孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

既存の発想・ルールを軽々と飛び越える「中国らしさ」 危うさと同時にパワーも

2018-10-19 22:36:00 | 中国

(画像は【2017年7月19日 Gigazine】 2017年にロシアが打ち上げた衛星「Mayak」で、三角錐状の帆を広げて太陽光を反射するもの。目的は「人々の興味を宇宙に引きつけること」とか。帆の面積は16平方メートルの極めて小さなものですが、それでも天文観測への悪影響が問題となりました。)

【「照明衛星」で太陽光を反射し、街灯の代わりに都市部を照らす?】
世界にはいろいろな懸念される問題は多々あるのですが、あまりにも“ぶっ飛んだ”計画の迫力圧倒されて、中国の話題。

****中国が「人工月」打ち上げへ 街灯代わり、電気代節約に****
中国が2020年までに、照明用の人工衛星、いわば「人工の月」を打ち上げ、街灯の代わりに都市部を照らし、電気代を削減する計画であることが分かった。国営メディアが19日、報じた。
 
国営英字紙チャイナ・デーリーによると、南西部四川省成都市が開発中の「照明衛星」は本物の月と共に輝き、ただその光は本物よりも8倍明るいという。
 
プロジェクトの担当責任者によると、この世界初の人工月は2020年までに同省の西昌衛星発射センターから打ち上げられる計画で、この第1号の試験運用が成功すれば、2022年に追加で3機を打ち上げる予定だという。
 
この人工月は太陽光を反射し、街灯の代わりに都市部を照らす。これにより50平方キロの範囲がカバーされれば、成都市の電気代を年間12億元(約200億円)節約できる見通しだという。
 
同責任者は、災害で停電が発生した際にも、この衛星からの光が被災地の救助活動に役立つとしている。【10月19日】
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中国では、“道路をまたぐバス”とか、とんでもない計画がしばしば話題になりますので、今回の「照明衛星」の現実性については・・・・わかりません。

ただ、一企業ではなく、成都市が開発しているということであれば、実現するかどうかは別にしても、“本気”なのかも。

いずれにしても、この発想の大胆さというか“ぶっ飛び”加減には圧倒されます。いろいろ問題はあるにせよ、今の日本には見られないエネルギーを感じます。

“問題”については、人工照明の健康への影響が議論されているようです。

****人工の月」 2020年までに中国で宇宙に打ち上げの意向****
(中略)この「人工の月」は、その大きさと明るさによって、中国の他の都市からだけではなく、他の国でも夜空に見ることが可能になるとみられている。

同市政府はまた、空に浮かぶ「第2の月」によって、観光客を引きつけることができると考えている。

成都市では、テストが数年前に開始され、現時点では技術開発と設計作業が既に完了したと指摘されているものの、衛星打ち上げの正確な日程は今のところ不明のままだ。

それと同時に、一連の学者らは、人工衛星が中国の人々の健康に影響を及ぼすのではないかと懸念している。つまり、このような夜間の光が同市住民の「エピジェネティック時計(寿命を予言する老化のバイオマーカー)」に否定的影響を与える可能性があると予想されているのだ。

だが、ハルビン工業大学の教授は、人工衛星の明るさが夕暮れ時とほぼ同じようなものになるため、この明るさは健康に影響を及ぼさないと保証している。

同紙はまた、ロシアが1999年、宇宙ステーション「ミール」に大きさが25メートルの鏡を設置しようと試み、この鏡が太陽光を反射させるはずだったことに言及している。しかし、この計画は故障が原因で中止された。【10月18日 Sputnik】
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日本からも見えるのでしょうか?
確かに、実現したら私も成都に行ってみたいと思います。(今年7月に乗り継ぎで宿泊した成都には、「三星堆博物館」を見学するという宿題もありますので、近いうちに再訪する予定です。2020年に打ち上げという話なら、それに合わせて・・・)

「エピジェネティック時計」云々はわかりませんが、やがては「照明」ではなく、SFドラマに出てくるような都市ごと焼き払う「大量破壊兵器」に転用されることはないのか・・・という不安も。(ロシアも以前計画していたという話になると、ますます「民生用」ではなく「軍事用」を最終目的としているのでは・・・との邪推も起きます)

