孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

EU  ポピュリズム台頭の流れで価値観の変質が内部進行

2018-10-20 22:55:16 | 欧州情勢

(「利益の多元的反映か、一元的集約か」「専門知への信頼か、民意の反映か」を軸にポピュリズム、多元主義、エリート主義を図式化すると(古賀准教授作成)【10月17日 GLOBE+】)

北欧 新政権樹立が難航するスウェーデン
イギリスのEU離脱は予想されたように難航しています。

ただ、どういう形にしろイギリスが離脱することはEUにとって重大な問題であるにしても、もともとイギリスはユーロにもシェンゲン協定にも参加していない傍流の立場にあった国ですから、また、離脱後もお互いに必要としている関係で、“それなり”の関係は維持できるでしょうから、その意味ではEUにとって致命的と言うほどのものでもないでしょう。

イギリスの問題よりEUにとって重大ななのは、EU内部における価値観の違いが、特に移民・難民問題への対応を契機に、極右・ポピュリズム勢力の台頭という形で表れて、求心力を失いつつあることではないでしょうか。

欧州民主主義を代表する国家であった北欧・スウェーデンでは、先の総選挙における反移民・極右「スウェーデン民主党」の台頭によって中道右派・左派の双方とも多数派を形成できず、新政権樹立が難航しています。

****宙づり議会のスウェーデン、中道右派党首が政権樹立断念****
9月9日の総選挙を受けて過半数を制する勢力がない「ハングパーラメント(宙づり議会)」となっているスウェーデンで、中道右派連合「アライアンス」の最大政党である穏健党のクリステルソン党首が14日、政権樹立を断念すると表明した。

十分な支持が得られなかったと説明し、首相を選ぶ権限を議長に返上した。

総選挙ではクリステルソン氏率いるアライアンスも、社会民主労働党などの中道左派勢力も過半数を獲得できず、いずれの勢力も反移民を掲げるスウェーデン民主党との連立は否定している。(後略)【10月15日 ロイター】
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南欧 イタリア・ポピュリズム政権の移民・難民対応と財政規律問題
南欧・イタリアにあっては、すでに極右「同盟」とポピュリズム「五つ星運動」の政権が誕生していますが、移民・難民対応や財政再建問題で独仏などのEU主流国との不協和音が広がっています。

****移民積極受け入れの村、イタリア内務省が全員の移送命令 国内で怒りの声****
移民問題に揺れるイタリアで、地元活性化のために移民らの積極的な受け入れで注目を浴びてきた村に対し、内務省が移民全員の村外移送を命じたことが明らかになった。

極右政党「同盟」を率いるマッテオ・サルビーニ内相はこの村をモデルとした事業を問題視していた。国内では14日、野党などから一斉に反発の声が上がった。
 
命令が出されたのは南部カラブリア州のリアーチェ村。これまで、イタリアでの移民や難民の統合をめぐり議論の中心となってきた。
 
移送は当初は強制的なものとされていたが、地元メディアによると内務省関係者は後に「自由意志に基づく移動だ」と修正した。ただし、村に残る移民らは今後「受け入れ制度による恩恵」にあずかれなくなるという。
 
数十年にわたって人口減少が続いているリア―チェは、再生を図るために移民を受け入れることを決め、世界中で大きく報じられた。
 
しかし、今年6月にジュゼッペ・コンテ政権の内相に就任したサルビーニ氏は、リア―チェに触発された事業を削減し、移民らを大規模な収容施設に集めたい意向を示してきた。
 
今月には、移民にとって利益になるように制度を悪用したとしてリア―チェのドメニコ・ルカーノ村長が逮捕されていた。
 
内務省の措置には非難の声が上がっている。野党・民主党のエンリコ・レッタ元首相は「恥を知れ。これはイタリアではない!」とツイッターに投稿。イタリア全国パルチザン協会も「サルビーニを止めろ! 見て見ぬふりをしてはいけない」と呼び掛けた。【10月15日 AFP】
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リアーチェ村は“人口約1700人のうち約600人が中東やアフリカなどからの移民。移民や難民申請者に住宅を提供し、国の補助金を原資に村内で使える地域通貨を印刷して配るなど、衣食住を支えてきた。”【10月15日 朝日】とのことですが、その国からの補助金の使途が問題視されています。

