孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

シリア  ラッカ解放でも続く戦闘・悲劇 

2017-10-24 22:18:26 | 中東情勢

(シリア首都ダマスカスの東方に位置する東グータの病院で、深刻な栄養失調に苦しむ幼児(2017年10月21日撮影)。【10月23日 AFP】 
最初に写真を見たとき、ホラー映画に出てくるような趣味の悪い“つくりもの”の画像かと思いました。あまりにも“幼児”のイメージとかけはなれています。)

政府軍包囲が続く東グータ地区 栄養失調で失われる幼児の命
シリアでは、ISが首都としていたラッカが奪還されましたが、戦いは対IS、ラッカだけでなく、IS、政府軍、反体制派、イスラム過激派、クルド人勢力など多くの勢力が入り乱れ、更にこれを支援するロシア、アメリカ、イラン・ヒズボラ、トルコなども加わって、複雑で広範な戦闘が今も継続しています。

そのひとつが首都ダマスカス近郊に位置する、反体制派が支配する東グータ地区で、政府軍は5年にわたり包囲を続けています。

グータ地区は政府軍のミサイル攻撃などの他、複数回の化学兵器による攻撃も行われたとされ、特に、2013年8月の化学兵器攻撃については、オバマ米大統領が主張していた“レッドライン”を超えたものとして、アメリカの軍事介入が国際的に注目されました。結局、ロシア主導の化学兵器廃棄の線で落ちついたものの、オバマ大統領は自身の発言を実行しない“弱腰”との批判を受けることにもなりました。

その政府軍包囲が続く東グータ地区では、ユニセフによれば、1100人余りの子供が急性栄養失調に陥っているとのことです。そして次々に幼い命をなくしています。

****シリアの封鎖地域で、餓死する子どもたち*****
シリアの東グータで22日、肋骨が浮いて見えるほどやせ細った生後1か月の女児、サハルちゃんが息を引き取った。バッシャール・アサド政権軍に包囲された壊滅状態のこの町では、子ども数百人が飢餓に直面している。

シリアの首都ダマスカスの東方に位置するこの地域は反体制派の支配下にあるが、2013年以降、アサド政権軍が厳重な封鎖体制を敷いており、人道支援団体からの援助はこれまでほんのわずかしか届いていない。
 
内戦6年目に突入したシリアでは今年5月、政権軍と反体制派のそれぞれの支援国の間で交わされた取り決めによって、東グータを含む4か所の「緊張緩和地帯(ディエスカレーション・ゾーン)」が設置された。

しかし依然として、東グータに食料が届くことはめったになく、現地の医療当局者によると、子ども数百人が急性栄養失調に直面している。
 
生後わずか34日のサハルちゃんの両親は21日、東グータの町ハムーリアにある病院に娘を連れて行った。AFPと提携している記者が撮影した画像には、うつろな目を大きく見開き、ほぼ骨と皮だけになった女児が写っていた。
 
女児は泣き声を上げようとするが、体力が足りず大きな声が出せない。そばにいた若い母親からはすすり泣きがもれた。がりがりに痩せた女児のももは、ぶかぶかのおむつから突き出ていた。女児を体重計に乗せて測ってみると、2キロに満たなかった。
 
グータに住む他の数百人の子どもたちと同様に、サハルちゃんも急性栄養失調に陥っていた。母親は栄養不良のため十分な母乳を与えることができず、肉屋でわずかな賃金しか得ていない父親にはミルクや栄養剤を買うことができない。
 
サハルちゃんは22日朝、病院で死亡した。両親は一人娘を埋葬するため、遺体を抱いて近隣の町に向かった。
 
シリア人権監視団によると、グータでは前日の21日にも、別の子どもが栄養失調のため死亡している。「住民らは深刻な食料不足に陥っており、市場に商品が並んだとしても、法外な値段が付けられている」という。

■亡霊のような顔
東グータの病院や診療所の医師らは、栄養不良の子どもを1日に数十人は診察すると話しており、その数は増加の一途をたどっている。
 
グータに複数の医療センターを開設しているトルコのNGO「ソーシャル・デベロップメント・インターナショナル」の現地医療業務長を務めるアブ・ヤフヤ医師によると、同団体の施設がこの数か月間で診察した子どもの数は9700人に上る。

