孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アフガニスタン  女性の権利改善を求める国際社会 追い詰められる女性の人道状況

2024-01-05 23:32:49 | アフガン・パキスタン

(【1月4日 KYODO NEWS】 カブールの街を疾走するスケート部隊)

【怖そうなタリバンのイメージ向上にも役立っている・・・・スケート部隊】
タリバン支配が続くアフガニスタンに関するニュースは、最近あまり多くありませんが、ちょっと変わった動画ニュースがありました。

****タリバンスケート部隊発足 首都疾走、イメージ向上も****
米軍とのジハード(聖戦)に従事した黒髭のムジャヒディン(イスラム戦士)らが街の安全を守ろうと、インラインスケートを履いてアフガニスタンの首都カブールを疾走している。

イスラム主義組織タリバン暫定政権の治安機関が発足させた「スケート部隊」だ。楽しげな様子は怖そうなタリバンのイメージ向上にも役立っている。パトロールに同行した。【1月4日 KYODO NEWS】
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昨年7月に発足し、当局の車両が渋滞を回避できるよう交通整理にあたっているとのことですが、覆面に自動小銃という姿は物々しい・・・まあ、アフガニスタンですからこうなるのかも。反タリバン勢力によるゲリラ戦や抗議デモ鎮圧にもあたる公安警察に所属しています。

イメージ向上にも役立っている・・・子供たちには受けるかも。

【人権状況を改善することを条件に、タリバン政権の国際社会への復帰を促す動き】
タリバン政権を承認した国はまだありませんが、その支配が長期化し、今後も続く様相を示していますので、タリバン政権を受け入れる流れも出始めています。

12月8日ブログ“アフガニスタン 中国は政権承認も視野に大使受入れ パキスタンとの関係は悪化”でも取り上げたように、中国はアフガニスタンでの資源開発や「一帯一路」への取り込みを念頭に、タリバン政権の駐中国大使を正式に承認し、政権承認も視野に入れた動きを見せています。

アフガニスタン国内からも、タリバン暫定政権の存続容認はやむを得ないとの認識も。

****タリバン暫定政権、存続やむなし カルザイ元大統領単独会見****
アフガニスタンのカルザイ元大統領が首都カブールで共同通信と単独会見し、2021年8月に武力で復権したイスラム主義組織タリバン暫定政権の「崩壊や分裂は望まない」と述べ、暫定政権の存続容認はやむを得ないとの認識を示した。タリバンに「政策の改善」を求め、女子教育の再開や多民族間の融和と政治参加を促すことが、唯一の打開策だと強調した。

カルザイ氏は01年の旧タリバン政権崩壊後、米国主導の民主化プロセスで初代大統領となり14年まで務めた。今回の発言は、民主化が失敗しタリバン統治が長期化した今、タリバンとの共存を探るしかアフガン安定の道はないという苦しい立場を示している。

インタビューは22日に行った。カルザイ氏はタリバンが「正当で国際的に承認された政権」となるためには「女子教育の即時再開と、反タリバン勢力を含めた国内対話」が不可欠だと指摘。タリバンの多数派は理解していると語った。

カルザイ氏はタリバン復権後も国内にとどまり影響力を維持。外国訪問を禁じられるなど行動を制約されている。【2023年11月27日 共同】
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カルザイ元大統領はタリバン中核と同じパシュトゥン人ですし、旧タリバン政権誕生時にはタリバンを支持し、駐国連代表に任命もされた経歴もあって、価値観のうえでタリバンに馴染みやすく、“暫定政権の存続容認はやむを得ないとの認識”に至るのはそう難しい話ではないのでしょう。

欧米諸国も、タリバンを排除したり、対決姿勢をとるのではなく、“受入れ”の流れも見えてきています。
国連安保理では、日本とアラブ首長国連邦(UAE)がとりまとめを主導し、タリバン暫定政権に女性の権利や自由を改善したうえで国際社会への復帰を促す初の決議案が採択されました。

****安保理、タリバンに女性の権利尊重など促す…アフガニスタンの国際社会復帰へ、決議案を日本が主導****
国連安全保障理事会は29日に緊急会合を開き、イスラム主義勢力タリバン暫定政権が掌握するアフガニスタン政府の国際社会への復帰に向けた初の決議案を賛成多数で採択した。タリバンに女性の権利尊重や政権への幅広い政治勢力の参加などを促す内容で、タリバンの対応が焦点となる。

