
(2014年大晦日 ダマスカス近郊 2年続く停電のなかで、わずかな火で暖を取る住民 “flickr”より By euronews https://www.flickr.com/photos/euronews/16792422225/in/photolist-rzTy68-qD7g6D-rijabq-rirzC8-rija8Q-riiVu7-rzME7L-rzMysi-rik5D9-qCTMpb-rf1kXP-qvuwH4-raHrVm-rsgRPZ-rsbt6j-rsaePk-rsadUp-r8Xsrn-raGq2b-rsbqDA-rpYWi5-qvhec7-rsPwPw-ratGUe-rCgSVy-rCh6iZ-rA5ZPw-rCgSCQ-rezzVk-rkVFG4-rkVFCB-qFnTAS-rkNh9A-rj47nn-rBGnsa-qEFSGC-qDZCmU-rACj7C-rAikjK-qCi7kr-rydz9e-ry4sbe-rgszvo-rubNYN-rcD63p-rbdmob-rscEtR-qvd8fA-rrPWFR-quKqLb)
【国際社会で目立ち始めた「アサド政権との協力は不可欠」】
2011年の民主化要求運動「アラブの春」をきっかけに、シリアでアサド政権に対する大規模抗議デモが発生してから15日で4年が経過しました。
この間の内戦で、すでに21万人以上の死者が出ていますが、アサド政権に反体制派、ISやヌスラ戦線などイスラム過激派組織、更に最近存在感を増しているクルド人勢力を加えた多くの勢力が互いに争う複雑な展開となっています。
1月末には、アサド政権の後ろ盾であるロシアがアサド政権と一部反体制派を仲介し、モスクワで和平協議を開きましたが、反体制派の有力組織「シリア国民連合」はアサド体制の維持につながるとして協議に参加しませんでした。
2月には、国連が仲介する激戦地アレッポでの一時停戦案があり、アメリカもこれを支持していましたが、反体制派の反対などで頓挫しています。
****<シリア>一時停戦は頓挫…親欧米反体制が国連提案を拒否****
シリア北部アレッポの親欧米反体制派勢力は1日、デミストゥーラ国連事務総長特別代表(シリア問題担当)が提示したアレッポでの一時停戦案を拒絶する方針を明らかにした。
中東の衛星テレビ局アルジャジーラが報じた。アサド政権、反体制派の双方と緊張関係にある国際テロ組織アルカイダ系のヌスラ戦線も停戦には応じない構えで、一時停戦を本格和平の足掛かりにしようとしたデミストゥーラ氏の調停は、大きくつまずいた。(中略)
国民連合幹部は2月下旬にトルコでデミストゥーラ氏と会談。国民連合側は、ISやヌスラ戦線が停戦に応じないことを理由に、一時停戦案に難色を示したという。(中略)
デミストゥーラ氏は昨年7月に就任したが、これまでに目立った成果は上げていない。2月中旬にアサド大統領の続投を認めるような発言をしたため、反体制派から「アサド政権寄りだ」との反感を買っていた。【3月2日 毎日】
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こうしたなかで、アサド政権はイランが支援するヒズボラの本格参戦以降軍事的にも立ち直りをみせ、優位な戦いを進めていますが、特に、ISが台頭して以降は、これまでアサド政権を認めてこなかった欧米でも対ISのためにはアサド政権の存在が不可欠との認識も広がっています。
****アサド政権「容認」広まる=米欧、将来は政策転換も―シリア情勢****
シリアで過激組織「イスラム国」が活動する中、国際社会で「アサド政権との協力は不可欠」と考える意見が目立ってきた。
政権打倒を目指すシリア反体制派を支援してきた米欧も、反体制派が対イスラム国で戦果を上げられなければ、将来的に政策転換を余儀なくされる可能性も否定できない。
シリア内戦で和平仲介役を務めるデミストゥラ国連特使は13日、ウィーンでの記者会見で「アサド大統領は解決策の一部だ」と述べた。米欧に即時退陣要求を突き付けられてきたアサド氏が、今後の政権移行プロセスに参加することを容認したとも取れる発言。反体制派は、はしごを外された形で、反発を強めている。