具体的には、難民は支援協会が借り上げた空き家に住みながら、刺繍や陶芸など学び工房で働くことで、地域の伝統工芸復興に一役買っているといった形で、昨今の大量難民問題以前かのずっと前から取り組んできた対応のようです。

もちろん、すべてがうまくいっている訳でもなく、地元住民との軋轢・トラブルもあるでしょう。
7,8年前のTV番組でドメニコ氏は、「私たちは夢の楽園を作ろうとしているわけではない。こうした事例も可能だという、小さな希望を示しているに過ぎない」とも語っていました。

この共存に向けた“小さな希望”も、共存を否定する反移民「同盟」のサルビーニ内相には、許しがたいものに思えるようです。

来年度予算案では、財政規律をめぐってEUとの軋轢が強まっています。

****EU イタリア政府の予算案は「財政規律守らずルール違反****
(中略)イタリア政府が今月15日にEUに提出した来年の予算案には、失業者などに日本円にして月額10万円余りの所得を保障する制度の導入などが盛り込まれ、財政赤字は、GDP=国内総生産の2.4%となる見通しとなっています。

予算案の審査を行うEUのモスコビシ委員は18日、イタリアのローマで記者会見を開いてイタリアのトリア経済財務相に書簡を手渡したことを明らかにし、「公的な支出を増やすイタリア政府の選択は、ヨーロッパ各国にとって不安材料だ」と述べて強い懸念を示しました。

書簡では、イタリア政府の予算案が支出を大幅に拡大させるもので、GDPのおよそ130%に当たる巨額の債務の削減にはつながらず、財政規律の順守を義務づけたEUの協定に対する深刻なルール違反だと指摘しています。
そのうえで、今月22日までに見解を示すよう求めています。

イタリアの財政の先行きには金融市場でも懸念が出ていますが、EUに懐疑的な立場をとるイタリアの現政権は、これまで繰り返し予算案を見直さない方針を示していて、今後の対応が注目されます。【10月19日 NHK】
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各国の予算案がEUによって審査されるというのも、そうした枠組みとは無縁の日本からすれば馴染みのないもので、EU統合の進み具合を示すものとも言えますし、同時に、各国の“自国第一主義”からすれば不当な主権侵害ともなるところでしょう。

もっとも、現在のところEUには国家予算を左右する実質的決定権はないようです。

****来春に制裁発動か****
欧州委がイタリアの予算案を拒否した場合、イタリア政府は予算案の見直しが必要になる。

しかしイタリアが見直しを拒否すると、欧州委はイタリア政府に対する制裁措置に向けた手続きを開始せざるを得なくなる。制裁措置の判断は通常、最終的なデータの入手が可能になる4月以降となることから、春以前の発動はないだろう。
 
制裁措置では基準に抵触した国に罰金を科すことが可能だ。
 
しかしイタリア政府は、フランスが9年間にわたって財政規律に違反しながら制裁手続きを免れたことを承知している。スペインとポルトガルも2016年に財政赤字が基準を超えたが罰金を免れた。
 
これまでに制裁手続きに基づいて罰金を科された国はない。【10月4日 ロイター】
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ただ、イタリア財政が破綻すればギリシャ危機どころではない壊滅的な事態ともなりますので、こうしたイタリアの動向に市場は敏感に反応します。

“反エスタブリッシュメント政党「五つ星運動」を率いるディマイオ氏は、「われわれは市場に注意を払っているが、(イタリア国債利回りの対独連邦債)スプレッドとイタリア国民という選択肢なら、イタリア国民の方を選ぶ」と述べた。”【10月5日 ロイター】とのことですが、市場の反応によってイタリア財政が行き詰まれば、国民生活が破綻するという問題であり、「市場より国民を選ぶ」云々は、いかにもポピュリスト的言い様でもあります。

東欧 強権主義的ポーランド・ハンガリーへの圧力を強めるEU
EUのUにとってさらに深刻なのは、これまでも取り上げてきた中東欧、とりわけハンガリー・ポーランドの真っ向から西欧民主主義を否定するような政治動向です。

