液に含まれる細胞の遺伝子を操作し、免疫の力でがん細胞をたたく方法だ。

末期の食道がんで治療法がなくなったサワールは、知人のつてをたどり、最後の希望を求めて中国にやってきた。
 
狙った遺伝子を効率良く編集できるキャス9は、この数年で研究現場に急速に浸透。「ノーベル賞候補」との声が上がる。研究レベルでは、生まれつき身が多い魚や筋肉量を増やしたブタ、ヒトの遺伝性難病を発症するサルを誕生させるなど、様々な成果につながっている。
 
ただ、人体への応用は未知数だ。うまく行けば、がん治療に革命を起こす可能性を秘めるが、現時点で安全性や効果が確かめられたわけではない。予期せぬ遺伝子の改変が起こる恐れもあり、欧米の専門家から「慎重になるべきだ」との指摘が相次ぐ。

サワールは「他に方法はない。これが最善だと信じている」と、か細い声で話した。
 
米国立保健研究所(NIH)によると、患者にキャス9を使う臨床研究は世界で十数例の計画があり、ほとんどが中国の医療機関だ。

先行した米ペンシルベニア大は、2年前に米食品医薬品局(FDA)に許可を申請。審査に時間がかかり、ようやく今年になって認められ、患者の募集が始まった。

ルールの差が、米中のスピードの違いを生んだ。呉によると、中国では国の審査を受ける必要はなく、病院内の検討だけで実施に踏み切った。審査に要したのはわずか3週間だ。
 
昨春以降、呉は30人以上の患者を手がけた。いずれも末期の患者で、効果はまだ判然としない。それでも呉に迷いはない。「時間をかければ患者は死ぬ。大切なのは同意だ」
     ◇
中国は、医療や生命科学分野で「2020年までに先進国に並び、一部で先導する」とする国家目標を掲げる。実力とスピードを備えた大国の台頭は、欧米中心だった医療研究の基準や倫理観を揺さぶっている。【8月17日 朝日】
*****************

****チャイナスタンダード)中国の研究、生命倫理に波紋 技術・人材、旺盛に取り込み****
「その研究、うちでやりませんか」
今年1月、中国の製薬関連企業の顧問を名乗る中国人男性が、東京慈恵会医大のある教授を訪ねた。きっかけは、教授の研究チームが専門誌に発表した一本の論文だ。
 
マウスとラットを使った実験で、体内に移植した腎臓の元になる細胞から健康な腎臓を「再生」できた。今後、ブタと慢性腎不全患者の細胞を組み合わせ、患者の体内で健康な腎臓を再生する臨床研究を目指す。(中略)

接触してきた中国人男性は、教授の研究が人工透析に頼らない治療法につながると目を付けた。根幹となる技術の提供を求めた上で、「患者が多く豊富な知見や経験を得られる」「行政と企業から資金援助がある」などと共同研究する利点を並べた。

患者で試す臨床研究をすぐに始められるとして、こう口説いた。「中国の方が日本より規制がゆるい」
 
日本でこの再生医療の臨床研究をするには、国の審査に時間がかかる。この教授は「5年かかるかもしれない」と話す。移植するブタの細胞には、ヒトの健康を脅かすウイルスなどが含まれている恐れがあり、慎重な検査も欠かせない。
 
一方で、教授は「治療を待ち望んでいる患者さんは多い。1、2年以内に1例目をやりたい」。中国との共同研究を決めたわけではないが、「熱意に心が揺れた」と打ち明けた。

 ■資金を集中、急成長
米国立科学財団(NSF)のデータを元にした分析によると、中国の医薬品産業の規模はここ十数年で急激に拡大。2016年は約1185億ドル(約13兆円)と、01年の10倍近くに増えた。
 
日本の科学技術振興機構・北京事務所長の茶山秀一は「(生命科学分野は)変化のスピードが速く、少し先んじることが大きな成果につながる。人材も資金も集中的にかけられる中国にとって、主導権を取るにはちょうどいい分野だ」と話す。
 
海外から優秀な人材を引き抜く動きも目立つ。(中略)

中国の研究姿勢も急成長に関係している。上海のある中国人研究者は「まずはやってみる。注文が付いたら、そのときどうするかを考える。それが中国式だ」と語った。

 ■国際基準作り、主導狙う
2015年、中国の科学者のある試みが、世界を驚かせた。
 
ゲノム編集技術を用いて世界で初めてヒトの受精卵を編集したことを専門誌に発表。法令などで禁じられていたわけではないが、「生命の萌芽(ほうが)」である受精卵を対象にしたことが、欧米の研究倫理を揺さぶった。望み通りの能力や容姿をもつ「デザイナーベビー」に一歩近づく動きだからだ。(中略)

この動きは、米国で新たなルール作りの動きにつながった。米科学アカデミーは17年、遺伝性疾患の治療目的に限って受精卵をゲノム編集することを容認すると発表。条件付きで治療への応用に道を開いた。
 
中国は、国際ルール作りにも関与を深めようとしている。今年6月、北京で開かれた再生医療分野の国際標準(ISO規格)を決める国際会議。出席した日本の関係者は「中国の覇権への序章だ」と語った。(中略)
 
そんな中国の攻勢に、日本の関係者は「中国は当初、他国から軽くあしらわれているような扱いだったが、最近の勢いにはついて行けない。日本も対抗できる人材を育てていかないといけない」と危機感を募らせる。
 
中国では今年、国際標準作りに取り組むことを盛り込んだ改正標準化法が施行された。特許政策に詳しい清華大准教授の梁正(43)は「国際競争や企業同士の協力が進む中で、製品の規格が同じでないと商売にならない」と意義を強調する。

情報通信や生命科学分野の規格作りで、中国が主導権を握る可能性が高いと予測した。
 
■<解説>ルール逸脱ないか、注視を
米国の科学界が気に掛けているのは、中国の研究開発費だ。科学分野全体で見ると、官民合わせた総額で、今年にも米国を抜いて世界一になるとする分析がある。総論文数では、米国を追い越した。米中が研究でしのぎを削る「2強」時代が来るという見方が強い。(中略)
 
中国で進むゲノム編集の臨床応用などは、先進国が積み上げてきた既存のルールを軽々と飛び越える危うさをはらむ。

命に直結する医療分野では、安全や安心がないがしろにされてはならない。欧米と協力して中国を同じ土俵に引き込むよう働きかけていくべきだ。
 
中国の台頭は脅威だけではない。共同研究や人材交流などを通じて日本の競争力を高める好機にもなる。相手の姿勢を慎重に見極めつつ、相互利益につなげるしたたかさが求められる。【8月17日 朝日】
*****************

問題はあるにしても、結局のところ、“先進国が積み上げてきた既存のルールを軽々と飛び越える”中国流が今後の世界をリードしていくような感があります。

高齢者と接して思うのは、老いることの最大の特徴は新しいことを試みる気力を失うことです。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

アフガニスタン  和平交渉の動き 選挙を前にタリバンの攻勢が強まる 一方で、干ばつの脅威も

2018-10-18 22:44:47 | アフガン・パキスタン

(アフガニスタンの首都カブールで、タブロイド紙と同程度の大きさで15ページもある投票用紙を披露する独立選挙委員会のスタッフ【10月18日 AFP】 この新聞のような投票用紙は、識字率が高くないアフガニスタンでは有効な選挙にとって大きな障害にもなるのでは・・・)

タリバンとの直接交渉に乗り出すアメリカ
2001年9.11後のアフガにスタン侵攻以来、アメリカにとって最も長い戦争となっているアフガニスタンでの戦いですが、戦闘での解決は期待できない情勢で、アメリカは反政府勢力タリバンと和平協議に乗り出しています。

****タリバン、アフガン紛争終結に向け米と協議 初めて公式に認める****
アフガニスタンの旧支配勢力タリバンは13日、タリバンの代表者と米国のザルメイ・ハリルザドアフガン和平担当特別代表が、アフガン紛争終結に向けてカタールで会談したと明らかにした。米・タリバン間の協議がいずれかの当事者によって公式に認められたのは今回が初めて。
 
以前からタリバンは米国との直接交渉を求めていた。ハリルザド氏はアフガン最大の武装勢力であるタリバンとの会談に向けて、パキスタンやサウジアラビアといった周辺諸国に根回しを行っていた。
 
タリバンのザビフラ・ムジャヒド報道官は、ハリルザド氏ら米代表との会談はカタールの首都ドーハで12日に行われたと発表した。
 
発表によると、タリバンと米代表は、タリバン政権崩壊につながった2001年の米主導の「アフガン侵攻の平和的解決」について話し合った。

タリバンは外国軍のアフガン駐留は和平への「大きな障害」だと明言したという。また同報道官は、双方が「今後も協議を続けることで合意した」と述べたが、詳細は明らかにしなかった。
 
米国のハリルザド特別代表は声明で、この和平プロセスにはすべてのアフガン人が関与しなければならないと述べたが、タリバンとの会談には言及しなかった。AFPは在アフガニスタン米大使館にコメントを求めたが、回答は得られなかった。【10月14日 AFP】
********************

“両者の非公式会談は7月に続き2度目。米国は表向き、和平協議は「アフガン政府とタリバンの間で行われるべきだ」との立場だが、タリバンがアフガン政府との交渉を拒否していることから、タリバンとの正式な和平協議に直接乗り出す意向を固め、動きを加速させている。”【10月13日 毎日】

アフガニスタン政府にまかせていては、いつになるかわからない・・・ということで、直接交渉に乗り出したようです。

議会選挙を前に攻勢を強めるタリバン
協議がまとまるかどうかはこれからの話ですが、アメリカ側からは当面の事案として、今月20日に実施予定のアフガニスタン下院選に合わせた停戦の申し出もあったようです。

しかし、選挙を認めないタリバン側の攻勢はむしろ強まっており、連日のように選挙妨害を意図したテロ等が報じられています。

****アフガンで選挙集会狙った爆発・襲撃事件 複数人が死亡****
今月20日に下院の総選挙を予定しているアフガニスタンで13日、選挙活動の妨害を図る爆発・襲撃事件が続いた。
 
地元警察によると、北部タカール州で選挙集会を狙った爆発があり、少なくとも市民ら14人が死亡、35人が負傷した。自爆テロとみられる。

また、西部ヘラート州では選挙事務所で武装した男らが銃を撃ち、市民2人が死亡した。いずれも候補者にけがはなかった。現地時間の13日夜時点で犯行声明は出ていない。
 
同国では選挙に反対する反政府勢力タリバーンや過激派組織「イスラム国(IS)」の支部による攻撃が続いており、7月以降に少なくとも候補者8人が死亡している。(後略)【10月13日 朝日】
****************

候補者殺害はさらに増加して10人となっています。

****下院選の候補殺害=登録開始後10人目―アフガン****
アフガニスタン南部ヘルマンド州の州都ラシュカルガで17日、下院選(20日投票)候補者の選挙事務所に置かれた爆発物がさく裂し、州当局者によると候補者を含む3人が死亡、7人が負傷した。選管によると、選挙人登録が始まった7月以降に殺害された候補者は10人目。
 
ロイター通信は州当局者の話として「候補者の椅子の下に爆弾が仕掛けられていた」と報じた。反政府勢力タリバンがツイッターで犯行声明を出した。【10月17日 時事】 
*****************

和平の動きが出ると、交渉を有利に進めるために攻勢を強める・・・というのは、これまでも見られた現象です。

****<アフガン>タリバン攻撃強化 下院選を前に妨害狙い****
内戦下のアフガニスタンで8年ぶりとなる下院選(定数250)が20日に実施されるのを前に、旧支配勢力タリバンが選挙妨害を狙って攻勢を強めている。

タリバンは今月12日、和平に向けて米国と2度目の直接会談を行っており、攻勢を強化することで米国との交渉を有利に運ぶ意図があるとみられる。

過激派組織「イスラム国」(IS)のテロも想定され、選挙の円滑な実施に懸念が出ている。
 
「選挙はイスラム教やアフガンのものではなく、支配を続けようとする外国の陰謀だ」。タリバンは17日の声明で選挙をこう批判した。

この日、南部ヘルマンド州の候補者の選挙事務所で爆発があり、候補者ら計3人が死亡。さらに同日、東部パルワン州の駐留米軍基地近くでも爆発があり市民2人が死亡。いずれもタリバンが犯行声明を出した。
 
下院選は2015年に実施予定だったが、治安の悪化から繰り返し延期になってきた。ガニ大統領は下院選を成功させることで統治能力を内外に示し、来年4月の大統領選に弾みをつけたい考えだが、治安の悪化に歯止めがかかっていない。
 
タリバン関係者によると、ガニ政権を支援する米国は、タリバンとの直接交渉で下院選に向けて停戦を求めた。タリバン内では停戦に賛成する意見もあったが、タリバン指導部への国連制裁の解除など、米国への要求が認められていない段階での停戦に否定的な声が多く、攻勢を強めているという。【10月18日 毎日】
********************

乱立する候補者
このような状況で、どれだけの国民が投票所に足を運ぶのか・・・懸念されるところですが、その投票自体もなかなかに厄介なしろもののようです。

****投票用紙がまるで新聞、候補者800人超から1人選ぶアフガン下院選****
全15ページにも及ぶ投票用紙に、800人以上の候補者の顔写真がずらりと並び、その中からたった1人を選んで投票する──20日にアフガニスタンで行われる議会下院選挙で、首都カブールの有権者はこんな難題と取っ組み合わなければならない。しかも、投票所は過激派に狙われやすい危険な場所だ。
 
3年も先送りされてきたアフガニスタン下院選には、全土で2500人超が立候補している。うち3分の1が、全人口の約2割が集中するカブール州選挙区からの出馬だ。一選挙区からの立候補者数として国内最多で、投票用紙はさながら新聞のようだ。
 
