孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

シリア  反体制派内のイスラム原理主義的傾向への懸念

2013-07-03 23:33:30 | 中東情勢

(6月29日 アレッポ ロケット弾攻撃で破損した建物の破片が散らばるモスクに隣接する居住区 “flickr”より By AJstream http://www.flickr.com/photos/61221198@N05/9183207271/in/photolist-eZukzR-eAD726-eADcqc-eADa46-eAGmUQ-eAGjBE-eADgvp-eAGgsA-eADaDi-eADffB-eADe6i-eADbRH-eADcZB-eAD8GX-eAGo1f-eAGhES-eAGpf1-eAD7wa-f24yGf-f1PmgR-f24z7G-f24AaQ-f24FtN-f1PjQn-f24z4y-f1PkdD-f1Pm9n-f1PkhR-f1Pkyc-f24znu-f24zSW-f24A2y-f24yZw-f1PrmD-f1PjW4-f1Pmmg-f24Fpb-f1PkQe-f24ziW-f24zXf-f1Pkuv-f1PiFr-f1PrG2-f1Pj4H-f1PrxB-f24yss-f1PiS2-f24FBY-eSw8T7-eSjP48-eShv7e

死者は10万人超 未確認の犠牲者も含めれば2倍に上る可能性
シリアの2年以上に及ぶ内戦で犠牲者の数は10万人を超えていますが、いまだ出口が見えない泥沼の戦いが続いています。

****シリア:死者10万人超 和平会議めど立たず****
在英のシリア反体制派組織「シリア人権観測所」は26日、アサド政権と反体制派の武力衝突が始まった2011年3月以降の死者が10万人を超えたと発表した。

観測所によると、死者は1日100人以上のペースで増加。未確認の犠牲者も含めれば死者数は2倍に上る可能性があると指摘している。米露などが和平国際会議の開催を目指すが、25日の準備会合でも開催時期や参加者で一致できず、事態打開のめどは全く立っていない。

観測所によると、写真や映像などで確認された死者数は10万191人に上る。市民の犠牲者は5万200人で、うち5144人は子供、3330人は18歳以上の女性だという。反体制派の戦闘員の死者は1万8072人に上っている。

一方、政府軍は2万5407人、政権側の民兵組織は1万7311人の死亡が確認された。4月以降に政権側に加勢しているレバノンのイスラム教シーア派武装組織ヒズボラの戦闘員も169人が死亡したという。

国連は11年3月以降の死者数を少なくとも9万3000人と推計している。内戦による難民は160万人を超え、国内避難民も400万人以上だ。

内戦の政治解決を目指し、和平国際会議の開催が模索されている。だが、スイス・ジュネーブで25日、米国、ロシア、国連の高官が行った協議では、時期や出席者で合意できなかった。ジュネーブからの情報によると、ロシア高官は協議後「イランの参加で意見の相違がある」と述べた。

シリアのアサド政権は出席の意向だが、反体制派は参加者の調整がついていない。反体制派は7月4、5日に会合を開く予定。
ブラヒミ国連・アラブ連盟合同特別代表は協議前、和平会議は8月以降に延期される公算が大きいとの見方を示した。国連声明によると、ケリー米国務長官とラブロフ露外相が来週、和平会議開催について協議する。【6月25日 毎日】
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戦況については、レバノンのシーア派武装組織ヒズボラの本格参戦もあって、アサド政権側がホムス近郊の戦略的要衝とされるクサイルを奪還し、反体制派が掌握している北部大都市アレッポに迫りつつある・・・と、アサド政権側の攻勢が伝えらえています。

オバマ政権:長いためらいのすえに、反体制派への武器支援を表明
反体制派が劣勢にまわっているのは、武器など装備面における不足があるとして、かねてより反体制派からは欧米に対して武器支援の要請が強く出されています。

アメリカなどの欧米諸国は、提供した武器が反体制派内で大きな存在感を示しているイスラム過激派の手に渡ることことへの懸念などから、武器支援には慎重な姿勢を続けてきましたが、アメリカ・オバマ政権は先月、「レッドライン」としてきたアサド政権側の化学兵器使用を理由として、ようやく武器支援を行うことを決定しましたが、その詳細は明らかではありません。

