孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

エチオピアでクーデター未遂事件  ノーベル平和賞最有力候補アビー首相の進める改革への抵抗か

2019-06-24 22:14:42 | アフリカ

(エチオピアのアビー首相【6月24日 CNN】

(首都アディスアベバにおいて「暴力のない生活へ」というテーマで開催された女子マラソンの参加者 【2018年9月27日 Yutaro Yamazaki氏 GNV】 前回ブログでも使用した画像ですが、エチオピアの明るい将来を期待させますので再掲しました。)

【クーデター未遂 エチオピアの安定化と改革を目指すアビー首相にとって新たな打撃となるか?】

数日前の619日ブログ“人口分布的に世界の中心となるアフリカ 未だ遠い平和と安定 西アフリカのマリ・ブルキナファソでは”でアフリカのネガティブな側面を取り上げましたが、そのなかで“明るい話としては、東アフリカ・エチオピアのアビー首相が、国境線を巡り紛争に発展した隣国エリトリアとの関係正常化に尽力していることでしょうか。”と書いたように、アビー首相率いるエチオピアの改革は明るい側面の代表でもあります。

 

アビー首相はノーベル平和賞の最有力候補とも目されています。

 

****平和賞、エチオピア首相が最有力 ノーベル賞予想****

「ノーベル平和賞ウオッチャー」として知られる国際平和研究所(オスロ)のウーダル所長は15日までに、今年の平和賞受賞者予想を発表、有力候補のトップにエチオピアのアビー首相を挙げた。国境線を巡り紛争に発展した隣国エリトリアとの関係正常化に尽力したことが評価に値するとした。

 

ミャンマーでロイター通信記者が国家機密法違反罪に問われるなど、世界各地で報道の自由を脅かす動きが見られる中、有力2番手に国際ジャーナリスト組織「国境なき記者団」を選んだ。【216日 共同】

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ほかにノベール平和賞候補として名前があがっているのは、2015年の夏から登校拒否をし、「気候変動のための学校ストライキ」と書かれたプレートを掲げ、一人っきりで議会前に座り込む抗議活動を始めた(当時15歳)スウェーデンの女子高生グレタ・トゥーンベリさんや安倍首相が推薦するトランプ米大統領など。

 

そのエチオピアでクーデター未遂事件が報じられています。

 

****エチオピアでクーデター未遂、陸軍参謀総長ら4人死亡 自身の護衛に撃たれる****

アフリカ東部のエチオピアでクーデター未遂が起き、陸軍参謀総長ら4人が死亡した。首相府が23日に確認した。

事件は22日、北西部アムハラ州の州都バハルダールで発生。州の行政トップと州政府顧問の2人が射殺された。首相府によれば、州の司法長官も重傷を負い、病院で手当てを受けている。

 

一方、首都のアディスアベバでは陸軍の参謀総長と元少将が殺害された。現場は参謀総長の自宅で、自らのボディーガードによって射殺されたという。

参謀総長は殺害された当時、アムハラ州での事件の対応を指揮していた。

 

アビー首相は今回のクーデター未遂について、アサミネウ・ツィゲという名の准将とほか数名によるものだと主張した。この人物は刑務所に収監されていたが昨年恩赦を受けて釈放され、アムハラ州の行政機関の責任者に就任していた。

 

首相府の声明によれば、アムハラ州の現状は連邦政府によって完全に掌握されている。22日に軍服姿でテレビの記者会見に臨んだアビー首相は、クーデター未遂を引き起こしたのは「いかなる民族集団でもなく、悪意を抱く複数の個人だった」との見方を示した。

 

国内最大の民族オロモ族出身者として昨年初めて首相に就任したアビー氏は改革路線を進めてきたが、民族間の対立は依然として続いている。

 

AFP通信によれば、民族同士の衝突が原因でこれまで100万人を超える人々が住む家を追われているという。【624日 CNN】

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事件が起きたアムハラ州は、エチオピアに九つある州の一つで、2番目に人口が多い州で、首謀者とされる州治安部隊司令官は2009年にも反乱未遂を起こしているとも。【623日 時事より】

 

「いかなる民族集団でもなく、悪意を抱く複数の個人だった」とのことですが、アビー首相が進める改革に対する抵抗が存在するのは容易に想像できるところで、そうした動きとの関連は現在のところよくわかりません。

 

****改革派首相に新たな打撃****

アビー氏は2年にわたって政情不安が続いた後の20184月に首相就任。それ以来、過去の首相たちによる強権的な支配を終わらせたと称賛されてきた。

 

アビー氏は経済改革に着手し、反体制派の帰国を認め、人権侵害の取り締まりを目指し、軍や情報部の幹部数十人を逮捕した。さらに、長年にわたり対立してきた隣国エリトリアとの平和宣言にも調印した。

 

しかし1億人以上の人口を抱える多民族国家エチオピアでは、主に土地や資源をめぐって民族間の対立が深まっており、死者を伴う衝突も発生。アビー首相はこうした問題に苦慮している。

