孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国  ウイグル族“100万人”再教育施設強制収容の実態は?

2018-10-17 23:22:17 | 中国

(新疆ウイグル自治区ホータンで示威行動する中国警察=2月27日【10月17日 CNN】)

米中対立の一環 アメリカからの人権弾圧批判
ここ数日、サウジラビアがトルコ領内の総領事館に反政府ジャーナリストをおびき出し、拷問の末に、生きたまま切断したのでは・・・という疑惑が浮上し、サウジアラビアという保守的な国家の人権に対する認識が改めて問題となっています。

サウジアラビアの同盟国アメリカ・トランプ大統領は、サウジアラビアへの経済的制裁や武器輸出停止については、アメリカ国内雇用に悪影響をもたらすとして消極的で、疑惑についても、有罪が立証されるまでは推定無罪だという立場でムハンマド皇太子などを支える姿勢を示しています。

人権問題に無頓着なトランプ政権としては(人権などを重視するリベラルな考えに対する嫌悪・反発のエネルギーがトランプ大統領を誕生させ、今も岩盤支持層として支えているようにも思えます)、予想される反応でもあります。

一方、“100万人以上のウイグル人をはじめとするイスラム教徒の少数民族が大規模かつ恣意的に政治的再教育施設なるものに収容されている”とも言われている遥かに巨大な人権侵害が批判されている中国に対しては、人権そのものを問題視するというよりは、昨今の米中対立のなかの一枚のカードとして、トランプ政権および米議会も中国批判を強めていることは、8月15日ブログ“中国のウイグル族弾圧への批判を強めるアメリカ 収容所問題が国連人種差別撤廃委でも議論に”でも取り上げました。

この流れは、今も続いています。

****米議会、中国のウイグル人弾圧を激しく非難 「人道に対する罪」に言及****
(中略)超党派の中国問題執行委員会は(10日発表)年次報告書の中で、中国は目覚ましい経済成長を遂げ、国際社会へ幅広く関与しているにもかかわらず、近年、少数民族に対する抑圧を強化していると批判。

習近平氏が2012年に中国共産党総書記、翌年に国家主席に就任して以来、「中国国内では人権は悲惨なまでにないがしろにされ、状況はほぼ全面的に悪化の一途をたどっている」と懸念を示した。
 
委員長を務める共和党のマルコ・ルビオ上院議員と共同委員長のクリス・スミス下院議員は要約部分で「特に注目すべきは、中国西部で100万人以上のウイグル人をはじめとするイスラム教徒の少数民族が大規模かつ恣意的に政治的再教育施設なるものに収容されていることだ」と指摘。こうした虐待は「人道に対する罪に該当する可能性がある」と糾弾した。
 
これまで長期にわたって中国政府に改善を求めてきたスミス氏は記者会見で「宗派集団、とりわけウイグル人に対する弾圧がこれほど深刻になったことは(1960年代の)文化大革命以後なかった」と語った。同氏によれば、報告書には信仰や民族が理由で投獄されている1300人以上の名簿が含まれている。
 
ルビオ氏は中国の人権状況について「今年またも悪化した。米中関係と中国の人々が人間としての基本的な自由を行使することの両方に悪影響が及んでいる」と述べた。
 
報告書は中国共産党が「国が支援する弾圧、監視、洗脳」を通じて国内の一党独裁体制を維持していると強調している。【10月11日 AFP】AFPBB News
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9月中旬には、中国政府が多数のウイグル族を拘束していることを理由に、トランプ政権が中国高官や企業に対する制裁を検討していると米紙ニューヨーク・タイムズは報じています。実施すれば、トランプ政権としては人権侵害を理由にした初の対中制裁となります。

当然ながら、中国はアメリカのこのような対応に強く反発しています。

*****ウイグル住民は政府を支持」中国外相、米で正当性主張****
中国当局が新疆ウイグル自治区でイスラム教徒が多いウイグル族の人権を侵害していると批判を浴びている問題で、訪米している中国の王毅(ワンイー)国務委員兼外相は28日、「最近はテロ攻撃が起きていない。住民は安心して眠れるようになり、政府を支持している」と反論した。当局の対策を、米国も力を入れている「テロ対策」と位置づけ、正当性をアピールした。
 
ニューヨークの米外交評議会での講演会で質問に答えた。この問題ではトランプ政権が経済制裁を検討していると報じられ、米中間の新たな火種になっている。
 
王氏は過去に新疆で起きた襲撃事件について、過激派組織「イスラム国」(IS)や国際テロ組織アルカイダが生活に不満を持つ人をテロリストに育てるなどして起こした「テロ攻撃」と指摘。「住民の安全と財産を守ることが、法と秩序に責任を持つ政府の最低限の義務だ」とし、「どの政府でも同じことをする」と主張した。
 
