孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

エチオピア  民族間の融和、エリトリアとの関係改善、経済活性化・・・期待されるアビー首相の改革

2018-10-15 21:54:54 | 民主主義・社会問題


(首都アディスアベバにおいて「暴力のない生活へ」というテーマで開催された女子マラソンの参加者 【9月27日 Yutaro Yamazaki氏 GNV】)

民族間の対立で混乱するエチオピアで、初のオロモ州出身首相
エチオピアでは、少数民族ティグレ人が政治・経済を掌握しており、疎外されてきた最大民族オロモ人らの不満が噴出していました。

長引く混乱を受け今年2月にハイレマリアム首相が辞意表明したのに続き、非常事態を宣言。

そうした混乱を収拾すべく与党連合は3月、政府に抗議行動を続けてきた最大民族オロモ人であるアビー・アハメド元科学技術相(42)を新首相に選ぶことを決めました。民族間の緊張緩和が期待しての起用でした。

そのあたりの話は、6月24日ブログ“エチオピアとジンバブエで政治指導者を巻き込む爆弾テロ 背景に政変への不満層か?”でも取り上げましたが、簡単になぞると以下のようにも。

****アビー首相の誕生****
(中略)2012年、メレス首相の死去により首相の座を引き継いだSEPDMを代表するハイレマリアム・デザレン首相は、こうしたオロモ州とアムハラ州、オガデン地区を中心とした反政府運動の高まりを受け、政治犯の解放や拷問を行った刑務所の閉鎖を行うことで鎮静化を図った。

しかし、相次ぐ再逮捕により反政府勢力との溝を埋められず、自身の政治改革や経済改革も与党内でティグレ勢力によって阻まれたハイレマリアム首相は、2018年に辞任を発表した。

そして、その後任として初オロモ州出身首相となったのがアビー氏であった。

アビー首相は、オロモ出身だけでなく、ムスリムの父とキリスト正教会の母を持ち、与党を構成する民族のオロモ、アムハラ、ティグレの言語を話すことができるという多様なバックグラウンドがある。

4月の就任演説では、過去の政権による反政府勢力の殺害を謝罪し、国民が政府に異議を唱えることを歓迎するなど民主主義への姿勢を示した。

このように、アビー首相は、大きな政策転換を行い、これまでの政治に改革の手を加えようとしている。(後略)【9月27日 Yutaro Yamazaki氏 GNV】
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アビー首相の進める隣国エリトリアとの関係改善は、東アフリカ全域の緊張緩和にも
“アビー首相は、大きな政策転換を行い、これまでの政治に改革の手を加えようとしている”ということの、代表事例が前回ブログでも触れた、長く対立してきた隣国エリトニアとの関係改善です。

エリトリア・・・・「ああ、バルト三国の・・・」というのは“エストニア”(今、書いていても混乱しますが・・・)
エリトリアは東アフリカ「アフリカの角」にあって、その閉鎖性から「アフリカの北朝鮮」とも呼ばれてきた国です。北朝鮮同様の国内の過酷な独裁的政治事情もあって、欧州などへの難民も非常に多い国です。(欧州に流入する難民のなかで、シリア人に次いで多いのがエリトリア人とも)

前回ブログでは、エチオピアのアビー首相が、仲裁裁判所(オランダ・ハーグ)の国境画定委員会が定めた境界線を受け入れる形で、国境係争地をエリトリアに返還することを表明し、関係改善に乗り出したところまで取り上げましたが、その後、その成果が形となって表れています。

****エチオピアとエリトリア、戦争終結 「平和友好共同宣言」調印****
エチオピアとエリトリアは(7月)9日、エリトリアの首都アスマラで共同声明を発表し、「戦争は終結した」と表明した。アスマラで一連の歴史的な会談を行った両国首脳は、20年にわたる対立と紛争に終止符を打つことで合意した。
 
エリトリアを公式訪問したアビー・アハメドエチオピア首相とイサイアス・アフウェルエリトリア大統領が「平和友好共同宣言」に調印した。

このことをツイッターで明らかにしたエリトリアのヤマネ・ゲブレメスケル情報相によると、共同宣言は「両国間の戦争は終結し平和と友好の新しい時代が始まった」とした上で「両国は政治、経済、社会、文化、安全保障の面で緊密に協力していく」とする内容。
 
