孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イラン  厳戒態勢で迎えたアミニさんの急死から1年 核交渉から離脱はしないものの前進もなし

2023-09-17 23:01:22 | イラン

(スカーフをかぶらず、肩に巻いて街中を歩く若い女性たち=テヘランで9月9日、AP【9月17日 毎日】)

【アミニさんの急死から1年 力で抗議活動を鎮圧したものの、くすぶる不満 変化の兆しも】
イランでは、1年前の2022年9月16日におきた警察の暴行による一人の女性の死が、逮捕の理由となったヒジャブ(スカーフ)の被り方だけにとどまらず、国民の支配体制への不満に火をつけ、政治体制を揺るがすほどの大きな抗議活動となりました。

しかし、危機感を持った当局は実弾使用を厭わない強硬な鎮圧を行い、抗議活動による死者は500人にのぼったとも。

****アミニさんの急死から1年、イラン国内の変化は****
クルド系イラン人女性のマフサ・アミニさんが警察に拘束されたのちに急死してから、およそ1年が経過した。当時22歳のアミニさんの死が発端となった抗議デモはイラン全土に広がり、1979年に起きたイスラム革命以来で最悪な政治的混乱の一つにまで発展。イランの支配層はこの1年間、抗議活動に対する圧力を強め続けている。

<抗議活動はどのように始まったか>
アミニさんが9月16日に亡くなった後、すぐに抗議活動は始まった。アミニさんは、イランで義務付けられているイスラム教の服装規定に違反した疑いでその3日前に風紀警察に逮捕されていた。

政治からは距離を置き、内気な性格だったというアミニさんは、テヘラン市内の駅に降りたところで拘束された。

アミニさんの訃報はソーシャルメディア上で拡散された。故郷の北西部クルディスタン州サッゲズで執り行われた葬儀で発生したデモは、イラン支配層の聖職者に対する怒りと異議から「女性、命、自由」の声と共に全国に広がっていった。

死因について家族は頭部や手足を殴打されたことが原因だと主張しているが、当局は既往症によるものだと否定。こうした対応がアミニさんの死に対する怒りをさらに強めた。

<デモの参加者は何を望んでいるか>
女性や若者が最前線に立って抗議活動を行うことも多く、デモ参加者は「独裁者に死を」と唱えながらイランの最高指導者ハメネイ師の写真を燃やすなどイスラム共和国の象徴を非難の対象にしている。

髪を覆い隠すことや、ゆったりとした服を着用することを義務付けている法律に反対の姿勢を示すため、女性たちはスカーフを頭から外して燃やした。こうした抗議には女子学生も参加した。

デモはとりわけ、北西部のクルド人が多く住む地域や、南東部のバルチ族の居住区など、国から長年差別的待遇を受けてきた少数民族が暮らす地域で勢いを増した。

また、イスラムの服装規定を守らない女性も増加。チェスやスポーツクライミングの選手が頭部を覆うスカーフ「ヒジャブ」を着用せずに試合に出場したことをきっかけに、有名人女性らもヒジャブ着用のルールを破り、抗議活動への支持を示した。当局はアスリートや俳優など複数の著名人に対し、渡航禁止や懲役刑を言い渡した。

<抗議デモの鎮圧>
抗議活動は年が明けてからも続き、治安部隊はメッセージアプリへのアクセスを制限したほか、催涙ガスやこん棒、場合によっては実弾を使用するなど、明確なリーダーを持たないデモ隊に対して強力な弾圧を行った。民兵組織「バシジ」が中心となり、反政府デモの取り締まりを率いた。

人権団体は71人の未成年者を含む500人以上が殺され、数百人が負傷、数千人が逮捕されたとしている。イランはこの騒乱を巡り、7人に死刑を執行した。

当局は公式な死者数の推計を発表していないが、数十人の治安部隊が「暴動」によって命を落としたと表明している。

<変化はあったか>
当初は抗議活動の鎮圧に手こずった支配層エリートだが、イラン革命防衛隊の後ろ盾を受けて権力を強化している。  
アミニさんが拘束を受けて亡くなって以降、風紀警察の多くは路上から姿を消した。だが、風紀警察が取り締まりを再開し、ベール非着用の女性を特定して罰するために監視カメラが導入されると、デモの勢いは弱まった。

当局はベールが「イスラム共和国の信念の一つ」だとして、かぶっていない女性にはサービスを拒否するよう官民双方に命令。従わなかった数千の事業所が、一時的な閉鎖に追い込まれた。

