孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パキスタン  軍とテロ組織の切れない関係 軍によるテロ組織「政党化」の小芝居

2017-10-23 22:16:40 | アフガン・パキスタン

(テロ組織「ラシュカレ・トイバ」の政党MMLの選挙カーには国際テロリストに指定されている候補者の顔写真が【10月24日号 Newsweek日本語版】)

今も変わらない、建国以来のテロ組織との関係
アフガニスタンのタリバンや、カシミールなどで対インドテロを行うラシュカレ・トイバに代表されるように、パキスタンが多くのテロ組織に居場所を提供しており、更に、それらの多くと軍中枢の軍統合情報局(ISI)が密接な関係を有していることは周知のところです。

下記は、対インド戦略でテロ組織を利用してきたという、パキスタンとテロ組織の建国以来のつながりを論じた2010年の古い記事です。

問題は、7年以上が経過した現在も、(その後のISの出現に伴う、テロ組織をめぐる国際状況は変化しているものの)下記記事のほとんどがそのまま“パキスタンの現状”としてあてはまることです。

****パキスタンはテロリストの「デパート****
ニューヨークの車爆弾テロ未遂事件の背後にあると名指しされたパキスタンは、なぜテロリストを輩出し続けるのか
 
(中略)イギリス政府は、過去10年で暴いたテロ計画の70%がパキスタンにつながっていると見積もっている。イスラム世界でジハードへの支持が低下しているにも関わらず、パキスタンは今もテロリストの温床になっている。

エジプトからヨルダン、マレーシアやインドネシアまで、イスラム過激派組織は軍事面で弱体化していており、政治面での支持も大分失っている。

ではなぜパキスタンでは違うのか? 答えは簡単。建国の時からパキスタン政府はジハード集団を支援し、盛んに活動できる環境を作ってきたからだ。近年ではその方向性も一部変わってきているが、腐敗の根は深い。

建国まで遡るテロ組織との関係
協力を求めて「買い物」に出かけるテロリスト志望者にとって、パキスタンはスーパーマーケットのような存在だ。

ジャイシェ・ムハマド(ムハマドの軍隊)、ラシュカレ・トイバ、アルカイダ、ハッカニ・ネットワーク、パキスタン・タリバン運動(TTP)など、ジハード組織は枚挙に暇がない。

カシミール地方の分離独立を目指すイスラム教過激派組織ラシュカレ・トイバのような主要グループは、偽装団体を隠れ蓑にしてパキスタン全土で堂々と活動している。そしてどの組織も、資金や武器の調達には苦労していないようだ。

パキスタン人の学者で政治家のフセイン・ハッカニは名著『パキスタン――モスクと軍の間で』の中で、パキスタン政府と聖戦士の関係はイスラム国家としての建国まで遡ること、それは国内の支持を得て長年のライバル国インドを弱体化させるためにジハードを利用するという歴代政権の決定にも関係していることを書いている。

ハッカニは、軍高官がテロリストと「自由を求める戦士」を区別していることに触れ、問題は体系的なものだと説明する。

「この二元性は......歴史と、政府の一貫した方針に根ざす構造的な問題だ。ある政権の方針による偶然の結果ではない」。(中略)

ここ数カ月、パキスタン政府と軍は国内のテロリストに対してかつてないほど強硬な姿勢を取っており、軍も甚大な被害を出している。

それでも、「テロリストを区別する」という軍幹部の不可解な態度は変わらない。
パキスタン国民を脅かし、攻撃するテロリストに対しては激しい怒りを見せる。一方でアフガニスタン人やインド人、西洋人を脅かし、攻撃しするテロリストの多くは放置されている。

彼らの「買い物」に理想的な国
(中略)アフガニスタン事情に詳しいパキスタン人ジャーナリストのアハメド・ラシッドは最近、パキスタンはアフガニスタンのイスラム原理主義勢力タリバンに対して影響力を持ち続けていると報じた。

ただしその影響力をもって、タリバンとアフガニスタン政府の和平を仲介するのではなく、アフガニスタン政府に自分たちの言うことを聞かせようとしているという。
 
パキスタンが国益について総合的な見方(自国の安全保障にとって重要なのはアフガニスタンやインド相手の戦略的駆け引きではなく、経済発展だと考えること)をしない限り、テロリストたちはパキスタンを「買い物」に行くのに理想的な場所だと考え続けるだろう。
 
