(イラク議会に出席するアディル・アブドルマハディ次期首相(中央)【10月10日 AFP】)
【派閥間の争い、関係国の思惑で混迷する新政権樹立】
5月に行われたイラクの総選挙では、アメリカ・イラン双方に距離を置くサドル師の勢力が最大勢力となりましたが、イランに近いアミリ元運輸相の第2勢力、アメリカと近いアバディ首相の第3勢力などとの間で連立交渉が長引いてきました。
そうしたなかで、サドル師とアバディ前首相の勢力の組み合わせで動き始めた・・・という話は、9月8日ブログ“イラク・バスラでイラン総領事館焼き討ち”で取り上げた。
しかし、その後の(政治的背後関係はよくわかりませんが)南部バスラなどで起きた劣悪な公共サービスに対する不満からの民衆暴動に対するアバディ政権の対応にサドル師が反発し、サドル師は第3勢力のアミリ氏率いる勢力と手を組むことになったとも。
このバスラの暴動ではイラン領事館も放火されていますが、9月7日にはバグダッドの米大使館近くにロケット弾が撃ち込まれ、同8日にはバスラの米領事館付近にも3発が着弾する攻撃を受けており、アメリカはイランによる攻撃としてイランへの姿勢を更に硬化させています。
イラク憲法では、大統領はクルド、議長はスンニ派、首相がシーア派から出ることになっています。
上記のような混迷のなかで、議会は9月15日に新議長をようやく選出することになりましたが、最も重要な首相選出は、熾烈な派閥争い、イランやアメリカという関係国の思惑で難航することも予想されていました。
****再び混迷 イラク 米・イランも水面下で駆け引き IS後も安定見通せず****
イラクで政治や社会の混乱が深刻化している。9月上旬には、生活インフラの破綻により南部バスラで大規模な反政府デモが起き、同時期に始まった議会では次期政権づくりをめぐる権力闘争が続いている。
舞台裏では次期政権をめぐり、影響力を維持したい隣国イランと米国が激しい駆け引きを展開しているとの指摘もある。
昨年、イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)への勝利宣言が出て安定に向かうとみられたイラク情勢は、再び混とんとしてきた。
「状況は最悪だ。歴代政権がみな汚職に手を染めてきたから、こんなひどい状態になってしまった」。バスラの住民がSNSを通じて現地の様子を語った。
バスラでは停電が続いて清潔な飲料水も届かず、9月上旬には大規模な反政府デモが広がった。汚染された水を飲んだ約3万人が病院で治療を受けたという。
インフラ復興に投じられる予定だった巨額の金が行方不明になったとの情報もある。
一方、首都バグダッドでは3日、5月に実施した選挙の結果に基づく新たな議会が招集されたが、新政権づくりをめぐる協議が紛糾した。
議会内の最大勢力となったのは、イランと同じイスラム教シーア派の反米指導者、サドル師の政党連合。
第3勢力のアバディ現首相らと組む方針だったが、バスラの反政府デモなどを受けて連立を拒否、アミリ元運輸相の第2勢力と連立を組む意向を示している。
サドル師は米国だけでなくイランの内政干渉にも否定的だとされるが、アミリ氏はイランやその民兵組織と親密な関係にある。
一方、IS掃討を通じて米国と友好関係にあるアバディ氏が連立協議から外されれば、首相辞任を余儀なくされる公算が大きい。15日には議会の新議長がイランに近い人物に決まった。
13日付のエジプト英字紙アハラム・ウイークリーによると、アバディ氏を辞任させたいイランと続投を望む米国はそれぞれ、イラクの各政党に支持を呼びかけてきた。
イランからは革命防衛隊の精鋭部隊「コッズ部隊」のソレイマニ司令官が、米国からはマクガーク大統領特使が説得に乗り出したという。
イラク・バグダッド大のムバラク政治学部長は電話取材に対し、「サドル師とアミリ氏が連立を組む可能性が高く、そうなればイラン寄りの政権になると考えられる。米国はその後も(イランの影響力を弱めるために)介入して、あらゆる形で圧力をかけるだろう」と分析している。【9月21日 産経】
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【従来にない展開の首相選出】
イラン、アメリカの思惑も絡みあうなかで、議会は10月2日、新たな大統領にクルド人政党出身のバルハム・サリー氏を選出しましたが、新大統領は直ちにシーア派のアデル・アブドルマハディ元石油相(76)を新首相候補に指名する、想定外に早い展開となっています。しかも、これまでの首相選出のルールによらいない異例の指名ともなっています。
****イラク政府の生みの苦しみ?****
イラクでは総選挙が終わった後も、集計のやり直しを求める声が上がったりで、議会の開催も遅れに遅れ、約9ヵ月も政治的空白が続きましたが、ここにきてようやくまず議会の議長(スンニ派)が選ばれ、次いで大統領(クルド)が選ばれ、イラクで実質的に最重要の首相(伝統的にシーア派から)を選ぶ段取りまで来ました。
