孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イラン  人権問題の改善が望めない国内状況

2023-12-10 23:33:06 | イラン

(イラン西部サケズ出身のマサ・アミニさんは2022年9月、髪の毛を覆うよう女性に義務づけた法律に違反したとして道徳警察に逮捕された。意識不明に陥り、3日後に死亡した。【12月10日 BBC】)

【事前審査で改革派や保守穏健派の排除が進む国会議員選挙】
イラン関連ニュースは、主にパレスチナ・ハマス、更にはレバノン・ヒズボラ、イエメン・フーシ派、イラク・シリアの親イラン勢力の後ろ盾としてのイランの存在・影響に関するものや、アメリカとの関係、核合意関連など対外関係に関するものがメインですが、今回はイラン国内に関する動向を中心に取り上げます。

もちろん、国内政状況は対外関係に影響済ます。例えば、国内で高まる不満から国民の目をそらすために、ことさらに対外関係で緊張を演出するなど。

イランでは来年3月に国会議員選挙が行われますが、イラン特有の選挙制度である「事前審査」によって、ライシ政権に批判的な改革派や保守穏健派は多くが失格となり選挙にのぞめない状況です。

****イラン国会議員選挙、事前審査で立候補登録者の28%「失格」…政権批判勢力を排除****
イランで来年3月1日に予定される国会議員選挙(定数290)で、立候補登録者の28%が事前の審査で「失格」扱いとなった。保守強硬派のエブラヒム・ライシ政権下では批判勢力の排除が進んでおり、今後2回の事前審査で失格者が増える可能性もある。

内務省の選挙管理委員会は11日、最終登録者は2万4982人だったと発表した。今回からオンライン登録が導入され、前回2020年の約1・5倍と過去最多だった。審査結果は本人に個別通知され、失格の具体的な理由は公表されない。

イラン各紙が14日までに報道した独自調査を本紙がまとめたところ、少なくとも現職25人の「失格」が判明。改革派のほか、政権に批判的な保守強硬派も含まれていた。改革派の元議員も軒並み失格となった。

事前審査は3段階で、最終的には保守派が独占する選挙監督機関「護憲評議会」が決定する。前回の国会議員選では、改革派や保守穏健派の現職議員が大量に失格扱いとなり、保守強硬派が勢力を拡大した。

事前審査には今回から、精鋭軍事組織「革命防衛隊」の情報部門が加わり、活動で得た記録を提供している。改革派の有力政治家らは、失格は目に見えているとして早々に不出馬を表明した。【11月14日 読売】
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昨日取り上げた香港の区議会議員選挙同様に、「選挙」というものが形骸化して民意を反映せず、権力維持の道具となりつつあるとも言えます。

大統領選挙は2025年中頃に予定されてますが、いずれにしても自由な民意が封じ込まれた状況で、現在の保守強硬派ライシ政権の体制が続くような情勢です。

【昨年9月の抗議行動を力で封じ込めた当局】
イランでは昨年9月、髪の毛を覆うよう女性に義務づけた法律に違反したとして、クルド系女性が宗教警察に逮捕され、その後に死亡した事件をきっかけに、ヒジャブの被り方だけでなく、経済状況、更には強権的な現行政治体制への不満が噴出し、大規模なデモが拡散しましたが、当局は力でこの動きを封じ込めています。

昨年の抗議デモ拡散時に当局が行った暴力は激しく、ノルウェーに拠点を置く人権団体「イラン・ヒューマン・ライツ」は、デモの参加者530人以上が死亡したと指摘しています。拘束者は数千人。その他に性暴力も。

****イラン治安要員、抗議デモ参加者をレイプ アムネスティ****
イランの治安要員が昨年9月以降、全国に広がった抗議デモを弾圧する際に拘束した市民にレイプや性暴力を行っていたとする報告書を国際人権団体アムネスティ・インターナショナルが6日、公表した。

イランでは昨年9月、ヒジャブの着用方法をめぐり警察に逮捕されたマフサ・アミニさんが死亡したことをきっかけに抗議デモが全土に拡大。当局の激しい弾圧により、人権活動家によれば数百人が死亡、国連発表では数千人が拘束され、デモは年末までに沈静化した。

アムネスティは、安全な通信プラットフォームを通じて、遠隔で被害者や目撃者と面談して証言を集めた。
デモ参加者への性暴力は45件に上り、発生場所は半数以上の州に及んでいる。このためアムネスティは、実際の数はこれを大きく上回る可能性があるとの懸念を示している。