ただ、国際社会ではイスラム国への対応や14日にデンマークで起きた銃撃事件などテロの脅威への対処が喫緊の課題となる中、シリア情勢をめぐっては「民主化」より「安定」を重視する声が高まりつつある。
これまでアサド政権を支援してきたロシアやイランに加え、地域大国のエジプトも情勢安定を重視、アサド大統領の続投を容認する方向へと軸足を移した。【2月16日 時事】
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「民主化」より「安定」を重視・・・・内戦開始から4年。“民主化のための戦闘”と言うより、“戦闘のための戦闘”になっているように見えます。これ以上、戦いで死亡する兵士や民間人、混乱で家を追われる避難民がでないように、まずは戦いを停止することを最優先すべき時期と思われます。
現在の混乱を続けることは、どのような圧政よりも非人道的で過酷です。
対ISでは、アサド政権と連携しないと情報収集も難しいとの、西側情報機関から関係修復に向けた強い要望もあるようです。
****<フランス>シリア治安幹部と面会か 対ISで関係回復模索****
仏有力紙「フィガロ」は10日、政府関係者の証言として、仏政府高官が2月、外交関係を断絶しているシリア・アサド政権の治安機関幹部と面会し、イスラム過激派組織「イスラム国」(IS)対策などでの協力関係の回復を打診していたと報じた。
同紙は、仏政府が表向きはアサド政権を批判しつつ、水面下で協力を模索していると指摘している。(中略)
仏政府は2012年にアサド政権との外交関係を断絶、政権の正統性を認めていない。オランド仏大統領は2月26日、「内戦の原因を作り、自国民に爆撃を加え、化学兵器を使用した独裁者との対話は不可能だ」として、シリアを訪問した議員を非難。バルス首相も同日、アサド大統領を「虐殺者」と強調、会談を批判した。
だが、フィガロ紙は、(シリアを非公式訪問した)バラカン氏が事前に仏情報機関に訪問を通告し、帰国後にオランド氏の側近に報告書を提出したと報じている。
AFP通信によると、シリアとの国交断絶でイスラム過激派組織に関する情報収集が困難になったとして、西側諸国はそれぞれの情報機関から関係修復に向けた強い要望を受けているという。
一方、仏メディアは、フランスとアサド政権の関係が改善すれば、アサド政権と敵対するアラブ諸国とフランスの関係に悪影響を与える可能性があると指摘している。【3月11日 毎日】
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【アメリカも求められるシリア戦略明確化】
アメリカ・オバマ政権内部でもアサド政権存続を容認する考えが強まっているようです。
****米、アサド政権「容認」 対テロ優先、シリア政策転換か****
シリアのアサド政権打倒を掲げてきたオバマ米政権が、当面はアサド政権の存続を容認する方針に転じたもようだ。
アサド大統領の指揮下にあるシリア政府軍が同国内を拠点とするイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」に打撃を与えることを期待したものだが、自国民に化学兵器を使ったとして国際的非難を浴びてきた同政権を延命させることに対して批判が高まる可能性がある。(中略)
米軍による穏健な反体制派勢力への訓練が本格化するのは3月以降とされ、米政府としては当面、アサド政権をイスラム国に対抗させておきたい方針とみられる。(後略)【1月31日 産経】
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アメリカなどの思惑はいろいろあるようですが、欧米にとってより危険なISの台頭でアサド政権への批判が弱まっているのは間違いありません。
****シリア内戦5年目、優先事項ではなくなったアサド政権打倒****
欧米やアラブ諸国の願いとは裏腹に、内戦が5年目に突入したシリアで、バッシャール・アサド大統領は権力基盤を強化している。
イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」の台頭により、国際社会にとってアサド政権打倒は優先事項ではなくなった。