*****米、シリア反体制派への軍事支援決定 政権側の化学兵器使用断定****
オバマ米政権は13日、シリアのアサド政権が反体制派や一般市民に対し、化学兵器のサリンなどを使用したと断定した。ローズ大統領副補佐官が記者団との電話会見で明らかにした。化学兵器は少なくとも4回使用され、死者は最大150人に達する。オバマ大統領はアサド政権が「レッドライン(越えてはならない一線)」を踏み越えたとして、反体制派への軍事支援を決定した。

オバマ大統領は、英・北アイルランドで17~18日に開催される主要8カ国(G8)首脳会議(サミット)や国連の場で、軍事面を含む追加支援のあり方を関係国と協議する。
ただ、アサド政権の後ろ盾となるロシアが反発するのは確実。シリア軍が攻勢を強めることも予想され、シリア情勢の先行きには不透明感が広がっている。

ローズ副補佐官は情報当局の分析として、アサド政権が3~5月にかけ、首都ダマスカスや中部ホムス、北部アレッポの近郊で、サリンとみられる化学兵器を使用したと述べた。

軍事支援の具体的な内容は明らかにしなかったが、一部の反体制派に対する自動小銃などの武器供与、軍事訓練を念頭に置いているもようだ。米国はこれまで、反体制派への支援を殺傷力のない軍用品に限定していた。

シリアでは隣国レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラがアサド政権に加勢し、イランも水面下で支援しており、反体制派は米国などに早期の武器供与を求めていた。

ただ、ローズ副補佐官は地上部隊の投入を否定。飛行禁止区域の設定にも慎重な見方を示し、国際社会と連携しながら「国益に矛盾しない追加措置」を検討すると述べるにとどめた。(後略)【6月14日 産経】
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アメリカ国内の国務省・国防省、有力議員には以前からシリア介入を求める声が強く存在していましたが、ホワイトハウスというか、オバマ大統領は時に“優柔不断”の批判を受けながらも、武器支援・介入をためらってきました。

11年末にイラクからようやく片足を抜き、14年末にはアフガニスタンからもう一方の足を抜けるか・・・というこの時期に、アサド政権を支援するイラン、ロシア、ヒズボラ、反体制派を支援する周辺アラブ諸国、イスラム過激派が入り乱れ、イスラエル、トルコ、エジプトなども関係しているシリアの泥沼にあえて飛び込む必要はないというのは当然の判断でしょう。

厭戦気分の強いアメリカ世論もシリア介入を求めてはいません。
財政再建が急務のなかで、国防費を減らすことが求められており、増やすような介入はもってのほかです。

アメリカにとっての中東地域の重要性にも変化の兆しがあります。国内のシェールガス革命が進めば、中東の石油に頼る必要もなくなりますので、戦略的に中東に固執する必要もなくなります。

にもかかわらず、武器支援決定に至ったのは、前述のようなアサド政権側の攻勢がみられなかで、このまま無作為を続けることは、中東、ひいては世界におけるアメリカの存在感を著しく貶めることになるとの判断でしょう。

倫理的な介入】
そもそも、アメリカなど欧米諸国が反体制派を支援するのは、この内戦がアサド政権の弾圧・圧政に対する民主化を求める戦いであるという認識があります。

しかし、反体制派側にも多くの残虐行為がみられることは、以前から指摘されているところです。
ロシア・プーチン大統領は、「人間の内臓を食べるような兵士に武器を供与してはならない」と、反体制側を善とするシリア内戦に関する欧米的価値観を批判しています。

****シリア反体制派は「被抑圧者」か「人肉を食う連中」か****
泥沼の内戦が続くシリア情勢が、欧米の軍事支援によって事態が動くかもしれない。米国のオバマ大統領は、アサド政権が化学兵器を使ったとして、反体制派への軍事支援を表明し、欧州連合(EU)も武器輸出禁止措置を解除した。

6月中旬に英・北アイルランドで行われた主要8カ国首脳会議(サミット)でも、シリア情勢は中心議題となった。欧米を突き動かすのは、人権意識の高まりからつくられた「倫理的な介入」という新たな論理だ。だが、それは本当に正しい“ものさし”なのだろか

■人肉を食す兵士に武器を与えていいのか
「中東に戦争の火の手が上がるのを米国が黙って見過ごしていたなんて、記憶されたくはない。彼は『力には責任が伴う』といつも言っていたはずだ」
米国務省の元政策担当幹部はニューヨーク・タイムズ紙に、シリア情勢から距離を置くオバマ氏へのいらだちを語った。積極的な介入を促すこんな声が、決定を後押ししたことは間違いない。