この首相選出は、そもそも議会が最大会派から首相を選出し、これを大統領が任命し、首相が内閣を組織することになっていたかと思いますが、アラビア語メディアは、格別の説明もなく、大統領がadel abdel mahadi(アデル・アブドルマハディ元石油相)に30日以内に、組閣を要請したと報じていました。
若干狐に騙された感じもして、そのうちもう少し詳しい説明もあるかと思って、あえて報告しませんでしたが、al qods al arabi net は、これまでは議会が首相を選んで大統領が任命していたが、現在のイラクの政治状況に鑑み、新大統領がその選出後2時間だったかで、新首相候補を指名し、先ずは30日以内の組閣を要請し、その後議会の承認を受けることとなったと説明しています。
(この方法が完全に合法的であるのか、また各政治グループがどう受け止めているのかは不明ですが、今のところ大統領の指名は非合法として、大騒ぎをしているところはなさそうです)
問題はこのadel abdel mahadiと言うのがどういう人物かですが、彼は2003年の米軍政下のイラクで、現大統領を含むクルド人とも共同して仕事をしたことがあり、クルドからもイランや米国双方からも受けがいいとのことです。
彼はまた2014年から2年間アバーディ首相の下で石油相をしていたが、その後辞職していて、その意味では独立派ともいえる由。
(シーア派の最大派閥のサドル派が、政党に基づく内閣を拒否し、テクノクラートの独立系からなる内閣を要求していることから、彼が指名されたのかもしれない)(後略)【10月9日 中東の窓】
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【閣僚をネット公募】
面白いと言っては失礼ですが、興味深いのは、新首相のアデル・アブドルマハディ氏は閣僚をネット公募しているということです。
****イラク次期首相が大臣職を「公募」、閣僚に立候補できるウェブサイト開設****
イラクのアディル・アブドルマハディ次期首相は9日、オンラインで大臣職に立候補できるウェブサイトを開設した。
この前例のない措置の背景には、アブドルマハディ氏が激しい政党対立を乗り越えて存続可能な与党連合を形成することに奮闘していることがある。
2日に次期首相に指名された元副大統領のアブドルマハディ氏は、イラク憲法に基づき11月1日までに政権を発足させなければならない。
大臣職への志望者は10月9日朝〜11日午後までの3日間、新設されたウェブサイト上で登録できる。
オンライン公開された登録条件によると、志望者は登録時に個人データや自身の政治的志向、所属政党の有無について記入する必要がある。また性別は問わず、政権に携わるための必須条件として大卒か同等の資格がなければならない。
登録の際、立候補者は希望する省を選択でき、また短文で「成功したリーダー」を形成するものは何か、「どのようにしてチームを効果的に運営するか」といったテーマについて陳述しなければならない。陳述の中ではさらに、希望する省が抱える問題への取り組みと「実践的な解決策」について提示することが求められるという。【10月10日 AFP】
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この公募に相当数の希望者が名乗りを上げているとも。
****イラクの組閣作業****
イラクでは新首相候補の組閣作業が始まり、首相府は新しい試みとしてその公式ネットで、大臣候補の公募を始めたことは昨日報告しました。
この件に関し、al jazeera net は、既に数千人の応募者があったと報じています。
またal arabiya net は、最初の女性応募者として、左記の写真を載せていますが、彼女はイラク、アラブ、米等のTVで活躍したキャリアの持ち主と報じています。
なかなか理知的な女性の様です。
それはともあれ、公募の締め切りは11日正午(現地時間)とのことですから、どのくらいの人数が集まって、そんな多数の中から、どうやって選ぶのでしょうか?
世界中どこでも大臣病患者は多いということでしょうか?【10月10日 中東の窓】
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激しい政党対立のしがらみを超えた人材を・・・というのは一定に「正論」ではありますが、その激しい政党対立がそんな理想論を許容するのか・・・非常に先行き不透明です。
これで、派閥間の談合によらない有能な人材が公募から実際に何人か登用されるということになれば、派閥間の勢力争いに終始してきたイラク政治も少し変わるのか・・・・との期待ももてますが、どうでしょうか・・・・。
あまり期待せずに「もう少し様子を見てみよう」といったところです。