45件の事例のうち16件はレイプで、被害者の内訳は女性6人、男性7人、14歳の少女1人、16歳と17歳の少年2人だった。うち女性4人と男性2人は、最大10人の男性治安要員に集団レイプされたという。

性器を殴られた、強制的に裸にされたといったレイプ以外の性暴力を受けた29人の被害についても報告されている。

性加害を行ったのは、イラン革命防衛隊の隊員や民兵組織「バシジ」のメンバー、情報省の職員、警察官だという。

アニェス・カラマール事務総長は「私たちの調査で、イランの情報機関や治安当局が、12歳の子どもを含めデモ参加者を拷問・処罰し、心身に永続的なダメージを与えるためにレイプや性暴力を利用していた実態が明らかになった」と指摘した。

11月24日にイラン当局に調査結果を知らせたが、「今のところ何のコメントも得られていない」という。
アムネスティによれば、大半の被害者は報復を恐れて訴えを起こしていない。また、検察に訴えても黙殺されているという。

カラマール氏は、「国内で裁きが下される見通しが立たない中、国際社会には被害を受けた生存者に寄り添い、正義を追求する義務がある」と訴えた。 【12月6日 AFP】
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政権批判を行った者への「粛清」は今も続いています。

****イラン、反政府デモにからみ男性を密かに処刑か=人権団体****
イランで昨年起きた反政府抗議にからみ、同国政府が男性1人の死刑を密かに執行していたことがわかった。関係筋がBBCペルシャ語に語った。

ミラド・ゾフレヴァンドさん(21)は23日朝、西部ハマダンの刑務所内で処刑されたという。少数民族クルド系の人権団体「Hengaw」が、処刑の報告を受けたとしている。

イランの司法当局からは、この件についての発表はない。ゾフレヴァンドさんは、抗議活動中にイラン革命防衛隊の隊員1人を殺害したとして、有罪判決を受けていた。

情報筋によると、ゾフレヴァンドさんは勾留中から裁判に至るまで、弁護士との接触を拒否されていた。ゾフレヴァンドさんの処刑が確認された場合、昨年の抗議運動以降に処刑されたのは計8人となる。

国連のアントニオ・グテーレス事務総長は最近の報告書で、これまでの7件の死刑執行についての情報が、「司法プロセスが、適正な手続きと公正な裁判の要件を満たしていないことを示している」と警告していた。

また、「適切かつ時宜にかなった法的代理人との接触はしばしば拒否され、拷問の結果得られたかもしれない自白の強要も報告されている」とした。

イランでは昨年9月、髪の毛を覆うよう女性に義務づけた法律に違反したとして、クルド系女性のマサ・アミニさん(22)が道徳警察に逮捕され、その後に死亡した。

これを受け、各地で反政府デモが活発化したが、当局は抗議参加者を「暴徒」として暴力的に弾圧。数百人が殺害され、数千人が拘束された。

BBCペルシャ語が話を聞いた情報筋2組によると、ゾフレヴァンドさんは23日未明に、ハマダン中央刑務所で処刑された。しかし、ゾフレヴァンドさんの遺体はこの日の午後まで遺族に引き渡されなかったという。

人権団体「Hengaw」は声明で、ゾフレヴァンドさんは処刑が間近に迫っていることも知らされておらず、家族との最終的な面会も認められていないと述べた。

また、この処刑は「生命に対する権利を侵害するだけでなく、被拘束者とその家族の人権を著しく侵害するものだ」と強く非難した。

さらに、イランにおける軍事、政治、経済の主要勢力である革命防衛隊が、死刑を執行するよう当局に圧力をかけたと主張した。(中略)

ハマダンの検察当局は先週、最高裁判所支部が、革命防衛隊の情報部員アリ・ナザリ氏殺害の罪で有罪判決を受けた被告に下された死刑判決を確定したと発表していた。

当局はこの被告を特定していなかったが、人権弁護団体「ダドバン」は関係筋の話として、これがゾフレヴァンドさんだと指摘していた。また、ゾフレヴァンドさんの家族に、ゾフレヴァンドさんの件を公表しないよう圧力がかかっていたと報告した。

