孤帆の遠影碧空に尽き

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イタリア  EU懐疑派の極右「同盟」サルビーニ副首相、総選挙実施で政権主導を狙う 市場は警戒

2019-08-16 22:58:52 | 欧州情勢

(支持者と写真に収まるサルビーニ氏(中央 髭の男性)【812日 WSJ】)

 

【支持率で優位に立つサルビーニ副首相、連立解消で総選挙を目指す】

欧州・EUでは反グローバリズム・反EUの動きが大きなうねりとなっていますが、その代表がEU離脱を目指すジョンソン首相のイギリスです。

 

ここにきて、もうひとつ、EU離脱の方向を目指しそうな動きを示しているのがイタリア。

 

イタリアでは昨年の総選挙で、過半数を占める政党はなかったものの、ポピュリズム政党「五つ星運動」が第1党、経済的に豊かな北部を地盤としてきた移民排斥・極右の「同盟」が第2党となりました。

 

いずれも従来のイタリア政治の枠外にあった政党で、両者はともにEUに対して懐疑的ということでは一致しますが、その他の政策ではあまり類似性がありません。

 

いろいろ紆余曲折はありましたが、大学教授のコンテ氏を首相とすることで、この両党の連立政権が成立しました。

 

基本的な政策で差異の大きい「五つ星運動」と「同盟」ですが、ここのところ「同盟」の支持率が急速に上昇。昨年総選挙時は15%程度だったものが今では40%程度にも。一方の「五つ星運動」は昨年の30%程度から現在は15%程度へ下降。

 

こうした政治事情を背景に、「同盟」党首であるサルビーニ副首相は「今なら選挙に勝てる。過半数確保も・・・たとえ過半数は無理でも、右派政権を主導できる」という思惑で、連立を解消して総選挙に打って出る動きを示しています。

 

ルイジ・ディマイオ副首相率いる「五つ星運動」とコンテ首相は、こうしたサルビーニ副首相の党利党略的とも言える政治的な動きを批判しています。

 

****伊連立政権が危機に、副首相が解散総選挙を要求****

イタリア連立政権で副首相兼内相を務める極右のマッテオ・サルビーニ氏が8日、連立への支持を撤回し、解散総選挙を要求した。同政権は危機にひんしている。

 

右派政党「同盟」を率いるサルビーニ氏は、もう一人の副首相で反既成勢力を掲げる「五つ星運動」の党首であるルイジ・ディマイオ氏と、さまざまな政策をめぐって衝突を繰り返してきた。

 

サルビーニ氏は同日さらに圧力を強め、政権維持に必要な議会での過半数はすでに失われたと述べ、選挙の実施を要求した。

 

サルビーニ氏に加え、セルジョ・マッタレッラ大統領と個別に協議したジュセッペ・コンテ首相は、議会を招集するのはサルビーニ内相ではないと突き放した。

 

その上で同氏に対し、政府の活動を「突如妨害する理由」について、「変化の可能性を信じた国民、有権者に説明し、正当性を示す」よう訴えた。

 

同盟は世論調査で優位に立っており、選挙が前倒しされればサルビーニ氏に有利に働くことが考えられ、同党より小規模で同じく右派の「フォルツァ・イタリア」との連立政権樹立の可能性も出てくる。

 

現地通信社は8日、早ければ20日にも上院が開会され、政権の退陣表明が行われる可能性があると報じた。その後数日のうちに議会解散もあり得るとしている。

 

同国憲法では、議会解散後5070日以内に選挙を実施しなければならないと定められている。 【89日 AFP】

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サルビーニ副首相兼内相は14日にも内閣不信任案を採決に持ち込もうとしていましたが、一応20日以降に先延ばしする形で、ややブレーキがかかりました。

 

****選挙急ぐサルビーニ内相に逆風 イタリア、不信任案採決先延ばし**** 

イタリアで総選挙の前倒し実施を目指すサルビーニ副首相兼内相が13日、「逆風」で譲歩を迫られた。上院でコンテ政権に対する不信任案の14日採決を要求したが、第1与党「五つ星運動」や最大野党「民主党」の抵抗で、審議は来週に先延ばしが決まった。

