孤帆の遠影碧空に尽き

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パキスタン  イスラム過激派対応でタリバン政権に不満 国境銃撃戦に続きアフガン人不法滞在者追放

2023-10-05 22:46:56 | アフガン・パキスタン

(アフガニスタンとパキスタンの国境=2月2日、トーカム【9月6日 時事】 9月6日に迫撃砲を含む銃撃戦が発生、国境は一時的に閉鎖された)

【パキスタン アフガニスタン・タリバン政権にイスラム過激派取締りを要請】
パキスタンではイスラム過激派(「パキスタン・ターリバーン運動」(TTP)、「イスラーム国ホラーサーン州」(ISKP)など)によるテロが頻発しています。

****パキスタンで爆発57人死亡 自爆テロ、2カ所のモスク****
パキスタン南西部バルチスタン州のモスク(イスラム教礼拝所)近くで29日、爆発があり、少なくとも52人が死亡、約50人が負傷した。

北西部カイバル・パクトゥンクワ州のモスクでも同日、爆発があり、少なくとも5人が死亡、12人が負傷した。警察はいずれも自爆テロとみている。犯行声明は確認されていない。地元メディアが報じた。
 
この日はイスラム教の預言者ムハンマドの生誕祭だった。バルチスタン州の爆発では、数百人の教徒らがモスクから行進していたところ、男が付近の警察車両に近づき、爆発物を起爆させたとみられる。【9月29日 共同】
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TTPやISKPなどのイスラム過激派は隣国アフガニスタン内に拠点があり、武器調達などもアフガニスタンで行っていると思われます。

パキスタン政府は増加するテロ対策としてとして、アフガニスタン・タリバン政権にイスラム過激派対策を要請しています。

****アフガニスタン:パキスタン国防相がカーブルを訪問しテロ対策について協議****
2023年2月22日、パキスタンのアーシフ国防相率いる代表団がカーブルを訪問し、ターリバーンのバラーダル副首相代行らと会談した。

パキスタン代表団には、軍統合情報局(ISI)長官、アフガニスタン特使らも同行した。ターリバーンのムジャーヒド報道官によれば、会談では、治安、アフガニスタンに飛来するドローン、敵対的勢力の活動、貿易関係、国境管理等が協議された。

また、バラーダル副首相代行は、パキスタン国内で拘束されるアフガン難民の処遇、及び、トルハム国境等での円滑な通行について改善を要望した模様だ。

一方、22日付パキスタン外務省声明によれば、パキスタン・ターリバーン運動(TTP)、及び、「イスラーム国ホラーサーン州」(ISKP)を筆頭に、地域で増大するテロの脅威への対処が会談で議論された。

評価
今次訪問の主要な議題は、テロが両国に与える脅威を如何に抑えるかであったと考えられる。パキスタンでのイスラーム統治実現を標榜するTTPは、パキスタンにとって治安上の脅威である。

2022年6月にはパキスタン政府とTTPは一時停戦に合意したものの、11月にTTPは停戦を延長しない旨発表、12月頃からパキスタン治安部隊への攻撃再開を指示した。

2023年1月30日、パキスタン北西部のペシャーワル市のモスクの爆発では、昼の礼拝のために集った市民100名超が死亡した(注:TTPは公式には無関係と主張)。

目下、パキスタン治安機関にとってTTPの活動を抑え込むことが焦眉の急であり、過去には水面下で協議を仲介したこともあるなど、TTPと密接な関係を有するターリバーンから協力を得たいものと見られる。

そして、ISKPへの対策も両国にとって重要である。ISKPはアフガニスタン国内で、シーア派教徒への攻撃のみならず、最近では、ロシア大使館(2022年9月)、中国人客の利用が多いホテル、パキスタン大使館(ともに12月)を標的に治安事案を引き起こしてきた。実害を被ったパキスタンは、ISKPの活動が自国に波及・拡大することは避けたいはずであり、実効支配勢力ターリバーンにテロ対策面での活躍を期待しているのだろう。

この他、両国関係においては、国境管理、アフガン難民の処遇を巡る問題等、課題が山積している。今次訪問にISI長官が同行していることから見ても、パキスタンとしてはターリバーンをしっかり制御しつつ、自国にとっての利益を確保したい意向がうかがえる。

