孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

タイ  来年2月“予定”の総選挙をめぐり、各政党の動きも動きも加速

2018-10-14 21:17:22 | 東南アジア

(支持率が急上昇し、台風の目に躍り出た新党「新未来党」のタナトーン党首(左から3人目)【8月21日 SankeiBiz】)

【「どうせまた延期だ」との声も
軍事政権からの民政復帰をはたすタイ総選挙は、“一応”来年2月24日実施の“予定”とはされていますが、これまで軍事政権側の都合でたびたび延期されてきただけに、「どうせまた延期だ」との声も。

****どうせまた延期だ」タイ総選挙、くすぶる懸念 軍政、何度も約束ほごに****
軍事政権が2014年5月から続くタイで、民政復帰に向けた総選挙のカウントダウンが始まった。選挙に必要な関連法が12日に公布され、政党の政治活動も一部解禁されたためだ。

軍政は来年2~5月に総選挙を実施すると明言しているが、政権の延命を図ろうと何度も約束をほごにしてきており、再延期の懸念もくすぶっている。
 
総選挙を行うには、選挙関連の4法が全て施行されることが必要。最後まで残っていた下院選挙法は12日に公布され、90日後の12月中旬に施行される。憲法の規定により、その150日以内には総選挙が実施される運びだ。
 
タイで総選挙が実現すれば、インラック前政権が発足した11年7月以来となる。軍政は14日、同政権を倒した14年5月のクーデター以降、禁止していた政党による政治活動の一部を解禁。5人以上の政治集会はできないが、党員勧誘などは可能になった。
 
プラユット暫定首相は「来年2月24日」を候補日に挙げ、来年2~5月には総選挙を実施すると繰り返し約束している。だが「どうせまた延期だ」といぶかる声は多く、タイ政治の専門家は「(プラユット氏の続投を目指す)親軍政党はまだ選挙に勝てる勢力になっていない」と解説する。
 
軍政と対立するタクシン元首相派のタイ貢献党は、人口の多い農民や貧困層に根強い人気があり、いま選挙を行えば第1党になると有力視されている。軍政は政権維持のため、同党などから有力候補者を親軍政党に引き抜きたい考えだが、思うように進んでいないのが実情だ。
 
さらに、プラユット氏は「総選挙は国王の戴冠式後になる」と説明している。国を挙げた祝賀行事の戴冠式は入念な準備が必要となるが、日程は明らかになっていない。外交関係者は「戴冠式の日程次第では、総選挙の実施が延期される可能性もある」とみている。【9月17日 西日本】
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要するに、軍部の意向を反映した勢力の選挙準備が整い、勝てる見通しがたつまで、戴冠式などを理由にいくらでも延期できる・・・という話です。

ただ、12月中旬に下院選挙法が施行されると、憲法規定に従って実施期限が切られますので、延期するならそれまでに・・・ということにもなります。

民政移管後も首相続投に意欲をみせるプラユット暫定首相 親軍部政党へのテコ入れで支持拡大を狙う
プラユット暫定首相は民政復帰後も親軍部政党の支持を背景に首相続投を希望しています。先に承認された新憲法でそうした道も開けています。

****<タイ>プラユット暫定首相、続投に意欲 民政移管後****
タイ軍事政権のプラユット暫定首相は24日、「すべての国民と同様に国を愛しているので政治に関心がある」と記者団に述べた。来年に予定される総選挙で民政に復帰した後も続投することに初めて公の場で意欲を示した。

2014年のクーデターで暫定首相に就任した元陸軍司令官のプラユット氏は、政治的な立場をこれまで表明することを避けてきた。
 
17年4月に公布された新憲法は、民政復帰後5年間は「移行期間」と定め、国軍の政治への影響力は維持されている。国会議員でなくても、首相に就くことができる。このため「プラユット氏は総選挙後も続投を目指している」と指摘されていた。
 
今月発表された複数の世論調査で、プラユット氏は「首相候補」のトップに立っている。国立開発行政大学院の調査によると、プラユット氏の支持率は徐々に低下しているが29%。支持政党のトップは、軍政と対立するタクシン元首相派のタイ貢献党で28%だった。【9月24日 毎日】
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プラユット暫定首相は社会秩序・治安の安定などで、まだ一定の人気を維持していますが、親軍部勢力による政権継続を望んでいるか・・・という話になると、また別問題かも。