有権者1人が投じられるのは1票だけ。タブロイド判とほぼ同サイズの分厚い投票用紙から、これだと思う候補者を選び出す作業には、相当の時間がかかるだろう。
 
旧支配勢力タリバンやイスラム過激派組織「イスラム国」が投票所を襲う危険の高い状況では、理想的な選挙環境とは到底いえない。

過激派は、選挙を「悪意に満ちた米国の謀略」と呼び、投票所や選挙管理委員会を標的に攻撃を仕掛けると宣言している。

■「ライオンの絵」で有権者にアピール
候補者たちも有権者にすんなり選んでもらえるよう、さまざまな工夫を凝らしている。州内各地の街灯や掲示板、塀などに選挙ポスターを貼り、各自の届出番号や投票用紙の記載ページを宣伝。デジタル処理で見栄えを良くした顔写真をポスターに使っている候補者も珍しくない。
 
届出番号と一緒に、ヤシの木やライオン、眼鏡などのイラストが描かれているのは、読み書きのできない有権者のためだ。

「変化」や「正義」を推進するという高尚なスローガンから、「道路は金ぴかに、学校はダイヤモンドで建て、大学はエメラルドからつくる」などというばかばかしい提言まで、多彩な公約を掲げた候補者たちは、わずか33議席の割り当てをめぐって激しい選挙戦を繰り広げている。
 
独立選挙委員会によると、カブール州の有権者数は160万人を超え、有権者数でも国内最多の選挙区となっている。だが、登録有権者のうち相当数は偽の身分証明書を使った不正行為によるもので、投票を偽造するのが目的ではないかと多くの人が疑っている。
 
1人が2回以上投票する不正は生体認証機器で回避する予定だが、作動不良や、そもそも全国5000か所の投票所の全てには機器が行き渡らないのではないかとの恐れが指摘されている。【10月18日 AFP】
****************

すでに候補者10人が殺害されているという状況にもかかわらず、2500人が立候補しているというのは、“民主主義実現に向けた固い決意の表れ”・・・・という訳でもないでしょう。

それにしても、800人の候補者から1名を選んで投票というのは・・・・。

日本の場合は衆議院選挙(選挙区)の場合、立候補には300万円の供託金が必要で、有効投票数の10分の一に満たないと没収されます。この供託金制度によって、売名や選挙妨害を目的とした候補者乱立が防止されています。

ただ、日本の供託金は外国に比べて桁違いに高く、“高額の供託金制度は「立候補の自由」を保障する憲法15条1項や、国会議員資格について、財産・収入で差別することを禁ずる憲法44条の規定に反し「違憲無効である」として、いくつかの訴訟が起こされている”【ウィキペディア】という状況にもあります。

“供託金制度を導入している他国と比較しても、日本の供託金額は極めて高いため、立候補の権利を不当に抑制しているとの批判が根強い。そのためアメリカ合衆国やフランスなどのように「住民による署名を一定数集める」といった代替案が提案されている”【同上】とも。

選挙、戦闘・和平交渉の陰で進行する干ばつの脅威、さらには冬の寒さも
話をアフガニスタンに戻します。

議会選挙、タリバンの戦闘と和平交渉・・・・というのも今後のアフガニスタンにとって重要であるのは間違いありませんが、それとは別の脅威が国民に迫っています。

****アフガニスタンで深刻な干ばつ、26万人が避難 「戦火より多く****
アフガニスタンで深刻な干ばつが起き、人道的な危機が迫っている。

今年、干ばつによって避難を余儀なくされた人の数は、アフガニスタン政府と反政府勢力タリバンによる戦争での避難民を超えたという。BBCのセクンデル・ケルマニ記者が報告する。

シャディ・モハメド氏(70)は家族と共に、アフガニスタン西部ヘラート郊外に作られたその場しのぎの避難キャンプに住んでいる。キャンプを案内しながら、モハメド氏は涙ながらに話した。

「のどが渇いて、空腹だ。持ち出せたものはほんの少しだったし、その大半もここまでの道のりで失ってしまった。もう何もない。家族8人で小さなテントに住んでいる」
「妻と兄弟は死んだ。子供たちの半数はここにいるが、残りは置き去りにされた」

モハメド氏は、アフガニスタン北部や西部での深刻な干ばつによって家を追われた推計26万人の1人だ。
アフガニスタンでは、2014年に国際部隊が正式に撤退した後に暴力の発生率が高まっているが、今回の干ばつはこれにさらなる悲劇を加えている。

タリバンは現在、2001年に米国が主導する介入部隊によって政権の座から転落して以降で最も勢力を広げていると報じられている。

しかし国連によると、干ばつによって家を追われた人々の数は今年、タリバンと政府の摩擦による避難者の数を上回った。

国連世界食糧計画(WFP)のカディル・アッセミー氏は、避難民が流入するヘラートで救援活動を支援している。
アッセミー氏はBBCに対し「災害の規模が大きく、状況は厳しい」と話した。

国連は干ばつの影響を受けた220万人を支援するために3460万ドル(約38億9000万円)を拠出している。
WFPは現在、現地の人に食糧を買うための金銭を供給している。

キャンプの登録センターの外では、多くの人が絶望しているように見えた。
4人の子供と一緒に座っていたある女性は、北部ファルヤブ州から来たと話した。

「お金さえあればここには来なかった。運が悪かったからここに来ることになった」
「1年以上雨が降らず、全てが乾いてしまった。子供に飲ませる水もなかった。そこにタリバンと政府軍の戦いがあって、めちゃくちゃだった」

生き延びるために家畜を売ったり、お金を借りたりしなくてはならなかったと訴える人もいた。農業は、この国の主要な収入源の一つだ。

アフガニスタンでは10月20日、長らく延期されていた議会選挙が行われる。
しかし多くの国民は、自分たちが直面している問題に政治家たちがあまりに無関心だと批判している。

ヘラートの何十万もの人々には、冬の到来というさらに差し迫った懸念がある。
アッセミー氏は、避難民は向こう数カ月は家に戻れる可能性が低いため、寒さは「大きな懸念」になると話した。

「気候はとても厳しいものになる。テントではとても生き延びられない」
「このような大災害は過去18年見たことがない」【10月17日 BBC】
*********************

“別の脅威”と書きましたが、住民を干ばつの危機にさらしている原因は気候の問題だけではなく、いつまでも続く戦闘、住民の生命・財産を守ってくれない政治の貧困も重大な要因です。

現在の干ばつに苦しむ住民は、戦闘と政治の貧困の結果でもあります。

その意味でも、1日も早く戦闘を停止し、しっかりした議会・政府を構築していくことが求められています。
まあ、先を急いでも、遠くの目標を望んでも仕方ありませんので、まずは20日の選挙が無事に終わることを願います。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

中国  ウイグル族“100万人”再教育施設強制収容の実態は?

2018-10-17 23:22:17 | 中国

(新疆ウイグル自治区ホータンで示威行動する中国警察=2月27日【10月17日 CNN】)

米中対立の一環 アメリカからの人権弾圧批判
ここ数日、サウジラビアがトルコ領内の総領事館に反政府ジャーナリストをおびき出し、拷問の末に、生きたまま切断したのでは・・・という疑惑が浮上し、サウジアラビアという保守的な国家の人権に対する認識が改めて問題となっています。

サウジアラビアの同盟国アメリカ・トランプ大統領は、サウジアラビアへの経済的制裁や武器輸出停止については、アメリカ国内雇用に悪影響をもたらすとして消極的で、疑惑についても、有罪が立証されるまでは推定無罪だという立場でムハンマド皇太子などを支える姿勢を示しています。

人権問題に無頓着なトランプ政権としては(人権などを重視するリベラルな考えに対する嫌悪・反発のエネルギーがトランプ大統領を誕生させ、今も岩盤支持層として支えているようにも思えます)、予想される反応でもあります。

一方、“100万人以上のウイグル人をはじめとするイスラム教徒の少数民族が大規模かつ恣意的に政治的再教育施設なるものに収容されている”とも言われている遥かに巨大な人権侵害が批判されている中国に対しては、人権そのものを問題視するというよりは、昨今の米中対立のなかの一枚のカードとして、トランプ政権および米議会も中国批判を強めていることは、8月15日ブログ“中国のウイグル族弾圧への批判を強めるアメリカ 収容所問題が国連人種差別撤廃委でも議論に”でも取り上げました。

この流れは、今も続いています。

****米議会、中国のウイグル人弾圧を激しく非難 「人道に対する罪」に言及****
(中略)超党派の中国問題執行委員会は(10日発表)年次報告書の中で、中国は目覚ましい経済成長を遂げ、国際社会へ幅広く関与しているにもかかわらず、近年、少数民族に対する抑圧を強化していると批判。

習近平氏が2012年に中国共産党総書記、翌年に国家主席に就任して以来、「中国国内では人権は悲惨なまでにないがしろにされ、状況はほぼ全面的に悪化の一途をたどっている」と懸念を示した。
 
委員長を務める共和党のマルコ・ルビオ上院議員と共同委員長のクリス・スミス下院議員は要約部分で「特に注目すべきは、中国西部で100万人以上のウイグル人をはじめとするイスラム教徒の少数民族が大規模かつ恣意的に政治的再教育施設なるものに収容されていることだ」と指摘。こうした虐待は「人道に対する罪に該当する可能性がある」と糾弾した。
 
これまで長期にわたって中国政府に改善を求めてきたスミス氏は記者会見で「宗派集団、とりわけウイグル人に対する弾圧がこれほど深刻になったことは(1960年代の)文化大革命以後なかった」と語った。同氏によれば、報告書には信仰や民族が理由で投獄されている1300人以上の名簿が含まれている。
 
ルビオ氏は中国の人権状況について「今年またも悪化した。米中関係と中国の人々が人間としての基本的な自由を行使することの両方に悪影響が及んでいる」と述べた。
 
報告書は中国共産党が「国が支援する弾圧、監視、洗脳」を通じて国内の一党独裁体制を維持していると強調している。【10月11日 AFP】AFPBB News
*******************

9月中旬には、中国政府が多数のウイグル族を拘束していることを理由に、トランプ政権が中国高官や企業に対する制裁を検討していると米紙ニューヨーク・タイムズは報じています。実施すれば、トランプ政権としては人権侵害を理由にした初の対中制裁となります。

当然ながら、中国はアメリカのこのような対応に強く反発しています。

*****ウイグル住民は政府を支持」中国外相、米で正当性主張****
中国当局が新疆ウイグル自治区でイスラム教徒が多いウイグル族の人権を侵害していると批判を浴びている問題で、訪米している中国の王毅(ワンイー)国務委員兼外相は28日、「最近はテロ攻撃が起きていない。住民は安心して眠れるようになり、政府を支持している」と反論した。当局の対策を、米国も力を入れている「テロ対策」と位置づけ、正当性をアピールした。
 
ニューヨークの米外交評議会での講演会で質問に答えた。この問題ではトランプ政権が経済制裁を検討していると報じられ、米中間の新たな火種になっている。
 
王氏は過去に新疆で起きた襲撃事件について、過激派組織「イスラム国」(IS)や国際テロ組織アルカイダが生活に不満を持つ人をテロリストに育てるなどして起こした「テロ攻撃」と指摘。「住民の安全と財産を守ることが、法と秩序に責任を持つ政府の最低限の義務だ」とし、「どの政府でも同じことをする」と主張した。
 
ただ、現地では漢民族による強権的な支配への不満が原因との見方もあり、人権団体は、法的な根拠がないまま多くの人が「再教育施設」に拘束されていると批判している。王氏は、当局が具体的にどのような措置をとっているのかには触れなかった。【9月27日 朝日】
******************

“法的な根拠がないまま”云々については、「じゃ、法律をつくればいいいんだろう」という訳でしょうか、以下のような対応も。法律に依らない現実対応が先行し、国家・党の利害に沿って後追いで法律が作られるという、いかにも中国的対応です。中国政治における法律の位置づけを示す対応でもあります。

****ウイグル族収容施設に法的根拠=中国で条例改正、テロ対策名目****
中国新疆ウイグル自治区人民代表大会常務委員会は9日、過激主義対策に関する条例の改正を行い、イスラム教徒の少数民族、ウイグル族に対する事実上の収容施設の法的根拠を明記した。(中略)

改正条例は「過激主義の影響を受けた人員の教化」を行うため、各地域の政府が「職業技能教育訓練センターを設立できる」と定めた。センターでは、中国語教育や職業訓練に加えて、「思想教育、心理・行動の矯正」を行うとしている。
 
米国は、貿易摩擦をはじめとする中国との関係悪化に伴い、ウイグル族の人権状況も問題視している。ペンス米副大統領は4日の講演で、「新疆では、共産党が100万人ものウイグル族を収容施設に閉じ込め、24時間体制で洗脳している」と厳しく非難した。【10月11日 時事】 
********************

ウイグル族全体を対象にした“再教育” 「改善不能」と見なされた場合は・・・・
中国政府が極めて大規模に「再教育施設へのイスラム教徒の収容」を行っているのは間違いないところで、そのほかにも、新疆ウイグル自治区では最先端技術を応用した超監視社会ともいえるような警戒・圧迫が進行しているのも事実ですが、“100万人”という数字については、あまりにも桁外れに大きなもので、にわかには信じがたいものもあります。

本当に100万人(あるいは数十万人)を収容するためには、とんでもない規模・数の「再教育施設」が必要になり、そんなに大量拘束されたら地域社会は崩壊してしまいます。

そんなことで、“100万人”という数字については、“南京虐殺30万人”と似たような話もあるのでは・・・という感も個人的にはあるのですが、その“民族弾圧の”実態については以下のようにも。

****再教育という名の民族弾圧****
中国共産党は少数民族ウイグル人を世界史上まれに見る規模で強制収容所に閉じ込め、共同体ごと洗脳しようとしている ライアン・サム(米ロヨラ大学歴史学准教授)

昨年の夏以来、中国西部の新疆ウイグル自治区と外の世界を結ぶネット接続が次々に途絶えている。最大の民族集団であるウイグル人が、チャットアプリの微信(WeChat)から外国にいる友人や親戚のアドレスを削除しているらしい。もう電話をかけてくれるなと、親族に伝えた人もいる。(中略)

一方で、自治区内の各地でひときわ目立つ建物群が次々と新設されている。広大な敷地は二重の塀で囲まれ、監視
塔もあることが衛星画像で分かる。

わずか1年で、少数民族の男女が何十万人もこれらの施設に消えた。多くはウイグル人だが、その他の民族も含まれる。たいていは家族への説明もなく、違法行為の嫌疑もない。
 
国際社会に対して、中国政府はこうした「再教育施設」の存在を否定していた。だが最近になってようやく、「過
激思想に影響された人たちの社会復帰を促す施設」の存在を認めた。
 
