
(3月1日 クレムリンを背に行われたネムツォフ氏追悼デモ 【3月2日 AFP】)
【近年では最大規模となった追悼デモ】
周知のようにロシアでは27日、「プーチンなきロシア」を掲げて街頭デモを主導してきた、また、ウクライナ問題などでプーチン大統領を厳しく批判してきた野党指導者ボリス・ネムツォフ氏(55)が、モスクワ中心部の路上で射殺されました。
3月1日にはネムツォフ氏らが主導する大規模な反政権集会が予定されており、その直前の凶行でした。
****反プーチン貫く鋒****
「特定の人物への権力集中は破局につながる。ロシアの政治改革が必要だ」。暗殺される数時間前にロシアのラジオ番組に出演したネムツォフ氏は、いつものように「反プーチン」を貫いた。
中部ニジェゴロド州知事として経済民営化で手腕を発揮し、若き改革派として頭角を現した。その手腕が認められ、1997年3月に当時のエリツィン大統領(故人)から第1副首相に抜てきされ、「将来の大統領候補」と目されたことも。
同年6月に訪日し、当時の橋本龍太郎首相にエリツィン大統領の親書を渡すなど北方領土交渉にも関与した。
98年の経済危機で副首相を解任されたあと、リベラル勢力を結集した政党「右派勢力連合」の旗揚げに加わり、99年12月の下院選で当選して副議長も務めた。しかし、2000年にプーチン大統領が就任して中央集権化を進めていく中で改革派は勢いと国民の支持を失っていった。
03年に議席を失ったあとは在野で政権批判を続け、11年末から高まった「反プーチン」デモでは自ら先頭に立って行動した。ウクライナ危機が勃発すると、プーチン政権による軍事介入を批判した。政権側からの厳しい野党攻撃に屈せず、最後まで信念を貫いた。【2月28日 毎日】
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予定されていた反戦デモは追悼デモに変更され、3月1日に行われました。
****<モスクワ>「プーチンなきロシアを!」反政権の大規模デモ***
◇暗殺された反プーチン派ネムツォフ氏悼み実施
プーチンなきロシアを!」「戦争はいらない!」。
1日午後、モスクワのクレムリン(露大統領府)に近い川沿いの車道は、喪章付きのロシア国旗を掲げる人波で埋まった
2月27日に暗殺された野党勢力指導者、ボリス・ネムツォフ氏(55)を悼んで実施されたデモ行進は、反政権色の濃い大規模なものとなった。
主催者の話で7万人以上とされる参加人数(警察発表では約2万人)は、2011年12月に下院選の不正疑惑を巡って約12万人が集まったモスクワでの抗議集会以降で最大規模。
より自由な社会を求める中間層が中心になったとみられる。昨年2月のウクライナ危機発生以来、高まる一方の偏狭な愛国ムードに異を唱えた。
ネムツォフ氏が1日に計画していたウクライナへのロシアの軍事介入を批判する反戦集会の色合いも帯び、ウクライナ国旗を振る人も。
子供連れの家族、若いカップル、高齢者夫婦など参加者は「このままのロシアではいけない」と口々に語り、射殺事件現場までの約1・5キロを歩いた。クレムリン前では政権批判のシュプレヒコールを上げた。
ロシア第2の都市サンクトペテルブルクでも同日、追悼デモがあり、約1万5000人が参加。ただ、地方都市で呼応する動きはほとんどなく、政権への影響は限定的なものになりそうだ。
一方、インタファクス通信によると、モスクワのデモでは数十人が「公共秩序を乱そうとした」との疑いで拘束された。ウクライナ最高会議(国会)のゴンチャレンコ議員も一時拘束された。
捜査当局は同議員が昨年5月にウクライナ南部オデッサで親露派住民ら46人が死亡した火災に関与した疑いがあるとしている。【3月2日 毎日】
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【ウクライナ紛争でロシア軍の関与を示す証拠を公表しようとしたため・・・・?】
プーチン大統領は事件直後に報道官を通じて、事件は「挑発行為だ」との見方を示しています。
連邦捜査委員会の担当者も28日、「政治状況を不安定化させることが目的の計画的殺害の可能性がある」と述べ、プーチン大統領は組織横断の捜査チームを編成し陣頭指揮をとる考えを示しています。
捜査委員会は、〈1〉国内を不安定化させる扇動〈2〉イスラム過激派の犯行〈3〉ウクライナの過激派の犯行〈4〉ビジネス上のトラブル――の可能性を指摘していると報じられています。
しかし、野党勢力支持者やウクライナでは、政権側が関与した陰謀を疑う声があがっています。
****ネムツォフ氏、紛争への露軍関与暴露図り射殺か****
モスクワでネムツォフ元第1副首相が27日に射殺された理由について、ロイター通信は28日、ウクライナのポロシェンコ大統領が、ウクライナ紛争でロシア軍の関与を示す証拠を公表しようとしたためだとの認識を示したと報じた。
ポロシェンコ氏は28日、ウクライナのテレビで、ネムツォフ氏が数週間前、ポロシェンコ氏に露軍の介入について「説得力のある証拠を暴露する」と伝えてきたといい、「これを恐れた者が殺害した」と語った。
ロシアの野党勢力は「政治的殺人」として、政権と対立する有力者を狙った犯行を念頭に置く。
これに対し、政権側は「ウクライナに絡み(社会が)感情的になっている状況を背景に行われた挑発」(ペスコフ大統領報道官)として、政権批判をあおるための犯行だとの立場だ。【3月1日 読売】
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仮に、ウクライナ紛争でロシア軍の関与を示す証拠があったとしても、すでに当局によって押収されたと思われます。
