(原油先物(米WTI)の推移)
【原油価格急落 米バイデン政権にとって「救いの神」となったオミクロン株】
ここ数日、国際情勢関連ニュースも「オミクロン株」関係一色。
感染力は? ワクチンの有効性は? 治療薬の効果は? 現在の感染拡大状況は? 各国の水際対策は? 命名の背景は? 等々。
その脅威についてはまだわからないことばかりですが、その影響は世界経済に直ちに波及しています。
“面白い”と言っては不謹慎ですが、興味深いのは、持ち直しつつあった世界経済がオミクロン株感染拡大で再び冷え込むことが予想され、原油需要も押し下げられることから、数日前まで世界経済にとって懸念材料となっていた原油価格上昇の流れが一気に変化したこと。
****原油先物20年4月以降で最大の下げ、新変異株受け需要減少懸念****
(11月26日)米国時間の原油先物は約10ドル下落した。1日の下落幅としては2020年4月以降で最大。新型コロナウイルスの新たな変異株により経済成長や燃料需要が落ち込むとの見方が強まった。(中略)
米WTI原油先物は10.24ドル(13.1%)安の68.15ドル。週間では約10.4%下落した。(後略)【11月27日 ロイター】
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米WTI原油先物は1バレルあたり10ドルほどの急落のあと、一時は66ドル台にまで下がり、ここのところは69ドルあたりで推移しています。
****原油先物下落、オミクロン株に対するワクチンの有効性巡る懸念で****
米国時間の原油先物は下落。米モデルナのバンセル最高経営責任者(CEO)が新型コロナウイルスワクチンについて、新たな変異株「オミクロン」への効果はデルタ株と比べて低下する恐れがあると指摘したことを受け、原油需要を巡る懸念が強まった。(中略)
米WTI原油先物は3.77ドル(5.4%)安の66.18ドル。一時64.43ドルまで下落し、8月以降の安値を更新した。(中略)
ライスタッド・エナジーのアナリストは「石油需要に対する脅威は本物だ。新たにロックダウン(都市封鎖)の波が起これば、2022年第1・四半期には日量で最大300万バレルの石油需要が失われる可能性がある」とした。【12月1日 ロイター】
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11月25日ブログ“原油価格高騰 米バイデン政権は日本など消費国と強調して石油備蓄放出へ 効果は?”でも取り上げたように、ガソリン価格上昇というバイデン政権にとっては非常に危険な事態に対し、アメリカは日本を含めた同盟国と協調して石油備蓄放出という非常手段にでたものの、動員できる量は限られており、また産油国側を逆に刺激したこともあって、その効果は危ぶまれていました。
その意味では、「オミクロン株」による原油価格「急落」は(不謹慎ながら)バイデン政権にとって、現時点に限った話ではありますが、「救いの神」にもなっています。
****オミクロン株に救われた米国 原油価格下落、米国債安定で窮地を脱す****
新型コロナウイルスの変異株「オミクロン株」の出現が、世界の金融市場を大きく揺るがしている。そのひとつとして注目したいのが、原油先物価格の動きだ。高騰が続いていたNY原油先物価格は11月26日に約10%下落した。その後少し戻しはしたが、今後のトレンドはまだ見えてきていない。
10月下旬から11月上旬にかけての原油先物価格は新型コロナウイルスのパンデミックが発生する前の高値を更新、1バレル80ドルを超える水準で推移していた。約7年振りの高値を付ける中で急落が起きた。原油先物価格は物価を見通す上で非常に重要な指標である。投資家のみならず、その先行きは非常に気になるところだ。
それにしても、急落前、なぜ、上昇していたのだろうか。今後の動きを分析するには、まずその点から整理しておく必要があるだろう。
主な要因として考えられるのは、需要拡大見通しである。新型コロナウイルス感染拡大の収束期待が高まることで、グローバル経済が回復に向かう。そうなれば当然、原油の需要は拡大する。その上に、ラニーニャ現象の発生で厳冬となれば、需要は更に上乗せされる。
加えて、供給の構造的な鈍化、硬直化など、“需要増加に合わせて柔軟に供給が増えるといった市場メカニズム”が働きにくいことも要因として挙げられよう。
環境問題を重視する各国政府は石油開発投資、生産を抑制しようとしている。OPECプラスはそうした動きを警戒、需要の伸びが期待できない以上、価格政策を重視している。
