孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アルジェリア  連日の爆弾テロ

2008-08-21 16:05:26 | 国際情勢

(何もない砂漠とういうのは、不思議な美しさを持っています。 アルジェリアのサハラ “flickr”より By albatros11
http://www.flickr.com/photos/albatros11/2603642404/)

【連続テロ】
連日世界の各地から爆弾テロのニュースが伝えられています。
イラク、アフガニスタンといった紛争地域はもちろん、パキスタン、インドなど政情不安の要素を抱える国でも多く発生しています。
最近では中国のウイグル族関係も注目されています。

そんな中で、世界的に注目されるような紛争が起こっている訳でもないのに、比較的この種のニュースが多いのがアルジェリアのように感じます。
19日には、アルジェリアの首都アルジェ東方約50キロのイセルズで、警察学校を狙った爆弾テロが発生。
43人が死亡し、45人が負傷するという大きな被害が出ました。
翌20日にも、こんどは首都アルジェ南東約150キロのブイラの軍施設などで爆弾テロがあり、11人が死亡、11人が負傷しています。

【イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ組織】
両事件とも犯行声明は出ていませんが、国内で反政府テロを繰り返す「イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ組織」(AQIM)による犯行の可能性が高いとされています。
アルジェリアでは同組織が関与したとみられるテロで過去1年半に200人以上が死亡しています。
また、今月17日には治安部隊が武装集団の待ち伏せ攻撃に遭って兵士ら12人が死亡するなど、19,20日のテロを含め今月だけですでに5件の自爆攻撃や襲撃が起きているそうです。

今年6月には鉄道線路の増設計画に携わっていたフランス人技術者らが標的になっており、昨年12月には国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)を狙ったとみられる自動車爆弾テロも起きています。
また、昨年9月にはブーテフリカ大統領を狙ったとみられる自爆テロで、大統領訪問を待っていた群衆15名が死亡しています。

「イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ組織」は、かつては「布教と聖戦のためのサラフ主義集団」(GSPC)と名乗っていました。
昨年1月、国際テロ組織アルカイダの最高指導者、オサマ・ビンラディン容疑者の許可を得て、名前を「イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ組織」に変更するとイスラム系のウェブサイトで明らかにしています。
ウィキペディアによると、03年11月にすでにアルカイダとの連携を発表しているそうですが、06年9月、アルカイダのナンバー2であるザワヒリ容疑者がアルジェリアの旧宗主国フランスへの攻撃をGSPCに呼びかけており、これが契機となってアルカイダとの共闘が進展したようです。

なお、国際テロ組織にあっては、“アルカイダ”という名称は一種の“ブランド”になっており、アルカイダを名乗ることで事件の世間での注目度も変わってくるということもあって、勝手に名乗るものも含めて、世界の多くの組織が“アルカイダ”を称するようになっています。

【AQIMとフランス、あるいは地中海連合構想】
AQIM関連で世界が注目した事件としては、今年1月5日に始まる予定だった自動車のダカール・ラリー中止があります。
昨年12月に、主要コースとなるモーリタニアを旅行中のフランス人家族4人がAQIM関係者によって殺害される事件を受けて、テロ警戒を強めるフランス政府が中止を促したことによります。

組織名称にある“マグレブ”というのは、リビア、チュニジア、アルジェリア、モロッコなど北西アフリカ諸国を指します。
アルジェリアの国情については皆目見当がつきませんが、ウィキペディアによると「1965年に軍事クーデターが起き、1989年に憲法が改正されるまで軍による独裁が続いた。1991年の選挙でイスラム原理主義政党のイスラム救国戦線が圧勝すると直後の1992年1月に軍によるクーデターがおき、選挙結果は事実上無効になった。これにより1992年以降イスラム原理主義過激派(武装イスラム集団など)によるテロが活発化し、国内情勢は不安定化した。最近は沈静化しつつあるものの・・・・」とあります。

この92年の軍事クーデターによるイスラム原理主義政権の崩壊が背景にあるようです。
“最近は沈静化しつつある”の“最近”がいつを指すのか明らかではありませんが、現在は十分に活発化しているにも見えます。以前はもっと頻繁だったのでしょうか。

AQIMはフランス、スペイン、米国の影響力をマグレブ地域から排除することを狙っていると言われています。
一方、フランス・サルコジ政権は“地中海連合構想”を打ち出し、アルジェリアやリビアなどと核協力を含むエネルギー分野の関係強化を図っています。
その意味で、フランスとAQIMは正面からぶつかる関係になっています。

なお、昨年12月、フランス訪問中のリビアの最高指導者カダフィ大佐が講演で、アルジェリアの爆弾テロ事件について、「もし、アルカイダが背後におり、彼らがアルカイダに属していたら、アルカイダは殺人犯だ」「コーランはこうした行為を糾弾している」と非難したそうです。

日頃、「弱者がテロリズムに頼るのは自然なことだ」と、テロ行為に一定の理解を示しているカダフィ大佐にしては異例の発言ですが、サルコジ大統領が大佐との会談で“アルジェのテロを公衆の前で糾弾するように強く勧告した”という背景があるそうです。
原子力や資源でフランスとの関係を深めるカダフィ大佐にとっては、テロ批判などお安い御用だったでしょう。

とかく“目立つ”外交が多いフランスですが、“目立つ”ことはリスクが増えることも意味します。
もっとも、フランスにとって北アフリカ、マグレブ地域との関係では、国外のテロ等の問題よりは、国内の北アフリカ移民の問題の方が、はるかに大きく深刻な問題でしょう。



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パキスタン  アメリカの求める“テロとの戦い”と“民主化”の果てに

2008-08-20 18:54:26 | 国際情勢

(2002年2月 アメリカ・ペンタゴンで会見するムシャラフ大統領とラムズフェルド国防長官(当時) “flickr”より By pingnews.com
http://www.flickr.com/photos/pingnews/2012389506/)

【ブッシュ大統領は感謝している・・・】
パキスタンのムシャラフ大統領についてこのブログでは15日に「辞任?」という形で取り上げましたが、その後やはり辞任に追い込まれたことは報道のとおりです。

ムシャラフ大統領は既に国民の支持を失い、頼みの軍からも見放され孤立無援状態でしたので、“国民から同情する声はほとんど聞かれない。(昨年7月ろう城事件が起き、軍が突入した)「ラル・マスジッド」前では、神学生らが辞任を喜んでいた。・・・・・ムシャラフ氏は国営テレビでの辞任演説開始直前、政府による放送中断を懸念し、民放2局にも中継を認めた。数々の強権を発動し、メディア規制も続けた同氏だが、最後は政府の「強権発動」を恐れながらの孤独な幕引きとなった。”【8月19日 毎日】といった状況のようです。

これまでムシャラフ大統領を支えてきた・・・と言うのか、利用してきた・・・というのか、とにかく密接な関係にあったのがアメリカ。
そのアメリカの国家安全保障会議(NSC)の報道官は18日、「パキスタンの民主化に努力し、テロ組織アルカイダと戦ってきたムシャラフ氏にブッシュ大統領は感謝している」と述べたそうです。

ムシャラフ大統領がアメリカについてどのように思っているのか知る由はありませんが、なんだかいいように利用されたような感じもして、多少今回の辞任には同情を感じる部分もあります。
利用したのはお互い様でしょうが。

【アメリカが求めるテロとの戦い】
パキスタンにおけるアメリカの“影響力”“介入”については、今に始まった話ではありません。
故ブット首相の父親であるブット前首相の失脚、ハク将軍のクーデターにもパキスタンの進める核開発を嫌うアメリカの動きがあったとか、ソ連のアフガン侵攻を受けて、アメリカはパキスタンの核開発を容認し、さらにはアフガンでソ連軍と戦うムジャヒディーン(イスラム聖戦士)を育てるために軍事援助、経済援助するとか、ソ連軍のアフガン撤退後は用済みになったイスラム主義のハク大統領が不可解な飛行機事故で死亡するとか・・・

ソ連のアフガン撤退以降はアメリカの関心はインドに移りパキスタンは捨て置かれるかたちなっていましたが、9.11で状況は再び変わり、テロとの戦いのパートナーとしてパキスタンが脚光を浴びます。
アメリカはムシャラフ大統領に協力を迫ります。協力の見返りには巨額の援助がなされています。

ムシャラフ大統領はアメリカの要請に応えるかたちで、イスラム過激勢力と袂を分かちテロとの戦いに乗り出しますが、特に昨年の「ラル・マスジッド」(赤いモスク)事件でイスラム過激勢力との対立が決定的となり、国内では爆弾テロが頻発、国民の支持が失われていきます。

【もうひとつの要求、民主化】
アメリカが要求したのが“テロとの戦い”と、もうひとつ“民主化”。
テロとの戦いを遂行する過程で政権基盤が揺らぎだしたムシャラフ政権にとって、この両者を同時に満たすことは困難でした。
アメリカが描いたシナリオは、国際的に受けがいい“民主的”な故ブット首相と軍を抑えるムシャラフ大統領の組み合わせでした。
ムシャラフ大統領も結局この線で動きますが、故ブット首相の帰国を許可すると、宿敵シャリフ元首相もドサクサ紛れで結局帰国が認められ、民主化を求める動きが野火のごとく広がります。