****暗殺後に「家宅捜索」=ウクライナ侵攻の証拠押収か―ロシア****
ロシア当局がモスクワで2月27日夜に暗殺された野党指導者ボリス・ネムツォフ氏の関係先を次々と「家宅捜索」している。
同氏はプーチン政権が認めないウクライナ東部への軍事介入の証拠を入手、暴露を計画していたとされる。ウクライナのメディアは1日、ロシア当局がこの証拠を既に押収したと伝えた。
ロシア当局は懸賞金300万ルーブル(約580万円)を用意して有力情報の提供を呼び掛ける。プーチン大統領は「犯人を裁くため全力を尽くす」と約束したが、黒幕を含めて容疑者は明らかでない。(後略)【3月2日 時事】
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まあ、もし“証拠”が公表されたとしても、プーチン大統領は“ねつ造”とか“陰謀”として、まったくとりあわなかったでしょうが。
【プーチン政権への批判者を裏切り者と見なす雰囲気】
ロシアではこれまでにもプーチン大統領を批判した人物の変死・暗殺という「闇」の歴史が繰り返されています。
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2006年には激しいプーチン政権批判を展開していたロシア人ジャーナリストのアンナ・ポリトコフスカヤ氏が殺害され、昨年、モスクワの裁判所が男5人に禁錮刑を言い渡した。
プーチン大統領の汚職を批判した実業家のミハイル・ホドルコフスキー氏は10年の禁錮と強制労働を言い渡された。
ロシアのスパイだったアレクサンドル・リトビネンコ氏は国家治安当局がプーチン氏に実権を握らせるためのクーデターを組織していたと非難。2006年に英ロンドンで放射性ポロニウムを使って毒殺された。犯人はつかまっていない。
ネムツォフ氏も生前、プーチン政権を非難したとして何度か逮捕されていた。【3月2日 CNN】
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こうした事件の背景には、プーチン政権への批判者を裏切り者と見なす雰囲気が広がっていることがあると指摘されています。
特に、ウクライナ紛争で欧米からの制裁を受けてから、政権批判を「利敵行為」とみなす論調がますます強まっており、ロシアを代表する文化人や芸術家がプーチン氏支持の署名に軒並み加わるなど、政権への同調圧力は強まっています。
****【露野党指導者射殺】裏切り者の「第五列と戦え」…プーチン流プロパガンダの犠牲に「異論迫害が生んだ事件だ」****
ロシアのプーチン政権を批判してきた著名人がまた、凶弾に倒れた。
モスクワのクレムリン近くで銃殺されたネムツォフ元第1副首相は、ロシアのウクライナ介入や高官の汚職を鋭く糾弾してきた存在。殺害の実行犯や背後関係は不明だが、クレムリンのプロパガンダ(政治宣伝)により、反政権派を許さない風潮が広がっていることが事件の背景として指摘される。
政権批判が理由だと疑われる殺害事件は過去にもあった。2006年10月にモスクワで女性記者のポリトコフスカヤさんが射殺された事件や、09年7月にチェチェン共和国で人権活動家のエステミロワさんが殺害された事件が一例だ。
それでも「一線を越えない限り、政権に否定的な意見も許される」というのが政界や報道界の“掟(おきて)”だった。
しかし、昨年3月のクリミア併合後、プーチン大統領が反政権派を「第五列」と称した頃から状況が一変した。
「第五列」はスペイン内戦(1936~39年)の際に使われたのが語源とされ、対敵協力者や裏切り者を意味する。
主要テレビ局の放送は、「第五列」が米欧と結託してロシアの攪乱(かくらん)を狙っているとのプロパガンダ一色となった。
2012年発足の第3次プーチン政権は、外国の資金援助を受ける非政府組織(NGO)を「外国の代理人」と規定したり、国家反逆罪の適用範囲を拡大したりと外国敵視の路線を鮮明にしてきた。
米欧の制裁などで経済情勢が悪化する中、政権は、内外の「敵」を設けて国民多数派の結束を促す旧ソ連時代さながらの手法を強めている。
ネムツォフ氏を知る地方議員や識者からは「プーチンの『第五列』発言に始まる異論迫害の結果がこの事件だ」「テレビがネムツォフ氏を殺したのだ」といった意見が出ている。
今回の事件が社会に与える影響は不明だ。国家反逆罪の適用事件が増えていることについて尋ねた最近の世論調査では、半数近くが「外国特務機関の活動が強まっているため」もしくは「露機関の職務水準が高まっているため」と答えた。【2月28日 産経】
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【体制には揺らぎなし 懸念される「家宅捜索」での情報による更なる弾圧】
今回の追悼デモは近年では最大規模となりました。
“モスクワでプーチン大統領に批判的な市民がこれほど大勢集まったのは最近では例がなく、その背景には、ウクライナ情勢に関する欧米の制裁の影響などでロシア経済が悪化していることに対して市民の間で不満が強まっているという見方も出ています。”【3月2日 NHK】
しかし、“地方都市で呼応する動きはほとんどなく、政権への影響は限定的なものになりそうだ”【前出3月2日 毎日】というのが実態で、直ちにプーチン体制が揺らぐことはないように思われます。
捜査当局はネムツォフ氏の自宅を家宅捜索し、パソコンや文書などを回収して調べを進めているとのことで、そこからの情報をもとに・反政府勢力・野党勢力への更なる弾圧が行われるのでは・・・とも危惧されます。