ただ、多くの国民は髪を覆い隠さないイラン女性が増え続けていると指摘しており、議会は服装規定違反に対する懲役期間を延ばすことや、規則に背いた有名人や事業により厳しい罰則を設けることも検討している。

抗議活動を巡っては国外も反応。西側諸国はイランの治安部隊や数十名の当局者に対する新たな制裁を科し、既に複雑化しているイランと西側諸国の関係にさらなる緊張をもたらしている。

<イラン指導者はどのように地位を保持するのか>
アミニさんの一周忌を控えた最近の治安部隊の動きからは、イランの支配層が少しの反対意見も許さない姿勢であることがうかがえる。

活動家らは、デモ関係者の逮捕や尋問のための出頭要請、脅迫や解雇など、恐怖や不安をあおる措置が行われているとして当局を非難した。

ここ数週間でジャーナリストや弁護士、活動家、学生や大学関係者、著名人、死亡したデモ参加者の家族などが標的となっている。少数民族の当事者は特に多いという

社会不安についてイラン当局は、米国やイスラエルをはじめ敵対する諸外国によるものだと非難。逮捕される恐れがある人々にとっては、よりリスクの高い状況になっている。

イラン経済は制裁や失策の打撃を受けており、国民は不安を募らせる一方だ。こうした中での厳しい取り締まりは、支配層と国民の間に入った亀裂を深める危険性が高く、さらなる情勢不安を招きかねない。【9月16日 ロイター】
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抗議活動鎮圧後もスカーフを被らない女性が増加しましたが、当局は抗議再燃を懸念して厳しい取締りは控えるようになっていました。

しかし政権の支持基盤である保守派へのアピールもあって、最近は再び(少なくとも表立っては)取締りが強化されています。ただ、あまり厳しくすると再び不満が・・・ということで及び腰のところもあって、その効果は限定的とも。

****「脱スカーフ」イランで増加 女性死亡・デモから1年 変化の兆し*****
(中略)デモ以降、長く抑圧されてきた女性の人権意識が高まり、若い世代を中心にスカーフをかぶらない人が増えている。当局は着用対策を強化するが、効果は限定的。イスラム教に厳格な革命体制下の社会に変化の兆しが出ている。

飲食店や衣料品店が並び、若者でにぎわう首都テヘラン中心部のエンゲラーブ通り。テヘランに住む会社員のナファスさん(23)が9月上旬、腰まである長い髪をスカーフで隠さずにベンチに座っていた。「革命を象徴するスカーフは嫌い」

イランでは1979年の革命以降、公共の場では、外国人も含めて女性は髪を隠すスカーフの着用が法的に義務付けられている。だがナファスさんは「私たち若い世代は古い服装を受け入れたくない」と反発する。

街でスカーフを身につけていない女性の姿は目立っている。女性の拘束が相次げば「デモが再燃する」(テヘラン市民)との声があり、体制側が大規模摘発といった強硬策に乗り出せないジレンマに陥っている可能性がありそうだ。デモ以降、イスラム教の価値観からタブーとされていた女性のバイク運転が顕著になるなど、社会は変容している。【9月17日 毎日】
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上記【ロイター】にもあるように、政権側は社会不安についてアメリカ・イスラエルをはじめ敵対する諸外国による画策だと非難しています。

最高指導者ハメネイ師は9月11日、イラン内部に危機をつくり出すための組織をアメリカ政府が設けたとし、アメリカが民族・宗教の違い、女性問題などで混乱を起こそうとしていると批判しています。

一方、バイデン米大統領は15日、アミニさんやその後の抗議デモで犠牲になった人々を追悼する声明を出し、アメリカがイランの人々に寄り添い、女性への暴力に抗議していく姿勢を改めて強調しています。
また、アメリカ財務省は15日、抗議デモ参加者らへの暴力的な弾圧等に関わったとして、29の個人・団体に追加の制裁を科しています。

そうした状況で迎えたマフサ・アミニさんの死から1年。
抗議再燃を警戒する当局は、首都テヘランの中心部の広場や通りで多数の警官や治安部隊が警戒に当たる厳戒態勢を敷きました。

