孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

タイ  プラユット暫定首相(前陸軍司令官) 「よきタイ人」を育てる「12の価値」を提唱

2014-10-07 23:18:48 | 東南アジア

(プミポン国王の回復を願い、記帳のためシリラート病院を訪れたプラユット暫定首相夫妻 【10月6日 newsclip.be  http://www.newsclip.be/article/img/2014/10/06/23376/7946.html

タクシン派は「王室を頂点とするタイ社会への挑戦者」】
タイでは、タクシン派インラック政権を倒した軍部クーデターを主導したプラユット氏(当時は陸軍司令官)が8月21日に暫定首相に選出されました。

8月31日に発表された閣僚名簿では、首相と閣僚33人のうち約3分の1を軍・警察関係者が占め、軍部独裁が鮮明になっています。

プラユット暫定首相は9月12日、立法議会で所信表明演説を行い、暫定内閣を本格始動させています。
なお、プラユット暫定首相は9月30日、60歳の定年のため陸軍司令官を退任、後任には側近のウドムデート副司令官(59)が10月1日付で昇格しています。

****<タイ>陸軍司令官プラユット暫定首相 立法議会で所信表明*****
タイのクーデターでタクシン元首相派政権を倒した軍事政権のプラユット暫定首相(陸軍司令官)は12日、立法議会で所信表明演説を行い、暫定内閣を本格始動させた。プラユット氏は「改革を断行し、国民和解を実現するために一丸となって努力する」と語り、重要政策として王制護持や汚職撲滅など11の柱を掲げた。

軍政は今後、改革評議会を設置し、来年中に予定される民政移管に向けた「政治改革」に着手する。

軍部には、2001年の総選挙でタクシン派政権が誕生し、タクシン派が勢力を拡大させたために、国民に分断が生じたとの見方が根強い。「改革」は選挙制度改定などでタクシン派の影響力排除を狙ったものになる可能性が高い。

所信表明で示された王制護持や汚職撲滅は、タクシン派を念頭にしたものとみられる。「ばらまき政治」や汚職を批判され、軍や官僚、財閥など旧来の支配者層から「王室を頂点とするタイ社会への挑戦者」と敵視されるからだ。

重要政策ではこれまでなかった相続税や固定資産税の導入に言及し、貧富の格差是正に取り組む姿勢を示した。タクシン派の支持層の農村住民や貧困層を取り込み、体制の安定化を図る狙いだ。【9月12日 毎日】
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今後の「政治改革」を主導する国家改革評議会(NRC)メンバーが発表されていますが、当然に軍・警察関係者も多く含まれ、反タクシン派も参加しています。

****改革評議会メンバー250人選出=タクシン派から反発も―タイ****
タイのクーデターを受け新たに発足する国家改革評議会(NRC)のメンバー250人が選出され、6日公表された。国家平和秩序評議会(NCPO、議長・プラユット暫定首相)が人選し、プミポン国王が2日付で承認した。

暫定憲法によると、NRCは政治、経済、社会など11分野の改革について検討し、国会に当たる立法議会に提言するほか、憲法起草委員会がまとめる憲法案を審議し承認する。

250人のNRCメンバー中、30人以上が軍と警察の関係者。タクシン元首相派を批判してきた前上院議員や、タクシン派政権に反対する大規模デモを主導した人民民主改革委員会(PDRC)を支持した学者らも選出され、タクシン派からは「失望している」(スラポン前外相)などと反発の声が上がっている。【10月6日 時事】 
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【「12の価値」を全公立小中学校で毎日復唱
タイの軍事政権に限らず、権力者は教育を自身の理念に沿ったものにしようとします。
現在の混乱は教育が十分でなかったから・・・、善良で従順な臣民をつくるための教育はどうあるべきか・・・

プラユット暫定首相も、「王室を頂点とするタイ社会」という国体護持、社会混乱をもたらすような政治批判の封殺などの観点から、「よきタイ人」を育てる教育改革に着手しています。

来年中に予定される民政移管に向けた「政治改革」が、どのような視点からなされるかも示すものとなっています。

****タイ暫定政権、教育改革 「市民の義務」科目・「12の価値」復唱****
軍事クーデターで権力を奪取したタイの暫定政権が、児童・生徒の教育改革などに乗り出した。

「市民の義務」という新教科の導入や、「12項目の価値」を毎日復唱することが主な内容だ。戒厳令下で政権批判は容易ではないが、国民の間には議論が起きている。

「かつて我が国は人々が優しく、王を敬い、親に感謝する豊かな国だった」「しかし今、調和と愛を失い分裂し、祖先の教えを忘れてしまった……」。9月下旬、バンコク中心部で開かれた教員向けの教育改革研修会の冒頭、演劇仕立てのオープニングで主人公が嘆いた。ノートを取り出して熱心にメモをとる教員もいた。

改革は、クーデター首謀者のプラユット暫定首相が、政治対立などを克服するには「よきタイ人」を育てることが重要だと訴え、教育省に準備を指示。同省は教師や教育学者を集めて指導要領作成委員会を設け、7月に作業を始めた。

「市民の義務」科目は、文化や伝統を尊重すること、愛国心、宗教心、王制賛美を強めること、国王を元首とする民主主義社会でよき市民となること、争いのない社会をつくること――などを目的に掲げる。

一部の委員は「11月の新学期からの導入は時間的に無理だ」「新科目の要素のほとんどは現在の社会科に含まれており、重複する」と異を唱えたが、同省側は「軍事政権の命令だ」として指導要領を完成させた。