決議案は日本とアラブ首長国連邦(UAE)が主導してまとめた。採決では15理事国のうち、日米英仏など13か国が賛成した。中国とロシアが棄権した。

決議ではタリバン暫定政権に対し、国際テロ組織との関係断絶や「包摂的な政府」の樹立を通じ、「国際的な義務を果たす」ことなどを求めた。また、国連のアントニオ・グテレス事務総長に、アフガン担当の国連特使の任命を要請した。

タリバンによる2021年8月の実権掌握後、各国は開発援助を停止し、アフガンの人道状況は悪化した。中学以上の女子教育の禁止や女性の就労制限といった女性抑圧などが問題視され、暫定政権は国際的に承認されていない。安保理は、アフガンの人道危機を解消するには、タリバン政権が女性抑圧などを中止して各国から承認を得て、再建に向けた援助を受けることが不可欠だと判断した。

英国のバーバラ・ウッドワード国連大使は採択後、「タリバンは国際公約を果たし、女性の権利や自由を制限する政策を直ちに撤回すべきだ」と強調した。日本の山崎和之国連大使は決議について「アフガンの広範な問題に対処する新たな戦略だ」と述べた。【12月30日 読売】
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人道支援もままならない現状では、アフガニスタン国内での人道状況は悪化しままで、女性の権利も改善しないとの判断なのでしょう。

国際支援が減少すれば、現実問題としてアフガニスタン国内の女性の雇用機会が更に減少するという問題もあります。

****アフガン支援減少に警鐘=「女性の働く場奪う」―赤十字現地代表****
赤十字国際委員会(ICRC)のフィリョン・アフガニスタン首席代表は28日、東京都内の日本記者クラブで会見し、アフガンのイスラム主義組織タリバンへの経済制裁に伴う国際支援の減少に警鐘を鳴らした。

タリバンが女性を抑圧する中でも、医療分野は女性に教育や労働の機会を提供しており、支援が絶たれれば「女性の働く場がなくなる」と訴えた。【2023年11月28日 時事】 
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【タリバン 復権後初めて服装規定違反で女性拘束】
しかし、上記の女性抑圧などを中止するようにとの国連の呼び掛けにタリバン側が反発したものかどうかはわかりませんが、タリバンの女性対応が悪化したニュースも。

****タリバン、服装規定違反で拘束 復権後初めて****
アフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権は、独自解釈するイスラム法で定めた服装規定に違反した疑いで、複数の女性を拘束した。同容疑による拘束者が確認されたのは2021年8月のタリバン復権後初めて。AP通信が4日、報じた。国際社会はタリバンによる女性抑圧を問題視しており、さらなる批判を呼びそうだ。

勧善懲悪省によると、女性らは最近、首都カブールで拘束された。服装規定を守るよう忠告し、従わなかったため身柄を確保したという。人数やどのように違反したかは説明していない。【1月4日 共同】
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個人的に意外だったのは、服装規定違反での女性拘束が復権後初めてという点。
イランなどでは服装規定違反取締りが普通に行われており、ヒジャブの被り方をめぐる女性死亡事件で大規模反政府デモも起きていますので、タリバン支配下のアフガニスタンも同様の厳しい状況だろうと想像していました。

タリバンとしても国際承認を受けたいという思いがあって、そうした女性服装取締りで欧米の批判を招くことは慎重に自制していたのでしょう。

では、どうして今になって? という疑問も。
やはり、女性の権利や自由を制限する政策の撤回を求める国際社会への反発でしょうか? 

【雇用、子育てで追い詰められる女性 タリバン「どんな犠牲を払っても守るべき独自の価値観がある」】
女性の権利や自由を制限する現状は、当然に女性を精神的にも追い込みます。その結果・・・

****アフガン女性18人が自殺 タリバン抑圧で精神状態が悪化****
アフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権による女性抑圧政策が原因で、不安を募らせるなどして精神状態が悪化した女性18人が自殺していたことが4日、支援団体や遺族への取材で分かった。

うち12人の遺族に治安当局が口止めしていたことも判明。女性抑圧に対する批判は国内外で強く、実態を隠そうとしたとみられる。

暫定政権は女性の教育や就労を制限し、国際社会は「人権侵害」と非難、タリバン暫定政権を承認していない。自殺はイスラム教が禁じているため隠す遺族も多く、支援団体は18人は「氷山の一角」と分析している。

非政府組織(NGO)「アフガン女性・子ども福祉強化団体」によると、タリバンが復権した2021年8月以降、女性17人が教育や就労機会の制限、タリバン構成員との強制結婚を理由に将来への不安や不眠などの症状を精神科医や家族に訴えた後に自殺した。

17人のうち、11人の遺族が治安当局に経緯を説明し、口外しないよう命じられたという。【2023年11月4日 共同】
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上記の数字は文字通り「氷山の一角」でしょう。
遺族に治安当局が口止め・・・タリバン政権も悪評を気にはしているということでしょうか?

