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孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

シリア  暫定政権の形は整いつつはあるものの、国民融和の実現には大きな懸念も

2025-04-04 23:28:22 | 中東情勢

(シャラア暫定大統領(左)とクルド人勢力主体の民兵組織SDFのアブディ司令官(右) 3月10日 ダマスカス【3月11日 ロイター】)

【暫定憲法の制定、暫定政府の組閣】
シリアでは昨年の12月8日、13年間の内戦を生き残ってきたアサド政権をHTS(シャーム開放機構)(イスラム原理主義の旧ヌスラ戦線を中核とし、トルコが後ろ盾)が倒し、シャラア氏を暫定大統領とする暫定政権を樹立しました。

3月には暫定憲法の制定、暫定政府の組閣も進んでいます。

****シリア暫定憲法を承認 正式な政権移行に5年 表現の自由や女性の権利も盛り込まれる****
シリア暫定政権のシャラア大統領は、正式な政権への移行期間を5年と定める暫定的な憲法草案を承認しました。

シリア国営通信によりますと、暫定政権のシャラア大統領は13日、暫定的な憲法の起草を進めていた委員会から提出された草案に署名し、承認したということです。

草案では、正式な政権への移行期間を5年と定めていて、立法方針はイスラム法を基本にすると明記されているということです。

暫定政権は今後5年の間に恒久的な憲法を制定することを目指していて、シャラア氏は署名の際、「国家建設と発展のための、新たな歴史の始まりとなることを期待している」と述べました。

シャラア氏が率いる暫定政権に対しては厳格なイスラム主義に基づく統治を懸念する声も根強くありますが、草案では表現の自由や女性の教育や就労などの権利も保証されているということです。【3月14日 TBS NEWS DIG】
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****シリア新暫定政府に少数派が入閣、社会労働相には女性起用*****
シリアのシャラア暫定大統領は29日、新たな暫定政府を発足させた。23人の閣僚を任命し、国内少数派からの起用やスポーツ省新設など政府指導部の層を広げた。

数十年に及ぶアサド家支配からの新体制移行に向けた重要な節目となり、シリアと西側諸国との関係改善につながるとみられている。

シャラア氏は、自身が率いる過激派「シリア解放機構(HTS)」出身のアブカスラ国防相やシェイバニ外相を閣内に残した一方、新たに運輸相にアサド前大統領の出身宗派イスラム教アラウィ派のバドル氏を任命した。

また、農業かんがい相にバドル氏、社会問題・労働相にキリスト教徒で宗教間の寛容などに取り組んできた女性カバワット氏をそれぞれ起用した。財務相にはベルニー氏を任命した。

シャラア氏が率いる暫定政府はイスラム教スンニ派が主導している。西側諸国とアラブ諸国は、シリア国内の多様な民族や宗派を暫定政府に参加させるよう迫り、今月上旬に起きた北西部の大規模衝突で数百人のアラウィ派市民が死亡すると、そうした圧力が一段と高まっていた。

シャラア氏は緊急事態省も新設し、大臣には救護活動を行うシリア民間防衛隊(ホワイトヘルメッツ)のサレハ代表を任命した。

暫定政府は首相ポストを設けず、シャラア氏が行政府を率いる見通しだ。【3月31日 ロイター】
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シャラア氏は演説で「新政府の発足は、新しい国家を作るという我々の共通の意思の表れだ」とアピールしています。

【懸念が現実化したアサド前政権支持派への軍事作戦】
このように一応は形が整いつつもありますが、問題は中身であり、多様な民族や宗派をまとめていくことができるのか、イスラム原理主義の強要が行われないか・・・というところです。

“シリアの人口の約74%がスンニ派、約13%がアラウィ派等のシーア派、10%がキリスト教徒、約3%がドゥルーズ教徒と言われていて、別のデータでは、人口の約7%がクルド人だ”【後出 WEDGE】

そうした懸念が現実のものになったのが、上記記事にもある、3月上旬に起きた北西部の大規模衝突で数百人のアラウィ派市民(アサド前政権の支持基盤)が死亡するという混乱でした。

“英BBC放送は、衝突現場一帯の路上には銃で撃たれて血を流した多数の遺体が散乱していると報じた。北西部タルトス県の住民はBBCに、襲撃してきた武装集団について「身元も言葉も分からなかった。ウズベク人かチェチェン人のようだった」と証言。「彼らには正規の治安部隊に属さないシリア人が付き添い、市民も殺害行為に加わっていた」と語った。”【3月10日 時事】