ナザリ氏は昨年10月、ハマダンのマライエル大学医学部で学生たちが行っていたデモに対処していた際、マスクをかぶった男5人に撃たれて死亡した。検察は、ゾフレヴァンドさんがこのうちの1人だとして追及していたと報じられている。

イランの年間の死刑執行数は、中国に次いで世界で2番目に多い。
グテーレス国連事務総長の報告書は、イランは「非常に気がかりな速度で」死刑を執行しており、今年は7月までにで少なくとも419人を死刑にしたと指摘。2022年の同時期と比べ、30%増加している。【11月25日 BBC】
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秘密裏に処刑し、そのことを公表しないように遺族に圧力をかける・・・昨年のような大きな混乱の火種にならないように・・・との考えでしょう。裏を返せば、いつでも火が付きかねない不満の温床が存在しているということでもあります。

【抗議再燃を警戒】
きっかけとなったマフサ・アミニさんへは欧州議会から「思想と自由のためのサハロフ賞」が贈られましたが、授賞式に出席しようとした遺族は阻止されたようです。この問題への遺族の発言によって抗議が再燃するのを当局は恐れているのでしょう。

****スカーフ着用めぐり死亡のイラン人女性家族、当局が出国阻止 仏で娘の「人権賞」受賞を予定****
イランで2022年に、髪の毛を覆うよう女性に義務づけた法律に違反したとして道徳警察に逮捕され、その後に死亡したクルド系女性マサ・アミニさん(22)の家族が、イラン当局にフランスへの渡航を阻止された。家族の弁護士が9日に明らかにした。家族はフランスで、アミニさんの死後に授与が決まった、優れた人権活動家を称える賞を受け取る予定だった。

弁護士によると、アミニさんの両親ときょうだいは、飛行機に搭乗するのを阻止され、パスポートを没収された。

欧州議会は、優れた人権活動家に贈る「思想と自由のためのサハロフ賞」をアミニさんに授与。アミニさんの家族はこれを受け取るため、フランス東部ストラスブールに向かおうとしていた。

弁護士は、アミニさんの家族は有効なビザ(査証)があるにも関わらず出国を禁止されたと主張した。(中略)

欧州議会は10月、アミニさんと、アミニさんの死がきっかけとなった「女性、命、自由」のスローガンを掲げる世界的運動に、「サハロフ賞」を授与すると発表した。(中略)

「犠牲者家族が国際社会で話すことを阻止するため、(イラン当局者が)これほど動員されたのは初めて」だという。
欧州議会のロベルタ・メツォラ議長は、一家の渡航を禁止する「決定の撤回」をイランに求めた。(中略)

アミニさんの死から1年となった9月16日、父親アムジャドさんがイラン革命防衛隊(IRGC)に拘束され、娘の命日の追悼をやめるよう警告されたと、クルド人支援団体「Hengaw」や、ノルウェー拠点の人権団体イラン・ヒューマン・ライツ(IHR)などが報告している。

世界各地では数千人が、この節目の日に街頭に出て抗議活動を行った。アムジャドさんはその後、釈放された。【12月10日 BBC】
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イラン人権問題での受賞者ということでは、「イランにおける女性の弾圧に抵抗し、すべての人々の人権と自由を促進する戦いに対して」ノーベル平和賞が授与された女性人権活動家ナルゲス・モハンマディさんがいますが、彼女は“2016年にイラン当局に拘束され「社会体制を脅かすプロパガンダ」を理由に禁固16年を宣告されている。2020年には一時釈放されたが2022年に再び拘束され、エヴィーン刑務所に収監された。”【ウィキペディア】という状況にあります。

ノーベル平和賞受賞式は今日10日ですが、もちろん出席できません。獄中の彼女への締め付けも厳しくなっているようです。

****イラン女性活動家、電話禁止 平和賞授与前に発信妨害か****
今年のノーベル平和賞授賞が決まったイランの女性人権活動家ナルゲス・モハンマディさん(51)が投獄されている首都テヘランの刑務所で外部との電話と面会を禁止されたことが分かった。モハンマディさんのインスタグラムが3日、明らかにした。平和賞授賞式を10日に控え、イラン当局には刑務所からの発信を妨害する狙いがありそうだ。