地元警察には収容人数のノルマがある。その達成のためにはどんな小さな不服従の気配も見逃さない。酒を飲まない(イスラム教徒の証拠だ)、役人に挨拶しない(けしからん)、といったことも理由になる。ネットで外界とつながるなど、もってのほかだ。
 
こんな状況でも、驚くほど多くの情報が漏れてくる。(中略)研究者らの推定では、既にウイグル人の成人人口の5~10%が罪状なしで収容されている。

ある地区の警察関係者はアメリカの短波ラジオ放送「ラジオーフリー・アジア(RFA)」に対し、住民の40%を収容所に送ることになると述ぺた。20~50歳の男性はほぼ全員が対象ということだった。(中略)

何らかの理由で解放された少数の元収容者たちの証言によると、収容所での暮らしは良くて「不快」、悪くすれば「拷問に等しかった」という。
 
そもそも何のために膨大な数の国民の収容が必要なのか。表向きは短期滞在型の更生施設とされているが、多くのウイグル人の家族や友人は半年以上も収容されたままだ。(中略)
 
なにしろ16年から自治区の党委書記を務める陳全国は、全てのウイグル人を潜在的な「反党分子」と見なせと命じている。この指示は、ウイグル人の大半が中国による支配を歓迎していないという事実を間接的に認めたに等しい。

中国共産党は今や、ウイグル人の不満は悪しき信念に基づくものであり、この悪しき信念はカザフ人などの少数民族にも見られると考えている。
 
そうであれば、こうした収容施設の目的が人々の思想を純化し、「過激思想を排除」し、党への愛情を育てるためと喧伝されているのも当然だろう。

この夏にリークされた共産主義青年団のものとされる音声データは、こうした再教育施設を「彼らの脳に入り込んだウイルスを治療し、浄化する」場所と呼んでいた。(中略)

幸運にも収容所から解放された少数の人々の話を総合すると、内部では中国共産党と習近平国家主席に対する忠誠心を植え付けるさまざまな教化が行われているらしい。「指導員」と看守は収容者に、党のスローガンの復唱やイスラム過激派に関する動画の視聴、儒教の学習、食前の祈りに代えて習主席へ感謝をささげること、自己批判をすることなどを強要している。(中略)

しかし、収容所にはほかにも重要な役割がある。社会のある層の人々を丸ごと拘束するというものだ。少なくとも3つの県では、1980年から00年の間に生まれたウイグル人のほぼ全てを「信用できない世代」として連行したとの報告がある。収容しておけば、彼らが共産党支配に反対する抗議運動に参加する恐れはないからだ。
 
ひとたび親から引き離してしまえば、子供を漢民族の文化に同化させる教育も容易になる。カシュガル周辺だけでも、親を連行された子供のための養護施設がこの1年で18力所ほど建設された。(中略)

収容所には、ウイグル人社会を文化的・思想的に改造する上での懲罰機関としての役割もある。当局はウイグル人らに難癖をつけて、法的な手続きなしで収容所に送り込むことが可能だ。

ある村の警官がRFAに語ったところでは、今年1月には、ある日帰り再教育コースの指導員が受講者に、党への忠誠の誓いと国歌を中国語で3日以内に暗唱できなかったら収容所に送ると通告した。2日たっても暗記できなかった40代の男性は絶望して、首をつったという。
 
収容所送りの恐怖は、かつてない規模の監視制度によって増幅されている。武装警察や近隣住民の相互監視といっ
た人による古典的監視と、ITを駆使したハイテク監視の合体だ。
 
ウイグル人は、共産党員や「忠実な」当局者で構成される一団によって定期的に家庭訪問を受ける。訪問は昼問だけのときもあれば、数日の泊まり込み調査もある。彼らは家族の考えや習慣について質問し、所有を禁じられている物品の有無を調べる。訪問の結果は通常は秘密にされるが、ある一団はインターネットで成果を誇った。彼らは村の人目の5分の1を収容所送りにしたという。

国外在住者の活動も追跡
子供たちは私的空間を見張る役目を担わされ、両親の宗教的慣行について報告するよう学校側から促される。

さらに町や村の至る所に監視カメラが設置されている。市場の入り口や駅、書店にまでゲートが設けられ、顔認証ソフトで人の顔をスキャンし、身分証明書と照合している。

スマートフォンの所有者は、保存コンテンツを政府に自動的に送信するスパイウェアのインストールを求められる。
 
国際的な人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチの報告によると、電子監視システムによって生み出された膨大な量のデータは、家庭訪問の情報と組み合わされ、「統合運用プラットフォーム」に人力される。ビッグデータ分析を用いて、どの個人が背信行為に関わるかを予測するものだ。
 
警察は定期的に電話の「違法な」内容をチェックするが、この監視網から逃れようとするのは危険だ。携帯電話の使用を勝手にやめた人々を拘束した警察署もあるという。
 
プライバシーの徹底的な監視と巨大で不気味な収容所の存在は、ウイグル人の行動を変えているようだ。(中略)
 
しかし今、ウイグル人は率先して自分の蔵書を焼き、自分の忠誠心を訪問者にアピールする方法を必死で考えている。この1年半の間に消えた家族や友人たちと同じ目に遭わないためだ。
 
再教育施設は中国国境の外にも影を落としている。警察は国外在住のウイグル人の活動を追跡し、大学や職場に通っている証拠の写真を要求する。在外ウイグル人は、家族に危害を加えられる恐怖から服従する。国外で祖国の状況について声を上げた人の親族が大量に姿を消したケースもある。(中略)

再教育施設の収容人数は、数十万から100万人強と推定されるが、これは今年1~2月にリークされた情報から欧州文化神学学院のエイドリアン・ゼンツが割り出したものだ。
 
その後もウイグル人やカザフ人、その他の少数民族が消え続けており、釈放されたという話はほとんどない。た
まに釈放されるのは、たいてい健康に問題のある高齢者だ。

クチヤ県の当局者は、過去2年間に収容所に送られた住民約5000~6000人は1人も解放されていないと語っている。(中略)

収容所は刑務所とも連携しており、刑務所自体も拡張し続けている。昨年、中国で発行された起訴状の13%は新疆のものだった(この自治区の人目は総人口のわずか1.5%でしかないが)。

逮捕者数も増えていて、人権団体「中国人権守護者」によれば、新疆での逮捕件数は国内全体の21%を占めた。
 
拘束された多くの人々がまず連行されるのは一時的な収容所だ。カナダ在住のある中国人大学院生はグーグルの人工衛星画像で、ウイグルで再教育施設や収容所の「建設ラッシュ」が起きていることを突き止め、文書で公表した。(中略)

ナチスの強制収容所以上
地元当局者によれば、再教育施設は通常の刑務所の入り口の役目を果たす。再教育施設の増設から推測できるのは、どんなに多くの収容者を刑務所へ移送しても、収容スペースがまだ足りないという事実だ。(中略)
 
ゼンツの試算に基づく最大値では、ウイグル人再教育施設の収容者数はナチスの強制収容所における最大値(中略)を上回っていた。第二次大戦中にアメリカで強制収容された日系人の数より何倍も多い。(中略)

考えられるシナリオは、ある時点で当局は反抗的なウイグル人を除いて収容者数を大幅に減らすが、いつでも大人数を超法規的に拘束できるだけの収容能力を維持するというものだ。

こうして再教育施設は新疆の人種差別的な警察国家の維持を可能にし、文化的・イデオロギー的な浄化を目指す党の同化政策を支え続ける。
 
いや、こうした悲観的予測でもまだ甘いのかもしれない。(中略)地元当局者の口からは、再教育施設の役割は「腫瘍の除去」であり、「雑草を根絶やしにするために作物に農薬をまくこと」だと、およそ人間性を無視した言葉が飛び出す。

仮にも当局が、施設での教化・洗脳では効果がないと判断すれば、ウイグル人全体が「改善不能」と見なされるかもしれない。
 
共産党機関紙人民日報系の環球時報は今年8月に、国連がウイグル人に対する差別的政策を非難したことを受け、中国政府には国内の「安定」のために「あらゆる措置を講じることができる」と主張した。つまり「民族浄化」も選択肢になるということだ。【10月23日号 Newsweek日本語版】
******************

エイドリアン・ゼンツ氏の推計した数十万から100万人強という数字の妥当性はわかりませんが、地域社会の崩壊もいとわない、あるいはそれを目的とした大量収容が進行しているようです。

この問題について発言した自治区高官の中では最高位に当たる新疆ウイグル自治区のショホラト・ザキル主席は国営新華社通信のインタビューで、この「職業訓練施設」がテロの抑制に効果的なことが証明されたと、また、「訓練生」たちは生き方を改め、生活をより「彩り豊か」にできる機会を喜んでいると述べています。【10月17日 BBCより】

“ザキル氏は収容センター内の様子についても、現時点で最も詳細に説明した。中国史や中国語、中国文化の授業があり、受講者は「国家や市民権、法の統治についての知識」を教えられる。

受講は強制的なのかについては言及しなかったものの、受講者がセンターに寝泊りしていることを示唆した。食堂では「栄養豊富な食事が無料で」提供され、宿泊施設は「設備が整って」おり、定期的に競技会やスポーツイベントが行われているという。”【同上】

歴史的規模ともいわれる中国政府の民族弾圧の背後には、政府指導者だけでなく、国民一般が共有する民族的嫌悪感があります。以前、中国を旅行した際に、そうした漢族のウイグル族への嫌悪感を垣間見たこともあります。

それは、スリランカ内戦当時に良識あるシンハラ人が見せたタミル人への嫌悪・恐怖感と同じようなものでした。
また、現在、ミャンマー人が見せるロヒンギャへの嫌悪感でもあるでしょう。

そうした民族的嫌悪感は、ナチスの犯罪を再現する土壌となります。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

マリファナ  タバコへの規制が強化される一方で、マリファナ寛容施策が増大 カナダは完全合法化

2018-10-16 21:40:31 | 疾病・保健衛生

(プロヴィンス・ブランズ社のカンナビスビール もうすぐ「大麻ビール」で乾杯する日がやってくる?【10月2日 COURRIER】 でも、喫煙は不可)

強化されるタバコ規制 喫煙者は減少 ただし、電子タバコは増加傾向
タバコの評判が悪いのは、説明を要さない、今更の話です。

財務省は、タバコのパッケージの警告表示を強化し、今の30%から50%程度にまで拡大する方向で検討を始めたとも報じられています。

そのうち、銘柄ごとのデザインは禁止され、真っ黒くなった肺などグロテスクな写真が全面に印刷されるような形にもなるのでしょう。

価格のほうも小刻みに値上げされていますが、今月からの値上げでメビウスは1箱(20本)480円、セブンスターで500円と、1箱500円時代になりました。

もっとも、価格については国際的には日本は安いほうのようです。
(以前は海外旅行時には、なるべく現地の雰囲気を・・・ということで、現地のタバコを購入していましたが、最近は健康にも配慮して、普段国内で吸っている軽いもの(健康面では大差ないとの指摘もありますが)を持参するようにしており、現地購入の機会はあまりなくなりました)

****************
例えば2015年のデータを見てみると、イギリスのロンドンやアメリカのニューヨークはタバコ1箱が約13ドルと、日本円に換算すると約1,500円もするんですから……! これじゃあ気軽に一服できません……。

比較的ご近所さんにあたるアジアの国々でも香港は約7ドル(約800円)、シンガポールは約9ドル(約1,000円)と、アジア旅行を思わずためらってしまいそうな値段です。

ただ、もっともっと値段が高い国があります。それはオーストラリア。世界でトップクラスにタバコ代が高い地域で、首都メルボルンはなんと約18ドル。つまり、約2,000円! 

政府のタバコ増税の引き上げによって、今ではすっかりタバコは「高級嗜好品」になりつつあるのだとか。【「ものづくりコレクション https://monocolle.jp/ippuku/16628/】
*****************

さすがに1500円、2000円となると、「この際、やめようか・・・」という人も増えるでしょう。
そうでなくとも、近年は喫煙者は減少しており、特に若い世代でタバコ離れが顕著です。

****男性喫煙率3割切る 20代のたばこ離れ進む****
たばこを習慣的に吸っている男性の割合は29.4%となり、1986年の調査開始以来、初めて3割を切ったことが厚生労働省による2017年の国民健康・栄養調査で分かった。女性は7.2%、男女合わせると17.7%で、いずれも過去最低だった。

30〜60代と比べると、男女とも20代の喫煙率が低く、若者のたばこ離れが進んでいる。健康被害が知られるようになり、受動喫煙防止対策の一環で、吸える場所が減っていることも喫煙率減少の要因とみられる。

政府が定める健康目標「健康日本21」は22年度までに喫煙率を12%にすると定めている。【9月15日 共同】
*******************

まあ、「健康志向でよろしいことですね・・・」としか言いようがありませんが、わたしは定期的に低線量肺がん検診CTを受診するなど気にしつつも、やめる気配はありません。(もともと吸う本数はかなり少ないのですが・・・と、弁解も)

ただ、ちょっと思うところあって、ここ半月程は部屋の中で吸うのはやめて、廊下にで出て窓を開けて外に煙を吐き出しています。あるいはトイレで。

一方、電子タバコのほうは利用者が増えているようです。アメリカで風味(フレーバー)付けが流行りとか。

****米FDA、風味付け電子たばこの販売禁止を検討 若者の間で「まん延****
米食品医薬品局は12日、若者の間で「まん延」している風味(フレーバー)付け電子たばこの販売を即刻禁止することを検討中だと明らかにした。
 
今年夏に全米で行われたおとり捜査によって、「JUUL」などの電子たばこを未成年に販売していることが明らかになった実店舗およびオンラインショップに対し、FDAは警告状1100通を送付し、131件の罰金を科した。