 

不信任案は9日、サルビーニ氏が提出した。同氏が率いる第2与党「同盟」が不法移民排除で人気を集め、支持率が37%に高まる中、総選挙実施で同盟主導の右派政権発足を狙った。

 

同盟と五つ星の連立政権は昨年6月に発足したが、税制や公共事業など基幹政策で対立してきた。コンテ首相は両党に属していないが、五つ星に近い。

 

上院では13日、不信任案の早期採決に、同盟のほかベルルスコーニ元首相の中道右派「フォルツァ・イタリア」と極右政党が賛成したが、過半数に満たなかった。

 

採決は20日以降に行われることになったが、民主党が五つ星に同調する方針を示したことで、不信任案の成立に不透明感が出てきた。

 

五つ星のディマイオ副首相兼経済発展・労働相は、総選挙について「用意はできているが、決めるのは大統領だ」と述べ、実施には慎重な構え。五つ星の支持率は18%に低迷する。

 

一方、民主党のレンツィ元首相は13日、「上院の決定は、新たな多数派形成の可能性を示した」と発言。コンテ政権が崩壊した場合、五つ星との組閣交渉に前向きな姿勢を示した。

 

上院で不信任案が成立した場合、マッタレッラ大統領は新たな連立政権を模索するか、今秋に総選挙を実施するかの選択を迫られる。【814日 産経】

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このところイタイリア政治は、サルビーニ副首相兼内相の「同盟」とディマイオ副首相兼経済発展・労働相の「五つ星運動」が表舞台にありましたが、ここにきて極右「同盟」と近いベルルスコーニ元首相の中道右派「フォルツァ・イタリア」、「五つ星運動」と連携する動きを見せているレンツィ元首相の「民主党」といった、かつてのイタリア政治を動かしていた勢力の存在も再びクローズアップされてきています。

 

このように目まぐるしい政権交代が起きるというのは、戦後62回の政権交代を経験してきたイタリア政治の「伝統」でもあります。

 

10月にイタリア総選挙、イギリス「合意なき離脱」となると・・・・「リーマンショック」再来か】

「同盟」サルビーニ副首相は10月の総選挙実施を目指しており、そこで過半数確保を狙っています。

総選挙後に「同盟」政権が樹立できれば、目指すところはEU離脱とも言われています。

 

ただ、イギリスと異なり、イタリアは共通通貨ユーロを使用しており、EU離脱のためにはユーロ離脱も必要になります。

 

また、GDP比率で見たとき、イタリアは先進国では日本に次いで高い公的債務を抱えている国です。いわば爆弾を抱えた状態にもあります。

 

こうしたこともあって、EU離脱で迷走するイギリス以上に、イタリアのEU離脱は難しいと思われます。

 

ただ、離脱しないまでも、「同盟」単独政権となると減税などで財政規律が緩むことを市場は警戒しています。

 

****イタリアもEU懐疑派台頭、欧州経済は波乱含み ****

欧州は南北双方で政治の混乱期に突入している。

 

英国とイタリアのカリスマ的な右派政治指導者は、欧州連合(EU)との衝突をもたらす危険な権力拡大を目指している。こうした動きは両国経済を混乱に陥れ、すでに停滞している欧州の成長も阻害する恐れがある。

 

英国のEU離脱(ブレグジット)期限は10月末に設定されている。離脱が混迷を極めるリスクが影を落とす中、世界5位の規模を誇る英経済は既にマイナス成長に転じた。9日発表された4-6月期(第2四半期)の英国内総生産(GDP)は年率0.8%減少。企業信頼感の落ち込みが響いた。

 

英国のマイナス成長は2012年以来だ。

ボリス・ジョンソン首相が1031日に断固としてEUを離脱すると表明したことで政局も揺れる中、弱い統計発表を受けてポンドは一時、数年ぶりの安値に沈んだ。

 