大統領再選強行突破のための非常事態宣言についても、権力基盤である陸軍参謀長兼務についても、アメリカは民主化を促すかたちで、ムシャラフ大統領に宣言解除と軍服を脱ぐことを求めます。
これも結局アメリカの要求を入れる方向で進みますが、参謀長を退き、非常事態宣言も解除した大統領に民主化を求める各政党の動きをコントロールする力はもはやなく、故ブット首相のテロによる死亡でアメリカの描いたシナリオもなくなり、拡がる民主化要求の流れに漂流するかたちで、選挙戦へ突入。
選挙での与党敗北後は殆ど実権を失いました。

【前長官復職問題】
ムシャラフ後の政局については、大方のメディアが報じているように危ういものがあります。
世俗主義的なパキスタン人民党(PPP)とイスラム主義的なシャリフ派ではなかなか・・・。
当面、チョードリー前最高裁長官の復職問題と新大統領の人選がありますが、過去のリベート要求で“ミスター10%”の異名があるザルダリ共同総裁の汚職追及をムシャラフ大統領が免除したことについて、チョードリー前長官が復職すると違憲と判断されるとのことで、PPP側も身動きが取りづらい状況です。
一方、シャリフ元首相の意向が強く反映されると、イスラム過激勢力の北西部、アフガンでの活動が更に活発化することも予想されます。

パキスタン北西部と連携するアフガニスタン国内のタリバン活動の活発化に伴い、パキスタンとアフガニスタンの関係は悪化していますが、パキスタンのキアニ陸軍参謀長が19日、アフガニスタンの首都カブールを突然訪問しました。
これは、両国関係の改善に乗り出したとみられています。【8月19日 朝日】

途上国の多くの国で軍事クーデターが頻発したり、国内的に軍部が大きな影響力を持っていますが、政治体制などの問題以外に、これらの国では優れた人材が軍に集中しているという事情もあります。
個人的には“ミスター10%”やムシャラフ憎しに固まるシャリフ元首相の足の引っ張り合いより、キアニ陸軍参謀長のアフガン訪問に期待を持ってしまいますが、それは民主化という大原則からすると困ったことです。


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イラク  カルバラ、シーア派イランの影響、スンニ派アラブ諸国との関係

2008-08-19 17:53:40 | 国際情勢

(シーア派の第3代イマームとされるフサインが殉教したカルバラのフサイン廟に集まるシーア派の巡礼者。 カルバラはバグダッドの南西およそ100km “flickr”より By James Gordon
http://www.flickr.com/photos/jamesdale10/2268402180/)

【テロの恐怖にも負けない巡礼者】
*****イラク・カルバラでシーア派宗教行事、300万人以上が参加****
イラクにあるイスラム教シーア派の聖地カルバラでは、17日未明に最高潮を迎えた同派の宗教行事に参加するため、300万人以上のシーア派信者が巡礼に訪れた。・・・・・イラク人シーア派信者は、巡礼団への攻撃が相次ぎ、14日以来36人の死者が出ていることにも動ぜず、同国各地から徒歩でカルバラ入りした。【8月18日 AFP】
**************

14日には、首都バグダッドの南60キロのイスカンダリヤで、聖地カルバラに向かう巡礼者の一団の近くで女2人(米軍発表では1人)が自爆し、18人が死亡、75人が負傷。
16日にはバグダッド北東部ウル地区で、やはり巡礼団を狙ったと思われる自動車爆弾が爆発し、6人が死亡、11人が重軽傷を負っています。
その他、バグダッド南部ザフラニヤ地区で巡礼に向け設置された検問所でも爆発があり、警官1人が死亡、5人が負傷しています。

宗派間対立を煽りたいテロリストにとっては、巡礼団は格好の標的になります。
それを承知で大勢の人々が宗教行事に参加する・・・・毎年のことながら信仰心の薄い者にとっては、この宗教的情熱には圧倒されるものを感じます。
まあ、300万人のなかの36名なら、日本国内だって交通事故でそのくらいのリスクはあるさ・・・と言えなくもないですが。

なお、イラク国内のテロについては、女性による自爆テロが急増しています。
夫を殺害されたり、拘束された女性の復讐心に武装勢力がつけ込んでいるもので、自爆志願者を勧誘する組織的なネットワークが存在すると言われています。
現実的な問題としては、イスラム特有の女性の服装が爆弾などを隠しやすく、また、検問所などでの女性の検査が比較的甘いことがあります。

これだけ女性の爆弾テロが多ければ、“公の場ではチャドルの着用を禁じる”としてもいいようにも思えるぐらいですが、現実にはたとえいかなるリスクがあろうが信仰にのっとったチャドル着用が当然とされており、リスク管理より宗教優先です。

【拡大するイランの影響】
イラク国内ではシーア派が人口の約6割、スンニ派が約2割といわれています。
大体アラブではスンニ派が主流ですから、シーア派主体は珍しく、それだけにシーア派国家の隣国イランとの絆も強いものがあるようです。
今年3月にはイラン・アフマディネジャド大統領がイラクを公式訪問したほか、イラク・マリキ首相は今年6月にテヘランを訪問。首相としてのイラン訪問は3回目になります。

かねがね、アメリカはイラク国内武装組織へのイランによる武器供給を問題にしています。
また、シーア派内の権力闘争で、マリキ政権とサドル師のマフディ軍との抗争が激化した際も、関係者がイランを訪問してイランの仲介で関係調整が行われました。
そうした軍事や政治の場面だけでなく、イランの影響力は大きなものがあるようです。

****イラン、イラクに電力供給****
バグダッドの北、ディヤラ州の首都バクバでは、1日12時間の電力供給しかなかった。55度の猛暑の中、扇風機、クーラーが使えなければ、商売や市民の健康さえ危うい。
しかし、2年前に締結されたイラン・イラク政府間の契約に従い、イランは4カ月前から電力供給を開始した。
今や停電は、特定の時間帯に2時間、時に4時間となった。送られてくる電気の電圧は必要な220-240ボルトを下回るが、それでも大幅な改善だ。
ディヤラ州電気局は、イラン側が送電線1本の電圧工事を行っており、1か月後に完成すれば電圧が上がるだけでなく電力供給時間も長くなると発表している。・・・・【現地発8月7日 IPS】
*********

市民生活、経済活動もイランからの支援が期待されている・・・という記事ですが、自国兵士の命を犠牲にしながらイラク治安安定に励むアメリカにとっては、そのイラクにイランの影響が拡大するという事態はなんともやりきれないところでしょう。

【関係構築に乗り出すアラブ諸国】
イランの影響拡大を懸念するのはアメリカだけではありません。
スンニ派が主導権を握る周辺アラブ諸国にとっても、シーア派イランの影響力拡大は悩ましい事態です。

***アラブ諸国:イラクに続々と大使館 シーア派イランに対抗****
イラク戦争(03年)後、治安上の懸念からイラクに大使館を置かなかったアラブ諸国が、続々とバグダッドの大使館開設を表明している。治安が改善傾向にあることが公式理由だが、イスラム教スンニ派が大半を占めるアラブ諸国にとって、イスラム教シーア派が国民の約9割を占める隣国・イランの影響力拡大に対抗したい意向が背景にある。・・・・・この2カ月間にアラブ首長国連邦やヨルダンなど6カ国が開設の意向を公式に表明。うち4カ国はすでに大使を任命した。・・・・・【8月19日 毎日】
*****************

上記記事に“ヨルダンのアブドラ国王はイラク戦争後、イラン、イラク、レバノン南部を「シーア派三日月地帯」と呼び、シーア派勢力拡大に警鐘を鳴らしてきたが、今月11日、アラブ諸国の元首として戦後初めてイラクを訪問。「アラブ諸国はイラクに手を差し伸べなければならない」と主張した。”ともあります。

いくらスンニ派・シーア派の違いがあるとは言っても、“アラブ諸国の元首として戦後初めてイラクを訪問”というのは冷淡に過ぎるような気がします。
マリキ首相がイランを頼るのも無理ないところです。

イラクはこのシーア派、スンニ派だけでなく、クルド人も存在します。
前にも触れたように、シーア派・スン二派の問題は同じアラブ人として利害調整も可能なように思えます。
それよりクルド人の処遇が難しそうに見えます。


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パラグアイ  元カトリック教会司教の左派大統領就任 増える中南米の左派政権

2008-08-18 17:07:30 | 国際情勢

(パラグアイ新大統領に就任したルゴ氏 元司教ですから人間的には素晴らしい方のようです。 あとは政治家としての資質・力量ですが。“flickr”より By Fernando Lugo APC
http://www.flickr.com/photos/fernandolugoapc/2769526660/)

【「解放の神学」とポンチョの穴】
南米パラグアイでは、4月20日に大統領選挙が実施されました。
元カトリック教会司教ルゴ氏の中道左派政権が誕生するか、60年以上におよぶ右派コロラド党政権が継続してパラグアイ初の女性大統領が誕生するかが注目されましたが、中道左派のルゴ氏が右派コロラド党政権に終止符を打つ歴史的勝利を収めました。

