孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ブラジル  右も左も汚職疑惑のなかで10月に大統領選挙 劣悪な治安 先行き不透明な経済回復

2018-03-28 23:54:05 | ラテンアメリカ

(ルラ元大統領不出馬なら一番人気に躍り出る過激な発言で「ブラジルのトランプ」と異名をとる元軍人の右派、ボウソナロ下院議員 画像は【1月25日 南米ニュース】 昨今は、どこの国でもこの手合いが人気です)

一番人気のルラ元大統領が10月の大統領選に出馬できる可能性は“原則”なくなった
ブラジルでは今年10月に大統領選挙が行われますが、経済状況の改善がなかなか進まないこと、治安の悪化も相変わらず、さらには自身の汚職疑惑もあって、超不人気(支持率6%)のテメル大統領は不出馬をすでに表明しています。

現在、国民的人気が最も高いのが、在任中に圧倒的な高支持率を誇ったルラ元大統領ですが、収賄等の罪によって控訴審で有罪判決を受けており、憲法規定によれば立候補はでないことになります。

****ルラ氏の出馬、原則不可能に=収賄で有罪、異議却下―ブラジル大統領選****
ブラジル南部ポルトアレグレの連邦地裁は26日、在任中の収賄とマネーロンダリング(資金洗浄)の罪により、同地裁で審理された二審で禁錮12年1月の有罪判決を受けたルラ元大統領(72)の異議申し立てを却下した。

憲法の補足法は二審で有罪となった被告は8年間被選挙権を失うと規定しており、ルラ被告が10月の大統領選に出馬できる可能性は原則なくなった。
 
ルラ被告は上訴する方針で、ツイッターで改めて無罪を主張。「今ほど大統領選の候補者になりたいと思ったことはない」と述べ、8月15日に締め切られる立候補に強い意欲を示した。

出馬可否の最終判断は中央選管に当たる「選挙最高裁」に委ねられる。【3月27日 時事】 
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ルラ元大統領は、2003年から2010年までの大統領任期中、ブラジル政界全体を汚職疑惑に巻き込んでいる国営石油会社ペトロブラスによる公共事業委託と引き換えに、地場建設大手のOASから海岸沿いにある3階建てマンションを受け取った罪に問われています。賄賂総額は370万レアル(約1億3000万円)とか。
ルラ氏は無実を主張しています。

“ブラジルの法律では控訴審で有罪判決を受けると、立候補できなくなるが、上級審や選挙裁判所が判断を覆す可能性も残る。”【1月25日 毎日】 “規定をめぐっては異なる法解釈があり・・・”【2月22日 産経】ということで、立候補が認められる可能性はないことはないようです。

もし、立候補が認められれば、ルラ氏は第1回投票を1位で通過し、上位2人による決選投票で小差で勝つとみられています。

なお、動画配信サイト「ネットフリックス」でブラジルの大規模汚職をモデルにした“メカニズム”という作品が公開されており、ブラジルでも波紋がひろがっているようです。


****ブラジルで「ネットフリックス削除せよ」の動き、政治ドラマが物議****
ドラマは「卑劣で、でたらめばかりだ」とルセフ前大統領

ブラジルはネットフリックスが最も成功している海外市場の一つ

フェイスブックのアカウントを削除するよう呼び掛ける動きが世界で広がっているが、ブラジルでは、ネット動画配信の米ネットフリックスが物議を醸している。
  
小規模ながらも声高な「#DeleteNetflix(ネットフリックスを削除せよ)」キャンペーンがツイッター上で展開されており、元ユーザーらがアカウント閉鎖の証拠を投稿している。

きっかけは、数年間にわたり実際に行われた汚職捜査に基づくフィクションのドラマ「ザ・メカニズム」が23日にネットフリックスで配信開始となったことだ。ブラジルはネットフリックスが最も成功している海外市場の一つ。
  
2016年の弾劾裁判で罷免されたブラジルのルセフ前大統領は、このドラマは「卑劣で、でたらめばかりだ」と批判した。

また著名な映画批評家のパブロ・ビラサ氏は、このドラマ配信の決定は「無責任」だとし、6年使用していたネットフリックスの視聴契約を解約したと明かした上で、他の人々にも解約を呼び掛けた。

ブラジル国内メディアはこの騒動で沸き立っている。ドラマを制作したジョゼ・パジーリャ監督は、批判している人々は細部にこだわり過ぎで、全体像を見失っていると述べた。
  
ドラマで最も大きな論争の対象となっている場面の一つは、ルラ元大統領に似た政治家が、汚職捜査が進むのを阻むための合意について語るところだ。

ブラジルでは10月に大統領選と議員の大半が改選となる連邦議会選が予定されており、世論調査ではルラ元大統領が首位を走っている。
  
ブラジルの控訴裁判所は1月、収賄などでルラ元大統領に有罪判決を言い渡した下級審の判断を支持する決定を下し、刑期を12年余りに延長した。

これに対する元大統領の不服申し立ては26日に退けられた。今後は最高裁判所が元大統領を収監するかどうか判断し、決定は元大統領が選挙で果たす役割に影響する。
  
今回の動きが番組や視聴率、契約者データに与える影響についてネットフリックスにコメントを求めたが、現時点で返答はない。【3月28日 bloomberg】
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作品の中で、ルラ元大統領をモデルにした政治家が「最高裁さえ味方につければ良いんだ」と語っているとか。これにルセフ前大統領が怒り心頭とも.
もちろん、ルセフ前大統領をモデルにした人物も登場しますが、「ここで描かれていることは全てデタラメだ」と抗議しているそうです。