ただ、現地では漢民族による強権的な支配への不満が原因との見方もあり、人権団体は、法的な根拠がないまま多くの人が「再教育施設」に拘束されていると批判している。王氏は、当局が具体的にどのような措置をとっているのかには触れなかった。【9月27日 朝日】
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“法的な根拠がないまま”云々については、「じゃ、法律をつくればいいいんだろう」という訳でしょうか、以下のような対応も。法律に依らない現実対応が先行し、国家・党の利害に沿って後追いで法律が作られるという、いかにも中国的対応です。中国政治における法律の位置づけを示す対応でもあります。

****ウイグル族収容施設に法的根拠=中国で条例改正、テロ対策名目****
中国新疆ウイグル自治区人民代表大会常務委員会は9日、過激主義対策に関する条例の改正を行い、イスラム教徒の少数民族、ウイグル族に対する事実上の収容施設の法的根拠を明記した。(中略)

改正条例は「過激主義の影響を受けた人員の教化」を行うため、各地域の政府が「職業技能教育訓練センターを設立できる」と定めた。センターでは、中国語教育や職業訓練に加えて、「思想教育、心理・行動の矯正」を行うとしている。
 
米国は、貿易摩擦をはじめとする中国との関係悪化に伴い、ウイグル族の人権状況も問題視している。ペンス米副大統領は4日の講演で、「新疆では、共産党が100万人ものウイグル族を収容施設に閉じ込め、24時間体制で洗脳している」と厳しく非難した。【10月11日 時事】 
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ウイグル族全体を対象にした“再教育” 「改善不能」と見なされた場合は・・・・
中国政府が極めて大規模に「再教育施設へのイスラム教徒の収容」を行っているのは間違いないところで、そのほかにも、新疆ウイグル自治区では最先端技術を応用した超監視社会ともいえるような警戒・圧迫が進行しているのも事実ですが、“100万人”という数字については、あまりにも桁外れに大きなもので、にわかには信じがたいものもあります。

本当に100万人(あるいは数十万人)を収容するためには、とんでもない規模・数の「再教育施設」が必要になり、そんなに大量拘束されたら地域社会は崩壊してしまいます。

そんなことで、“100万人”という数字については、“南京虐殺30万人”と似たような話もあるのでは・・・という感も個人的にはあるのですが、その“民族弾圧の”実態については以下のようにも。

****再教育という名の民族弾圧****
中国共産党は少数民族ウイグル人を世界史上まれに見る規模で強制収容所に閉じ込め、共同体ごと洗脳しようとしている ライアン・サム(米ロヨラ大学歴史学准教授)

昨年の夏以来、中国西部の新疆ウイグル自治区と外の世界を結ぶネット接続が次々に途絶えている。最大の民族集団であるウイグル人が、チャットアプリの微信(WeChat)から外国にいる友人や親戚のアドレスを削除しているらしい。もう電話をかけてくれるなと、親族に伝えた人もいる。(中略)

一方で、自治区内の各地でひときわ目立つ建物群が次々と新設されている。広大な敷地は二重の塀で囲まれ、監視
塔もあることが衛星画像で分かる。

わずか1年で、少数民族の男女が何十万人もこれらの施設に消えた。多くはウイグル人だが、その他の民族も含まれる。たいていは家族への説明もなく、違法行為の嫌疑もない。
 
国際社会に対して、中国政府はこうした「再教育施設」の存在を否定していた。だが最近になってようやく、「過
激思想に影響された人たちの社会復帰を促す施設」の存在を認めた。
 
地元警察には収容人数のノルマがある。その達成のためにはどんな小さな不服従の気配も見逃さない。酒を飲まない(イスラム教徒の証拠だ)、役人に挨拶しない(けしからん)、といったことも理由になる。ネットで外界とつながるなど、もってのほかだ。
 
こんな状況でも、驚くほど多くの情報が漏れてくる。(中略)研究者らの推定では、既にウイグル人の成人人口の5~10%が罪状なしで収容されている。

ある地区の警察関係者はアメリカの短波ラジオ放送「ラジオーフリー・アジア(RFA)」に対し、住民の40%を収容所に送ることになると述ぺた。20~50歳の男性はほぼ全員が対象ということだった。(中略)