 

民族間の衝突で、これまでに100万人以上が家を追われた。

専門家は衝突の原因について、かつて全権力を握っていた与党エチオピア人民革命民主戦線の弱体化や、政権移行によって生じたチャンスを利用しようとするさまざまなグループの存在などを挙げている。

 

昨年6月には、アビー首相が演説した政治集会で手りゅう弾が爆発し、2人が死亡する事件も起きた。

 

エチオピアの安定化と改革を目指すアビー首相にとって、今回のクーデター未遂は新たな打撃となった。 【624日 AFP】

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【多い課題 改革にはつきものの抵抗も】

アビー首相の進める改革については、20181015日ブログ“エチオピア  民族間の融和、エリトリアとの関係改善、経済活性化・・・期待されるアビー首相の改革”でも取り上げましたが、なにぶん情報が少ないエチオピアでの話ですので、その後の状況についてはよくわかりません。

 

人口的には多数派であるオモロ族からの初めての首相となったアビー首相が登場して改革の乗り出した経緯や直面している課題については、以下のようにも。

 

****エチオピア大改革:アビー新首相は救世主となれるか****

(中略)エリトリアは穏便にエチオピアから独立したはずであったが、国境線の画定、貿易や外交などを巡って関係がこじれていった

 

1998年、国境地域のバドメ地区の領有権を争いエリトリアとの武力衝突が全面戦争に発展した。このエチオピア・エリトリア国境戦争により、少なくとも7万人が亡くなった。

 

アフリカ統一機構(OAU)の調停による停戦が行われ、平和維持部隊(PKO:UNMEEが国境線付近に派遣された。

 

第三者の国境委員会によりバドメ地区がエリトリアに帰属することが決まったが、エチオピアがこれを受け入れず実行支配を続けた。その為、これ以降もエリトリアとの対立は続き、2018年まで国交断絶状態が続いた。

 

メレス政権に移った後も国内で様々な対立は続いていた。与党のEPDRFはティグレを代表するTPLFとオロモ人民民主機構(OPDO)に加えてアムハラ民族民主運動(ANDM)、南エチオピア人民民主運動(SEPDM)の4つの組織から構成されている与党であるが、実際は人口の6しかいないTPLFのティグレ勢力が実質的に政治を支配しており、オロモ州、オガデン地区、アムハラ州では政府による多くの人権侵害が続いていた。

 

これにより、オロモ州だけでも、2017年までに少なくとも700人が殺され、数千人が投獄された。

 

さらに、政府与党EPRDFは、オロモ州に囲まれた首都アディスアベバの拡大を2014年に発表した。こうした政策に対して、人口がもっとも多いオロモ州では、さらに不満を募らせ、政治的自由や社会的平等を求める反政府デモはさらに激化していった。

 

アビー首相の誕生

2012年、メレス首相の死去により首相の座を引き継いだSEPDMを代表するハイレマリアム・デザレン首相は、こうしたオロモ州とアムハラ州、オガデン地区を中心とした反政府運動の高まりを受け、政治犯の解放や拷問を行った刑務所の閉鎖を行うことで鎮静化を図った。

 

しかし、相次ぐ再逮捕により反政府勢力との溝を埋められず、自身の政治改革や経済改革も与党内でティグレ勢力によって阻まれたハイレマリアム首相は、2018年に辞任を発表した。

 

そして、その後任として初オロモ州出身首相となったのがアビー氏であった。アビー首相は、オロモ出身だけでなく、ムスリムの父とキリスト正教会の母を持ち、与党を構成する民族のオロモ、アムハラ、ティグレの言語を話すことができるという多様なバックグラウンドがある。

 

4月の就任演説では、過去の政権による反政府勢力の殺害を謝罪し、国民が政府に異議を唱えることを歓迎するなど民主主義への姿勢を示した。

 

このように、アビー首相は、大きな政策転換を行い、これまでの政治に改革の手を加えようとしている。どのように様々な問題を解決しようとしているのだろうか。アビー首相の改革について詳しくみていく。

 

アビー改革は政治問題の解決となるか

初のオロモ出身首相であるアビー首相の誕生は、オロモでの政治的不満に対する鎮痛剤の役割を果たした。彼は、オロモの民衆の不満の原因となっているティグレが支配する政治の改革を進めようとしている。

 

加えて、権力独占が再び起こらないようにするため、首相に任期制限が適用されるように憲法を修正する予定だ。これらの改革はオロモで歓迎され、不満が緩和されたことで、デモの減少や緊急事態宣言の解除につながった。

 

また、アビー首相はオガデン地区に対して、政治犯の拷問や拷問を行っていた刑務所の廃止、停戦合意を行うことで和平を目指そうとしている。これにより、長年にわたるソマリ系移民とエチオピア政府との溝が埋まることが期待されている。

 