ライス国連大使の後任、女性のサマンサ・パワー氏も積極介入論者だ。ピュリツァー賞受賞ジャーナリストで元ハーバード大教授という異色の経歴。受賞作「集団人間破壊の時代」は、何の罪もない少女がボスニアで虐殺されるショッキングなエピソードではじまる。そしてカンボジアやルワンダなど世界各地で起こった大虐殺について米国の不作為をあぶりだし、「私たちは集団人間破壊の傍観者であり続けてきたのだ」と批判している。

著しい人権侵害には実力を行使してでも介入し、場合によっては政府転覆も辞さない。そんな考えが、欧米で広まっている。

だが、果たしてそれは正しい基準なのだろうか。
倫理につきまとう正邪の判別は簡単ではない。ボスニアやコソボ紛争で注目を集めた「民族浄化」のレッテルも、一方を白、他方を黒と思い込ませる米国のPR会社の巧みな宣伝戦略という側面があった。

サミットを前にした英露首脳会談では、こんなやりとりがあった。
「流血の責任はアサド大統領にある」とするキャメロン英首相にプーチン大統領は「責任は双方にある」と反発。プーチン氏は、インターネットに流出した映像を暗に示し、反体制派を白と色付けする欧米を批判して、こう言った。「人間の内臓を食べるような兵士に武器を供与してはならない」(後略)【6月30日 産経】
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こうした人権意識に根差した「倫理的な介入」に対しては、現実主義的な立場からの批判もあります。

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・・・・しかし、倫理を振りかざしての介入には西欧でも大きな抵抗勢力がある。それは現実主義で冷戦を乗り切ってきた、キッシンジャー元米国務長官のような人たちだ。キッシンジャー氏は90歳になるいまもさまざまな場で意見を表明し続け、シリア内戦についてはこう突き放す。
「独裁に対する戦いとして始まったかもしれないが宗派争いに変容した」

ソ連と対立しながらも勢力均衡による安定を保ち、電撃的な米中和解を実現させたキッシンジャー氏は、混乱を助長する介入を強く戒める姿勢だ。同氏は、外交に勧善懲悪を持ち込めば、「(血みどろの宗教戦争など)歴史を冷笑する者たち」(同氏)によって破滅への道をたどることになると指摘している。(後略)【同上】
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キッシンジャー元米国務長官が指摘する「独裁に対する戦いとして始まったかもしれないが宗派争いに変容した」
という見方は、多くが認めるところです。
シーア派のひとつとされるアラウィ派のアサド政権をシーア派のイラン・ヒズボラが支援し、スンニ派主体の反体制派をやはりスンニ派が多いサウジアラビアやカタール、トルコが軍事、財政面で支え、アルカイダ系のスンニ派イスラム過激派が戦闘で大きな力を発揮するという状況になっています。

しかし個人的には、キッシンジャー元米国務長官のように外交に勧善懲悪を持ち込むことを冷徹に否定することも出ません。価値観を欠いたパワーゲームは、多くの弱者・被抑圧者を犠牲にします。

もうひとつの価値観:宗教的不寛容・原理主義による人権侵害の問題
「弾圧・圧政に対する抵抗」というシリア内戦の見方は現在ではかなり疑問ですが、もうひとつ別の価値観による問題があります。
宗教的不寛容・原理主義による人権侵害の問題です。

今朝の欧米系TV局のニュースは、反体制派が掌握するアレッポで起きた事件を取り上げていました。
コーヒー店で働く少年が、代金を支払わない客に「予言者でも、ただは無理」と言ったことが「イスラムを冒涜した」とがめられ、衆人が見守る中で暴行を受け、母親の目の前で射殺されたというもので、犯人は何の処罰も受けていないとのことでした。

この話はひと月近く前のもので、下記ロイターが伝えるところでは、少年の発言は「預言者のムハンマドが天から降りてきたとしても、僕は(イスラム教を)信じない」とされています。

