孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ドイツ  難航した連立交渉は何とか“大連立”で 不安程度を増すことが懸念されるドイツ政治

2018-03-01 22:16:55 | 欧州情勢

(19日、メルケル首相(左)とともにキリスト教民主同盟の幹部会議に出席する後継者候補と目されるクランプカレンバウアー氏(右)【2月21日 産経】 珍しくにこやかなメルケル首相ですが、ドイツ政治の今後はそれほど穏やかでもなさそうです。)

【「プランBなし」の状況で、難産の末、なんとか大連立成立の見通し
ドイツでは昨年9月の総選挙で、メルケル首相率いるキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)が第1党の座は守ったものの、寛容な移民対策への国民の不満も強く、大きく得票率を減らす結果となりました。

一方、それまでの連立参加で存在感が薄れた社会民主党は第2党の座は維持したものの、得票率は戦後最低を記録しました。

この結果を受けて、過半数に満たないキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)は連立交渉に入りましたが、協議は当初から難航が予想されていました。

****連立交渉、難航も=得票率下落で―メルケル独首相****
24日投開票のドイツ連邦議会(下院)選挙で、メルケル首相率いる保守系与党、キリスト教民主・社会同盟が勝利した。

首相は第4次政権樹立に向け、連立交渉を本格化させるが、民主・社会同盟は2013年の前回選挙から大幅に得票率を落としており、発言力低下は避けられない。連立候補となる党からの政策受け入れ要求も強まるとみられ、交渉は難航しそうだ。
 
「もっと良い結果を期待していた」。メルケル首相は25日、ベルリンでの記者会見で率直に語った。前回選挙が得票率40%を超える近年まれな圧勝だったとはいえ、今回はそこから約9ポイントも急落。首相の難民受け入れ政策を批判し、大躍進した新興右派政党「ドイツのための選択肢」(AfD)に支持者を100万人も奪われた。
 
現在の連立パートナー、中道左派・社会民主党は第2党の座を維持したが、得票率は約21%と戦後最低を記録。

これまでメルケル氏の陰で存在感を失った経緯があり、シュルツ党首は選挙結果判明後、連立解消方針を表明。「最大野党としての責任を果たす」考えを明確にした。メルケル氏は社民党にも連立協議を呼び掛けたが、連立継続は難しいのが現状だ。
 
民主・社会同盟は、第3党のAfDとの連立を既に拒否している。過半数を確保するには、大企業寄りの中道政党・自由民主党および環境政党「90年連合・緑の党」との3党連立しか現実的な選択肢が見当たらない。

ただ、緑の党はガソリン・ディーゼル車の30年以降の販売禁止など、踏み込んだ環境保護政策を求めており、特に自民党にはハードルが高い。【2017年9月25日 時事】
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その後の経緯は周知のように、予想通り連立交渉は難航。
当初、“大企業寄りの中道政党・自由民主党および環境政党「90年連合・緑の党」との3党連立”を目指しましたが、これに失敗。

結局、連立をしぶる中道左派・社会民主党を再び引っ張り出し、再度の大連立交渉へ。
社会民主党としても、連立交渉が行き詰まり再選挙となると、昨年9月よりさらにひどい結果も予想されているという事情もあって、連立に乗るしかない・・・との指導部の判断です。

しかし、これまでの大連立で党の独自性・存在感を失ったことへ、および連立交渉でポストを狙ったような指導部の動きへの党内の反発も強く、シュルツ氏が党首を辞任、党員による最終決定が大連立も支持するか・・・予断を許さない状況ともなっていました。

****ドイツ大連立、SPDの党員投票迫る 否決なら「プランBなし****
ドイツで大連立の是非を巡る社会民主党(SPD)の党員投票開始が20日に迫る中、SPDの次期党首に就任する見込みのアンドレア・ナーレス氏は、大連立が却下された場合の「プランBはない」と明言した。

メルケル首相が率いるキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)と第2党のSPDは先週、大連立で合意した。SPDの党員46万4000人は20日から、大連立を支持するかどうか郵送で投票する。

ナーレス氏は17日発売の週刊誌デア・シュピーゲルの記事で「過半数の支持が得られると確信している。プランBはない」と強調した。(後略)【2月19日 ロイター】
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長引く連立交渉は、ドイツ国内だけでなく、ドイツがけん引してきたEU全体にも大きな影響を与えてきましたが、EUとしては、なんとか大連立で政権が成立することを強く期待しています。

****盟主」マヒ、欧州動けず EU独大連立継続に期待感****
大連立をめぐりドイツ国内が揺れる一方、欧州連合(EU)やフランスなど加盟国は固唾をのんで安定政権実現の行方を見守っている。
 
「欧州の新たな飛躍に合致する」。EUのユンケル欧州委員長はドイツの連立協定をこう評し、フランスのルメール経済・財務相も「とても前向きな点が盛り込まれた」と歓迎。大連立継続に期待感を表した。
 
英国離脱や反EU勢力台頭など危機続きのEUも、昨年5月のマクロン仏大統領誕生で息を吹き返した。独総選挙後は、仏独が牽引(けんいん)してユーロ圏改革などEU強化の取り組みを急ぐ筋書きだった。

ただ、両輪のもう一方がつまずき、身動きがとりづらくなっていた。
 
独社民党が大連立にかじを切ったのは、周辺国の関係者らが安定政権への協力を強く働きかけたためでもある。シュルツ党首(当時)は理解取り付けのため、欧州への「責任」を強調。連立協定では欧州政策が真っ先に掲げられ、EUへの一段の貢献などがうたわれた。
 
「欧州の盟主」とも称されたドイツの政権不在は国際舞台での欧州の存在にも影を落とす。ドイツで今月開かれたミュンヘン安全保障会議は朝鮮半島や中東問題、中露の台頭など緊張する国際情勢を映し出したが、独週刊紙ツァイト(電子版)は議論を踏まえ、「ドイツがまひし、英国も離れ、欧州は脇で心配しながら意見する」状態と指摘した。
 
トランプ米政権と欧州の協調も不安視される中、メルケル氏は22日、「世界はドイツや欧州を待ってくれない。喫緊の課題に欧州として答えを出すことがかつてなく必要だ」と強調した。【2月26日 産経】
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大連立の可否を問う社会民主党(SPD)の党員投票の結果は3月4日に判明しますが、世論調査によれば、なんとか大連立でまとまるようです。「プランBはない」状況では仕方がない・・・といったところでしょう。

****独SPD投票者、半数強が大連立を支持=世論調査****
28日に公表された世論調査によると、ドイツの社会民主党(SPD)に票を投じた有権者のうち、半数強がメルケル首相率いるキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)との「大連立政権」の継続を支持した。

SPDの党員46万4000人は大連立合意に関する郵便投票を実施中。投票結果は4日に公表される。

調査会社ユーガブが独メディアグループRNDのために行った世論調査によると、SPD支持者(もしくは投票者)のうち「大連立政権」の継続に賛成した割合は56%だった。【3月1日 ロイター】
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メルケル首相の指導力低下 二大政党の「断末魔のもがき」】
なんとか、かんとか、大連立に持ち込めそうな状況になってきましたが、大連立は“ほかにはどうしようもない”という消去法の結果でもあります。

ここまでもつれた連立交渉は、ドイツ国内で圧倒的な信頼感を得て、EUにあっても指導力を誇ってきたメルケル首相の求心力低下を如実に示すことにもなりました。

また、右翼政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の党勢拡大などを受けて、従来の二大政党体制が行き詰まっていることをも示しています。

****チキンレースと化したドイツ連立交渉の妥結****
ドイツのキリスト教民主同盟(CDU)、キリスト教社会同盟(CSU)、社会民主党(SPD)の3党間で行われていた連立交渉が、7日妥結した。昨年9月の総選挙以来、実に4か月半にわたる長丁場の交渉だった。
 
途中、当初の目論見であったジャマイカ連立(CDU/CSU、緑の党、自由民主党による三党連立。党のシンボルカラーがジャマイカ国旗と同じであることからこう言われる)が頓挫し、CDUとSPDによる二大政党の連立交渉に舞台が移り、結局、これまでの大連立がまた繰り返されることになった。実にメルケル政権になってから3回目の大連立である。

大連立成立の最終決定は3月4日
大連立に関し、ブラント元首相は「性的倒錯者の異常行為」と評した。艶福家ブラントの面目躍如といったところだが、それほど大連立は「アブノーマル」である。

右と左の本来相容れない立場の二大政党が、それ以外成立の見込みがないという例外的な状況で、止むを得ず圧倒的多数の連立を形成する。民主主義の王道からすれば、本来あってはならない選択にちがいない。その大連立が4か月半の政治空白の後ふたたび実現することになった。(中略)
 
連立交渉の焦点となった「財務相ポスト」
連立合意では、労働者の短期雇用禁止、健康保険における公的保険と私的保険の間の均等負担、難民家族の受け入れ等に関し妥協が図られた。

大まかに言えば、SPDが労働、社会福祉で、CDUが治安、内政でそれぞれの立場を貫いた。
 
しかし、交渉の最終局面で、これらの実質内容は双方の関心事項ではなかった。焦点は、実質でなくポストだったのである。それも、一言でいえば財務相ポストを巡る攻防だった。

これまで財務相にはCDUの重鎮ショイブレが就いていた。さすがCDUのお目付役だけあって、ショイブレ財務相の眼鏡にかなわない政策はことごとく陽の目を見ることがなかった。

ユーロ危機の債務救済、EUに対する拠出、社会、労働政策における資金配分等、重要政策はショイブレ財務相が差配した。ドイツにおいて、財務相はそれほど強大な権限を持つ。
 
SPDはこれに目を付けた。いくら合意文書にきれいごとを並べても、実際は財務相ポストを誰が握るかで全てが決まる。SPDは財務相を含む外相、労働・社会相の三閣僚ポストを交渉成立の絶対条件としてCDUに強く迫った。
 
CDUが避けたかったのは再選挙である。連立交渉が決裂すれば少数政権を発足させるか再選挙しか道はなくなる。少数政権になっても、政権が立ち行かなくなれば再選挙しかない。

しかし、今の状況では再選挙での票の積み増しはない、というのが大方の見るところだ。何より連立交渉に二回も失敗すればメルケル首相は指導力を失墜し場合によっては退陣に追い込まれるかもしれない。メルケル首相にとり交渉妥結は至上命題だった。
 
事情はSPDも同じである。再選挙になれば史上最低となった前回の20.5%を更に割り込むことは必至である。従って、SPDも再選挙を避けたい。

交渉は、そういう中でのチキンレースだったのである。結局、6閣僚を獲得し勝者となったSPDは大きな獲物を手に入れた。財務相を握ったSPDは、EU政策、労働社会政策等の分野で独自色を出していくことが予想される。
 
その財務相にはオラフ・ショルツ、ハンブルク市長の名が挙がっている。ショルツ氏は2007年から2009年までメルケル政権下で労働・社会相を務め、年金支給年齢の引き上げを実現する等、党内改革派とされる。

その後、2011年、ハンブルク市議会選挙でSPDを勝利に導き、それまで10年間CDUの根城だったハンブルク市を奪還、市長に就任した。

「尊大」なショルツと称され、党内には、その偉ぶったところに反発する向きも少なくない。労働法の専門家で、謹厳実直、冷酷無比、感情を表に出さず、筋を通し、一度言ったことはがんとして曲げない。党内右派の財政通である。

今後のドイツ政治を占う3つのポイント
翻って、この4ヵ月半をどう考えるべきか。形の上では大連立という元の木阿弥に戻ることとなったが、しかし、この難航した交渉の過程でドイツ政治は大きく変貌した。
 
第一に、混乱の発端は2015年の難民政策である。メルケル首相は明らかにボタンを掛け違えた。メルケル首相は国民がこれほどまでに反発するとは思っていなかったに違いない。

今やヨーロッパ全土はポピュリズムの大きなうねりの中にある。ドイツはその例外かと思われたがそうではないことがはっきりした。

新たに野党第一党として議会進出を果たした「ドイツのための選択肢」(AfD)を前に、既存政党は厳しい対応を迫られざるを得まい。難民問題は今後のドイツ政治の大きな焦点である。
 
第二は、メルケル首相の指導力低下である。メルケル時代の終焉といってもいいかもしれない。選挙前は絶対的な強さを誇っていたメルケル首相は連立交渉の難航で指導力のもろさを露呈し、ある調査によれば、4年の任期を全うすることなく降板すべきだとする者が47%にも達した。

政治ウオッチャーの間でも今後4年間は持たないだろうと見る向きが少なくなく、その場合、前倒し総選挙の可能性も排除されない。

問題は、CDUに有力な後継者がいないことである。メルケル首相はこれまで有力と目されたライバルを次々と蹴落としてきた。

その結果、メルケル首相を継ぐ後継者が党内に見当たらないのである。次がいないから任期を全うする、というのもドイツにとっては不幸なことであろう。
 
第三は二大中道政党の弱体化である。今回の混乱を見ていると、二大政党の「断末魔のもがき」のような印象さえ受ける。もがいた結果、何とか大連立を組み、やっとのことで踏みとどまりはしたが、国民にはまた大連立かの感がぬぐえない。

実際、直近の調査では国民の6割が大連立に否定的である。結局、大きな流れは「ドイツ政治の小党分裂化」である。

しかし、二大政党が益々弱体化し小政党の分立という事態になれば、連立交渉はますます複雑化する。つまり、これまで無類の安定度を示してきたドイツ政治は、今後不安定度を増していかざるを得ない。

後から振り返って、今回の混乱はそういう不安定化の始まりであった、と評されることになるのかもしれない。【2月14日 WEDGE】
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右翼政党「ドイツのための選択肢」(AfD)が第2勢力へ
大連立ということになると、難民・移民政策で強硬な主張を持つ右翼政党「ドイツのための選択肢」(AfD)が野党第1党となり、議会運営において大きな力を得ることにもなります。その問題は、これから顕在化してくると思われます。

そのAfDは最近の世論調査では、支持率で社会民主党(SPD)を超えて第2位になっています。

****ドイツの右翼政党、世論調査で初の2位に 大連立影響も****
反難民を掲げるドイツの新興右翼政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が、19日に発表された政党支持率調査で初めて社会民主党(SPD)を抜き、第2党となった。政権入りなどをめぐって右往左往するSPDに、有権者が不信感を募らせているようだ。
 
世論調査会社インザによると、AfDの支持率が16・0%だったのに対し、SPDは15・5%にとどまった。AfDの支持率は、初めて連邦議会に議席を獲得した昨年9月の総選挙から徐々に上昇している。

一方、SPDは下落が続いていた。公共放送ARDが15日に発表した調査でも、SPDが過去最低を記録し、AfDが1ポイント差まで肉薄していた。AfDのワイデル議員団長は「我々はいまや国民政党だ」とツイッターでコメントした。(後略)【2月20日 朝日】
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後継者育成・世代交代を図るメルケル首相
“有力な後継者がいない”メルケル首相は、新党幹事長に女性の西部ザールラント州首相クランプカレンバウアー氏を起用、後継候補とする意向です。冷静な政治手腕で「ミニ・メルケル」とも称される人物とか。

また、閣僚に若手を起用することで、世代交代への動きも見られます。

****独首相批判派も入閣へ メルケル氏、党内融和図る****
ドイツのメルケル首相は25日、下院第2党の中道左派、社会民主党との新たな大連立政権が発足した場合、自身が率いる保守系、キリスト教民主同盟(CDU)から入閣する6人を発表した。

メルケル氏に批判的な保守派の若手、イェンス・シュパーン財務次官(37)を保健相に起用、党内融和を図る姿勢を示した。
 
このほかの人選では、フォンデアライエン国防相が留任し、アルトマイヤー官房長官が経済・エネルギー相に就く。シュパーン氏を含む新入閣の4人の年齢は40代以下となる。メルケル氏は25日の記者会見で「このチームで将来の課題に取り組む」と述べた。
 
CDU内では保守派を中心に党や政権の刷新・若返りを求める声が強まっていた。メルケル氏としては、保守派のホープとされるシュパーン氏の起用などを通じて党内の「反メルケル」派に配慮を示した格好だ。
 
CDUは26日、党大会を開催。連立協定を承認し、党ナンバー2となる新幹事長にアンネグレート・クランプカレンバウアー氏を正式に選出する。同氏はメルケル氏が現時点で後継候補として意中に置く人物と独メディアは伝えている。(後略)【2月26日 産経】
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後継者育成、若手起用でSPDとの大連立が安定軌道に乗るのか、AfDに振り回され、いよいよ二大政党時代が行き詰まり、不安定化へ向かうのか・・・・当然ながらドイツが混乱すれば、EUも失速します。トランプ大統領の暴走を制御するものがなくなることにも。
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