FDAは声明で「FDA史上、最大規模の一斉摘発」だったと述べ、今後さらに厳しい措置もあり得ると警告した。
 
FDAのスコット・ゴットリーブ長官は「若い世代の間で電子たばこの使用がまん延している明らかな兆候があり、この明確に存在する危険を取り除くために、われわれの総合戦略の一部を改める必要がある」「特に風味付きの電子たばこについては方針を転換し、市場から一掃することも考えている」と述べた。
 
ゴットリーブ長官はまた、未公表の予備データに言及し、若い世代の電子たばこ使用率が急増していると警告。FDAは現時点では数値の公表を拒んでいるが、このデータは数か月以内に発表される見込みだ。
 
米紙ワシントン・ポストによると、ゴットリーブ氏が言及した予備データは全米若年者たばこ調査によるもので、高校生の電子タバコ喫煙率は今年、前年比75%増となっているという。【9月13日 AFP】
******************

“風味(フレーバー)付け”はともかく、私もJTのプルームテックを苦労して入手しましたが、「あんなしょうもないないものを・・・」というのが感想。ほとんど利用していません。

(ここまで書いてきて、「久しぶりに電子タバコを試してみるか・・・」という気になり、吸ってみましたが、やはりあれはタバコとは別物です)

タバコに厳しいカナダ マリファナは娯楽用も合法化
なお、前出の警告文・写真の話ですが、写真入りのたばこ警告表示を最初に採用したのはカナダだそうで、警告文はパッケージ表面の75%以上(!)。

****************
カナダのたばこ法(Tobacco Act)は、カナダで販売されるすべてのたばこ製品に英語とフランス語の両方で警告を表示することを定めている。警告文及び表示は「たばこ製品ラベル規制」で決められており、2000年導入のものを2011年に強化されている。

すべてのたばこ製品の包装には、カナダ保健省(en:Health Canada)の警告文のいずれかを、パッケージの全面及び後面の75%以上に表示することが要求されている。警告文の無い輸入たばこには、シールを貼り付けて対応する必要がある。【ウィキペディア】
******************

そのタバコの害に気をつかうカナダでは、マリファナ(大麻)が完全に合法化されました。
医療用大麻を容認している国は現在急速に増えつつありますが、カナダの場合、娯楽目的もOKで、その点ではウルグアイに次いで世界でも2番目とか。

****カナダで大麻、娯楽用でも合法に 得する人と損する人****
カナダは17日、娯楽目的の大麻使用を完全に合法とする世界2カ国目になる。カナダの成人は、連邦政府から認可された生産者からの大麻の購入と使用が可能となる。

カナダの大麻使用率の高さは世界屈指で、特に若年層に多い。
カナダ人は、医療目的と娯楽目的を合わせて、2017年だけで推定57億カナダドル(約4900億円)を大麻に費やしており、使用者1人当たりの金額は1200カナダドル(約10万3000円)に上る。このほとんどが、闇市場の大麻だ。

娯楽目的での大麻使用を世界で最初に合法化したのはウルグアイだった。ポルトガルとオランダは大麻を処罰の対象から外している。

カナダでの完全合法化への移行から、勝ち組と負け組になりそうな人たちを一部、ここにそれぞれ挙げてみる。

勝ち組――弁護士
今後数年は、大麻がらみの裁判が相次ぐはずだ。
「禁止体制からは遠ざかりつつあるものの、実に事細かく規制する枠組みになりつつある」。薬物合法化に関するトロントの法律専門家、ビル・ボガート氏だ。

規制の決まりごとが細かければ、利益団体が異議を唱えたり悪用したりできる余地がたくさんあるということになる。(中略)

負け組み――家主
解禁されば、大麻の消費は合法化される。連邦法のもと、一定以下の量ならば自宅での栽培も可能となる。
家主たちは、大麻喫煙に関する迷惑行為や個人での大麻栽培に起因する損害について懸念している。(中略)

勝ち組――世界的ブランド
大麻市場は一大産業になると予想される。大麻使用は悪いことだというイメージは薄れてきており、大企業は投資をしり込みしていない。

アナリストは、大麻の消費者市場の規模を42億〜87億カナダドル(約3600億〜7500億円)になると示唆しており、合法後の1年で340万〜600万人が娯楽使用すると予測している。

こうした数字が、大企業の関心を駆り立てている。
米飲料大手のコカコーラは、「健康機能飲料の原料として非精神活性成分カンナビジオールの拡大」に目をつけており、大麻を注入した飲料の開発に関して、カナダの認可業者オーロラ・カナビスと予備的協議を行った。(中略)

勝ち組――ジャスティン・トルドー首相
2015年総選挙の遊説中にジャスティン・トルドー氏は、自由党が政権を取ったら、大麻販売の合法化と規制のため、政策立案に「すぐに」取り掛かると公約した。

あれから3年たった今、トルドー氏はこの公約に「済み」印をつけられる。

トルドー首相は、合法化が若い世代のカナダ人を守り、犯罪者が闇市場から利益を得るのを防ぐとして、この動きを擁護している。(中略)

負け組み――カナダの都市
カナダ各地の都市は、大麻合法化の最前線にいるのは自分たちだと主張する。
新しい制度に関する政策の他、区域分け、小売場所、自宅での栽培、事業ライセンス、公共での消費に関する規制など、管理責任の一部を負うことになるのだ。

しかし多くの都市は、大麻に課される連邦税が自分たちの自治体にどう降りてくるのかまだ説明されていないと話す。中には、合法大麻の店舗を一切許可しないとした都市もある。

連邦政府は、大麻販売から年間4億カナダドル(約340億円)の税収を見込んでいる。各州との合意内容によると、連邦政府は、年間1億カナダドルを上限とし、税収の25%を確保する。
残りは各州へ行き、そこから各都市の財源となる予定だ。【10月16日 BBC】
***********************

拡大するマリファナ市場の注目する飲料・食品関連大企業
上記記事のあるように、今後拡大するマリファナ市場に飲料・食品関連大企業は注目しています。

****米コカ・コーラ、健康飲料への大麻成分配合を研究****
米飲料大手コカ・コーラは17日、マリフアナ(大麻)の主成分を「健康飲料」に配合する研究を進めていると発表した。飲料業界では、大麻入り飲料の開発に乗り出す企業が増えている。
 
コカ・コーラは声明で、「わが社はマリフアナ(乾燥大麻)にもカンナビス(大麻草)にも関心はない」とした上で、「精神活性作用のないカンナビジオールの健康機能性飲料の成分としての活用が、世界中で広がっていることを注視している」と発表した。(後略)【9月18日 AFP】
*****************

****大麻、飲料・食品メーカーの「金の卵」か****
若い消費者たちがビールやカクテルの代わりに、マリフアナや大麻入りドリンクを求めるようになれば、世界の大手酒造会社もその「大麻現象」を無視することはできないだろう。
 
すでにそれを商機として捉えた会社もある。ビール「コロナ」やウオッカ「スベッカ」などの製造と販売を手掛ける米酒類販売大手コンステレーション・ブランズはそうした会社の一つ。カナダの大麻栽培会社キャノピー・グロース・コーポレーションに40億ドル(約4500億円)をすでにつぎ込んでいる。
 
来る大麻市場について、「次の10年間に最も著しい成長機会が期待できる市場の一つ」と語るのは、コンステレーション・ブランズのロバート・サンズ最高経営責任者だ。

同氏によると、合法大麻とその関連製品の販売高は、向こう15年以内に2000億ドル(約22兆4000億円)に達し、当初予想されていたよりも「ずっと速く市場が開けている」という。
 
ウルグアイに続く世界で2番目の国として、カナダは17日、娯楽目的の大麻使用を解禁する。
 
隣接する米国では、連邦法で大麻を違法と位置づけている。ただ、米9州が州法の下で娯楽目的の大麻使用を合法化しており、また他の州も近年、禁止を緩和する方向で動いている。
 
そのような状況において広がりをみせているのが、大麻の新しい消費方法だ。キャンディーや焼き菓子、アイスクリームといった食品形態、あるいは噴霧器を使った吸引や軟膏といった形での使用もある。飲料もその一つだ。(後略)【10月16日 AFP】
*******************

WHOは懸念表明
こうした娯楽用マリファナ容認の流れに、WHOは懸念を表明しています。

****嗜好用マリフアナの合法化「奨励しない」 WHO事務局長****
世界保健機関のテドロス・アドハノン事務局長は10日、WHOは嗜好(しこう)用マリフアナ(大麻)の合法化を「奨励しない」と明言し、解禁を考える国は慎重に検討すべきだと述べた。(中略)
 
テドロス氏は地域会議出席のため訪れたフィリピンでAFPの取材に応じ、WHOはマリフアナなどの薬物を医療目的で入手できるようにすることを支持していると説明。「当然、疼痛(とうつう)管理などのため必要な人々は(マリフアナを)手にすべきだと考えている。入手できるようにしておく必要がある」と述べた。
 
一方、同氏は、入手方法は明確に規制されなければならないと述べ、完全な合法化へとドアを開け放てば健康上の危険が生じると指摘。また、嗜好目的での使用を実際に合法化する国に関し、国民の健康に対する影響を注視することが重要だと述べた。
 
さらに同氏は「常習性の薬物は何であれ、人の健康に良くないと考えている」とし、WHOが「実際に合法化に踏み切ろうとしている国に続くよう各国に奨励することはない」と明言した。
 
カナダでは17日、成人による大麻の購入、栽培、消費が解禁される予定。5年前にはウルグアイが世界で初めてマリフアナを合法化している。【10月11日 AFP】AFPBB News
*******************

最近のマリファナへの寛容さについては、タバコに対する不寛容さは理不尽のようにも思うのですが、それはともかく「常習性の薬物は何であれ、人の健康に良くないと考えている」というのは正しい指摘です。

その点では、まずアルコール類を禁止すべきでしょう。それでどれほどの健康被害が防げ、事故なども減らせるか。はた迷惑な酔っ払いもいなくなります。私は飲まないので一向にかまいません。
(・・・というように、この種の議論は、自分の嗜好・習慣に大きく左右されます)

世界初の合法国ウルグアイのマリファナ事情
なお、世界に先駆けて5年前に娯楽用マリファナを合法化したウルグアイでは、いろんな事情で供給が少なく、いまだに「密売人」が健在のようです。

****マリフアナ解禁したのに密売人から買うウルグアイの失敗****
<世界に先駆けて全面的に合法化したのに、供給が需要に追い付かない、薬局も売りたがらないなどの計算違いが>

南米の小国ウルグアイは2013年に世界で初めてマリファナの完全合法化に踏み切り、大きな注目を浴びた。だが生産から販売まで全面的に解禁し、当局の管理下に置いたにもかかわらず、麻薬密売組織がいまだに幅を利かせている。2017年からは薬局での販売も始まったが、合法マリファナは今も入手困難で、密売人から買うしかない。

「供給が需要に追いつかない」と、ウルグアイ国家薬物評議会のディエゴ・オリベラ会長は13日にAP通信に語った。「何とかしなければ」

オリベラの推定では、人口350万人のこの国のマリファナ消費量は年間約20〜25トンに及ぶ。

マリファナの購入は登録制で、認可された薬局で月40グラムまで買える。使用者は合法的なルートで買いたいのだが、現状ではそれが難しい。ウルグアイ全土にある薬局はおよそ1200店舗。そのうち認可を取得した薬局は14店舗にすぎない。

薬局が取得を渋るのは理由がある。マリファナは利鞘が少ない上、ストックを置けば強盗にあうリスクがある。

さらに9・11同時多発テロ後に施行されたアメリカの愛国法が適用されるリスクもあると、米誌USニューズ&ワールド・レポートが報じている。

アメリカの反テロ法が怖い
米愛国法は国際テロ組織アルカイダなどテロや犯罪組織を取り締まる法律だが、国際金融を通じて麻薬の販売益を洗浄するマネーロンダリング(資金洗浄)も禁止している。

ウルグアイの銀行の大半は米銀を介して国際的な取引を行っているため、ウルグアイの小さな薬局の銀行口座が凍結される可能性もゼロではない。(後略)【6月14日 Newsweek】
******************

最後の話は、イランとの原油取引などをためらう欧州・日本企業のミニ版のようにも。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

エチオピア  民族間の融和、エリトリアとの関係改善、経済活性化・・・期待されるアビー首相の改革

2018-10-15 21:54:54 | 民主主義・社会問題


(首都アディスアベバにおいて「暴力のない生活へ」というテーマで開催された女子マラソンの参加者 【9月27日 Yutaro Yamazaki氏 GNV】)

民族間の対立で混乱するエチオピアで、初のオロモ州出身首相
エチオピアでは、少数民族ティグレ人が政治・経済を掌握しており、疎外されてきた最大民族オロモ人らの不満が噴出していました。

長引く混乱を受け今年2月にハイレマリアム首相が辞意表明したのに続き、非常事態を宣言。

そうした混乱を収拾すべく与党連合は3月、政府に抗議行動を続けてきた最大民族オロモ人であるアビー・アハメド元科学技術相(42)を新首相に選ぶことを決めました。民族間の緊張緩和が期待しての起用でした。

そのあたりの話は、6月24日ブログ“エチオピアとジンバブエで政治指導者を巻き込む爆弾テロ 背景に政変への不満層か?”でも取り上げましたが、簡単になぞると以下のようにも。

****アビー首相の誕生****
(中略)2012年、メレス首相の死去により首相の座を引き継いだSEPDMを代表するハイレマリアム・デザレン首相は、こうしたオロモ州とアムハラ州、オガデン地区を中心とした反政府運動の高まりを受け、政治犯の解放や拷問を行った刑務所の閉鎖を行うことで鎮静化を図った。

しかし、相次ぐ再逮捕により反政府勢力との溝を埋められず、自身の政治改革や経済改革も与党内でティグレ勢力によって阻まれたハイレマリアム首相は、2018年に辞任を発表した。

そして、その後任として初オロモ州出身首相となったのがアビー氏であった。

アビー首相は、オロモ出身だけでなく、ムスリムの父とキリスト正教会の母を持ち、与党を構成する民族のオロモ、アムハラ、ティグレの言語を話すことができるという多様なバックグラウンドがある。