そのルゴ新大統領の就任式が8月15日、首都アスンシオンで行われました。
“AP通信によると、同氏は大統領報酬月額約6000ドル(約66万円)を「私には必要ない」として、貧しい人々のために寄付することを表明した。任期は5年。
 ルゴ氏は聖職者時代、カトリック教会の左派思想とされる「解放の神学」に傾倒。就任式には、ノーネクタイで素足にサンダルばきという聖職者時代と同様のスタイルで臨んだ。演説では「社会的に正しく、飢えのないパラグアイを目指そう」と呼びかけた。”【8月16日 毎日】

ウィキペディアによると「解放の神学」とは、「キリスト教社会主義の一形態とされ、民衆の中で実践することが福音そのものであるというような立場を取り、多くの実践がなされている。・・・・・解放の神学は特に社会正義、貧困、人権などにおいてキリスト教神学(概ねカトリック)と政治的運動の関係性を探る傾向を持つ。・・・・・・」とのことです。
民衆の心を捉える宗教家は、多かれ少なかれ、貧困などの困難に満ちた現実世界の変革者としての側面も持っているのではないかと思っていますので、上記のような立場はそうした宗教の原点に近いものがあるようにも見えます。
ただ、バチカンは拒否しているようですが。

新政権は保守から左派まで多様な政治勢力が結集した連立政権で、そのかじ取りが新大統領の当面の課題になると見られていますが、早速閣僚人事をめぐって、保守系・真正急進自由党と左派勢力の間の不協和音も報じられています。
ルゴ氏は中南米の伝統的な貫頭衣「ポンチョ」にたとえ、「私は左派でも右派でもない。ポンチョの穴と同じように真ん中だ」と話しているそうです。【8月17日 毎日】

【左派政権で埋め尽くされるアメリカの裏庭】
それにしても、中南米における左派政権の勢いは未だ衰えないようです。
南米だけでも、1998年に発足したベネズエラのチャベス政権以来、2003年にはブラジルのルラ政権とアルゼンチンのキルチネル政権、05年にはウルグアイのバスケス政権、さらに06年にはボリビアのモラレス政権、チリのバチェレ政権、ペルーのガルシア政権、エクアドルのコレア政権、07年にはアルゼンチンでキルチネルの妻のフェルナンデス政権と次々に大統領選挙で左派政権が誕生しています。
“コロンビアの親米ウリベ政権以外は全部”と言ったほうが早いような状況です。

中米でも老舗のキューバのほか、ニカラグアや今年1月に54年ぶりに左派政権が誕生したグアテマラなどありますが、正直なところ、カリブ海の国々には初めて聞く名前の国も多く、政治体制なども全く知りません。

左派政権と一口に言っても、従来からの社会主義思想にのっとったキューバ(最近変革も伝えられますが)、穏健な社会民主主義路線のブラジル・アルゼンチン・チリ・ウルグアイ、反米を強く打ち出すポピュリズム的なベネズエラなど、そのタイプは様々です。

中南米の左派政権拡張については多くの識者の分析等がありますが、左傾化のきっかけは90年代に米国が主導する国際通貨基金(IMF)が各国に押しつけた新自由主義政策にあるとする意見が多いようです。
新自由主義政策のもとで民営化や規制緩和・外資導入を過度に進めた結果、地場産業が崩壊し、失業が増大して格差が拡大した・・・この事態への反動が左派政権増加の土台にあると言うものです。

パラグアイで見ると、1/3から半分の国民が貧困に喘いでいると見積もられています。
また、“上位10%の人間が国富の43%を牛耳るが、下位10%の人間はわずかに0.5%にすぎない”、“10%の人口が国土の66%を所有し、その一方地方の人口の30%は土地を持っていない”という不平等があります。【ウィキペディア】
新自由主義改革により解決し得なかった貧困や失業などに対処するためには、社会政策を重視する「社会民主主義」が都合がよかったとも言えます。

このような動きを肯定的にとらえる立場からは、“アメリカの裏庭”という言葉が含意するアメリカ支配からの独立、「スペインの植民地支配からの解放につぐ第二の独立革命」といった表現もあるようですが、ベネズエラ・チャベス大統領は「植民地からの解放と南米の連帯」をかかげた“ボリバルの夢の実現を”と呼びかけています。

アメリカへの反発は、冷戦時代にアメリカがこの地域にたびたび介入し、多くの国に軍事政権が生まれ、思想の弾圧や虐殺などが繰り返されてきたという過去の歴史によるところも大きいように思われます。

【Dr.フランシスと日系移民】
さて、パラグアイですが、名前こそは知っていましたが殆ど馴染みがない国で、ざっとウィキペディア等で国情を見てみました。
独立は以外に早く1811年ですから、日本がまだ太平の眠りをむさぼっている頃です。
私が持ち合わせている19世紀から20世紀の世界の歴史は、日本周辺国と欧米列強に限定されており、当時ラテンアメリカがどのような状況にあったかなんて情報はスッポリ抜け落ちていることを改めて感じました。

パラグアイの近代史では、19世紀に長期独裁政治を行った“Dr.フランシス”などは興味深い人物です。
もとより現代的な人権とか民主化とは無縁の、反対する者は容赦なく処断する恐怖政治ではありますが、全国の公有地化を実現し、グアラニー族(先住民)とクリオージョ(南米生まれの白人)の集団結婚を政策的に推進して混血メスティーソを生み出し(クリオージョの反乱を防ぐためとか)、鎖国・保護貿易政策で列強による支配を防ぎ、国内産業の発展を導く・・・など、当時としては非常にユニークな政策を断行したようです。
神学を修めたまじめな性格の人物のようですが、この手の人物は現実に妥協することがないので怖いところもあります。

パラグアイと日本とのつながりとしては、日系移民7000人の存在があります。
「パラグアイにおける日本人移住の歴史」(http://federacion.hp.infoseek.co.jp/inmigracion/inmigracion.html)に詳しく紹介されていますが、他の南米移民同様、苦難の歴史があったようです。
しかし、その厳しい条件の中、日系移民が数々の困難に立ち向かい、原生林を切り拓いた実績は、パラグアイにおいて“勤勉な日本人”という印象を与え、その後の日本人移住者に対する大きな信用を形成しているそうです。特に、大豆や小麦生産・輸出で日系移民は大きな貢献をなしています。

南米はやはり距離的に遠いので旅行には時間もお金もかかるため、また、一部の国は治安がよくないとの噂も聞くため、なかなか行く機会がありません。
リタイアして時間がとれるようになったらいつかは・・・。

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グルジア  局地紛争から米・ロの世界戦略対峙の場へ

2008-08-17 13:32:19 | 国際情勢

(“flickr”より By Ivan <Georeferred Pictures! >
http://www.flickr.com/photos/ivanbustamante/2746556664/)

【停戦合意は成立したものの・・・】
グルジア・南オセチアでの軍事衝突については、15日のグルジア・サーカシビリ大統領に続いて、ロシアのメドベージェフ大統領も16日、停戦と事態正常化のための6項目の和平合意文書に署名して停戦合意が成立。
今後は国連安保理決議の採択が焦点となっています。

しかし、ロシアのラブロフ外相は16日、「ロシア軍撤退は追加的な安全保障措置が整ってからとなる」として、事実上即時撤退を拒否しており、ロシア軍はグルジアの首都トビリシの北西約60キロの都市ゴリや西部の港湾都市ポチなどへの侵攻と駐留を続け、現在、トビリシまで40キロほどに迫っている状況のようです。

グルジア政府はロシアの攻撃が「民族浄化」にあたるとして国連の国際司法裁判所に提訴しましたが、裁判にはロシアの同意が必要なことから、その後、ロシアによるグルジア人迫害の即時停止を求める仮保全措置の申請を行っています。
ロシアは逆にグルジアの南オセチア攻撃を「民族浄化」と批判、検察当局がグルジアの「戦争犯罪」の証拠集めのため南オセチア入りしています。
互いに相手の非道を訴えて、“正義”を自分に引き寄せようとしています。

【高まる“ロシアの脅威”】
今回の衝突は、ロシア側の挑発によるものか、サーカシビリ大統領の(アメリカ援助による)軍事力過信によるものか、ロシア側の対応を見誤ったためか、いずれにせよ、グルジア側の南オセチア侵攻で始まったことを12日のブログ「グルジア  開戦への思惑は? 強化された軍事力の誘惑?」で取り上げました。
しかし、国際的な見方は、その点よりも、どんな理由にせよロシア軍が国境を越えてグルジアに侵攻したことに強く反応しています。

和平仲介しているEU議長国のフランス・サルコジ大統領は12日、グルジア領の一体性は尊重されなければならないと述べながらも、ロシアが境界を越えて「ロシア語を話す住民」を防衛することは「普通のこと」だと、ロシアに理解を示す発言をしました。