“旧アサド政権を支持する武装集団と、暫定政府の治安部隊との間で6日から続いた衝突では、少なくとも1454人が死亡し、このうち市民の犠牲は973人にのぼったとシリア人権監視団が発表しています。”【3月11日 ANN】

****シリア、アサド前政権支持派への軍事作戦終了と発表****
シリア暫定政府の国防当局は10日、西部の湾岸都市でのアサド前大統領の支持派に対する軍事作戦が終了したと発表した。 2024年12月のアサド政権崩壊後、治安部隊と前政権支持者間の最大規模の衝突となっていた。

英国を拠点とするシリア人権監視団は、過去2日間の衝突で計1000人以上が死亡したと発表。745人が民間人、125人が治安部隊員、148人が前政権支持派の戦闘員という。

国防当局の報道官はXへの投稿で公共機関は業務を再開したと表明。将来の脅威を取り除くため、引き続き前政権支持者らを掃討する計画があるとも言及した。

シリア暫定政府を主導する旧反体制派「シャーム解放機構(HTS)」の指導者アハマド・シャラア(通称ジャウラニ)氏は9日、衝突を受けて、加害者の責任を追及すると表明した。衝突と殺害について調査する独立委員会の設立も発表されており、国防当局報道官は、調査委員会に全面的に協力すると言及した。

ジャウラニ氏は、近隣諸国の関与に対処しつつ、分裂した国の統一を試みている。今回の戦闘は、イスラム教スンニ派によるアサド政権下で優遇されてきた支持派に対する殺害行為に発展し、以前の政府高官や軍幹部も多数が対象に含まれていた。【3月11日 ロイター】
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【クルド人勢力と軍事機関統合などで合意したものの・・・】
上記の前政権支持派の処遇(報復の禁止)の他に、北部を支配するクルド人勢力との関係が大きな問題になります。

一応は軍事機関統合などで合意した形にはなっていますが、今後の展開が懸念されます。クルド人勢力は(PKKを敵視する)トルコと敵対しており、トルコは暫定政権のスポンサー的な立場にあります。

****シリアのクルド系勢力、暫定政権傘下へ 軍事機関統合などで合意*****
 クルド人勢力主体の民兵組織「シリア民主軍」(SDF)は10日、シリア暫定政府に合流するため、同政府との合意文書に署名した。シリア大統領府が同日発表した。

SDFはシリアでも有数の産油地帯である北東部を実効支配している。これまで暫定政府の統治下に置かれていなかった。

シリア暫定政府を主導するシャラア(通称ジャウラニ)暫定大統領とSDFのアブディ司令官がダマスカスで合意文書に署名した。両者はSDFの統治地域にある石油・ガス田、空港などの管理を暫定政権に移譲することで一致。アサド旧政権の残党に協力して対処することでも合意した。

アブディ氏はXへの投稿で、今回の合意は「新しいシリアを建設する真の機会」を意味すると述べ、正義と安定を求めるシリア国民の願望を反映した過渡期を保証するために重要な時期にシリア暫定政権と協力していると強調した。

年内に履行する予定。一方、これまでの協議で主要課題となっていた、SDFの軍事活動をシリア国防省にどのように統合するかについては合意文書に明記されていない。

アサド旧政権は昨年12月、旧反体制派の電撃的な攻勢を受けて崩壊し、過激派シリア解放機構(HTS)のシャラア指導者が暫定大統領に就いた。SDFはシリア北部でトルコが支援するシリア武装勢力と長年対立しており、アサド政権崩壊後も紛争は続いている。

シャラア氏と緊密な同盟関係にあるトルコから今回の合意についてコメントを得られていない。【3月11日 ロイター】
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今後については、暫定政権を支え、クルド人勢力と敵対するトルコの意向が大きく影響します。

【イスラエル ハマ、ダマスカス空爆】
また、イスラエルの動きも懸念材料です。

****イスラエル、シリア首都や軍基地空爆 緊迫高まる****
 シリアで2日、中部ハマ市にある空港と首都ダマスカスのバルゼ地区にある科学研究センター付近がイスラエル軍による空爆を受けた。シリア国営通信(SANA)と地元当局者らが明らかにした。治安筋によると、ハマへの空爆で死傷者も出ているもよう。

イスラエル軍も2日、ハマ市とホムス県にある「T4」と呼ばれるシリア軍基地、ダマスカスの軍事インフラ施設を攻撃したことを確認。イスラエルは同センターが誘導ミサイルや化学兵器の開発に使われていたと主張している。