「12の価値」の復唱もプラユット氏が「強い国家のために私がまとめた」として発表した。国王の業績や思想を敬うことや両親、教師への感謝、タイの伝統や質素な生活の重要性を説く。

教育省基礎教育委員会は、公立の小中学校約3万1千校に毎日12項目を復唱する機会を作るよう指示した。

指導要領作りに参加した中学社会科教師の女性(58)は「新教科の導入には普通、3年程度かける。それを2カ月でやれという一方的な命令だった。そもそも、政治的な混乱や社会対立を起こしているのは大人たちではないか」と疑問を投げかける。

教育問題を考える高校生のグループ「解放のための教育」の女子高校生(17)は「12項目の復唱は、ある特定の種類の『よい国民』を作ろうとしている。タイ社会の不安定さは、多様性を認めないのが原因なのに」と話す。タクシン元首相派と反タクシン派との先鋭化した対立を指しての不満だ。

チュラロンコン大学教育学部のアタポン・アナンタウォラサクン准教授(42)は「次世代のタイ国民にかかわる教育政策は、国民のチェックが働かない暫定政権が手がけることなのか。民政復帰後に廃止されるようなことになればさらに混乱する」と児童・生徒たちへの影響を懸念する。

一連の改革は、国王を頂点として軍やエリート層が中核を担うタイの伝統的な統治体制の重要性を浸透させるものと言え、軍批判を認めないメッセージだと受け止める向きもある。

 ■プラユット暫定首相が提唱する12の価値(要旨)
 (1)国家、宗教、王制の護持
 (2)公益のために正直、献身的、忍耐強くあること
 (3)保護者や恩師への感謝
 (4)知識や教育を求めること
 (6)道徳を守り、寛容であること
 (7)国王を元首とする民主主義の理念を理解すること
 (8)規律を守り、法と年長者を尊重すること
 (9)国王の言葉に沿った行動を考えること
(10)国王の経済理念を実践し、質素に暮らすこと
(11)心身の健全さを保ち、欲に負けないこと
(12)公共の利益、国家の利益を優先して考えること
【10月3日 朝日】
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戦前日本の教育勅語のようなイメージです。
日本でも同様のことをやった方がいいという声も多々あるでしょう。

道徳的な規範については、至極もっともなことにも思えますが、それを権力者が強要するところに“胡散臭さ”も感じられます。

要は、「王室を頂点とするタイ社会」という国体を護持し、国が決めたことには逆らわず、社会混乱をもたらすような政治批判は行わない・・・そういう「よきタイ人」をつくりたい意向のようです。

【「大富豪になりたい?陸軍に入隊を」】
批判が許されない存在にもなりつつある権力中枢にいる軍人の実態はと言えば、「12項目の価値」とは無縁のようにも見えます。

****大富豪になるなら陸軍へ」=軍幹部の高額資産判明―タイ****
5月のクーデターで軍が政権を掌握したタイで、国会に当たる立法議会の議員の資産額が公開され、議員に任命された軍幹部の高額資産が話題となっている。7日付の英字紙バンコク・ポストは「大富豪になりたい?陸軍に入隊を」と皮肉交じりに伝えた。

国家汚職追放委員会(NACC)がこのほど公表した議員の資産報告によると、シリチャイ国防次官が1億800万バーツ(約3億6000万円)相当の資産を保有。カンパナート陸軍第1方面軍司令官が9980万バーツ、プラユット暫定首相(前陸軍司令官)の実弟プリーチャ陸軍司令官補が7980万バーツなどとなっている。

タイ語紙タイ・ラットが伝えた専門家の試算では、公務員が38年間勤務した場合の給与は総額3400万バーツ。これを上回る資産を得るには親からの遺産など給与以外の収入が必要となる。

軍幹部のほかに議員に任命された警察幹部の高額資産も目立っており、NACCや国家会計検査委員会に調査を求める動きが出ている。プラユット政権の閣僚の資産は公開されていない。【10月7日 時事】 
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「よきタイ人」の模範たる軍幹部が、どうやってこうした資産を形成したのか・・・茶番です。

今後は国王後継問題も
「王室を頂点とするタイ社会」の頂点にあって、実際、国民から敬愛されているプミポン国王は高齢のため入退院を繰り返していますが、また体調を悪くされたようです。

****タイ国王が高熱で入院、86歳 改善の兆候****
タイ王宮は4日、プミポン国王(86)が高熱と血圧の異常の症状を示したため3日夕に首都バンコクの病院に入院したと発表した。

症状は改善の兆候を見せているという。王宮は声明で、担当医チームは静脈を通して抗生物質を投与した後、血圧は安定し、熱も下がったと診断したと述べた。

同国王は1946年に即位。これまで20人以上の首相の政権を見守り、17回の軍事クーデター、17回にわたる憲法修正などの政治的な激動を乗り越え、国民各層に深く崇拝される国王となっている。
米国生まれで、教育はスイスで受けた。

ここ数年は体調不良が目立ち、入退院を繰り返していた。【10月5日 CNN】
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こういう状況ですから、プミポン国王の後継問題も現実的な問題です。

国民的な人気や実績の点で、特に反タクシン派はシリントーン王女の即位を希望しているとも言われますが、現実的な問題を考えると、タクシン元首相とも関係が深かったワチラーロンコーン王子が後継者としては最有力と考えられます。

ただ、プミポン国王同様の敬愛を集めて、「王室を頂点とするタイ社会」を体現する存在になりうるかはこれからの課題とされています。
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