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孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イスラエル  ネタニヤフ首相の“勝利の代償” 今後のアメリカの対応は?

2015-03-28 21:38:38 | パレスチナ

(イスラエルのリブリン大統領(右)から組閣要請を受け、握手をするネタニヤフ首相=エルサレムで3月25日、AP【3月26日 毎日】 3月20日、ハフポストUS版のインタビューで、オバマ大統領は、パレスチナが国連を通じて国家の樹立をするのをアメリカが拒否し続けるかどうかについては明言を避けました。【3月24日 The Huffington Postより】)

米国との架け橋を焼き払った
3月20日ブログ「イスラエル・ネタニヤフ首相の「2国家共存」否定にアメリカが強い不快感 アラブ系政党が第3党へ」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150320 でも取り上げたように、イスラエルのネタニヤフ首相は17日に行われた総選挙において、選挙直前の予想を覆して大勝をおさめました。

しかし、極右票取り込みを狙って、これまでのパレスチナ和平交渉の基本枠組みである「2国家共存」を否定、更には、投票日に「右派政権は危機に直面している。アラブ系の投票者らが群れをなして投票所に向かっている!」とアラブ系住民を貶め、緊張を煽るような発言をフェイスブックに投稿するという“なりふり構わぬ戦術”は、頑なな姿勢を続けるイスラエルに対しこれまでも強まっていた国際的な逆風を、今後一層強めることが予想されます。

ネタニヤフ首相の発言には、イスラエルの後ろ盾となってきたアメリカのオバマ政権も不快感を隠していません。
ネタニヤフ首相が得た勝利の代償は高いものになりそうです。

“ネタニヤフ氏がイスラエルと国際社会を結ぶ橋、特にイスラエルにとって一番欠かせない同盟国であり、後援者である米国との架け橋を焼き払った”【3月27日 JB Press】

****イスラエル首相再選の大きな代償 「焦土作戦」で勝利したネタニヤフ首相、国際的な孤立に拍車****
激しい戦いとなったイスラエルの総選挙は、不人気な首相が連続3期目の任期を獲得するうえで不安を煽る政治がそれなりに奏功することを裏付けたように見える。だが、ベンヤミン・ネタニヤフ氏の勝利は大きな代償を伴う。

今回の勝利はすでに、明らかに焦土作戦の勝利だ。ネタニヤフ氏はこの作戦において、イスラエルと外国をつなぐ橋を次々と燃やし、極右の仲間を出し抜いてきた。

さらに、イスラエルがその領土を占領しているパレスチナ人と解決策を交渉するかもしれないという残された希望を打ち砕き、すでに疎外されているイスラエル国内の少数派アラブ人にイスラエル市民以下の存在という汚名を着せた。

選挙前の最後の世論調査でアイザック・ヘルツォグ氏率いる労働党主導の野党連合の後塵を拝していたネタニヤフ氏は、終盤戦で扇動的な戦いに着手。自身が率いる右派「リクード」党の支持基盤を刺激し、超国家主義者と宗教右派のライバルから票を吸い上げた。実に驚くべきパフォーマンスだった。

扇動的な戦い
ネタニヤフ氏は、3月3日に共和党が多数を占める米議会で行った挑発的な演説を選挙戦の柱に据えた。演説はバラク・オバマ米大統領を激怒させ、概ねイスラエルに好意的な民主党議員約60人のボイコットを招きながら、ネタニヤフ氏を称賛する共和党議員に対し、イランの核開発計画が核兵器を生まないことを目的とした微妙な核協議を阻止するよう呼びかけた。

共和党上院議員らは期待通りに、イランの最高指導者ハメネイ師に書簡を送り、オバマ大統領と行うどんな取引も「ペンの一筆で」覆せると断じた。

さらに、パレスチナ国家がイスラエルと併存する可能性――2009年以降、ネタニヤフ氏が口先で支持してきた国際的な政策――を一切否定し、パレスチナの占領地へのユダヤ人入植をいっそう加速させると誓った。(中略)

選挙当日には、ソーシャルメディアを使い、裏切り者の左派にバスで投票所に運ばれる「アラブ人」が「大挙して投票」していると警鐘を鳴らした。

オバマ大統領との関係悪化、EUとの対立も不可避
しかし、恐らく領土回復主義者の右派を中心に形成されるこの4期目のネタニヤフ政権は、イスラエルが国際的孤立に向かう傾向を加速させる恐れがある。(中略)

同氏の対イラン作戦は、ただでさえ対立的だったオバマ大統領との関係をいっそう悪化させることになった。

一度として信憑性を持たなかったパレスチナ国家への約束をネタニヤフ氏があからさまに放棄することで、パレスチナ領土の占領を巡り、すでにイスラエルと小競り合いを繰り広げてきた欧州連合(EU)との対立が不可避になった。

パレスチナが国際的認知に向けた多国間の取り組みを推し進める中、この先も、ネタニヤフ氏と交渉した方が得策だという議論は成立するのだろうか? 