「T4」のあるホムス県は、武器移転の拠点として繰り返し攻撃対象になっている。

シリアは昨年、反政府勢力が旧アサド政権打倒後、旧反体制派主導の暫定政権を樹立。しかし、シリア暫定政権の後ろ盾がイスラム主義色の強いトルコ与党を率いるエルドアン大統領であることなどを背景に、シリア暫定政権の弱体化を狙うイスラエルとの間で緊迫が高まっている。【4月3日 ロイター】
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【“いずれシリア国内で暫定政府とクルド人との衝突が始まることが予測される”とも】
前政権支持派との融和、クルド人勢力との関係構築、イスラエルの動きなどの問題を抱えるなか、現段階では暫定政権の性格について懸念が持たれている状況です。

****〈悪化し始めたシリア情勢〉内戦再燃の懸念、暫定政権とアサド派の衝突、くすぶり続ける宗派対立と新たな黒歴史の可能性も*****
ワシントン・ポスト紙は、シリアでは、イスラム原理主義の暫定政権と旧アサド政権派との衝突が始まり、内戦の再燃が懸念されるという、ジム・ジェラティNational Review誌特派員の現地レポート‘The last good days in Syria before a new nightmare began’を掲載している。要旨は次の通り。

シリア情勢は、3月6日に悪化し出した。旧アサド政権派とイスラム原理主義の暫定政権の部隊との衝突が始まり、後者は、明らかに宗派主義に基づく一般市民の虐殺も始めた。

昨年の12月8日、13年間の内戦を生き残ってきたバッシャール・アサド政権が突然崩壊し、HTS(シャーム開放機構)がシャラア氏を暫定大統領とする暫定政権を樹立した。

シャラア氏はユニークな経歴の持ち主だ。2003年に彼はアルカイダに参加したが、捕虜になり米軍のキャンプ・ブッカに拘留された。その後、11年にシリア内戦が始まると、彼はシリアでヌスラ戦線を立ち上げてイスラム国に参加した。しかし、13年に彼は「イスラム国」の指導者バクダッディと衝突し、ヌスラ戦線は「イスラム国」と袂を分かった。

確かにシャラア氏は、西側のメディアに対して「少数派を弾圧するより内戦で疲弊したシリアを復興させようとしている」と発信している。例えば1月には英Economist誌に「これからの5年間で国家を再建し、正義と対話を推進し、国家運営に全ての勢力が参加するだろう」と述べた。

他方、アサド一族は、アラウィ派と呼ばれるイスラム教の少数派に属しているが、アラウィ派、キリスト教徒、その他の少数派は、過激派の過去を持つスンニ派イスラム原理主義政権を恐れる十分な理由がある。

2月末、シリアの様々な勢力が2日間の国民対話集会を開いたが、新政府を樹立するための具体的な指針には触れなかった。

3月上旬には、アサド政権崩壊後の緊張を孕みつつも相対的に安定した状況は崩壊し、アラウィ派の根拠地である沿岸のラタキアでイスラム原理主義政権の治安部隊はアサド派の勢力を壊滅させ、戦闘は近隣のホムスとハマに飛び火した。

西側メディアには数百人の一般市民が殺害されたという憂慮すべきレポートが溢れた。9日、CNNは、暫定政権に忠実な部隊が即時処刑を行い、シリアを浄化すると主張してアサド政権の残党を掃討しているおぞましい映像を報じた。

その週末、シリア正教大主教と他のキリスト教正教指導者達は、恐ろしい行為を即時停止し、平和的な解決を求める共同声明を出したが、今回の出来事は、長年の残酷な内戦で荒廃したシリアに取って痛い後退だ。

シリア人達は、シリアに対する西側の制裁を解除する事を望んでいた。彼らは、制裁はアサド政権を罰するためであり、同政権を倒した人々に対して適用されるべきではないと、もっともな主張をした。

しかし、今やシリアで大虐殺の波が解き放たれた以上、米国と西側諸国が早期に制裁を解除するのは困難だ。シリアで一つの黒歴史が終わったが、新たな黒歴史の始まりとならない事を祈っている。
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「穏健なイスラム原理主義」のギャップ
シリアでイスラム原理主義暫定政権の部隊と旧アサド政権派との衝突や一般市民の虐殺が始まっていることは憂慮すべき状況だ。上記の論説の「アサド政権を支えたアラウィ派、キリスト教徒、その他の少数派は、過激派の過去を持つスンニ派イスラム原理主義政権を恐れる十分な理由がある」という指摘は正しい。

