(何もない砂漠とういうのは、不思議な美しさを持っています。 アルジェリアのサハラ “flickr”より By albatros11
http://www.flickr.com/photos/albatros11/2603642404/)
【連続テロ】
連日世界の各地から爆弾テロのニュースが伝えられています。
イラク、アフガニスタンといった紛争地域はもちろん、パキスタン、インドなど政情不安の要素を抱える国でも多く発生しています。
最近では中国のウイグル族関係も注目されています。
そんな中で、世界的に注目されるような紛争が起こっている訳でもないのに、比較的この種のニュースが多いのがアルジェリアのように感じます。
19日には、アルジェリアの首都アルジェ東方約50キロのイセルズで、警察学校を狙った爆弾テロが発生。
43人が死亡し、45人が負傷するという大きな被害が出ました。
翌20日にも、こんどは首都アルジェ南東約150キロのブイラの軍施設などで爆弾テロがあり、11人が死亡、11人が負傷しています。
【イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ組織】
両事件とも犯行声明は出ていませんが、国内で反政府テロを繰り返す「イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ組織」(AQIM)による犯行の可能性が高いとされています。
アルジェリアでは同組織が関与したとみられるテロで過去1年半に200人以上が死亡しています。
また、今月17日には治安部隊が武装集団の待ち伏せ攻撃に遭って兵士ら12人が死亡するなど、19,20日のテロを含め今月だけですでに5件の自爆攻撃や襲撃が起きているそうです。
今年6月には鉄道線路の増設計画に携わっていたフランス人技術者らが標的になっており、昨年12月には国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)を狙ったとみられる自動車爆弾テロも起きています。
また、昨年9月にはブーテフリカ大統領を狙ったとみられる自爆テロで、大統領訪問を待っていた群衆15名が死亡しています。
「イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ組織」は、かつては「布教と聖戦のためのサラフ主義集団」(GSPC)と名乗っていました。
昨年1月、国際テロ組織アルカイダの最高指導者、オサマ・ビンラディン容疑者の許可を得て、名前を「イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ組織」に変更するとイスラム系のウェブサイトで明らかにしています。
ウィキペディアによると、03年11月にすでにアルカイダとの連携を発表しているそうですが、06年9月、アルカイダのナンバー2であるザワヒリ容疑者がアルジェリアの旧宗主国フランスへの攻撃をGSPCに呼びかけており、これが契機となってアルカイダとの共闘が進展したようです。
なお、国際テロ組織にあっては、“アルカイダ”という名称は一種の“ブランド”になっており、アルカイダを名乗ることで事件の世間での注目度も変わってくるということもあって、勝手に名乗るものも含めて、世界の多くの組織が“アルカイダ”を称するようになっています。
【AQIMとフランス、あるいは地中海連合構想】
AQIM関連で世界が注目した事件としては、今年1月5日に始まる予定だった自動車のダカール・ラリー中止があります。
昨年12月に、主要コースとなるモーリタニアを旅行中のフランス人家族4人がAQIM関係者によって殺害される事件を受けて、テロ警戒を強めるフランス政府が中止を促したことによります。
組織名称にある“マグレブ”というのは、リビア、チュニジア、アルジェリア、モロッコなど北西アフリカ諸国を指します。
アルジェリアの国情については皆目見当がつきませんが、ウィキペディアによると「1965年に軍事クーデターが起き、1989年に憲法が改正されるまで軍による独裁が続いた。1991年の選挙でイスラム原理主義政党のイスラム救国戦線が圧勝すると直後の1992年1月に軍によるクーデターがおき、選挙結果は事実上無効になった。これにより1992年以降イスラム原理主義過激派(武装イスラム集団など)によるテロが活発化し、国内情勢は不安定化した。最近は沈静化しつつあるものの・・・・」とあります。
この92年の軍事クーデターによるイスラム原理主義政権の崩壊が背景にあるようです。
“最近は沈静化しつつある”の“最近”がいつを指すのか明らかではありませんが、現在は十分に活発化しているにも見えます。以前はもっと頻繁だったのでしょうか。
AQIMはフランス、スペイン、米国の影響力をマグレブ地域から排除することを狙っていると言われています。
一方、フランス・サルコジ政権は“地中海連合構想”を打ち出し、アルジェリアやリビアなどと核協力を含むエネルギー分野の関係強化を図っています。
その意味で、フランスとAQIMは正面からぶつかる関係になっています。
なお、昨年12月、フランス訪問中のリビアの最高指導者カダフィ大佐が講演で、アルジェリアの爆弾テロ事件について、「もし、アルカイダが背後におり、彼らがアルカイダに属していたら、アルカイダは殺人犯だ」「コーランはこうした行為を糾弾している」と非難したそうです。
日頃、「弱者がテロリズムに頼るのは自然なことだ」と、テロ行為に一定の理解を示しているカダフィ大佐にしては異例の発言ですが、サルコジ大統領が大佐との会談で“アルジェのテロを公衆の前で糾弾するように強く勧告した”という背景があるそうです。
原子力や資源でフランスとの関係を深めるカダフィ大佐にとっては、テロ批判などお安い御用だったでしょう。
とかく“目立つ”外交が多いフランスですが、“目立つ”ことはリスクが増えることも意味します。
もっとも、フランスにとって北アフリカ、マグレブ地域との関係では、国外のテロ等の問題よりは、国内の北アフリカ移民の問題の方が、はるかに大きく深刻な問題でしょう。