日本なら、「エピジェネティック時計」云々を含めて(人間以外にも、農作物や家畜への影響もあるでしょう)、不特定多数に強制的に影響が及ぶこの種の計画が本気で議論されることはないでしょう。

それは日本の“良識”ではありますが、時代を変えるのは“良識”ではなく、「照明衛星」のような“狂気”なのかも。

直径500mの世界最大の電波望遠鏡 問題はあるものの・・・
中国の“ぶっ飛んだ”エネルギーが実際に実現させたもののひとつに、500mという世界最大の直径を持つ電波望遠鏡がありますが、こちらは運用面で苦労しているようです。

****世界最大の電波望遠鏡に難題、入手情報多すぎ改善せねば単なるごみに****
中国新聞社など中国メディアは(9月)26日、貴州省の山間部に建設され2016年9月に稼働を開始した世界最大の直径を持つ電波望遠鏡「五百米口径球面射電望遠鏡(通称FAST、Five-hundred-meter Aperture Spherical radio Telescope)について、情報処理の能力を大幅に向上させないと、このままでは「データがごみでしかない」状態になるとして、関係者の奮起に期待する記事を掲載した。

FASTは山間部のくぼ地に固定された電波望遠鏡で、それまで世界最大だったアレシボ天文台の直径300メートルをはるかに凌駕する500メートルの直径を持つ。

超大型の電波望遠鏡建造で、大きな問題になるのが望遠鏡自身の重さだ。望遠鏡の角度を変えると重量のかかりかたが変化して望遠鏡全体がたわんでしまう。そのために電波を正確に集められなくなる。

アレシボ天文台の電波望遠鏡は、望遠鏡をくぼ地に固定することで重量の問題を解決した。望遠鏡の角度は変えられないので天空の極めて限られた場所しか観測できないが、精度を向上させることができる。FASTも同様の構造だ。

FASTには「天眼」という愛称もある。2018年9月の報道によると稼働開始以来、59のパルサー候補を発見し、うち44個は新発見のパルサーであることを確認したという。(中略)

FASTは理論上、137億光年先で発生した電波も観測する性能を持つとされる。(中略)つまり、FASTは大宇宙の草創期の様子も探れる可能性を持つことになる。

しかしここにきて、FASTの能力を十分に利用するためには、情報処理能力の大幅な向上が必要であることが重視されるようになったという。

貴州師範大学の謝暁堯副学長によると、FASTは現在、1秒間当たり38ギガバイト、1日当たりでは96ペタバイト(1ペタバイト=100万ギガバイト)の情報を収集している。情報処理により96ペタバイトは10〜15ペタバイトに減らせるが、それにしてもこれだけ大量の情報を必要に応じたタイミングで処理できないのでは「データのごみ」を持っているだけになってしまうという。

FASTが収集する情報は今後30年間で10エクサバイト(=1万ペタバイト)を超えることになる。これだけの量の情報を処理するには、情報技術の刷新が大きな課題という。

ただし、貴州省側では、FASTの十全な活用のための「難問解決」の困難さを承知の上で、地元の発展のために大いに役立てることが可能との見方が出ている。

省政府は、省都である貴陽市に国家スーパーコンピューターセンターと科学データセンターを建設する動きに着手したという。

これまで中国南西部の山間部という条件により発展が遅れた貴州の地だが、人材の育成と招聘に力を入れ技術刷新のためのあ努力を重ねれば、省としてビッグデータ関連の技術を向上させ、関連産業も育成できるとの考えだ。

なお、電波望遠鏡の重量問題について、日本では野辺山天文台の電波望遠鏡で、重量の影響を前提に、「計算通りにきちんとたわむ」ように設計するという、いかにも「日本らしい技」で、同じ大きさの電波望遠鏡としては極めて優秀な性能を持たせることに成功したことがある。

現在は、日本が主導し台湾、米国、カナダ、欧州各国、チリが参加してチリのアタカマ砂漠で進められているアルマ望遠鏡の国際共同プロジェクトが、132.8光年先に酸素が存在することを確認するなど成果を上げ続けている。

アルマ望遠鏡は比較的小型で移動可能な電波望遠鏡を最大直径16キロメートルの範囲で配置する方式で、各望遠鏡からの情報を総合することで直径16キロメートルの電波望遠鏡に匹敵する能力を得ることができる。【9月26日 レコードチャイナ】
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貴州省にも観光予定がありますので、「照明衛星」を見物に成都に行った際に、一緒に隣の貴州省の「五百米口径球面射電望遠鏡」も見てみたいものですが、見学というか近寄ることは許されているのでしょうか?一帯は立ち入り禁止でしょうか?