サウジアラビアやロシアなどは政治的な駆け引きに熱心であり、OPECプラスとして柔軟な供給体制が取れないでいる。アメリカの覇権に陰りがみられ、産油国への影響力が弱まっているといった見方もできよう。
インフレが進めば米国債券市場に危機も
原油(先物)価格の上昇で困るのは、日本や欧州の主要国(イギリスを除く)など、非産油国だけではない。足元で物価が上昇、金利の先高懸念の強まっている米国も同様だ。
インフレが手に負えなくなれば、安全資産の頂点にあり、国際金融市場の要ともいえる米国債券市場が危機的状況に陥るリスクがある。
バイデン政権にとっては、大統領の支持率低下が深刻となる中で、市民に強い不満を与え、経済的な大混乱を引き起こしかねない原油高は、なんとしても避けたいところでもある。
米国は世界最大の産油国であり、シェールオイルの増産能力は十分あるはずだが、バイデン大統領は11月に開かれたCOP26において、各国に対して気候変動対策の強化を訴えたばかりである。トランプ前大統領とは正反対の姿勢だ。
そもそも、石油業界は伝統的に共和党支持者が多い。政治的な要因も加わり、政府主導で増産を呼びかけるわけにはいかないといった事情がありそうだ。
バイデン大統領は11月23日、石油の国家備蓄を5000万バレル放出すると発表。日本政府も24日、米国の要請を受けて石油の国家備蓄を放出することを決めた。インドや韓国などもこれに追従する意向である。ちなみに、中国は既に9月の段階で、国家備蓄を放出している。
しかし、国際協調の動きがあったにもかかわらず、バイデン大統領が打ち出した切り札ともいえる政策は効かなかった。原油先物価格は22日に一旦底打ちすると、24日には高値79.23ドルまで上昇した。
米国にとっては都合の良い結果
こうした背景で原油先物価格が高騰していたタイミングで、今回の急落が起こった。
世界のマスコミは11月26日、新型コロナウイルスの「オミクロン株」の発生を大きく報じ始めた。それによって、金融市場は一変。先週末のグローバル株式市場は急落する一方で、リスクマネーは安全資産としてドルを選好、米国債に資金が流入し、金利は大きく低下した。(中略)
オミクロン株については、感染力、重症度、ワクチンの効果など、まだ不明な点も多い。そうした点が明らかになるまでは、市場のはっきりした方向性が出てこないかもしれない。(後略)【12月1日 田代尚機氏 マネーポストWEB】
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もちろん原油価格が下げたと言っても、現時点での話で、今後のオミクロン株の影響などで流れは決まってきます。
産油国側も模様眺めの様相です。
****OPECプラスが会合延期、新変異株の影響見極めで****
石油輸出国機構(OPEC)と非加盟産油国でつくる「OPECプラス」は、29日と30日に予定していた会合をそれぞれ12月1日と12月2日に延期した。
南アフリカなどで確認された新型コロナウイルスの新変異株(オミクロン株)が原油の需要と価格にどう影響を及ぼすか見極める時間を確保する狙いだ。複数の関係者や関連書類で明らかになった。(中略)
ある関係者は「新変異株がどういうものかを把握し、われわれが過剰に対応するべきかどうか理解するために、もっと時間が必要だ」と述べた。【11月29日 ロイター】
ある関係者は「新変異株がどういうものかを把握し、われわれが過剰に対応するべきかどうか理解するために、もっと時間が必要だ」と述べた。【11月29日 ロイター】
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【今後は実体経済に強く影響】
オミクロン株の影響は、当然ながら実体経済に大きく影響します。
すでにアメリカや日本など各国で先行き不透明感から株価は大きく下げていますが、今後ロックダウンなどの規制強化が必要とされるようになれば実体経済も縮小し、バイデン政権をはじめ各国政府は困難な対応を迫られます。
それ以前の段階でも、各国の入国規制が強化されることで、企業の生産活動、物流は大きく制約されることにもなります。
****オミクロン株に企業警戒感 出国停止検討も****
南アフリカや欧州などで確認された新型コロナウイルスの新たな変異株「オミクロン株」に対し、海外に進出する企業の間で警戒感が広がっている。昨年からコロナ対策に取り組んできた大半の企業はオミクロン株の確認以前から海外出張などには慎重で、大きな混乱は生じていないが、感染拡大が続けば生産活動や物流などに悪影響が出るのは避けられないからだ。