しかし、スウェーデンのビルト外相が9日、「単に自国が発行した旅券を持っている個人や自国民がいるからといって、他国の領土に対し軍事侵攻する権利はいかなる国にもない」、「そのような外交政策を採用したからこそ、欧州は過去、戦争に陥ったのだ。ヒトラーがわずか半世紀ほど前に、中央ヨーロッパの広範囲を攻撃し、弱体化させるために用いたのは、まさしくこのドクトリンそのものだった。我々にはこのことを思い起こすだけの理由がある」と発言しているように、特に旧ソ連圏、ロシア周辺国で“ロシアの脅威”に対する不安・警戒が急速に顕在化しています。

国民の約三分の一をロシア語話者が占めるバルト三国のエストニアやラトビアにとっては、サルコジ発言は自国の安全保障を否定するものにもなります。
エストニアのパエト外相は9日、「ロシア系住民の防衛の必要性によって軍事侵攻が正当化されているとすれば、領土内にロシア系住民を抱えるすべての国にとって憂慮すべき事態だ」と発言しています。

また、エストニアのイルベス大統領は13日、かつのヒトラーの野心に対し有効な対策をとらなかったイギリス・チェンバレンの対独宥和政策こそが第2次大戦の悲劇を招いたという“過去の教訓”を強調して、ロシアと衝突するグルジアを欧米は見捨てることがあってはならないと警告しています。【8月15日 AFP】

“ロシアの脅威”はポーランドも動かしました。
ポーランドはこれまで難航していたアメリカとのミサイル防衛(MD)の施設配備をめぐる問題で、アメリカが地対空誘導弾パトリオットをポーランドに配備し、ポーランド有事に際しても軍事協力することで、わずか2日間で合意しました。

また、ウクライナも自国セバストポリに駐留するロシア海軍の黒海艦隊が今回の紛争でグルジアへの事実上の海上封鎖に使用されたことに反発し、同艦隊の出港を規制する大統領令に署名。
また、ロシアを中核に旧ソ連諸国で構成する独立国家共同体(CIS)脱退を決めたグルジアに呼応して、ウクライナの与党「われらのウクライナ」は14日、CISからの脱退を政府に求める法案を上程しています。

【関与を強めるアメリカ】
こうした周辺国の態度硬化を受けるかたちで、その後ろ盾としてのアメリカは「最近数日の動きをみると、ロシアは自由世界諸国との信頼や関係を損ねている。脅しや威嚇は21世紀の外交政策としては受け入れられない」など、連日強くロシアを非難しています。
また、グルジアへの大規模な人道支援を米軍主導で開始することを明らかに、アメリカのプレゼンスを明確にする方針です。

アメリカは今回の衝突で、ロシア側の素早い行動を十分把握しきれなかったところがあり、NATO東方拡大を進めるアメリカの世界戦略へのロシア周辺国の信頼をつなぎとめるためにも、ロシアの“野心的行動”を封じ込めるためにも、グルジア支援への積極的な関与を強めるものと見られます。

【衝突する世界戦略】
ソ連崩壊で世界的な影響力を失ったロシアですが、近年の急速な経済発展で国力を回復し、豊富な資源を梃子にその影響力を次第に強めつつあります。
アメリカの1極支配体制を揺り動かし、“多極化”を推し進めようとしています。
その国家戦略の中枢に位置しているのがガスプロム。

“ガスプロムは、ロシア最大の企業であると同時に、世界の天然ガス埋蔵量の16%をおさえる世界最大のガス採掘業者である。同社は、90年代にロシア国内の石油会社を買収し、石油とガスの埋蔵量合計が世界一となった。株式の時価総額は世界の全企業の中で第3位、所有するパイプラインの総延長は15万キロと世界一である。露政府の税収総額の25%を納税し、ロシアのGDPの8%を稼いでいる。”
(田中宇 エネルギー覇権を広げるロシア http://tanakanews.com/080805russia.htm

現在、ヨーロッパ諸国が使う天然ガスの3割近くがガスプロムによって供給されており、ウクライナとのトラブル時の供給削減で、ロシアがヨーロッパ諸国のライフラインを押さえていることを明確に示しています。
更に、経済性を度外視したトルクメニスタンの天然ガス囲い込み、リビア、イランなど資源国への接近によって、その影響力を高めつつあります。

この動きは、ポーランド・チェコへのMD施設配備、ウクライナ・グルジアのNATO加盟推進によって、ロシアの影響力を封じ込めようとするアメリカの戦略との緊張を高めてきましたが、グルジア・南オセチアの軍事衝突への対処をめぐって、一気に“冷戦”へ発展する危険性も見せ初めています。

ブッシュ政権内では、ロシアの世界貿易機関(WTO)加盟への反対や、主要8カ国(G8)首脳会議からの排除なども検討されているとも報じられています。
また、米下院では超党派の議員がロシアのグルジア侵攻に抗議するため、ロシア南部ソチで予定される2014年冬季五輪の開催地変更を国際オリンピック委員会(IOC)に求める決議案を作成しています。

ロシアも国際経済から孤立しては、経済的に失速してしまいます。
アメリカもアフガニスタンがうまく進展せず、イランも有効に封じ込めない現状で、どれだけ強硬な外交を維持できるのか?
ヨーロッパはロシアにエネルギーを依存しているなかで、どのようなスタンスを取るのか?

そして日本。
新“冷戦”ともなれば、日本はアメリカの対ロシア封じ込め政策の東の最前線に位置します。
北方領土問題を抱えながら、どのようにロシアに対処するのか?
それぞれの国が新たな戦略を要求されます。

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ネパール  ようやくマオイストの新首相選出

2008-08-16 12:56:43 | 国際情勢

(今年6月6日 カトマンズでのマオイストの集会 “flickr”より By rex dart: eskimo spy
http://www.flickr.com/photos/chicagolau/2641619152/)

【遅れた首相選出】
今年4月10日に投票が行われたネパール制憲議会(定数601=小選挙区240、比例区335、指名26)選挙は、大方の予想を裏切りネパール共産党毛沢東主義派(マオイスト派)が圧勝、220議席を獲得して第1党になりました。
90年代から政権を担ってきたネパール会議派と統一共産党はそれぞれ110議席、103議席にとどまり、暫定政府のコイララ首相は5月24日、第1党になるネパール共産党毛沢東主義派のプラチャンダ議長(58)に組閣を要請しました。
そして、ネパール制憲議会はようやく8月15日、新首相にプラチャンダ議長を選出しました。

この間、5月28日には、制憲議会は王制廃止と共和制移行について採決を行い、圧倒的多数の賛成(賛成560、反対はわずか4)で採択、240年続いた王制が正式に廃止され、同国は共和国となりました。

しかし、大統領選出をめぐり紛糾。
大統領ポストは、5月の制憲議会で王制廃止と同時に設置が決まったポストです。
新体制では実権は首相が持ち、大統領は儀礼的存在ですが、軍最高司令官の肩書が与えられます。

この王制廃止に伴う新たな国家元首となる大統領を選出する投票は、7月19日制憲議会で行われました。
毛派は武装解除には応じたものの、依然兵力を維持しており、また、これまで王制廃止以外には明確な政策を示していないこともあって、各政党には毛派への警戒感が根強く存在しています。

第1党の毛派が推薦するシン氏と第2党ネパール会議派のヤダフ幹事長の対決となり、第1回投票では当選に必要な過半数を得た候補がなく、再投票を行うことになりました。
なお、シン、ヤダフ両候補とも、南部テライ地方出身。
インドからの比較的新しい移住者が多い南部住民(マデシあるいはマドヘシ)は近年、自治権拡大を主張して政治的発言力を強めており(制憲議会選挙でも躍進)、大統領選出でもマデシ系政党の支持獲得がカギになると見られたため、毛派、会議派とも南部出身者を候補に擁立して臨みました。
このあたりも、毛派勝利、王政廃止ほど目立ちませんが、新しいネパールの流れです。

その後7月21日、再投票で第3党の統一共産党はじめ少数政党の票を幅広く集めた第2党ネパール会議派のヤダフ幹事長が初代大統領に選出されました。
この結果を不満とする毛派は、新政府の組閣を拒否する方針を決め、一時政局は混迷しました。
自派に対する周囲の強い警戒感に毛派が“すねた”ような形ですが、もともと選挙で圧勝したことも、一番予想外だったのは毛派自身だったのではないかという状況ですので、大統領ポストまで全部を望むのは“欲が深すぎる”きらいはあります。

そんな混迷もありましたが、ようやく毛派のプラチャンダ議長首班指名に漕ぎつきました。
大統領選出で会議派についた第3党の統一共産党、南部のインド系住民でつくる第4党のマデシ人民の権利フォーラムが、今回は毛派支持に回ったそうです。

【課題:毛派兵士の国軍統合】
今後の最大の政治課題は、2万人いる毛派兵士と国軍の併合問題と見られています。
プラチャンダ議長はこれまで「06年の政府との和平合意の際、国軍統合が約束されていた」と主張し続けています。しかし、国軍は「ゲリラと正規軍では戦い方も思想も違う」と拒否。他の政党勢力も「別の治安組織を新設する方が現実的」と否定的だといわれています。