モハンマディさんは当局からの圧力が強まっても「私を黙らせることはできない」と強調した。刑務所側が11月30日にこの措置を決定。これまでイラン在住のきょうだい2人に限って電話が許可されていたという。インスタグラムは家族が投稿している。【12月4日 共同】
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オスロで今日行われた授賞式では、モハンマディさんに代わり、双子の子どもがメダルを受け取っています。
モハマディさんは授賞式に合わせてハンガーストライキを始めたそうです。

****ノーベル平和賞のイラン女性人権活動家 授賞式に合わせハンスト開始****
女性の権利保護などを訴えノーベル平和賞に決まったイランの女性人権活動家が、10日に行われる授賞式に合わせて収監先の刑務所で、新たなハンガーストライキを始めることを記者会見を開いた家族が明らかにしました。

ノーベル平和賞に決まったイランの女性人権活動家、ナルゲス・モハマディさんの夫や双子の子どもたちが授賞式を前にノルウェーのオスロで9日、記者会見を行いました。

3人はフランスに亡命中で、モハマディさんが10日の授賞式に合わせ、イランで差別の対象となっている宗教的少数派への連帯を示すためにハンストを始めると明らかにしました。

また、娘のキアナさんがモハマディさんからのメッセージを代読し、「イランは国際社会の支援を必要としている。反体制派などの声を世界に伝えるメディアの役割は非常に重要だ」と述べました。

キアナさんはモハマディさんと最後に会ったのは9歳の時で、「再び会えるのは30年後か、40年後かもしれない。でも、そうしたことはどうでもよく、母は心の中で、闘う意義のある価値観として生き続けている」と語りました。

モハマディさんは女性の権利保護や死刑廃止を訴えてきましたが、イラン当局に繰り返し拘束され現在も、反国家的なプロパガンダを拡散した罪で刑務所に収監されていて、授賞式は家族が代理で出席する予定です。【12月10日 TBS NEWS DIG】
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なお、モハマディさんは11月にもハンストを行っています。

****ノーベル平和賞の活動家、ハンスト終える スカーフ着用なしで病院移送へ―イラン****
今年のノーベル平和賞受賞が決まったイラン女性人権活動家ナルゲス・モハンマディ氏(51)は9日、インスタグラムに投稿された声明で、イランで義務付けられているスカーフを着用せずに、収監中の刑務所から治療のため病院に移ることを当局が認めたと明らかにした。同氏は、受刑者の医療制限やスカーフ着用に抗議するため、6日から始めていたハンガーストライキを終えたという。

イランでは公共の場で、頭部を覆うスカーフの着用が女性に義務付けられている。当局は、モハンマディ氏がスカーフ着用を拒否したことから病院への移送を認めず、同氏はハンストを開始。ノルウェー・ノーベル賞委員会は声明で「病院に行くためにスカーフを強制するのは非人道的だ」などと当局を非難していた。【11月11日 時事】
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イランのこうした人道状況は、冒頭の国会議員選挙関連記事に見るように、選挙という本来の民主的手法では改善が期待できません。
一方で、抗議デモといった直接行動に対しては、欧米・日本と異なり情報が遮断されているイランにあっては当局のなりふり構わぬ暴力がふるわれ、多大の犠牲者が発生します。

ではどうすれば改善するのか・・・イランに限らず、強権支配国家に共通する問題でもあり、容易に答えの出ない問題ですが、国際社会の圧力は必要でしょう。

****米政府 人権侵害関与として中国やイランの高官らの制裁発表****
アメリカ政府は強制労働などの人権侵害に関与したとして中国やイランなど13カ国、37人を制裁の対象に加えたと発表しました。

アメリカ国務省のブリンケン長官は8日の声明で、「アメリカは紛争に関連する性暴力、強制労働、国境を越えた抑圧など世界で最も困難で有害な人権侵害に対処する」と強調しました。

長年、問題視している中国については、新疆ウイグル自治区での長期に及ぶ身柄の拘束など「深刻な人権侵害」に関与しているとして、中国政府の高官を制裁の対象にしています。

また、イスラム主義組織「タリバン」の幹部については、アフガニスタンで女性教育の制限などに関与していると指摘しています。

イランの情報機関の幹部2人に関しては、革命防衛隊の司令官を殺害された報復でアメリカ政府高官の暗殺計画などのために工作員を雇ったとして、アメリカ国内の資産凍結などの制裁を科したということです。【12月9日 テレ朝news】
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もっとも、上記のような程度の制裁は形式的なもので、実効はまったく期待できません。
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