孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

メキシコ「麻薬戦争」への市民の取り組み  武装自警団を組織 ソーシャルメディアで情報発信

2013-07-02 22:16:04 | ラテンアメリカ

(神戸港では、メキシコから覚醒剤193キロ(末端価格約135億円)を、小分けにしたポリ袋をラップで包み石材の内部に隠して鉄鉱石輸入に偽装して密輸しようとした事件が摘発されています。【6月25日 毎日より】http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130625-00000041-mai-soci

ペニャニエト大統領「(麻薬組織に対し)手加減をせず、取引もしない」】
メキシコでは1年前の12年7月1日に大統領選挙が行われ、制度的革命党(PRI)のペニャニエト前メキシコ州知事(45)が当選しました。(大統領就任は、12年12月1日)

カルデロン前大統領はアメリカの協力の下で軍を動員した麻薬組織との戦い、いわゆる「麻薬戦争」を行ってきましたが、06年以降、組織間の抗争などに巻き込まれるなどで7万人以上が死亡したとされ、治安の安定が大統領選挙の争点となりました。

麻薬組織との全面対決は、組織を追い詰める一方で、生き残りをかけた組織間の抗争を激化させ、結果的に犠牲者を増加させているとの指摘があります。
また、既存の組織を潰しても新しい組織ができるだけで、事態は改善しないとも言われています。

ペニャニエト新大統領は、軍投入による強硬路線をとってきたカルデロン前大統領に対し、警察強化を掲げて治安改善を訴えました。
軍でも抑えきれないものが、警察力強化でどうなるのか?・・・という感もありますが、麻薬組織との力による対決はやめよう、そうすれば麻薬組織がらみの犠牲者も減るだろう・・・ということのようです。

ただ、それは結果的に麻薬組織を野放しにするということではないか・・・という疑念もあります。
その疑念の背景には、過去に制度的革命党(PRI)が行ってきた“実績”があります。

“PRIは00年に政権を奪還されるまでの71年間、「『平和』と引き換えに麻薬組織と各種の取引をした歴史」(米紙ロサンゼルス・タイムズ)を持つ。過去のしがらみを絶ち、具体的な成果を挙げられるかを懸念する声は強い”【12年7月3日 産経】
また、PRIは汚職・腐敗のイメージも強い政党でした。

ペニャニエト新大統領は、選挙の勝利宣言で「(麻薬組織に対し)手加減をせず、取引もしない。新たな戦略で犯罪対策を続ける」と、治安回復に全力を挙げる旨を語ってはいますが・・・。

カルデロン前大統領と協力してきたアメリカも、同じ疑念・不安を感じています。

****米大統領:メキシコで首脳会談 麻薬対策への協力継続へ****
オバマ米大統領は2日、メキシコを訪問してペニャニエト大統領と会談し、麻薬組織犯罪対策への協力継続を約束した。また、両首脳は急成長するアジアに対抗できる競争力をつけるため、閣僚級経済会議の定期開催に合意。治安対策をめぐってきしみ始めた関係を早期に修復し、経済の拡大を目指す。

会談後の共同記者会見で、オバマ大統領は「治安対策を選ぶのはメキシコだ。どちらにしても米国は協力する」と発言した。メキシコ政府への資金供与も継続する方針だ。

メキシコのカルデロン前政権は2006年末、米国の援助を受けて、巨大化した麻薬犯罪組織に対する掃討作戦を開始したが、組織抗争が激化し、現在までに推計7万〜11万人が殺害される「麻薬戦争」状況に陥った。

昨年12月に発足したペニャニエト政権は、武力中心の麻薬犯罪組織掃討から一般犯罪の取り締まりに治安対策の主軸を移し、メキシコ警察・軍と米国捜査機関との情報交換の窓口も中央政府に一本化した。このため米国側で懸念が高まっていた。【5月4日 毎日】
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アメリカはメキシコ国内の犠牲者がいくら増えようが、麻薬組織が弱体化してアメリカへの麻薬流入が減りさえすればいい訳ですから、実際に膨大な犠牲者を出し続けているメキシコ国民とはまた異なる立場にあります。