エチオピアの政府系ニュースメディア、ファナ放送会社は、エチオピア航空が早ければ来週にもエチオピアの首都アディスアベバとアスマラ間で旅客便の運航を開始すると伝えている。
 
両国間では20年ぶりに直通電話回線も復旧し、国境を隔てて離ればなれになっていた家族が会話できるようになったことに喜びの声が上がった。

アディスアベバで製品デザインに携わる30歳の男性はAFPの取材に対し、エリトリアに住む家族の声を戦争後初めて聞いたとして「(嬉しさを表す)言葉が見つからない」と述べた。

「アフリカの角」と呼ばれるアフリカ最東北端部に位置するエチオピアとエリトリアの間では、1998年に国境紛争が発生し、2000年の停戦までに8万人が死亡した。その後もエチオピアは国連の仲介で定められた国境線に反発し、対立が続いていた。
 
4月に就任したアビー首相は改革路線を推進。国境紛争については6月、紛争のきっかけとなった村バドメのエリトリア帰属を認めた2002年の常設仲裁裁判所・国境画定委員会の決定に従い、バドメを含む国境付近の係争地をエリトリアに返還する方針を表明し、これを機に両国の雪解けが始まっていた。
 
共同宣言の署名式を終えたアビー首相は9日、2日間の公式訪問を終えて帰国の途に就いた。【7月10日 AFP】
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アビー首相によるエリトリアとの関係改善は、両国関係にとどまらず、ジブチ・ソマリアを含む東アフリカ地域全体の緊張緩和をもたらしています。

*****ソマリア首都に41年ぶりの直行便、エチオピアの航空会社****
エチオピアの航空会社が13日、首都アディスアベバとソマリアの首都モガディシオを結ぶ直行便の第1便を運航した。両都市間で商用便が運航されたのは41年ぶりで、「アフリカの角」と呼ばれるアフリカ最東北端部で国境を接する両国の関係改善が改めて示された形だ。
 
関係者によると、エチオピアの民間航空会社ナショナル・エアウェイズの航空機が、モガディシオのアデン・アッデ国際空港に到着した。ナショナル・エアウェイズは直行便を週4便運航したいとしている。
 
同社のオーナーで最高経営責任者のアベラ・レミ氏はアデン・アッデ空港で開かれた記念式典で、「アディスアベバとモガディシオの直行便が運航を開始した今日はわれわれにとって歴史的な日だ。ここまでの道のりは決して容易ではなく、厳しい状況に何度も直面したが、最終的に成功し、ようやくこの日を迎えることができた」と語った。
 
7月には、エチオピア航空がアディスアベバと隣国エリトリアを結ぶ直行便を20年ぶりに再開した。

かつて両国は長年対立し、国境をめぐる紛争では大勢の死者が出たが、今年はエチオピアの若手改革派であるアビー・アハメド首相が主導した和平プロセスにより、関係改善が急転直下で進んだ。

これを受けて域内の外交関係は目まぐるしく変化し、ソマリアとエリトリアの国交回復や、ジブチとエリトリアの関係正常化への動きももたらした。【10月14日 AFP】
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最速「ボルト首相」の“救世主”的改革 課題と期待
これだけでも、“ノーベル平和賞”級の成果ですが、アビー首相の改革路線は外交にとどまらず、国内の民族間の融和(これが最大課題でしょう)や経済改革(外資参入を拒み独占状態だった国営エチオピア航空や国営通信会社エチオテレコムなどの株式を国内外の投資家に一部売却する方針を表明)に及んでいます。

“就任後2カ月で、国内外の課題解決に矢継ぎ早に取り組む首相の姿勢は強い印象を与え、短距離走の元最速王者になぞらえて「ボルト首相」と呼ぶ声も出ている。”【6月16日 毎日】

もちろん、改革が大胆で、急速であればあるほど、抵抗も強くなります。当然に、これからの課題も多々あります。

****エチオピア大改革:アビー新首相は救世主となれるか****
(中略)
アビー改革は政治問題の解決となるか
初のオロモ出身首相であるアビー首相の誕生は、オロモでの政治的不満に対する鎮痛剤の役割を果たした。彼は、オロモの民衆の不満の原因となっているティグレが支配する政治の改革を進めようとしている。