一方のターリバーンは、現在の状況を外国による「占領」から解放されたと認識しており、パキスタンからの過度な介入や干渉には強く反対すると考えられる。(後略)【2月24日 中東調査会】
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【もともとタリバンはパキスタンの軍情報機関ISIが育てた組織ではあるが、復権後はタリバン側は独自性主張も】
もともとタリバンはパキスタンの軍情報機関ISIが中心になって(初期はアメリカのCIAの意向を受けて)資金・軍事訓練・武器などを供与し育成した組織です。

****タリバンの「生みの親」はパキスタンのスパイ組織****
(中略)ISIは「国家の中の国家」と呼ばれる組織で、パキスタンの国家運営を裏で牛耳っていると言われる。内政、安全保障、外交に至るまで、ISIの発言力は高い。大統領も首相も、ISIから許可なく物事を決められないほどだという。

ISIがそれほどまでに力を付けた背景には、アメリカの存在がある。創立以降どんどん大きくなってきたISIだが、特に1979年、隣国アフガニスタンにソビエト連邦が侵攻したことが大きな転機となった。

当時ソ連と冷戦状態にあったアメリカは、ソ連侵攻でアフガニスタンが共産化するのを阻止しようとした。そこでアフガニスタンとも近い関係だったパキスタンのISIと、緊密な関係を築くようになる。

アメリカは軍事的な支援や戦闘資金などをISIに提供し、ISIはそれを元にアフガニスタンでソ連軍と戦うムジャヒディン(イスラム戦士)を支援。戦闘訓練も施した。ムジャヒディンはその後、イスラム原理主義勢力、タリバンとなった。

つまり、ISIは諜報機関として、アメリカなどの後ろ盾を得てテロ組織を運営するようになっていったのである。結局、ソ連はタリバンなどの攻勢によってアフガニスタンから撤退を余儀なくされるのだが、その後にアフガニスタンを支配したのはタリバンだった。そして内戦の末、1996年にはタリバン政権が誕生する。

ただそれも長くは続かなかった。アメリカで911米同時多発テロが発生し、首謀者とされたイスラムテロ組織アルカイダの最高指導者ウサマ・ビン・ラディンを匿っていたとして、米軍はタリバン政権率いるアフガニスタンを軍事攻撃。あっという間に、自分たちが誕生の手助けをしたタリバンの政権を崩壊させる。

以降、米軍はアフガニスタンに駐留し、引き続きISIに軍事支援や資金提供をして、タリバンやアルカイダと戦ってきた。一方、ISIはタリバンとの関係を維持し続けてきた。(中略)

お隣のアフガニスタンが安定するか混乱するかは、パキスタンの利害問題でもある。そのためISIは、いまだにタリバンを使って情勢をコントロールしようとしているのだ。【2021年7月15日 COURRIER JAPON】
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上記はタリバン復権以前の記事で、パキスタン軍情報機関がタリバンを生み育て、旧政権崩壊後もタリバンを支援し、コントロールしてきたことは事実でしょう。ただ、その力関係に次第に変化はあったかも。

タリバンの攻勢が強まるにつれ、パキスタンはアメリカなどからタリバン抑制を再三求められていましたが、パキスタンはタリバンをコントロールする力はないといった旨の主張をしていました。

実際のところタリバン復権前の頃のパキスタン(ISI)・タリバン関係がどのようなものだったのかはよくわかりませんが、ISIとの関係が切れた訳でもないでしょう。

こうした経緯からパキスタン側にはアフガニスタン・タリバン政権に対し、上から目線的な、パキスタンの要請に応じて当然・・・といった発想もあるのかも。想像ですが。

一方のタリバン側は、“外国による「占領」から解放されたと認識しており、パキスタンからの過度な介入や干渉には強く反対すると考えられる”【前出 中東調査会】と、独自性を強めていると推測されます。

【パキスタン側の不満爆発 国境での銃撃戦 国境封鎖】
そうした「関係変化」を背景に、冒頭のようなテロ頻発でタリバン政権の生ぬるい対応へのパキスタン側の不満の高まりもあって、パキスタン・アフガニスタンの国境では緊張状態にありました。