このブログをアップしたら、さっそく“メカニズム”を観てみましょう。

ルラ不出馬なら、「ブラジルのトランプ」に勝機も
最有力候補のルラ氏がやっぱり立候補できないとなると、注目されるのが“過激な発言で「ブラジルのトランプ」と異名をとる元軍人の右派、ボウソナロ下院議員”だとか。

****ブラジル−本命のルラ氏追う「トランプ」に脚光****
10月に大統領選が実施されるブラジルでは、返り咲きを目指し、本命候補とされていたルラ元大統領(72)が汚職事件の2審で有罪判決を受け、先行きが不透明となり始めた。

その中で注目を集めているのが、過激な発言で「ブラジルのトランプ」と異名をとる元軍人の右派、ボウソナロ下院議員(62)だ。
 
世論調査会社「ダタ・フォーリャ」が1月末に実施した支持率調査では、有罪判決を受けたばかりのルラ氏が34%でトップ。大きく離されながらもボウソナロ氏は16%で続いてみせた。
 
軍事政権時代(1964〜85年)に軍人だったボウソナロ氏は「治安が良かった」などと同時代を称賛。中国に経済的依存を強める左派政権を批判し、台湾との関係を重視する。
 
女性議員への侮辱的な発言などで物議を醸す一方、ソーシャルメディアでの情報発信を得意とし、フェイスブックのフォロワーは520万人超に上る。

トランプ米大統領との類似点もあって人気を集めるボウソナロ氏だが、勝機を見いだせるのはルラ氏が出馬しないという条件下だ。(後略)【2月22日 産経】
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その“勝機”が大きくなってきたようです。

****<ブラジル大統領選>「トランプ」浮上 元軍人、支持率2位****
(中略)14年から捜査が続くブラジル史上最悪の汚職事件では、ルラ氏以外にも多くの政治家が有罪判決を受けている。ボウソナロ氏は若者を中心する政治家への不信感をくみ取り、支持を広げてきた。
 
また、周辺国などから幅広く移民を受け入れ、社会保障を提供してきた左派政権の政策を批判。ソーシャルメディアを通じた発信で人気を集めてきた点もトランプ米大統領と似ていると指摘される。
 
左翼活動家らの拷問や弾圧を続けた軍事政権(1964〜85年)時代に軍人だったボルソナロ氏は「厳罰に処するしかない。怠け者を刑務所にぶち込むのだ」と当時の強権政治を擁護。さらに左派政権のもとで治安が悪化したとして、国家権力で秩序を回復すると強調する。
 
(中略)一方、ボウソナロ氏の過激な発言には批判的な市民も多い。政治学者のアンドレ・セザル氏は地元メディアに「ルラ氏が嫌だからボウソナロ氏を支持する人も多く、ルラ氏が出馬できなければ他の候補を選択肢とするだろう。これ以上、ボウソナロ氏に票が集中するとは考えにくい」と指摘している。【1月25日 毎日】
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殺人犠牲者 1時間当たり7人! 治安当局の過剰暴力への懸念も
“国家権力で秩序を回復すると強調する”ボウソナロ氏に人気が集まるのは、ブラジルの圧倒的な治安の悪さのためです。

****昨年の殺害人数、最悪の6万人余=1時間当たり7人―ブラジル****
ブラジルのNGO「ブラジル治安フォーラム」は30日、同国で昨年殺害された人が前年比2749人増の6万1619人に達したと発表した。同団体が統計の発表を開始した2007年以後で最悪の数字。1時間当たり7人が殺されていることになる。
 
ブラジルでは、深刻な経済危機などの影響で凶悪事件が頻発。同団体のデリマ代表は「毎年(長崎クラスの)原爆を落とされているに等しい死者数であり、到底受け入れがたい」と訴えた。【2017年10月31日 時事】 
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1時間当たり7人、1日当たりでは169人の殺人犠牲者・・・・日本的な感覚では理解しがたい数字です。

日本の場合、人口動態調査における他殺者数は、2016年の場合、年間で289人、1日当たりで0.8人ですから比較になりません。(もっとも、日本も昔からこんなに少なかった訳でもなく、1955年は2119人でした。そこをピークに右肩下がりに減少しています)

あまりの治安の悪さに、リオデジャネイロ州では治安権限が全面的に軍に移管されています。

****ブラジル大統領、リオ州の治安権限を軍に全面移管****
ブラジルのミシェル・テメル大統領は16日、リオデジャネイロ州の治安権限を全面的に軍に移管する内容の大統領令に署名した。犯罪組織による暴力が激化し、対策に伴う危険が増す中での措置。
 