加えて、権力独占が再び起こらないようにするため、首相に任期制限が適用されるように憲法を修正する予定だ。

これらの改革はオロモで歓迎され、不満が緩和されたことで、デモの減少や緊急事態宣言の解除につながった。

また、アビー首相はオガデン地区に対して、政治犯の拷問や拷問を行っていた刑務所の廃止、停戦合意を行うことで和平を目指そうとしている。これにより、長年にわたるソマリ系移民とエチオピア政府との溝が埋まることが期待されている。

そして、アビー首相は国外において最も対立が激化していたエリトリアとの和平にも着手した。エチオピアとエリトリアの国境争いを終わらせる歴史的な「平和と協力の宣言」を発表し、2018年6月エリトリアの首都アスマラにおいて、エリトリアのイサイアス大統領との会談を実現させた。

この会談において、バドメ地域のエリトリアへの帰属を合意が為され、和平が成立した。加えて、国交正常化も実現し、ブレなどの国境が通れるようになったことで、内陸のエチオピアはこれまでジブチからしか海にアクセスできていなかったが、エリトリア側からのルートも開かれた。

国境により断絶されていた家族が再会し、両国間の通話や航空便が利用できるようになるなど、その恩恵は非常に大きく、現地は祝福ムードに包まれている。

また、エリトリアとの和平は、ソマリアやジブチ、スーダンなどのアフリカの角の地域全体に様々な影響を及ぼすと見られている。

残る課題
こうしたポジティブな報道が続く一方で、エチオピアでは解決すべき課題は多く残っている。

アビー首相の誕生とその改革も全国民が喜んでいるわけではない。6月23日、手榴弾がアビー首相の政治集会にいる群衆に投げ込まれ、1人が死亡し153人がけがを負うという事件が起こった。

アビーは、複数政党による民主主義の活発化を図っているが、必ずしも与党の票を維持しながら野党と仲良く共存できるとは限らない。

次の2020年の選挙で、予想される議席の再分配が摩擦や対立につながる可能性もある。

アビー首相の誕生による効果が最も期待されたオロモ州においても、問題は多く残る。オロモの人々の中にはエチオピアからの独立を目指す分離主義者も存在しており、彼らはアビー首相を裏切者だとみなしている。

また、亡命していたOLF(オロモ解放戦線)のリーダーたちと1,500人の兵士が9月にエチオピアに戻ったが、それにより首都アディスアベバで衝突が起こり、23人が亡くなった。

また、法制度や警察は、長年非民主的な政権の干渉を受ける存在であったため、これらの機関が中立を保ち、法の支配を高めることが今後の課題である。

経済面においても海外からの多額の負債を抱えており、深刻なインフレに陥っている。これを受けて、政府は市場開放や国営企業の民営化といった経済改革に着手しており、それによって経済の活性化を成し遂げられるかが鍵となりそうだ。

これまでエチオピアでは、近隣国や民族などの様々な利害が絡み合い、争いが長く続いたことで不安定な情勢が続いていた。

しかし、そのような状況の中で就任したアビー首相は、ほとんど改革が施されてこなかった既存の政治体制や経済に関して、新たな方向へと舵を切った。

その第一歩として、長年問題とされてきたオロモ問題の緩和やエリトリアとの和平が次々と実現させているアビー首相は、まさにエチオピア国民にとって大きな希望であるといえる。

一方で、エチオピアにはまだまだ多くの課題が残っている。アビー首相は国民の大きな期待に応えて救世主となれるのか。よりよい国と地域の実現に向けたさらなる変革を今後も期待したい。【9月27日 Yutaro Yamazaki氏 GNV】
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もちろん現地ではいろんな評価、問題があるのでしょうが、日ごろ暗いニュース、陰惨なニュース、刺々しい対立のニュースが多い国際面にあって、珍しく明るい、希望が持てるエチオピア・アビー首相の改革に関する話題です。

これまで、遠くて時間がかかるアフリカはエジプト以外は行ったことがありませんが、来年あたりエチオピア観光というのも「あり」かも。日本からは中東乗り換えで、一番近いアフリカでしょう。興味深い観光資源がいろいろあるようです。

なお、「アフリカの北朝鮮」ことエリトリアも今でも観光できるようです。エチオピアとの関係が改善して直行便も飛び、旅行者が増えれば、これからは今以上に旅行しやすくなるのかも。(エリトリアの観光資源は・・・・知りませんが)

コメント
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