4月の就任演説では、過去の政権による反政府勢力の殺害を謝罪し、国民が政府に異議を唱えることを歓迎するなど民主主義への姿勢を示した。

このように、アビー首相は、大きな政策転換を行い、これまでの政治に改革の手を加えようとしている。(後略)【9月27日 Yutaro Yamazaki氏 GNV】
*******************

アビー首相の進める隣国エリトリアとの関係改善は、東アフリカ全域の緊張緩和にも
“アビー首相は、大きな政策転換を行い、これまでの政治に改革の手を加えようとしている”ということの、代表事例が前回ブログでも触れた、長く対立してきた隣国エリトニアとの関係改善です。

エリトリア・・・・「ああ、バルト三国の・・・」というのは“エストニア”(今、書いていても混乱しますが・・・)
エリトリアは東アフリカ「アフリカの角」にあって、その閉鎖性から「アフリカの北朝鮮」とも呼ばれてきた国です。北朝鮮同様の国内の過酷な独裁的政治事情もあって、欧州などへの難民も非常に多い国です。(欧州に流入する難民のなかで、シリア人に次いで多いのがエリトリア人とも)

前回ブログでは、エチオピアのアビー首相が、仲裁裁判所(オランダ・ハーグ)の国境画定委員会が定めた境界線を受け入れる形で、国境係争地をエリトリアに返還することを表明し、関係改善に乗り出したところまで取り上げましたが、その後、その成果が形となって表れています。

****エチオピアとエリトリア、戦争終結 「平和友好共同宣言」調印****
エチオピアとエリトリアは(7月)9日、エリトリアの首都アスマラで共同声明を発表し、「戦争は終結した」と表明した。アスマラで一連の歴史的な会談を行った両国首脳は、20年にわたる対立と紛争に終止符を打つことで合意した。
 
エリトリアを公式訪問したアビー・アハメドエチオピア首相とイサイアス・アフウェルエリトリア大統領が「平和友好共同宣言」に調印した。

このことをツイッターで明らかにしたエリトリアのヤマネ・ゲブレメスケル情報相によると、共同宣言は「両国間の戦争は終結し平和と友好の新しい時代が始まった」とした上で「両国は政治、経済、社会、文化、安全保障の面で緊密に協力していく」とする内容。
 
エチオピアの政府系ニュースメディア、ファナ放送会社は、エチオピア航空が早ければ来週にもエチオピアの首都アディスアベバとアスマラ間で旅客便の運航を開始すると伝えている。
 
両国間では20年ぶりに直通電話回線も復旧し、国境を隔てて離ればなれになっていた家族が会話できるようになったことに喜びの声が上がった。

アディスアベバで製品デザインに携わる30歳の男性はAFPの取材に対し、エリトリアに住む家族の声を戦争後初めて聞いたとして「(嬉しさを表す)言葉が見つからない」と述べた。

「アフリカの角」と呼ばれるアフリカ最東北端部に位置するエチオピアとエリトリアの間では、1998年に国境紛争が発生し、2000年の停戦までに8万人が死亡した。その後もエチオピアは国連の仲介で定められた国境線に反発し、対立が続いていた。
 
4月に就任したアビー首相は改革路線を推進。国境紛争については6月、紛争のきっかけとなった村バドメのエリトリア帰属を認めた2002年の常設仲裁裁判所・国境画定委員会の決定に従い、バドメを含む国境付近の係争地をエリトリアに返還する方針を表明し、これを機に両国の雪解けが始まっていた。
 
共同宣言の署名式を終えたアビー首相は9日、2日間の公式訪問を終えて帰国の途に就いた。【7月10日 AFP】
*******************

アビー首相によるエリトリアとの関係改善は、両国関係にとどまらず、ジブチ・ソマリアを含む東アフリカ地域全体の緊張緩和をもたらしています。

*****ソマリア首都に41年ぶりの直行便、エチオピアの航空会社****
エチオピアの航空会社が13日、首都アディスアベバとソマリアの首都モガディシオを結ぶ直行便の第1便を運航した。両都市間で商用便が運航されたのは41年ぶりで、「アフリカの角」と呼ばれるアフリカ最東北端部で国境を接する両国の関係改善が改めて示された形だ。
 
関係者によると、エチオピアの民間航空会社ナショナル・エアウェイズの航空機が、モガディシオのアデン・アッデ国際空港に到着した。ナショナル・エアウェイズは直行便を週4便運航したいとしている。
 
同社のオーナーで最高経営責任者のアベラ・レミ氏はアデン・アッデ空港で開かれた記念式典で、「アディスアベバとモガディシオの直行便が運航を開始した今日はわれわれにとって歴史的な日だ。ここまでの道のりは決して容易ではなく、厳しい状況に何度も直面したが、最終的に成功し、ようやくこの日を迎えることができた」と語った。
 
7月には、エチオピア航空がアディスアベバと隣国エリトリアを結ぶ直行便を20年ぶりに再開した。

かつて両国は長年対立し、国境をめぐる紛争では大勢の死者が出たが、今年はエチオピアの若手改革派であるアビー・アハメド首相が主導した和平プロセスにより、関係改善が急転直下で進んだ。

これを受けて域内の外交関係は目まぐるしく変化し、ソマリアとエリトリアの国交回復や、ジブチとエリトリアの関係正常化への動きももたらした。【10月14日 AFP】
*****************

最速「ボルト首相」の“救世主”的改革 課題と期待
これだけでも、“ノーベル平和賞”級の成果ですが、アビー首相の改革路線は外交にとどまらず、国内の民族間の融和(これが最大課題でしょう)や経済改革(外資参入を拒み独占状態だった国営エチオピア航空や国営通信会社エチオテレコムなどの株式を国内外の投資家に一部売却する方針を表明)に及んでいます。

“就任後2カ月で、国内外の課題解決に矢継ぎ早に取り組む首相の姿勢は強い印象を与え、短距離走の元最速王者になぞらえて「ボルト首相」と呼ぶ声も出ている。”【6月16日 毎日】

もちろん、改革が大胆で、急速であればあるほど、抵抗も強くなります。当然に、これからの課題も多々あります。

****エチオピア大改革:アビー新首相は救世主となれるか****
(中略)
アビー改革は政治問題の解決となるか
初のオロモ出身首相であるアビー首相の誕生は、オロモでの政治的不満に対する鎮痛剤の役割を果たした。彼は、オロモの民衆の不満の原因となっているティグレが支配する政治の改革を進めようとしている。

加えて、権力独占が再び起こらないようにするため、首相に任期制限が適用されるように憲法を修正する予定だ。

これらの改革はオロモで歓迎され、不満が緩和されたことで、デモの減少や緊急事態宣言の解除につながった。

また、アビー首相はオガデン地区に対して、政治犯の拷問や拷問を行っていた刑務所の廃止、停戦合意を行うことで和平を目指そうとしている。これにより、長年にわたるソマリ系移民とエチオピア政府との溝が埋まることが期待されている。

そして、アビー首相は国外において最も対立が激化していたエリトリアとの和平にも着手した。エチオピアとエリトリアの国境争いを終わらせる歴史的な「平和と協力の宣言」を発表し、2018年6月エリトリアの首都アスマラにおいて、エリトリアのイサイアス大統領との会談を実現させた。

この会談において、バドメ地域のエリトリアへの帰属を合意が為され、和平が成立した。加えて、国交正常化も実現し、ブレなどの国境が通れるようになったことで、内陸のエチオピアはこれまでジブチからしか海にアクセスできていなかったが、エリトリア側からのルートも開かれた。

国境により断絶されていた家族が再会し、両国間の通話や航空便が利用できるようになるなど、その恩恵は非常に大きく、現地は祝福ムードに包まれている。

また、エリトリアとの和平は、ソマリアやジブチ、スーダンなどのアフリカの角の地域全体に様々な影響を及ぼすと見られている。

残る課題
こうしたポジティブな報道が続く一方で、エチオピアでは解決すべき課題は多く残っている。

アビー首相の誕生とその改革も全国民が喜んでいるわけではない。6月23日、手榴弾がアビー首相の政治集会にいる群衆に投げ込まれ、1人が死亡し153人がけがを負うという事件が起こった。

アビーは、複数政党による民主主義の活発化を図っているが、必ずしも与党の票を維持しながら野党と仲良く共存できるとは限らない。

次の2020年の選挙で、予想される議席の再分配が摩擦や対立につながる可能性もある。

アビー首相の誕生による効果が最も期待されたオロモ州においても、問題は多く残る。オロモの人々の中にはエチオピアからの独立を目指す分離主義者も存在しており、彼らはアビー首相を裏切者だとみなしている。

また、亡命していたOLF(オロモ解放戦線)のリーダーたちと1,500人の兵士が9月にエチオピアに戻ったが、それにより首都アディスアベバで衝突が起こり、23人が亡くなった。

また、法制度や警察は、長年非民主的な政権の干渉を受ける存在であったため、これらの機関が中立を保ち、法の支配を高めることが今後の課題である。

経済面においても海外からの多額の負債を抱えており、深刻なインフレに陥っている。これを受けて、政府は市場開放や国営企業の民営化といった経済改革に着手しており、それによって経済の活性化を成し遂げられるかが鍵となりそうだ。

これまでエチオピアでは、近隣国や民族などの様々な利害が絡み合い、争いが長く続いたことで不安定な情勢が続いていた。

しかし、そのような状況の中で就任したアビー首相は、ほとんど改革が施されてこなかった既存の政治体制や経済に関して、新たな方向へと舵を切った。

その第一歩として、長年問題とされてきたオロモ問題の緩和やエリトリアとの和平が次々と実現させているアビー首相は、まさにエチオピア国民にとって大きな希望であるといえる。

一方で、エチオピアにはまだまだ多くの課題が残っている。アビー首相は国民の大きな期待に応えて救世主となれるのか。よりよい国と地域の実現に向けたさらなる変革を今後も期待したい。【9月27日 Yutaro Yamazaki氏 GNV】
**********************

もちろん現地ではいろんな評価、問題があるのでしょうが、日ごろ暗いニュース、陰惨なニュース、刺々しい対立のニュースが多い国際面にあって、珍しく明るい、希望が持てるエチオピア・アビー首相の改革に関する話題です。

これまで、遠くて時間がかかるアフリカはエジプト以外は行ったことがありませんが、来年あたりエチオピア観光というのも「あり」かも。日本からは中東乗り換えで、一番近いアフリカでしょう。興味深い観光資源がいろいろあるようです。

なお、「アフリカの北朝鮮」ことエリトリアも今でも観光できるようです。エチオピアとの関係が改善して直行便も飛び、旅行者が増えれば、これからは今以上に旅行しやすくなるのかも。(エリトリアの観光資源は・・・・知りませんが)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

タイ  来年2月“予定”の総選挙をめぐり、各政党の動きも動きも加速

2018-10-14 21:17:22 | 東南アジア

(支持率が急上昇し、台風の目に躍り出た新党「新未来党」のタナトーン党首(左から3人目)【8月21日 SankeiBiz】)

【「どうせまた延期だ」との声も
軍事政権からの民政復帰をはたすタイ総選挙は、“一応”来年2月24日実施の“予定”とはされていますが、これまで軍事政権側の都合でたびたび延期されてきただけに、「どうせまた延期だ」との声も。

****どうせまた延期だ」タイ総選挙、くすぶる懸念 軍政、何度も約束ほごに****
軍事政権が2014年5月から続くタイで、民政復帰に向けた総選挙のカウントダウンが始まった。選挙に必要な関連法が12日に公布され、政党の政治活動も一部解禁されたためだ。

軍政は来年2~5月に総選挙を実施すると明言しているが、政権の延命を図ろうと何度も約束をほごにしてきており、再延期の懸念もくすぶっている。
 
総選挙を行うには、選挙関連の4法が全て施行されることが必要。最後まで残っていた下院選挙法は12日に公布され、90日後の12月中旬に施行される。憲法の規定により、その150日以内には総選挙が実施される運びだ。
 
タイで総選挙が実現すれば、インラック前政権が発足した11年7月以来となる。軍政は14日、同政権を倒した14年5月のクーデター以降、禁止していた政党による政治活動の一部を解禁。5人以上の政治集会はできないが、党員勧誘などは可能になった。
 
プラユット暫定首相は「来年2月24日」を候補日に挙げ、来年2~5月には総選挙を実施すると繰り返し約束している。だが「どうせまた延期だ」といぶかる声は多く、タイ政治の専門家は「(プラユット氏の続投を目指す)親軍政党はまだ選挙に勝てる勢力になっていない」と解説する。
 
軍政と対立するタクシン元首相派のタイ貢献党は、人口の多い農民や貧困層に根強い人気があり、いま選挙を行えば第1党になると有力視されている。軍政は政権維持のため、同党などから有力候補者を親軍政党に引き抜きたい考えだが、思うように進んでいないのが実情だ。
 
さらに、プラユット氏は「総選挙は国王の戴冠式後になる」と説明している。国を挙げた祝賀行事の戴冠式は入念な準備が必要となるが、日程は明らかになっていない。外交関係者は「戴冠式の日程次第では、総選挙の実施が延期される可能性もある」とみている。【9月17日 西日本】
*********************

要するに、軍部の意向を反映した勢力の選挙準備が整い、勝てる見通しがたつまで、戴冠式などを理由にいくらでも延期できる・・・という話です。

ただ、12月中旬に下院選挙法が施行されると、憲法規定に従って実施期限が切られますので、延期するならそれまでに・・・ということにもなります。

民政移管後も首相続投に意欲をみせるプラユット暫定首相 親軍部政党へのテコ入れで支持拡大を狙う
プラユット暫定首相は民政復帰後も親軍部政党の支持を背景に首相続投を希望しています。先に承認された新憲法でそうした道も開けています。

****<タイ>プラユット暫定首相、続投に意欲 民政移管後****
タイ軍事政権のプラユット暫定首相は24日、「すべての国民と同様に国を愛しているので政治に関心がある」と記者団に述べた。来年に予定される総選挙で民政に復帰した後も続投することに初めて公の場で意欲を示した。