過去40年にわたり、イスラム主義によるテロのほとんどは2つの国とつながりがあった。サウジアラビアとパキスタンだ。

両国ともイデオロギー的なイスラム国家として建国された。何年もの間、政府が正当性を手にするため宗教的イデオロギーを強化したため、両国とも原理主義やジハードの温床になった。

おそらくサウジアラビアでは、分別ある絶対君主アブドラ国王の統治により、その流れは徐々に変わりつつある。それに比べて、パキスタンがジハードの過去を克服するのは容易ではない。【2010年5月10日 Newsweek】
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テロリストとの決別を迫るアメリカ
こうしたパキスタンとテロ組織につながりについて、アフガニスタンでタリバンと戦うアメリカは常々パキスタンに是正を求めたり、苛立ちを示したりしてきましたが、大きな変化がなかったことは、7年前の記事が今も通用することでわかります。

そうした経緯もあって、トランプ大統領は8月21日に示したアフガニスタンでの新戦略に関する演説で、「これまでの対応を変える」「アフガニスタンでアメリカと協力して多くを得るか、テロリストを保護し続けて多くを失うかだ」と、パキスタンに“テロリスト保護”をやめるように強く迫り、同時に、パキスタンの宿敵インドとの関係を重視する形でパキスタンを牽制しています。

もちろんパキスタン政府は「これまでテロリストを保護してきたが、今後はやめる」・・・なんてことは言いません。
それに、重要なのはパキスタン政府ではなく、実権を有する軍・ISIの意向でしょう。

****テロリスト保護批判に反発=米要求「受け入れず」―パキスタン首相****
AFP通信によると、パキスタンのアバシ首相は12日の記者会見で、テロリストの保護をやめなければ「同盟国」としての関係を改めると警告したトランプ米大統領の演説について「われわれはいかなる要求も受け入れない」と反発した。
 
パキスタンの対アフガニスタン国境地帯には、アフガンの反政府勢力タリバンの拠点があるとされる。トランプ大統領は8月21日の演説で、パキスタンに対し、タリバンへの影響力を行使するよう要求した。
 
一方で、アバシ首相は「米国との70年にわたる関係は、一つの問題によって再定義することもできないし、すべきでもない」とも強調。対アフガン国境地帯の警備強化やアフガンとの関係改善に取り組む考えも表明した。【9月13日 時事】 
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アメリカ側は、マティス米国防長官が今月3日、パキスタンに改めて対応変更を迫る発言を行っています。

****米、パキスタンに最後通告=アフガン問題で「もう一度協力****
マティス米国防長官は3日、上下両院でそれぞれ開かれた軍事委員会の公聴会で、トランプ政権が示したアフガニスタン新戦略に関し、「もう一度パキスタンの協力を得るよう試みるが、失敗に終われば大統領が必要なあらゆる措置を取る」と証言し、アフガンの和平実現に向けて協力するようパキスタンに事実上の最後通告を突き付けた。
 
パキスタンはアフガンの反政府勢力タリバンの幹部を国内にかくまい、越境テロを支援しているとされる。トランプ大統領は8月、「パキスタンへの対応を変える」と明言し、アフガン和平に非協力的な姿勢を続ければ支援を停止する可能性も示唆していた。
 
マティス長官はアフガン安定化には周辺諸国の協力が必要だと強調。パキスタンが果たすべき役割は大きいとしつつも、「パキスタンと新しい関係を築くに当たっては、適度に断固とした姿勢で臨む」と語り、「北大西洋条約機構(NATO)非加盟の主要同盟国」待遇の取り消しも視野に入れていると認めた。【10月4日 時事】 
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ISIによるテロ組織「政党化」の小芝居
アメリカとの関係がギクシャクするなかで、中国との関係が強化されている・・・ということはありますが、パキスタンにとってアメリカとの関係はやはり重要です。

****誘拐の米国人ら5年ぶり救出=米大統領、パキスタンを評価****
パキスタン軍は12日、2012年にアフガニスタンでテロリストに誘拐された米国人とカナダ人を5年ぶりに無事救出したと発表した。米国の情報機関と共同で救出作戦に当たったという。
 