当局の警戒もあって、小規模なものを除いて、大規模な抗議行動や衝突などは報じられていません。

****イラン・反スカーフデモ1年 治安部隊が厳戒態勢 遺族の一時拘束も****
イスラム革命体制が続くイランで、髪を覆うヘジャブ(スカーフ)のかぶり方が不適切として拘束された女性の急死を機に抗議デモが拡大してから、16日で1年となった。

AP通信などによると、この日、治安部隊が厳戒態勢を敷く中、一部地域でゼネストや散発的なデモがあった。昨年のデモでは体制打倒を叫ぶ市民もいたとされ、当局は神経をとがらせているとみられる。(中略)

ノルウェーに拠点を置く人権団体「ヘンガウ」などによると、アミニさんの死去から丸1年となる16日、出身地の西部クルディスタン州ではゼネストが実行された。

一方、同日、アミニさんの父親は同州サゲズで娘が埋葬された墓地に向かうところをイラン革命防衛隊に一時拘束され、警告を受けたという。

テヘランではこの日、女性刑務所で収容者が自分の服に火を付けて抗議し、治安部隊が殺傷能力の低いペレット銃を発砲したとの情報もあるが、死者は出ていないという。

また、北東部マシャドなど一部の都市でデモがあり、治安部隊が催涙ガスを使用したという。ただ、各地で厳戒態勢が敷かれていたことから、昨年のような大規模なデモには発展していない模様だ。【9月17日 毎日】
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【拘束中の米国人5人解放で、60億ドルの凍結資産解除】
イランとアメリカの間では、イラン資産凍結解除と引きかえにイランの刑務所で拘束中の米国人5人が解放されるという緊張緩和的な動きもありました。

****イランが拘束の米国人5人解放、進展は継続=米大統領補佐官*****
米国のサリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)は22日、イランの刑務所で拘束中の米国人5人が解放される合意について進展しているとの考えを示した。ただ、解放日程は明言しなかった。

イランは、韓国で凍結されている60億ドルのイラン資産の解除などを条件に5人の最終的な出国を許可する第一歩として、8月10日にそれまでの1人に加えて残り4人を刑務所から移送して自宅軟禁下に置いた。

サリバン氏は会見で「イランとの合意通りに事態が進んでいると考えている。まだ経るべき段階があり正確な日程は未定だが、進展は続いていると考える」と述べた。

5人の出国まで数週間を要する可能性があるとみられているが、イランが許可すれば、核問題やシーア派支援などを巡り対立するイランと米国にとって大きな問題が取り除かれることになる。【8月23日 ロイター】
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こうしたイランとの“取引”に対し、アメリカ国内では野党・共和党が批判を強めています。
バイデン政権は凍結解除資産は「人道目的にのみ使われる」と釈明してはいますが・・・・

****米、イラン資産「再凍結可能」 共和党は反発強める****
米国務省のミラー報道官は12日の記者会見で、イランで軟禁下にある米国人5人解放のため、バイデン政権が凍結解除を承認したイランの資産60億ドル(約8800億円)に関し「人道目的にのみ使われる。必要ならば再凍結できる」と述べた。野党共和党が核開発を進めるイランを利するなどとして反発を強めており、火消しに追われた。

イランのライシ大統領は12日放送の米NBCテレビのインタビューで「人道目的とはイラン国民が必要とするものであれば何でもという意味だ。国民のニーズはイラン政府が判断する」と語った。

凍結解除となるイラン資産は韓国にあり、カタールに送金される。【9月13日 共同】 
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【前進しない核合意再建協議】
イランとの関係の“本筋”である核合意再建協議の方は、相変わらず難航しています。

****英仏独がイラン制裁継続へ 核合意「守られていない」****
イランの核開発制限を巡る核合意の当事国である英国、フランス、ドイツは14日、イランが合意を守っていないとして、10月中旬に緩和するはずだった制裁の一部を継続するとの共同声明を出した。ロイター通信によると、イランは反発している。

声明では、イランが2019年以来、合意を守ろうとせず、濃縮ウランを合意で認められた量の18倍以上保有しているなどと指摘。英外務省によると、合意が守られていれば、欧州連合(EU)や英国が科す個人や企業に対する制裁の一部が10月18日に緩和されるはずだった。

今後は国連が科している制裁の一部も、3カ国の制裁として取り込む。【9月15日 共同】
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当然のように、イラン側も反発