一方、イタリアでは反移民を訴えるマッテオ・サルビーニ副首相が10月の解散総選挙を要求している。世論調査によると、サルビーニ氏は選挙で勝利を収める可能性が極めて高い。

 

サルビーニ氏は9日、連立政権への支持を撤回し、議会に内閣不信任案を提出した。同氏は大型減税を約束しているが、実行に移せばEUの財政規律に違反し、イタリアの重債務を懸念する債券投資家に動揺が広がる恐れがある。

 

政治リスクコンサルティング会社ユーラシア・グループの欧州責任者、ムジュタバ・ラフマン氏は「理由は異なるが、EUが英国とイタリアに約束通りの恩恵をもたらしていないとの考えが強まっている」と指摘。「ジョンソン氏とサルビーニ氏はいずれも、EUに対する交渉力を強めるために国内の過半数を束ねようとしており、似た戦略をとっている」と述べた。

 

両国に迫る異変は、冷戦後の政治体制を巡る揺り戻し現象だ。欧州のみならず世界の多くの有権者が、グローバリゼーションや国際協定、テクノクラート(実務官僚)による政治支配に反旗を翻している。

 

サルビーニ氏が党首として率いる「同盟」のような反体制的な運動や、英保守党のように既存政党でもぜい弱な党に属する政治家の一部は、こうした不満を取り込んでいる。今や2つの欧州主要国で、政治の変化を求める人々が、大きな経済混乱を招くリスクを冒している。

 

ただ、ローマ社会科学国際自由大学(JUISS)のジョバンニ・オルシナ教授は、「両国の大きな違いとして、イタリアは多額の債務と通貨ユーロを持つために複数の面で英国より不利な位置付けにある」と述べている。

 

オルシナ氏は「EU離脱は英国にとって困難ではあるが、実行可能だ」と指摘。「だがイタリアでは、欧州経済と自国経済の統合が深化したため、離脱の代償が高すぎる」と語った。

 

EUはここ10年で、さまざまな危機を切り抜ける力があることを証明してきた。調査によると、欧州有権者の大半は引き続きEUを支持し、しばしば自国政治家よりEUの方に高い信頼を寄せている。

 

2019年終わりにかけての動きは、EUの危機管理能力を再び試すことになるかもしれない。111日には欧州中央銀行(ECB)とEU執行機関である欧州委員会で新たな指導部が誕生する。

 

ジョンソン英首相のEU離脱計画は、今秋のいつかの時点で解散総選挙が起こる原因となる可能性がある。それはジョンソン氏自身の選択かもしれないし、あるいは合意なきEU離脱を阻止するために議員らが強いるからかもしれない。

 

イタリアでサルビーニ氏が指導者の座に就けば、ドナルド・トランプ米大統領やブラジルのジャイル・ボルソナロ大統領のような、政治の非主流派から台頭した世界のリーダーと肩を並べることになる。

 

大方のエコノミストは、サルビーニ氏が約束している景気刺激策はイタリア経済にとって持続可能な解決策ではないとみている。

 

だが、痛みを伴う構造改革と厳格な財政政策にうんざりしているイタリアの有権者たちは、サルビーニ氏の「代替療法」にチャンスを与えそうだ。

 

金融市場は既に、イタリアの多額の債務が及ぼす影響に不安を募らせている。

 

イタリア政府は2018年の一時期、財政赤字を拡大する案を検討したが、程なく撤回した経緯がある。投資家がイタリア国債に売りを浴びせて国内銀行が打撃を被り、一時リセッション(景気後退)に陥ったためだ。

 

サルビーニ氏のレトリックには、金融市場の懸念の声を押し切り、徹底した減税を実施したい考えが垣間見える。【812日 WSJ】

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サルビーニ副首相は10月の総選挙実施を目論んでいます。

10月にはボリス・ジョンソン首相の「合意なき離脱」も予定されています。

 

双方実現すれば、欧州発の「リーマンショック」再来にもなりかねないと懸念もされています。

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