****アフガニスタン:パキスタンとのトルハム国境が封鎖、両国間の緊張が高まる****
2023年9月6日、アフガニスタン・パキスタン両国を隔てるトルハム国境において、両国国境警備隊による銃撃戦が発生した。これを受けて、同国境は一時的に封鎖された。

国境封鎖の継続を受けて、アフガニスタン外務省は9日に声明を発出し、パキスタンによる国境封鎖措置に反対の意を表明するとともに、収穫期を迎えたアフガニスタン農産物の輸出を妨げるパキスタン政府の対応を強く非難した。また、ターリバーンは同声明で、6日の国境付近での治安事案において先に攻撃を仕掛けたのはパキスタン軍だと主張した。

これに対し、パキスタン外務省は11日、アフガニスタン暫定政権(注:ターリバーンを指す)が、パキスタン領内に人工建造物を建設したと述べ、ターリバーンが先に発砲したと主張した。

評価
アフガニスタンにとり、パキスタンは輸出第1位、輸入第3位の重要な貿易パートナーであり、トルハム国境封鎖の経済的影響は大きい。パキスタンが今次措置を講じた背景には、近年、ターリバーンに対する不満を強めていたことがある。

パキスタン国内では、パキスタン・ターリバーン運動(TTP)による攻撃が増加傾向にあり、パキスタン当局はTTPがアフガニスタン領内に聖域を得て、米軍が残した兵器を入手し攻撃していると見ている(注:米政府は兵器の流出を否定)。

こうした経緯から、パキスタンはターリバーンに対し、アフガニスタン領をTTPに使用させないよう再三要求してきた。

こうした中、今次事案と同日(6日)発生した、北西部ハイバル・パフトゥンフワー州のチトラールでの治安事件も影響を与えていると考えられる。国境での衝突が発生したその日、チトラールでも、複数のTTP戦闘員がパキスタン軍の哨戒所を襲撃し、交戦の末、パキスタン兵士4人が死亡、武装勢力12人以上が死亡する事件が発生した。

同事件によって、パキスタン側の不満が爆発したと考えられる。なお並行して、パキスタン領内でのアフガニスタン難民に対する取締りも強化されている模様である。

一方のターリバーンは、同国の領土を他国に危害を加えるために使用させることはないと主張し続けている。2021年8月の政権奪取を経て、ターリバーンは外国軍の占領から解放されようやく自由と独立を手に入れたと認識しており、次第に独自路線を強めてもいる。こうした事情から、アフガニスタン側も独自の主張を押し通そうとするだろう。

このように両国間には課題が多い一方で、強固な経済・貿易関係もあり人の往来も活発であるため、対話を通じて国境を再開させることが重要である。TTPの活動抑え込みにおいて、ターリバーンが如何にパキスタンと協力できるかが一つの焦点となるだろう。

他方、実際のところ、ターリバーンとTTPは長年共闘してきた間柄であり関係断絶は困難であるため、両国関係の完全修復には時間を要する可能性がある。【9月12日 中東調査会】
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“TTPがアフガニスタン領内に聖域を得て、米軍が残した兵器を入手し攻撃している”というパキスタン当局の主張は事実のようです。

****死んだ父を探す幼い妹 命を奪った武器の正体****
(中略)
タリバン復権の前から、アフガニスタンの政府や軍関係者がアメリカ製の武器を横流しするケースはあったといいます。ただ、扱う量が増えたのは、タリバンの復権後。

武器庫が開けられ、そこからタリバンの戦闘員が機関銃やロケット弾などを持ち去り、一部をタリバンに提出して、残りを自宅に保管しているのだといいます。

そして戦闘員たちは、ガソリンを入れる時など生活費が必要になるとブローカーに武器を売りに来ていたのだそうです。

以前はアフガニスタン国内で1万ドルほどの価格で取り引きされていたM4ですが、闇市場に出回るようになると取引価格が下落。タリバンの復権直後は、1000ドル以下、10分の1以下まで値下がりしたといいます。
(過去にアフガニスタンで武器のブローカーをしていたという)男性は、こうした闇市場でアメリカ製の武器を調達し、取り扱った武器が国境を越え、パキスタンのイスラム過激派組織TTPに渡ったこともあったということです。