「このうち80人は重度の急性栄養失調、200人は中程度の急性栄養失調にかかっており、約4000人に栄養欠乏症状がみられた」という。
 
国連の統計によると、シリアの封鎖地域で暮らす人々は約40万人に上っており、その大半は東グータに集中している。
 
アサド政権を支援するロシア、イランの両国と、反体制派を支援するトルコの後押しを受けて緊張緩和地帯に関する取り決めが合意されたものの、同地域では依然として非常に限られた支援しか受けることができない。

アブ・ヤフヤ医師は、この地域には子どもたちが必要とする糖分やたんぱく源、ビタミン源となる基本的な食料が届いていないと話している。【10月23日 AFP】
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****シリア封鎖地域、子供1100人超が栄養失調 ユニセフ****
国連児童基金(ユニセフ、UNICEF)は23日、シリアの首都ダマスカス近郊に位置する反体制派掌握地域で、政府軍の包囲が続く東グータ地区で、1100人余りの子供が急性栄養失調に陥っていることを明らかにした。
 
AFPの取材に応じたユニセフのモニカ・アワド広報担当官は、過去3か月間に行われた調査により、1114人の子供がさまざまな栄養不良状態にあることが判明したと説明。うち232人が、危険度が最も高く、救命のための緊急治療が必要とされる「重度急性栄養失調」だった。
 
残る882人は中程度の栄養失調状態で、さらに1500人の子供が栄養失調の危険にさらされているという。アワド氏はまた、ここ1か月間で生後34日の女児と生後45日の男児の乳児2人が母乳不足により死亡したとも伝えた。(後略)【10月24日 AFP】
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東グータ地区については、記事にもあるように、今年5月、アサド政権を支援するロシア、イランの両国と、反体制派を支援するトルコの後押しを受けて緊張緩和地帯に関する取り決めが合意されています。

更に7月には停戦合意も成立しています。

****シリアの東グータで停戦、首都近郊に残る反政府勢力の拠点の一つ****
シリア政府は22日、同国首都ダマスカス近郊に残る反政府勢力の拠点の一つ、東グータでの停戦を宣言した。これに先立ち、シリア政府を支援するロシア政府と反体制派が、政府側が包囲していた東グータに安全地帯を設置することで合意していた。
 
シリアでは過去6年間に及ぶ内戦で、これまで多くの町や村が戦闘により破壊されており、ダマスカス近郊の東グータは、同国のバッシャール・アサド政権と戦う反体制派が掌握する最後の砦のうちの一つ。シリア政府への抗議行動として2011年3月に始まった同国の内戦ではこれまでに33万人以上が死亡している。
 
東グータは今年5月、シリア政府側を支援するイランとロシア、そして反体制派を支援するトルコが「緊張緩和地帯(ディエスカレーション・ゾーン)」を設置する対象として指定された4地域のうちの1つ。

しかし緊張緩和地帯の治安維持について意見が一致していないことから合意はまだ完全に履行されておらず、東グータは停戦合意に達した2つ目の地域となった。
 
国営シリア・アラブ通信(SANA)は政府軍の声明として「ダマスカス県東グータの一部地域で22日正午(日本時間同日午後6時)より停戦が実施される」と報道した。また声明では「(停戦)違反があった場合は軍が適切に報復する」と警告したが、東グータのどの地域が含まれるかについては言及しなかった。
 
この数時間前、ロシアはエジプト首都カイロで行われたシリアの「穏健な」反体制派と和平協議を行い、東グータの緊張緩和地帯をどのように機能させるかについて話し合ったと明らかにしていた。
 
ロシアは自国と反体制派が「緊張緩和地帯の境界線および兵力の配置場所と停戦監視部隊について」合意に署名したと述べ、また「人道支援物資の運搬や住民の自由な移動のためのルート」についても合意したと付け加えた。ロシアは「数日中にも」同地域で人道支援物資の運搬と負傷者の避難を開始するとしている。
 
しかし、カイロでロシアと停戦合意に署名したと主張する反体制派組織はおらず、反体制派の中でも影響力の強い組織の1つはロシアとの和平協議に関与していないと主張している。
 