リオ州のファベーラ(貧民街)ではすでにパトロールに軍が投入されているが、今回の大統領令により同州における治安作戦の全権が移管される。

同国は20年にわたり軍事政権が続いた後、1985年に民政復帰しており、軍が州警察よりも強い治安権限を持つのは同年以降初めて。
 
テメル氏は、同州が事実上、組織犯罪集団の支配下にあると指摘。「必要に迫られたため、このような極めて強硬な措置を取る」と説明している。大統領令は10日以内に議会の承認を得る見通し。【2月17日 AFP】
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もっとも、そうなると今度は軍による暴力や「超法規的殺人」も懸念されるのではないでしょうか。前出「ブラジルのトランプ」ボウソナロ氏は、フィリピンのドゥテルテ大統領の路線を行くのでしょうか。

現在は、ファベーラ(貧民街)における“警察の過剰な暴力”が問題ともされています。

****人権派市議、暗殺される=リオ****
ブラジル・リオデジャネイロで14日夜、気鋭の人権派女性市議マリエリ・フランコ氏が乗った車が銃撃を受け、同氏と運転手が死亡した。事件を受け、リオとサンパウロなどでは15日に暴力のまん延に抗議するデモが行われた。
 
フランコ氏はファベーラ(スラム街)出身で左派政党に所属。黒人や女性の人権状況改善に取り組む政治家で、最近はファベーラでの警察の過剰な暴力行使を厳しく批判していた。【3月16日 時事】 
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“フランコさんはレズビアンの黒人女性で、白人男性が大多数を占めるリオの政界で際立った存在だった。リオの貧困層の権利向上に力を入れ、特に最近は黒人が多いリオの貧困地区における警察の過剰な暴力を真っ向から批判していた。”【3月16日 AFP】

【「史上最悪の経済危機」は改善の兆しも しかし、国民に痛みを伴う改革が実現できなければ・・・・
一方、「史上最悪の経済危機」とも言われていた経済情勢の方は、ようやく改善の兆しも出てきているようです。

****ブラジル、3年ぶりプラス成長 農業好調、資源価格回復で****
ブラジル政府が1日発表した2017年の実質国内総生産(GDP)は前年比で1.0%増と、3年ぶりのプラス成長となった。

好調な農業や資源価格の回復に支えられ、12年ごろからの資源バブル崩壊による経済低迷に底打ちの兆しが見えた。

もっとも、不安定な農業や金融政策頼みの側面が強く、財政などの構造改革を進めなければ成長持続はおぼつかない。
 
記録的な豊作に恵まれ農業生産が13%増と好調だったほか、資源価格の回復で主要産業の鉱業が復調した。自動車産業をはじめとする製造業や家計消費もそれぞれ持ち直し、建設部門や政府支出の減少を補った。
 
かつてブラジル経済は中国やインドと並ぶ「BRICS」の一角として期待されたが、資源バブルの崩壊により主要輸出品である鉄鉱石や石油の価格が下落。歴代左派政権がばらまきに傾倒し、構造改革を怠ったツケもあり、投資減少や失業率の上昇など「史上最悪の経済危機」(テメル大統領)を経験した。
 
17年にプラス成長に転じたとはいえ、今後も成長を持続できると見るのは早計だ。民間シンクタンク、ジェトゥリオ・バルガス財団のシルビア・マットス氏は「豊作の影響を取り除けば、成長率は0.4%程度だった」と分析。

1%増となった家計消費の回復も、中央銀行が政策金利を史上最低水準に引き下げたことによるもので、「中間層の消費意欲の復調は感じられない」(日系食品メーカー)。1月の失業率も依然として12.2%と高水準が続く。
 
それにもかかわらず、政府の危機感は薄い。テメル政権は2月、麻薬組織の勢力拡大が深刻化するリオデジャネイロ州での治安対策を理由に、年金制度改革を棚上げする方針を明らかにした。
 
原則女性は55歳、男性は60歳で受給資格を得られるという手厚い年金制度は持続不可能で財政赤字の要因となっており、テメル政権の最重要課題となっていた。

しかし、自ら汚職問題を抱え、1桁の支持率が常態化したテメル氏に議会を動かす力はなくなりつつある。10月の議会・大統領選挙を前に、政界では国民に痛みを伴う改革を避ける空気が漂う。
 
格付け大手の米S&Pグローバルと英フィッチ・レーティングスは今年に入り、相次ぎブラジル国債を格下げした。ブラジルの金融大手イタウ・ウニバンコのマリオ・メスキダ筆頭エコノミストは「年金改革法案が成立しなければ、25年の経済成長率を0.2ポイント押し下げる」と警告する。
 
改革機運の後退が鮮明になれば、ブラジルの国債や社債に投じられた海外の資金が一気に引き揚げられるリスクがある。【3月1日 日経】
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テメル大統領は、超不人気で汚職疑惑まみれながらも、緊縮財政を進めるなど、経済運営は“それなり”の実績を示してきました。

しかし、ブラジルに限らず、選挙前には“バラマキ”はあっても、“国民に痛みを伴う改革”は無理でしょう。
ということは、ブラジル経済の低迷もまだ続く・・・ということでしょうか。

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