2014年のクーデターで暫定首相に就任した元陸軍司令官のプラユット氏は、政治的な立場をこれまで表明することを避けてきた。
 
17年4月に公布された新憲法は、民政復帰後5年間は「移行期間」と定め、国軍の政治への影響力は維持されている。国会議員でなくても、首相に就くことができる。このため「プラユット氏は総選挙後も続投を目指している」と指摘されていた。
 
今月発表された複数の世論調査で、プラユット氏は「首相候補」のトップに立っている。国立開発行政大学院の調査によると、プラユット氏の支持率は徐々に低下しているが29%。支持政党のトップは、軍政と対立するタクシン元首相派のタイ貢献党で28%だった。【9月24日 毎日】
********************

プラユット暫定首相は社会秩序・治安の安定などで、まだ一定の人気を維持していますが、親軍部勢力による政権継続を望んでいるか・・・という話になると、また別問題かも。

****総選挙見据え****
6月下旬に国立ラチャパット大学スワンドゥシット校が実施した世論調査では全国1105人が回答した。支持政党(複数選択可)を表す「関心がある政党」は、タクシン派政党のタイ貢献党が55%を占めてダントツの首位だった。

次いで、自動車関連企業のタイ・サミット・グループ元副社長のタナートン・チュンルンルアンキット氏が率いる新政党「新未来党」が34.2%で2位に入った。

3位は、タイで現存する最古の政党「民主党」で33.9%。タイ国民の力党は12.6%にとどまった。発足して約4カ月がたつが、親軍政党の支持率は一向に振るわない。
 
一方で、総選挙後もプラユット氏に首相に就いてもらいたいと考えている人はいまなお多い。国立開発行政研究所(NIDA)が継続して実施している世論調査でも、5月末時点で約40%の有権者が同氏を推すなど、「続投」を期待する声はバンコク首都圏を中心に圧倒的多数を誇る。

デモ行進を指揮した結果としてタクシン派政権を倒した民主党のアピシット党首が、元首相という知名度を持ちながら10%台前半と低迷しているのとは対照的だ。
 
プラユット内閣は政策面でも高い評価を得ている。NIDAが毎年行っている「内閣の仕事ぶり調査」でも8割前後の有権者が「非常に良い」や「良い」と回答。暫定政権発足後、一貫して高い数値を保っている。

皮肉にも、軍政となってデモや集会の禁止、賄賂の取り締まり強化など一定の治安秩序が維持されている点が評価されているとみられる。
 
ただし、総選挙後も軍が前面に出てくるとなると話は別だ。プラユット氏を評価しながらも、親軍政党のタイ国民の力党が支持を得られない点にも軍政が広く敬遠されていることがうかがえる。【8月21日 SankeiBiz】
*******************

プラユット暫定首相の受け皿としての親軍部政党のかなめが、上記記事では支持が広がっていないとされる「国民国家の力党」で、政権閣僚から4人も参加し、また、他党からの議員引き抜きによるテコ入れが行われています。

*****タイ親軍政党、要職に閣僚 プラユット暫定首相、続投に布石か****
軍事政権が続くタイで29日、親軍とされる新政党・国民国家の力党が初めての党大会を開き、党首や幹事長などの要職に、プラユット暫定首相が率いる現政権の4人の閣僚が就いた。軍政が来年2月から5月の間に実施するとしている総選挙後に、プラユット氏を続投させることを目指すとみられている。
 
この日、首都バンコク近郊で開かれた大会では党首にウッタマ工業相、幹事長にソンティラット商務相を、副党首と報道官にも現職の閣僚を選んだ。
 
タイでは2006年に当時のタクシン政権が、14年にはタクシン元首相派の政権が軍事クーデターで覆された。だが、農村や都市の貧困層を中心にタクシン派への支持は根強く、最近の世論調査でもタクシン派のタイ貢献党が政党支持で1位を保っている。
 
国民国家の力党は支持率で2位につけているが、総選挙に向けてタクシン派の元議員らを中心に、引き抜きを図っているとされる。
 
一方、プラユット氏自身も24日、「政治に関心がある」と述べ、続投に意欲を示した。ウッタマ氏はこの日、プラユット氏を首相に推すのかについて「党員の意思による」と明言を避けたが、党と現政権が事実上、一体となって総選挙を戦う構えとみられる。
 
ただ、タクシン派の切り崩しも「思うようには進んでいない」(元議員)との指摘もあり、プラユット氏の続投の見通しが立たない場合には、治安問題など何らかの理由をつけて、軍政が総選挙を先送りする可能性も指摘されている。【9月30日 朝日】
********************

今日報じられた下記記事では、政党支持率はタクシン派「貢献党」が1位、次いで親軍部政党の「国民国家の力党」となっていますが、この記事で紹介されている調査では親軍部政党の数字もそこそこはあります。この数字を軍政側がどう判断するかで選挙実施が左右されます。

(前出の6月下旬に国立ラチャパット大学スワンドゥシット校が実施した世論調査は複数回答ですが、いずれにしても途上国・新興国における世論調査の精度は、日本におけるそれとは区別する必要があるでしょう)

タクシン・反タクシンの不毛の対立からの脱却を主張する新興勢力「新未来党」は台風の目になるか?】
****タイ各党、民政復帰へ動き急=総選挙にらみ主導権争い****
2014年5月のクーデターで軍が実権を掌握してから4年5カ月が経過したタイで、民政復帰のための総選挙に向け、各党が活動を活発化させている。

軍事政権が9月、クーデター後に禁止した政党の政治活動を一部解禁したのを受け、各党は党大会や集会を開き、政権担当能力をアピール。主導権争いを演じている。
 
国立開発行政大学院の世論調査では、軍政と対立するタクシン元首相派のタイ貢献党が支持率28.8%でトップ。党の支柱のタクシン氏と妹のインラック前首相が国外に逃亡したが、東北部や北部の農村で圧倒的な支持を維持している。プムタム幹事長代行は「われわれが第1党になる。民主主義を支持する他党と協力する」と語る。
 
支持率20.6%の新党、国民国家の力党は、軍出身のプラユット暫定首相の続投を目指す。軍政の現職閣僚4人を幹部に起用。党首のウッタマ工業相は「持続的開発へ強固な基礎を築いた」と軍政の功績を強調した。

貢献党と2大政党の一角を担ってきた支持率19.6%の民主党のアピシット元首相は「民主主義体制の復活と非民主的な法律の改正」に意欲を示す。
 
台風の目となっているのは、支持率15.5%で4位につける新党の新未来党だ。財界から政界に転じた39歳のタナトーン党首が結成。政治への軍の影響力の排除を訴え、タクシン派と軍や民主党の政争に不満を抱く若い世代の支持を集める。タナトーン党首は「首相になる用意はあるが、目的は権力奪取ではなく国家改革」と強調する。【10月14日 時事】
*******************

若者の支持を集める新興勢力「新未来党」は、前出のように6月下旬に国立ラチャパット大学スワンドゥシット校が実施した世論調査では第2位に食い込んでいます。

****タイ暫定首相人気も親軍政党支持低下 タクシン派首位、新党が台風の目**** 
(中略)
若年層が後押し
(支持がなかなか広がらない親軍政政党に)代わって注目を集めているのが、新政党法の施行後に発足した新未来党で、タナートン党首は積極的に地方回りを続けている。

タナートン氏は39歳。裕福な華僑の家に生まれ家業を継いだが、気さくな人柄や社会貢献活動が評価され、主に若い世代から慕われている。政界への進出を決めたことで、一気に台風の目として躍り出た。
 
バンコク首都圏にある名門タマサート大学のキャンパス。ここで6月14日に開催された政治フォーラムにタナートン氏の姿があった。

「エーク、エーク」とニックネームがこだまする中、登壇したタナートン氏は「クーデターはもうこりごりだ。自分たちのことはわれわれ自身が決めよう」と訴え、拍手を浴びた。

「(デモ行進には)行き過ぎた点があった」などと弁明に終始した民主党のアピシット党首とは好対照に映った。フォーラムには既存の有力政治家やタイ貢献党の幹部らも参加したが、反応は今ひとつだった。
 
ただ、タクシン元首相の出身地である北部地方や最大の人口をかかえる東北部地方では、タイ貢献党への支持が多数派を占める。

長い間、政治的に顧みられなかったこれら貧しい地方の人々が、タクシン時代に「30バーツ医療制度」などで政治に目覚め、投票権を行使するようになった流れは現在も衰えていない。国内に貧富の差が深くある限り、地方は独自の論理を持って存続しようとしている。
 
総選挙の実施まで、早くてあと半年あまり。民政復帰も間近となった。永続的な軍による支配が懸念される中、ここに来てタイの政治はプレーヤーが入れ替わり、軍、タクシン派、若い世代の三つどもえの様相を呈し始めている。【8月21日 SankeiBiz】
*******************

埋没の危険もある老舗政党「民主党」 選挙後の親軍部勢力との連立も視野に
“プレーヤーが入れ替わり、軍、タクシン派、若い世代の三つどもえの様相を呈し始めている”・・・ということでは困るのが、老舗の「民主党」。支持基盤であるバンコクなどの中間層の票を新興勢力「新未来党」にさらわれると苦しい展開にもなります。

アピシット党首は、親軍部政党との連立の可能性にも言及しています。

****民主党 総選挙後に親軍部政党と連立政権の可能性を示唆****
タイで最も長い歴史を誇る政党、民主党では10月8日に党首選が始まったが、続投を目指すアピシット党首の発言から来年の総選挙後に民主党が親軍部の政党と連立政権を組む可能性が出てきたとの指摘が出ている。

関係筋によれば、次期総選挙では新軍部政党躍進の可能性があることから、親軍部の政党の独走を阻止すべく民主党が政権に参加することも考えられるとのことだ。

なお、政党のスタンスについては、パランプラチャラット党など3党が親軍部、民主党など4党が中道、タクシン派のタイ貢献党など5党が反軍部とされている。【10月10日 バンコク週報】
*****************

タイにとって岐路となる重要な選挙
まだ選挙実施も定かではない段階ですが、もし実施されれば、「選挙には強い」と定評があるタクシン派「貢献党」が、軍政の弾圧に抗してどこまで議席を獲得できるか、親軍部政党「国民国家の力党」がプラユット氏続投を支えられる議席を獲得できるのか、新興勢力「新未来党」が実際にも台風の目になるのか、老舗政党「民主党」が埋没を避けらるか・・・非常に興味深い選挙にはなりそうです。

もちろん、結果次第で疑似軍政継続か、あるいはタクシン元首相復権に道が開けるか、タクシン・反タクシンの「不毛の争い」の出口が見いだされるか・・・タイにとっては岐路となる重要な選挙です。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

サウジ記者失踪事件で困難な局面に立つサウジ・ムハンマド皇太子 トルコはこの機に対米関係修復へ

2018-10-13 23:09:31 | 中東情勢

(トルコ・イスタンブールのサウジアラビア総領事館から顔をのぞかせる治安当局者(2018年10月12日撮影)【10月13日 AFP】)

拷問・殺害された様子を記録した音源と映像をトルコ政府が入手との報道も
イランに対抗する中東スンニ派世界の地域大国であるサウジアラビアとトルコの対立ともなっている、10月6日ブログ“トルコ・イスタンブールのサウジ総領事館で、サウジ反政府ジャーナリストが行方不明”で取り上げたサウジ記者失踪事件については、正直なところ「どうせサウジアラビアは認めないだろうし、今更領事館を捜査しても何も出ないだろうし・・・」という感じで、このままうやむやになるのだろうと思っていました。

そんなことで6日ブログでは、事件そのものよりも、サウジアラビアとトルコの“どっちもどっち”的な政治体質を中心に取り上げました。

しかし、その後事件は、私が考えていた以上に影響が拡大しています。

トルコ側は、サウジアラビアが皇太子に批判的なカショギ氏を拷問・殺害し、遺体を切り刻んで運び出したとして、その音声・映像記録などの証拠もあるとしています。

****サウジ記者失踪、「尋問」記録をトルコが入手か 説明要求の圧力強まる****
サウジアラビア皇太子に批判的な記事を執筆していたサウジ人ジャーナリスト、ジャマル・カショギ氏がトルコ・イスタンブールのサウジ総領事館を訪れた後に消息を絶った問題で、トルコと米国は11日、サウジ政府に改めて説明を要求し、圧力を一段と強めた。

カショギ氏が総領事館内で「尋問」される様子を記録した音源と映像を、トルコ政府が所有しているとの報道もある。
 
カショギ氏は今月2日、トルコ人女性との結婚を前に必要書類を受け取るためイスタンブールのサウジ総領事館を訪れた後、行方が分からなくなった。
 
米国は同盟国のサウジと1100億ドル(約12兆円)相当の軍事関連契約を結んでおり、米議会はサウジへの武器売却の停止を求めてドナルド・トランプ米大統領に決断を迫っている。ただ、トランプ氏はサウジに説明を求める姿勢を強めてはいるものの、議会の要求は拒否している。
 
トルコ当局はカショギ氏について、殺害されたとの見方を示している。航空機2機に分乗してトルコに入国した15人の「暗殺団」がカショギ氏を殺害したとする報道もある。一方のサウジ政府は、カショギ氏は総領事館を何事もなく去ったと主張している。
 
トルコのレジェプ・タイップ・エルドアン大統領はサウジ政府に対し、この主張を裏付ける監視カメラの映像を提出するよう要求。「総領事館に監視カメラが存在しない、などということがあるだろうか」「ハエや蚊が1匹飛んでいる様子さえ、監視カメラには映る。何しろ、彼ら(サウジアラビア)には最新のシステムがあるのだから」とトルコ記者団に語った。
 
総領事館側は、カショギ氏の訪問日には監視カメラが作動していなかったと主張し、カショギ氏が暗殺されたとの見方を「根拠がない」と非難した。
 
しかし、米紙ワシントン・ポストはトルコ政府が米高官に伝えた情報として、カショギ氏が「総領事館内で尋問や拷問を受け、殺害された」様子を記録した音源と映像をトルコ政府が入手しており、遺体は殺害後に切断されたと報じた。
 