そして、アビー首相は国外において最も対立が激化していたエリトリアとの和平にも着手した。エチオピアとエリトリアの国境争いを終わらせる歴史的な「平和と協力の宣言」を発表し、20186月エリトリアの首都アスマラにおいて、エリトリアのイサイアス大統領との会談を実現させた。

 

この会談において、バドメ地域のエリトリアへの帰属を合意が為され、和平が成立した。加えて、国交正常化も実現し、ブレなどの国境が通れるようになったことで、内陸のエチオピアはこれまでジブチからしか海にアクセスできていなかったが、エリトリア側からのルートも開かれた。

 

国境により断絶されていた家族が再会し、両国間の通話や航空便が利用できるようになるなど、その恩恵は非常に大きく、現地は祝福ムードに包まれている。また、エリトリアとの和平は、ソマリアやジブチ、スーダンなどのアフリカの角の地域全体に様々な影響を及ぼすと見られている。

 

残る課題

こうしたポジティブな報道が続く一方で、エチオピアでは解決すべき課題は多く残っている。

 

アビー首相の誕生とその改革も全国民が喜んでいるわけではない。623日、手榴弾がアビー首相の政治集会にいる群衆に投げ込まれ、1人が死亡し153人がけがを負うという事件が起こった。

 

アビーは、複数政党による民主主義の活発化を図っているが、必ずしも与党の票を維持しながら野党と仲良く共存できるとは限らない。

 

次の2020年の選挙で、予想される議席の再分配が摩擦や対立につながる可能性もある。

 

アビー首相の誕生による効果が最も期待されたオロモ州においても、問題は多く残る。オロモの人々の中にはエチオピアからの独立を目指す分離主義者も存在しており、彼らはアビー首相を裏切者だとみなしている。

 

また、亡命していたOLFのリーダーたちと1,500の兵士が9月にエチオピアに戻ったが、それにより首都アディスアベバで衝突が起こり、23が亡くなった。

 

また、法制度や警察は、長年非民主的な政権の干渉を受ける存在であったため、これらの機関が中立を保ち、法の支配を高めることが今後の課題である。

 

経済面においても海外からの多額の負債を抱えており、深刻なインフレに陥っている。これを受けて、政府は市場開放や国営企業の民営化といった経済改革に着手しており、それによって経済の活性化を成し遂げられるかが鍵となりそうだ。【2018927日 Yutaro Yamazaki氏 GLOBAL NEWS VIEW

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直面する課題は多く、どこから今回事件のような火の手が上がっても不思議ではない状況です。「改革」というのは、そういうものでしょう。

 

混迷するアフリカ諸国の政治にあっては、民主主義を体現する稀有の政治家でもあり、今後とも「改革」を進めることでアフリカのイメージを一新することを期待します。

 

【スーダン軍部の不興を買うエチオピアの民主的調停案】

なお、“また、エリトリアとの和平は、ソマリアやジブチ、スーダンなどのアフリカの角の地域全体に様々な影響を及ぼすと見られている。”とありますが、隣国スーダンでは民主化を求める勢力と軍部との犠牲者を伴う対立が続いていますが、アビー首相はその調停にも関与しています。

 

ただ、その“民主的”姿勢は権力維持を目論むスーダン軍部には不興を買っているようです。

 

****スーダン軍事評議会、AUとエチオピアに民政移管の提案統一を要請****

4月のクーデター後にスーダンを暫定的に統治している軍事評議会は23日、民政移管に向けて外交努力を展開しているアフリカ連合とエチオピアに対し、文民政権樹立までの青写真を統一するよう要請した。

 

民政移管を求める抗議デモの指導部によると、民間人主体の統治機構を設置するというエチオピアの提案に、軍事評議会側は難色を示している。

 

4月の軍事クーデターでオマル・ハッサン・アハメド・バシル前大統領が失脚したスーダンでは、実権を握った軍事評議会と、抗議デモ指導部との対立が深刻化。今月3日、首都ハルツームの軍本部前で座り込みを続けていたデモ隊を軍が強制排除し、多数が死亡する事態となった。

 

この危機を解決するため、AUとエチオピアが仲裁に乗り出している。

 

軍事評議会のアブデル・ファタハ・ブルハン議長は23日、AU、エチオピア双方の代表と面会。その後、記者会見した評議会報道官は、議長が「仲裁努力は共同提案の準備に重点を置くべきだと強調した」ことを明らかにするとともに、エチオピアの提案が遅れ、AUと異なる内容だったことを批判した。

 

民主化勢力の一派「自由・変革同盟」の指導者らは22日、エチオピアから民政移管に向けて民間人8人と軍人7人の計15人からなる統治機構を設けるとの仲裁案を提示され、受け入れたと発表していた。 【624日 AFP】

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アフリカ連合(AU)がどのような調停案を出しているのかは知りませんが、強権支配国家の多いAUですから、おそらくスーダン軍部の意向に沿った内容でしょう。

 

エチオピアが、軍部が嫌う“民間人主体の統治機構を設置するという”提案をしているあたりにも、アビー首相の民主主義を重視した改革の姿勢がうかがえます。



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