何らかの理由で解放された少数の元収容者たちの証言によると、収容所での暮らしは良くて「不快」、悪くすれば「拷問に等しかった」という。
 
そもそも何のために膨大な数の国民の収容が必要なのか。表向きは短期滞在型の更生施設とされているが、多くのウイグル人の家族や友人は半年以上も収容されたままだ。(中略)
 
なにしろ16年から自治区の党委書記を務める陳全国は、全てのウイグル人を潜在的な「反党分子」と見なせと命じている。この指示は、ウイグル人の大半が中国による支配を歓迎していないという事実を間接的に認めたに等しい。

中国共産党は今や、ウイグル人の不満は悪しき信念に基づくものであり、この悪しき信念はカザフ人などの少数民族にも見られると考えている。
 
そうであれば、こうした収容施設の目的が人々の思想を純化し、「過激思想を排除」し、党への愛情を育てるためと喧伝されているのも当然だろう。

この夏にリークされた共産主義青年団のものとされる音声データは、こうした再教育施設を「彼らの脳に入り込んだウイルスを治療し、浄化する」場所と呼んでいた。(中略)

幸運にも収容所から解放された少数の人々の話を総合すると、内部では中国共産党と習近平国家主席に対する忠誠心を植え付けるさまざまな教化が行われているらしい。「指導員」と看守は収容者に、党のスローガンの復唱やイスラム過激派に関する動画の視聴、儒教の学習、食前の祈りに代えて習主席へ感謝をささげること、自己批判をすることなどを強要している。(中略)

しかし、収容所にはほかにも重要な役割がある。社会のある層の人々を丸ごと拘束するというものだ。少なくとも3つの県では、1980年から00年の間に生まれたウイグル人のほぼ全てを「信用できない世代」として連行したとの報告がある。収容しておけば、彼らが共産党支配に反対する抗議運動に参加する恐れはないからだ。
 
ひとたび親から引き離してしまえば、子供を漢民族の文化に同化させる教育も容易になる。カシュガル周辺だけでも、親を連行された子供のための養護施設がこの1年で18力所ほど建設された。(中略)

収容所には、ウイグル人社会を文化的・思想的に改造する上での懲罰機関としての役割もある。当局はウイグル人らに難癖をつけて、法的な手続きなしで収容所に送り込むことが可能だ。

ある村の警官がRFAに語ったところでは、今年1月には、ある日帰り再教育コースの指導員が受講者に、党への忠誠の誓いと国歌を中国語で3日以内に暗唱できなかったら収容所に送ると通告した。2日たっても暗記できなかった40代の男性は絶望して、首をつったという。
 
収容所送りの恐怖は、かつてない規模の監視制度によって増幅されている。武装警察や近隣住民の相互監視といっ
た人による古典的監視と、ITを駆使したハイテク監視の合体だ。
 
ウイグル人は、共産党員や「忠実な」当局者で構成される一団によって定期的に家庭訪問を受ける。訪問は昼問だけのときもあれば、数日の泊まり込み調査もある。彼らは家族の考えや習慣について質問し、所有を禁じられている物品の有無を調べる。訪問の結果は通常は秘密にされるが、ある一団はインターネットで成果を誇った。彼らは村の人目の5分の1を収容所送りにしたという。

国外在住者の活動も追跡
子供たちは私的空間を見張る役目を担わされ、両親の宗教的慣行について報告するよう学校側から促される。

さらに町や村の至る所に監視カメラが設置されている。市場の入り口や駅、書店にまでゲートが設けられ、顔認証ソフトで人の顔をスキャンし、身分証明書と照合している。

スマートフォンの所有者は、保存コンテンツを政府に自動的に送信するスパイウェアのインストールを求められる。
 
国際的な人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチの報告によると、電子監視システムによって生み出された膨大な量のデータは、家庭訪問の情報と組み合わされ、「統合運用プラットフォーム」に人力される。ビッグデータ分析を用いて、どの個人が背信行為に関わるかを予測するものだ。
 
警察は定期的に電話の「違法な」内容をチェックするが、この監視網から逃れようとするのは危険だ。携帯電話の使用を勝手にやめた人々を拘束した警察署もあるという。
 
プライバシーの徹底的な監視と巨大で不気味な収容所の存在は、ウイグル人の行動を変えているようだ。(中略)
 
しかし今、ウイグル人は率先して自分の蔵書を焼き、自分の忠誠心を訪問者にアピールする方法を必死で考えている。この1年半の間に消えた家族や友人たちと同じ目に遭わないためだ。
 