まず、上記の論説も指摘しているが、シャラア暫定大統領は、アルカイダあがりであり、暫定政権の中心となっているHTSはイスラム国に参加していたヌスラ戦線であり、HTSの本拠地では今でもイスラム過激主義グループが用いるジハード旗が翻っているということだけで、十分にこのシリアの暫定政権の危うさを示している。

国際社会からの強い批判を浴びて、今回の衝突は収拾の方向に向かっている様だが、このスンニ派イスラム原理主義政権と旧アサド政権の中核だったアラウィ派との関係のみならず、キリスト教徒、ドゥルーズ教徒、クルド人他の少数派との関係は大きな火種となろう。

あるデータでは、シリアの人口の約74%がスンニ派、約13%がアラウィ派等のシーア派、10%がキリスト教徒、約3%がドゥルーズ教徒と言われていて、別のデータでは、人口の約7%がクルド人だが、例えば、暫定政権側は、女性にスカーフの着用を強要したり、キリスト教徒に対して改宗を慫慂(しょうよう)したりしている。

さらに、暫定政権が作った新教育指導要領では、ユダヤ人とキリスト教徒を「地獄に落ちる者」と表現していると伝えられている。

シャラア暫定大統領は、「穏健なイスラム原理主義政権を目指す」と繰り返しているが、元イスラム過激派のイメージする「穏健なイスラム原理主義」と我々が受け入れ可能な「イスラム原理主義」との間には自ずとギャップがある事を覚悟しなければならないだろう。上記の論説も早期の対シリア制裁の解除に疑問を投げかけている。

火種となり得るクルド勢力
シリアの少数派の中で潜在的に最も大きな問題は、北部と南部に自治地域を設けている武装したクルド人の処遇であろう。

トルコはシリアのクルド勢力はトルコからの分離独立を目的とするPKK(クルド労働者党)の一部であると敵視しており、過去数回、越境作戦を行い、北部のクルド勢力の掃討を目論んだが成功していない。クルド勢力の精強さが特筆される。

他方、HTSのスポンサーはトルコであるから、当初、シャラア暫定大統領はクルド勢力に対して武装解除を求め、上記の論説でも触れられている国内各勢力の和解のための国民対話集会にクルド勢力を招待しなかった。

その後、3月10日、クルド勢力は暫定政権の傘下に入るという合意がなされたと報じられているが、その前の3月1日、PKKはトルコとの停戦に合意したと報じられており、これがシリアで暫定政府とクルド勢力との和解に影響した可能性が高い。

しかし、過去に何回もトルコ政府とPKKとの停戦合意は破談になっており、今回の合意が長続きするのかどうかは分からない。それ以上にクルド独立国家樹立が悲願のクルド側は、これまでと同様の自治を求める可能性が高い。

アサド政権を打倒した暫定政権側は高揚しており、停戦合意が続く限りトルコは止めるだろうが、いずれシリア国内で暫定政府とクルド人との衝突が始まることが予測される。【4月4日 WEDGE】
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“いずれシリア国内で暫定政府とクルド人との衝突が始まることが予測される”・・・・随分と確信に満ちた予想ですが、そのように思えてしまうのがシリアの現状です。

****シリア大統領、新当局はすべての人を満足させることはできないと語る****
シリアのアフメド・アル・シャラア暫定大統領は月曜日、新暫定政府は紛争で荒廃した国の再建においてコンセンサスを目指すと述べたが、全ての人を満足させることはできないだろうと認めた。

シャラア氏が率いるイスラム主義組織ハヤト・タハリール・アル・シャーム(HTS)が攻勢に転じ、バッシャール・アル・アサド大統領を倒してから3ヶ月以上経った後、23人の暫定内閣(首相不在)が、土曜日に発表された。

シリア北東部のクルド人主導の自治政府は、「国の多様性を反映していない」として、政府の正当性を否定している。
シャラア氏は、新政府の目標は国を再建することだと述べたが、それは「すべての人を満足させることはできないだろう」と警告した。

イード・アル・フィトルの礼拝の後、シリアのテレビで放送された大統領官邸での集会で、シャラア新政権は、「どのようなステップを踏んでも、コンセンサスに達することはない-しかし当然ながら-が、可能な限りコンセンサスに達しなければならない」と語った。【4月1日 ARAB NEWS】
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