毛派兵士達も自分等の将来に強い不安を抱いています。
5月末時点でのルポでは、ネパール南西部の山奥で「統合の準備」を名目に“模造銃”などを使用して軍事訓練を続けているそうです。
07年1月から始まった国連監視下での武装解除で、宿営地内に国連の監視員が常駐、武器は鍵のかかった倉庫に保管されています。

平均年齢25歳という若者達で、「我々は兵士以外の生きる道を知らない。国軍統合がかなうことを願うしかない」という言葉が紹介されています。
なお、制憲議会選挙に新党を率いて日本国籍も捨てて出馬、落選した長野県出身の宮原巍さんは「(ネパールに対してはインドが大きな影響力を持っており)最近のインドの新聞によると、マオイストに職業訓練をすることを主張しており、今後インドの出方が注目される。」と語っています。
その処遇をめぐって、新政権の安定を揺るがす火種にもなりかねない難しい問題です。

【王政廃止で祭りは?クマリは?】
ところで、王政廃止したことに絡んでこんな記事もありました。

****王政が廃止されたネパール、祭りは誰が主催する?****
【8月14日 AFP】今年5月に王政が廃止されたネパールでは、ヒンズーの数々の重要な祭りを誰が執り行うべきか、議論になっている。
ネパール人は、節目節目で祭りを行うが、同国が最も頭を悩ませているのが、国王が主催する祭りだ。こうした祭りでは、ヒンズーの神・ビシュヌ神の化身とされる国王が国民の祝福を受けることになっている。
前年のインドラジャトラの祭りでは、暫定政府のコイララ首相が国王の役割を引き受けた。
1768年から続くこの祭りでは、生き神「クマリ」が国王を祝福することで、国王による統治が暗黙裏に承認されるという意味合いがあった。
だが、4月の制憲議会選挙で第1党となり、次期政権に就くことが確実なネパール共産党毛沢東主義派(毛派)は、ヒンズーのカースト制を批判して王政の廃止に尽力してきただけに、そうした役割を引き受けるとは考えにくい。
*************

たとえ毛派のプラチャンダ新首相が拒否しても、大統領が祝福を受ければすむ問題かとは思いますが、個人的に気になるのは“生き神”「クマリ」の今後のほうです。
ネパールでは厳しい基準で選定された初潮前の少女が“生き神”「クマリ」として崇められています。
特に、首都カトマンズのクマリの場合、“クマリの館”と呼ばれる建物で家族ともはなれ、外界とは遮断された形で“生き神”として暮らします。当然学校にも行かず個人授業になります。

このような生活が人格形成に多大の影響を及ぼすことは言うまでもなく、しかもクマリの場合、初潮を迎えるなどによって現実世界に戻って暮らすことを余儀なくされます。
年金は支給されるようですが、現実生活にうまく適応できないケースも多いように聞いています。
“クマリの館”での“隔離生活”は、一種の児童虐待ではないか・・・との考えもあります。

クマリの“霊力”を文字どおり信じる立場ではまた違った考えになるかとおもいますが、私などは「伝統文化のなかでの役割を果たし、国民統合の象徴として機能するという意味では、長年の隔離生活などは不要で、セレモニー数日前に禊をする程度でいいのでは・・・」と考えます。
王政も廃止された今、伝統文化も現実世界との共存を考える必要があるのではないでしょうか。
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パキスタン  弾劾始まるムシャラフ大統領 辞任?

2008-08-15 14:37:43 | 国際情勢

(昨年11月、ムシャラフ大統領の退陣を求める抗議デモ まだブット元首相が存命時のPPPによるデモではないでしょうか。このときはムシャラフ大統領によって故ブット元首相は軟禁下におかれました。 あれからまだ1年にもなりませんが、情勢は大きく変わりました。 “flickr”より By groundreporter
http://www.flickr.com/photos/16901703@N06/2003269186/)

【ムシャラフ大統領辞任?】
“約9年間の在任中、国家を政情不安と経済混乱に陥れた”として弾劾手続きが始まっているパキスタンのムシャラフ大統領が辞任する意思を固めているとの報道がありました。

****パキスタン大統領、弾劾回避し辞任へ=FT****
パキスタンのムシャラフ大統領は弾劾を回避して辞任する見込み。英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)電子版が14日、政府筋と大統領側近の話として伝えた。
匿名の政府高官が同紙に語ったところによると、大統領と連立与党の間で合意が成立した。同高官は「大統領は弾劾されず、いかなる容疑でも訴追されることはない。パキスタンにとどまる」と語った。
FT紙によれば、ムシャラフ大統領はイスラマバードに所有する農場へ引退し、辞職後は起訴されないよう要求した。政府高官は同紙に、軍部も大統領の要求を受け入れるよう求めていると述べた。【8月15日 ロイター】
******************

【狭まる包囲網】
ムシャラフ大統領については、これまでもたびたび辞任は不可避“とか辞任のうわさ”は報じられてきました。
今回の報道も、今のところ他紙の報道はなく真偽のほどはよくわかりませんが、まことしやかな連立与党との取引合意の内容などが伝えられるあたりは、いよいよ追い詰められてきたのかな・・・という感じがします。

政権与党のパキスタン人民党(PPP)のザルダリ共同総裁とイスラム教徒連盟ナワズ・シャリフ派のシャリフ元首相がムシャラフ大統領の弾劾手続きを開始すると発表したのが7日。
両党は反ムシャラフを掲げ2月の総選挙で躍進し、PPPのギラニ氏を首相とする連立政権を樹立しましたが、5月には、先の大統領選挙無効に直結する前最高裁長官の復職をめぐる立場の違いから、シャリフ派閣僚9人全員が辞任して連立から離脱。(閣外協力は持続)

これまでPPPはムシャラフ大統領の追い落としはあまり急がない対応をとっていましたが、食料品価格やガソリン高騰に対する国民の不満が高まり、また、ギラニ政権が進めたアフガニスタン国境沿いの武装勢力との対話路線も破綻、そうした状況で、PPPは国民の不満をそらし政策の行き詰まりを打開する狙いもあって、大統領追い落としに積極的なシャリフ派(シャリフ元首相はムシャラフ氏ら軍部のクーデターで政権を追われた経緯があります。)と共同して大統領弾劾に乗り出したとみられています。

弾劾決議には上下院の合同集会で3分の2以上の賛成が必要です。
下院(定数342)では、今年2月の総選挙で大勝した両党など反大統領派が253議席を占めますが、上院(定数100)では大統領派が48議席を保持しているため、弾劾の実現は微妙と見られています。
ムシャラフ大統領側はこれまで「弾劾の動きとは闘う」と表明しており、対抗策として議会の解散や非常事態宣言の可能性も取り沙汰されていました。

下院では11日大統領の弾劾手続きに向けた協議が始まり、また、パキスタン最大のパンジャブ州の州議会で同日大統領は人民の信頼を失っており、退陣するか弾劾されるべき“との決議案が可決されたことから、ムシャラフ大統領への辞任圧力がさらに強まっています。
国会には月内に弾劾案が提出される予定です。

最近公の場での発言が殆どないムシャラフ大統領は14日、独立記念日の演説を行いました。
自身の弾劾問題には触れず、「国内経済を軌道に乗せ、テロと戦うには、政治の安定が必要だ。政治の安定が実現できなければ、適切な対応はできない」と述べています。
パキスタン金融市場では、政局の先行き不透明感を嫌気して、パキスタンルピーが最安値を更新。株価も2年ぶりの安値近辺で推移しているそうです。

【テロとの戦いの要】
上記のようなムシャラフ包囲網が狭まるなかでの、冒頭のロイターの辞任記事ですが、どうでしょうか?
ムシャラフ大統領の去就が注目されるのは、アメリカが進める“テロとの戦い”にあってパキスタンが要の地位を占めているからです。
アフガニスタンのタリバン勢力、また、アルカイダ勢力はパキスタン北西部国境隣接地域のトライバルエリアを根拠地にしていると常々指摘されており、アメリカにとってパキスタンの協力はアフガニスタン情勢、更にはイランを含めたこの地域の安定化とって重要なポイントになっています。
最近は、これまで比較的落ち着いていたインドとのカシミール問題も騒がしくなってきています。

【ISIとイスラム過激派】
かつてタリバン成立、そのタリバンによるアフガニスタン支配をパキスタンの軍情報機関である三軍統合情報部(ISI)が推し進めたと言われていますが、最近のイスラム過激派によるアフガニスタンのカイザル大統領暗殺未遂事件(4月)、カブールのインド大使館前の自爆テロ(7月)、インド国内連続爆弾テロ(7月)といった事件には、いつもISIとの関連がうわさされます。

パキスタン関連のニュースを見聞きしていて、このISIとイスラム過激派との関係がよく理解できません。
ISIは軍中枢にあり、ムシャラフ大統領などの軍事政権の権力基盤でもあります。
昨年までISI局長はキアニ中将で、彼はタリバーン、アルカーイダとパキスタンの戦いの最前線に立ち、政治面でムシャラフ大統領を補佐してきた人物で、ISI局長を辞して大将に昇進し、ムシャラフ陸軍参謀長辞任後の新参謀長を任されたほどムシャラフ大統領の信任の厚い人物です。
(もっとも、ムシャラフ大統領が追い詰められるにつれて、キアニ参謀長の忠誠がこれまで同様続くのか?という点については多くの人が注目しているところですが)
後任のISI局長には、やはりムシャラフ腹心のタジ中将が就任しています。

そのISIとイスラム過激派との関連がいつも指摘されている一方で、軍・警察がいつもイスラム過激派のテロの対象となっています。
先日12日もパキスタン北西部ペシャワルで、物資を積んで空軍基地からペシャワルに向かっていた空軍のバスが橋を渡った際に爆発が起き、少なくとも13人が死亡、15人が負傷しています。 

アメリカと共同してテロとの戦いを進める軍事政権の中心にあるISIがイスラム過激派とつながり、そのイスラム過激派の攻撃の標的に軍そのものがなっている・・・私が軍関係者なら、そしてISIとイスラム過激派のつながりが本当にあるなら、ISI本部に砲弾を撃ち込むところですが・・・どうもこのあたりの関係が理解できません。

いずれにせよ、ムシャラフ大統領の辞任がいつ報じられてもおかしくない情勢ですが、ここからの粘り腰があるのでしょうか?