再教育施設は中国国境の外にも影を落としている。警察は国外在住のウイグル人の活動を追跡し、大学や職場に通っている証拠の写真を要求する。在外ウイグル人は、家族に危害を加えられる恐怖から服従する。国外で祖国の状況について声を上げた人の親族が大量に姿を消したケースもある。(中略)

再教育施設の収容人数は、数十万から100万人強と推定されるが、これは今年1~2月にリークされた情報から欧州文化神学学院のエイドリアン・ゼンツが割り出したものだ。
 
その後もウイグル人やカザフ人、その他の少数民族が消え続けており、釈放されたという話はほとんどない。た
まに釈放されるのは、たいてい健康に問題のある高齢者だ。

クチヤ県の当局者は、過去2年間に収容所に送られた住民約5000~6000人は1人も解放されていないと語っている。(中略)

収容所は刑務所とも連携しており、刑務所自体も拡張し続けている。昨年、中国で発行された起訴状の13%は新疆のものだった(この自治区の人目は総人口のわずか1.5%でしかないが)。

逮捕者数も増えていて、人権団体「中国人権守護者」によれば、新疆での逮捕件数は国内全体の21%を占めた。
 
拘束された多くの人々がまず連行されるのは一時的な収容所だ。カナダ在住のある中国人大学院生はグーグルの人工衛星画像で、ウイグルで再教育施設や収容所の「建設ラッシュ」が起きていることを突き止め、文書で公表した。(中略)

ナチスの強制収容所以上
地元当局者によれば、再教育施設は通常の刑務所の入り口の役目を果たす。再教育施設の増設から推測できるのは、どんなに多くの収容者を刑務所へ移送しても、収容スペースがまだ足りないという事実だ。(中略)
 
ゼンツの試算に基づく最大値では、ウイグル人再教育施設の収容者数はナチスの強制収容所における最大値(中略)を上回っていた。第二次大戦中にアメリカで強制収容された日系人の数より何倍も多い。(中略)

考えられるシナリオは、ある時点で当局は反抗的なウイグル人を除いて収容者数を大幅に減らすが、いつでも大人数を超法規的に拘束できるだけの収容能力を維持するというものだ。

こうして再教育施設は新疆の人種差別的な警察国家の維持を可能にし、文化的・イデオロギー的な浄化を目指す党の同化政策を支え続ける。
 
いや、こうした悲観的予測でもまだ甘いのかもしれない。(中略)地元当局者の口からは、再教育施設の役割は「腫瘍の除去」であり、「雑草を根絶やしにするために作物に農薬をまくこと」だと、およそ人間性を無視した言葉が飛び出す。

仮にも当局が、施設での教化・洗脳では効果がないと判断すれば、ウイグル人全体が「改善不能」と見なされるかもしれない。
 
共産党機関紙人民日報系の環球時報は今年8月に、国連がウイグル人に対する差別的政策を非難したことを受け、中国政府には国内の「安定」のために「あらゆる措置を講じることができる」と主張した。つまり「民族浄化」も選択肢になるということだ。【10月23日号 Newsweek日本語版】
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エイドリアン・ゼンツ氏の推計した数十万から100万人強という数字の妥当性はわかりませんが、地域社会の崩壊もいとわない、あるいはそれを目的とした大量収容が進行しているようです。

この問題について発言した自治区高官の中では最高位に当たる新疆ウイグル自治区のショホラト・ザキル主席は国営新華社通信のインタビューで、この「職業訓練施設」がテロの抑制に効果的なことが証明されたと、また、「訓練生」たちは生き方を改め、生活をより「彩り豊か」にできる機会を喜んでいると述べています。【10月17日 BBCより】

“ザキル氏は収容センター内の様子についても、現時点で最も詳細に説明した。中国史や中国語、中国文化の授業があり、受講者は「国家や市民権、法の統治についての知識」を教えられる。

受講は強制的なのかについては言及しなかったものの、受講者がセンターに寝泊りしていることを示唆した。食堂では「栄養豊富な食事が無料で」提供され、宿泊施設は「設備が整って」おり、定期的に競技会やスポーツイベントが行われているという。”【同上】

歴史的規模ともいわれる中国政府の民族弾圧の背後には、政府指導者だけでなく、国民一般が共有する民族的嫌悪感があります。以前、中国を旅行した際に、そうした漢族のウイグル族への嫌悪感を垣間見たこともあります。

それは、スリランカ内戦当時に良識あるシンハラ人が見せたタミル人への嫌悪・恐怖感と同じようなものでした。
また、現在、ミャンマー人が見せるロヒンギャへの嫌悪感でもあるでしょう。

そうした民族的嫌悪感は、ナチスの犯罪を再現する土壌となります。

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