5月に緊張緩和地帯に指定された4地域のうち、停戦合意に達していない残りの2つは反体制派が掌握するイドリブ県と中部ホムス県北部地域。この4地域には合計で250万人以上の住民が暮らしているとみられている。【7月23日 AFP】
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停戦合意し、ロシアは反体制派と「人道支援物資の運搬や住民の自由な移動のためのルート」についても合意したとしてはいますが、現実に餓死が進行する状況が続いています。

政府軍は、食糧封鎖継続は停戦順守には反しないという認識でしょうか。反体制派はこの現状をどのように認識しているのでしょうか。

戦争に犠牲者は不可避・・・とは言え、民間人を餓死に追い込むような封鎖状態は許容できません。
政府軍、反体制派双方が事態改善に向けた早急な対応をとることが求められます。

ラッカ解放 “人間の盾”、有志連合の空爆、IS処刑による多大な犠牲者も
冒頭にも触れたように、ラッカは20日、クルド人勢力によって“解放”が正式に発表されています。

****<シリア>ラッカ解放 シリア民主軍が正式発表****
過激派組織「イスラム国」(IS)が「首都」と称したシリア北部ラッカの奪還作戦で、米軍などの支援を受けるクルド人主体の民兵組織「シリア民主軍」(SDF)は20日、ラッカ解放を正式に発表した。
 
SDFはIS戦闘員が立てこもっていた市内のスタジアムを制圧した17日に事実上の奪還を宣言していたが、その後も残存勢力の掃討を続けていた。ISが2014年から実効支配してきた拠点は、これで3年ぶりに完全に解放される。
 
一方、ラッカを脱出したIS幹部らは東部デリゾールなどに逃亡しており、米軍などによる掃討作戦は今後も続く。【10月20日 毎日】
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ラッカでも、住民は“人間の盾”とされるなど、悲惨な経験をしています。

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・・・・ISは住民を「人間の盾」に抵抗。住民は食料が尽きると木の葉を食べ、止まった上水道の代わりに濁った井戸水を飲んだ。ライラさんは約2週間前、未明に家族と一緒に脱出を図った。監視役の狙撃手が銃撃してきたが、ユーフラテス川を渡って逃げ延びた。【10月19日 朝日】
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しかし、生き延びることができた者は、まだ“幸運”に恵まれていた・・・とも言えます。

****シリア市民犠牲1300人=有志連合のラッカ空爆―監視団体****
過激派組織「イスラム国」(IS)が首都と称するシリア北部ラッカの解放作戦で、在英ジャーナリストらでつくる監視団体「エアウォーズ」は19日、米軍を主力とする有志連合の空爆で少なくとも民間人1300人が犠牲になったとの推計を発表した。ISに殺害された民間人を含めると、犠牲者はさらに増えるとみられる。
 
同じく在英のシリア人権ネットワークは民間人1800人以上が空爆やISとの戦闘に巻き込まれて死亡したと推計。シリア人権監視団は死者数が計1100人以上に上ると発表した。同監視団によれば、ラッカでは市街地の8割がほぼ完全に破壊され、居住が不可能な状態という。
 
死亡した民間人の多くは有志連合が空爆した建物内にいたり、安全な地域に逃げようとした際にISに銃撃されたりした。親族の遺体を収容しようとして戦闘に巻き込まれた例もある。【10月21日 時事】 
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****IS、シリア政府の協力者とみなした民間人116人を「処刑****
シリア中部カルヤタインで今月、イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」がシリア政府部隊に同地を奪還される前に、体制側と協力関係にあると疑われた116人を殺害していたことが分かった。英国に拠点を置くNGO「シリア人権監視団」が23日、発表した。
 
同監視団のラミ・アブドル・ラフマン代表は、「ISは20日間のうちに、政府軍と協力関係にあったとみなした民間人116人を報復として処刑した」と述べた。【10月23日 AFP】
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【“IS後”の勢力争いは政府軍を軸に展開 焦点はクルド人勢力の扱い
何とも言いようのない悲惨な状況ですが、これも冒頭で触れたようにラッカ解放で戦いが終わるものでもありません。“IS後”の勢力争いという“第2ステージ”に入るだけです。

****IS崩壊でシリア分裂いっそう鮮明化も 和平協議の行方混沌****
シリア北部ラッカの陥落により、イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)は事実上、崩壊した。今後は内戦後のシリア統治の将来像をどう描くかが国際社会にとっての急務となる。