タリバンの政権復帰で女性の雇用は62%減少したとのことで、国連機関も女性の雇用創出に務めてはいます。

****政変で雇用率62%減 アフガンの女性起業支援は改善につながるか****
アフガニスタンでは2021年にイスラム主義組織タリバンが復権して以降、女性の教育や就労の機会が制限されてきた。その中で国連開発計画(UNDP)は10月、国際協力機構(JICA)と協力して、女性の経済活動への参加を後押しする取り組みを始めた。窮状が伝えられる女性たちの環境改善に役立つのだろうか。

「アフガニスタンで優先的に取り組まなければならないのは、女性が働き、生計を立てるための場を守ることだ」。UNDPのアジア太平洋局長を務めるカンニ・ウィグナラジャ氏は11月7日、毎日新聞とのインタビューで、前月に現地で始めた女性経営者への支援プログラムに言及。「女性たちは働き続け家族を養い、地域経済を維持したいとの思いを持っている。ビジネスの場を提供することは非常に重要だ」と意義を語った。

 ◇UNDPとJICA合同で
タリバンは再び権力を掌握すると、女性の高等教育の停止や非政府組織(NGO)などで働く女性職員の出勤停止、美容院の閉鎖など、イスラム法の極端な解釈に基づく政策を相次いで発表。世界銀行の22年の調査では、政変が起きた21年8月以前と比較して、性別の雇用率は男性も39%減ったが、女性は62%減少とより顕著に影響を受けた。

雇用環境が悪化しているが、UNDPなどは10月、縫製や食品加工、農業などの分野での起業や経営拡大を目指す女性を後押しするための支援を開始。経営に必要な会計やマーケティングの研修のほか、ミシンやカーペット製造機などの機器の提供や商品の国内外での販売に向けたインターネット販売のサービスも実施するという。

 ◇4800人の雇用創出目指し
実施期間は2年。JICAが約14億円の資金を提供する。アフガニスタンの女性経営者ら約1400人が対象となる見通しで、将来的に4800人程度の雇用創出を想定しているという。

一方で、アフガニスタンでは女性が一定以上の距離を移動する場合は男性親族の同伴が必要とされ、公共スペースへのアクセスも制限されているなど、ビジネスを行う上での障壁は大きい。さまざまな制約が課される中、UNDPなどはタリバンと交渉し、女性の経営参加を直接支援できるよう模索してきたという。(中略)

 ◇多くの人は学習と労働を欲している
アフガニスタンの現状について、UNDPのウィグナラジャ氏は「女性の労働への制限がある一方、多くの人々は学び、生計を立て、家族を守りたいと思う。こうした支援によって、女性たちが自身のビジネスで何人もの人たちを雇い、その家族を養うことができれば素晴らしいことだ」と述べた。

その上で「日本は私たちの最大のパートナーであり、日本の支援が人々に与える希望は非常に大きい。今後の継続的な支援に期待したい」とも話す。【2023年11月20日 毎日】
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一にも二にも、タリバンの協力姿勢がなければ女性の雇用問題は改善しません。

国際支援の減少は、子供を育てる女性にとって死活問題にもなっています。

****幼児の空腹を紛らわせるため「眠り薬与える」 支援の途切れたアフガニスタンの現状****

ソハイラ・ニヤジさんと娘のフスナ・ファキーリちゃん

「最後に子供のミルクを買えたのは2カ月前でした。いつもは哺乳びんにお茶を注いでいます。それかパンをお茶にひたして、子どもにあげています」。アフガニスタンの首都カブール東部の丘の上にある家で、泥レンガでできた床に座りながら、ソハイラ・ニヤジさんはそう話した。(中略)

ソハイラさんは夫を亡くしている。6人の子供がおり、最年少は生後15カ月のフスナ・ファキーリちゃんだ。ソハイラさんが言っていた「お茶」はアフガニスタンの伝統的な飲み物で、緑茶葉とお湯だけで作り、ミルクや砂糖は入れない。赤ん坊の栄養となるようなものは何も含まれていない。