情報処理能力はまさに日進月歩の世の中ですから、その方面の問題はやがてクリアされるのでは・・・と、素人は簡単に考えてしまいます。どうでしょうか。

「計算通りにきちんとたわむ」ように設計するというは確かに「日本らしい技」ですが、力任せに500m直径の巨大電波望遠鏡を実際に作ってしまい、問題があれば後から対応するというのも「中国らしさ」です。

この「中国らしさ」は、洗練はされていませんが、新しい世界を開くようなパワーを秘めていることも。

既存のルールを軽々と飛び越える危うい「中国らしさ」】
ただ、この「中国らしさ」は、遺伝子操作など生命倫理に関係する分野になると、看過できない問題も生じてきます。

****チャイナスタンダード)ゲノム治療、規制より速さ がん臨床研究、米に先行****
「インドから来ている患者がいる。会ってみるか」
7月上旬、中国沿海部の浙江省にある杭州市腫瘤(しゅりゅう)医院。院長の呉式シュウ(54)の紹介で、病棟の3階に案内された。(中略)

この病院では、世界に先駆けて新しいがん治療の臨床研究が進む。ゲノム編集技術「クリスパー・キャス9(ナイン)」を用いて患者の血液に含まれる細胞の遺伝子を操作し、免疫の力でがん細胞をたたく方法だ。

末期の食道がんで治療法がなくなったサワールは、知人のつてをたどり、最後の希望を求めて中国にやってきた。
 
狙った遺伝子を効率良く編集できるキャス9は、この数年で研究現場に急速に浸透。「ノーベル賞候補」との声が上がる。研究レベルでは、生まれつき身が多い魚や筋肉量を増やしたブタ、ヒトの遺伝性難病を発症するサルを誕生させるなど、様々な成果につながっている。
 
ただ、人体への応用は未知数だ。うまく行けば、がん治療に革命を起こす可能性を秘めるが、現時点で安全性や効果が確かめられたわけではない。予期せぬ遺伝子の改変が起こる恐れもあり、欧米の専門家から「慎重になるべきだ」との指摘が相次ぐ。

サワールは「他に方法はない。これが最善だと信じている」と、か細い声で話した。
 
米国立保健研究所(NIH)によると、患者にキャス9を使う臨床研究は世界で十数例の計画があり、ほとんどが中国の医療機関だ。

先行した米ペンシルベニア大は、2年前に米食品医薬品局(FDA)に許可を申請。審査に時間がかかり、ようやく今年になって認められ、患者の募集が始まった。

ルールの差が、米中のスピードの違いを生んだ。呉によると、中国では国の審査を受ける必要はなく、病院内の検討だけで実施に踏み切った。審査に要したのはわずか3週間だ。
 
昨春以降、呉は30人以上の患者を手がけた。いずれも末期の患者で、効果はまだ判然としない。それでも呉に迷いはない。「時間をかければ患者は死ぬ。大切なのは同意だ」
     ◇
中国は、医療や生命科学分野で「2020年までに先進国に並び、一部で先導する」とする国家目標を掲げる。実力とスピードを備えた大国の台頭は、欧米中心だった医療研究の基準や倫理観を揺さぶっている。【8月17日 朝日】
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****チャイナスタンダード)中国の研究、生命倫理に波紋 技術・人材、旺盛に取り込み****
「その研究、うちでやりませんか」
今年1月、中国の製薬関連企業の顧問を名乗る中国人男性が、東京慈恵会医大のある教授を訪ねた。きっかけは、教授の研究チームが専門誌に発表した一本の論文だ。
 
マウスとラットを使った実験で、体内に移植した腎臓の元になる細胞から健康な腎臓を「再生」できた。今後、ブタと慢性腎不全患者の細胞を組み合わせ、患者の体内で健康な腎臓を再生する臨床研究を目指す。(中略)