「タリバン自身が武器を取り引きするのは自由だ。武器は、イランや中国にも流出している。誰も、流出を止めることができない」

実際に、隣国パキスタンの治安当局はTTPがこの武器を入手し、テロ活動を活発化させているとみています。
2023年の上半期にパキスタンで発生したテロは、2022年の同時期より79%も増えているというシンクタンクの調査も明らかになっています。

さらに国連が2023年7月にまとめた報告書では、TTPだけでなく過激派組織IS=イスラミックステートにまで武器が流出している疑いがあるとしています。(後略)【9月14日 NHK】
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【止まないテロ パキスタン当局はアフガン不法滞在者を国外退去に タリバン政権報復から逃れてきた人々も】
“パキスタン側の不満が爆発で国境での銃撃戦”とのことですが、更に冒頭に紹介した9月29日の2か所のモスクでのテロ事件・・・いよいよパキスタン側の不満は大爆発の様相。

****パキスタン、アフガン不法滞在者を国外退去に****
パキスタン内相は3日、国内に不法滞在している数十万人のアフガニスタン人について、11月1日までに自主的に出国しなければ国外退去を命じると発表した。

パキスタン政府は、アフガニスタンから活動する過激派の攻撃が増加しているとして取り締まりを強めている。一方、アフガニスタン政府はこうした攻撃について否定している。

国連の最新の統計によると、パキスタン国内には難民登録をしているアフガニスタン人が約130万人いるほか、88万人が滞在許可を得て暮らしている。

だが、移民問題を担当するシャーゼーン・ブグティ内相は、これに加え170万人のアフガニスタン人が不法に滞在していると主張した。

アフガニスタンでは、イスラム主義組織タリバンが復権した2021年8月以降、推定60万人がパキスタンに避難した。

国営通信APPは、ブグティ氏が会見で「パキスタンに居住する不法移民と不法滞在者に与えられた期限は11月1日だ」「出国しないのなら、州や連邦政府の法執行機関を総動員して強制退去させる」と述べたと伝えた。

政府筋がAFPに語ったところによると、政府は全アフガニスタン人の国外退去を望んでいる。「第一段階では不法滞在者、第二段階ではアフガニスタン国籍の人、第三段階では滞在許可証を持っている人が追放される」という。

在パキスタン・アフガニスタン大使館は3日、過去2週間で1000人以上のアフガン人が拘束されたとXに投稿した。うち半数がパキスタンに合法的に滞在しており、警察によるアフガニスタン難民に対する嫌がらせだと非難した。

ブグティ内相はまた、11月1日からは有効なパスポートを持ったアフガニスタン人のみ入国を許可するとしている。
アフガニスタン人は長年、パスポート代わりに同国の身分証明書で入国が認められていた。アフガニスタンでは現在、パスポートの発行申請が殺到しており、取得までに長期間かかる。パキスタンの入国ビザ取得にはさらに数か月かかることもある。

ブグティ氏は取り締まりを実施し、アフガニスタン人の不法滞在者が所有する不動産や企業を没収すると警告している。 【10月4日 AFP】
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ブグティ内相は会見で、今年国内で発生した大規模なテロ24件のうち、14件はアフガニスタン人が実行したと指摘し、「証拠はある」と強調しています。

パキスタン側がどこまで徹底するのかはわかりませんが、不法滞在者に加えて滞在許可証を持っている者もということになれば対象者は百万人を超える膨大な数になります。

そのなかには40年にわたりパキスタンに住み続けてきたような人々も含まれます。今更アフガニスタンに戻れと言われても生活が成り立ちません。

更に、タリバン政権復権で報復を恐れて逃れてきたような人々も多数います。国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは2日、タリバンの迫害を恐れてパキスタンへ逃げた多くのアフガニスタン人が、同国で恣意的な拘束や追放の脅威にさらされているとして、深い懸念を示す声明を出しています。
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