ソハイラさんは、この1年で国連食糧計画(WFP)の緊急食料支援を受けられなくなった1000万人のうちの1人だ。支援は巨額の資金不足によって削減された。アフガニスタンに200万世帯あるとされる、女性が暮らしを支えている家庭にとって、特に壊滅的な打撃となっている。

武装組織タリバンがアフガニスタンで実権を握って以降、ソハイラさんは仕事に行けず、家族を養えなくなった。
「何も食べるもののない夜があります。私は子供たちに、夜こんな時間にどこに行けば物乞いができるのかと言うんです。子供たちは飢えたまま寝ますが、起きた時、私はどこへ行くべきか悩みます。隣人が食べ物を持ってきてくれると、子供たちは寄ってたかって『私にちょうだい、私にちょうだい』と言います。子供たちをなだめるため、私は食べ物を人数分に分けようとします」

フスナちゃんをなだめるため、ソハイラさんは「眠り薬」を与えていると話した。
「娘が起きてミルクをせがまないように、それを与えます。あげられるミルクがないからです。この薬を朝与えると、次の朝まで起きません。時折、死んでいないか確かめます」

ソハイラさんが娘に与えている薬をBBCが調べたところ、一般的な抗ヒスタミン薬だと分かった。こうした薬には、副作用として鎮静効果がある。

BBCは先に、アフガニスタンの一部の親が、子供たちに鎮静剤や抗うつ薬を与えて空腹を紛らわさせていると報じた。それらの薬に比べると、ソハイラさんが子供に与えている薬は害が少ないと、医師らはBBCに話した。それでも、大量に投与すると呼吸器障害などにつながる危険性があるという。

ソハイラさんによると、夫は民間人で、2022年にパンジシールでタリバンと抵抗勢力の間で起きた市街戦に巻き込まれて殺された。夫の死後、ソハイラさんは小麦粉や油、豆などをWFPによる支援に大きく頼ってきた。

そして今、WFPは300万人にしか物資を供給できないとしている。これは、深刻な飢餓状態にある人々の4分の1にも満たない。

ソハイラさんは今、親戚や隣人からの寄付に完全に頼って生活している。我々がいる間、フスナちゃんは静かで動かなかった。

フスナちゃんは若干の栄養不足状態にある。国連児童基金(ユニセフ)によると、アフガニスタンでは300万人以上の子供が栄養不足で、そのうちの4分の1以上がもっとも深刻な「重度の急性栄養不良」状態に陥っている。アフガニスタン史上、最も悪い状況だと、国連は指摘している。

栄養不足がこの国の最も若い世代をむしばむ一方で、医療崩壊を防いできた援助も、打ち切りを迫られている。
アフガニスタンでは2021年の政権交代以降、緊急暫定措置として、国際赤十字委員会(ICRC)が医療従事者の給与を支払い、30カ所以上の病院に医薬品や食料の資金を提供してきた。

しかし現在、ICRCにアフガニスタンを支援し続けるためのリソースはなく、ほとんどの医療施設で援助を打ち切っている。(中略)

タリバンが任命した同病院のモハマド・イクバル・サディク医長は、「医師と看護師の給与は政府から支給されていますが、給与は半分に減らされました」と語った。また、外来部門を閉鎖し、入院が必要な患者にのみ医療を提供しているという。(中略)

我々は、タリバン政府の主要報道官であるザビフラ・ムジャヒド氏に、より多くの援助を与えるよう国際社会を説得するために、政府は何をしているのかを尋ねた。(中略)

ジャヒド氏は、タリバンの政策も問題の一部であることを認識していたのだろうか? 女性に対して厳しい制限を課している国に、支援国は資金を提供したがらないということを。

こうした疑問に対してジャヒド氏は、「援助が圧力の道具として使われているのであれば、イスラム首長国(タリバンによるアフガニスタンの呼称)にはどんな犠牲を払っても守るべき独自の価値観がある。アフガニスタンの人々は、これまで我々の価値観を守るために大きな犠牲を払ってきた。支援打ち切りにも耐えるだろう」と述べた。

ジャヒド氏の言葉は、多くのアフガニスタン人を慰めるものではないだろう。国民の3分の2は、次の食事がどこから来るのかわからないのだ。【12月26日 BBC】
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