また、加盟国のうち9カ国がすでにパレスチナ国家を承認しているEUがもし国連安全保障理事会で国家承認に向けた動議を準備したら、米国は拒否権を発動するのだろうか?

国際刑事裁判所にイスラエルの戦争犯罪を問う可能性も出てきたパレスチナの外交攻勢が、ついにパレスチナ自治政府の崩壊を招く恐れもある。

ネタニヤフ政権はすでにパレスチナ自治政府の存続に欠かせない税収の送金を保留している。
一方でパレスチナのマフムード・アッバス議長はヨルダン川西岸でのイスラエルとの治安協力から手を引く可能性をちらつかせている。まさに焦土である。【3月20日付 英フィナンシャル・タイムズ紙】
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【「私の意図するところではなかった」】
さすがに保守強硬派ネタニヤフ首相もまずいと思ったのか、選挙後に発言の修正を行っています。

****パレスチナ国家を「認めぬ」発言、修正 イスラエル首相「2国家で解決を****
イスラエルのネタニヤフ首相は19日放送の米テレビ局MSNBCのインタビューで「持続可能で平和的な2国家による解決を望む」と述べ、総選挙前にパレスチナの国家樹立を認めないとした発言を事実上修正した。

ネタニヤフ氏は、パレスチナの国家を認める条件として「環境が変わらなければいけない」と発言。パレスチナがイスラエルをユダヤ人国家と認め、安全を保障することを挙げた。(後略)【3月21日 朝日】
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****イスラエル首相、アラブ系国民に謝罪 「群れで投票」発言で****
イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は23日、今月の総選挙でアラブ系国民らが「群れをなして」投票していると発言したことを謝罪した。この発言に対しては、米国からの非難も招いている。(中略)

この発言についてネタニヤフ氏は、テレビ放映されたアラブ系市民らとの会談中に、「前週の私の発言が一部のイスラエル市民とアラブ系の人々の気分を害したことを認識している。それは私の意図するところではなかった。お詫び申し上げる」と語った。(後略)【3月24日 AFP】
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【「首相の新たな立場と発言を受け、わが国の選択肢を再検討する必要がある」】
しかし、一般人の世界でもこういう姑息とも思える対応は信用されませんが、それは国際政治の世界でも同様です。
かねてより右派ネタニヤフ首相とそりが合わなかったアメリカ・オバマ政権は、イスラエルとの関係「見直し」にも言及しています。

****イスラエル、米と亀裂深まる=首相発言に「報い」―関係修復は不透明****
イスラエル総選挙で続投をほぼ確実にしたネタニヤフ首相が、同盟国・米国との関係改善を見込めない状況になっている。

首相が米議会でイラン核協議に関する演説をしたことをめぐって既に両国間の亀裂が深まっていた上、選挙戦中に首相が「パレスチナ国家は認めない」との立場を表明したことなどを受け、イスラエルとパレスチナの和平交渉を仲介してきた米国側はイスラエルとの関係「見直し」にも言及した。(中略)

 ◇拭えぬ不信感
一連の(ネタニヤフ首相の選挙後の)釈明にもかかわらず、米政権のネタニヤフ首相への不信感は拭えないもようだ。

オバマ大統領は選挙後、首相との電話会談で、「2国家共存による解決」を支持する米国の方針に変わりがないことを伝えた上で、「首相の新たな立場と発言を受け、わが国の選択肢を再検討する必要がある」と警告。国連安全保障理事会でイスラエルのために行使してきた拒否権の発動を今後控える可能性も示唆した。

マクドノー大統領首席補佐官も23日、「約50年間に及ぶ(イスラエルによる)占領を終わらせなければいけない」と訴え、パレスチナ人に主権国家を持つ権利があると強調。「私たちは(首相の)発言がなかったように振る舞うことはできない」と語った。

イスラエル国内では、かつてないほど悪化した対米関係に危機感が強まっている。ヘブライ大のギデオン・ラハト教授(政治学)は「首相が最初にオバマ大統領を怒らせ、われわれは今その報いを受けている」と話した。【3月25日 時事】 
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アラブ系住民をめぐる発言に関しても、オバマ米大統領は「この種の発言は、イスラエルの伝統の最も優れた内容に反するものだ」とコメントしています。

また、国内的にも、“イスラエルの主なアラブ系政党連合で、選挙で13議席を獲得したアラブ統一会派の副代表を務めるアイマン・オデ氏はこの謝罪の受け入れを拒否。「ネタニヤフ氏の言い訳は受け入れられない。なぜなら、同氏は差別的な法律を持ち込もうとしているだけでなく、氏の発言はアラブ系国民の投票権そのものを脅かした」と指摘している。”【3月24日 AFP】とも。