トヨタ自動車は東南アジアのコロナ流行や世界的な半導体不足で部品調達難に陥り、9月に年間の世界生産台数の見通しを当初から30万台減の900万台に引き下げた。オミクロン株が最初に確認された南アフリカでもカローラシリーズなどを生産。社員の出入国については「状況を注視して、日本政府の規制に準じて対応していく」という。
多くの企業はオミクロン株が確認される前から海外出張を原則禁止とするなど慎重な対応を取ってきた。キリンホールディングスも海外出張を控えており、今後の流行状況に応じて出国停止を検討する方針だ。(中略)
コロナ禍で激減した訪日観光客(インバウンド)の回復にも歯止めがかかり、経済同友会の桜田謙悟代表幹事は「影響は間違いなく、それもかなりある」と話す。
政府は1日、日本に到着する全ての国際線の新規予約を当面停止するよう航空各社に要請。国際貨物が好調で旅客便に搭載して運んでいる日本航空の担当者は「貨物で採算が取れていることもあり、基本的には乗客が少なくても既に予約が入っている便は運航する」と説明するが、「長引かなければいいが」と今後の影響に懸念を示す。【12月1日 SankeiBiz】
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【日本 厳しい水際対策実施】
日本も水際対策の強化で、全外国人の入国を禁止。
****日本も外国人の入国原則禁止へ ビジネス目的、留学生も****
新型コロナウイルスの新たな変異株「オミクロン株」の感染拡大を受け、岸田文雄首相は29日、外国人の入国を原則、禁止する方針を発表した。数週間前に厳しい入国規制を緩和したばかりだった。
岸田首相は記者団に対し、30日から、入国禁止措置の対象を全世界に拡大すると述べた。ビジネス目的の渡航者や留学生の新規入国も禁止される。 【11月29日 AFP】
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更に、日本政府は国内外の航空会社に対し、日本人帰国者を含めた日本に到着するる全ての国際線の予約停止を要請。
****全ての国際線の予約停止を要請、帰国希望の日本人も対象…「オミクロン株」対策強化****
国土交通省は1日、国内外の航空会社に対し、12月末までの1か月間、日本に到着する全ての国際線について、新規予約を停止するよう要請したことを明らかにした。
新型コロナウイルスの新たな変異株「オミクロン株」の感染拡大を防ぐため、水際対策を強化した。予約の受け付け停止は帰国希望の日本人も対象となるため、予約を取っていない日本人は帰国できなくなる。
国土交通省 要請は11月29日付。日本から出発する国際線は対象外となっている。
要請は、全日本空輸を傘下に持つANAホールディングスや日本航空のほか、日本の空港に路線を持つすべての海外航空会社に対して行った。国土交通省は要請について、「オミクロン株の実態が分かるまで感染拡大を食い止めるための緊急避難的な予防措置だ」としている。
停止日までに受け付けた予約は通常通り搭乗できる。国内空港が乗り継ぎ地点となる便については措置の対象外とした。また、日本からの出国便は引き続き新規予約を受け付ける。ただ、今回の措置により、帰国できなくなる恐れがあるため、事実上、出国希望者の抑制につながるとみられる。
政府はオミクロン株への水際対策として、外国人の新規入国を原則停止したり、1日あたりの入国者数の上限を3500人程度に引き下げたりしていたが、一段の対策強化に向け、更なる措置に踏み切った。【12月1日 読売】
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日本人帰国者も締め出す今回措置については異論もあるかと思いますが、政府としては、すでにオミクロン株感染者の流入も出ている状況で対策が後手に回ると政権批判が高まることを懸念しての措置でしょう。
【「この株を検出した南アフリカとボツワナは感謝されるべきであり、罰せられるべきではない」】
世界各国が、オミクロン株の感染拡大を公表した南アフリカなどの国からの渡航を制限していることについては、南アフリカやWTO・国連は「この株を検出した南アフリカとボツワナは感謝されるべきであり、罰せられるべきではない」(WHOのテドロス・アダノム事務局長)と各国対応を批判しています。