未成年者が毎月20人殺害
12年5月6日ブログ「メキシコ さすがの「麻薬戦争」もピークを越した? ブラジルにとって代わるメキシコ経済?」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120506)では、“メキシコの「麻薬戦争」に関して言えば、かつての目もくらむような暴力急増のペースが鈍り、地域によっては減少している。その理由は定かでないが、連邦治安維持費が74%も増加すれば、どんな国でもいずれは効果を生むだろう。”【12年4月16日 JB PRESS】といった記事も紹介しましたが、実際のところどうなのか・・・よくわかりません。

あまり派手な事件の報道は、最近はあまり目にしないようにも思いますが、下記サイトによれば、1月から3月までの3か月間に麻薬戦争に絡み殺害された「未成年者」は、1ヶ月平均で13年が20人とこれまでからそう大きくは減っていないようです。
未成年者が毎月20人殺害されるというのは、日本的感覚からは想像を絶するものがあります。

****メキシコ麻薬戦争で1750人以上の子供が殺されている****
NGO組織メキシコ児童の人権のためのネットワーク(REDIM)は、2007年以降麻薬戦争に絡み1750人以上の未成年者が殺害されていると発表しています。

REDIMによればチワワ州が若者と児童にとって最も危険な州であり、子供たちが犯罪組織によって性的搾取の対象となっています。チワワ州の次に危険なのはヌエボ レオン州・ゲレロ州・シナロア州・タマウリパス州となっています。また最も危険な年代は15歳から17歳です。

REDIMの代表フアン マルティン ペレス ガルシアは、「未成年者に対する性的搾取は増加しており、少女の失踪が増加しています。また麻薬カルテルは 児童を殺し屋として使用する事もあります。現在メキシコには子供たちへの暴力を予防し、暴力を受けた子供たちのケアをする公的組織は1つもありません。」と 述べています。

今年最初の3ヶ月間で殺害された未成年者は1月19人、2月17人、3月24人の60人です。一ヶ月平均で未成年者が殺害された数は2010年15人、2011年20人、2012年24人、2013年のこれまでで20人となっています。【5月4日 音の谷ラテンアメリカニュース】http://blog.livedoor.jp/otonotani/archives/7858763.html
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市長さえゆすりとられている町で自警団組織
警察・軍もあてにできないということか、住民が武装自警団を組織して自己防衛を行っている町もあるようです。

****麻薬カルテルとの闘いに武器を取って立ち上がる住民たち、メキシコ****
メキシコ西部ミチョアカン州にある人口1万人のコアルコマン。
麻薬カルテル「テンプル騎士団」から町を守ろうと、防弾チョッキを身につけライフルを背負った農民たちが、「自衛」の文字が派手に書かれた軽トラックに乗っている。

コアルコマンは麻薬カルテルの温床として知られているティエラ・カリエンテ(熱い土地)と呼ばれる地域にある。メキシコ政府は今週、数千人の兵士をコアルコマンなどに配備したが、自警団員たちは再び安全を取り戻すまで武器を手放すつもりはない。

先週コアルコマンの中央広場で、約200人からなる自警団を支持する住民集会が開かれた。この数か月、ミチョアカン州の複数の町でギャングによるゆすり行為や暴力を撃退するため住民が武器を手に立ち上がったが、コアルコマンはその最新の例だ。

「クオータ(割り当て)を払うのは、もううんざり」と32歳の薬局店員アドリアーナさん。「支払わないと誘拐されて『バーン、バーン』って殺されるのよ」。
「クオータ」とはテンプル騎士団が毎週あるいは毎月、事業主、農民、タクシー運転手などからゆすりとる金のこと。
市長さえクオータをゆすりとられている。

フェリペ・カルデロン前大統領は2006年、麻薬カルテル撲滅のため兵士と海兵隊員を全土に配備したが、ミチョアカン州はその最初の州だった。
しかしカルデロン前大統領が退任した昨年12月までにメキシコでは麻薬組織による暴力で7万人が死亡し、ミチョアカン州では新しい強力な麻薬組織テンプル騎士団が出現した。

エンリケ・ペニャニエト大統領は今週、ミチョアカン州に1000人の連邦警察官とともに4000人の兵士と海兵隊員を配備し、同州が平穏になるまでとどまらせると宣言した。【5月23日 AFP】
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死と隣り合わせの市民活動
警察もあてにできませんが、既存メディアは完全に組織の暴力を恐れて完全に沈黙しています。
そうした状況に、市民がソーシャルメディアを使って麻薬抗争絡みの情報を発信しているとのことですが、当然ながら、命がけの活動になります。