****ベテラン核査察官を拒否=米欧の非難に反発―イラン*****
国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長は16日、イランの核開発を検査してきた複数のベテラン査察官について、同国政府が受け入れを一方的に停止したと発表した。監視業務が一段と制限されることは避けられない。米欧諸国がイランの協力姿勢の欠如を非難したことへの報復とみられる。

グロッシ氏は「前例のない一方的な措置を強く非難する」と強調。受け入れ停止対象の査察官らが「欠かすことのできない役割を担っていた」とし、イラン側の措置で高度な専門性を有する中心メンバーがおよそ3分の2に減ると説明した。

米国と英仏独3カ国は今月中旬のIAEA理事会で、監視業務へのイランの対応について、「真剣に取り組むことを意図的に拒否している」と批判。欧州3カ国は核合意で解除が予定されていた対イラン制裁の継続も表明し、イランが反発していた。【9月17日 時事】
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【欧米との核交渉からは足抜けせず、同時に、外交成果を喧伝することで国民の視線を逸らせつつ、友好国との関係強化も同時に図る多角化戦略】
こうしたなか、8月末に南アフリカで開催された第15回BRICS首脳会議では、イラン及びサウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、エジプト、エチオピア、アルゼンチンの6カ国が新たな加盟国として認められました。2024年1月1日からこれら諸国が加わり、BRICS加盟国は11に増えます。

“8月29日、ライーシー大統領は国内外メディア向けの記者会見で、「BRICSや上海協力機構(SCO)のような連合は、イランの経済の潜在力を開花させるため、また西側の単独覇権主義に対抗するための絶好の機会である」と述べた。同大統領は同時に、西側との制裁解除に向けた交渉から離脱する予定はないとも発言した。”【9月1日 中東調査会】

前進しているようには見えない核合意再建協議ですが、イラン・ライシ政権は「離脱」する考えもないようです。

冒頭に触れたような国民の不満もくすぶっている、来年には議会選挙もある・・・といった状況で、イラン指導部は大きな変化を起こすことも考えていないようです。逆に言えば、譲歩して核合意を前進させる考えもないようにも。

****イラン:BRICS新規加盟発表に対する国内の反応****
(中略)
中東諸国がBRICSに寄せる期待には、多極化する世界を象徴する新しい多国間枠組、ひいてはその人口や経済力を踏まえての新たな市場の開拓といったものが挙げられる。

これらについてイランも同様だが、同国には西側中心の現行の国際秩序へのカウンターとして捉えている様子が強く見られる。この背景には、イランの置かれてきた国際的状況と歴史的経緯がある。

2018年5月、トランプ前米政権は核合意から単独離脱し、イランに対し「最大限の圧力」キャンペーンを科した。これにより、イランは国際送金網から切り離され、厳しい金融・石油取引制限を加えられることとなった。

こうした事情から、イランは、失業率の増加、インフレ、通貨の暴落等、財政的に厳しい状況に置かれた。

この反動として、イランは制裁の「無効化」を合言葉に、中国、ロシア、近隣諸国、アジア、南米、アフリカ、イスラーム諸国等との全方位外交を推し進め、貿易量を徐々に回復させるとともに、原油輸出量を増加させてきた。つまり、2021年8月に成立したライーシー政権は、欧米諸国の対応如何に拘らず自活できる体制作りに精力的に取り組んできたということだ。

これは、米国から科された経済制裁に対する反応であるとともに、国際協調路線を敷きながらも制裁解除を実現できなかったロウハーニー前政権の失敗からの教訓でもある。

ライーシー政権の「バランスの取れた外交」「近隣重視外交」には、前政権が取った欧米偏重路線の失敗を批判する意味合いも含まれており、多分に同国の内政事情を反映したものでもある。

加えて、イラン国内では、昨年9月以降のヒジャーブ強制着用に対する国民の反感が強まっており、民衆の体制に対する不満が嵩じる危険性が燻っている。また、民衆の経済状況の悪化に対する不満も根強い。

2024年3月には議会選挙が、2025年中頃には大統領選挙も予定される。そうした状況の中で、イラン体制指導部としては、欧米との核交渉からは足抜けせず、同時に、外交成果を喧伝することで国民の視線を逸らせつつ、友好国との関係強化も同時に図る多角化戦略を講じているのだろう。

総じて、イランは、他の中東諸国と似た期待をBRICSに寄せる一方で、米国へのカウンターや第13期(ライーシー)政権による成果のアピール材料としての役割もBRICSに併せ持たせている。【9月1日 中東調査会】
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