「アサド大統領の国際社会における地位は上がった。米国、欧州連合(EU)諸国、その他の国のいずれも、もはやアサド大統領の即時退陣を要求していない」と、ドイツ国際安全保障研究所のフォルカー・ペルテス所長は指摘する。
2011年3月の内戦開始以来、シリアでは21万人以上が死亡したが、その間、シリア政府軍は欧米の支援を受ける反体制派やイスラム過激派の勢力拡大阻止に成功してきた。
人権団体からは今も、アサド政権がたる爆弾を投下し市民を無差別に殺傷していると非難する声が上がるが、既に反体制派さえもアサド大統領の退陣を和平交渉の条件としてはいない。
ペルテス所長は言う。「欧米政府の声明からは、直接的にしろ間接的にしろ、アサド氏が大統領の座にとどまることを事実上黙認した上で、アサド大統領と穏健な反体制派による国家的連合を模索していることがうかがえる」
■分裂する欧米
シリアの首都ダマスカスをたびたび訪れている欧州の外交筋によると、EU加盟国内ではアサド大統領の扱いをめぐり分裂が起きている。
マニュエル・バルス仏首相は先月、アサド大統領を「虐殺者」と呼んだが、「フランス、英国、デンマークがシリアの将来においてアサド氏のいかなる役割をも拒絶しているのに対し、多くのEU加盟国は内戦が5年目に突入する中、そのような見方は支持できないと考えている」と、この外交筋は説明する。
スウェーデン、オーストリア、スペイン、チェコ、ポーランドは、アサド大統領を孤立させても益はないとみており、EUとして態度を軟化させたい構えだが、大国ではないそういった国々の意見は聞き入れられていないのが現状だという。
一方、ジョン・ケリー米国務長官は先日、アサド大統領について「うわべだけの正当性を全て失った」と述べつつ、「しかし、われわれにとって、ダーイシュ(Daesh、ISのアラビア語の略称)の掃討に勝る優先事項はない」と発言。アサド大統領に対する欧米のスタンスが変化したことが示された。
15年前の大統領就任直後こそ改革者とみなされていたアサド大統領は、2011年に始まった反体制派のデモを暴力的に鎮圧したことで国際社会から爪はじきにされた。
だが、国連(UN)のスタファン・デミストゥラ特使も、最近「アサド大統領もシリア問題の解決策の一部だ」と発言し、反体制派を激怒させている。
「バッシャールのシリア:独裁政治の解剖」と題した著作のあるジュネーブ国際開発研究大学院のスヘール・ベルハジ氏は、こう指摘する。
「欧米もアラブ諸国もトルコも、公式には対話を拒否している相手かもしれない。それでも、シリア政府、特にアサド大統領は、国際社会にとって対話の相手だ」
■アサド政権の交渉機会は
内戦が始まってしばらくは反体制派に敗北を喫したアサド政権だが、レバノンのシーア派原理主義組織ヒズボラやイランの革命防衛隊の支援で軍を立て直し、一部地域を奪還するなど攻勢を強めている。
戦火で荒廃するシリアを席巻したISには、米国主導の有志連合による空爆が圧力をかけている。
現在のシリア政府は国土の4割と国民の6割を支配下に置き、北部アレッポの半分と、ISが制圧し「首都」と称しているラッカを除くほぼ全ての大都市を掌握している。
とはいえ、戦闘終結への道はまだ遠い。
「シリア現政権は、軍事的には優勢を保っていると考えているはずだ」と、米テキサス州にあるトリニティ大学のデービッド・レッシュ教授(中東史)は言う。
「シリア:アサド家の凋落」の著作がある同教授は「一方で、アサド政権内でも、2大支援国のイランとロシアの不況の影響で、遠からぬ将来、兵力や財政、資源などが不足してくるという予測は認識されているだろう」
レッシュ氏は、2016年の米大統領選挙が近づいて米政府のシリア政策が制約を受け始める前に、アサド大統領が国際社会と対話できる環境が整うだろうとの見方を示した。【3月15日 AFP】
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中間選挙敗北以降は、野党・共和党との対決姿勢を強めているオバマ大統領ではありますが、2016年の米大統領選が近づくほどに、共和党からの批判を受けるアサド容認の姿勢は見せづらくなります。
それまでに、何らかの方針転換が可能でしょうか?