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ジンバブエ  五輪で活躍するコベントリー選手 もつれる与野党間協議

2008-08-14 14:18:40 | 国際情勢

(女子200m個人メドレーで力泳するコベントリー選手・・・だと思うんですが。スイミングキャップの両側に“CO”RY”と見えますし・・・。flickr”より By RoomService_Sport
http://www.flickr.com/photos/26505308@N03/2760157825/)

【北京で銀3個】
北京オリンピックの女子競泳でジンバブエのカースティ・コベントリー選手が活躍しています。
100m背泳ぎ、200m個人メドレー、400m個人メドレーの3種目で銀メダルを獲得しています。
200m背泳ぎはまだ残っていますが、この種目でも世界記録を出したりしていますので、メダルが期待されます。
彼女はアテネでも金、銀、銅各1個、計3個を獲得した実力者です。

彼女の活躍に目が止まるのは、ジンバブエの選手であるということ、そして彼女が白人であるということです。
今年6月に行われたジンバブエ大統領選挙をめぐる不正・混乱はいまだに決着がついていません。
その混乱の背景のひとつである経済崩壊・ハイパーインフレーションは世界でも戦後最悪の状況を呈しています。

もちろんスポーツと政治は別もの、ましてや人種・民族とは関係ない・・・そうありたいものです。
しかし、現実問題としては内戦が続くような国ではスポーツどころではないという1点を見ても、また、北京五輪が中国の悲願達成として行われている点においても、スポーツは政治情勢によって強く影響されています。

ジンバブエは先述のように混乱のさなかにあり、経済も崩壊している国です。
競泳種目のためには、まずもってプールという維持にも費用がかかる施設が必要です。
コベントリー選手は普段どうやって練習を行っているのだろうか?
外国で練習しているのだろうか?・・・という素朴な疑問を感じた次第です。

【暴力による白人排斥】
更に、よくわからないのが、ジンバブエ社会における白人の現在の地位です。
ジンバブエは、かつてはローデシアという国名で、白人が全ての実権を握るアパルトヘイト政策で悪名高い国でした。
その後、現在物議をかもしているムガベ大統領が中心となって現在のジンバブエとして再出発します。
当初は白人地主の権利を温存し、白人閣僚も受け入れる融和・共存の姿勢でスタート。
世界的(欧米的と言うべきでしょうか)にも高く評価されて、アフリカにおける黒人国家のモデルケースとも言われていました。

しかし、穏健な農地改革政策は破綻し、諸般の経緯でムガベ大統領は白人との対決姿勢に転じました。
そして、独立戦争を戦った黒人元兵士による白人農地襲撃を追認し、実力で強制収用する政策を実施しています。(自らの政策失敗を糊塗するために、敢えて人種対立を煽っているとも言われます。)
無計画な農園・企業の黒人化によって、生産ノウハウが失われ、生産は低下、激しいインフレーションに見舞われています。
(このあたりの話は、7月24日 “「ケニア方式」は実現できるか?” http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20080724
など何回か取り上げてきたところです。)

白人農園襲撃、暴力による人種対立扇動は論外ですが、1%にも満たない白人が全国の6割の農地を支配するといった状況が独立後も続いてきたことをどのように評価するかは、考慮すべきことがいろいろあろうかと思います。

結果的に、上記のような暴力的な白人農園主への襲撃などで、約4600人いた白人農場主は400人足らずに減っているとも言われています。
白人人口全体も減少しています。
前置きが長くなってしまいましたが、そんな状況で白人のコベントリー選手がジンバブエ国内でどう評価されているのかが非常に興味深く思えたのです。
金メダルでもとると、ムガベ大統領からお褒めの言葉はあるのでしょうか?


(昨年アルジェリアで開催されたアフリカ大会でコベントリー選手を応援するジンバブエ応援団 やはり肌の色は関係ないようにも見えます。”より By One Del?
http://www.flickr.com/photos/land2romeo/811885653/

【MDC少数派も絡んで・・・】
さて、ジンバブエ国内の政治状況、大統領選挙後の混乱(第1回投票で敗北したムガベ大統領側が、決選投票に向けて激しい弾圧を行って対立候補の決選投票参加を不可能にし、ムガベ大統領だけの形式的信任投票の形で選挙に“勝利”したとしていること、及び、その状況を認めない野党勢力の動向)収束のための与野党間協議の件です。

ムガベ大統領と第1回投票で1位となった最大野党「民主変革運動(MDC)」のツァンギライ議長は、これまで断続的に協議を続けてきましたが、なかなかまとまりません。
南アフリカのムベキ大統領も、重い腰をあげて調停に動いています。

多くが想定している決着の形は「ケニア方式」です。
ジンバブエと同じように大統領選挙の不正疑惑が大勢の犠牲者を出す内紛状態となったケニアでは、新たに首相ポストを設けて、大統領と首相で権力を二分する形で政治的決着を図りました。

ジンバブエでは、当初ツァンギライ議長を副大統領に(すでに2名副大統領が存在しますので、実質的には第3副大統領となります。)という案もだされましたが、実権のない第3副大統領をツァンギライ議長側が拒否。
その後、ケニア方式で首相ポストが検討されてきましたが、新たな首相ポストの権限について合意が得られていませんでした。

そんな折、ムガベ大統領と野党・民主変革運動(MDC)内のムタンバラ氏が率いる1派閥との間で、連立政権に向けた合意が成立したことが報じられました。
この合意にはツァンギライ議長は含まれていないようです。
与野党間の協議にMDC分派のムタンバラ氏が参加していることは報じられていましたが・・・。

ツァンギライ議長はMDC内の主流派を率い、一方のムタンバラ氏は少数派を率いており、大統領選挙前の立候補段階では、両者で統一候補擁立が出来ず、MDCは候補を出せないのではないかとの情報がありました。
そうした情報から想像すると、両者の間には相当の確執がありそうです。

ムタンバラ氏は記者団に、与野党間協議は1つの問題を除いてすべての点で合意に至ったと述べたうえ、「ツァンギライ(議長)は自派で協議を行うための時間を要求した。彼は1つの問題に対し、3度合意し3度翻意した」と語っています。
一方、与野党間協議の仲介役を務めていた南アフリカ・ムベキ大統領は、「いかなる合意にも至っていないが、3者による合意が成立することに自信をもっている」と語っています。【8月14日 AFP】

【手が届くか?金メダル】
冒頭で紹介したコベントリー選手は大活躍ですが、今のところ金メダルにはあと1歩のところで届かないレースが続いています。
ツァンギライ議長も大統領選挙でムガベ大統領を追い詰めるところまではいきましたが、政権獲得は・・・どうでしょうか?
コベントリー選手は得意の200m背泳ぎで金を目指します。


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スーダンのナツメヤシ、アラギとセネガルのバオバブの実

2008-08-13 14:56:30 | 世相

(マダガスカルのバオバブ並木 バオバブのイメージはこんな感じですが、セネガルのバオバブの写真はもっとずんぐりゴツゴツしたもの。 種類が違うのでしょうか? “flickr”より By danielguip
http://www.flickr.com/photos/danielguip/96213417/)

【スーダン:ナツメヤシまたはアラギ】
スーダンと言うと、ダルフール問題や南北間の対立など、政権を担うアラブ系とアフリカ系住民の間の民族問題が深刻な国です。
そんな民族対立、文化的衝突の影響を、ちょっと変わった角度で紹介した記事がありました。

****スーダンで、イスラム教が禁じる酒をつくる女性たち*****
スーダンの首都ハルツームから北に15キロのところにあるハルファヤで、イスラム教徒の女性、ザキア(Zakia)さん(23)はナツメヤシの実を発酵させた「アラギ」と呼ばれるお酒をつくって売っている。
イスラム法「シャリーア(Sharia)」が適用されている同国では、アルコールの醸造はもちろん禁止されているが、夫が家を出て行ってしまったためにザキアさんが母親、兄、7人の姉妹、めいという大家族を養わなければならない。
実際、ハルファヤでは、アラギをつくる女性は数千人にのぼる。この地には、紛争に見舞われた南部、西部、東部から逃れてきた難民たちが暮らすキャンプがひしめき合う。