****オミクロン株拡大めぐる渡航制限 南アフリカ大統領「不当な差別」****
新型コロナウイルスのオミクロン株が見つかった南アフリカのラマポーザ大統領は28日、テレビなどを通じて演説し、一部の国々が南部アフリカからの渡航を制限したことについて「深く失望した」と述べ、「早急に決定を撤回し、渡航禁止措置を解除するよう求める」と訴えた。
演説では、渡航制限を実施している欧米諸国や日本などを名指しした上で、「不当であり、我が国と南部アフリカの国を不当に差別している」と批判。「影響を受ける国の経済をさらに悪化させ、感染拡大への対応や回復の能力を損なうだけだ」「科学的ではなく、変異株の拡散防止についても効果的ではない」などとも主張した。
一方、南アではワクチン接種を終えた人は総人口の23%超にとどまっており、接種に抵抗感を持つ人々も多い。このため、ラマポーザ氏は国民に向けて「変異株から自身や周囲の人たちの身を守るためにはワクチン接種が最も重要」だと強調し、接種を改めて強く呼びかけた。
また、特定の活動や場所に対してワクチン接種を義務化するためのタスクチームを立ち上げたことも明らかにした。(後略)【11月29日 朝日】
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****オミクロン株検出、WHOテドロス氏「南アとボツワナに感謝を」…渡航制限の各国批判****
新型コロナウイルスの新変異株「オミクロン株」の感染拡大に警戒感が広がる中、米国のバイデン大統領は記者会見を開き、国民に冷静な対応を呼びかけた。世界保健機関(WHO)などからは、アフリカ諸国に対する渡航制限について懸念の声が上がっている。一方、感染は欧州を中心にさらに拡大し、既存ワクチンの追加接種の対象を拡大する動きも出ている。
バイデン氏は29日、ホワイトハウスでの記者会見で「懸念材料ではあるが、パニックを引き起こすほどのものではない」と述べた。既存のワクチンの有効性が判明するには「数週間かかるだろう」とした上で、「我々の医療チームはある程度の予防効果があると考えている」と述べ、ワクチン接種や追加接種の重要性を強調した。
また、オミクロン株に対応するワクチンの開発が必要な場合に備え、米製薬大手ファイザーや米バイオ企業モデルナなどと協議を始めていることを明らかにした。
米政府は南アフリカや周辺の計8か国を対象に渡航を制限しているが、バイデン氏は現時点では渡航制限の拡大などの新たな措置は必要ないとの認識も示した。
一方、WHOのテドロス・アダノム事務局長は29日の総会特別会合で「この株を検出した南アフリカとボツワナは感謝されるべきであり、罰せられるべきではない」と述べ、南アなどアフリカ南部に対し渡航を制限している各国を暗に批判した。
オミクロン株についてWHOは、加盟国向け資料で「さらに拡散する可能性が高い」と警告しているが、感染力や重症化の程度については「不確定要素が多い」との記述にとどめている。
国連のアントニオ・グテレス事務総長も声明で、南アフリカなどに対する渡航制限について懸念を示した上で、「ワクチン接種率の低さが変異株の出現につながる」とし、ワクチンの公平な普及を訴えた。(後略)【11月30日 読売】
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“オミクロン株を最初に発見・報告した南アフリカの当局者は、オランダや英国、カナダ、香港など世界各地で確認されている同株を特定したことで「罰せられている」と述べた。アフリカ南東部マラウイのラザルス・マッカーシー・チャクウェラ大統領は、欧米諸国による渡航制”【11月30日 AFP】
現実問題としては各国の水際対策強化はやむを得ない措置ですが、それによって感染公表国が「罰せられる」ような結果になれば、不公平なだけでなく、今後の世界のコロナ対応にも禍根を残します。南アなどへの何らかの支援が同時に必要でしょう。
更に、そもそも論で言えば、国連のグテレス事務総長も言及しているように、世界にワクチン接種が進まず感染が拡大しやすい国が残る限り、日本を含めたワクチン先進国も常に新たな変異株の脅威にさらされ続け、経済・生活も日常回復はできません。
どうしても国内対策が優先されるのはこれまたやむを得ないところですが、それだけで突き進むのではなく、同時に世界的な視野にたったグローバルな対応も不可欠です。
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