トランプ米政権は、パキスタンがアフガンの反政府勢力タリバン幹部を国内にかくまい、アフガンへの越境テロを支援していると批判してきた。トランプ大統領は声明で「パキスタンとの関係において前向きな瞬間だ」と共同作戦を評価した。
 
救出されたのは米国人女性とカナダ人男性の夫妻と子供3人。パキスタン紙エクスプレス・トリビューンによれば、夫妻はアフガンを旅行中に誘拐された。米国務省によると、誘拐したのはタリバン内の強硬派「ハッカニ・ネットワーク」。子供3人は誘拐中に生まれた。
 
パキスタン軍は声明で「米情報機関が一家の消息を追っていた」と説明。この情報を基に「パキスタンの軍と情報機関が実施した作戦」により一家を救出したと述べた。【10月13日 時事】 
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アメリカをなだめるためには、テロ組織に対するある程度の対応を示す必要もあるのでしょう。

そうしたアメリカへの配慮もあってか、最近パキスタン軍の中枢ISIが「テロ組織の無害化」に取り組んでいるとか。
ラシュカレ・トイバなどのテロ組織に合法的政党を作らせる・・・・という方策ですが、どこまで効果があるかには疑問も。

****過激派「政界入り」戦略の欺瞞****
パキスタン 長年テロ組織を利用してきた軍部が仕掛けたテロリストの「無害化」は裏目に出かねない

パキスタンのイスラム過激派組織ラシュカレ・トイバの指導者ハフィズ・ムハマド・サイードは、どうやら「宗旨替え」したようだ。
 
08年にインド・ムンバイで起きた同時多発テロの首謀者とみられるサイードは、これまで民主主義を敵視していた。その彼が今や新たに誕生した政党「ミリ・イスラム教徒連盟(MML)」の顔となり、9月中旬に実施された下院補欠選挙では自宅軟禁の身ながら同党が推す候補者の応援に大いに貢献した。
 
選挙管理委員会はMMLの政党登録を認めていないが、補欠選が行われたパキスタン第2の都市ラホールでは、MMLのスタッフが堂々と選挙活動を展開。サイードの写真入りポスターが街中に貼られた。MMLの推す候補者ヤクーブ・シェイクは、12年に米財務省が国際テロリストに指定した人物だ。
 
ナワズ・シヤリフ前首相が資産隠し問題で議員資格を剥奪されたために実施された今回の補欠選で、MMLは非公式とはいえ5%の票を獲得した。
 
それにしても、テロ組織がなぜ政党を結成したのか。しかも政党登録を認められていないのに、なぜ堂々と選挙活動を展開できたのか。答えは1つ。軍の後ろ盾があるからだ。
 
パキスタンの情報機関・軍統合情報局(ISI)は、今年に入って複数の「非合法組織」と交渉を進めてきたと、パキスタン平和研究所のムハマド・アミール・ラナは話す。これらの交渉は過激派組織の「体制内取り込み」戦略の一環だという。
 
実際、北アイルランドのIRA(アイルランド共和軍)のように、政治参加に道を開くことでテロ組織の武装解除に成功した例はある。
 
だがこのやり方が成功するには、政府がテロ組織に対してムチ(軍事的な攻撃)を振るう一方で、アメ(政治的な影響力)を提供しなければならない。

今のパキスタン政府は、そのどちらにも及び腰だ。そのため、過激派の取り込み戦略は治安回復につながるどころか、むしろ逆効果になる公算が大きい。

ISIが打った小芝居
では、なぜ軍は政党結成を支援したのか。
 
国際的な基準に照らせば、パキスタン軍は規模、装備とも強力な軍隊だが、隣国インドの軍事力には到底太刀打ちできない。そこでパキスタン軍は姑息な手段でインドに対抗してきた。
 
パキスタン政府は米トランプ政権の意向を気にして今年1月、サイードを期限付きの自宅軟禁にした。しかし、ラシュカレ・トイバ傘下の慈善団体ジヤマートダワは公然と活動を続けている。軍のお墨付きがあるからだ。
 