コーランが禁止しているアルコールで利益を得ていることについて、「単なる商売だから」と割り切るザキアさんだが、危険な商売でもある。警察による摘発は頻繁だ。刑務所に収容されている女性の約90%は「アラギを売った」ために逮捕された人たちだという。
だが、警察はイスラム教を盾にこうした摘発を行いながらも、押収したアラギを売り飛ばして乏しい給料の穴埋めをしているとの指摘もある。見逃してもらおうと身体を提供する女性もいるという。
そうした女性たちが収容されるオムドゥルマンの刑務所は、定員オーバーで、じめじめしており、衛生状態も悪い。看守の暴力も日常茶飯事だという。

スーダンの中央政府はアラブ系のため、イスラム法が適用され、アラブの文化が指向されている。
しかし多くの国民が、自分を「アフリカ人」と見なし、アルコールの醸造と摂取が認められている部族文化に根付いている。
女性たちの職業訓練を行う慈善団体を運営している医師は、「アラギはスーダンの文化であり、犯罪ではない。アルコールでもない。われわれアフリカ人は(1956年に英国から)独立以来、アラブの文化を持ったアラブの政府に統治されてきた。彼らはアフリカではないものを押しつけようとしている」と語った。【8月12日 AFP】
*************

日本国内にいろんな地酒があるように(私の住む奄美大島なら黒糖焼酎とか)、世界各地にもその土地特有のお酒があります。
私は付き合い程度にしか飲めないので、旅行中に見聞きするいろんなアルコール類も試す機会がなく、ちょっと損した気分をいつも感じています。

記事で紹介されている“アラギ”ですが、一般的に言うところの“アラック”の一種のように思われます。
ウィキペディアによると、“アラック、あるいはアラクは、中近東、特にイラク、シリアを中心とし、エジプトやスーダンのような北アフリカ地方などでも伝統的につくられてきた蒸留酒。もともとはナツメヤシやブドウといった中近東乾燥地帯原産の糖度の高い果実を醗酵させてから蒸留した酒であるが、イスラム文化の拡大とともに中近東の蒸留技術が各地に伝播し、その土地の伝統的な様々な醸造酒を蒸留してローカル色豊かなアラックがつくられるようになった。”とのことです。

東南アジアでよく見かけるヤシの花穂から採った樹液でつくるヤシ酒もそのひとつです。
ネパールなどではコメから作っていたように思います。
ギリシャではレーズンをベースに、アニスなどハーブで香り付けした“ウーゾ”(個人的にはほろ苦い思い出のある酒です。)など。

アラギのベースになるナツメヤシの実(デーツ)は見事なまでにたわわに実ります。
あたり一面を埋めるナツメヤシに、“こんなにたくさんのデーツを一体どのように処分するんだろうか?”と人事ながら心配になるぐらいです。
預言者モハメッドも好んだと言われるデーツはエジプト旅行時に胃もたれするぐらい食べましたが、干し柿を更に甘くしたような懐かしい味です。
おいしいのですが、非常に甘いのでカロリーコントロールの大敵です。

一介の旅行者には旅の思い出にすぎないアラギにも、暮らしの中では社会の問題が重くのしかかっています。

【セネガル:バオバブ】
スーダンのナツメヤシの実の話に続いて、セネガルからはバオバブの木の話題。

****健康食品として欧州で注目のバオバブ、西アフリカ経済の起爆剤になるか****
「命の木」とも称されるバオバブは、アフリカ大陸のサバンナに太古から存在する木だ。さかさまに植えたように見えるために「さかさまの木」とも呼ばれる。
地元の人々は、バオバブの木を余すところなく使用する。種は調クッキングオイルに、樹皮はロープになる。実は腹痛に、葉は疲労回復に効くとされる。
バオバブの実は、オレンジの3倍のビタミンC、コップ1杯の牛乳よりも多くのカルシウムが含まれているとされる。しかも、バオバブの木は乾燥に強く、干ばつにも洪水にも耐え、耐火性もある。

Fandene村に住む農民たちは、バオバブの実を近くの町の市場で売っていたが、3年前から「Baobab Fruit Company」に売るようになった。3人のイタリア人が経営する同社は、同国唯一のバオバブの実の加工会社で、乾燥させた実を化粧品や健康補助食品用として輸出している。
こうした新たな収入で、村人たちの生活には変化が見え始めている。ある村人は、「おかげさまで子どもたちを学校にやることができた」と語った。

フェアトレードと環境的に持続可能な天然産物の開発を目指すNGO「PhytoTrade Africa」は、2006年以来、EUに対し、バオバブの実の輸入を認めるよう働きかけてきた。その努力が前月、実を結んだ。
「欧州が輸入を許可したことは、アフリカにとってすばらしいニュース。欧州に市場が開かれることで、貧困地域に生活を一新させるような収入がもたらされるだろう」と、同団体のシリル・ロンバード(Cyril Lombard)氏は言う。同団体は、貿易額は年間で10億ドル規模にのぼると試算している。

先述のBaobab Fruit Companyによると、欧州からの引き合いはうなぎ昇りに増えており、現在の年間収穫量150-200トンを大幅に増やす必要がありそうだという。
その一方で、一部の環境保護活動家は、こうした商業的な搾取がバオバブの絶滅を招くとの危惧を抱いている。
Baobab Fruit Companyは「木を損なわないよう、実と葉だけを採取している。バオバブが貴重な収入源になったら、農民たちも木を保護する必要性を認識するようになるだろう」と話している。(c)AFP/Stephanie van den Berg
【8月12日 AFP】
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その独特の姿がユニークなバオバブ、まだ一度も見たことがありません。
いつかアフリカに旅行してお目にかかりたいと願っています。
そんなバオバブの実での村おこし、しかも先進国市場を開いて・・・結構な話ですが、やはり乱獲が心配。
セネガルからはこんなニュースもありましたので。

【セネガル:海砂】
****空前の建設ラッシュ、セネガルの海岸が「砂の盗難」で消滅の危機*****
セネガルの首都ダカールの海岸には、砂を「盗む」輩が今日も群をなす。同国の建築ラッシュに伴い、建築材料の砂は売れるのだ。
盗人たちは建設会社に砂を売り、建設会社はダカールの海岸線に次々とビルを建てる。その一方で、総延長700キロの砂浜は浸食されていく。地元の環境保護団体は「ダカールの砂浜はほとんど消滅してしまった」と嘆く。
海岸の砂を持ち去ることは法律では禁止されているが、建設業界の空前の好景気に合わせて砂の闇市場が繁盛しているというのが現実だ。
同国の建設業界の2004-07年の年平均成長率は12.45%で、これは同国のGDPの4.6%にあたる。失業率が高く、国民の約半数が貧困ライン以下で生活している同国の経済を、建設業界が支えているといっても過言ではない。
建設ブームの背景には、ダカールの都市部の拡大がある。建設業界のある男性は、「新築される建物の100%が(盗まれた)海岸の砂を使っている。それしか方法がないんだ」と打ち明けてくれた。

警察も手をこまねいているわけではない。警察は2006年5月に海岸パトロール隊を組織。ダカールの海岸を週に数回巡回しているが、犯人をつかまえるのは容易ではない。パトロールの情報はまたたくまにくまなく伝わり、現地に到着する頃には海岸はもぬけの殻。警察が去ると盗人たちは再び現れるという。
この2年間で検挙できたのは84人。たいていは1-2か月の短い禁固刑と10万CFA(約2万5000円)から100万CFA(約25万円)の罰金が課されるというが、再犯率は高いという。砂を建設業者に売ると最大8万CFA(約2万円)という破格の月収が得られる。それだけ砂のニーズは高いのだ。【8月12日 AFP】
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いろんな“事情”で警察もまともに取り締まっていないのでは・・・とも想像されます。
砂なら砂漠に“腐るほど”ある国ですが、建設資材用となると海砂でないといけないのでしょう。
バオバブの木も、この砂のようにならなければいいのですが。
せっかくの資源ですから、再生可能な方法で持続的に活用してもらいたいものです。



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グルジア  開戦への思惑は? 強化された軍事力の誘惑?