****総選挙見据え****
6月下旬に国立ラチャパット大学スワンドゥシット校が実施した世論調査では全国1105人が回答した。支持政党(複数選択可)を表す「関心がある政党」は、タクシン派政党のタイ貢献党が55%を占めてダントツの首位だった。

次いで、自動車関連企業のタイ・サミット・グループ元副社長のタナートン・チュンルンルアンキット氏が率いる新政党「新未来党」が34.2%で2位に入った。

3位は、タイで現存する最古の政党「民主党」で33.9%。タイ国民の力党は12.6%にとどまった。発足して約4カ月がたつが、親軍政党の支持率は一向に振るわない。
 
一方で、総選挙後もプラユット氏に首相に就いてもらいたいと考えている人はいまなお多い。国立開発行政研究所(NIDA)が継続して実施している世論調査でも、5月末時点で約40%の有権者が同氏を推すなど、「続投」を期待する声はバンコク首都圏を中心に圧倒的多数を誇る。

デモ行進を指揮した結果としてタクシン派政権を倒した民主党のアピシット党首が、元首相という知名度を持ちながら10%台前半と低迷しているのとは対照的だ。
 
プラユット内閣は政策面でも高い評価を得ている。NIDAが毎年行っている「内閣の仕事ぶり調査」でも8割前後の有権者が「非常に良い」や「良い」と回答。暫定政権発足後、一貫して高い数値を保っている。

皮肉にも、軍政となってデモや集会の禁止、賄賂の取り締まり強化など一定の治安秩序が維持されている点が評価されているとみられる。
 
ただし、総選挙後も軍が前面に出てくるとなると話は別だ。プラユット氏を評価しながらも、親軍政党のタイ国民の力党が支持を得られない点にも軍政が広く敬遠されていることがうかがえる。【8月21日 SankeiBiz】
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プラユット暫定首相の受け皿としての親軍部政党のかなめが、上記記事では支持が広がっていないとされる「国民国家の力党」で、政権閣僚から4人も参加し、また、他党からの議員引き抜きによるテコ入れが行われています。

*****タイ親軍政党、要職に閣僚 プラユット暫定首相、続投に布石か****
軍事政権が続くタイで29日、親軍とされる新政党・国民国家の力党が初めての党大会を開き、党首や幹事長などの要職に、プラユット暫定首相が率いる現政権の4人の閣僚が就いた。軍政が来年2月から5月の間に実施するとしている総選挙後に、プラユット氏を続投させることを目指すとみられている。
 
この日、首都バンコク近郊で開かれた大会では党首にウッタマ工業相、幹事長にソンティラット商務相を、副党首と報道官にも現職の閣僚を選んだ。
 
タイでは2006年に当時のタクシン政権が、14年にはタクシン元首相派の政権が軍事クーデターで覆された。だが、農村や都市の貧困層を中心にタクシン派への支持は根強く、最近の世論調査でもタクシン派のタイ貢献党が政党支持で1位を保っている。
 
国民国家の力党は支持率で2位につけているが、総選挙に向けてタクシン派の元議員らを中心に、引き抜きを図っているとされる。
 
一方、プラユット氏自身も24日、「政治に関心がある」と述べ、続投に意欲を示した。ウッタマ氏はこの日、プラユット氏を首相に推すのかについて「党員の意思による」と明言を避けたが、党と現政権が事実上、一体となって総選挙を戦う構えとみられる。
 
ただ、タクシン派の切り崩しも「思うようには進んでいない」(元議員)との指摘もあり、プラユット氏の続投の見通しが立たない場合には、治安問題など何らかの理由をつけて、軍政が総選挙を先送りする可能性も指摘されている。【9月30日 朝日】
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今日報じられた下記記事では、政党支持率はタクシン派「貢献党」が1位、次いで親軍部政党の「国民国家の力党」となっていますが、この記事で紹介されている調査では親軍部政党の数字もそこそこはあります。この数字を軍政側がどう判断するかで選挙実施が左右されます。

(前出の6月下旬に国立ラチャパット大学スワンドゥシット校が実施した世論調査は複数回答ですが、いずれにしても途上国・新興国における世論調査の精度は、日本におけるそれとは区別する必要があるでしょう)

タクシン・反タクシンの不毛の対立からの脱却を主張する新興勢力「新未来党」は台風の目になるか?】
****タイ各党、民政復帰へ動き急=総選挙にらみ主導権争い****
2014年5月のクーデターで軍が実権を掌握してから4年5カ月が経過したタイで、民政復帰のための総選挙に向け、各党が活動を活発化させている。

軍事政権が9月、クーデター後に禁止した政党の政治活動を一部解禁したのを受け、各党は党大会や集会を開き、政権担当能力をアピール。主導権争いを演じている。
 
国立開発行政大学院の世論調査では、軍政と対立するタクシン元首相派のタイ貢献党が支持率28.8%でトップ。党の支柱のタクシン氏と妹のインラック前首相が国外に逃亡したが、東北部や北部の農村で圧倒的な支持を維持している。プムタム幹事長代行は「われわれが第1党になる。民主主義を支持する他党と協力する」と語る。
 