現在のところは、反体制派支援の方向で動いています。
****シリア反体制派の訓練 「4~6週以内に開始」 米国防総省****
米国防総省のジョン・カービー報道官は27日、米国とトルコの先週の合意を受け、シリアの反体制勢力の穏健派に対する軍事訓練を4~6週間以内にトルコ国内で開始すると発表した。(中略)
1度に約200~300人ずつ、1年間で約5000人を訓練する計画だ。(後略)【2月28日 AFP】
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訓練した反体制派が政府軍と戦闘を行う場合は、アメリカは反体制派を支援するとも。
****<米国>IS掃討でシリア反体制派支援 政府軍と交戦時****
カーター米国防長官は11日の記者会見で、イスラム過激派組織「イスラム国」(IS)掃討作戦でIS支配地域の奪還をシリアで担う穏健な反体制派について「訓練した反体制派の部隊を、その後支援する義務があるだろう」と語り、シリアの政府軍と交戦になった場合などは支援する可能性を示した。
ただ、どのような状況でどう支援をするのかは検討中とし「結論は出ていない」と強調した。
米軍が主導するIS掃討作戦では、有志国連合の空爆と共に、シリアの反体制派がISの支配地域を奪還することを想定。1年間で反体制派約5000人の訓練を行う予定だ。
しかし、反体制派はISだけでなく政府軍とも対峙(たいじ)する三つどもえの構図で、政府軍が反体制派を攻撃する可能性がある。シリア内戦への深入りを避けたい米国だが、見過ごせば結果的に政府軍を利することになるため、苦しい判断を迫られる。(後略)【3月12日 毎日】
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反体制派への資金的追加支援も実施しています。
これにより、アメリカによる支援総額はおよそ4億ドル(日本円にしておよそ480億円)に上ることになります。
****米 シリア反政府勢力に追加支援へ****
アメリカ政府は、シリアのアサド政権の打倒と過激派組織IS=イスラミックステートの壊滅を目指す穏健派の反政府勢力に対し、およそ7000万ドルの追加支援を行う方針を明らかにしました。(中略)
シリア情勢を巡っては、先月、フランスの議員団が、アサド大統領と面会するなど、ISとの戦いに集中するためにも、当面は、アサド政権とは対話を模索するべきではないかという意見も出ていますが、オバマ政権としてはあくまでもISとアサド政権双方との戦いの両立を目指し、シリアの穏健派の反政府勢力に対する支援を強化していく方針です。【3月14日 NHK】
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「2つの敵(アサド政権とイスラム国)がともに米国に対抗し、互いに暴力的に戦っている。いずれの勝利も米国の国益にならない」(キッシンジャー元国務長官)という状況ですが、“2つの敵”と同時に戦うことが現実問題として可能か? 更に言えば、たとえ反体制派が勝利したとしても、“穏健な反体制派”と“イスラム過激派”の間にどれほどの差異があるのか? 権力の空白のなかで今以上の混乱を生むだけではないか? という疑問もあります。
「オバマ政権は外交政策が受け身で、イスラム国を壊滅させる戦略がない」(共和党マケイン上院議員)
おそらくマケイン議員は反体制派支援をもっと明確に打ち出すべきとの立場でしょうが、アサド政権容認の方向でシリア政策を明確するのも現実的な方策だと思われます。
ただ、“既に反体制派さえもアサド大統領の退陣を和平交渉の条件としてはいない”【前出 3月15日 AFP】というのは本当でしょうか?
アサド政権容認を受け入れるよう反体制派を説得するのは非常に難しいことに思われます。
誰が首に鈴をつけるのか? アメリカ・オバマ政権しかありませんが、気の進まない話でしょう。
【アサド政権もIS対応明確化を】
一方、アサド政権にとってはISの存在は、政権への国際批判をそらす好都合なものです。
アサド政権はISとの実質的な戦闘を手控えて、ISが存続することを黙認しているとも言われています。
また、経済封鎖のなかにあって、石油資源をもたないシリアの軍戦闘機が飛べるのは、ISが資金源として売っている原油を入手しているためだとも言われています。
****EU、仲介者に制裁 シリアとISの原油取引****
シリアのアサド政権と過激派組織「イスラム国」(IS)の原油取引を仲介したとして、欧州連合(EU)は7日、シリアの土木建築会社オーナーを新たにEU域内への渡航禁止や資産凍結の対象とする制裁を発動した。
8日、ロイター通信が報じた。欧米各国はアサド政権がISから原油を購入している可能性が高いとして同政権を非難してきたが、それを裏付ける形となった。(後略)【3月10日 朝日】
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アサド政権とISは“持ちつ持たれつ”【2月号 選択】の関係にあるとも言われていますが、欧米側のシリア戦略に併せて、アサド政権もIS対応も明確化する必要があります。
アメリカ、アサド政権を含めた関係国が本音で最優先課題に向けた対応を明確化すれば、おのずと答えは出るのではないでしょうか。
ISやヌスラ戦線などのイスラム過激派、台頭するクルド人勢力の話は、長くなるので、また別機会に。