2008-08-12 16:12:30 | 国際情勢

(首都トビシリをパレードするグルジア軍 “flickr”より By openDemocracy
http://www.flickr.com/photos/opendemocracy/717097500/)

【開戦の状況】
今日もグルジア、南オセチアの話題。
どうして戦闘は開始されたのか?というあたりについて。
もちろん、南オセチアの分離独立運動、これを陰に陽にバックアップするロシアとグルジア・サーカシビリ大統領が激しく対立してきた長年の経緯、その緊張が最近次第に高まりつつあったということはありますが、戦端を開くうえでは、なんらかのハードル超える行為・思惑が必要になります。

伝えられている情報を並べると、先ず1日夕から2日朝にかけて南オセチア自治州の境界地域で、グルジア軍と自治州独自部隊の間で銃撃戦があり、自治州側の兵士ら6人が死亡、15人が負傷、グルジア側では4人が負傷しました。
グルジア軍幹部は2日、ロシア軍兵士が銃撃戦に加わった可能性があると主張し、ロシアが強く反発していました。

続いて、6日、独立派勢力とグルジア治安部隊が交戦します。
インタファクス通信によると、南オセチアを実効支配する独立派政府は、勢力圏内の要衡をグルジア治安部隊が占拠したため、砲撃戦の末に奪還したと主張。一方グルジア側は、グルジア支配地域の村が砲撃されたため反撃したと主張しています。

グルジアのサーカシビリ大統領は7日、国民向けに演説し、緊張が高まっている南オセチア自治州の紛争地域でグルジア軍に攻撃への応戦を停止するよう命じたことを明らかにしました。
これに先立ち、ヤコバシビリ再統合担当相はグルジア側が一方的に停戦すると表明しています。
大統領はまた、南オセチア分離派政府に「グルジア領内での最大限の自治」を提案し、その上で「ロシアは南オセチアがグルジア領の自治州にとどまる保証人となるべきだ」と述べ、分離派に影響力を持つロシアに紛争回避への仲介を求めています。

ロシア外務省のポポフ特使は、グルジアと独立派政府の代表との3者会談を8日に行い、停戦維持と危機打開のための協議を行うことで合意したことを明らかにし、これを受けて双方が一時停戦に同意したと伝えられました。
こうしたグルジアからの“停戦”提案で事態は収束するかと思われたのですが、逆に一気に拡大します。

グルジア軍は8日未明、分離独立を求める南オセチア自治州の州都ツヒンバリを包囲し、州都へのミサイル攻撃や空爆など本格的攻撃に踏み切り、更に、ツヒンバリへ戦車で進攻しました。
グルジア軍の司令官は8日、グルジアのテレビを通じ「われわれが一方的に停戦したにもかかわらず、独立派が攻撃を継続した。憲法秩序回復のため攻撃に踏み切った」と説明しています。

一方、独立派を支援するロシアは「対抗措置」を表明。同日午後、独立派の反撃を支援するためツヒンバリに戦車部隊を進めました。
現地に駐留するロシア平和維持軍に10名以上の犠牲者が出たほか、多数の死傷者を出している南オセチアの住民の大半がロシア国籍を取得していることなどからメドベージェフ大統領は8日、「犯罪者は罰せられなければならない」とグルジア側を強く非難。

戦端が開かれたあたりの経緯は上記のように報道されています。
一旦“一方的停戦”を呼びかけたグルジアが、“独立派が攻撃を継続した”ということで一気に州都包囲、砲撃、侵攻に向かうあたりが注目されます。
このあたりのサーカシビリ大統領の意図がなんだったのか?

【サーカシビリ大統領の思惑は?】
大統領は8日にロシアが軍事介入して以降、TVインタビューに連日応じ、「小国グルジアをロシアが軍事的に占領しようとしている」と訴えています。
国際世論の同情を買うと言うか、国際世論を味方につけようとする方針のようです。
ロシア反撃後の撤兵、フランスのクシュネル外相が提示したEU停戦案への署名も、そうした「非道を行っているのはロシアであり、グルジアは犠牲者だ」という主張に沿ったもののように見受けられます。
実際、もともとロシアに対する反感・警戒感の強い欧米はグルジア支持の方向で動いています。
ただ、冒頭でも見た戦端を開くまでの経緯は、グルジア側が積極的に戦闘をリードしたように見えます。

ロシアではグルジアの進攻にアメリカがゴーサインを出した可能性が取りざたされているそうです。
ロシアに比べ軍事力で圧倒的に劣るグルジアがアメリカの承認なしに攻撃を決断できるはずがないとの見方です。

しかし“軍事力で圧倒的に劣る”とは言っても、それはロシアとの比較であり、別にグルジアもロシアと全面戦争をする考えなど毛頭ないでしょう。
南オセチア・グルジアにおける兵力で考えると、グルジアの軍事力の強化・近代化は目覚しく進んでいます。
サーカシビリ大統領は04年の就任後、欧米の支援を受けて軍改革を実施。装備も旧式のロシア製兵器からNATO加盟国が使用する戦車や戦闘機への切り替えを進めてきました。

その軍事力への自信から、州都ツヒンバリを制圧できると考えた、あるいは、その軍事力を行使したい誘惑に駆られた・・・ということも想像できます。
オリンピック期間でロシアの反撃も本格的には行われないのでは・・・といった思惑があったのかも。
このグルジア軍強化・近代化を推し進めてきたのがアメリカです。

****米国が育てたグルジア軍とロシアの闘い****
米国政府は2002年の初めから、グルジアに対して、軍事面で莫大な額の支援を提供してきた。米国からグルジアへの支援はまず、『Georgia Train and Equip』(グルジアの訓練・装備)計画という名目で始まり(これは表向き、パンキシ渓谷にいるアルカイダ勢力に対抗するためのものと言われた)、その後は『Sustainment and Stability Operations』(維持と安定の作戦)計画へと引き継がれた。
グルジアは、米国への恩返しとばかりに、イラク戦争では多国籍軍に数千人規模の兵士を参加させた。グルジアは2007年秋に派兵を倍増し、その結果、多国籍軍を構成する各国部隊の中で3番目に多い兵士をこの地域に送り込んでいる。人口460万人の国にとっては、ひとかたならぬ貢献と言えるだろう。
私が2002年秋に初めてグルジアのKrtsanisiにある軍訓練センターに行ったとき、グルジア軍はほとんど民兵と同じような状態で、スニーカーをはき、旧ソ連の制服を着ていた。
しかし、私が2006年のはじめにKrtsanisiを再訪したときには、ここはモデル基地となっていた。最新式の食堂もあり、兵たちは米国式の制服をスマートに着こなしていた(彼らはイラクに向かう兵だった)。
このときは南オセチアも訪れたのだが、ツヒンバリの外れの検問所にいたグルジア軍兵士たちは、米陸軍の余り物の制服の上に、新しいボディアーマーを身にまとっていた。
ロシアからの干渉の是非は別として、グルジアは、新たに手に入れた軍事力を使って、国内紛争を武力で解決しようという誘惑に駆られたのではないかと懸念される。
・・・・
米国の軍事訓練の専門家の1人は、もっとぶっきらぼうな形で私にこう語った。
「われわれは彼らにナイフを与えている。彼らはそれを使うだろうか?」8月11日 WIRED VISION】
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グルジアのイラク派兵も分離独立派からすれば、将来自分達に向けられるであろう軍隊の強化訓練ということにもなります。
ロシアの独立系軍事アナリストには、「サーカシビリ大統領は軍事力を背景に、いつでも州都制圧は可能とみている。一時撤退したのは国際世論の支持を受けるための政治的判断だ」との声もあるとか。

また昨年、野党勢力を武力弾圧して以来、人気下降気味のサーカシビリ大統領が、国内引き締めのため進攻に踏み切った側面も指摘されているそうです。

【イメージ戦略】
ロシアのメドベージェフ大統領は9日、グルジア軍が進攻した南オセチア自治州の現状を「人道上の大惨事」と指摘し、負傷者の手当てや避難民の受け入れなどの人道支援に全力を挙げる意向を表明。
ラブロフ外相も8日、グルジア軍の攻撃を「民族浄化」と指摘するなど、ロシア側はグルジアの行為の非人道性を内外にアピールする作戦に出ています。

かつてのボスニア・ヘルツェゴビナ紛争でセルビアは国際世論を敵にまわし、“民族浄化”のレッテルを貼られて“悪役”として、NATOによる空爆で徹底的に叩かれました。
ロシアもグルジアも、自分達が犠牲者であることをアピールして、国際世論の支持を狙っているようです。

そうした、指導者達の開戦への思惑や国際世論獲得競争に関わりなく、突然の攻撃に直面して逃げ惑い、傷つき、家族を失う人々は、ひたすら相手への憎悪を膨らませていきます。

【つのる憎悪】
*****グルジア:首都にも避難民らの姿…政府の無策に抗議****
「すべてのロシア人を殺してやりたい」。市北部ウェルフェビ地区の団地街で首に重傷を負ったマラネイリさん(80)は入院先の市民病院で無表情につぶやいた。近郊の村で8日午前、ロシア軍の攻撃を受け、さらに避難先の親類の団地でも同日夜、空爆の直撃を受けた。団地では人々ががれきから家財道具を探し出していた。
 5階建て団地の最上階に1人暮らしの病院職員マオワェラさん(60)も突然の爆撃で窓が吹き飛ばされ、抜け落ちる床と一緒に地階まで転落、気を失ったが、奇跡的に救出された。「ロシアはグルジア独立の際、平和的に我々のもとを去った。それがなぜ再びこんなことをするのか、どうしても理解できない」と力無く語った。【8月10日 毎日】
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グルジアのサーカシビリ大統領は11日、ロシア軍が同国領内に侵攻したのを受けて、「ロシアはグルジア全土を征服しようとしている。グルジア軍は政府とともに最後まで抵抗する」と危機を訴え、独立を守るため団結するよう国民に呼び掛けました。
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