****麻薬抗争、ソーシャルメディアで「報道」する市民たち メキシコ****
麻薬密売組織による抗争が絶えないメキシコで、報復を恐れて事件の報道に消極的な地元紙に代わり、市民たちがツイッターやブログなどで抗争絡みの銃撃戦や殺人に関する情報発信を始めている。

メキシコの既存メディアは大抵、麻薬組織におびえている。そうした中、市民たちが自らの町や都市に潜む危険を常に認識しておく手段をソーシャルメディアがもたらした。

激しい麻薬抗争が続く北部モンテレイのある市民は、「奴らは手あたり次第殺しまくっている!ラザロ・カルデナス地区で銃撃戦が発生。そこには近づくな!」とツイッターで警告を発信した。

マイクロソフトの分析チームは、抗争が最も激しいモンテレイ、レイノサ、サルティーヨ、ベラクルスの4都市について、2010年8月~11年11月まで1年4か月間、市民のツイッター上でのやりとりを調べ、報告書「The New War Correspondents:The rise of civic media curation in urban warfare(新しい戦争特派員たち:都市抗争における市民メディア情報発信の台頭)」として発表した。
これによると、ツイッター上には「爆弾が爆発」「銃撃」「武装集団」などの言葉が多く飛び交っていた。

インターネットへのアクセス手段を持つ人々は、メキシコ全人口の30%程度で、日常的なツイッターの利用者となると20%ほどしかいない。だが、調査対象とした4都市では、シアトルなど米国の大都市より「2倍も多いリツイート(他ユーザーが発信した情報の引用)があった」と分析チームを率いるメキシコ人研究者アンドレス・モンロイ・エルナンデス氏はAFPの取材に語った。

調査によると、ツイッターでのやりとりが最も多かったのは、モンテレイで麻薬密売組織セタス(Zetas)がカジノに放火し、52人が死亡する事件が起きた2011年8月25日だった。この日、ツイッターでは犠牲者の氏名や写真が7000回も共有された。

分析チームは、麻薬抗争の最新情報を得るためにフォローが欠かせない重要アカウントとみなされている6つのツイッター・アカウントを突き止めた。

■「ブロガー記者」たちの身に迫る危険
匿名の方がずっと安全なため、ソーシャルメディアでの情報収集・発信者たちは実名を使っていない。そうして彼らは毎日、長いときには15時間も、残酷極まりない麻薬絡みの暴力事件の情報を集め発信している。

こうした発信者たちにインタビューを行ってきたエルナンデス氏によると、多くは一般市民で、利他の精神からツイッターでの報告活動を続けているという。彼らは地元を良く知る人々だが、努めて名が知れないよう心掛けていると、エルナンデス氏は言う。

メキシコの麻薬抗争では2006年以降これまでに7万人以上が犠牲となっており、ジャーナリストにとってもメキシコは最も危険な国の1つに数えられている。メキシコ人権委員会によると2000年以降、同国で殺害されたジャーナリストは86人に上り、18人の行方が分からないままだ。

市民によるソーシャルメディアを使った麻薬抗争情報の発信は、「情報提供者としての報道機関の役割に対する妨害、そうした状況下で高まる情報の必要性、ジャーナリストに対してあってしかるべき保護の欠如、そして麻薬密売組織の危険性」などの結果として生まれたと、モンテレイ工科大学のオクタビオ・イスラス氏は語る。 

表に出ないよう努力しているにもかかわらず、中には麻薬組織を激高させてしまったブロガーも出ている。情報活動を管轄する政府当局者によると、麻薬組織は電話の盗聴など、情報発信サイト管理者の身元を突き止める様々な手段を持っている。

2011年9月には米国と国境を接する北部ヌエボラレドで、2児の母親だった39歳の女性が切断遺体となって発見された。遺体の脇にはキーボードが置かれ、ネット上で麻薬組織について報告したことが殺害の理由だと記したメモが残されていた。

ヌエボラレドではその数日前にも、男性と女性の遺体が橋から吊るされた状態で見つかっていた。日常的に発生する暴力事件に関する記事や頭部を切断された遺体の写真、動画などを掲載している「麻薬ブログ」の管理者ルーシーさん(仮名)によると、2人は同サイトに定期的に情報を送っていた「ブロガー記者」だった。

ルーシーさん自身、その後、サイトのセキュリティーを担当していたパートナーの男性が行方不明になったことから、安全のために今はスペインに逃れている。【6月29日 AFP】
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