カショギ氏は、ワシントン・ポストなど多数のメディアに寄稿し、サウジ政府のイエメン内戦介入やムハンマド・ビン・サルマン皇太子の政策を批判していたジャーナリスト。

サウジ政府の顧問を務めた経歴を持つが、逮捕される恐れがあるとして昨年9月にサウジを出国し、米首都ワシントン郊外に暮らしていた。【10月12日 AFP】
****************

“カショギ氏の訪問日には監視カメラが作動していなかった”というのは、いかにも苦しい弁明にも思えます。

サウジ・ムハンマド皇太子は外交特権で制限される総領事館立ち入りについて、当初「何も隠すことはないので、トルコ官憲が立ち入り、隅々まで調べてもらって結構である」と余裕を見せていましたが、米紙ワシントン・ポストによると、トルコ当局者はサウジが捜査を遅らせ、総領事館や総領事公邸への立ち入りができない状況にあるとのこと。【10月12日 時事より】

サウジへ説明を求めるアメリカ
トルコ・エルドアン大統領が何を言ってもサウジアラビア・ムハンマド皇太子はさほどこたえないでしょうが、危惧されるのはアメリカとの関係悪化です。

****<サウジ記者失踪>「王室の関与」米主要紙報道で広がる波紋****
(中略)この問題をめぐっては、トランプ米大統領が10日、カショギ氏の婚約者でトルコ人女性のジェンギズさんをホワイトハウスに招く考えを表明。トランプ氏は「非常に悲しく悪い状況だ。深刻な事態だ」と述べ、強い関心を持って事態の推移を見守る考えを示した。
 
ボルトン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)やクシュナー大統領上級顧問は9日、ムハンマド皇太子と電話協議を行ったほか、ポンペオ国務長官も電話で皇太子に詳しい状況を説明するよう求めた。(後略)【10月11日 毎日】
*****************

ムハンマド皇太子の指示によるカショギ氏の拘束計画を米情報当局が事前に傍受していたとの米紙ワシントン・ポスト報道もありますが、これについてはホワイトハウスは否定しています。

ただ、そうした報道もなされるような状況だけに、トランプ政権としても曖昧な対応では間近に迫った中間選挙にも響きかねません。

今のところはサウジアラビアへの武器輸出契約はこれまでどおり・・・ということですが、今後の展開次第では、そうした方面にも影響が及びかねません。

****米、サウジ記者失踪でも武器輸出に意欲 トランプ氏「米国が売らなければ中露から買う****
サウジアラビアの反体制ジャーナリストがトルコのサウジ領事館に入ったまま行方不明になった問題で、トランプ米大統領は11日、米国がサウジと結んだ1100億ドル(約12兆円)相当の武器を輸出する合意を維持したいと強調した。ホワイトハウスで記者団の質問に答えた。
 
サウジ政府がジャーナリスト、ジャマル・カショギ氏の殺害に関わったと報じられており、米議会の超党派議員から同国への制裁発動を求める声が出ている。
 
トランプ氏は武器輸出に関し、「もし米国が売らなければ、サウジはロシアや中国から購入するだろう。米国内の雇用が失われ、助けにはならない」と述べた。米議会には大統領が合意した武器輸出を止める権限があるが、トランプ氏は「他の手段」を見いだすべきだと主張した。
 
上院外交委員会のコーカー委員長(共和)らはトランプ氏に対し、サウジ政府の行動を調査し、人権侵害を理由に外国政府高官に制裁を科す法律を適用するかどうか決めるよう要求。

コーカー氏は11日、サウジによる殺害が明らかになれば、「首脳部」への制裁を科す必要があるとの認識を示した。【10月12日 産経】
*********************

ムハンマド皇太子の経済「改革」の障害にも
更に、投資家も警戒を強めており、外資導入で“脱石油”国内改革を進めたいサウジ・ムハンマド皇太子にとっては厳しい情勢となっています。

****サウジ記者失踪、外国人投資家や企業に広がる懸念****
「砂漠のダボス会議」への不参加表明も相次ぐ

投資を呼び込みサウジアラビア経済を改革しようという同国のムハンマド・ビン・サルマン皇太子(33)の計画は、深刻な危機に直面している。

その原因は、同国人の反体制派記者が在トルコのサウジアラビア領事館に入ったあと行方不明となり、殺害された可能性もあるとされる事件だ。
 
2日に起きたジャマル・カショギ記者の失踪についてトルコの当局者らが、サウジが関与していると非難したことを受け、外国人投資家らはムハンマド皇太子との関係や、同皇太子が主導する経済改革計画への参加について再考し始めている。(中略)

米国の元エネルギー長官、アーネスト・モニス氏は今週、カショギ氏の事件への「強い懸念」を理由に、サウジの新たな未来都市「ネオム」に関する仕事を停止した。

アルファベット傘下で都市問題の解決につながる革新技術などの提供に取り組む「サイドウォーク・ラボ」の創設者であるダニエル・ドクトロフ氏も、サウジ政府がネオムの委員会への同氏の参加を発表すると、その直後にネオムの開発に取り組むことはしないと表明した。

欧州委員会の元副委員長のネリー・クルース氏もネオムの委員会に名を連ねていたが、カショギ記者の行方について「詳細が分かるまでの間」ネオムでの役割を停止することを11日の電子メールで明らかにした。

米紙ニューヨーク・タイムズは11日、広報担当者を通じ、10月23〜25日に首都リヤドで開催されるビジネス会議「未来投資イニシアチブ」のメディアスポンサーを降りると発表した。このイベントは「砂漠のダボス会議」と呼ばれている。(中略)

英キャピタル・エコノミクスのエコノミスト、ジェーソン・タビー氏は「イスタンブールでのカショギ氏の失踪は改革者としてのムハンマド皇太子の評価に新たな疑問を投げ掛けるものであり、政治問題化はサウジの今後の経済動向に大きな脅威となる」と指摘した。

米シンクタンク「アメリカン・エンタープライズ政策研究所(AEI)」の常勤研究者、カレン・ヤング氏は会議について、大手企業幹部にとってムハンマド皇太子との関係を維持したいかどうかの選択を迫られる局面だとの見方を示した。

その上で同氏は「著名な企業経営者にとって(同会議の場で)写真撮影に臨むことは好ましくないだろう」と語った。【10月12日 WSJ】
*******************

CNNやニューヨーク・タイムズ、フィナンシャル・タイムズのほか、「砂漠のダボス会議」会議に協賛するCNBCやブルームバーグなども参加を取りやめると表明し、欧米メディアの“サウジ離れ”も進んでいます。

サウジ王室内の権力闘争激化の可能性指摘も
閉鎖的なサウジアラビアの政治状況はよくわかりませんが、実力者ムハンマド皇太子が強力に(あるいは、“強引に”)進める改革路線で、王族間での権力闘争的緊張があるとかねてより指摘されています。

今回事件を受けて、(おそらく反皇太子派からでしょうが)ムハンマド皇太子の権力基盤が揺らいでいるとの指摘も出ています。

****サウディ王国の危機(アラビア語紙の記事****
サウディの皇太子がほゞ独裁的な地位を固め、次期国王は間違いないとされてきましたが、それに対して皇太子が従来のサウディ王国の伝統から離れて、専横的傾向をあまりに強めると、自らの首を絞め、サウディ王国の安定を危うくするとの見方がありました。

その点で、今回のイスタンブールのサウディ総領事館事件は、事件の真相はいまだ不明なるも、正直言って、サウディと言う国家と皇太子オールマイティの体制の危うさを如実に見せつけた感じがするところ、al qods al arabi net は「サウディが政治的地震に見舞われ、皇太子の国王となる可能性も危なくなった」という趣旨の記事を載せています。

彼がこれまであまりに多くの王族、有力者らを監禁し、その財産を取り上げる等その専横が目立っていたことを考えると、十分あり得る話かと思いますが、この種の話と言うのは真相はやぶの中の話が多く、この記事も、実際にそのような動きがあるというよりは、同紙の希望的観測という可能性ももちろんあり得ると思います。

しかし、こんな話がアラビア語のメディアに出始めているということで、取りあえずご参考まで。
こういう話が出てくると、米国としても事件の取り扱いには慎重にならざるを得ないでしょう。(後略)【10月12日 「中東の窓」】
*******************

この機に乗じて、米牧師問題も解消し、一気に対米関係改善を目論むトルコ・エルドアン大統領
一方、この機に乗じた感もあるのがトルコ。

これまでは、トランプ米大統領は、アメリカと同様にイランと対立するサウジアラビアを「緊密な同盟国」と呼ぶ一方で、トルコとはアメリカ人牧師が身柄を拘束されている問題をめぐって対立し、経済制裁も課されていました。

トルコ・エルドアン大統領は、今回のサウジ記者失踪事件でアメリカと共同歩調をとる形で接近し、さらに、懸案となっていたアメリカ人牧師の問題も解消して、一気にアメリカとの関係を改善させよう・・・とも見えます。

クーデター未遂事件を“首謀”したギュレン師を信奉する団体を支援していたとして拘束されていたアメリカ人牧師の問題は、トルコ・イスラエル・アメリカの三か国間の拘束者交換で解決・・・・というトランプ大統領の描いた“ディール”を、トルコが拘束は解いたものの軟禁して帰国を許さないとぶち壊したため、トランプ大統領の怒りを買っていました。

また、牧師はトランプ大統領の支持基盤であるキリスト教福音派であるため、中間選挙を控えたトランプ大統領としてはどうしても支持者向けに成果を示す必要があります。

これまではアメリカの帰国を求める要求に対し、エルドアン大統領は政治ではなく司法が判断する問題としてつっぱねていましたが、裏で何があったのか、裁判所が帰国を認める対応に変化しました。

****トルコ、米国人牧師を解放 拘束2年、関係悪化の原因に****
トルコの裁判所は12日、同国で2年にわたり拘束されてきた米国人牧師、アンドルー・ブランソン氏の解放を決定した。同牧師の拘束は、トルコにとって対米関係の危機と経済問題の火種となっていた。

AFP特派員によると、トルコ西部アリアーの裁判所はブランソン牧師をテロ関連の罪状で有罪とし、禁錮3年1月15日の刑を言い渡した。その上で裁判所は、未決勾留期間と公判中の素行の良さを考慮し、同牧師の自宅軟禁と渡航禁止を解除。牧師は解放された。

ブランソン牧師の弁護士がAFPに語ったところによると、牧師はその後、トルコを航空機で出発し、ドイツを経由する帰国の途に就いた。トルコの半国営アナトリア通信も牧師の出国を確認し、米国への帰還前にドイツに2日間滞在する予定だと伝えている。

ブランソン牧師は2016年10月に拘束され、テロ組織支援とスパイ活動の罪で最長35年の禁錮刑を科される可能性があった。検察はその後、最長10年の禁錮刑を求刑。裁判所は同牧師をテロ組織構成員とは認定しなかったものの、テロ組織を支援したとして有罪判決を下した。一方、牧師と米当局はすべての罪状で無罪を主張した。

ブランソン牧師の拘束は、北大西洋条約機構加盟国同士であるトルコと米国に近年でも特に深刻な外交問題を引き起こしただけでなく、トルコ通貨リラの暴落を招き、同国経済の脆弱(ぜいじゃく)性を露呈した。

両国間には牧師の拘束以外にも複数の懸案があり、専門家らは、そうした問題は牧師解放だけでは解決しないと警告している。【10月13日 AFP】
*****************

トランプ大統領にとっては大きな得点となるでしょうが、“取引”はしていないとも。

“トランプ氏はトルコ政府との間で「取引は何もなかった」と説明した。米政府は牧師の解放を求めてトルコに制裁を科すなど圧力を強化してきたが、制裁解除を条件に解放を実現したのではないと強調する狙いがあるとみられる。”【10月13日 産経】

トルコとアメリカの間には、ギュレン師引き渡し要求や、シリアでのトルコ・ロシアの接近、NATO加盟国ながらロシアからのミサイル供与、米軍と協力するシリア北部クルド人勢力をめぐる対立などもありますが、エルドアン・トランプ両首脳は独断で物事を進めたがる似たもの同志ですから、流れが変わるときは変化も早いでしょう。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ミャンマー  スー・チー氏の言に反して「報道の自由」侵害を懸念させる事件が再び 日本外交の在り様

2018-10-12 23:11:46 | ミャンマー

(スー・チー氏側近が関与する 地方政府の財政運営に対する批判記事が、植民地時代の法律によって“「公衆に恐怖または不安」を引き起こす意図または可能性がある”として逮捕され、ヤンゴンの法廷を後にするチョー・ゾー・リン氏(手前)とピョー・ワイ・ウィン氏(左から4人目)【10月11日 AFP】)

スー・チー氏「現状を知りもしない人が多い」「長期的に対応しなければならない」】
ミャンマー西部ラカイン州におけるイスラム系少数民族ロヒンギャに対するミャンマー国軍による虐殺・暴行・レイプ・放火などの「民族浄化」(隣国バングラデシュへの避難民は70万人超)あるいは「ジェノサイド」とも言える弾圧に対する国連等の批判、それに対するミャンマー国軍の否定、スー・チー政権の消極的対応あるいは沈黙については、これまでも再三取り上げてきたところですので、先日来日したスー・チー国家顧問のインタビュー記事のみを。

****アウン・サン・スー・チー氏 ロヒンギャ問題での非難に反論****
日本を訪れているミャンマーのアウン・サン・スー・チー国家顧問はNHKの単独インタビューに応じ、少数派のロヒンギャの人たちをめぐる問題で国際的な非難が高まり、ノーベル平和賞を取り消すべきだという声さえあがっていることについて「賞や栄誉のことは気にしていない。現状を知りもしない人が多い」と述べて反論しました。

(中略)これについてスー・チー氏はインタビューで「現状を知りもしない人が多い。近ごろは何でもすぐに解決するよう求められるが、私たちは長期的に対応しなければならない。賞や栄誉のことは気にしていない」と反論し、ロヒンギャの人たちに対する差別意識が根強く、軍が強い影響力を保つなか、問題解決には時間がかかるという考えを示しました。(後略)【10月6日 NHK】
******************

もちろん、スー・チー氏には国軍を動かす権限がないこと、国民世論は圧倒的に“不法移民”ロヒンギャを嫌悪し、国軍の対応を支持していることなどから、スー・チー氏の対応も困難なこと、対応には時間を要することは理解できますが、民主化運動の旗手として輝いていた存在だけに期待も大きく、その分失望も大きなものがあります。