****過激派がシリアの15歳少年を射殺、「預言者冒涜で制裁****
英国を拠点とするシリア人権監視団によると、国際武装組織アルカイダ系のイスラム過激派は9日、預言者を冒涜(ぼうとく)したとしてシリア北部のアレッポで15歳の少年を射殺した。

この少年は顔や首に銃撃を受け、監視団が提供する写真では、少年の口やあごが銃弾で損壊している様子が確認できる。

監視団によると、路上でコーヒーを販売する仕事をしていた少年は、誰かと口論になった際に「預言者のムハンマドが天から降りてきたとしても、僕は(イスラム教を)信じない」と語ったという。

イラクやシリアで活動するイスラム過激派は8日、少年を捕え、翌日になって少年の両親を含む大勢の目の前で少年を射殺した。過激派のメンバーは「預言者を冒涜するものは皆このような制裁を受ける」と言葉を残し、立ち去った。

監視団のラミ・アブドル・ラーマン代表は、少年の母親が命乞いをしたにもかかわらず殺害されたとし、「こうした犯罪を見逃すわけにはいかない」とコメントした。【6月10日 ロイター】
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事件の発端となった口論の内容については定かではありませんが、犯人については、言葉訛からシリア人ではなく、イラクからのアルカイダ系グループ Al-Nosraとの指摘もあるようです。
現場は相当に人が多い場所だったようですが、誰も彼らの犯行をとがめることはなかったとのことです。

朝のTVニュースでは、この事件と合わせて、アレッポ市内で行われているシャリア(イスラム法)に基づく裁判、公開ムチ打ち刑の様子なども伝えていました。

アメリカがイスラム原理主義国家として敵視するイランでも、今回のような少年を射殺する行為は行われていないでしょう。
アメリカが潰したアフガニスタン・タリバンの支配を連想させるものがあります。

もしアサド政権が崩壊して、こうしたスンニ派過激派勢力が支配権を握れば、アラウィ派住民にたいする大規模報復行為も懸念されます。

こうした宗教的不寛容を是としない価値観からすれば、シリア反体制派支援には大きな疑問があります。
「アサドの方がましなのでは・・・」という思いもしてきます。

アサド政権崩壊に固執しない、ひとつの道筋
****米軍は中東の平和に役立っていない****
事実上警察官の役割を果たせなくなった米国に対して、アサド大統領の退陣にポイントを絞った外交に全力を挙げよと提案しているのは、ベイルートにあるイラク戦略研究所の准研究員で、06年に米国務省の近東問題局に勤務した経験を持つラマジー・マルディニ氏だ。

同氏は6月16日付ニューヨクタイムズに「大統領閣下、違います」と題する一文を書き、
①オバマ政権はシリア政権が正統性を失ったと述べてきたが、アサド大統領は都会に住むスンニ派を含む多くのシリア人から強力な支持を得ている、
②介入論者は長期的な視点を欠いており、政治的、文化的理解がない、
③いまの「シリア革命」なるものは、民主革命でも宗教革命でもない、
④9万人を超える死者は内戦の結果生じたのであって虐殺ではない、
⑤人権侵害は政府側にも反政府側にも存在する、
⑥反政府側はシリア人過半数の明確な支持と信頼を得ていない、
⑦民族浄化(エスニック・クレンジング)はアサド政権下よりも反政府勢力の支配下で起きやすい、
⑧化学兵器がテロリストの手に渡る可能性はアサド政権が弱体化すればするほど大きくなる、
⑨反政府勢力の勝利は現状維持の場合よりもイラクとレバノンを不安定にし、イスラエルに対する脅威は増大する―の諸点を挙げた。これらを無視してオバマ政権が反政府勢力に加担すれば、シリアを舞台にロシア・イランとの代理戦争に入り、中東地域全体が大動乱に入るというのである。

結論はシリアの政治機構はそのままとし、14年5月に任期が到来するのを待ってアサド政権を次の政権に移行させよとの提案だ。
米露間に合意ができれば、シーア派とスンニ派の、最終的には政府側と反政府側の代表を参加させた合意が求められると提唱している。

マルディニ提案をホワイトハウスがどのように受け取るかはおいて、中東の国際秩序を米国を中心とした欧州諸国が軍事力を背景に維持してきた時代は去ってしまったのではないか。(後略)【選択 7月号】*******************

これ以上の犠牲者を出さず、内戦終結後の報復を抑えられるなら、その主役は反体制派でなくてもいいのではないか・・・と思います。

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1 コメント

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Unknown (関東 原理 子供団)
2013-10-26 13:44:30
難しいな。
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