****EU、ポーランド提訴、ハンガリーにも制裁手続き****
欧州連合(EU)の欧州委員会は24日、ポーランドが施行した最高裁判所に関する新法について、司法の独立を侵害するとしてEU司法裁判所に提訴することを決めた。

EUは今月、EUの基本理念に違反したとしてハンガリーへの制裁手続きにも動き出した。東欧2カ国の現政権による強権政治が大きな懸念となる中、相次ぐ措置で是正への圧力を高める狙いだ。
 
欧州委によると、ポーランドの新法は4月に施行され、同国の最高裁判事の定年を70歳から65歳に引き下げる内容。現職判事約70人のうち最高裁トップを含む約3分の1以上が退職を迫られることになった。
 
ポーランドの保守系政権与党「法と正義」は近年、裁判官人事への権限拡大など司法介入を強める改革を推進。EUは「法の支配」を脅かすとして、昨年末にはEUの政策決定に対する同国の議決権の停止もできる制裁手続きを始めた。
 
ポーランドは新法について裁判所の効率化などが目的と主張するが、欧州委は一連の改革と同様に「司法の独立の原則を損なう」との立場。EU司法裁には新法の効力を停止させる仮処分も求めた。
 
ハンガリーに対しては欧州議会が12日、表現の自由や人権の保護など、EUが定める基本的価値をめぐり違反があるとして、ポーランド同様に制裁手続き開始を求める提案を採択した。
 
ハンガリーではこれまでオルバン首相がメディア統制を強めたり、不法移民や難民の支援を犯罪化したりし、EUで批判を受けてきた。「脅しに屈しない」と対決姿勢のオルバン氏に対し、ユンケル欧州委員長も制裁手続きは「発動する必要がある」と強調した。
 
ただ、EUの対処にも難点がある。議決権停止の制裁には対象国を除く加盟国の全会一致の決定が必要だが、ポーランドとハンガリーは互いに発動を阻止する構え。チェコやブルガリアも反対だ。

東欧はEUの移民・難民受け入れ政策を拒否してEUと対立しているだけに、対応次第ではその溝が一層深まりかねない。【9月25日 産経】
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ハンガリーの問題については、4月15日ブログ「ハンガリーでオルバン与党圧勝 進む民主主義解体 欧州に感染拡大する“オルバン主義ウイルス”」や6月28日ブログ「アメリカと世界を暗黒面に引きずり込むトランプ米大統領 世界各地に“ミニ・トランプ”も」などでも取り上げてきましたので、今回はパスします。

ただ、ハンガリーに対する政治的制裁手続きを開始する決議案採択において、“欧州議会は声明で、民主主義の尊重、法の支配、人権といったEUの基本的価値観の「全体に及ぶ脅威を阻止するため、一つの加盟国に対して」行動を取るよう残る加盟国に呼び掛けた。また、今回の採決の元となった報告書は、司法の独立、汚職、表現の自由、学問の自由、宗教の自由、少数民族と難民の権利に懸念を表明している。”【9月13日 AFP】ということになると、そうした異質な国(オルバン首相はロシア、中国、トルコの名あげて「非リベラル国家」を目指すと明言しています)をEU内に抱えることの是非にもなるように、部外者には思えます。

なお、ポーランドやハンガリーはEU補助金における最大の「受益国」でもあります。

ポピュリズム政治の危険性
アメリカ・トランプ大統領の存在によって加速している欧州各国におけるポピュリズムの流れについては、そもそも民主主義とはポピュリズムではないのか?という疑問もあります。そのあたりにつては、以下のようにも。

****選挙で勝てばすべて決められる」と考えるポピュリズム 抑制するシステムはあるか****
ポピュリズムを「民主主義ならではの現象」「民意を反映する手段」ととらえ、一定の評価を与える見方は少なくない。

しかし、オーストリア政治を中心とした比較政治を専門とする中央大学の古賀光生准教授は、ポピュリズム政治が持つ危険性を明確に指摘する。(中略)

――ポピュリズムとはどのような概念なのでしょうか。

「ポピュリズムを一つの思想としてとらえることができるとすると、二つの特徴があるように思います。一つは、『人々が決める』『投票で決める』という点です。もう一つは、物事を決めるうえで『民意』というものが一枚岩で決まっていると考える点です」