イスラエルのリブリン大統領は25日夜、総選挙で第1党(30議席)となった右派リクード党首のネタニヤフ首相に新政権の組閣を要請していますが、“首相が選挙期間中、右派票固めのためオバマ米政権が推進するパレスチナ国家の樹立やイスラエルとの2国家共存を否定する趣旨の発言をしたことなどを踏まえ、「分断の修復を始める時だ」と強調。悪化した米国やパレスチナとの関係改善を急ぐべきだと訴えた。”【3月26日 毎日】

組閣要請を受けたネタニヤフ首相は会見で「分断修復に努める」と述べ、大統領の呼びかけに応じる姿勢を見せてはいます。

パレスチナ自治政府への送金再開という具体的な動きも見せています。

****パレスチナへの送金再開へ=国際刑事裁加盟申請受け凍結―イスラエル****
イスラエル首相府は27日、パレスチナが国際刑事裁判所(ICC)に加盟申請したことへの報復措置として凍結していたパレスチナ自治政府への税金の送金を再開すると発表した。「人道的配慮と、現時点におけるイスラエルの利益を全体的に考慮した」という。

イスラエルは関税など自治政府の税金の一部を代理徴収している。今年1月、パレスチナがイスラエルを「戦争犯罪」で訴えるため、ICCへの加盟文書を提出したことに反発し、送金を停止した。

自治政府の予算の3分の2を占める月約5億シェケル(約150億円)の送金が凍結されたことで、自治政府は財政破綻の危機に陥り、米国などがイスラエルに送金を再開するよう圧力をかけていた。【3月28日 時事】 
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ただ、「綸言汗の如し」という言葉もあります。発言内容がネタニヤフ首相の本音だろうと思われるだけに・・・。
ネタニヤフ首相が今回選挙で国際社会に与えた不信感は大きなものがあります。

留意する必要があるのは、ネタニヤフ首相の一連の発言が奏功して、実際にリクードが勝利したということです。
一連の発言はネタニヤフ首相の本音であるだけでなく、イスラエルの多くの国民の思いでもあると言えます。
首相が謝罪して済む話でもありません。

安保理協議を通じイスラエルへの圧力が高まる可能性 そのときアメリカは?】
いずれにせよ、国際社会には対イスラエル「見直し」の機運が強まっています。

****中東和平:仏が新決議案提案へ 安保理、イスラエル圧力も****
フランスのファビウス外相は27日、イスラエルとパレスチナの中東和平交渉を促進させるため、国連安全保障理事会で決議案の協議を数週間以内に始める意向を示した。国連本部で記者団に語った。

イスラエルのネタニヤフ首相がパレスチナ国家樹立を拒否する発言をしたことへの反発が国連内で広がっており、安保理協議を通じイスラエルへの圧力が高まる可能性がある。

ファビウス外相は「フランスはこれまで交渉の指針を定義したり、交渉を促進したりする決議案には賛成してきた」と指摘。今後、関係国との協議を踏まえて「決議案の提案に参加する」と語った。

前日には、国連のセリー中東和平担当特別調整官がネタニヤフ発言を踏まえ、パレスチナとの2国家共存実現に向けたイスラエルの本気度に「深刻な疑念が生じた」と非難。安保理が交渉の新たな枠組みを示すことが「目標を維持する唯一の方法かもしれない」と述べた。

決議案の安保理協議で鍵を握るのは、常任理事国の米国だ。

米国はこれまで、反イスラエル的な決議案については、常任理事国の拒否権を行使し、廃案に追い込んできた。また、和平交渉は安保理決議という「外圧」ではなく、イスラエルとパレスチナの直接交渉で実現すべきだと主張し、イスラエルを擁護してきた。

だが、ネタニヤフ発言を受けて、オバマ政権はこうした方針を見直す意向を表明。ウォール・ストリート・ジャーナル紙によると、アーネスト米大統領報道官は27日、ファビウス外相の発言に反対はしなかった。

安保理は昨年末、和平交渉の1年以内の合意と、イスラエルには2017年末までの占領地からの撤退を求めるパレスチナ主導の決議案を採決。15カ国中、賛成はフランスなど8カ国で、採択に必要な9カ国には届かず否決された。米国は反対した。【3月28日 毎日】
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オバマ大統領の“選択肢の再検討”がどういう形となるのか注目されます。
その結果次第では、パレスチナ問題の流れが大きく変わることもありえます。

ただ、アメリカにあっても共和党右派はネタニヤフ首相を強く支持しています。
23日に次期大統領選予備選への立候補を表明した、保守派の市民運動「ティーパーティー」からの支持を受け共和党のクルーズ上院議員は、出馬演説で「何も弁解せずにイスラエルを支持する大統領を想像してほしい」と訴え、大きな拍手をあびたそうです。

オバマ大統領がフリーハンドで臨める訳でもありません。それはどんな問題でも同じですが。
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