接触してきた中国人男性は、教授の研究が人工透析に頼らない治療法につながると目を付けた。根幹となる技術の提供を求めた上で、「患者が多く豊富な知見や経験を得られる」「行政と企業から資金援助がある」などと共同研究する利点を並べた。

患者で試す臨床研究をすぐに始められるとして、こう口説いた。「中国の方が日本より規制がゆるい」
 
日本でこの再生医療の臨床研究をするには、国の審査に時間がかかる。この教授は「5年かかるかもしれない」と話す。移植するブタの細胞には、ヒトの健康を脅かすウイルスなどが含まれている恐れがあり、慎重な検査も欠かせない。
 
一方で、教授は「治療を待ち望んでいる患者さんは多い。1、2年以内に1例目をやりたい」。中国との共同研究を決めたわけではないが、「熱意に心が揺れた」と打ち明けた。

 ■資金を集中、急成長
米国立科学財団(NSF)のデータを元にした分析によると、中国の医薬品産業の規模はここ十数年で急激に拡大。2016年は約1185億ドル(約13兆円)と、01年の10倍近くに増えた。
 
日本の科学技術振興機構・北京事務所長の茶山秀一は「(生命科学分野は)変化のスピードが速く、少し先んじることが大きな成果につながる。人材も資金も集中的にかけられる中国にとって、主導権を取るにはちょうどいい分野だ」と話す。
 
海外から優秀な人材を引き抜く動きも目立つ。(中略)

中国の研究姿勢も急成長に関係している。上海のある中国人研究者は「まずはやってみる。注文が付いたら、そのときどうするかを考える。それが中国式だ」と語った。

 ■国際基準作り、主導狙う
2015年、中国の科学者のある試みが、世界を驚かせた。
 
ゲノム編集技術を用いて世界で初めてヒトの受精卵を編集したことを専門誌に発表。法令などで禁じられていたわけではないが、「生命の萌芽(ほうが)」である受精卵を対象にしたことが、欧米の研究倫理を揺さぶった。望み通りの能力や容姿をもつ「デザイナーベビー」に一歩近づく動きだからだ。(中略)

この動きは、米国で新たなルール作りの動きにつながった。米科学アカデミーは17年、遺伝性疾患の治療目的に限って受精卵をゲノム編集することを容認すると発表。条件付きで治療への応用に道を開いた。
 
中国は、国際ルール作りにも関与を深めようとしている。今年6月、北京で開かれた再生医療分野の国際標準(ISO規格)を決める国際会議。出席した日本の関係者は「中国の覇権への序章だ」と語った。(中略)
 
そんな中国の攻勢に、日本の関係者は「中国は当初、他国から軽くあしらわれているような扱いだったが、最近の勢いにはついて行けない。日本も対抗できる人材を育てていかないといけない」と危機感を募らせる。
 
中国では今年、国際標準作りに取り組むことを盛り込んだ改正標準化法が施行された。特許政策に詳しい清華大准教授の梁正(43)は「国際競争や企業同士の協力が進む中で、製品の規格が同じでないと商売にならない」と意義を強調する。

情報通信や生命科学分野の規格作りで、中国が主導権を握る可能性が高いと予測した。
 
■<解説>ルール逸脱ないか、注視を
米国の科学界が気に掛けているのは、中国の研究開発費だ。科学分野全体で見ると、官民合わせた総額で、今年にも米国を抜いて世界一になるとする分析がある。総論文数では、米国を追い越した。米中が研究でしのぎを削る「2強」時代が来るという見方が強い。(中略)
 
中国で進むゲノム編集の臨床応用などは、先進国が積み上げてきた既存のルールを軽々と飛び越える危うさをはらむ。

命に直結する医療分野では、安全や安心がないがしろにされてはならない。欧米と協力して中国を同じ土俵に引き込むよう働きかけていくべきだ。
 
中国の台頭は脅威だけではない。共同研究や人材交流などを通じて日本の競争力を高める好機にもなる。相手の姿勢を慎重に見極めつつ、相互利益につなげるしたたかさが求められる。【8月17日 朝日】
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問題はあるにしても、結局のところ、“先進国が積み上げてきた既存のルールを軽々と飛び越える”中国流が今後の世界をリードしていくような感があります。

高齢者と接して思うのは、老いることの最大の特徴は新しいことを試みる気力を失うことです。
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