ラシュカレ・トイバはパキスタン国内では攻撃を控えている。彼らの役割は軍に代わって、領土問題でもめているカシミール地方などでインドヘのテロ攻撃を行うこと。

08年のムンバイでのテロに関与して逮捕されたパキスタン系アメリカ人デービッド・ヘッドリーーは、ISIが「財政、車事、士気面で」テロ計画を支援したと証言している。
 
一方、慈善団体のジヤマートダワは軍の支援を受けて、国際NGOなどが活動できない国内の治安の悪い地域で貧困層の救済活動などを展開。幅広い層に支持されている。
 
ジヤマー・トダワヘの支持は、そのままラシュカレ・トイバヘの支持につながる。ピュー・リサーチセンターの15年の調べでは、ラシュカレ・トイバに批判的なパキスタン人は36%にすぎなかった。
 
ではなぜ今、軍はラシュカレートイバを「合法的な組織」に仕立てようとしているのか。政党結成の背後には、国際的な圧力をかわしたいという思惑が透けて見える。
 
トランプ政権はISIの庇護の下でテロリストがパキスタンに潜伏しているとの分析に基づき、今年7月、パキスタンヘの軍事援助の減額に踏み切った。
 
9月初めに開催された新興5力国BRICS首脳会議の声明でも、地域の安定に対する脅威としてラシュカレ・トイバが初めて名指しで非難された。

パキスタン政府もこれに同調したが、テロ対策でも外交政策でも軍が頼りとあっては、取り締まりを強化するわけにはいかない。
 
とはいえ、外交上の孤立は軍にとっても好ましい状況ではない。そこで、ラシュカレ・トイバを「政治的に無害化」する小芝居を打つたというわけだ。
 
この小芝居は思わぬ戦略的な実りをもたらしたようだ。軍はインドとの対話を目指すシャリフ前首相を目の敵にしていた。

ラホールでの補欠選ではパキスタン・イスラム教徒連盟シャリ派(PML-N)の候補が勝利したが、13年の総選挙と比べると2位との差は縮まった。MMLの候補者擁立で宗教的右派の票が割れたからだ。

ムンバイ攻撃の訓練も
パキスタン内務省はMMLを政党として認めていないが、いずれは軍の圧力に屈するだろう。そうなればMMLはかなりの支持を集めそうだ。

ジャマートダワは全土で慈善活動を行っている。約200校の学校を運営し、災害が起きれば支援に駆け付け、ヒンドゥー教徒やイスラム教シーア派などマイノリティーにも手を差し伸べている。
 
もちろん、それは表向きの姿にすぎない。ジヤマートダワは多額の寄付を受けて、ラホール郊外の広大な敷地に本部を構えている。

報道によれば、敷地内にある湖でラシュカレ・トイバが海と陸からムンバイを攻撃するための訓練を行っているという。

来年の総選挙でMMLが国政進出を果たせば、政治資金の一部がテロ計画に回されることは火を見るよりも明らかだ。
 
パキスタン軍の戦略は別の形でも裏目に出そうだ。ラシュカレ・トイバにインドを攻撃させるのは、パキスタンの軍と政府は関与していないと見せ掛けるためだ。しかしサイードの組織を体制に取り込めば、そんな言い逃れは通用しなくなる。
 
01年にラシュカレ・トイバがインドの国会を襲撃した後、インド、パキスタン間の緊張は一気に高まった。印パ両軍が国境地帯で対峙し、「あわや核戦争か」という事態となった。
 
パキスタン政府は当時、国会襲撃は過激派の仕業だと主張し、取り締まりを強化すると約束して全面戦争を回避した。これは当時でさえ苦しい言い逃れだったが、もうこの手は使えない。【10月24日号 Newsweek日本語版】
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政党登録を認められていないのに堂々と選挙活動を展開できる・・・というのも滅茶苦茶ですが、軍の力が政府や法律等を超越するパキスタンの実情なのでしょう。

そういう国が多くの核兵器を保有して、インドと激しく対立しているというのも怖い話です。パキスタンやイスラエルの核が容認される一方で、イランや北朝鮮の核が否定されるというのは、当事国としては理不尽なことでしょう。

いずれにしても、アフガニスタン人やインド人、西洋人を脅かし、攻撃しするテロリストは「自由を求める戦士」であり、糾弾すべきテロリストとではない・・・という発想と軍、そして国民世論が決別し、慈善活動を行う組織であってもテロ組織は容認できないという立場に立たない限り、何より軍・ISIがそうした組織との関係を絶たない限り、このような“小芝居”ではアフガニスタンの状況も、周辺国のテロの脅威も軽減しないように思われます。

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