支持率20.6%の新党、国民国家の力党は、軍出身のプラユット暫定首相の続投を目指す。軍政の現職閣僚4人を幹部に起用。党首のウッタマ工業相は「持続的開発へ強固な基礎を築いた」と軍政の功績を強調した。

貢献党と2大政党の一角を担ってきた支持率19.6%の民主党のアピシット元首相は「民主主義体制の復活と非民主的な法律の改正」に意欲を示す。
 
台風の目となっているのは、支持率15.5%で4位につける新党の新未来党だ。財界から政界に転じた39歳のタナトーン党首が結成。政治への軍の影響力の排除を訴え、タクシン派と軍や民主党の政争に不満を抱く若い世代の支持を集める。タナトーン党首は「首相になる用意はあるが、目的は権力奪取ではなく国家改革」と強調する。【10月14日 時事】
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若者の支持を集める新興勢力「新未来党」は、前出のように6月下旬に国立ラチャパット大学スワンドゥシット校が実施した世論調査では第2位に食い込んでいます。

****タイ暫定首相人気も親軍政党支持低下 タクシン派首位、新党が台風の目**** 
(中略)
若年層が後押し
(支持がなかなか広がらない親軍政政党に)代わって注目を集めているのが、新政党法の施行後に発足した新未来党で、タナートン党首は積極的に地方回りを続けている。

タナートン氏は39歳。裕福な華僑の家に生まれ家業を継いだが、気さくな人柄や社会貢献活動が評価され、主に若い世代から慕われている。政界への進出を決めたことで、一気に台風の目として躍り出た。
 
バンコク首都圏にある名門タマサート大学のキャンパス。ここで6月14日に開催された政治フォーラムにタナートン氏の姿があった。

「エーク、エーク」とニックネームがこだまする中、登壇したタナートン氏は「クーデターはもうこりごりだ。自分たちのことはわれわれ自身が決めよう」と訴え、拍手を浴びた。

「(デモ行進には)行き過ぎた点があった」などと弁明に終始した民主党のアピシット党首とは好対照に映った。フォーラムには既存の有力政治家やタイ貢献党の幹部らも参加したが、反応は今ひとつだった。
 
ただ、タクシン元首相の出身地である北部地方や最大の人口をかかえる東北部地方では、タイ貢献党への支持が多数派を占める。

長い間、政治的に顧みられなかったこれら貧しい地方の人々が、タクシン時代に「30バーツ医療制度」などで政治に目覚め、投票権を行使するようになった流れは現在も衰えていない。国内に貧富の差が深くある限り、地方は独自の論理を持って存続しようとしている。
 
総選挙の実施まで、早くてあと半年あまり。民政復帰も間近となった。永続的な軍による支配が懸念される中、ここに来てタイの政治はプレーヤーが入れ替わり、軍、タクシン派、若い世代の三つどもえの様相を呈し始めている。【8月21日 SankeiBiz】
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埋没の危険もある老舗政党「民主党」 選挙後の親軍部勢力との連立も視野に
“プレーヤーが入れ替わり、軍、タクシン派、若い世代の三つどもえの様相を呈し始めている”・・・ということでは困るのが、老舗の「民主党」。支持基盤であるバンコクなどの中間層の票を新興勢力「新未来党」にさらわれると苦しい展開にもなります。

アピシット党首は、親軍部政党との連立の可能性にも言及しています。

****民主党 総選挙後に親軍部政党と連立政権の可能性を示唆****
タイで最も長い歴史を誇る政党、民主党では10月8日に党首選が始まったが、続投を目指すアピシット党首の発言から来年の総選挙後に民主党が親軍部の政党と連立政権を組む可能性が出てきたとの指摘が出ている。

関係筋によれば、次期総選挙では新軍部政党躍進の可能性があることから、親軍部の政党の独走を阻止すべく民主党が政権に参加することも考えられるとのことだ。

なお、政党のスタンスについては、パランプラチャラット党など3党が親軍部、民主党など4党が中道、タクシン派のタイ貢献党など5党が反軍部とされている。【10月10日 バンコク週報】
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タイにとって岐路となる重要な選挙
まだ選挙実施も定かではない段階ですが、もし実施されれば、「選挙には強い」と定評があるタクシン派「貢献党」が、軍政の弾圧に抗してどこまで議席を獲得できるか、親軍部政党「国民国家の力党」がプラユット氏続投を支えられる議席を獲得できるのか、新興勢力「新未来党」が実際にも台風の目になるのか、老舗政党「民主党」が埋没を避けらるか・・・非常に興味深い選挙にはなりそうです。

もちろん、結果次第で疑似軍政継続か、あるいはタクシン元首相復権に道が開けるか、タクシン・反タクシンの「不毛の争い」の出口が見いだされるか・・・タイにとっては岐路となる重要な選挙です。

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