しかし、米露やトルコ、イランなど、シリア各地で個別に戦闘に関与してきた国々が合意できるかは不透明で、それぞれの国益を背景に駆け引きが活発化するものとみられる。
 
ラッカの市街をISから奪還したのは、米国の支援を受けたシリア民主軍(SDF)だ。国内少数派クルド人とアラブ人の混成部隊で、市街に進入して約4カ月の戦闘でISをほぼ排除した。(中略)
 
ロイター通信によると、SDFはラッカの統治を自らの政治部門主導で設置された「市民評議会」に委ねる方針だ。戦後の影響力を確保する狙いがあるが、SDFは、隣国トルコの非合法クルド人組織の実質的な傘下勢力が中枢を担っていることから、同国が反発を強めるのは必至だ。
 
一方、東部デリゾールでは、政権軍とそれを支援するロシアがISを追い詰めつつある。イランの影響下にあるレバノンのシーア派民兵組織ヒズボラも掃討に加わっているとみられる。これらがアサド政権維持を目指しているのは明白だ。
 
昨年末に反体制派から奪還した北部の最大都市アレッポでは、「ロシア軍とシーア派民兵が治安維持に当たっている」(外交筋)との見方もある。ロシアとイランは、内戦後の影響力確保に向けて着々と布石を打っているようだ。
 
今後は、アサド政権側と反体制派の和平協議の行方が焦点となる。しかし、その舞台は、国連が関与するジュネーブでの協議と、ロシアやトルコ、イランが主導するカザフスタン・アスタナでの協議に割れており、すぐに結論が出る見通しは低い。

和平協議が停滞する中、各勢力がISや反体制派から奪還した都市での支配を強め、シリアの分裂がいっそう鮮明になる可能性さえありそうだ。【10月18日 産経】
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****焦土のラッカ、混迷のシリア アサド政権・IS・反体制派、続く内戦****
(中略)
 ■カギは2地域、米の関与焦点
アサド政権は2015年春、要衝の北西部イドリブ県を反体制派に奪われ、劣勢に追い込まれた。だが同9月、後ろ盾のロシアが軍事介入に踏み切り、息を吹き返した。

ロシアは反体制派やISへの大規模空爆を続け、形勢は逆転。政権は昨年末、内戦勃発以来の反体制派の最重要拠点だった北部アレッポを制圧し、軍事的優位を盤石にした。
 
内戦の行方は、2地域が鍵を握っている。
一つは、IS支配地域が残る油田地帯の東部デリゾール県だ。

アサド政権軍は同地のIS拠点掃討を進めてきた。ラッカを制圧したクルド人勢力も南進しており、両者は今後、衝突する可能性がある。
 
もう一つはイドリブ県だ。同県では過激派組織「シャーム解放委員会」(旧ヌスラ戦線)が反体制派を放逐し、ほとんどを支配する。

このため、政権側のロシア、イラン、反体制派側のトルコが「呉越同舟」で旧ヌスラ戦線を牽制(けんせい)することを決めた。

注目は米国の関与だ。米国は対IS掃討を理由にクルド人勢力を支援してきた。米国が支援を続け、デリゾール県でアサド政権軍と衝突すれば、米ロ関係の悪化は必至だ。
 
一方、米国がクルド人勢力への支援をやめれば、同勢力の支配地域はアサド政権軍に奪還される可能性もある。

アサド政権に対しては、ロシアだけでなく、トランプ米政権が敵視するイランも支援する。政権の支配地域拡大はイランの影響力拡大につながり、米国は看過できない。米国は苦しい立場に置かれている。【10月19日 朝日】
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東部デリゾールに撤退したIS、冒頭の東グータの反体制派、イドリブのイスラム過激派などは、この先政府軍を軸にした展開のなかで次第に駆逐されるされるのではないでしょうか。

そうした現実を追認する形で、国際的な和平協議もアサド政権存続を軸に進むのでしょう。

残る大きな問題は、イラク同様、政府軍に次ぐ勢力となったクルド人勢力の支配地域をアサド政権がどこまで認めるか・・・という問題です。

すでに十分すぎる犠牲を払っているシリアですが、もうしばらくは混乱が続きそうです。

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