ロヒンギャ対応、報道の自由に関するスー・チー氏の認識への懸念
気になるのは、単に身動きがとれないということだけでなく、彼女の言葉の端々に感じ取れる、彼女自身がロヒンギャの境遇に対してあまり大きな共感を持っていないのでは・・・、世論と似たようなロヒンギャ嫌悪を共有しているのでは・・・との懸念です。

そのような懸念を大きくしているのが、ロヒンギャの人たちの問題を取材していたロイター通信のミャンマー人記者2人が、機密文書を不正に入手したとして禁錮7年の有罪判決を受けた事件への対応です。

両記者は、国家機密の文書を所持していたとして逮捕されましたが、警察当局の罠であるとして無罪を主張しており、“罠”に関する警察官当事者の証言もあります。しかし有罪判決は変わりませんし、スー・チー氏による恩赦等の対応もありません。

スー・チー氏は両記者のことを「裏切り者」と呼んだそうで。隠ぺいすべきロヒンギャ虐殺を国外に知らしめようとしたことが、国家への「裏切り」ということになるのでしょうか。【9月5日 WSJ“スー・チー氏の選択:記者恩赦か沈黙維持か スー・チー氏は収監された記者には「非同情的」”より】

その言葉に、彼女のロヒンギャ問題への認識がうかがわれるようにも思えます。

“判決はミャンマーの報道の自由を揺るがすものだとして国内外で懸念が広がり、国連や欧米諸国、ジャーナリスト団体が2人の釈放を求めています。

しかしスー・チー氏は先月、判決について「裁判所が法律に違反したと判断した。報道の自由の問題とは無関係だ」と述べていて、スー・チー氏が掲げてきた民主主義の在り方が疑問視される事態になっています。”【10月6日 NHK】

この“ミャンマーの報道の自由”に関する批判・懸念に対するスー・チー氏の反論は以下のようにも。

****アウン・サン・スー・チー氏 「報道の自由ある」と主張****
(中略)スー・チー氏は「もし裁判に間違いがあったというのならもちろん調査するが、言論の自由の問題とは区別しなければならない」と指摘したうえで「ミャンマーには多くの報道の自由がある」と述べ、懸念はあたらないと主張しました。

さらに、国家機密法はイギリス植民地時代に制定されたもので、民主化が進むミャンマーにはそぐわないのではないかという批判に対しては「現代にそぐわないといわれたことは一度もない。同じような法律は世界の多くの国にもある」と述べ、法律そのものにも問題は感じていないことを明らかにしました。

また、ロヒンギャの人たちに対する迫害の問題については、国連をはじめとする国際機関に事実を調査させるべきだという国際社会からの圧力が強まっています。

これについてスー・チー氏は、ミャンマー政府がことし7月、外国人の委員を含む調査委員会をみずから設置したことに触れ、「国連の機関とミャンマー政府の委員会にどんな違いがあるのか。私たちは、自分たちで調査する意志と能力があることを示すチャンスが与えられるべきだ」と述べ、あくまで政府が設置した委員会に調査させる考えを示しました。

一方、国連などによる調査については、「人権の大切さを心から信じているが、人権は法の支配と国内的な合意がなければ確保できない。政府が設置した調査委員会でさえよく思わない人もいる」と述べ、国内で反発が強まるおそれがあり受け入れがたいという考えを示しました。(後略)【10月7日 NHK】
*******************

頑なに“守りの姿勢”を強めているようにも見えます。しかし、いったい何を守ろうとしているのか?

地方政府の財政運営に対する批判記事でジャーナリスト逮捕
上記のロイター記者の問題が注目されているなかで、再び“報道の自由”への懸念を感じさせる事件も。

****ミャンマーで新聞編集長ら3人逮捕 スー・チー氏側近の財政運営批判****
報道の自由への懸念を呼ぶ出来事が相次ぐミャンマーで10日、最大都市ヤンゴンの財政運営を批判した新聞の編集長ら3人が警察に逮捕された。

ヤンゴン市のあるヤンゴン管区の地域首相は、アウン・サン・スー・チー国家顧問の側近が務めており、批判記事はこの側近が所管する市のバス交通計画を取り上げていた。
 
逮捕されたのは、新聞の発行元「イレブンメディア」で編集長を務めるチョー・ゾー・リン、ネイ・ミンの両氏と、報道部長を務めるピョー・ワイ・ウィン氏。3氏は10日午前、手錠を掛けられて出廷し、聴聞後に拘置所に移送された。(中略)
 
記事の掲載に「公衆に恐怖または不安」を引き起こす意図または可能性があったと裁判所が判断した場合、被告らは罰金と最高2年の禁錮刑を受ける可能性がある。
 
ミャンマーでは長期にわたり、曖昧で時代遅れの法律の下でメディアが訴追される事例が続いており、人権団体は今回の逮捕を批判している。
 
同国では先月、ロイター通信の記者2人に禁錮7年の判決が言い渡されたばかり。公判中、被告らはわなにはめられたとする警官の証言があり、裁判は見せかけだったとの見方が広がった。
 
スー・チー氏は9日公開されたNHKとのインタビューで、「ミャンマーには多くの報道の自由がある」と発言。同氏の政権を批判する人らに対し、ミャンマーで「報道機関が毎日何をしているのか調べる」よう促した。【10月11日 AFP】
*******************

地方政府の財政運営に対する批判記事が“「公衆に恐怖または不安」を引き起こす意図または可能性”として処罰されるのであれば、スー・チー氏が保証するミャンマーにおける「報道の自由」とは一体何なのか?

これも、政権批判を「フェイクニュース」として切り捨てる昨今の風潮の一端でしょうか、あるいは、古くて変わらないミャンマーの国家体質でしょうか。

圧力を強める欧米 支援姿勢の日本
ロヒンギャ問題へのスー・チー政権の対応を批判する欧米は厳しい姿勢を強めています。

****ロヒンギャ迫害で徹底調査要求 米国務長官、ミャンマーに****
米国務省は28日、ポンペオ国務長官がミャンマーのチョー・ティン・スエ国家顧問府相と27日にニューヨークで会談し、イスラム教徒少数民族ロヒンギャの迫害について徹底調査と関係者の責任追及を求めたと発表した。

国務省は、ロヒンギャ迫害はミャンマー国軍によって「事前に計画、調整された動きだった」と非難する報告書をまとめ、近く公表するとみられている。

ポンペオ氏は会談でミャンマーの民主化を支援する立場を強調した上で、米国や国連が指摘するロヒンギャへの人権侵害について具体的な調査を進め、迫害に関与した関係者の責任を明確にすべきだと伝えたという。【9月29日 共同】
*******************

****EU、カンボジアに経済制裁検討 ミャンマーも対象****
カンボジアの野党弾圧、ミャンマーでのイスラム教徒少数民族ロヒンギャ迫害を受け、欧州連合(EU)の通商担当閣僚に当たるマルムストローム欧州委員は5日、両国産品輸入の際の関税優遇措置の停止を検討していると明らかにした。事実上の経済制裁に当たる。

カンボジア側に同日、停止に向けた手続きに着手したと伝達した。ミャンマーには近日中に調査団を派遣し、実情を把握した上で手続きを開始するか否かを決める。

EUは、途上国の中でも特に発展の遅れた後発発展途上国(LDC)の産品の輸入関税を減免するなどして、各国の産業振興を後押ししている。【10月6日 共同】
*********************

一方、日本は基本的にはミャンマー政府を支援する姿勢です。国際批判よりは中国の影響力拡大阻止という思惑が優先しているようです。これは、日本外交のいつもの対応でもあります。

****日本、ロヒンギャ居住地域支援へ 中国の影響拡大阻止****
日本が対ミャンマー支援の一環として、迫害を受けるイスラム教徒少数民族ロヒンギャが住む西部ラカイン州でインフラ整備に乗り出すことが7日、分かった。

金額は50億〜60億円程度で検討しており、ミャンマーでの中国の影響力拡大を食い止める狙いがある。日本政府関係者が明らかにした。
 
日本が2016年に表明した8千億円規模の支援の一部を割り当てる。このほか、700億円を最大都市ヤンゴンの下水処理などのインフラ整備に使う方針も決めた。いずれも、安倍晋三首相がアウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相と東京で会談する9日に表明する。【10月7日 共同】
*****************

****ミャンマーの民主化支援表明 安倍 スー・チー会談****
安倍首相は9日夕方、ミャンマーのアウン・サン・スー・チー国家最高顧問と都内で会談し、ミャンマーの民主化を支援する考えを表明した。

安倍首相は、「民主的な国づくりの努力を、官民挙げて最大限協力して支援する」と述べた。(中略)

安倍首相は、ミャンマーから隣国に逃れたイスラム系少数民族のロヒンギャをめぐる問題について、スー・チー氏の取り組みを評価したうえで、「ミャンマー政府による問題の解決に向けた取り組みを支えていく」と表明した。

現地で住宅建設などの環境整備や、給水分野での支援を行っていくという。

さらに両首脳は、日本人観光客がミャンマーに渡航する際のビザが、10月から不要になったことにも触れ、観光分野でも交流を拡大させることを確認した。【10月9日 FNN】
******************

“ロヒンギャをめぐる問題について、スー・チー氏の取り組みを評価”・・・・安倍首相はどのように評価しているのでしょうか?国連等の批判的な報告書についてはどのように認識しているのでしょうか?

日本としてできるのは、安全な帰還のために何が必要か、ミャンマー政府に提案していくことではないか
****ロヒンギャの人々が「日本に感謝」する理由 ミャンマー政府を支持した事情 それでも「他人事」ですか****
(中略)
実は日本にも住んでいる、イスラム教徒ロヒンギャの人たち
日本に約200人のロヒンギャが住んでいる地域があることを知っていますか?群馬県の真ん中にある、館林(たてばやし)市です。1990年代、当時の軍事政権による迫害によって逃げ出したロヒンギャが日本にたどり着き、その後もネットワークを頼ってこの地域に集まったと言います。(中略)

非難浴びるミャンマーを「全面的に支援する」日本政府
(スーチー氏が軍や警察に自分で命令したり、動かしたりできないのが実情なのです。)とはいっても、「スーチーさん、どうにかして」という思いを持っている人は多いはず。

そんなアウンサンスーチー国家顧問に今年1月、河野太郎外相がミャンマーの首都ネピドーに会いにいきました。(中略)河野大臣は、「日本政府は問題解決のためにミャンマーを全面的に支援する」と述べました。(中略)

河野大臣はその後、ラカイン州を訪れ、ヘリで上空から視察するなどした後、焼け落ちたロヒンギャらの村を見て、「事態は深刻だ」と報道陣に話しました。(中略)

確かに、「ロヒンギャを迫害している」と責められているミャンマー政府に財政的な援助をして「全面的に支援する」というのは、釈然としないものが残ります。

「賛成」でも「反対」でもなく「棄権」票
そもそも、国際社会がミャンマー政府への批判を続けていた際、国連などで次々と「ロヒンギャへの迫害をやめなさい」といった決議が採択されましたが、日本は「賛成」でも「反対」でもなく、「棄権」票を投じていました。

日本はあくまでもこの問題は「ミャンマーの国内的な問題であり、解決はミャンマー政府に委ねるべきだ」という考え方です。

一方、こういった決議に「反対」してミャンマー政府を完全に擁護していたのが、中国。ミャンマー政府の安全保障に関わるある幹部は、「中国が味方についてくれているから、国連でこれ以上問題が大きくなることはない」と語りました。(中略)

日本政府の人も公には言ってくれませんが、中国の動きを警戒した「棄権」票。つまり、ミャンマー政府との接点を中国政府が独り占めしないようにするという側面もあるといえます。

ちらつく中国の影 日本の立場は……
(中略)丸山(ミャンマー)大使は、「日本の対応が批判されたことは、軍事政権下でもあった」と話します。

1988年から続いた軍事政権時代。欧米などが経済制裁を下す中、日本は援助を続けていました。欧米からは「軍事政権に塩を送る行為」に対して批判されました。

当時もミャンマーに勤務していた丸山大使は、「日本が軍事政権と一定の関係を持ってつき合ったことは『生ぬるい』と国内外から言われた。だが、軍事政権が民主化するためにいろいろな形で話していく必要がある」と語ります。

「本当に国の成長や発展を望むなら、将来に備えた支援が必要だ」

決して他人事として片付けられない
(中略)もちろん、「国益」という考えもあるでしょう。「これからどんどん発展していくミャンマーに対して良い関係をつくっていくことは、日本企業が進出しやすい土壌をつくる」(日本企業関係者)という意味もあるはずです。

記者としては、70万人近くの難民を出した点については、ミャンマー政府を厳しく批判するべきだと思います。一方で、今求められているのは、彼らが安心して帰還すること、その後も安全にミャンマーで暮らすこと。

ロヒンギャが戻る予定のミャンマー政府ラカイン州を何度か訪れましたが、立派な「受け入れ施設」はつくられたものの、多くが村を焼かれた難民がどう暮らしていくのか、明確なプランはなく準備はほとんど進んでいませんでした。

日本としてできるのは、安全な帰還のために何が必要か、ミャンマー政府に提案していくことではないかと思います。(後略)【10月2日 withnews】
******************

圧力を強める欧米と支援の姿勢の日本、「良い警官と悪い警官」の役割分担で、ロヒンギャ問題や報道の自由に関してミャンマー政府をあるべき方向へ誘導する・・・・というなら、それも一策ですが・・・・。

単に、中国の影響力拡大を阻止したいから・・・、日本企業が進出しやすい土壌をつくるため・・・・というだけでは、やや寂しい感も。そうした外交は、ことを荒立てることを好まない日本人の気質には似合っているのでしょうが。

ミャンマーやカンボジアなど、本来日本が影響力を行使できる問題で現状に目をつぶりながら、中国などとの関係で日本の利益が侵害されそうなときだけ「正義」を主張する・・・というのでは、都合がよすぎるとの感も。国家の「品格」の問題でしょう。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする