
(女性に対する暴力の根絶を訴えるデモにはスカートをはいて参加した男性 【2月26日 AFP】)
【スカート姿で女性の権利訴えた男性たちは「テロリスト」?】
トルコ・エルドアン大統領の「女性と男性を平等にはできない。自然の法則に反しているからだ」「私たちの宗教(イスラム教)は、(社会における)女性の地位を母親と定義している」といった、いかにもイスラム的な女性観については、2014年11月26日ブログ「トルコ・エルドアン大統領 イスラム色全開で長期政権を目指す」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20141126でも取り上げたことがあります。
そんなトルコでは女性が犠牲になる殺人事件が増加しており、その背景には上記のような女性の対等な権利を認めようとしない政治指導者の姿勢があるとの批判があります。
****女性殺しに「加担」するエルドアンの罪*****
性差別的な発言を繰り返す現政権 女性をおとしめる風潮が暴力を助長するとの批判が
トルコで殺害される女性が増えているのは、レジェップ・タイップ・エルドアン大統領のせい・・・そんな非難の声がある。
活動団体「女性殺害根絶プラットフォーム」のフィキリエ・ユルマズによれば、トルコでは昨年、女性が犠牲になった殺人事件数が過去最高水準に達した。被害者数は294人で、一昨年の214人からまたも増加した。
「政府は女性への暴力根絶の取り組みを何一つせず、エルドアンは女性殺害を招く発言をしている」と、ユルマズは憤る。
「彼らにとって女性は『二級市民』だ。家庭にとどまって何人も子供を産み、故国に労働力を提供すべき存在と見なしている。女性殺害がはびこる最大の原因は、権力者である男性が、女性も自己決定権を求めている事実を認めないことだ」
ユルマズが怒るのも無理はない。トルコでは先月中旬、19歳の女子大学生オズゲジヤン・アスランがバスで帰宅途中、レイプに抵抗して殺害される事件が起きた。遺体は数日後に、切断されて燃やされた状態で発見され、男3人が逮捕された。
この残忍な事件を受けて国内各地で抗議デモが行われ、さすがのエルドアンも「女性への暴力はトルコの傷だ」と遺憾の意を表明した。従来の彼の発言を考えれば、意外とも言える。
政府関係者が繰り返す女性差別的な発言が、暴力の直接的な引き金になっていると、ユルマズらは主張する。エルドアンは昨年11月、「女性と男性を平等の地位に置くことは自然の摂理に反する」と演説した。
介入したがらない警察
暴力増加の責任は、メディアや司法制度にもあるという。トルコで人気のテレビドラマには最近、女性2人を殺した犯人が歓待されるシーンが登場した。
「この国では法律と現実の間に大きな溝かある」と、イスタンブール在住の記者アレブ・スコットは指摘する。
いい例が05年に制定された法律だ。人口5万人以上の自治体は、家庭内暴力(DV)被害者の保護施設を最低1ヵ所開設すると定められ、計3000ヵ所以上の施設が誕生するはずだった。
だが国際人権団体アムネスティ・インターナショナルの調査によると、これまでに設立された施設はわずか90力所だ。
開設済みの施設も適切に運営されておらず、被害者が夫に連れ戻されたケースが何件もあると、スコットは言う。
「女性への暴力は家族内の問題であり、自然に解決するというのがトルコ社会の考え方だ。警察は積極的に介入しない」
それでも希望はある。アスランの殺害事件に対する抗議の嵐が示すように、女性の抑圧に反対する動きが広がっているからだ。「女性たちは暴力に対して沈黙したくないと思っている」と、ユルマズは言う。
与党・公正発展党(AKP)に所属するゼイネプ・カンデュルは先週、英BBCにこう語った。「女性の権利拡大のための法律が導入されている。男性が一家の長であるという法律規定も、今では廃止された。女性の地位は以前よりずっと向上していると思う」【3月17日号 Newsweek日本版】
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女性の権利が十分に認められておらず、性犯罪などが多発しているのはトルコだけではありませんし、女性どころか、人間の生命の価値すらないがしろにされているような国も珍しくありません。
そういう意味ではエルドアン大統領ひとりを責めるのは片手落ちの感もありますが、かつてはイスラム民主主義のモデルとも見られたトルコにあって、エルドアン大統領の姿勢が急速に保守化・イスラム化していく感はあります。
エルドアン大統領は自身の考えに同意しない人々の存在がいたく不愉快なようで、女性に対する暴力に抗議するデモにスカートをはいた男性が参加したことについても、「テロリスト」という言葉で批判しています。
****トルコ大統領、スカート姿で女性の権利訴えた男性たちを批判****
・・・デモのきっかけとなったのは、大学生のオズゲジャン・アスランさん(20)が性的暴行を目的としたバス運転手に殺害された事件で、市民の間に怒りが広がり、活動家らが主導する抗議デモがイスタンブールで行われた。
女性に対する暴力の根絶を訴えるデモにはスカートをはいた男性数十人が参加した。
エルドアン大統領は25日、テレビ放送された首都アンカラの大統領府からの演説のなかで「彼らは自らを『男』だと称しているが、どういった類の男なのか?男はズボンをはくものだ。なぜ彼らはスカートをはいているんだ?」と発言した。
またエルドアン大統領は、スカート姿の男性活動家たちを、トルコ政府が取り締まりを強化しようとしている暴力的な抗議デモの参加者たちと関連付けようとした。
「残念ながら、彼らはスカートをはいて自分たちの素性を隠せると思い込んでいる」と前置きし、「彼らはテロリストでありあらゆる手段を用いる。なぜマスクをつけるのか?テロリストでなければ顔を隠す必要はないはずだ」と発言した。【2月26日 AFP】
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スカートをはいた抗議がどうしてテロリストにつながるのかはわかりませんが、イスラム的価値観を破壊しようとしているということでしょうか。
【国内的には根強い人気・・・・その自信が強気な姿勢にも】
トルコ全体で言えば、エルドアン大統領、および与党・公正発展党(AKP)は、今も高い支持を得ています。
背景には、イスラム的価値観を重視する人々の存在とともに、エルドアン氏がトルコ経済を牽引してきた実績があります。
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AKP政権は、発足前年の2001年に起きた過去最悪の金融危機を終息させたのです。国際通貨基金(IMF)のスタンドバイ取り決めに基づく経済構造改革を地道に実行し、財政を健全化して高インフレも抑え込みました。政治、経済ともに安定して対内直接投資が増え、トルコ経済は年平均4.9%(2002~2013年)の高成長を遂げました。
もっとも評価が高いのは、国民一人当たりの所得を底上げしたことでしょう。2002年の3492ドルから、2013年には3倍増の1万807ドルとなりました。この間、トルコリラが対ドルで増価基調だったとはいえ、国民の購買力は大きく伸びました。
ゼロプロブレム外交も奏功し、中東アラブ諸国との経済関係が発展しました。2012年の中東アラブ諸国への輸出額は2002年の11倍、輸出額全体に占める割合は13.1%から32.8%に増えました。この間、トルコの輸出総額は4.2倍増にとどまっていますので、いかに中東アラブ諸国の比重が大きかったかよくわかると思います。【3月12日 伊藤 歩氏 東洋経済オンライン】
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そうした支持を背景に、昨年の大統領選挙では1回目の投票で過半数を獲得して勝利しました。
一方で、国民から支持されている自信から、強気の、権威主義的とも批判される姿勢を強めているとも言えます。
イスラム色を強め、権威主義とも言われるような支配体制を固めていくエルドアン大統領に対し、2013年5月~6月、イスタンブールのタクスィム広場付近の緑地再開発計画に反対する抗議活動が反エルドアン抗議に急速に拡大したように、世俗派や若者などからの批判もあります。
抗議行動に対する警察の強硬な対応が、そうした批判を更に強める形にもなっています。
****少年の死から1年の追悼デモ、警察が鎮圧図り衝突 トルコ****
トルコ・イスタンブールで11日、反政府デモ中に催涙ガス弾を頭部に受けた少年(当時15)の死から1年を迎えて行われた抗議行動に対し、警官隊が鎮圧に乗り出し、激しい衝突が起きた。
衝突が起きたのはイスタンブールのオクメイダヌ地区で、現場のAFPカメラマンによると、デモの参加者の一部が花火や火炎瓶を投げつけ、警官隊が放水や催涙ガスで応酬した。
この日のデモは、昨年3月11日に死亡したベルキン・エルバンくん(当時15)を追悼するため、エルバンくんの自宅があったオクメイダヌ地区で行われていた。
エルバンくんは、2013年6月のレジェプ・タイップ・エルドアン首相(当時)に対する抗議デモ中に頭部に催涙ガス弾を受け、269日間の昏睡状態の末に死亡した。【3月12日 AFP】
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【中東でも見向きもされなくなった「トルコ・モデル」】
こうしたエルドアン大統領のイスラム色を強める権威主義的な姿勢に対しては、欧米からは批判が強まっています。
また、ISを巡っては、アサド政権との対決姿勢と国内クルド人対策などもあってISへの姿勢をはっきりせていないことで、有志連合を率いるアメリカとの関係でも軋轢が生じています。
中東にあっても、トルコはかつての輝きを失っているようです。
****トルコが中東地域で孤立感を深める理由 イスラム国とトルコの複雑な関係****
――周辺諸国からの評価は?
トルコはドラマ輸出というソフトパワーも発揮してアラブ人視聴者の心をつかみ、トルコのシンクタンクが行ったアンケート調査では、2010年頃まで中東アラブ諸国で好感度ナンバーワンの国はトルコでした。
2011年に「アラブの春」が始まった当初は、EU加盟基準に調和する民主的な法体系の下で経済成長を遂げつつ、イスラム的価値観も大事にするAKP政権下のトルコを、民主化の「モデル」とみなす動きもありました。
しかし、「アラブの春」が変転するにつれて、「トルコ・モデル」は見向きもされなくなりました。
――それはなぜですか。
トルコがアサド政権打倒を掲げてシリア内戦に間接的に介入したことで、イスラム教の宗派対立に深入りしてしまったからです。
トルコには、アレヴィ―派というシーア派の異端とされる宗派を信じている人々がかなりの比率でいますし、少数ですがキリスト教徒やユダヤ教徒もいるので、決してスンニ派のみの国ではないのですが、AKP政権はスンニ派の反体制勢力に加担する形でシリア内戦に介入したのです。
アサド政権はシーア派の一派であるアラウィ派の政権です。アラウィ派はアレヴィー派とは別の宗派なのですが、アサド政権を支援するシーア派のイランやシーア派政党が政権を握るイラクとの関係が悪化しました。
エジプトではムスリム同胞団のムルシ政権を支持し、軍事クーデタで同政権を倒したシシ国防相(現大統領)を強く非難したため、エジプトとの関係も悪化しました。
ムスリム同胞団を危険視し、シシ大統領就任を歓迎したサウジをはじめとする湾岸王制諸国も、トルコの姿勢を快く思っていません。
――そうなると、経済への打撃も当然ある。
2012年に32.8%だった中東アラブ諸国向け輸出の比率は、2014年に28.6%まで縮小しました。陸路での主要輸出ルートだったシリア、イラクが内戦状態となり、トルコの輸出業者はルート確保に苦労しています。
イランへ迂回したり、イスラエルやエジプト、サウジアラビアまで船で運び、そこから陸送するなどの手段を取っていますが、輸送コストはかさむ一方です。
最大の貿易相手であるヨーロッパ諸国の経済低迷も長引いており、経済成長は2012年2.1%、2013年4.1%と減速しています。
「ゼロプロブレム外交」は「ゼロフレンド外交」と揶揄されるようになり、トルコは中東地域での孤立感を深めています。【3月12日 伊藤 歩氏 東洋経済オンライン】
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【暗殺を怯える権力者】
国内外に批判も抱えるエルドアン大統領ですが、最近奇異な言動も目立ちます。
巨費を投じて新築した大統領公邸の件は前回2014年11月26日ブログで取り上げましたが、こんな話も。
****すべての食事、「毒」検査 トルコの大統領、暗殺恐れ****
トルコのエルドアン大統領が暗殺を恐れ、国内だけでなく国外の訪問先でも、全ての食事を検査させていると同大統領の主治医が明らかにした。
首都アンカラの巨大公邸には、食品検査専用の施設を新たに設ける予定という。野党議員からは「被害妄想」との批判があがっている。
大統領の主治医ジェウデット・エルドル氏が、3日付のトルコ大手紙ヒュリエットで明らかにした。
記事によると、5人の専門家チームが、大統領に提供されるすべての食事や飲み物について、放射性物質、化学物質、重金属、細菌など、人体に有害な物質が含まれていないか検査しているという。
トルコでは過去、大統領の暗殺未遂が度々発生。エルドル医師は、「食品に毒を盛る手口は広く使われている」と説明している。【3月6日 朝日】
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エルドアン大統領が警戒しているのは、これまで登場したような世俗派や若者の国内批判とか、欧米・中東諸国との不和といった話ではなく、同じ保守派内で権力闘争を展開している「ギュレン派」の存在ではないでしょうか。
****「ギュレン派」との対立****
・・・・もう一つの背景は「ギュレン派」と呼ばれる親イスラム勢力との対立です。
エルドアンの公正発展党とギュレン派は、よりイスラム的価値を反映した政治を求めて共闘してきました。軍部の政治への介入を排除するという面でも、両者は協力関係にありました。
ところが公正発展党の10年以上にわたる政権下で既に軍部の政治的な影響力は失われてしまいました。また公正発展党だけで選挙に勝てる状況が明確になりましたので、エルドアンはギュレン派を必要としなくなったのです。
ギュレン派とはアメリカのペンシルバニア州で亡命生活を送るギュレン師と呼ばれる宗教指導者を慕う人々の総称です。イスラムと近代化の融合を目指す運動で、全世界的な規模で活動しています。
トルコ国内では多くの私塾を経営しています。またメディアにも影響力があるとされています。さらに司法当局に多くのシンパを送り込んでいると見られています。
昨年来のエルドアン周辺の汚職疑惑の暴露は、ギュレン派の仕掛けた政治的な攻勢であるとも見られています。
国民的な支持の高まりを背景にして、この時期にギュレン派の影響力を削ごうとエルドアンが動いており、その結果が強権的な手法につながっているとの解釈も可能ではないでしょうか。
国民の支持が続く限りエルドアンの強硬な手法が続きそうです。【1月7日 高橋和夫氏 THE PAGE】
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“すべての食事や飲み物について、放射性物質、化学物質、重金属、細菌など、人体に有害な物質が含まれていないか検査”・・・まるで中世の王様か中国の皇帝のようでもあります。
こうした疑心暗鬼が、反対派へのヒステリックなまでの強硬姿勢ともなるのでしょう。