「投票重視の点で見ると、その反対側にあるのが『投票以外の要素もあるんだ』という考え方で、立憲主義はその例です。

議会で多数を得ても、それを拒絶する憲法裁判所などの制度が整えられている。選挙で選ばれたわけではない人が政策決定に強くかかわるという面では、ある種のエリート主義の面を持っています。

一方で、多数決だけでは侵害し得ない領域をしっかりと確保することによって、少数者の保護が可能になる。『憲法裁判所で否決されるような法案はそもそもつくらない』となって、議会の好き勝手な活動を抑止することにもなる。

その意味で、ハンガリーのポピュリスト政権が憲法裁判所の権限を弱めようとするのは、まさに象徴的な出来事でした」

「ポピュリズムと立憲主義との違いは、例えば中央銀行の金融政策をどうするかという議論にも表れています。『それは、投票では決められない』と考えるのが大陸ヨーロッパの規範です。専門知に対する信頼性に基づいてのことですが、ポピュリズムの考え方だと『選挙で勝った勢力が総裁の首をすげ替えて勝手にしていいのだ』となる」

「ポピュリズムは『みんなの利益はある程度決まっているのだからそれを実現すればいいでしょう』との立場を取り、選挙や住民投票でその代表的な意見を決めようとします。

投票で勝てば、一枚岩のみんなの利益を我々が代表することになる。それを推し進めることこそが民主主義だ。そんな考え方ですね。

選挙で勝った我々がすべてを決めてこそ民主的だ、というわけですが、そこからは『人々の意見は多様だ』という意識が抜けています」

■「民意は多元」の考え方
「その対極にあるのは、『民意とは多元的なのだ』という考え方で、多元的だからみんなで話し合いましょう、という姿勢です。(中略)

――ポピュリズムについては、「民主主義と表裏一体」「民主主義ならではの現象」といった見方が少なくありません。

「『ポピュリズムは民主主義そのものだ』といった誤解が広がっているのでは、と危惧します。それは、得票が一番多い人が勝ちで、一番の人は何をしてもいい、といった主張になりかねません。

でも、それだけが民主主義の要素ではない。投票で決めることは大事ですが、投票だけですべて決めていいわけでもないのです。『民主主義イコール多数決』ではない、というところをしっかり認識する必要があると思います

。投票ばかり重視すると、デモクラシーの足場が失われてしまう。現代民主主義は、投票と投票以外の部分のバランスで成り立っているのです」

■「民主主義=多数決」ではない
「投票で決める部分が多いほど、ポピュリストは勢力を拡大します。逆に、投票だけでは決められないという部分がちゃんと制度に埋め込まれている国だと、選挙でポピュリストが勝っても、その後で規制ができる。

具体的には、例えば最初から過半数を取る政党が現れにくい比例代表制、つまり『投票はするけどそこですべてきめるのではない』制度だと、ポピュリストが完全に権力を掌握するケースは少ないのです。

ポピュリズムと対置する概念は『立憲主義』ですが、こうした制度は立憲主義に立脚しています」(中略)

■抑制する仕組みはあるか
「ポピュリズムに、民主主義の不備を警告する機能があるのは、確かです。例えばフランスの場合、大統領選の決選投票でマリーヌ・ルペンが30%以上取って衝撃を与えたわけですが、当選はしないのです。

あるいは、仮に彼女が権力を握っても議会が仕事をさせない。そういう制度が整っていれば、ポピュリズムは『民主主義への警告』として機能します」

「一方で、トランプみたいに権力を掌握してしまったり、さらにハンガリーのオルバン政権のように3分の2を取って、しかも制度的なブレーキがアメリカのようには利かない国だったりすると、ポピュリズムが警告にとどまらない恐れがあります。(中略)

「極右的な思想を持っている人たちが権力を握りうる社会的なムードが高まり、それを制御する仕組みもないような状況にあると、『ポピュリズムは警告だ』などと言っていられない。

ワイマール共和国からナチスの独裁まで行ってしまった例もあります。ブレーキが何重にもかかっている時とそうでない時とで、ポピュリズムへの身構え方も変わってくると思います」(後略)【10月17日 古賀光生氏 GLOBE+】
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